涼宮ハルヒの並列

【すずみやはるひのへいれつ】

ジャンル アドベンチャーゲーム

対応機種 Wii
メディア 12cm光ディスク 1枚
発売元 セガ
開発元 キャビア
発売日 2009年3月26日
定価 通常版: 6,800円
初回限定版:11,500円(税別)
レーティング CERO:A(全年齢対象)
判定 良作
ポイント 原作を尊重したオリジナルシナリオ
ループものの中でも珍しい内容
情勢に翻弄されてワゴン行きに
涼宮ハルヒシリーズ


概要

爆発的人気を呼んだ、角川スニーカー文庫のライトノベル『涼宮ハルヒ』シリーズを原作とするテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』のゲーム版。
初回限定版として、ハルヒ、長門、みくるのコスプレフィギュアが付属する「超SOS団ヒロインコレクション」も発売。
発売時期は、テレビアニメの第1期と第2期の中間に当たり、同じセガが発売したDS『涼宮ハルヒの直列』や、角川書店から発売のWii用ダンスゲーム『涼宮ハルヒの激動』との購入連動キャンペーンも行われた。

なお、本記事は良作キャラゲーという観点からの紹介を行うため、特に前置きなどもなくキャラの名前を普通に使用する。原作を知らない方も、なにとぞご容赦いただきたい。
いちおうゲーム内でも最低限の説明はされているが、やはりシリーズの基本設定を知っている事を前提とした作りになっている。


あらすじ

夏休みのある日、突然ハルヒに呼び出されたキョンとその妹は、町内会の福引で当たったという豪華客船1日クルーズに参加することになる。10枚ある券はSOS団の団員5名と野球大会で団の助っ人をした国木田、谷口、鶴屋さん、キョンの妹に配られるが、残りの1枚は港にいた訳ありの美少女、三栖丸ミコトに手渡されることに。

船内では船のオーナーであり、ミコトの元婚約者でもある富豪の少年、伊集院泰一郎の花嫁選びコンテストが行われることになっていた。ハルヒは、ミコトのためにSOS団の総力をあげてコンテストに優勝することを宣言するのだが……。


特徴・評価点

  • 本作は、アドベンチャーゲームでよくある「ループ物」の一種である。「ループする時間の輪に閉じ込められてしまった主人公が、ループから抜け出そうと試行錯誤を繰り返す……」という奴だ。
    ただ、通常のループ物は「いかにして前回のループと違う展開を起こすのか」で脱出の糸口を掴もうとするシナリオが多いのに対し、本作は「いかにしてわき道のループに逸れることなく本筋であるループに戻るのか」が主人公であるキョンの当初の目的となっており、珍しいパターンだといえる。
    何しろ本作では、時間ループの根本原因が涼宮ハルヒの無意識だという点が既に明白な事実なので、「どうやればハルヒが満足してこの世界を元に戻すか」に目的が集約されているのである。だが、本人に直接原因を問いただすわけにはいかないので(理由は原作参照)、ハルヒの観察をして推測する必要がある。
    しかし、そのハルヒはちょっとしたことで気が変わって前回とは全く違う展開のパラレルワールドループに分岐させてしまうので、何が原因でループが起こっているのかを調査するどころではないのだ。以下はその例。
  1. 谷口がビデオカメラを持っているのを見かけたハルヒが、そのカメラを取り上げて「SOS団のプロモビデオを船内で撮影する」と言い出す。
  2. その1日はプロモ撮影でハルヒを満足させるべく奮闘。
  3. また同じ1日が始まるので、今度はハルヒがビデオカメラを取り上げるのを止めてわき道に逸れるのを阻止。
  • ちなみにパラレルワールドというのはこの場合、ゲームシナリオ分岐を比喩した言葉ではなく文字通りの意味。上ではネタバレを避けるために、あえておとなしめの設定のシナリオを例に挙げたが、当初のあらすじからはかけ離れたぶっ飛んだ内容のサブシナリオのほうが多い。
    • 原作ファンならご存知であろうが、ハルヒの無意識は世界そのものに影響を与えるため、世界の設定が書き換えられてしまうのだ。そのため、「船のオーナーは伊集院泰一朗」「花嫁選びコンテスト」といった基本設定すら、サブシナリオの世界では存在しないこともある。「並列」というタイトルは伊達ではない。
    • 原作で言うなら、小規模な「エンドレスエイト」と「消失」が同時発生しているということ。
  • このように、「ループする1日の謎を解く」というゲームの大目的を進行する過程で、様々なサブシナリオが発生し、それを解決するという構造になっている。
    • それぞれのサブシナリオはギャグあり、サスペンスあり、感動ありとバリエーションに富んだ内容で、プレイヤーを飽きさせないようになっている*1
  • ゲームシステムは非常に軽快。ゲームの性質上「何度も同じメッセージを読まされる」という欠点があるが、高速な既読メッセージスキップがあるので苦痛は最小限で済んでいる。また、一度入ったサブシナリオはオプション画面のタイムラインから選択すれば直接移動できる。
    • 要所要所で、インタラプトと呼ばれる時間制限付きのイベントが発生する。これはキョンの行動をダイレクトに操りシナリオに介入するもので、例えば上記の例で言えば、時間制限内にポインタをビデオカメラに会わせてボタンを押すと取り上げたことになったりする。
      もちろん何もしなかったり、他の行動を取ることも可能。このイベントの行動はその後の展開に直結する重要なもので、同時にただテキストを読むだけになりがちな中で良いアクセントにもなっている。
  • 特筆すべき点として、完全フルボイス仕様が挙げられる。キャラクターの台詞がフルボイスなのは当然だが、なんと、シナリオメッセージの大部分を占めるキョンの長々としたモノローグまで全て杉田智和氏による音声が入っている。収録はさぞかし大変だったろう。セガのコメントはによると、キョンの台詞は1万以上あるらしい(参照)。
    • おまけモードまでもフルボイス。BGM鑑賞ではタイトルを読み上げ、さらに一言二言コメントが添えられている凝りよう。
  • なお、二人いるメインシナリオライターの片方は、ライトノベル「迷い猫オーバーラン!」の作者である松智洋である。

問題点

  • ロードが長い
    • 場所を移動する度にロードが挟まれ、わりと長いので少々鬱陶しい。また移動は頻繁にあり、連続でこられるとさらに面倒。
  • セーブ
    • セーブデータをロードしたときにセーブした時の文章のところからの再開ではなく、セーブをした直近のイベントシーンからのスタートになる。
    • スキップは出来るが、すぐにセーブしたところまで追いつくが、少し煩わしい。
  • バッドエンド
    • バッドエンドになると章の始めからやり直しというのが頻発するので作業感は否めない。
    • しかもその選択肢は考えて選択するようなものではなく、ほとんど運でしかないので総当たりゲームになってしまっている。

総評

キャラゲーとして一番重要なことであるが、本作はゲームオリジナルストーリーなのに、登場人物の描写が原作のイメージ通りで違和感がない。「このキャラだったらこんな時こう行動するだろう」というファンの期待を裏切らないのだ。
ところが、先行して発売された『激動』の評判が芳しくなかったのと、ハルヒ人気を見込んで出荷が過剰だったのか、ワゴンで叩き売りされているのをよく見かける。
通常版なら1,000円以内、フィギュア付きの限定版ですら2,000円も出せば買えるので、ファンなら買って損はないだろう*2


余談

  • 前述どおりWiiで先に発売された『激動』は、クソゲーオブザイヤーの審査対象になるほどの駄作であった。
    • 加えて、時期的に作品の盛り上がりが谷間の時期に入っていたことや、他にPS2やPSPやDSでも『ハルヒ』のゲームが発売済みでユーザーに飽和感があったことが、本作の売り上げ低迷につながったと思われる。
    • もし本作がもう少し違ったタイミングで発売されていたならば、また違った結果が出ていたのかも知れないが、そんな世界の実現はまさに「ハルヒの気まぐれに期待する」しかないのだろう。
      • なお、クソゲーの域にあるのは『激動』だけであり、それ以外の『ハルヒ』ゲームはいずれも、キャラゲーとしての一般的な水準に達している。
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最終更新:2023年01月16日 16:30

*1 それにひきかえ、テレビアニメ版の「エンドレスエイト」は……いや、何も言うまい。

*2 これほどコストパフォーマンスの良いゲームも珍しい。喜ぶべきことではないが。