餓狼伝 Breakblow Fist or Twist

【がろうでん ぶれいくぶろう ふぃすと おあ つぃすと】

ジャンル 3D格闘ゲーム
対応機種 プレイステーション2
発売元 ESP*1
販売元 D3パブリッシャー
開発元 オーパス
発売日 2007年3月15日
定価 6,800円
判定 良作
少年マガジンシリーズ


概要

夢枕獏氏の同名小説を原作として、作画を『グラップラー刃牙』などで有名な板垣恵介氏が務める格闘漫画『餓狼伝』をゲーム化した『餓狼伝 Breakblow』の続編。
作画担当の板垣氏の作品である『グラップラー刃牙』から、範馬勇次郎がゲスト参戦している。

前作からキャラクターが「椎名一重」「工藤建介」「力王山」*2や小説版で活躍する「梅川丈次」の4名が追加。
加えて、新たなシステムである「部位ダメージ」「オフェンシブガード」*3が導入されたことで戦略の幅が広まった。


ゲームシステム解説

  • 殴られながら殴る
    • 今作は格闘ゲームとしては異例となる全キャラがスーパーアーマー(突破力)を装備しており、「お互いに殴られながら殴る」と言った、他の格闘ゲームではあまり見ない試合展開になる。
  • 精神ゲージ
    • このゲームでは体力をゼロにしたら勝ちなのではなく、「精神ゲージ」と呼ばれるものを相手側に押し切った者が勝ちとなる。
    • キャラクター同士の精神状態ゲージが1本のゲージとして表されたものを技によって奪い合い、いわば心が折れた方が負けとなるのである。
    • また、その精神ゲージには奥義を解放する鎖が巻き付いており、その鎖がちぎれた時奥義が解放される。
      • キャラによって鎖の位置が大分違い、一度ちぎれた鎖は試合中には元に戻らない。
    • また、この鎖は精神ダメージを食い止める効果もあり、’通常攻撃’ではいくら威力が高くても、鎖の位置以上の精神ダメージを一辺に与えることはできない。
  • 肉体ゲージ
    • このゲームの体力を表すゲージ。各キャラごとに異なり、強靭なプロレスラーなどは長め、軽量級や比較的体重の少ないキャラクターは短めに設定されている。
    • 相手の攻撃を受けることで減少し、それに伴い体勢を崩しやすくなったり、精神ダメージの増加などの効果がある。肉体ゲージは一定時間攻撃を受けないでいると回復していくが攻撃を受け続けている間は回復しない。
    • また少しずつだが上限値も削られていき、上限値以上の肉体ゲージの回復はできない。次の試合(トーナメントや団体戦の場合)に上限値は回復される。
  • 部位ダメージ
    • 今作で新たに追加されたシステム。頭・体・右腕・左腕・右足・左足の6つの部位を表すゲージがあり、ダメージを受けた部位は緑 → 黄 → 赤の順に変色していき、赤くなるにつれてその部位に対する攻撃を受けるとよろけやすくなる。
    • 部位ダメージが限界に達すると赤黒く点滅し、さらに攻撃を食らうとブレイクブロウ(部位破壊)が発生するが、赤黒く点滅している時にその部位の攻撃で相手にダメージを与えると「自ら部位を破壊するが、相手に精神ダメージを通常の3倍与えることのできる」ファイナルブロウ攻撃を繰り出すことができる。
    • これは先述の鎖の効果である「精神ダメージを食い止める」作用を無視し直にダメージを与えられる。なお、破壊された部位に攻撃を受けると、必ずよろけが発生し、精神ダメージは通常の1.5倍に増加する*4
  • キャラクターの攻撃によって以上の3つのゲージに与えるダメージも違う。例えばローキックの場合、精神ダメージは低いが部位ダメージは大きく、ミドルキックは部位ダメージ・精神ダメージは平凡だが肉体ダメージが大きかったり、ハイキックは精神ダメージは大きいが他は低いなどである。
    • それによって、序盤にローキックを多く出し後半に有利になるという戦術・展開もあり得るのだ。逆にいえば、序盤からハイキックを多く打つ速攻戦術もあり得る。
    • 各技には上記の各種ダメージ値とは別に、「突破力」と呼ばれる数値も存在する。これは打撃に対する「よろけにくさ」を表している。
    • 突破力を「防御力」「頑丈さ」に置き換えるとイメージしやすいか。突破力が高ければ強い打撃にもよろけにくく、逆に低ければ弱い打撃にも潰されてしまう。「体力が少なくなっている時に、突破力の高い技で打ち合いを止める」という戦法も取れる。
  • 各種ガード
  • ニュートラルガード
    • なにも入力していない状態だとニュートラルガードとなる。精神ダメージを無効化し、肉体、部位ダメージを軽減する。
    • ガード硬直が長く、極端に隙の大きい打撃以外反撃不可。つまり相手の削り得なので、どこかで下記、選択ガードorオフェンシブガードの必要がある。
  • 選択ガード(頭ガード、腹ガード)
    • 一般的な格ゲーでいうガード。成功すればノーダメージかつガード硬直もほぼないので反撃が可能。
    • ただしガードに上段、中段、下段という属性はなく実際に当たる部分で決まるので、同じ打撃でも相手や間合いによってはガード部分が異なる場合がある。
    • 例えばハイキックが頭に当たる間合いなら頭ガード可能だが、近距離で胴体に当たる間合いなら頭ガードはできない(この場合は腹ガードが正解)。つまり打撃を常に選択ガードすることは極めて難しい。
  • オフェンシブガード
    • 相手の打撃に合わせて発動する一種のパリィ。いわゆるブロッキング。切り返しやハイリターンの起点となる打撃戦・乱打戦の要。
    • これを使いこなせないと乱打戦の奥深さを100%堪能できない。このゲームのハードルを高くしている要因の1つでもある。

このゲームの華となる攻撃

  • 奥義
    • 奥義の数はLv1~3の3つがあり、それぞれ威力は違い、キャラクターによって奥義の効果も違う。奥義はファイナルブロウ同様、相手の鎖によるダメージ食い止め作用を無視する。なお勇次郎のLv3奥義である鬼の一撃*5はこのゲームの奥義で唯一の純粋な一撃必殺*6である。
  • キャッチ技
    • 一部のキャラクターには相手の打撃技を捕ったり捌いたりして反撃する技がある。いわゆる当て身投げ。なお、肘・膝・両手・両足・頭・肩を使用した打撃技はキャッチできない。
  • つかみ技
    • □+×ボタンで相手につかみかかる。つかまれた方は素早く□+×ボタンで抜けることができるが、側面、背後からのつかみは抜けられない。また、選択ガード中やオフェンシブガード中に掴まれた場合は、抜けを受け付けなくなる。
    • つかんだ後、攻撃せずに方向キーを押すとその方向に相手を崩し、そこから強力な崩し技が繰り出せる。崩された方は、崩された方向と逆方向に入力することで逃れられる。崩し抜けは、先述の選択ガード中やオフェンシブガード中に掴まれた場合でも可能。
    • 崩す方向は通常は前後の2方向だが、プロレスラーや柔道家などの投げ技が得意なキャラクターは奥と手前を含めた4方向に崩すことができる。
    • また、一部のキャラクターには壁を利用した壁投げを持っており、壁際では相手を崩さずともLv1の奥義ほどの大ダメージを与えられる。
    • なお「地面に叩きつける」系統の投げ技はダメージが変動し、アスファルトの上と、プロレスのリングの上ではダメージ量が違う。当然、固い地面のほうが威力が高くなる。
  • 不意打ち
    • 試合開始前の自キャラの登場シーン中に△+○ボタンで不意打ちができる。各キャラごとに3種類ある登場時演出によってどの不意打ちが出るかは決まっている。範馬勇次郎は決まれば即死となる不意打ち(キャッチ技)*7を持っている。

評価点

  • 複雑なシステムにもかかわらずバランスが良い
    • ここまでを読めばお分かりの通り、このゲームでは通常の格ゲー的な読み合いに加えて、部位破壊、肉体、精神ゲージの状況によって有効な戦術が全く変わってくる。
    • ネタキャラを除いても20人以上いるキャラクターごとに序盤、中盤、終盤の戦術があり、彼我の破壊部位によって最適な行動はさらに変化する。その奥深さは、発売から16年以上が経過した2023年現在において更新が続いている攻略サイトが存在するほどである。
    • これほど複雑ならゲームバランスのどこかに綻びが出そうなものだが、驚くべきことに格ゲーとして十分に成立しているのである。
      • 一見格別に性能が高く見えるキャラ(松尾象山、グレート巽、力王山、久我重明、クライベイビー・サクラ)もいるが、実はそれらも決して万能ではなく、このゲームのシステムを熟知していくにしたがって弱点・欠点が見えてくるようになっている。先述の攻略サイトでも「5キャラの中で最強は誰かはいまだに不明」と記述されているほど。
      • さすがにヤクザ・チンピラ(弱すぎ)と、範馬勇次郎(強すぎ)だけは規格外ではあるが…。
  • 原作再現
    • あくまでゲームバランスを損なわない範囲で、非常に原作愛を感じる作りになっている。
      • 堤の頭突きや神山の寸止めでニヤリとしたファンは多いだろう。特に「寸止め」については、このゲームのシステムだからこそ成り立つ技であり、ロマンを感じさせる技でもある。
      • 餓狼伝の代表的な技である「虎王」は『両足を虎の顎に見立てて相手の頭部を攻撃するという形さえ守っていれば、技の形や決め方は使い手の自由』という技の特性を再現し、使用するキャラ全てで演出や仕様が違う。
      • 戦闘開始の合図がステージごとに違っている。道場では審判の声、リングではゴングの音、繁華街では女性の悲鳴など。
      • 部位破壊されると、壊れた場所に応じて負傷を示すイラスト(例えば胴体なら肋骨骨折)が表示される。この負傷には数種類のパターンがあるが、完全にランダムなので頭に絞め技を喰らって脳震盪になるなどのよく分からない負傷になってしまうこともある。
      • キャラクターの服装も漫画で着ていたものを忠実に再現。原作で服の種類が少ないキャラクターもそれぞれの競技のコスチュームが用意されている。
      • 主人公の丹波文七が梶原年男と戦う際に正体を隠すために着た熊の着ぐるみもしっかり再現されている。漫画ではリングに上がった後にしっかりと脱いでから戦ったのだが、本作の餓狼列伝モードでは着ぐるみのまま戦う。どんなにかっこ良く決めてもギャグにしか見えないその姿は必見。

問題点や不満点

  • 一部のキャラクターが対戦で使えないorいない。
    • 漫画版で北辰館トーナメント準決勝まで進出した古武道の畑がいない*8
    • また、同トーナメントのレスリングの畑中や空手の君川などは一部のモードで隠しコマンドを使えば使えるものの、対戦では使えない。
    • 一方、漫画版で堤にあっけなくやられた名無しチンピラや、そもそも漫画版で戦ってすらいない名無しヤクザが対戦で使える*9
  • AIの出来がいまいち
    • 難易度で変わるのは(オフェンシブガード、キャッチ技、奥義などの)反撃の精度、投げ抜け各種の成功率や関節技の連打速度などだけで、最高難度でも立ち回りは下手。一部のキャラはキャラ性能と噛み合っていない技を多用してきたり。
  • 最高難度のCPUに関節技が決まらない&CPUの関節技から逃れられない
    • 組み技や追い討ちで関節技を仕掛けた後、レバガチャ&ボタン連打によって成否が決まるのだが、CPUの難易度を餓狼(当ゲームの最高難度)にするとまず決まらない。
    • 逆に、CPUが仕掛けた関節技から逃れるのは人力の連射では原則不可。CPU戦を理不尽に感じる一因である。
  • 梅川丈次がストーリー的に妙に恵まれている。
    • ストーリーモードに当たる「餓狼烈伝」モードでは梅川丈次だけ、「柔道」「サンボ」「ムエタイ」「ガルーシア柔術」と格闘タイプが多い。
    • さらに、梅川の「中国拳法の大会で優勝した」というエピソードのために「拳法家」という名無しキャラまで作られている*10
  • 餓狼烈伝モードで、かなり難しい対戦を強いられることがある
    • 原作でも強キャラの”グレート巽”を鞍馬彦一で倒すとなると、相当慣れていないとしんどい。前作をクリア済みのプレイヤーを対象にした難しさであり、今作が初めて及びゲーム自体に慣れていないプレイヤーには厳しすぎる。
  • キャラクターごとの掛け合いや台詞の変化が存在せず、誰と戦ってもデフォルトの台詞だけなので対戦カードによってはおかしくなることがある。
    • 師匠の泉宗一郎を「お前には才が無い」と罵倒する藤巻十三、誰が相手でも「エクセレントなファイターです」と最上級の賛辞を贈るクライベイビー・サクラ、プロレスラーとして遥かに格上の力王山やグレート巽に「プロレスを舐める奴は許さねえ」と言う長田弘など。
  • 前述のようにシステムが既存の格闘ゲームと大きく異なるため、楽しめるようになるまでのハードルが高い。
    • 例えば、序盤のガードはあまり意味がないため、初心者の間はラッシュを得意とするキャラがとても強く感じる。
    • オフェンシブガードやキャッチ技、カウンター技などでラッシュを拒否できるようになればよく作りこまれたゲームだとわかるのだが、そこまでが遠いのだ。
  • 奥義の性能差が酷い。
    • ある程度は意図的な調整もあるとはいえ決まりやすい奥義と決まりにくい奥義の格差が激しく、LV3奥義が使いにくいキャラクターは窮地からの逆転が難しくなってしまっている。
      • 特に酷いのは井野康生のLV3奥義「足一本背負い」で、漫画版で空手家の後ろ廻し蹴りを掴んで投げた技なのだが、原作再現のしすぎで相手の上段・中段蹴りしかキャッチできない。
      • キックボクシングの安原健次やムエタイのブンカートといったキック主体のキャラクターが相手でも主に使ってくるのはローキックなので安定せず、そもそも蹴り技がないボクシングのチャック=ルイス相手には決めることが不可能となってしまう。対戦相手によって決まり辛くなる奥義は他にもあるが、成立が不可能はこの組み合わせのみ。
      • パンチが来たら腕捕り一本背負いに変化するという仕様なら良かったのだが。
      • ちなみに相手のパンチやキックに応じて変化するキャッチ技は普通にある*11ので、井野にも実装すること自体は可能だったはずである。

総評

複雑なシステムが人を選ぶ感こそあるが、細かい演出や漫画版のコマをうまく使ったOPなどキャラゲーとしては及第点以上であり、製作者の餓狼伝への愛を感じる作品となっている。
格闘ゲームとしてもシステムを理解する事が前提とはいえ奥深い物へと仕上がっており、原作の魅力を損なうことなく楽しめる一作といえるだろう。

参考動画

+ CPUvsCPU、餓狼伝の魅力が存分に詰まっている

+ ゆっくり解説動画、入門用ならこちら

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最終更新:2024年03月01日 00:49

*1 「エンターテインメント・ソフトウェア・パブリッシング」の略。

*2 モデルは戦後の大プロレスラー「力道山」で、名称や外見は漫画版が初出だが具体的な格闘シーンなどは描写されておらず、漫画版に強いインパクトを受けた夢枕獏氏がいわば逆輸入的に原作に登場させるに辺り、大きくキャラクタや展開を膨らませ格闘シーンもそこで初めて登場している。本ゲームの力王山はその原作の描写を元に構成されたキャラクタとなっている。

*3 オフェンシブガードと入れ替わりという形で前作の「ガードキャンセルダッキング」「ガードキャンセルスウェー」は削除された。

*4 特定の奥義は例外的に2倍増加。

*5 グラップラー刃牙で勇次郎対独歩戦で繰り出した技。

*6 体力の減少による精神ダメージの増加や、壊された部位への攻撃で精神ダメージ増加などの一撃必殺以外で。

*7 キャッチ技なので手をださないか肘膝技を打てばよいので、実際の有効性はCPU戦のみ。

*8 発売時期を考えればしょうがない点もあるが。

*9 尤も前作でも隠しキャラとして使えたので単に残しておいただけだろう。どちらも能力はとてつもなく弱いネタキャラである。

*10 ちなみに、拳法家は条件を満たせばプレイヤーも対戦で使うことができる。

*11 泉宗一郎、藤巻十三、拳法家の各キャッチは、捕った部位(左腕、右腕、左足、右足)によって捕った後の技は自動で変化する。