フロントミッションオルタナティヴ

【ふろんとみっしょんおるたなてぃゔ】

ジャンル リアルタイムシミュレーションRPG
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対応機種 プレイステーション
メディア CD-ROM 1枚
発売・開発元 スクウェア
発売日 1997年12月18日
価格 5,800円(税抜)
プレイ人数 1人
レーティング CERO:B(12才以上対象)*1
廉価版 アルティメットヒッツ
2006年10月5日/1,500円(税抜)
配信 ゲームアーカイブス
2008年10月29日/600円
判定 良作
フロントミッションシリーズ


ストーリー

 2005年の「ヨーロッパ共同体(EC)」の成立に端を発し、2015年の旧ロシアを中心にCIS諸国が再集結した「ザーフトラ共和国」の誕生で加速する、共同体化という世界再編の波。それは2020年に南北アメリカ大陸統一によって「ニューコンチネント合衆国(U.S.N.)」を誕生させ、USNの台頭に危機感を覚えたアジア・バンコク経済帯は、オーストラリアと日本を加え、2026年に「オシアナ共同連合(O.C.U.)」を成立させる。やがてUSNとOCUという二つの巨大国家は、世界再編に大きな影響力を及ぼしていく。

 一方で、21世紀初頭のアフリカ大陸は激しい混乱の中にあった。砂漠の肥大化による新たな民族移動と衝突は内戦を激化させ、紛争は大陸全土に拡大、アフリカは分裂していく。
 活動を凍結している国連の代わりに、EC、OCU、ザーフトラなど各国は独自に軍を派遣。成立まもない「アフリカ統合機構(OAC)」の再建計画に協力する。OACは2030年に”アフリカ大陸共同国家計画”を打ち出し、諸外国の影響を強くうけながらも、アフリカ各地の共同体化と再開発は徐々に軌道に乗り始めた。

 だが2033年、中部アフリカ共同政権(CA)に反発する旧政府軍が独立政府「ZAINGO」の樹立を宣言し、共同政権側に武力攻撃を開始する。旧軍の主力装備・部隊を抱えるZAINGOに共同政権側はなすすべなく戦線の後退を余儀なくされ、南部アフリカ共同体(SAWS)に支援を求める。
 2034年4月、SAWSはOCUにZAINGO打倒のための協力(介入)を打診。OCUはその解答として、対機甲部隊の切り札として期待される新兵器”WAW”(ヴァンドルングヴァーゲン)を主軸とした部隊をアフリカへ派遣する。OCUにとってWAWは、大兵力の派遣による周辺各国の刺激を避けられ、なおかつ新兵器のデータを収集することが出来る、CAを食い物とした一石二鳥の選択だった。

 かくしてSAWS軍大佐イデ・サンゴールが司令官となり、OCU軍中尉アール・マッコイを指揮官とする史上初の戦闘用WAW部隊が結成される。激動のアフリカとそれを取り巻く国々の思惑から生み出された駒、独立機動攻撃中隊”IMAC”である。
 陰謀渦巻くアフリカの歪みに引き込まれていくIMAC。終わりの見えない戦いの先に、マッコイ達が見出すモノとは……


概要

1995年にスーパーファミコン用ソフトとして発売され、好評を博したドラマチックシミュレーションRPG『フロントミッション(FM)』。
その後、96年2月に外伝作品『ガンハザード』が、97年2月25日にはプラットフォームをプレイステーションに移した続編『2nd』がリリースされ、FMはシリーズ化を果たす。

本作『オルタナティヴ』は『2nd』と近い時期に発売されたFMシリーズの派生作品である。だが、『2nd』が『1st』の路線を堅守した一般的なシミュレーションRPGであったのに対し、『オルタナティヴ』はそれとはまったく異なるリアルタイムシミュレーションとして、日本のゲーム史上でも類を見ない異質な雰囲気を持って世に出ることとなった。
その硬派すぎるストーリーテリングとシステム、作品中に漂う実験作的な雰囲気、そして一切の媚がない販売戦略は決して一般受けするものではなく、加えて初心者プレイヤーにはやや不親切な部分も多く、売り上げは5万本前後に留まることとなった。しかしそのストイックさと、センスに溢れた作劇・演出に魅せられ熱心なファンとなったユーザーも少なくない。
近年では作品の再評価が行われ、もとからコアなファンが多い作品だけあってその評価も向上してきている。

略称は『FA』。
なお、本作はFMシリーズの正史に含まれる作品としては最も過去の時代を描いている。また主人公たちが操るロボットは、シリーズおなじみのヴァンツァー(WAP)ではなくその前身となったヴァンダー・ヴァーゲン(WAW)であるが、WAWが描かれるシリーズ作品は本作のみとなっている。


ゲームの流れ

プレイヤーはアール・マッコイ中尉となってIMACを指揮し、アフリカでの戦いを生き残っていく。
独立攻撃機動中隊IMACは、WAW3機×3小隊、計9機で構成される。プレイヤーはそれぞれの機体の装備・簡易AIを考え、それぞれの小隊の進行ルートを設定し、敵の行動に臨機応変に対応し、各小隊に大まかな指示を出すことが求められる。
ミッションのクリア成績に応じて武装が支給され、同時にエンディングへ向けたストーリーのルートが決定していく。

戦闘準備

  • 作戦前のブリーフィングに基づいて、機体のセットアップやルート確認を行う。FMシリーズのウリはWAPのカスタマイズだが、WAPの前身であるWAWにはパーツの組み換え規格が備わっておらず、機体ごとの交換となる。
    プレイヤーが行うのは「腕部・背部武器の選択」「オプション装備(ボルトオン)の選択」「機体の交換」「迷彩色の指定」、そして最も重要な「パイロットの学習値設定」である。
    • 武器・機体はストーリーが進むにつれて支給される。シナリオの進行次第によってはヤミ商人「バッタール商会」からボルトオンを購入することが出来る。
    • 機体色の変更はシリーズ共通の要素だが、本作の機体塗装は攻撃の回避率に関わる、つまり迷彩機能が備わっている。
    • 各パイロットには「攻撃」「機動」「防御」の経験値が設定されている。この経験値は、作戦前に振り分けた「学習値」の割合に応じて成長する。経験値が上がればパイロットは様々なスキルを習得し、より有利に戦いを進めることが可能となる。
      • 学習値の容量は100。この100の学習値を均等に三等分するか、一極集中でつぎ込み、特化した能力のパイロット(部隊)を作るか。ボルトオンと組み合わせることにより、戦術の幅が広がる。
  • 本作のWAWカスタマイズは従来作と比べると、パーツの組み換えやステータスなどの目に見えてわかる形での楽しさは薄い。しかしゲームジャンルの変更に伴い、外見やカタログスペックに囚われない「中身のカスタマイズ」がこれまで以上に重要となり、新しい楽しみ方を生み出したとも言える。

バトルフィールド

  • 部隊のセッティングが完了したら、作戦領域に設定された中継地点をポイントし、三つの部隊をどのように動かすかを決定する。基本的には「眺めゲー」であるが、ルート選択は刻々と変化する戦況を見極め、戦闘中にもその都度行わなければならない。各種戦闘コマンドで策敵を行ったり、小隊に大まかな戦闘を指示する事も大切。臨場感あふれるシステム・演出が、中毒性を生み出す。
    • 「高機動型に設定した第一小隊を前に出して、第二第三小隊はキャノンで援護」、「戦車が三両、味方が回り込むのを待って十字砲火をかけよう」、「虎の子のミサイルは対WAW用に温存する」…… 状況に応じて対応を決めるリアルタイムSLGの面白みは本作にもしっかり根付いている。
  • 戦場は広大であり、基本的に敵の数は自軍よりも多い。特定のミッションでは弾薬補給・修理が行え、友軍の支援攻撃を受ける事も出来る。こうしたサポートの使い方も重要。

特徴・評価点

BGM

  • BGMは全編に渡り、リョウアライ氏が手掛けるバリバリのテクノミュージックが用いられている。
    • スピーディでトランス感溢れる音楽は、一聴しただけではハードな戦争ものであるゲーム本編とミスマッチに感じられるかもしれない。しかし意外なほどに画面とマッチしており、ダレがちになるリアルタイムSLGに爽快感と中毒性を与えている。
    • システム効果音も小気味のいい電子音が揃っている。ロボの足音や射撃音も地味ながら良好。
  • なお、今作ではオプションでBGMモードの切り替えが出来る。通常の「オリジナルSE」と、BGMをカットし、代わりに風の音や鳥のさえずりなどの環境音をメインに据え、リアリズムを高めた「リアルSE」の二つである。

グラフィック

  • マップとユニットは全てポリゴンで描写される。
    • 『2nd』よりもユニットのサイズは小さめで、モデリングも簡略化されている(特にWAWは「動く箱の集まり」といった状態)。だが、その粗さが出来の良いモーションと合わさり、無骨さ、重量感、金属の軋みといった「メカのカッコよさ」と、「発展途上のロボット」という設定をよく表現している。
      • シナリオが進むにつれて改良型の機体が配備され、順次乗り換えていくことになるのだが、新しくなるにつれて洗練されていくデザインの変化も見どころ。
    • 背景の処理も粗さを逆手にとり、バトルフィールドの広大さをうまく演出している。
    • デモシーンのカメラワークと演出は素晴らしいの一言。渋い、悲しい、熱いストーリーを見事に演出する。
  • システムのインターフェイスは簡潔に、スタイリッシュにまとめられている。BGMと相まって、尖鋭的な印象を与えた。

シナリオ

  • 最大で全四章から成る(後述)ストーリーは、各章間に入るテロップと、作戦前のサンゴールの通達による状況説明が軸となって進む。これに戦闘中のポリゴンデモや、隊員達の会話が合わさって物語が形作られる。ヒロイックなムードは皆無、それでいて過度に泥臭く・重苦しくならない絶妙な「雰囲気のバランス取り」が行われている、きな臭い「紛争」に真正面から向きあったシナリオが展開される。
    • 主人公たちは最前線の兵士であり、命令に私情をはさむ余地はない。ただ上から下される任務をこなすだけである。物語は淡々と進み、メッセージ性も希薄なのだが、逆にそれが押しつけがましくならず、作品世界に没入できる雰囲気を醸し出している。
    • 分裂したアフリカ共同体と、それを取り巻く諸外国の間で行われる黒い駆け引き。IMACもアフリカと同じであり、OCUとSAWS、そしてCAからかき集められた隊員達は完全な一枚岩ではなく、彼らの間ではOCUの介入や、戦闘行為への温度差が存在する。こうした内外の情勢が、重厚で渋いドラマを作る。
  • 登場するキャラクターも魅力的なメンツが揃う。センスに溢れたセリフ回しと設定が成す妙である。
    • 衝撃の告白が強烈な印象を残す青年技師ファーフィーと紅一点のチャミリ(彼女も予想外の告白でユーザーをあっけにとらせた)を始めとして、高圧的ではあるが隊員達をさりげなく気遣うサンゴール大佐、戦争バカかと思いきや唐突にセンチメンタルな発言をかますオノサイ、仲が悪いが妙なところで団結する第三小隊の隊員二人など、味方はいずれも個性豊か。
    • 一方の敵方にもなかなかにキレた連中が集まっている。変わったところではごく序盤で登場する、顔グラフィックが印象的な敵歩兵が妙なインパクトを残す。
      • ちなみに本作には同性愛(ゲイ)要素が含まれている。決して過度なものではなく、そういったものが苦手な人でも軽く受け流せる程度なので安心してほしい。
  • 各所のセンスに溢れた演出も見どころである。
    • 激しいテクノミュージックを背景に、次々と画面が切り替わるオープニングデモ。曲と画面の相乗効果で軽いトランス状態に陥る。
    • OFF→ON→FRONT MISSION ALTERNATIVE→AFlica と、文字が入れ替わりながら単語が変化していくオープニングタイトル。
    • 各章の開始時に挿入される、舞台となる地域が赤く示されたアフリカ大陸図と、アフリカ大陸を「横向きの髑髏」と見ることを意識した副題。
    • 「黒地にスタッフのテロップが出る中、赤い薔薇が降り積もる」という、芸術的なんだかシュールなんだかよくわからないスタッフロール。しかし、音楽と相まって心地よい達成感と陶酔感を感じさせる非常に美しい映像である。ぜひとも観賞をお薦めしたい。
      • この「薔薇」は単に同性愛の比喩として使われているのではない。薔薇はアフリカ原産の植物で、欧州で品種改良された花である。本作の設定を暗に示しているのだ。

独特のストーリー展開

  • 本作は全四種類(+バリエーション一種)のエンディングが存在するマルチエンディング方式を採用している。だが、単純な「グッドエンド」「バッドエンド」といったものは存在しない。それは独特のルート分岐方式を見ると理解できる。
    • 大抵のゲームでは好成績を上げると真のルートが開かれたり、隠し要素が解禁されるというのが半ば常識となっている。だが本作は、システムを理解し、手早くクリアできるようになった「ゲームがうまい」プレイヤーほど、物語の黒幕から遠ざかっていくようになっているのだ。簡単に説明すると以下の通りになる。
  • ミッションクリア時の評価が高い=敵が素早く掃討された→敵の戦力が早く減る→行うミッションの数が少なくなっていく→早期の紛争終結
    • 早期に紛争を終らせてしまうと、CA危機自体は終結し当面の安全が訪れる。しかし、ZAINGOはアフリカの暗部の一部でしかなく、尖兵に過ぎない。真にアフリカを蝕む腫瘍が取り除かれることはなく、アフリカは変わらず諸大国の食い物にされたまま終わる。
  • 平均評価が低い(失敗を繰り返す)=敵に苦戦している→なかなか敵が減らない→失敗の穴埋めとしてより多くのミッションをこなさねばならない→紛争長期化
    • 紛争が長期化してしまうと、当初のWA救援という目的から離れ、IMACは使い走りのごとく各地を転戦させられることとなる。しかしその中でIMACは黒幕の一端をつかみ、やがては黒幕を暴くことになる(かもしれない)のだが、その代償として紛争はアフリカ全土に拡大し、各地に甚大な損害・犠牲が出てしまうのだ。
  • ちなみにミッションの数は、最長ルート(第四章到達・黒幕を完全に暴く)では32ミッション、最短ルート(第一章のみで完結)では僅か5ミッションとなる。どのルートに進んだかは最後の章で判別できる。
    • 「ミス=ゲームオーバー」ではなく、ミスをしても結果的に長く遊ぶことになるという、固定観念を崩すシナリオ展開が考えられている。とはいえ余りに失敗しすぎるとIMACは解体されマッコイも更迭、ゲームオーバーになってしまう。ゲームオーバー時のエンディングは、基本的にはその時点での本来のエンディングと同じだが、一部の演出が異なるのでチェックしておきたい。

その他

  • マニアックだが、「初期のWAWの弱さがいい」というファンも存在する。
    • 序盤のWAWは弱く、戦車に粉砕され戦闘ヘリにきりきり舞いさせられることもよくある(味方に限らず敵WAWも弱い)。しかし開発されたばかりの兵器であるWAWが円熟した兵器である戦車や戦闘ヘリに苦戦するのは当然であり、この「ロボット=在来兵器より無条件で強い」というお約束が通じないことを評価するファンもいる。
      • 物語が進むと戦車や戦闘ヘリをものともしなくなるので、部隊が強くなっている実感が沸きやすい。特に戦車に正面から損害なしで勝てるようになった時はかなり感動する。
  • カテゴリは少ないが、かぶりがない武装
    • 腕武器はガン(ライフルに近い特性)とマシンガン、肩武器はミサイル、キャノン、ロケット、グレネードの四種類(あるミッションをクリアすると荷電粒子砲*2が配備される)。ロボット物としては少ないが、その分バランスはとれている。
      • 例えばガンはマシンガンより射程が長く命中率も高めだが、瞬間火力に欠ける。一方マシンガンは射程は短いが発射回数はガンの比ではないため瞬間火力に長ける。一部隊で集中砲火を浴びせれば、終盤の高耐久の敵も3秒でスクラップである。
      • 肩武器も低速だが誘導性能を持つミサイル、バランスのとれたキャノン、命中、威力は低めだがまさに桁違いの弾幕を形成できるロケット、カタログスペックは低いが事実上回避ができず、直撃時は高確率で相手を転倒させるグレネードなど、使いやすいものからはまれば強力なものまで揃っている。

問題点

  • 粗いインターフェース・仕様
    • 説明書には必要最低限のことしか書かれておらず、ゲーム中のチュートリアルも存在しない。
      • 特に学習値関連と武器・ボルトオン、戦闘中コマンドの説明が不十分。理解しているプレイヤーと理解していないプレイヤーではシャレにならない差が出てくる。
    • 先述のルート分岐に関しても、初見でその法則を掴むのはまず不可能だろう。更に「真のエンディング」とも言える、第四章到達エンドの別バージョンに辿り着くにはあるミッションを失敗しておく必要がある。このミッションはかなりの高難易度であり、このミッションの攻略が真エンドへの条件と誤解するやり込み派プレイヤーも多かった。
  • 移動時の不具合
    • 味方部隊はポイントした目標地点に向かい直線状に移動する。つまり敵部隊のみをポイントしてしまうと障害物に向かい前進を繰り返すのだが、このような事態を回避するために複数の目標地点が設定されているのであり、これだけでは特に問題はない。
      • そもそも一定地点でなく、任意の座標をポイントさせてほしいという意見も多いが……
    • 問題は、そうしたルート選択でもカバーできない道筋にはみ出た崖・建造物・三機分ぎりぎりの狭い登り坂などにある。小隊は矢尻状の三角形隊を組むのだが、この時に両サイドの機がはみ出た障害物に引っ掛かってしまうと、その時点で小隊全体の行軍が止まる。
      • 要するに「ちょっと横にそれる」ことが出来ないのである。余裕のある状態・開けた場所ならば別の目標地点に向かって歩かせ、再度元の目標地点をポイントしなおすことで軌道修正が出来るのだが、建造物が密集していたり敵部隊と交戦中の場合は修正が非常にやりづらくなってしまう。
  • その他
    • 戦闘コマンドや一部の武器が少々使いづらく、荒削りな印象を受ける。
    • ミッション中のデモシーン及び隊員たちの会話は、リアルタイムSLGという性質上唐突に挿入され、勝手に字が送られていく。字送り自体は十分解読できるのだが、ボタン操作と被りスキップしてしまう恐れがある。加えて本作はボイスなしのため、ゲームに熱中していると気付かず見逃してしまうことも。
    • リアルタイムシミュレーションの常として、本作のプレイスタイルは基本的に「味方が敵をやっつける姿を観察し大まかな指示を出す」という「半眺めゲー」である。仕様も相まって合わない人にはとことん合わないので、安易な購入は避けるべし。

総評

「萌え(当時はそんな言葉はまだなかったが)」や「ヒーロー性」「泥臭さ」を徹底して排し、真っ向から「戦争」を描いたシナリオと、他に類を見ないストーリーの展開方式。
簡潔でありながら、タイポグラフィまで用いたスタイリッシュすぎるインターフェイスと説明書、そしてオープニング映像。
商業主義と決別したかの様なCM、余りにシンプルな*3パッケージ……。

本作の作風は、とにかく挑戦的で、斬新で、異質だった。荒削りな部分も多く、当時のユーザー達が戸惑いを感じ、敬遠する者もいたことは容易に想像できよう。
スクウェア・エニックスは廉価版発売にあたって「早すぎた名作」とのキャッチコピーを打ったが、それはあながち自画自賛ともいえないかもしれない。本作を根強く支持するファンは決して少なくなく、時がたった今になって廉価版やゲームアーカイブスから本作を知り、新たに魅せられる新規ユーザーも徐々にではあるが増えているのだ。

シリーズの異端児たる『オルタナティヴ』。
本稿やデモムービーを見て、少しでも感じるものがあったという方。昨今のゲームの温いシナリオに飽きてきたという方。骨太なシミュレーションを遊びたいという方達には、ぜひともお勧めしたい作品である。
混沌のアフリカを駆け抜け、貴方なりの解答を見つけてほしい。


余談

本作は開発時のトリビアや余談がかなり多い。これも実験作ゆえなのだろうか。

  • IMACの徽章は「角付きの髑髏」をイメージしたものなのだが、これはもちろん、アフリカ大陸が横向きの髑髏の様に見えることを意識したもの。このことでスクウェアは南アフリカ共和国大使館から抗議を受けたという*4
    • ちなみに『2nd』でも、「アロルデシュ人民共和国」と名前を変えて舞台となったバングラデシュ人民共和国の大使館から、アロルデシュ軍の軍事蜂起描写についての苦情を受けたとのこと。現実世界の延長線上の作品世界で軍事クーデターを描かれたり、大陸を髑髏に見立てて角を生やされれば怒るのも無理はないだろう。
  • WAWの武装名はほとんどが性器のスラングとなっている。さらに防御用のシールドは、ほとんどが避妊具のスラングを元にしている。ドラッグに関連したキーワードも多い。
  • ルートによっては史上初のヴァンツァー「シケイダ」が登場する。シケイダとは「セミ」の意であるが、セミという昆虫は開発元の欧州と縁が薄い。あえて「セミ」の名を冠されたこの機体は、エンディングの薔薇と同じように様々な暗喩を背負っている。

この他にも多くの逸話がある。興味を持った方にはWikipediaやファンサイトの閲覧をお勧めする。

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最終更新:2023年03月07日 15:59

*1 廉価版で付与されたレーティングを記載。

*2 その名もズバリ「BLASSTY」。1986年に同社が発売した『CRUISE CHASER BLASSTY』が名前の元ネタと思われる。

*3 裏表共に黒地にタイトルとロゴが記されただけ。

*4 ただし、アフリカ大陸を角付きの髑髏(あるいは横向きの髑髏)に見立てるのは創作物において割とよくあることである。