久遠の絆
【くおんのきずな】
ジャンル
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恋愛アドベンチャー
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対応機種
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プレイステーション
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発売・開発元
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フォグ
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発売日
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1998年12月3日
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価格
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5,800円(税抜)
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プレイ人数
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1人
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セーブデータ
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システムデータ1ブロック&セーブデータ1ブロック(3つまで)
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配信
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ゲームアーカイブス 2015年10月21日/617円(税込)
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判定
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良作
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概要
後に風雨来記シリーズや一柳和の受難シリーズで名を馳せるフォグの初期ADV作品。
監督は『美少女花札紀行 みちのく秘湯恋物語』や『炎の料理人 クッキングファイター好』を手掛けた加藤直樹で、彼が率いるライター陣がシナリオを執筆した。
平穏な学園生活を送る主人公・御門武。始業式の日、そんな彼の前に高原万葉と名乗る少女が現れる。それと時を同じくして、武は前世の記憶を思い出していく事になる。
平安・元禄・幕末・現代と4つの時代の中で、転生し悲恋に翻弄されていく男女の運命を描く。
システム
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『雫』『痕』『To Heart』のようなビジュアルノベル形式。選択肢によってストーリーが分岐していく。
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法術戦闘
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ストーリーの要所で挟まれるミニゲーム。画面を動き回る敵に対し狙いを定め○ボタンを押す事で円が展開。そこからペイントツールの直線を引くような感覚で五芒星を描くことで敵にダメージを与え、それを繰り返して敵を撃退すればクリア。
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五芒星の描き方は作中で説明される。ただし問題あり(問題点の項で説明)。
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画面下に表示される制限時間のバーが無くなると敵から攻撃される。何度も攻撃されると簡易的なスタッフロールと共にゲームが終了してしまう。
評価点
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一番の白眉はそのシナリオである。現代編を主軸に平安編(第一章)・元禄編(第二章)・幕末編(第三章)と過去の物語をなぞっていく形であり、その中で悲恋が繰り広げられていくのである。各時代で散りばめられた伏線を現代で回収しつつ、クライマックスに向けて全ての登場人物達が集束していく様は圧巻。
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ありがちではあるが、平和な日常が非日常に侵されていく恐怖と、それに対する主人公の不安は描写が細かい。
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舞台設定の根底にあるのは日本神話であり、そこに竹取物語などの古典作品を絡めた独自の世界観は完成度が高い。
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また、転生を題材としたシナリオであり、ある時代では仲間であった人物と別の時代では敵対関係であったりと、男女の悲恋だけではなく家族の愛憎入り混じった濃い人物模様が描かれている。
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史実に登場する人物や、陰陽道・土蜘蛛・新撰組などの史実と関わりのある要素を取り入れた事も、考察好きなプレイヤーたちを唸らせた。時代ごとの世相や生活習慣なども(正確性は別にして)緻密に描かれており、物語を引き立てるガジェットとして巧妙に機能している。
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そもそも平安時代などは史料の少なさから時代考証が難しく、歴史小説でも敬遠されがちな時代である。あえてその時代に挑み、さらに違和感なしに描き切った事は評価に値するだろう。
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さらに、元禄編でメインの舞台となるのは遊里として有名な吉原である。コンシューマのゲームで吉原を扱うゲームが他にどれだけあるだろうか? しかも、この当時の因習に縛られた男女の色恋を描く為に、活かしきってある。
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本編クリア後のおまけ要素として、はっちゃけた雰囲気のギャグ系シナリオをプレイする事も可能。
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登場人物は、まだいわゆる「萌え」が普及する以前であり、ジュヴナイル小説や伝奇小説を意識した人物造形で、それぞれのキャラクターはしっかりと立っている。
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ヒロインは謎の転校生や幼馴染、美人の先生。これを王道と見るかベタと見るかは人それぞれだろう。
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敵キャラも黒幕である太祖や雑兵の妖魔を除けば、何れも魔道に堕ちざるを得なかった「ワルなりの哀しさ」を背負ったものが多く、道を踏み外すに至る過程や心情が丹念に描かれており単純に「悪」と割り切れる存在ではない。
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風水嵯峨による楽曲も物語に彩りを添える。
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和風テイストの楽曲はこの当時はまだ珍しく、舞台設定も相まって非常に印象的だった。
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本作のサウンドトラックがフォグの通販限定で販売された。
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また岸上大策による美麗なグラフィックも評価点。
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美少女だけでなく男性も上手く描いており、物語の中でうまく調和されている。
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幕末編以外全てにおいて「ソニーチェックの限界に挑戦した描写」が存在し、エロゲーでもないのにエロスを感じさせるのは岸上の絵の上手さゆえか。
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「事後」を思わせるようなCGなどにその片鱗がうかがえる。それが後述する18禁逆移植への不満にもつながるのである。
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人物だけでなく、竹林や紅葉といった日本的な風景も評価は高い。
賛否両論点
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ギャルゲーの皮を被ったホラー。
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悲恋譚がテーマのゲームなだけにジャンル的には「ギャルゲー」のカテゴリに属しているが、恋愛要素と同等に「伝奇ホラー」としての面も濃厚な為、コンシューマー作品としては猟奇的な描写も多い。この点自体は問題点という訳ではないものの、物語冒頭から女性の生首を掲げた化物のグラフィックが登場するなどグロ描写に耐性の無いユーザーには意外と辛いかもしれない。
問題点
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CVがない。
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当時のギャルゲーの場合「豪華声優陣の代わりにパートボイス」「フルボイスだが無名の声優陣」の二択を強いられていたため、その流れからすると仕方ない事なのだが。
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法術戦闘のミニゲームが飛ばせない。
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周回の度に必然的に平安編・現代編で行う事となる。
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また、ゲームで定められた描き順でなければ攻撃が発動しない為、馴れるまで苦戦を強いられる。
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描き順さえ間違えなければ多少アバウトでも判定を受け付けてくれるのが救い。
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1998年作品という事を鑑みても、システム周りはあまり良くない。
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メッセージスキップが「メニューを開く→「メッセージスキップ」を選択」の2動作を必要としたり(スキップも選択肢で選択を選んだらストップする)、オートモードが無かったりと話がとにかく長く、選択肢の多いこのゲームの特徴を考慮していないものであった。
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それに加えて意味のない選択肢が多い。AかBかという選択でBを選んでも「いや、やっぱりAだな」「BにしようとしたがAにした」と言ったような選ばせる必要性の無い選択肢が少なくなく、選んでも面白くないのは勿論、このスキップの仕様の枷にもなっている。
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バックログも4ページ分までと少な目。
総評
現代と日本神話・古典ベースの過去の世界観の中で魅力的なキャラが織り成す物語は伏線回収の見事さもあり素晴らしく、PSの恋愛ノベルゲーの中でも珠玉の一作といえる。
ホラー要素や性描写に抵抗がなければ現在でもプレイする価値は十分あるだろう。
その後の展開
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マイナーメーカーの為当初は決して注目度は高くなかったが、口コミで徐々に注目を集め、「再臨詔」おまけシナリオの追加を行ったDC版『久遠の絆 再臨詔』として移植(後にPS2やPSPにも移植)。一方で、追加シナリオについては結末を巡って激しい賛否両論が巻き起こった。
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ただし、シナリオ担当の加藤直樹は結末について「自分の中では(追加シナリオで)書きたいテーマを全部描ききった」と発言している。また、追加シナリオはPS版で報われなかったキャラクター達に対する救済措置的な側面も含んでおり、その点に関しての評価は高い。
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『久遠』関連のアンソロジーコミックで描かれた一部キャラクターの性格が、逆輸入の形で追加シナリオに反映されている。
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ゲーム雑誌などでは、追加のスク水のシーンが宣伝によく使われた。
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また『久遠の絆 再臨詔』は、ドリームキャストマガジンの名物企画である読者投票で上位の常連だった。
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余談ではあるが『この青空に約束を―』や『WHITE ALBUM2』で知られるライター丸戸史明はこの作品のファンコミュニティに属しており、そこで当作でライターを務めた小林且典に誘われゲーム業界へ参入した。
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更に後にはザウスからWinで『久遠の絆 -The Origin』として18禁逆移植されたが、過去のシナリオの全改変・CGの使い回しなどのため評価は散々だった。
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平安編はCS版の竹取物語を題材にした内容から、PS版開発時にソニーチェックで没になった玉藻前を題材にした内容になっており、それに付随して神代編が追加。
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CS版のライターの片方が降りたため幕末編は削除され、代わりに昭和編が追加されたが、シナリオは短かめ。
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シナリオの全改変といっても一部テキストはPS版から流用している為、時代的な事もあり現在の感覚で読むと少々古臭さを感じてしまう。また全5章中、とある時代だけ性描写が全く存在せず「何のための18禁移植?」との疑問の声も上がった。
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メインヒロインの万葉ルートのみ何故か初回プレイ時はどの選択肢を選んでも、およそ「大団円」とは言い難いエンディングを迎える。2周目以降は大団円へのルートが解除されるとはいえ、何故このような仕様にしたのか公式なアナウンスが無いため不明。膨大な物語を経て辿り着いた結末で受けた不条理なオチに、初回で挫折したプレイヤーも多いという。
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コンシューマでは声なしだったが、声が付いた。
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18禁という事もあって、何気にグロ描写もパワーアップ。特に敵兵の首筋に喰らいつき肉を食いちぎるゾンビ兵のCGは妙に力が入っている…が、それより根本的な部分に心血を注いで欲しかった。
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その後、Windows用『久遠の絆 再臨詔 フルボイス版』(全年齢)が発売された。
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声は18禁移植とは異なり、ドラマCDにほとんど準拠。
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おまけシナリオが追加されている。
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こちらも旧作と同じくコメディタッチのシナリオだが、「フルボイスである事」を上手く活かした内容であり、声優陣の苦労の賜物とも言える。
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更に、本編においてサブ女性陣に降りかかった悲劇が比較的真っ当な形で回避されており、従来のプレイヤーにとっても一見の価値はある。
最終更新:2023年10月24日 02:53