ボクと魔王

【ぼくとまおう】

ジャンル RPG

対応機種 プレイステーション2
発売元 ソニー・コンピュータエンタテインメント
開発元 ツェナワークス
発売日 2001年3月15日
定価 5,800円
廉価版 PlayStation2 the Best:2002年8月1日/3,000円
判定 良作
ポイント 魅力的な世界観
奥深いストーリー
個性的な登場人物
粗の多いシステム面


概要

PS2初期に発売されたRPG。製作は1995年の「LitleMaster」以来6年ぶりの新作となるZENER WORKS。
海外では『Okage:Shadow King』というタイトルで発売されている。*1

あらすじ

何処にでもいる地味で平凡な少年ルカは、ある日ひょんな事から父が何処かで拾ってきた怪しげな壷から復活した魔王スタンに自分の影を乗っ取られてしまう。
スタンの手下にされてしまったルカは、嫌々ながらもしかたなく彼の力を取り戻す旅に同行させられることになる。
スタン曰く、今世界には魔王の力を手に入れて魔王の名を語る偽魔王が大量に存在するらしい。そんな彼らを倒して力を奪い返そうというのだ。
事の重大さを全く理解していない家族たちに見送られ、少年と魔王の奇妙な物語が始まった。

特徴・評価点

  • 奇妙で独特な世界観
    • MOTHER』などに見られるような、一見して平和な舞台ととぼけたキャラクター達。
    • 本来「正義の勇者」と「悪の魔王」とは世界に一人ずつというのがお約束であるが、「勇者大学」を出てしっかり勇者という職業資格を得た勇者達による「勇者協同組合」が存在していたり、あちこちの村や町で突然「魔王」が現れるおかしなもの。
      • そんな中主人公は片田舎のただの少年。そこに自称「大魔王」の転生体がいきなり現れ部下(仲間)にされ、更にとある事情でエリート勇者からお笑い勇者に転落してしまった女性が新たな同行者に…という破天荒さ。
      • のちに加わるのも人の話を聞かず理論を勝手に展開する変人学者、元魔王の魔族達等まともなメンバーではない。
    • 人形劇のようなデザインのキャラクター達のかけあいは、時に滑稽で笑え、時にハッとさせられる。
    • こういった独特のテイストはオバケ達(従来のRPGで言うモンスター)にもよく現れており、名前からして既にちょっとおかしな奴らが多い。
      • 「元気なカエル」「野生のウシ」はまだ普通な方で、ゲームが進むと「平和主義のカバ」「逆恨みのミイラ」「寒々しいワニ」……等など、名前だけでも楽しい個性的な面子が次々と出てくる。
      • 名前だけでなくしっかり技でも個性を持たせており、前述の「元気なカエル」は、後述のテンションを上昇させる技を多用してくるほか、「油断ならぬヘビ」という敵は、複数種の状態異常技を使ってくるなど、名の通り油断ならぬ敵だったりする。
    • モブキャラクターもそれぞれ個性的な肩書を持ち、また一度会話を終えても章が進むと台詞が変わったりと非常に作りこまれている。
      本編に全く関係ないイベントも多く、とにかく寄り道が楽しい。
    • 町やフィールドは数こそ少ないものの、全て特徴がありなおかつかなり広い。特にフィールドは行く必要のないような場所にまで行ける。
      「人の気配がしない雪原」、「砂漠にそびえるタワー」など、幻想的な光景も多い。音楽やグラフィックもマッチしている。
      • ただし後述のエンカウントの問題点により、じっくりと眺めるのが難しい。
  • 奥深いストーリー
    • ネタバレになるため詳細は省くが、「勇者とは何か」「魔王とは何か」「世界(物語)とは何か」等、実に深い問いかけをしてくる物語である。
    • 前半はストーリーやキャラクター、世界観共に非常にコミカルに描かれ、軽快な音楽も相まって軽い調子で物語が進んでいくが、物語が進むにつれて陰鬱で暗い展開に変わり始め、クライマックスは非常に重いテーマをもって描かれる。
    • それまでのファンタジーRPGから少しずれたような奇妙な世界観と、一見取るに足らない物や人物にさえ周到にしくまれた伏線がプレイした者を魅了し、ヒットこそしなかったものの、未だに世界中で根強いファンを持つ隠れた良作。
    • 主人公の地味さすら理由があるという設定はある種、「ファンタジー」「RPG」のお約束というものを上手く逆手に取り、作中に設定として組み込んだといったところ。
  • BGMの評価も高い。
    • 実は戦闘中に主人公の体力が大きく低下すると、BGMが危機感の迫る曲に変化する仕掛けがある。通常の雑魚敵からボス敵まで、それぞれでパターンが用意されており、かなり凝って作られている。
    • しかし、音楽が変化する条件が「主人公の体力が残り1割を切る事」であるため、そのまま倒されてしまう事も少なくなく、ゲーム中にじっくり聴ける機会を作りづらいのが難点。
  • 後述のシステム面のテンポの問題はあるものの、目立ったバグは皆無。フィールドやダンジョンに確実に設置されている全回復機能付きのセーブポイントのおかげで育成を進めやすく、ボス戦の前にはスタンがあらかじめ警告のセリフを出して教えてくれるなど、RPGとしては親切で丁寧な仕上がりで纏まっている。

問題点

システム面での粗が多く、ストレスが溜まり易い要素が多く目に付く。

戦闘面

  • 魔法・特技を問わず詠唱モーションが毎回挿入されるため、テンポが今ひとつ。
  • キャラクター性能に関して
    • パーティメンバーはそれぞれ能力の差別化ができているが、序盤から加入するルカとロザリーの2人がかなり高性能なため、他のメンバーが結果的に割を食う格好になりやすい。
      • 顕著なのが同じく序盤の加入メンバーであるキスリング。いわゆる魔法使いタイプのキャラクターであり、状態異常にある程度耐性を持つ他、習得する技が有用なものが多い。しかし魔力を除く殆どの能力が低く成長率も悪いなど、強さが能力値に表れないタイプである事が大きな足枷になっている。特にHPが低く簡単に倒されやすい事が致命的。
      • 中盤以降に加入するキャラクターもレベルこそ高めなものの、加入直後は全員特技を1つしか覚えていない状態。そのため出来る事がどうしても単調になりがちで、やや不遇。
      • 一方でロザリーは魔法に対する回避力と状態異常への耐性が無いため、こちらも可視化されない部分を弱体化させる事でバランスを取っている。能力値が低いキャラも、武器や防具の付与効果に弱点を補えるものが揃っている事が多い。
  • 敵専用の特技「○○盗み」
    • 所持金から表記分のお金をかすめ盗って逃げるというものだが、序盤の『百盗み』からどんどん桁が増えていき、最終的には十万盗みというまったくもってシャレにならない極悪技へと変貌する。
    • やられる前にやってしまえばよいだけの話なのだが、繰り出されたが最後たちまち金欠と化してしまう理不尽な目に。
      何より普通にプレイしてもお金が貯まり難いため盗まれた分の金額を容易にフォローしきれない事も手伝って、余計に理不尽さが際立っている
      幸いなのは十万盗みを使うオバケがラストダンジョンでエンカウントする「絶望のゴーレム」しかいないことだろう。
      ここまで来るとルカの最高威力の技「友情インフェルノ」も解禁されるためこれで一掃するか、「同時攻撃」で一気にゴーレムを片付けてしまえば問題にはならない。
  • オバケのAIは「テンション」という内部パラメータがあり、値の上下で攻撃性が変動するようになっている。更にテンションもオバケごとの性格で上下の仕方が違うなど、なかなか細かい作りではあるのだが……。
    • 基本的にオバケは魔法・特技以外で無駄に1ターン過ごす行動というものが無い為、何のスキルも持たないオバケには死にシステムと化している面がある。そもそも普通に戦っていて攻撃性の変遷を実感できることもあまり無い。
    • 一方でボスキャラはデフォルトのAIにかなり恵まれておらず、場合によってはロクに攻撃してこないままバトル終了なんて事もザラ。ラスボス戦でも普通に起こり得るのが痛い。
  • 状態異常や呪いといったバッドステータスに重ねがけの概念があるが、戦闘は基本短時間のため機能する機会が少ない。
    • 戦闘終了後も治癒しない呪いがあるため、油断できた要素ではない。が、これらを防いだり解除できるアイテムが入手しやすいバランスのため、よほど油断しなければ強力な呪いにかかることはそうそうない。
    • 「麻痺」は最大まで重ねがけされるとほぼ戦闘不能同然の状態に追い込まれるなど、システム自体はしっかりと組まれているだけに惜しいところ。
  • ルカの特技の一つ「オーバードライブ」を使用すると、効果を受けたキャラクターはオーバードライブの効果と引き換えに「バースト」という全体攻撃のコマンドが使用できるようになるのだが、ゲーム内外で説明がされない。説明書にも記載されていないため、初見のプレイヤーには戸惑う要素となり得る。

フィールド面

  • 見栄えするギミックが非常に乏しく、一見何かありそうなところも、その実本当に何もないことがままある。
  • シンボルエンカウント方式であるにもかかわらず、避け切れないほど大量のシンボルが発生する。
    • 敵が一定時間出なくなるアイテム・魔法等もなく、フィールド移動はほぼ確実に戦闘しなければならない。最早ランダムエンカウント方式と全く変わらない。
      • 後ろから触れられると不意打ちで先制攻撃される。しかも敵シンボルは時間経過により問答無用で沸く。カメラワークの劣悪さも拍車をかけており、狭い部屋に入って道も敵シンボルも視認出来ない状況でなかなか出られずエンカウント地獄にあうのはよくある話。
      • 出現の仕方には法則があり、プレイヤーの操作である程度敵シンボルを回避する事はできるのだが、戦闘せずにフィールドの移動を続けると敵シンボルの移動速度はどんどん速くなっていってしまう。最終的にプレイヤーの移動速度を遥かに上回る速さにまでなるため、ずっと逃げ続けるといった事は事実上不可能。
      • 救済というべきか、戦闘自体はごく一部の状態を除き「逃げる」コマンドが100%成功する仕様になっている*2。テンポの問題で若干面倒ではあるが。
    • フィールド内に散在しているあるアイテム(小さなメダルみたいなもの)を集めるというサブイベントが、上記のエンカウントの厳しさにより非常に面倒になってしまっている。クリア必須イベントではないものの、最強武器入手に必要なため、延々とフィールドを歩き回されたプレイヤーも多い。
    • 敵シンボルは画面の奥側にしか出現しないため、主人公の進行方向を手前側にすればエンカウントを避けられる。このテクニックを使えば戦闘なしでフィールドを横断することも可能。

ダンジョン

  • 基本的にほぼ全てのダンジョンで「特定の固定シンボルオバケを倒す」「封鎖されている部分を解放するための魔法陣を探す」という二つをこなしていくため作業感が強い。
    • 一応、「落とし穴を上手く使う」、「明らかに不自然なマップの謎を解く」などがダンジョン毎にあったりするため、完全に同じという訳ではない。
    • マップは自動的にマッピングされるが、一度ダンジョンから出ると消えてしまう。

カメラワーク

  • まだまだ視点移動というシステムが浸透していなかった時代とはいえ、カメラワークは良くない。
    • 視点が主人公の背後からかなり離れた位置にあることが多く、しかも壁に引っかかるため、死角の多い洞窟などでは移動自体が困難になる。
      • プレイヤーの方である程度カメラを移動させられるものの、ゲーム側で収まりの良いポイントへと矯正されてしまう。

シナリオ面

  • 序盤のシナリオにて、プレイヤーの選びたくない(と思われる)選択を強制されるので、そうしたシナリオ展開が嫌いな人は、そこで拒否反応があるかもしれない。
  • 選択肢を選んでも一言どころか一言一句相手のセリフが変わらないことも多い。
    • ただし何も変わらないように見えて、後述の相性イベントに影響する選択肢が67個も存在するため、選択肢が全く無意味という訳ではない。
    • そもそも主人公は「影が薄い」という設定であるため、これはこれで設定通りと言えなくもない。
  • シナリオ面でも未完成と思われる点が散見される。
    • 特にサーカス団長、幻影魔王あたりのキャラクターはもう少し掘り下げて欲しかったという声がある。
  • ゲーム中盤でとあるイベントが起こるのだが、ひどい「孤独」「寂寥感」に襲われる。
    ストーリーを進めるためには新しい町を訪れなければいけないが、そのヒントもほとんどない。
    • 入口まではそれ以前に訪れることも可能なので、印象に残っていたプレイヤーもいる。総当たりでも大きく時間を食われるほどではない。
      • むしろこの時点では、敵と戦闘することすら無くなるため、前述の「アイテムを集めるサブイベント」に走るにはちょうどいい機会であったりする。

最終ダンジョンの難解過ぎる迷路ぶり

  • 最終ダンジョンでは前述のエンカウントに耐えながら暗く細い通路を歩き回らなければならず、この苦痛からゲームを投げてしまいかねない挫折ポイントと化している。
    • この面については謎解きではなく、「ひたすら鍵を探し集めて扉を開けていく」進め方になるため、複雑な思考は全く必要ない。問題は本作屈指の広さの迷路状のダンジョンを、隅々までひたすら走り回らないといけないところにある。所々にアイテムが点在しているため、それらを集める楽しみがなくはない。しかし総当たりしか攻略法がないとも言えるため、どうしても時間を費やすことになる。
    • 発売当時はネット普及も間もない時代であり、ゲーム自体の知名度の低さもあってまだまだ攻略情報自体が十分に伝播していなかったため、尚のこと辛いものがあった。

その他

  • 「相性イベント」
    • 所謂恋愛イベント的なものがあるのだが、キャラ数が少し少なめな上におかしな人選。
    • 「メインヒロインの王女マルレイン」「仲間の女勇者ロザリー」「大魔王スタン」等はパーティーメンバーということもありまだ分かるが、「かつて主人公が地味な感じ(好み)じゃなくなったからと振った村の幼馴染ジュリア」「主人公の父」「道端でおかしな言動をとる謎の女」等後半は良く分からない。謎の女に至っては主人公らと何一つ接点がない。「他のパーティメンバーとの相性イベントも欲しかった」という声は少なからず存在する。
    • とはいえ、ジュリアとのイベントはシナリオ中では触れられる事のない彼女の背景が垣間見える貴重なイベントで、彼女がかつての主人公を気に入っていた理由の補完にもなっているため、一見の価値はある。
    • 最も相性の良い相手からはスタンを除いてこのイベント限定のレアアイテムを受け取れるが、1周のプレイで1人のイベントしか起こせないため、他の相手からのアイテムは入手できず、事実上アイテムのコンプリートが不可能なのは少し残念なところ。

総評

PS2初期作品としては間違いなく意欲作。シナリオはとてつもなく深い。キャラクター達の魅力も高い。言ってしまえばキャラゲーだがそれで魅せられた人も多く、根強い二次創作活動等を続けている人たちがいる事もそれを証明している。
だがゲームシステム面ではやはり作り込みが甘いといわざるを得ず、安易に人に奨められる内容ではない。当時の水準を考慮してもとにかくストレスが溜まる。
世界観やシナリオ、キャラクターの魅力で見せているだけに、ゲーム周りの出来の粗さが惜しまれる。

余談

  • ストーリー中、これでもかと「萌え」という単語が出てくるイベントがある。今となっては珍しくもない単語ではあるが、当時はまだ「萌え」という言葉自体がまず出てこない時代であり、そこに「台詞」・「雰囲気」・「BGM」を使って「萌え」が全方位から押し寄せて来るため、当時のプレイヤーならばまず間違いなく呆気にとられる。本作以降のゲームであろうと、ここまで「萌え」という単語が出て来るゲームはそうそうない。
    • 加えて、アイドルファン達が揃いの法被を着て一緒に歌を歌っていたりと、もはや時代の先取りか予言染みたシーンすらある。
  • ステータスを上げる事ができるアイテムを敵から入手できる事があり、ドーピングが出来る。これらのアイテムは敵からの入手によっていくらでも稼げるため、ステータスをカンストさせる事も一応可能だったりする。前述の性能差の問題点も、これでキャラクターごとの弱点を少しは補うことが可能である。
    • ゲーム内の通常プレイでこれらのステータスがカンストすることはないが、システム上では能力値が3桁のステータスは上限値「999」、2桁のステータスなら上限値「99」と定められている。
  • どういうわけか「シナリオライターが死亡したためリメイクは無理だろう」という話が広まっているが、メインシナリオを手掛けた横弥真彦氏は2019年現在でも存命である。
    • サブライターの根本晃氏が2002年に亡くなっているため、そこで情報の錯綜が起きた可能性がある。
  • サウンドトラックCD、一部キャラクターのスタンドフィギュア等も発売されている(後者は現在販売停止)。
    • Amazon等ではサントラがプレミア化しており高額で取引されているが、実は作曲グループのホームページで定価販売されている。購入する場合はそちらを利用するといいだろう。
  • 防御力と回避率が非常に高く、通常攻撃など攻撃力を参照して威力を計算する攻撃でダメージを与えることが困難なボスが存在する。
    • 強力な耐性を持つ一方で、通常通りダメージを与えられる魔法による攻撃が非常に有効で、こちらを軸にして戦うのが本来のセオリーとなっているのだが、「指定した相手の防御力を下げる」技と「ラッキーヒット*3の発生率を上げる」技を駆使することで通常攻撃でも倒すことが可能であり、攻略本でやり込みプレイとして紹介されていた。
  • 海外版の『Okage:Shadow King』は2016年3月にPS4移植版が北米・欧州地域にてDL配信されている。主な違いはグラフィックがフルHDにアップスケールレンダリングされている他、Shareplay、リモートプレイ、セカンドスクリーン等PS4の独自機能に対応している。残念ながら日本での配信予定は未だに無い。
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最終更新:2022年08月18日 13:45

*1 こちらは主人公のデフォルトネームと表情が微妙に変更されている(「ルカ」から「Ari」に・目つきが変わっている

*2 コマンドを使用する際にコストとして一定のLPを消費する事になるが、このコマンドのみLPが0になっていても使用できる。

*3 いわゆるクリティカルヒットであり、攻撃が必ず命中し、威力も通常より高くなる