チャタンヤラクーシャンク

【ちゃたんやらくーしゃんく】

ジャンル 格闘ゲーム
対応機種 アーケード
発売・開発元 ミッチェル
稼働開始日 1992年12月
プレイ人数 1~2人
判定 なし
ポイント 往年の格闘アクションの発展形
独特の味わいがあるグラフィック
審判が般若面の能楽師風


概要

スポーツ格闘をモチーフにした格闘ゲーム。
当時大流行だった『ストリートファイターII』形式のゲームとは一味違うものとなっている。

タイトルの「チャタンヤラクーシャンク」は琉球空手の型(演武)の一つで、最高難度で最強の型の一つとされている物。漢字にすると「“北谷屋良公相君”」。
ただし言葉の響きだけで選ばれたものらしく、空手が題材という以外にゲーム内容とはリンクしていない(海外版では副題の"THE KARATE TOURNAMENT"がメインタイトルとして使用されている。)。
ちなみに本作の企画は、AC版『ストライダー飛竜』で知られる四井浩一氏が担当しているが、実は四井氏自身も琉球古武術の流れを組む糸東流の黒帯持ちでかつ審判の資格も持っている武道経験者である。

システム

  • 通常の格闘ゲームと異なり、キャラクターの個性がない。主人公は1P側は白、2P側は黒の道着を着た空手家である*1
    • CPUも同じ性能の空手家だが、プレイヤーと違い防具を付けており、道着も色とりどり。
  • 難易度を「白帯」「茶帯」「黒帯」から選択可能。順に難易度が上がっていく。
    • 白帯選択時のみゲーム開始前に操作説明画面(全て英語表記)が表示される。
    • 白帯・茶帯を選択した場合でも、後半になると上位の帯を締めたCPUが出てくる。ステージ最後の相手は黒帯で固定。
    • プレイヤー同士の対戦でも乱入時に帯の色を選択するが、あくまで一人プレイと同様の難易度選択であり、帯の色による性能差やハンデなどは存在しない。
  • スコアシステムはシンプル。技を当てた時にしか入らない。
    • 勝利時などのボーナス点は一切存在しない。
  • ライフは数値制を採用。キャラクターには6マスのライフが設定されている。
    • プレイヤーはライフ残機制。1ステージにつき2~3人のCPUとの連戦という形式で、全て勝ち抜くとステージクリアとなる。残機は2つで、スコアに応じたエクステンド(残機増加)は存在しない。
      • 全ステージ合計16人の相手を撃破するとエンディングとなる*2
    • 対戦プレイではお互いに残機1の状態で試合が行われ、実質2ラウンド先取制となっている(画面上にも試合開始時にラウンド表示がなされる)。
      • 乱入側が勝利した場合、選んだ帯の色が被乱入側と違うならばその難易度の最初の相手から一人プレイが始まるが、帯の色が同じならば被乱入側の撃破人数を引き継いでプレイできる。
    • 試合時間も設定されており、時間切れでライフ数での判定となる。CPUとライフが同値で時間切れとなった場合は、CPUの勝ちとなる。
      • 対戦プレイで引き分けになった場合はお互いに残機は減らないが、ラウンド4までで決着がつかなければ両者強制ゲームオーバーとなる。
  • レバーで移動、Aボタンで攻撃、Bボタンでジャンプなどの特殊移動、A+Bボタン同時押しで大技(二段攻撃)を繰り出す。
    • ジャンプは一般的な格闘ゲームとは異なり常人の範疇の高さ(膝の高さくらい)しか跳ぶことが出来ない。使い道も下段攻撃の回避や飛び蹴り(判定は上段)程度。
      • 大技の中には通常ジャンプよりも高く舞い上がって飛び蹴りを放つものもある。なお、いずれの場合も相手を飛び越える(配置の左右を入れ替える)ことはできない。
    • レバーを前か斜め前下に入れながらBボタンを押すと前方にステップして踏み込む(攻撃判定は無く、レバー方向で前進距離が変わる)。レバーを後ろに入れながらBボタンを押すとバク転(動作中の大半が無敵)をして距離を取る。
  • レバー位置に応じて9通りに構えが変わり、攻撃方法も変化する。
    • レバー前後で遠・中・近の構えを、レバー上下で上・中・下の構えを取る。常に前者と後者を一つずつを組み合わせた構えとなるため9通り。
    • 遠の構えではリーチが長いが攻撃が当たるのが遅いため見切られやすい。逆に近の構えでは攻撃が当たるのが早く見切りにくいがリーチは短い。中はその中間。
    • 攻撃には上段・中段・下段の属性があり、例えば上の構えで出す攻撃は上段攻撃で、また上の構えを取っている間は上段攻撃をガードすることができる。
    • 上段・中段・下段は「上段>中段>下段>上段」の3すくみになっている。
  • ガードは上中下の3種のみだが、本作の特徴的な要素として、Bボタンでの特殊移動時の大半と、攻撃モーションの一部を除いたほとんどの状況で、レバー方向に応じたガードをしている状態となっている。つまりは前に歩いている時でもガード、自分が攻撃をしている最中でもガード、あまつさえ攻撃モーションとは違う高さのガードを仕込むことさえ可能。
  • こちらの攻撃を相手に当てると「技あり」と判定され、ライフを1奪う事ができる。
    • 本作の特徴として、特定の条件で攻撃を決めると相手が強制的にダウン→審判の「やめ」の指示がかかり、お互いに初期位置に移動→審判の判定によりダウンした側のライフが減らされたうえで仕切り直し、というシステムが存在する。
      • 大技を二段ともヒットさせるか、小技同士(もしくは大技二段目と小技)の二連コンボを当ててダウンさせると、二発目の攻撃が「一本」と見なされライフを2奪える。一発目は通常の技あり判定なので、大技やコンボが決まれば合計3ライフ(全ライフの半分)を一気に奪えてしまう。
      • 対空ヒット時やカウンターを当てた場合も相手はダウンするが、このときは技あり判定で仕切り直しとなる。
      • 一本・技あり問わず最後の攻撃で相手のライフを全て奪った場合にもダウンが発生し、相手はそのまま起き上がらず試合終了(勝利)となる。
    • 1Pと2Pの攻撃が同時にヒットすると「相討ち・技あり」(両者ともに1ライフ減る場合とノーダメージの場合がある)、あるいは相打ちとならず片側が一方的に打ち勝つ。
      • お互いに残りライフが1で相討ちが発生すると両者ダウンするが、技ありは認められずライフを残したまま試合続行となる(所謂ダブルKOが発生しない)。
    • 通常の格闘ゲームでは攻撃をする際は隙が発生するが、本作では攻撃中にも同時にガードが機能していることと、上中下の技相性が非常に強烈なことも相まって、相手の硬直時間の隙を突くことに留まらない独特な駆け引きが要求される。
  • 画面端の枠線の外側に移動すると、ダウン発生時と同様試合が中断され初期位置に戻り、外側に出たプレイヤーに「場外・警告」が与えられたうえで仕切り直しとなる。警告を受けた状態で再び場外に出ると、相手に技ありが与えられる形でライフが1没収される。
    • 逆手に取ればライフ消費0~1で仕切り直しに持ち込めるということでもあるため、防戦一方の状況を脱する・画面端付近で相手の大技を回避する等で敢えて場外に出るのも有効な選択肢となる。

評価点

  • 他の格闘ゲームにはない独特の操作感、攻略方法は本作のウリである。
    • キャラクターの個性をなくす事でゲームバランスを整えている。
      • 一見すると単なる退化要素にも思えるが、対等の条件であるからこそプレイヤー各々の戦法やクセがストレートに反映されやすくなっており、同じキャラなのに実に多種多様なスタイルとなって表れる。AIにも同様に個性があり、好みとする構えや攻撃が異なったり、超反応の有無が異なっていたりする。
    • レバー+ボタン2つというシンプルな操作体系で複雑なコマンド入力も必要なく、頻繁に仕切り直しを挟むことで一方的な展開も生まれにくいなど格ゲー初心者にも優しい設計。システムさえ理解してしまえば上級者と初心者の差が少ないのも特徴である。
    • 慣れてくれば「上段判定のジャンプ攻撃と単なるジャンプ→着地後の中段or下段攻撃を織り交ぜて使用する」「レバーを一回転させ、上段・遠の大技の両腕を回す予備動作と錯覚させる」といった本作特有の駆け引きも味わえる。
  • 背景やBGMは美しく、キャラクターのモーションも大変滑らかに自然な動きを見せる。
    • 背景は大変緻密に描き込まれており、幻想的な風景を生み出している。
    • 絵には輪郭線が無く、独特の質感がある。ドット絵でブラー(残像)を表現しているなど技術力も高い。
      • リアル志向のためキャラの描写自体は地味だが、ダウン時の吹き飛び方が食らった攻撃ごとに違っており、それぞれ躍動感あるものになっているなど見どころもある。
    • 性能は同じではあるものの、プレイヤーキャラとCPUキャラの描写もちゃんと差別化されている。比較的礼儀正しく振る舞うプレイヤーキャラに対し、CPUキャラは試合前後の一礼が微妙に浅く、プレイヤーを倒した直後に残心*3を行わず勝手なポーズをとるなど、リアクションの節々で舐めた態度を見せる。
      • ゲームオーバーになると笑い声とともにメンホーを取り、親指を下げてくるのがなんとも憎たらしい。ちなみにメンホーの下の素顔も相手によって違うという無駄な徹底ぶり。

おバカな点

  • 審判は何故か般若の面を被り扇子を手にした能楽師の姿をしている*4。それでいて変に自己主張するような言動は見せず、毅然として審判の役割を全うしているのだから余計にシュールである。
    • ちなみに彼のグラフィックは、この時期のキャラクターの描画としては珍しく完全に左右非対称になっており、移動時に衣装の模様や扇子を持つ手が反転することはない。このせいで、2P(白)側に判定を下す際の扇子を左手に持ち替える仕草がどうにもぎこちなく感じられるが……。*5
  • 背景グラフィックも海辺や夜桜などならまだ分かるのだが、沈没した軍艦付近やら未来都市らしい機械的な街並みやら珍妙なものがやはり目立つ。
    • 山頂や溶岩の沼(?)など、3人とも誤って転落してしまわないか心配になる背景もある。
  • 上述した9種類の構えは「頭上に前側の手を掲げる」「低い姿勢で刀に手をかけるかのような構えをとる」など様々であり、レバー入力一つで機敏に切り替わる。すなわち、レバガチャを行うだけで非常に怪しい動きが出来上がってしまう
    • CPUの中にはこの怪しい動きを基本動作とする者もいる。プレイヤーによっては別の意味で強敵になるだろう。
  • 画面遷移時に必ず爆発エフェクトが入る、ステージクリア時のリザルト画面では「プレイヤーキャラと審判が爆炎の中を車輪付きの舟で渡る」という謎の演出が流れる、対戦プレイ開始時に乱入側のプレイヤーキャラがふんどし一丁道着(帯の色)を選ぶなど、全体的にセンスがおかしい。

賛否両論点

  • 「格闘ゲーム」というジャンルから見た立ち位置の曖昧さ。
    • 本作発売当時に流行していた対戦型格闘ゲームとは作風が大きく異なり、どちらかと言えば一大ジャンルとして確立していなかった時代の格闘アクションゲームに共通点を見出せる、収斂進化のゲームである。
      • 例えばシンプル操作で多彩な攻撃を繰り出せる点は『イー・アル・カンフー』、お互いに同キャラかつ攻撃の強弱・上下のガードの読み合いに重点を置いた点は『アーバンチャンピオン』、空手の競技としての側面を取り入れた点は『カラテカ』や『空手道(データイースト)』に通ずるものがある。
    • しかしそれ故に、元々ユーザーを選別してしまいがちな格闘ゲームというジャンルにあって、さらに格闘ゲームファンからしても他とは勝手が違うという、どちらの層から見てもとっつきにくい印象を与えてしまっていた。
      • また、わけの解らないタイトルのせいで、そもそも格闘ゲームだと思う人も少なかったという。
      • もっとも、これに関してはあくまでプレイヤーの受け取り方に依存する面が強く、上述した通りゲーム性そのものは格ゲー初心者にもとっつきやすい作りになっている。

問題点

  • 見た目がひたすら地味。
    • キャラクターも実質1人しかおらず、必殺技や飛び道具といった派手なアクションもない。超人的な動作も下段・中の大技(両足の旋風脚)くらい。
  • 残機表示がやや分かりにくい。
    • ライフゲージ隣に小さく「×数字」と書かれているのみであり、試合に敗れ残機が減った際の表示などもない。
    • そもそもこの時代の格ゲーで残機制を導入していること自体異例であり、初見ではインストカードがなければ残機制であることすら気づかないかもしれない。
  • BGMが少ない。
    • 序盤の相手との対戦時はステージ毎の環境音。ステージ最後の相手との試合や対戦プレイでは専用BGMがあるものの、やや重苦しく地味な曲調となっているうえ、こちらは全ステージで共通。
      • ただ、いずれの場合も程よい臨場感や緊張感は伝わってくる。また、後者のBGMは試合状況に応じて細かく変化するという手の込んだ演出がある。

総評

当時は本作に限らず、多くの格闘スポーツゲームが作られているが、本作はそれらの集大成的な存在である。
キャラクターは一人しかいないものの、9種類の構えを切り替えてプレイヤーごとの個性を引き出し、対戦ゲームとしての存在価値を維持している。
地味ではあるが、バランスも整った、そつなくまとまった作品である。


余談

  • 当時から基板の出回りが悪く、移植もされていないため、現在はプレイ困難。
  • ゲーム内容の知名度も当時から現在でもお世辞にもよろしくはなく、とくにネットの無い時代では本作の情報を得ることが難しかった。そのため基板ゲーマー達には「中古基板店の在庫リストにたまに載る奇妙なタイトルの謎のゲーム」として名前だけは知られてはいたが、シャレで買ってみるには当時でも安い部類ではなく、興味はあっても買わなかった人や、入荷させてみようとすら思わなかったゲーセンも多かったであろう。
  • 開発したミッチェルも当時『Super Pang』等である程度は知られている会社だったが、どちらかと言えば「知る人ぞ知る」レベルの知名度だった故、「濃ゆい人が集まる有名なゲーセン」クラスの店舗ぐらいでしか入荷されなかった。
  • これほどまでに独創的な作風にもかかわらず、四井氏は「(『ストリートファイターII』への)完全な市場迎合」という厳しい自己評価を下していた。
  • ステージの背景に同社の『キャノンダンサー』に登場する宗教テロリストである「スレイヴァー」の御本尊らしきものや、『ノスタルジア1907』に登場するノスタルジア号が転覆したようなものが描かれていたりと世界観的に共通してる部分があるのではないかと目されているが、これについては言及されていないため実際のところは不明。
  • 本作で異様な存在感を放っている般若な審判だが、プレイヤーの中には「彼がラスボスなのではないか?」と思っていた人も少なからずいたようだ。
  • 2020東京オリンピックで空手が正式種目に採用され、攻撃技と防御技を演武する「形」部門で日本の清水希容選手が本作と同名の演武を披露し、見事銀メダルを獲得した。その影響で「チャタンヤラクーサンクー」*6がトレンド入りし、更に当ページも閲覧数が急に増える事態が起こった。
    ゲーム発売から29年目にして起こったある意味奇跡の瞬間である。
    • このことで『チャタンヤラクーシャンク』のタイトルの由来がようやく理解できたという当時プレイした人からのツイートも見られた。
    • また、2021年の流行語大賞にもこの「チャタンヤラクーサンクー」がノミネートされたが、残念ながら入賞は果たせなかった。
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  • 1992年

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最終更新:2023年05月05日 16:51

*1 判定の際は1P側は「赤」、2P側は「白」と呼ばれる。

*2 リザルト画面では白帯なら茶帯、茶帯なら黒帯に昇級(昇段)したというメッセージが表示される。

*3 倒れた相手の不意の反撃に備える仕草。プレイヤーキャラはダウンを奪うたびに行っている。

*4 審判の声はグラフィックを担当している転清氏が当てている

*5 2P側に場外を宣告するときのみ扇子が瞬時に左手に移る。

*6 『クーサンクー』でも『クーシャンク』でも意味は同じ