for elise ~エリーゼのために~

【ふぉー えりーぜ えりーぜのために】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 Windows 95
【DL版】Windows 8.1/10
販売元 ビジュアルアーツ
開発元 CRAFTWORK
発売日 1996年12月6日
定価 7,800円(税別)
レーティング アダルトゲーム
配信 DLsite:2020年12月6日/2,200円
備考 BGMはCD-DA形式
判定 怪作
ポイント 『さよ教』の前身
こちらもプレミアゲー
やはり救いがない
壊れていく主人公
CRAFTWORK作品
for elise ~エリーゼのために~ - flowers ~ココロノハナ~
さよならを教えて ~comment te dire adieu~ - Geminism ~げみにずむ~

概要

さよならを教えて ~comment te dire adieu~』を手がけたCRAFTWORKの処女作。キャッチコピーは『現実と妄想と狂気と‥』

タイトルは、言わずもがなルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの有名曲から。作中でも幾つかのBGMにアレンジされて用いられている。

  • 『さよ教』同様に、パッケージに以下のような奇妙な注意書きが書かれている。
    • このCD-ROMには正義・正論・愛・恋・友情‥‥は入っていません。狂気・妄想・鬱・変・劣情‥‥そんなソフトです。ご了承の上お買い上げくださるようお願い致します。
    • シナリオ担当の小林英茂氏によると、伊集院光氏の「GAMAN everybody」のフレーズのパロディらしい。

特徴

  • システム
    • 少々コマンド風味なアドベンチャーの様相を呈している。
      • 例えば、会社内では「見る」「話す」などのコマンドが表示され、規定回数の選択で課長と会話するなどしてゲームを進行させる。
      • 移動も選択肢によって行う。「移動」→「バス停」→「移動」→「公園」といった具合。
      • 「会話」のみが表示されるなど、一択しかない状況もそれなりにある。
    • プレイヤーが取れる行動が限られているため、総当たりでも進行できる程度の難易度である。
  • ビジュアル
    • CRAFTWORKのゲームで唯一メッセージウィンドウを搭載している。
    • 通常時には立ち絵と背景が表示され、重要な場面では一枚絵が表示される一般的な形式である。
      • 背景は実写加工。後述のシナリオライターのサイトによると「千葉県」で撮影している。
        ヒロインは黒髪の地味目なデザインで統一されているため、背景と立ち絵の違和感は小さめ。
  • ボイスはない。

あらすじ

無能な男がいた。趣味も生き甲斐もなく、無口で暗い、ただ生きているだけの男がいた。そんな男も会社勤めを始め、社会に出るようになり、女友達ができるようになった。
いつも男につらくあたるOL、田舎から出てきたばかりの保母、自分の暗い過去を知る中学の同級生。彼女たちに振り回され、男が最期に辿りつく運命とは‥‥


キャラクター

登場キャラは以下のとおり。これ以外の人物も登場はするが、シナリオに深く関与はしないので割愛。

+ 折り畳み
  • 日置(名称は変更可能)
    • 本作の主人公。『さよ教』同様に、いまいち臆病で自信がなく、精神的に疲れ気味。無能なのも事実で、会社でもいじめられたりけなされたり。
    • 例の如く、彼の行動は狂った物が多い。大体は妄想するだけなのだが、最終日前後にはとうとう‥‥
    • ただまぁ、激しい頭痛の直後に言動が豹変するシーンがある辺り、本人も思考を制御できていないのかもしれない。「ジキルとハイド」の様な状態と言った所か。
  • 八重垣千歳
    • 本作のメインヒロイン。主人公と同じ営業課に所属する入社3年目のOL。お堅いイメージの女性で、他人に対して無関心。主人公は彼女に恋心を抱いている。
    • 主人公に辛く当たる部分はあるが、基本的に真っ当な人。しかし最後には‥‥
  • 神渡真澄
    • 高校3年生。陸上部に所属する元気はつらつな少女。恋人を姉の七笑に取られた事から、主人公に接近する。
    • 下記の姉・七笑に「名刺を渡す」選択肢を選ぶと彼女が登場する。一見するとごく普通の女子高生だが‥‥?
  • 神渡七笑
    • 商店街の歯科クリニックに勤務。他人のことなどどうでもいい、かなり身勝手なタイプ。男遊びの激しさから、妹とのいざこざに発展している。
    • 上記の真澄の姉。割とろくでもない人物。犠牲者の内2人は、ある意味で彼女が原因とも言える。
  • 飛良泉
    • 駅前のデパートのカジュアル服売場の販売員。いつもけだるい顔をして、他人を小馬鹿にしている。中学生の頃、主人公と同じクラスにいた。
    • 七笑に「名刺を渡さない」選択肢を選ぶと彼女が登場する。七笑とはルームシェアの関係であったらしい。やはりろくでもない。
  • 越野華
    • 保育園の保母。大の子供好きで、大学卒業後すぐに保母の道へ入った。園児が投げたボールが主人公の頭に当たった事から、知り合う事になる。
    • 本作最大の被害者。極めてまともな人なのだが、主人公と一度ならず接点を持ってしまった事が悲劇に繋がる。
    • 主人公がおかしくなったきっかけは前述のボールであり、更に園児を捜してくれたお礼に家へ招いたら(自主規制)された‥‥見ようによっては園児に振り回された、と言えなくもない。

ストーリーの特徴(怪作要素)

  • ゲーム内の日付で8日間が描かれる
    • 主人公は営業職のため、朝会社に出勤して昼間は社外で活動する。
    • 能力が低いため会社では怒られることが多い。主人公自身も営業をサボっているなど、非難されるべき点も多い。
    • ひょんなことから多くの女性と関わりを持つが、全体的に下に見られていたりと恋愛方向でもあまりうまくいっていない。
      • そんな調子なので、ゲーム開始時点で精神的に危うい状態である。毎日のようにヒロインからも罵倒され、そのたびに復讐するのだが‥‥
+ 主人公の憂さ晴らしは‥‥

その日にいじめてきた相手への復讐として。

  • ヒロインを(文字通り)ゴミ箱にして、口にゴミを突っ込む
  • ホースで水を大量に入れる
  • 骨をバキバキ折って体を丸めさせる

などとやりたい放題の暴力的な妄想にふける。なお翌日は何事もなかったかのように復讐相手と会話できる。
‥‥しかしこのような手段を繰り返す男はまともではなく、その先に待っているのは、例によって(?)救いのないエンディングである。

  • 1日の終わりには女性の生首が映し出される。1日ごとに目が開いていき、最終日前に完全に開くが、千歳が死んだ直後に目を閉じてスタッフロールに移る。主人公の狂気度合いを示しているのかも?
    • 余談だがこの生首、ファイル名は「elise」である。これが「エリーゼのために」という事だろうか?
+ エンディングについて(ネタバレ注意)
  • 前述の様にルートは2つに分岐するが、いずれにしてもエンディングは一切変わらない。自分が都合の良い存在として扱われていたのを知り、復讐として妄想の内容を実行に移す。
    • そして、謝る為に華を雨の降る中呼び出す‥‥のだが、結局またしても(自主規制)してしまう。そして、千歳のいるアパートへ転がり込む。
    • 招き入れてくれた千歳は別室で服を脱ぎ、下着姿で主人公の前に現れる。何でも、前から憎からず想っていたのだが、俄に女性関係が増えたので嫉妬していたのだという。
    • 恋心を抱いていた主人公は、喜んで彼女を抱く‥‥のだが、最終的に主人公は彼女を殺してしまう。
    • モウ‥
    • サミシクナンカナイ‥
    • イツダッテアナタガイテクレルカラ‥
    • ダカラ‥
    • ――という独白が語られて終わりである。「意味が分からない」という方も多かろうが、実際にこういう流れだから仕方がない。
  • 苦しみをごまかすための妄想が、やがて日常を侵食してくるというありがちな題材ではある。
    • しかし似たような行動を繰り返す移動パートやネガティブな独白の繰り返しにより、プレイヤーまで鬱々しい気持ちにさせられ、エロゲらしい過激な凌辱シーンが狂気具合を加速させている。

評価点

  • 社会人の憂鬱がよく描かれている
    • 華々しさがほとんどなく、ただただ過ぎる日々を無気力に生きていることがよく伝わってくる暗鬱なテキスト。
    • 一概に善人と言える人物は華くらいであり、他の人物は表裏を併せ持ち、主人公に接触してくる。主人公にとって都合のいい人物がおらず、各自が意思を持って生きていることが表現されている。
      • 嫌味な同僚や怒鳴ってくる取引先、味方してくれる部分もあるが厳しい上司など、サブキャラの男性陣も人間味がある。
    • エロゲでも珍しい題材であり、突発的な不幸ではなくじわじわと精神が蝕まれる不条理を味わえる。
  • 長岡建蔵氏の絵
    • 暗めの色調の塗りと合わさり、特に妄想シーンにおいてアングラでインモラルな雰囲気が出ている。
      • 得体の知れないドロドロとした粘質が感じられる床、苦痛に悶える悲痛な表情などがテキストの狂気にマッチしている。
    • 打って変わって、妄想の直後に現れる生首は落ち着いたデザインであり、単体で鎮座しているため、妄想との対比も相まって印象深い。
  • BGMは良曲揃い
    • だが、日常曲っぽいピアノ曲がスタッフロールで、本来の日常曲はダークで狂ったテイストの曲と、どこかずれた使い方。しかも後者はしょっちゅう聞かせられるのがキツイ。
    • おまけにBGMのほとんどはダークな曲で占められており、普通の曲と言えるのは精々1、2曲しかない。確かに展開とは合っているが、何もプレイヤーまで陰鬱にしなくても‥‥

賛否両論点

  • ストーリー
    • 辛い環境にいる主人公の独白が続くため、決して楽しいゲームではない。
    • ひたすらに移動を繰り返すパートが多いこともあり、プレイヤーまで気だるさを覚えてしまう。
      • 世の中の不条理に抵抗できず、ただただ鬱憤を溜めながら日々を過ごす様に同調してしまうとプレイヤーまで鬱になってしまうだろう。
    • 生々しさを感じさせる人間関係ゆえに、モノローグには同情できてしまう部分も多々ある。プレイヤーが主人公を見下して狂った行いを傍観するといった楽しみ方も難しい。
    • 異質なパッケージ故に、愉快なゲームを求めて買う人はいないだろうが、鬱の方向性は人を選ぶ。レビューサイト等でも「現実の辛さは味わえたが、面白いかは別問題」と評されることもある。
  • エロ方面
    • アダルトゲームとしての実用性はやっぱり評価不能。基本的には期待できないものと考えていい。
    • やらしくないのではなく、不整合でもないが、シチュエーションがマニアックすぎるからである。前述のように妄想シーンは尊厳を破壊するような凌辱である。口にゴミを突っ込まれているシーンが使える、という人はあまり多くないだろう。
      • また主人公にせよヒロインにせよ、相応に良い面と悪い面を合わせ持つため、嫌な奴が犯されてスッキリ‥‥とはいかないのである。
    • 一応、普通にエッチなCGもあるのだが、前戯で急に中断してしまったり、主人公がアテ馬にされているなどで素直に受け止めにくいシーンである。

問題点

  • ボリュームは少ない
    • コマンドを選ぶ時間込みでも3時間程度で読み終えられる。
    • 一応2ルートあるものの、道中は共通する場面がそれなりにあり、エンディングも同じなので、大きな差異は感じにくい。
  • システムの不備
    • セーブが1日の終わりにしかできない。
    • バックログ・既読スキップもない。
    • CD-DA対応である為、CDドライブにディスクをセットしておかないとBGMが鳴らない。
      ディスクレスでBGMも聴きたい人は「_inmm.dll」を使うと良いだろう。
      • 中々不便な仕様だが、元々かなり短いゲームなのであまり問題にはならないだろう。
    • 後述するダウンロード版では一部改善されている。

総評

色々な意味で『さよ教』の原典となったであろう作品。「現実の恐怖」とでも言うべき代物を、淡々と(しかし存分に)見せつけてくれる。
ただし、ゲームとしての完成度はあまり高くない。長岡建蔵氏の絵が好きで、3時間でクリアできる程薄くても我慢できる、という方以外にはお勧めしかねるゲームである。

  • ついでにいうと、あちらと違って救いと呼べる様な要素は一切無い。「社会人が主人公」という点からより生々しいのも相まって、げんなりする事請け合い。


ダウンロード版

2020年12月6日にDLsiteで2,200円で配信開始。Windows 8.1/10に対応しており、演出・システムが変更されている。

  • 任意のタイミングでセーブ可能。セーブは100箇所。
  • 当然ながらDL版のため、CDなしでもBGMが鳴る。
  • 「既読文章を早送り」など便利な機能の追加。
  • CG閲覧モードなどは存在しないままであり、2020年基準だと不便な点も多く残っている。

余談

  • やはりというべきなのか、こちらもプレミア化している。Windows 7でもインストーラーを互換モードにすれば普通に動くが、購入に際しては良く考える事をお勧めする。
  • こちらのページでは、小林氏が当時の状況について語っている。氏の言う「バカじゃなかろか」なお値段が今では相場である‥‥
    • 『さよ教』は2016年にDLsiteで販売されたため、細かい表現の違いを気にしなければ安価で遊べるのに対し、本作は長らくDL販売されていなかったのも高騰の理由の一つ。
    • DL版は大本のビジュアルアーツの仕事らしく、製作者達も知らないうちだったらしい。
  • クリエイターズSHOP "艶惨"にて、本作のキーホルダー等のグッズが販売されている。
  • CRAFTWORKの前身はHARD(ハード)。
    • 代表作に『はっちゃけあやよさん』シリーズ、『ようこそシネマハウスへ』など。
    • エロゲーメーカーでは古参の部類で、初期はファミコンの非合法エロソフトを勝手に出したこともあるなど、アングラでカオスな社風を色濃く残していた。
    • HARDが業績不振で解散し、当時のスタッフがビジュアルアーツ傘下で立ち上げたブランドがCRAFTWORKである。この前歴を知っていれば、一筋縄では行かないブランドであることは察しが付いた。なお、HARDは2017年に突如復活している。

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最終更新:2023年03月08日 14:28