ふぁみこんむかし話 遊遊記 前編/後編

【ふぁみこんむかしばなし ゆうゆうき ぜんぺん/こうへん】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 ファミリーコンピュータ ディスクシステム
発売元 任天堂
開発元 パックスソフトニカ
任天堂情報開発部
発売日 前編 1989年10月14日
後編 1989年11月14日
書換開始日 前編 1989年10月30日
後編 1989年12月1日
定価 パッケージ版 各2,600円
判定 良作
ポイント ありそうでなかったラブストーリー西遊記
天竺ツアーどころか世界一周に近い大冒険
ふぁみこんむかし話シリーズ
新・鬼ヶ島 / 遊遊記 / 平成 新・鬼ヶ島


概要

ふぁみこんむかし話シリーズの第2弾。前作が桃太郎を始めとする日本の昔話の数々を題材にしていたのに対し、今作では日本でもなじみ深い中国の古典小説「西遊記」をベースにしている。
コマンドやメッセージが縦書き、昔話をモチーフにしつつパロディ溢れるストーリーを展開するなどの特徴は前作を継承しつつ、ミニゲームの追加やシステム周りの改善などが施されている。

主人公は隕石から生まれた猿「ごくう」と本作オリジナルヒロインの「ちゃお」。*1その他「さんぞう」「はっかい」「ごじょう」と、西遊記でおなじみのメンバーが共に冒険する。


ストーリー

昔々、今の中国に当たる東勝神州という大陸のある村に、女の子が住んでいました。
ある夜、女の子の家の近くに隕石が落ち、中から1匹の猿が飛び出してきました。
両親を早くに失い天涯孤独のみであった女の子は、猿に名前をつけてかいがいしく世話をしますが
かつて牛魔王と組み天界を荒らした罪により、猿はお釈迦様に連れ去られ、五行山の牢屋に閉じ込められてしまいました。
猿と一緒に暮らすためには「光の小づち」と呼ばれる宝を手に入れ、猿のひねくれた性格を正さなくてはならない。
そう聞かされたされた女の子は、猿を救うため、光のこづちを求めて独り旅に出るのでした。

そして数年後。世界が牛の化け物牛魔王の魔の手に脅かされるようになった頃、一人の僧侶がお経取りのために天竺へ旅に出ました。
ひょんなことから、猿は僧侶、三蔵法師の弟子となり、お供として天竺へ旅立つ事になってしまうのでした。
果たして珍道中の行く末やいかに?


特徴

  • 謎解きの比重が前作に比べて抑えられており、謎解きよりも物語を読むことに重点が置かれている。
    • 前作では調べた際の反応のコメントや状況説明の描写は全て三人称視点のナレーションだったが、本作では、前作から引き続いて語り部として登場するキャラクター「いったいさん」自身がナレーションを務める個所もあり、昔話を語り聞かされているという雰囲気が前作よりも強まっている。
  • 「ひとかえる」で操作するキャラクターが最大で5人に増えた。
    • このため、フラグ立ては前作以上に細かいが、難易度自体はそう高くはなく、一度に全員操作できる機会は少ない。
    • 各キャラクターにはパーソナルカラーが設定されており、キャラクターの変更と同時にグラフィック・メッセージウィンドウと背景の色も変化する。
      • 「ごくう」が茶色、「ちゃお」がピンク、「さんぞう」が黒、「はっかい」が青、「ごじょう」が緑となっており、誰を操作しているのかがわかりやすくなっている。
  • 敵との戦闘でアクション要素が加えられた(後に平成新鬼ヶ島で発展する)。
  • 西遊記をベースにしたコミカルな世界観
    • 西遊記の世界をベースにしつつ、シベリア、ハワイ、日本と舞台は広く、古典小説の世界を舞台にしながら現代的な描写が多く、ドリフターズの人形劇「飛べ!孫悟空」や手塚治虫のギャグ漫画「ぼくの孫悟空」のような、ギャグをベースにした舞台喜劇風の味付けがなされている。
      • 例をあげると、三蔵がスケベで女好きな生臭坊主だったり、彼の乗ってるものが馬でなくスクーターだったり、天竺へ取りにいくお経の内容が「一生楽して暮らす法」なる代物だったりと、パロディぶりがよりぶっとんでおり、コミカルな雰囲気が前作以上に強められている。
    • コミカルながらも日本の昔話という世界観が色濃く、ストーリー面でもシリアスさと哀愁漂う展開だった「新鬼ヶ島」に比べ、全編に渡って陽的で明るい雰囲気に満ちている。それでいながら、ほろりとさせてくれるポイントはしっかり押さえており、シナリオ面でも深みが増している。
  • BGMはエキサイトバイク、シムシティー、パイロットウイングスなどを手がけた岡素世。
    • 現代的かつコミカルな世界観に合わせて、西遊記ならではの中国風の曲からハワイアンな曲まで、幅広くユニークな楽曲が用意されており、こちらも評価が高い。

評価点

  • 難易度が前作よりも下がっている。
    • 謎解きの難易度が下がった他、理不尽な要因でゲームオーバーになる個所がなくなった。ゲームオーバー条件もほとんどが選択肢の回答ミスかミニゲームの失敗によるもので、選択肢自体もわかりやすいので回避が容易。これによりゲーム進行が前作に比べて格段に易しくなり、ストーリーを楽しみやすくなった。
  • 難易度が下げられた代わりにストーリー性が高まった。
    • 天竺へのお経取りの冒険を軸に、主人公ごくうの精神的な成長とヒロインとの恋愛がメインに描かれる他、サブキャラクターの掘り下げも深まり、シナリオ上に登場するサブキャラクターが増えたので物語により深みが増した。
    • 全11章とボリュームも満点。特に後編の終盤の盛り上がりとエンディングは必見である。
  • ハズレのコマンドを選んだ際のメッセージやキャラクターの反応が、ユーモアやギャグに溢れておりおもしろい。
    • こうしたメッセージを味わうのも本作の楽しみの1つでもある。
  • 前作と比べて画面内のグラフィックがアニメーションで動く部分が多く、グラフィック面でのささやかな進化も見せている。
  • キャラクターがウィンドウの枠を超えて画面全体を使ってアクションするなど演出面も大幅にパワーアップしている。
  • アクションによる敵との戦闘やクイズなどのミニゲームもあるが、難易度はそれほど高くない。
  • システム周りの改善点
    • セーブに前編のディスクが必要なのは前作と同じだが、後編プレイ中にセーブした後は、電源さえ切らなければ再開するために後編をセットし直す必要がなくそのままプレイを続行できるので、煩わしさが軽減されている。
    • メッセージウィンドウとコマンドウィンドウの開閉アニメーションが速くなり、処理速度も上がっている。
    • 一時セーブ機能の追加
      • 「いったいさん」コマンドを選択することで、進行を一時的に保存する機能が追加された。これにより、ゲームオーバー時の再挑戦が容易になった。

問題点

  • 難易度はそれほど高くないが、「ひとかえる」で切り替えられる人数が増えたため、まめな切り替えとコマンド総当たりが必要で、やや煩わしさがある。
    • 「ひとかえる」に、いつの間にか新しい人物が追加されて、それをノーヒントで行わなければならない部分があるのも不親切。
  • 前作同様、ひらがな表記のみ
    • カタカナ言葉が数えるほどしかなかった前作に比べ、本作ではそれなりにカタカナの固有名詞があるため、ひらがなのみでは若干読みづらさがある。
  • 2章のストーリー展開に若干の不自然さがある。
    + ネタバレ
    • 八戒が仲間になる過程で悟空と八戒の戦いがあり、戦いの直前と戦いが終わった直後の2度にわたり、悟空が八戒のことを「牛魔王の手下め!」と呼ばわるが、この時点では悟空はかつての悪の仲間だった牛魔王と明確な敵対関係に発展していない。
      • 牛魔王と明確な敵対関係になる直接的なきっかけは、前編5章で牛魔王の子供との間にトラブルを起きた際に悟空が相手を叩きのめしてしまい牛魔王が激怒したこと、悟空が再び悪事を働こうという誘いを蹴ったこと、再会したばかりのヒロイン・ちゃおをさらわれたことの3つである。従って、このシーン以前の段階で牛魔王を敵視するような物言いをするのは明らかに不自然。
    • また、この時点の悟空は嫌々ながら無理やりに三蔵の弟子にならざるを得なかった状況であり、「牛魔王を改心させよ」というというお釈迦様の言葉に反発していた点からも、まだ牛魔王側に心が傾いている状態であってもおかしくはないのだが、この時点の悟空が牛魔王のことをどう思っているのかについては一切描写されないため、敵視するような物言いをした理由についても不明。
    • 後半では八戒が悟空一行を裏切って牛魔王側についてしまうという怒涛の展開が発生するため、恐らくはその暗示、前振りと思われるが、不自然さは否めない点である。
  • 一部の謎解き
    • 前編序盤において『3匹のパンダが同時に話すヒントを頼りに画面内を調べて抜け道を見つける』という謎解きがあるが、話が進むにつれて3匹の話す言葉が複雑に入り乱れているため非常にややこしい。
      • パンダたちのセリフには一定の法則が敷かれておりよくよく読み込めば解読自体はそう難しいものではないが、しっかり考えて正解を導き出すより画面内をしらみつぶしにマスでチェックして総当たりした方が早いこともあり、謎解きの意義がやや薄くなっている。(チェックする領域は7×5で35マス程度なのでさほど時間もかからない)
  • アクションミニゲームの見栄えがあまりよくない。
    • 一部の敵とのアクション戦闘では、グラフィックウィンドウの外で、ボール状のシンボルに変化した悟空を操作することになる。敵の攻撃をかわしつつ相手に近づいた時を狙ってAボタンを押すことで攻撃し数回ダメージを与えると勝利という流れだが、ウィンドウ自体が小さいゆえに大きな動きをさせられないため仕方ないにせよ、見栄えの悪さは否めない所。
    • ちなみに序盤での八戒との戦闘ではグラフィックウィンドウ内で完結しており、互いのアクションがシンプルながらもそれなりにらしさを演出できている。

総評

謎解き重視でアドベンチャーとしてのゲーム性が前面に押し出されていた前作に対し、本作は難易度が引き下げられた代わりにストーリーと演出面が大きくパワーアップしており、まさに「絵本のごときおもしろさ」を存分に味わわせてくれる。システム面の欠点も改善され、よりストーリーを楽しみ易くなった。
アドベンチャーゲームというよりも、絵と音楽とテキストで読み進める電子紙芝居と捉えて、ゆっくりと楽しむのがよいだろう。


余談

  • 本作のヒロイン、ちゃおは星のカービィシリーズにゲスト出演しており、一部の作品に本作のゲーム画像のパロディが挿入されている。
  • 本作のBGMのいくつかをオーケストラアレンジした「組曲 遊遊記」がリリースされた。
  • ディスクカード自体が衰退期に入って久しい時期の発売ということもあって売上自体振るわなかったが、競合する話題作がなかったことや後述のCMが功を奏したか前編は発売初週に売上ランキング1位を記録した。
    • ディスクソフトが週間売上ランキングの1位を記録したのはこれが最後となった。
    • また後編の発売初週も売上本数自体は任天堂作品の初週とは思えないほど低く同週1位の『ドラゴンボール3 悟空伝』には大差をつけらえれたものの、なんとか2位をキープした。
      だがその翌週は一気に16位までガッツリ転落した。そして、これ以降ディスクソフトが売上ランクに入ってくることはなかったので売上ベスト20にランクインした最後のソフトとなった。
  • 『ふぁみこんむかし話』シリーズはこの作品を最後に完全新作が出ることはなく、一作目の派生作品である『平成 新・鬼ヶ島 前編/後編』がシリーズ最終作となった。
    • 昔話ネタではないものの、この後に同スタッフが開発したADVである『タイムツイスト 歴史のかたすみで…』や、『ファミコン文庫 はじまりの森』をシリーズの流れをくむ作品とみなす向きもある。
      • 実は、シリーズ第3作としてアラビアンナイトを題材にした物語が構想されていたが、「もっと志のあるユニークなものを」という宮本茂氏の進言の元、題材を変更して作られたのが『タイムツイスト』であった。シリーズ通してシナリオを担当していた菱田達也氏がとある個人ファンサイトに寄せたメールインタビューで明らかにしている。
  • 本作は移植・配信などが一切されていないが理由は不明。
    • 本作では、前作で前後編のシナリオを担当した菱田達也氏の他に、テレビドラマやアニメの脚本家として活動していたプロのライターをシナリオに起用していたため「権利関係の問題がある」という噂がある。
    • また、登場人物の一人の容姿をけなすシーンが表現規制に関わっているのではないかと言われていたり、有名な歌謡曲の歌詞を引用している個所もあるのでそこで引っかかっている可能性もある。
  • 1990年2月に双葉社からゲームブックが発売された。
    • 女の子の名前は「ちゃお」ではなく「メロン」となっている。
    • 前作のそれと違って、オリジナルの展開があまり見られないのが少々残念なところではある。
  • 本作のCMは「天竺ツアー」と題し、飛行機やサングラスを着けた白塗り顔(!)の三蔵法師が登場したりと、実に奇抜かつ派手な印象の実写CM。
    • 肝心のゲーム内容がイマイチ伝わってこないが、その派手なヴィジュアルと「お釈迦様にはナイショだよ☆」というファミコンウォーズのCMソングのパロディフレーズを盛り込んだ珍妙なCMソングで多大なインパクトを振りまいた。当時のCMを見た者ならファミコンウォーズと共にこのフレーズが耳に残っている者も多いのではないだろうか。
    • ディスクソフトでCMが制作されたのは『ウルトラマン倶楽部 地球奪還作戦』以来、任天堂作品では『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』以来であり、これを最後に制作されていないため、結果的にディスクソフトのCMとしては平成期で唯一となった。
      • しかし売上としては既にディスクカード自体が訴求力のなかった時代であったこともありソフトの売上本数では同年の任天堂作品『ファミコン探偵倶楽部 PARTII うしろに立つ少女*2にも及ばないほど低かった。
      • 既に任天堂自身も主力ソフトの供給をロムカセットに戻していながらも、ディスクソフトである本作のCMが制作されたのは、同時期にロムカセットの新作ソフトや新ハードと重ならなかったことが大きい。
    • CMの最後にはお馴染みのフレーズ「やればやるほどディスクシステム」も流れた。実はこれが最後に流れたのは前年1月21日発売の『アイスホッケー』まで遡るので実に約2年ぶりとなった。
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最終更新:2024年02月25日 15:57

*1 前作と同じように、プレイヤーが好きな名前をつけることが可能。スタートボタンで一気にデフォルトネームに決定できる裏技も前作同様に仕込まれている。

*2 この作品のCMは制作されなかった。