シルバー事件

【しるばーじけん】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 プレイステーション
Windows XP SP2+ 以降
Macintosh OS X 10.8 or later
発売元 アスキー
アクティブゲーミングメディア(リマスター版)
開発元 グラスホッパー・マニファクチュア
アクティブゲーミングメディア(リマスター版)
発売日 1999年10月7日
定価 5,800円(税抜)
配信 ゲームアーカイブス:2008年12月10日/600円
Windows/Mac(Steam):2016年10月6日/1,980円
判定 良作
怪作
ポイント テキストアドベンチャー史に残る斬新な演出手法
一方ストーリーは投げっぱなし
シルバー事件シリーズ


概要

海外で有名なゲームクリエイター、須田剛一率いるグラスホッパー・マニファクチュアが制作したアドベンチャーゲーム第一作目*1
氏のゲームは、その独自の世界観と卓越した演出センスから「須田ゲー」といった括りで語られることが多いが、本作も強い個性を秘めたタイトルとなっている。

特にグラフィック、セリフの言い回し、BGMなど演出面は「センスの塊」と評されるほどにスタイリッシュな表現となっており、本来「テキストを読み進めるだけのジャンル」としては斬新かつ異質な手法も用いられているのが特徴である。

ストーリー

カントウ国家経済行政特別自治区「24区」は、環境から住人にいたるまで、すべてが計画的に作り上げられた都市である。
しかし24区内では経済格差と情報格差が生じ、犯罪発生件数は著しく増加していた。

そして1999年。
政府の要人が次々と惨殺された20年前の「シルバー事件」の犯人である伝説の殺人鬼・ウエハラカムイが精神病院より脱走。当時と同じ手口を用いた連続殺人事件が発生する。
カムイは20年の時を経て復活したのか? そもそも、伝説の殺人鬼・カムイとは何者だったのか?

一方、主人公・アキラはとある事件で壊滅状態となった公安特殊部隊の生き残りであった。
凶悪犯罪課に転属された彼は、24署の刑事たちと様々な事件の捜査に加わりながら、ウエハラカムイの実像と24区という都市、そして自分自身の出生の秘密に近づいていくことになる。

シナリオ構成

  • 「トランスミッター」
    • 凶悪犯罪課の主人公たちが遭遇する事件を描いたシナリオ。全6話。
      • ゲーム内においては表のシナリオとなっており、エンディングを迎えるために必ずプレイする必要がある。
    • 一応主人公視点で物語は展開するが、ゲーム中は一切台詞を発さず感情表現も全く行わない。メタ的に言えば「ポートピア連続殺人事件」など昔ながらのADVでお馴染み「主人公=プレイヤー」の構図ではあるが、作中でも感情の読めない異物的な扱いを受けているフシがあり、プレイヤーは主人公という怪人物の視線を通して物語を追っているといった雰囲気となっている。
      • 20代男性であるなどおおまかな経歴は用意されている。
      • 先述の「アキラ」は体験版・サウンドトラック等によるデフォルトネームであり、名前はゲーム序盤で任意に入力可能。ただし「刑事として配属された」「チンチラみたいについてくる奴」の意味で「デカチン」というあだ名が早期につけられることになる。
    • 基本的にはテキストを読み進め、言われるがままのマップ移動をするだけであり、ゲームオーバーもない。選択肢によるルート分岐もマルチエンディングもなく、完全な一本道シナリオとなっている。
  • 「プラシーボ」
    • トランスミッターで起こった事件をジャーナリスト、モリシマトキオの視点から描いたシナリオ。全5話。
    • トランスミッターをクリアすると、1話ごとにそれに対応したプラシーボがプレイ可能になる。こちらのプレイは強制ではないので、読まずにエンディングを迎えることも可能。
    • モリシマトキオはアキラと違い、プレイヤーとは独立した一人の人格として存在しており、物語も基本的に彼のモノローグによって進行していく。
      • あくまで、トランスミッターの事件をトキオが一般市民の視点から探究・解説するシナリオである為、トキオが興味を示さない事件や知りえない事柄に関しては当然触れられていない。
    • ちなみにプラシーボ編のシナリオ執筆は須田氏ではなく、大岡まさひ氏と加藤さこ氏が担当している。
  • 3Dパートについて
    • 先述の通りほとんどのシーンではテキストを読み進めるのみで進行していくが、合間合間で3Dダンジョン内を主観視点で操作するパートがある。
    • 移動は1マスずつ固定であり、空中に「移動可能」または「調査対象がある」ことを示す印が浮いている。プレイヤーはそのポイント間を移動のうえ、物品の調査を行いゲームを進行させていく。
    • ちなみにこのパートでは暗号入力など謎解き要素もあるが、大きな特徴として説明書にそのものずばりの答が書いてある
      • これは本作では「ゲーム的な」謎解きは極限まで軽視されているということでもあるし、或いは「マニュアルプロテクト」的な意味合いもあると思われる(後者の傾向は続編『花と太陽と雨と』でも見られる)。

評価点

  • 「フィルム・ウィンドウ」システムによる動きのある演出
    • 本作はキャラクターやテキストウィンドウ、その他ビジュアルなどの要素を複数の独立したウィンドウにそれぞれ表示させ、場面・状況ごとにそれらの表示位置や大きさを変えるシステムが用いられている。
    • 通常多くのADVゲームやノベルゲームでは、「画面上部に背景とキャラ、下部に台詞のウィンドウ」のようにUIが固定されており、クリアまでその構図のまま進行することがほとんどである。一方、本作では「画面左上に走る車のCG、右側に乗車しているキャラのスチル、下に台詞」であったり、「銃を持って向かい合う2人のイラストを左右端に配置して表示し、台詞もそれぞれの近くに表示」といった具合に、その時々で自由にウィンドウを配置している。
      • 更にウインドウそのものを動かして動作やスピード感を表現するシーンもあり、このインターフェイスによって「文章と絵」という普遍的な素材を使いながらも人物同士の距離や場の空気をより効果的に演出しており、ゲームプレイに独特な躍動感や緊張感、臨場感を生んでいる。
    • また、画面全体の背景自体も常にアニメーションしている。
      • この背景はエピソードによって全く異なっており、「黒背景を大量の水色のラインが水平方向へ流れ続ける」「背景上に作中人物のものと思われるセリフが幾つも表示される」「青一色の背景の中央に赤い正方形が何度も明滅し続ける」など、アーティスティックなアプローチがなされている。
  • 実写やアニメ調画風を用いた実験的演出
    • メインビジュアルは写実的なイラストではあるが、ゲーム中には実写を用いた表現も多く挿しこまれ、当時、或いは現在としても実験的な演出がなされている。
      • 例1:誘拐犯からの殺害予告ビデオとして「血まみれのダッチワイフを用いた実写映像」を実際にゲーム画面上で再生させる
      • 例2:アイドル宅に仕掛けられた隠しカメラの調査シーンで、裏サイトのチャット欄と隠しカメラごしの実写映像を表示させる
      • 例3:作中で放映されたという設定であるワイドショーの映像(ナレーション:戸谷公次)を流す
    • こうしたムービーの挿入により、瞬間的なインパクトや、現実との強いリンクを発生させる効果をもたらしている。
    • また、特定の1話のみ画風がアニメ調になるシナリオがある。このシナリオは張り込み中の刑事が自身の体験をおとぎ話調で語り始めるというシーンが序盤にあることもあり、フィクションである本作内でも更に非現実のことであるかのような、不思議な印象を与える効果となっている。
    • 上記のように、「シナリオと雰囲気の提示のためにビジュアルコンセプトを大胆に変える」という意欲的な面が独特な味となっている。*2
  • シブみのある「大人な」会話
    • 多くの場面が「刑事」や「犯罪者」、或いはそれらに接触した者による会話劇で展開するが、ほぼすべてのセリフ回しがそのシリアスな雰囲気を崩さない、シブめでアダルトな風味となっている。
    • これも例をあげると、落伍者同然のフリー記者がベテラン刑事に対し「あんたみたいなタイプ、嫌いじゃないですよ」と取り入ろうとし、それに刑事が「どうだかな」とかわしながらも互いの距離感を詰めあい情報を出し合う……といったシーンであったり、凶悪犯罪者の確保を前に旧知の間柄で「娘は元気か?」「22になりました。今年大学卒業です。」といった日常会話をするシーンであったりと、人物の内面や機微が、過度な感情表現に頼ることなく自然な形で提示されている。
    • また、こうしたカッコよさやクサさだけでなく肝心なところで冗談を放つような場面もあり、ダサくてやや滑稽な、「恥も茶目っ気も含めたうえでの」大人像がよく描かれている。
  • 現在にも通じるマスメディアへの風刺
    • 本作は犯罪サスペンスだが、作品内から汲み取れるメッセージ性のひとつとして「犯罪を報道することによって犯罪は伝染する」という概念がある。
    • 先述の架空のワイドショーでは街角インタビュー映像も流れることになるが、「マスコミによって本来影響がなかったはずの人間にまで犯罪を知らしめる」という発想は考えさせられるものがある。
  • 突如ぶち込まれるプロレスネタ
    • 上記までの通りシリアスなゲームにも拘らず、なぜか各所にプロレスネタが仕込まれており、「暗号キーがプロレスラー・小川直也の名演説の引用」「主人公に指示をする先輩刑事が突然モノマネ口調になる」「エンディングの会話が猪木の引退演説の引用」といった脈絡のないパロディが現れる。
    • どこか陰鬱なムードの多い本作ではこれもまた妙味になっており、何ともいえない読後感に繋がっている。
  • 優れたBGM
    • ゲーム内で使用されるBGMは何れもハイレベル。作曲を担当したのは『ダンガンロンパ』や『地球防衛軍』等でお馴染みの高田雅史氏。
    • ほとんどの楽曲でループが短く、共通した音色が多用されているため、かなり限られた音源・容量で制作されたことが窺えるが、木琴による無機質なシーケンスやシンセとピアノによるギラギラした雰囲気は非常に場面に合っている。

賛否両論点

  • 突然の100問クイズ大会
    • あるエピソードで、マンションの飛び降り事件を捜査している最中に先輩刑事から呼び出しを受け、何の脈絡もなく100問もある三択クイズを受けさせられる。
    • 一応チーム内での試験という名目であるが、その設問のほとんどはスポーツネタから漫画ネタ、一般常識など本当にストーリーと関係のない内容。
      • と思いきや数問、「捜査している事件の真相」に関する問題が挟まっている。
    • しかも正答数はいっさいストーリーに影響しない。何点であっても合格する。
    • ……といったようにアドベンチャーゲームの文脈で考えると全く無意味なパートであり、問題点と見る向きもなくはないのだが、寧ろこの深く考えるべきではない勢いの良さも本作の魅力であり、これがあってこその『シルバー事件』とすら思えてくる独特の演出でもある。
  • 刑事ドラマかと思ったらオカルト?
    • 先の通り、「犯罪は伝染する」というのが本作の世界の考え方だが、その表現として「犯罪力」なるものが亡霊のような形となって殺人犯の体から溢れるというシーンがある。
    • その手前のやりとり「なぜ凶悪犯罪課は犯罪者を逮捕ではなく処分(殺害)するのか?」「犯罪のウイルスを拡散させることなく世間から切り離すため」といった問答は考えさせられるものがあるが、視覚化されてしまうと現代劇としては一瞬あっけにとられるかもしれない。

問題点

  • 3Dパートの完成度が低い
    • 当時としても直線的、平面的なつくりであり、出来があまりよくない。特にマップの出来は悪く、緑一色の室内などリアリティのないものが多い。
    • 移動がもっさりしており、手間がかかる。特に同じ場所を何度も往復するような展開や、長い通路をひたすら歩く場面が多く、あまり動かしていて面白いものではない。
  • 演出面以外のテンポが全体的に悪い
    • 最初から10~20ケタの長いパスワードを入力するような手間のかかる謎解きがある。
      • 前述の通り、暗号キーがプロレスネタだったり、答が説明書に載っていたりするため、徒労感がやや強い。
    • 場面展開の際、いちいち「日付」「場所」「場面のタイトル」がゆっくり、ゆっくり数秒かけて表示される。
      • 既にシーンは表示されているのに、この演出のせいで15秒程度の待ち時間が確定で発生するのでもどかしさがある。
    • 前述のもっさり移動に加えて、調査パートにドラマ的な省略がない。
      • 特に終盤のシナリオでは「10個ある居住タワーのすべての部屋を調べる」という展開があるが、普通最初の1、2個だけ調べれば「そしてしばらく経って……」などと出そうなところを、10個のタワーのすべての部屋を本当に自分で操作して調べることになる。基本的に登場キャラが「全部調べるぞ」と言えば有言実行するゲームである。
  • 「プラシーボ」が本編に比べるとあまりに地味
    • 舞台がトキオの自宅ばかりで動きが無く、飽きやすい。フィルム・ウィンドウにおける背景演出が「トランスミッター」と比べ変化が少ないのも拍車をかけている。
    • 取材や捜査などのシーンが省略されているなど描写不足がある。
    • また、モリシマトキオというキャラクターが「言うのも恥ずかしいような理由で」会社をやめたフリーの記者といういわゆるはみ出し者であり、厭世的で皮肉屋であるなど人間性にやや問題があるため、嫌いな人もいるだろうタイプである。
  • テキストアドベンチャーとしてのシステムが弱い
    • バックログ、オート再生が搭載されていない。
      • 20世紀のゲームではあるが、同じPSの『』などでは既にあったシステムである。
    • 早送りはできるが一定範囲でしか早送りできず、満足な動きをする前に停止してしまう。
      • 早い話、「テキストADV」と聞いて思いつく補助機能はいっさい無いと考えてよい。ファミコン時代と同じ、テキストが出て、読む、それだけのことである。
    • セーブがいつでもできず、好きな時にセーブできない。
    • メモリーカードが1スロットしか認識しないのも初期PSにはありがちとはいえ、地味に痛いポイント。
  • 説明不足なシナリオ
    • 「複雑なシナリオ」と言えば聞こえはいいが、最後まで明かされない謎が存在している。というか投げっぱなしで終わる。
      • 流されるままにテキストを追っているだけだと、「どうやらシルバー事件を追ううちにマズい真実に触れたらしい」「なんかみんな撃たれて死んだ」「オチはアントニオ猪木」程度の感想しか得られないかもしれない。
    • 説明書で登場人物として記載されているキャラクターに、ゲーム中に登場しない人物が何人もいる。ファンの間では、トキオ行きつけの煙草屋のオバチャン=そのうちの一人ではと実しやかに語られていたり。片や美女、片やオバチャンだが。
    • 独特の世界観を有している割に、専門用語が説明されない。
    • このように、物語全体の完成度、明瞭度は低いと言え、エンディングを迎えても納得感が得られるかは微妙である。

総評

よく本作の評価として「万人受けしないゲーム」といった表現がある。
それはある面では正しい。何せ肝心の物語が説明不足かつあまりに複雑なシナリオであり、また操作性はすぐに改善点が思いつく域でお粗末である。

しかし、本作はそもそもそこに比重を置いたゲームではなく、瞬間ごとのカッコよさによってプレイヤーに衝撃を与えるタイプの作品である。
つまり、画面内で同時並行的に描画されるイラスト、ムービーの効果的な挿入による意外性や現実とのリンク、或いは一筋縄ではいかない登場人物たちの掛け合いや信条といった、その時々の純粋な「面白い!」の連続によって成立しているゲームだといえるのである。
刑事ドラマ・推理モノとしての体裁を二の次にしてでも、意欲的、先鋭的で奇抜な演出手法によってそれが提示されているからこそ、他のADVでは得難い爪あとをプレイヤーに残す、そんなタイプの一作だ。

一度はこのゲームが有する、軽妙かつ深い台詞回し、類型を脱したキャラクターたち、印象に残る世界観とシナリオに触れてみてはいかがだろうか。


余談

  • メモリーカード管理画面のアイコンが凝っている。
    • ファイル名を使って「お買い上げありがとうございます」と感謝の言葉が残してあるのが印象的。アイコン画像はさりげなく、ゲーム終盤の要素を大胆に予告している。如何にも本作らしい。

HDリマスター版

17年の時を経て、2016年にSteamでWindows/Macintosh/SteamOS向けのHDリマスター版が配信が開始された(日本語・英語両対応)。

  • 当初は英語タイトルの『The Silver Case』名義での配信だったが、後に日本版はストア表示も『シルバー事件』表記になっている。
  • 有料DLCとしてエクストラコンテンツも同時配信されており、そちらにはアートワーク・デジタルコミック・オリジナルサウンドトラックが収録されている。
  • HDリマスター版の開発はオリジナルスタッフ監修の元、日本のインディPCゲームのダウンロード販売サイト「PLAYISM*3」の運営を行っていたアクティブゲーミングメディアが担当。

カップリング作品『シルバー2425』

  • 2018年3月15日に日本一ソフトウェアからPS4用ソフトとして発売。HDリマスター版『シルバー事件』+続編『シルバー事件25区』の2本が同時収録されたカップリング作品になっている。本作に合わせてミッシングリンクを埋める新シナリオが登場し、後にPC版にも無料アップデートで追加された。
  • 2021年2月18日にはPLAYISMから同内容のSwitch版も発売された。

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最終更新:2022年10月29日 11:43

*1 同時に同社の処女作でもある。

*2 この手法は同社が以降にリリースした作品でもよく見られる。

*3 元よりゲームパブリッシング事業も展開しているが、2021年3月24日を以てダウンロード販売サイトの運営が終了。現在は同ブランド名によるゲームパブリッシング事業のみとなっている。