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*リンダキューブ アゲイン 【りんだきゅーぶあげいん】 |ジャンル|サイコスリラー&ハンティングRPG|&amazon(B000069SPZ)| |対応機種|プレイステーション|~| |発売元|ソニー・コンピュータエンタテインメント|~| |開発元|アルファ・システム&br()MARS|~| |発売日|1997年9月25日|~| |定価|5,800円(税別)|~| |備考|【PCE】リンダキューブ:1995年10月13日/7,800円(税別)&br()【SS】リンダキューブ 完全版:1998年6月18日/6,800円(税別)|~| |配信|ゲームアーカイブス:2007年9月27日/600円(税5%込)((本来は約1年前に配信されていたが、権利関係により配信はごくわずかで一旦終了し、権利が整理された後に再配信されたという経緯がある。))|~| |判定|BGCOLOR(lightgreen):''良作''|~| ---- #contents(fromhere) ---- **概要 PCエンジンの名作『[[天外魔境 ZIRIA]]』『[[天外魔境II 卍MARU]]』で不気味かつ骨太なシナリオを描いた桝田省治と、後に『[[ガンパレード・マーチ>高機動幻想 ガンパレード・マーチ]]』で一躍有名になるアルファ・システムが手掛けたRPG。 桝田氏曰く''「天外IIでは3年間も「こてこての王道」なシナリオを作り続けてストレスが溜まり、クリエイターとしての血が疼いて作った(意訳)」''作品であり、その言葉に違わずみょうちくりん、しかしそれでいて独特の中毒性がある作品として、『Linda3((この「3」は正確には乗数))』は当時既に冷え切っていたPCエンジン市場にその名を刻むこととなった。~ 氏曰く本作のテーマは「種の保存」。 プレイステーション版リメイクの『リンダキューブアゲイン』は、ゲーム性、シナリオ両面でバランスが修正されており、販売状況や入手環境といった要因からリメイク元よりも有名になってしまった感がある。~ そのため、本記事はそちらの方をメインとして解説していく。~ //「はこぶね」のふねの表記は、PS・SS版「船」、PCE版「舟」で記述が異なるが、本記事ではPS版準拠の「船」で統一とする。  ---- **ストーリー 宇宙航行技術が高度に発達した遥かな未来、アフター・マザーズ・デス(AMD)1991年。~ 地球によく似た環境を持つ惑星「ネオケニア」への人類移住計画が開始されてから、およそ一世紀が経とうとしていたころ。~ ネオケニアは8年後に「死神」と呼称される巨大隕石が激突し滅亡することが確実視され、ネオケニアのレンジャー隊は日々住民の脱出作業に追われていた。~ そんな混乱の最中に突如として、未知のテクノロジーで造られた「箱船」と呼ばれる謎の宇宙船が、「神」のお告げの石板と共にネオケニアの地表に現れた。~ 「告知 箱船ノ乗員求ム 男女各一名 動物集メニ自信ノアル者ニ限ル 神様ヨリ」 箱船の行先など分からない。&ruby(クルー){乗組員}になったとしても命の保証なども全くない。~ だが、あろうことか星間連邦はこの与太話にGOサインを出し、連邦公認で箱船の&ruby(クルー){乗組員}の公募を開始。~ 「この船に乗り込む男女一組の乗組員を募集! そして出来るだけ多くの雄雌1つがいの動物たちを集めよ! タイムリミットは8年!」 駆け出しのレンジャー隊員である主人公「ケン・チャレンジャー」は、父親のように勇敢な男になるという志と、~ 一足先に女性乗組員に志願していた、見かけはかわいいが乱暴で毒舌な幼馴染「リンダ」たっての願いという後押しを得て、遂に男性乗組員に志願したのであった。~ かくしてケンの男磨きを兼ねた、動物捕獲のためにネオケニア全土を駆け巡る奮闘の日々が始まった。~ ネオケニアと共に滅びさる動物達を救うため、そしてリンダを守り愛するに相応しい男へと成長するために……。 ---- **特徴 上記のような経緯で企画が立ち上げられたゲームだけあり、設定、システム、ストーリーと全てにおいて一般的なRPGとは一線を画している。~ 説明書や公式サイトでもくどいほど「王道RPGとの違い」が強調されている((説明書にはわざわざそれを強調する漫画まで掲載されている。))。 -世界の終わりが明確に決められている。 --極端に言えば、何もしなくても8年が経過し、1999年に隕石が落ちてきてネオケニアは滅亡する。 --日数が進むと他の人間は惑星を脱出してしまい、街中には人がいなくなり各種施設も利用できなくなっていく。なんともリアル。 -タイムリミットまでに動物を集めることがゲームの目的 --動物を一定数捕獲して箱船に登録する。ゲームクリアの条件はこれだけである。そしてそのためにはどんな手順を踏んでもいいし、動物集めさえ達成できるなら、それ以外にどこに行って何をしてもいい。 ---RPGとしては最初から行動可能範囲が広大で、色々な場所に行ける。フィールド上の任意の地点へひとっ飛びに転送してもらうシステムも最初から利用可能。ストーリー上の束縛も緩く、自由度が高い。 --ケンは妙に不気味な世界中の動物を出来るだけ集めるのだが、動物はゲームクリアの条件というストーリー上の役割だけではなく、システム的にも様々な点で動物が密接に絡んでおり、動物集めがゲームの核になっている。 --「動物」とは言うが、多くの動物は、戦うことになるモンスターでもある。戦闘で動物を捕獲すればEXPなどを獲得し、キャラのレベルを上げて強化することができる。 --また動物は箱船に登録するだけでなく、動物を換金したり、加工して肉や装備品にしたり、乗り物にしたり((乗り物としての動物は、特定の店で一時的に借りる形式のみ。手持ちの動物を乗り物にするといったシステムではない))、パーティメンバーの一員にしたり、動物の能力を取り込んでステータスを強化したり獣人などの特殊能力を覚えたりと、色々なことに利用できる。 --基本的な動物の捕獲方法は、戦闘でダメージを与えてHPを減らすだけ。HPが少なくなって弱った動物は降参して、自動的に捕獲できる。ただしその動物のHPの最大値を大きく上回るダメージを与えてしまうと、身体がバラバラになってしまい捕獲できず、経験値なども得られない。 ---そのためこちらが強くなりすぎると動物を捕まえにくくなるのだが、かといってこちらが弱いと強力な動物を捕まえるのが困難。タイムリミットもあるので、ただ戦闘を繰り返してレベルを上げて敵をガンガン倒すだけでいいというものではなく、今の戦力に見合った動物はどこにいるのか、今の戦力でどうすれば捕まえられるかなど、戦力のバランスも考える必要がある((特技のダメージは半固定なので、後半になって捕獲し忘れた弱い動物がいたとしても捕獲できないということはない))。 -本作はA・B・Cの3つのシナリオが存在する。 --A「メリークリスマス」、B「ハッピーチャイルド」、C「アストロアーク」の3つ。 --各シナリオは世界設定が多少異なるパラレルワールドのような関係にあり、それぞれストーリー内容、箱船への動物登録数のノルマ、行ける場所などが違う。 ---シナリオAとBは練習用シナリオとしての側面もあり、動物登録のノルマが少なく捕獲できる動物の種類が少ない、A・B双方の舞台となるエリアが互いに出入りできないようになるなどの制限がある。また、定期的にストーリー進行のイベントが発生し動物集めが補助的な役割になっている、ストーリー上のラスボスが存在するなど、一般的なRPG同様、シナリオ中心の展開となっている。どちらのシナリオも猟奇的な表現やエピソードが目立ち、この点でも普通のRPGとは一線を画している。 ---シナリオCは全エリアに侵入可能、全種類の動物が捕獲可能、と、最も自由度が高く、ゲームの醍醐味である動物集めを存分に味わえる。シナリオ面では本作の世界や動物集めをさせられる理由など、ゲーム設定の根幹部分に関わる真相に迫っていくが、A・Bのようなドラマチックなイベントシーンなどはほぼ無く、ゲーム進行におけるストーリー的な縛りはA・Bよりも薄い。このシナリオでしか見れない各登場人物達のエピソードもあるが、いずれもA・Bとはかなり毛色の違う内容になっている。またシナリオ上、制限時間が他のシナリオよりも1年短い。 --どのシナリオをプレイするかは好きに選べるが、シナリオC開始前には''『AB両方クリアしてからCをプレイしましょう』''というお告げが来る。ここは素直に従ったほうが無難。 -ちなみに一つのセーブデータにつき一つのシナリオしか選べないため、能力や捕獲動物などといったステータスを他のシナリオにまたぐことはできない。 --PS版以降では条件を満たすことでシナリオD:「ラストイヤー」が出現する。 ---残り猶予1年で100種類以上の動物を集めるという、タイムトライアル的な特殊なシナリオ。最初から全ての特殊能力が使えるなどの利点もあり、早いペースで動物を沢山集めやすい。 ---ちなみに1年しか無い理由は、ケンとリンダがそれまでの7年間を''いちゃついて過ごし、動物集めを全くやらなかった''という、夏休みの最終日に慌てて宿題をやるのと同レベルの理由の為。 ---- **評価点 -動物集めの楽しさと自由度の高さ --確かに捕獲をしないとクリアできないし、それ自体も面白い。しかし動物を捕獲することで、収集のみでなく冒険や育成の楽しさを同時に味わえる作りになっている。 --大抵の動物はフィールドやダンジョンにいるが、入手が難しい動物もいる。ボスのように奥に陣取るのはまだ良い方で、年数が経つと絶滅したり特定の状況や状態じゃないと出遭えない動物もいる。コンプリートは一筋縄ではいかない。 --無一文にならないと出現しない、タイムリミットギリギリになってやっと捕獲可能、と言ったご無体な動物も。ノーヒントでのコンプリートは正に至難の業である。 --捕獲手段も戦闘で倒す以外に、マップ上に罠を仕掛ける、動物商から買う、ハンターに依頼する、卵から孵化させたり等と様々な方法がある。 --捕まえた動物の使い道も、各種類を雌雄一匹ずつ登録すれば、あとはプレイヤーの思うまま。食料や装備に加工するも良し、売るも良し、戦闘で嗾けるも良し、調教して仲間に加えるも良し。 --このようにプレイヤーの試行錯誤の余地が満遍なくちりばめられており、戦略性は極めて高い。コンプリートしたとしても、タイムトライアルであるシナリオDの存在があり、熟練プレイヤーにも更なる挑戦の場が与えられる。 --RPGとしては最初から行動可能範囲が広く、いつどこに行って、どんな手順で動物を集めるかはプレイヤー次第であり、非常に自由度が高い。そのため、現在で言うところのオープンワールド的なRPGとも評される。 ---ストーリー重視とされるシナリオA・Bですら、ストーリーを進めて問題を解決しないと箱船を起動できない期間こそあれど、条件さえ整ったらストーリー進行を放棄して動物を集め終えてゲームクリアしてしまうことも可能。~ ただし、真エンディングを見るにはストーリーを最後まで進めることが条件となる。 -とことん王道を逸脱したシナリオ --本作の舞台となる世界を襲うものは、RPGに付き物の魔王や侵略者といった勧善懲悪的な存在ではなく、&bold(){大自然の驚異そのもの}。~ ゆえに、プレイヤーはどうあがいてもネオケニアを救えない。かろうじて救えるものはリンダと奇抜な動物たちのみである。~ 更に、本来恨まれる筋合いなどないはずのケンやリンダに、様々な陰謀や試練、人の狂気が立ちはだかり、容赦なく襲いかかってくる。 --本作では原作でのビジュアルシーンがフルアニメーションによってリメイクされており、生理的・心理的にドギツイ展開がより一層の生々しさと共に繰り広げられていくことになる。 --しかしプレイすると「生物、ひいては人間の内面と外見のギャップを受け入れ愛することの大切さ」「不器用な生き様にならざるを得ない人間の悲哀や哀愁」そういったものを感じさせる内容となっており、ただ狂気的なだけではなくどこか惹きつけられる魅力を持っている。 --シナリオA・Bのラスボスは心理的に来るどこか気の触れた人間が相手となり、主人公やヒロインを戦闘以外の面でも追い詰めようとする。 ---ただその末路や経緯が「不器用な人間の悲哀」を感じさせる存在ともとれ、本作のテーマ「人間や生物といった外見と内面のギャップや矛盾」をも感じられる。 --シナリオ毎にエンディングテーマが違うのだが、その歌詞がAは幼い我が子に、Bは愛する女性に、Cが成長して旅立つ息子に向けたものになっているのも、作中のテーマと照らし合わせると感慨深い。 #region(シナリオAB詳細(ネタバレ注意)) -シナリオA「メリークリスマス」 --主人公ケンと同じ声と顔を持つ生き別れの双子の弟「ネク」が現れ、幸せに暮らすケンへの復讐のため暗躍する。 --このネクは生い立ちが非常にえげつない設定で、孤児となって製薬会社の女社長に拾われた後はろくに愛情も注がれず、学校にも通わせてもらえないばかりか、''薬漬けにされたあげく、ある薬の原料となる原住民の死体を調達させられていた''というもの。主人公と同じ顔をした男が不気味なマスクをつけ、サンタクロースの格好で猟奇殺人を行っていく姿は強烈。中でも「死体は捜すより作る方が簡単なのサ」という台詞は多くのプレイヤーに強い印象を残した。 ---物語の後半では事件の発端となった製薬会社に乗り込むのだが、地下室に多くの人間が拉致され、''大量の死体が浮かんだカプセルが研究室内に陳列されている''という異常な光景を目撃することになる。 ---ちなみに主人公の実の父親はある村の村長だったが、一夜にして村民全員を惨殺したという疑いで精神病院の隔離地下施設に隔離されている。その上、ネクにその事実を告げられて対面を果たした直後にネクの手によって惨殺されてしまう。その上、惨殺事件の真実に関してはシナリオ内では一切触れられることがない。 --ラスボスはヒロイン・リンダの父親「ヒューム」。精神が崩壊しているのか言動が狂気じみている。 ---特筆すべきはその身体の設定。何と''リンダの母親「アン」が上半身に埋め込まれている。''しかもそれが明らかとなった直後に自ら殺してしまう(それも自覚ゼロで、直後に逆上して主人公達に襲い掛かってくる)。「愛し合う二人はいつも一緒」という台詞と野営時の特殊台詞もあってゾッとさせる事実である。 ---シナリオAでは過去に筋肉増強剤が流行し、肉体と精神をも蝕むようになっても服用を続ける人間が絶えなかったという設定がある。ヒュームもそれが原因と思わせるような描写がされているが、ゲーム中でのあるキャラの台詞によれば薬物反応は見られなかったという事実が知らされる。結局、真相は解らずじまい。 ---ちなみにヒュームは娘のリンダがあまりに自分と似ていない((リンダの母親のアンは、ネオケニアの移住民に対して常に顕性(優勢)な遺伝子を持つ先住民ビースチャンの血を引いているため、リンダは遺伝的特徴を100%母親から受け継いでいるという設定がある。))ため本当に自分の子供なのか疑心暗鬼になり、妻へのDVの末に離婚、リンダの養育費を稼ぐために件の筋肉増強剤を使用し無理な仕事をしていたという設定がある。 ---なお、シナリオBではヒュームは妻と和解し、再びよりを戻し幸せな生活を送ることになる。・・・と思った矢先、シナリオ開始直後に何者かに(街の大多数の人間たちと共に)惨殺された挙句、妻と共にゾンビに作りかえられて襲い掛かってくる。彼らが(シナリオBで)何をした。 -シナリオB「ハッピーチャイルド」 --ラスボスはサブヒロイン「サチコ」の父親「エモリ教授」。 ---娘のサチコが自殺した原因を作った人間に復讐するため、戦闘用人造人間を操り大量殺人事件を引き起こしていた。自らのエゴに走るあまり、多くの無関係の人物を巻き込むほど狂気に走っており、殺しの対象がいるというだけで、街の住人を皆殺しにした挙句にゾンビ化(前述の通りリンダの両親も犠牲になった)させたりシャトルを爆発させたりと、やりたい放題の暴走ぶりを見せる。その一方で大げさかつ空々しい口ぶりで善人として振舞い、ケンとリンダを欺き続ける。 ---娘を深く愛する父親であったものの、自らの娘のクローンをサイボーグ兵器に改造して復讐の道具として利用したり、娘を箱船のパートナーにするためにケンの心を奪おうとした際に''「理論上はね、子供だって作れるはずなんだよ…試してみようよォ!」「ンン~ン生娘の匂いだァ!!」''などとのたまいながら娘のクローンの股ぐらに頭を突っ込むなど、完全に常軌を逸した言動を繰り返す。~ このシーンでエモリが連呼する''「サチコでどうだ?!」''は彼の%%変態ぶり%%狂気性を象徴するフレーズとして特に有名。声優の青野武の熱演も相まって非常に印象深い。 ---挙句の果てには「逆恨みの何が悪い!」と開き直る始末。なまじ一途で努力家である分、却ってタチが悪い。そしてその後、大量の筋肉増強剤を浴びるように飲み下し、化け物と化して襲い掛かってくる。 -この二つのラスボスの共通点は「娘の事を思うあまり狂気に走ってしまった」事と言える。~ そしてこの設定とドぎつい外見を活かすように、''この2人のみ戦闘中にアニメーションする''。『天外魔境II』のような演出だが、その強烈さは段違いである。 -なお、シナリオABについてはゲームシステムのチュートリアル的側面もある関係で、シナリオAではシナリオBの、シナリオBではシナリオAでメインとなるエリアに侵入できないのだが、それぞれそのゲーム内での理由がAシナリオでは''ある指名手配犯一人(おそらくエモリ教授)の抹殺の為に核ミサイルが投下されたため立ち入り禁止''、Bシナリオでは''グリーン製薬のタンクからあらゆる生命を生きながらにして腐食させる未知の細菌が漏れ出し全域が汚染されたため立ち入り禁止''という理由付けになっている。 --そのため、シナリオAではエモリ教授が、シナリオBではネクが存在が仄めかされる程度で直接には未登場となっている。 ---サチコはシナリオAでも登場するが、本筋にあまり絡まないサブキャラとして登場する。 #endregion -バカゲーとしての側面 --シビアなだけではない、笑える要素も少なくなく、単なる鬱ゲーに留まらない作りにもなっている。 ---序盤のアニメシーンは全体的にコメディ調でプレイヤーを笑わせに来る。それだけに以降の展開とのギャップも凄いのだが…。 ---シナリオABでもストーリー中にお笑い要素はあり、ケンとリンダのバカップルぶりなどは暗いストーリーの清涼剤的役割も果たしている。 ---街の人々の台詞や壁のラクガキ、「YES」のみしかない(比喩表現ではなく本当に「YES」のみ)選択肢など笑い所がチラホラある。 ---猟犬を治療する際の獣医の台詞や解体屋の台詞など施設の店主の台詞が妙に生々しいが、慣れてくるとおかしさも感じてくる。 --特にシナリオC「アストロアーク」が他のシナリオのセルフパロディに走っている。シナリオ選択画面の「シナリオCを''大笑いしながら遊ぶ''ためにABを先にクリアしよう」のお告げは伊達ではない。 #region(シナリオC詳細(ネタバレ)) -シナリオスタート直後に主人公が''バナナの皮で滑って転んで1年間昏睡する羽目になる''。 --しかも脊髄損傷、頭蓋骨陥没とかなりの重症で大量の輸血まで必要としていた。どう転んだらそこまでの重症に…。 --ちなみにゲーム中でもしっかり1年経過している。 -シナリオAで主人公たちを苦しめたネクが初っ端から登場。しかも打って変わってコミカルな好人物となり、ケンと仲の良い弟として描かれる。 --サチコはシナリオABでは接触する事の無かったネクと結ばれ、ケンとリンダも顔負けのバカップルぶりを見せつけてくれる。 --他にもあるキャラが他のシナリオと全く違う運命を辿っていたり、他のシナリオで使われていた台詞が意外な場面で使われていたりと思わずニヤリと来る場面を多く見かける。 ---シナリオAでのケンの台詞「違う!リンダじゃないんだ!」や、エモリ教授の逆恨みについての発言などは元のシーンを知った上で見ると爆笑ものだろう。 ---シナリオABのラスボス同士が「娘が父親の手を離れ嫁に行ってしまうという悲しみ」に共感しあって共に去って行くシーンは特に印象的だろう。2人とも「娘の事を思うあまり狂気に走ってしまった」だけあって。 --解釈によっては登場人物の多くが幸せに暮らせた世界。と、言えなくもない。シナリオABの展開を知った上で見ると尚更であり、キャラへの感情移入度が強い人は笑いながら嬉し涙すら出るかもしれない。 #endregion -物語の根底には巧妙で壮大なSF設定があり、SFものとしての面白味もある。 #region(ネタばれ注意) -各シナリオはおおむね共通のエンディングとなっている。箱船に乗ったケンとリンダは遥か未来へと時間を飛び、かつての巨大隕石衝突から長い時間を掛けて再生した、水と緑の豊かな惑星に降り立ち、動物達と共に再び生命を繁栄させていく。 --隕石衝突によって削り取られた地殻同士が衛星軌道上で引き合って、月を思わせる衛星になっている。 -つまり惑星ネオケニアの正体は、人類が宇宙へと散り散りになった結果座標を忘れ去られたという地球であり、本作の物語は「人類と地球の繁栄、滅亡、復活」を何度となく繰り返していくという、一種の「ループもの」とも言える設定であることが示唆されている。 --そのため各シナリオの世界は厳密にはパラレルワールドではなく、微妙に差異のあるループを繰り返す中の、どこかの周回の物語という解釈も可能となっている。 --ループ設定を仄めかす描写も序盤から散りばめられている。ネオケニアの先住民ビースチャンや箱船の謎、箱船内のロボットがケンとリンダに対して「前より上手くなった」「今度こそやり遂げられる」といったことを言うなど。 --ちなみにゲーム本編の時代では、人類全体が出生率の減少などにより種としての寿命が尽きかけているため、人類とビースチャンの混血しか種を存続できないとされている。ネオケニアへの移住もビースチャンとの混血を増やして人類を存続させる為であり、1999年に隕石で滅ぶ事を承知の上で期限付きの移住を行ったのである。 ---しかし実はビースチャンやその混血が高い繁殖力、身体能力を持てるのはネオケニアだけの話であり、惑星外に出た途端、普通の人間と同じになってしまう事がある場所で明かされる。つまりこの移住計画自体、人類の存亡に関して言えば人口を一時的に増やした程度の意味しか無かった事になる。よって、ネオケニアの滅亡によってケンとリンダ以外の人類はそう遠くない未来に絶滅する可能性が高い。 ---箱船の計画に政府がGOサインを出したのも、人類の種を存続させる為の僅かな可能性に賭けた為である。 #endregion -ベテラン声優陣の演技 --特に高山みなみ演じるヒロイン・リンダの好演が魅力的。喜怒哀楽豊かでじゃじゃ馬で生命力溢れる少女が見事に表現されている。プレイヤーはゲームのほぼ全編に渡ってリンダの声を聞くことになるので、ある意味で本作を象徴する魅力となっている。本編中のヒロインの声だけではなく、ゲーム起動時のメーカーやタイトルのコール、エンディングテーマ、動物コンプリートのご褒美と、これでもかと言うほどリンダボイスを堪能できる。 ---と言うのも、桝田氏は高山氏の演技力に惚れこんでおり((説明書で「高山みなみ先生が「愛してるワ」とか「好きよ」とか言いまくるしな。ウひひ」などと平然と書き連ねたり、小説でも「高山みなみの声を想像しながら読んで欲しい」と注意書きを入れるほどの熱の入れっぷり。挙句、本作中でも高山みなみの名前を捩った声優のサイン色紙など登場する始末である。))、『天外魔境II』で脇役に起用した事を後悔していた為である。以降の桝田作品でも高山氏は主役かそれに準じる重要キャラに起用される事になる。この公私混同気味の高山みなみ推しには批判の声もあるが、本作においては高山氏の演技が大きな魅力となっているのは紛れもない事実であろう。 --ゲーム開始直後にいきなり[[ジャイアン>ドラえもんシリーズ]]の母(CV:青木和代)の声がして面食らうこと請け合い((説明書にもストレートに「ジャイアンのお母さん(笑)」と注釈が付けられている。))。そんな主人公の母ミームはシナリオに深くは関わらないが、豪快かつ母性愛の塊のような母親像にはある種の安心感を覚えることだろう。 --矢尾一樹が演じるネクも狂気とコミカルの演じ分けが巧み。ネクはシナリオAで鬼気迫る演技で哀しきサイコパスを演じきった一方、シナリオCでは全力でプレイヤーの腹筋を殺しに掛かってくれる。 ---同じく矢尾氏が演じたケンは主人公の為、台詞こそ非常に少ないが、それだけにその台詞の印象は強い。 --その他のキャラクターも、内海賢二、青野武、佐久間レイと言った大手の声優陣の見事な演技によって生命が吹き込まれており、狂気を感じさせる面もあればコミカルな一面もあるなど魅力的。 ---ちなみに大元のPCエンジン版とそれ以降の移植では一部の声優が変わっている。 ---- **賛否両論点 -独特過ぎるシステムや設定、狂気的な演出、鬱展開の数々は当然ながら人を選ぶ。 --ハマる人はとことんハマるが、合わない人にはまず合わない。 -奇抜過ぎる動物のデザイン --''本作におけるモンスター(=捕獲対象となる動物)は「ブタ」「ウサギ」などと同じ名前を冠しても、どこかグロテスクだったり奇抜だったりと地球上の生物とは似ても似つかない不気味な集団である。''我々の美的感覚など本作では無力と感じるだろう。 --本作ではこれら奇抜な外見の動物(と呼ばれているもの)が戦闘の相手であり、異形な人間外の敵はほとんどいない。 ---頭があるべき部分に大きな唇があるだけのゼブラや水陸両用のイルカ、腕が生えていてクロールで泳ぐサメなど奇抜な外見に事欠かない。二足歩行の昆虫型宇宙人のようなゴキブリや巨大なミミズなど精神的にくるものもいる。 ---まともな外見をしている動物は''イヌとオオカミのみ''。PS・SS版のみネコも含む。 ---オリジナルとなるPCEでは、開発中にPCエンジン雑誌にて特設コーナーを連載、「動物」デザインを読者から公募した事も。 ---中には内臓が奇形化して動き出したような、モンスターと呼ぶ事すら躊躇われるものまで((名前もズバリ「ゾウモツ」。…動物ですらない。ちなみに公募モンスターの第1席で、投稿時の名前は「カツオノエボシ」だったが、ゲーム中の文字数制限のため名前が変更された。))。 --「~アゲイン」はリメイク前よりもデザインがまだマイルドになっており、一般的に「キモカワイイ」のも出るだけまだマシ。SS版やPCE版はそういった要素もない。 ---例えばペンギンはPS版ではイワトビペンギンに近い「可愛い」の範疇に入るデザインだが、PCE版では''縦に裂けた巨大な口のついたペンギンらしきシルエットの何か''という[[バイオハザード>バイオハザードシリーズ]]にでも出そうなグロテスクなクリーチャーであった。 --こういったデザインに%%見過ぎて美的感覚が崩壊した所為で%%不思議な魅力を感じるプレイヤーも多い一方、やはり苦手な人に生理的嫌悪感を植え付けかねない点は否めない。 --何故こういう設定なのかは、話を進めればわかる。 -性的なネタの数々 --直接的な描写こそ無いものの、それを思わせる演出、台詞が随所にちりばめられている。 --動物の登録を行う部屋が子宮を模していたり、登録の度に喘ぎ声のようなものが聞こえたり((しかも雄と雌それぞれにそれっぽい声が用意されている。))と、テーマがテーマだけに基本演出の時点から枚挙に暇が無い。 --ストーリー中でも、上述の「サチコはどーぉだぁあ!?」のシーンや、老博士がテーブルの下に潜んで未亡人にご奉仕、などと言った危ないシーンがちらほら。 --シナリオCで野営した時のリンダとの会話、リンダと野営するとティッシュを消費する((主人公が鼻をかんだだけと言う話もあるが。))、主人公の家で録音される男女の戯れ、箱船の中にある「''愛の巣''」と、そこに置く家具として''回転ベッド''を購入出来たりと小ネタとしても幾つかある。 --こういった下ネタ、或いはそう連想させる表現もまた人を選ぶ。 -一部の動物の捕獲条件が非常に難しい --季節限定だったり、一定の年月が経つと絶滅する動物等は簡単な方で、特殊な条件を満たさないと捕獲できない動物も多く、全動物の捕獲はやりこみ要素になっている。 --基本的にクリアに必要な分だけなら普通にプレイしているだけでも足りるので、残りは色々と歩き回って新種を探す楽しみがある。 --時間的猶予が少ないシナリオDではクジラの捕獲が運頼みすぎたりと、全種捕獲の壁となりやすいのはきついと言えばきつい。 -ストーリーの一部が説明不足。 --シナリオの核心的な部分も含め、シナリオ内で提示された謎に対する答えが断片的にしか語られず、解釈任せになっている面が多々ある。 ---これを消化不良と取るか考察の楽しみがあると取るかでストーリーの印象が変わる。 ---- **問題点 -PCE版に比べて、フィールド上のBGMの迫力がなくなっている。 --PCE版はジャングルの奥地のような迫力あるものになっているが、こちらはサバンナや動物園のような緊張感のないものになった、という指摘が多い。 --一方戦闘直後のSEで迫力が増しているのもあるが。 -音声の再生が完全に終わるまで待たされることがあり、テンポが悪い場面がある。 --キャラの台詞のうち、ボイス付きの台詞は飛ばすことができず、ボイスを最後まで聞かなければならない。 ---シナリオCでのみ、「2回目以降のプレイじゃ、声があると少しダルいと思うぞ」という配慮により、ボイスのON/OFFを切り替えるオプションがいつでも(初回プレイからでも)利用可能。 --戦闘中の各行動の演出において、SEが完全に終わるまで待たされることがあり、SEの長い技の演出などはテンポをやや損ねている。 -ゲーム画面がややチープ --さすがにPCE版とは比べるべくもないが、同時期のPSのゲームと比べると劣る部類。見下ろし方の2DマップによるRPGという点も、既にポリゴン描写による3DRPGが周流となり始めていた時期であったことも手伝って、時代遅れの感が否めなかった。 ---キャラドットは描き込まれていない訳ではなく、イベントでは細かいモーションもあるのだが、頭身が高い分顔が小さく全員がのっぺらぼうになっており、また殆どのキャラが常に足踏みをするなど、やはり時代不相応のチープさは漂う。 --この点は開発者自身も「ゲーム画面はショボいぞ!」と明言している ---一方で、「本作のゲームシステムは2Dデザインを前提として成り立っており、『動物集めの楽しさ』を重視する上で外すことのできない選択であった」とも語っている。 ---- **総評 グラフィック面では前時代的でチープと捉えられてしまうところは否めないが、開発者の語る通り、RPGとしての特徴である戦闘・育成・収集の楽しさが「動物集め」の一点に凝縮されており、「種の保存」という作品テーマと相まって、既存のRPGの枠にはまらない独特な魅力を内包している。~ アクの強いシナリオが目立つが、鬱だけに留まらない様々な要素もあり、合う人ならばこの作品の持つ不思議な魅力を感じ取れることだろう。独特な個性と過激な表現で人を選んでしまう側面はあるものの、人によってはとことんハマるタイプのゲームと言えよう。 ---- **その後の展開 -1998年6月18日にアスキーより『リンダキューブ完全版』(SS版)が発売された。 --PCE版における狂気性や表現を復活させつつ「昔ブタ」などといった追加要素やギャラリーなどのおまけ要素も満載。 ---それに伴い、レーティングは18歳以上推奨となっている。 -現在ではPSP・PS3のゲームアーカイブスで『リンダキューブアゲイン』を購入可能。ちなみにCERO:C。グロ系に免疫のない方は覚悟してプレイして欲しい。 ---- **余談 -オリジナル版は''18歳以上推奨指定作品''となっている。本作にも暴力表現警告の三角シールが設けられているが、実はこれ、本作のためにソニーが用意したものである。 -シナリオごとにヒロイン・リンダの境遇が違う為、苗字もそれぞれ異なったものに変わっている。 --シナリオAは「リンダ・アウレア」、シナリオBは「リンダ・バーニング」、シナリオCは「リンダ・チャレンジャー」となっている。((ちなみに、アルファベットではAurea、Burning、Challengerとなり、最初の一文字がシナリオに合わせてある)) -PS版の取扱説明書はコミカルなイラストと赤ペンによる注釈が加えられているというモノであり、本編とのギャップが激しい。 --しかし本編の内容に反している訳でもなかったりする。 --SS版の取扱説明書にはPS版とは異なる注釈がなされており、中には情報が少なく捕獲困難だった動物のヒントなどもイラスト付きで描かれている。 --この手書きの注釈は桝田省治の直筆である。~ 最初は他のスタッフに書かせていたそうだが「もっと''字が汚い方がいい''。私がやる」と桝田氏が筆を取った。((ソースはニンテンドードリーム19年4月号のデス仙人のコラム。デス仙人が当時の字の綺麗なスタッフだったそうな。)) -本作の初期案は「天国の動物園」というタイトルで、文字通り動物を集めて動物園を作るというものだった。 --濃いストーリーは無いし、なんと本作の看板たるリンダに該当するキャラすらいなかった、正に動物集めに特化した作品だったと言う。本作におけるシナリオCに近い内容である。 ---しかし知人や関係者からの意見を取り入れ、スケールの壮大化、美少女ヒロインの登場、ストーリーの付加という形で完成形へと近づいて行ったという。タイトルもセールスポイントである「美少女ヒロイン」と「3本のシナリオ」を合わせて『リンダキューブ(Linda3)』に決まった((他に上がった案で「箱船は星の海へ」「Astro Ark」は前者はキャッチコピーに、後者はシナリオCのタイトルに用いられた。))。 --シナリオA、Bも桝田氏の中では本編であるシナリオCの練習用のオマケなのだという。かと言って無難に済ませる気は無く、「''無茶してやれ''」と言う考えと、周囲の「オマケ1本じゃせこい」という意見も取り入れた事で、濃厚でパラレルな本作のシナリオが出来上がった。 ---結果として、シナリオCの伏線をBで引いたりシナリオAで残された謎の解をBに置くなど、パラレルならではのシナリオ構成が可能になり、桝田氏自身も予想だにしなかった発見があったという。 --また、実はシナリオはもう1本用意されており、登場人物の1人のフローラ博士がキーマンとなる内容だったとの事((ホスピコに研究所を構える3人の博士の中で、Aのキーマンのパンハイム、Bのキーマンのエモリに対し、フローラのみ本編には関わってこない。))。 ---しかしその内容は(性的な意味で)相当まずいものだったらしく、桝田氏も「収録しなくて良かった」と語っているほど。ただ、不採用の一番の理由は単に「つまらなかった」かららしい。 -本作の教会のBGMは『[[俺の屍を越えてゆけ]]』に使い回されている。 -2017年5月25日、テレビ東京による地上波のゲーム番組『勇者ああああ』にてなんと本作が紹介された。 --「絶対に8年後に滅びる世界」「箱船の存在と動物収集をする主人公とヒロイン」「動物の捕獲方法と精肉可能である点」「ティッシュの自動消費」「それぞれのシナリオはパラレルな物語」などグロや狂気の部分はカットされたが、それ以外の本作の個性的な部分が紹介されその結果リアルタイム検索で「リンダキューブアゲイン」が1位に上昇する事態と相成った。 -ゲームアーカイブスにおける本作の配信について、アルファ・システムの代表である佐々木哲哉が同社のブログに[[その経緯を記している。>http://www.alfasystem.net/a_m/diary.cgi?date=20080911]] ---- //PCE版、SS版について更に追記お願いします。 //発売日などを足してみましたが、一応CO。 // //家庭用ゲーム初の18歳以上推奨指定というのは誤りなので変更
*リンダキューブ アゲイン 【りんだきゅーぶあげいん】 |ジャンル|サイコスリラー&ハンティングRPG|&amazon(B000069SPZ)| |対応機種|プレイステーション|~| |発売元|ソニー・コンピュータエンタテインメント|~| |開発元|アルファ・システム&br()MARS|~| |発売日|1997年9月25日|~| |定価|5,800円(税別)|~| |備考|【PCE】リンダキューブ:1995年10月13日/7,800円(税別)&br()【SS】リンダキューブ 完全版:1998年6月18日/6,800円(税別)|~| |配信|ゲームアーカイブス:2007年9月27日/600円(税5%込)((本来は約1年前に配信されていたが、権利関係により配信はごくわずかで一旦終了し、権利が整理された後に再配信されたという経緯がある。))|~| |判定|BGCOLOR(lightgreen):''良作''|~| ---- #contents(fromhere) ---- **概要 PCエンジンの名作『[[天外魔境 ZIRIA]]』『[[天外魔境II 卍MARU]]』で不気味かつ骨太なシナリオを描いた桝田省治と、後に『[[ガンパレード・マーチ>高機動幻想 ガンパレード・マーチ]]』で一躍有名になるアルファ・システムが手掛けたRPG。 桝田氏曰く''「天外IIでは3年間も「こてこての王道」なシナリオを作り続けてストレスが溜まり、クリエイターとしての血が疼いて作った(意訳)」''作品であり、その言葉に違わずみょうちくりん、しかしそれでいて独特の中毒性がある作品として、『Linda3((この「3」は正確には乗数))』は当時既に冷え切っていたPCエンジン市場にその名を刻むこととなった。~ 氏曰く本作のテーマは「種の保存」。 プレイステーション版リメイクの『リンダキューブアゲイン』は、ゲーム性、シナリオ両面でバランスが修正されており、販売状況や入手環境といった要因からリメイク元よりも有名になってしまった感がある。~ そのため、本記事はそちらの方をメインとして解説していく。~ 作中内の「はこぶね」の表記において、原作PCE版の「箱舟」、リメイク作PS・SS版の「箱船」と表記揺れがあり、本記事ではリメイク版準拠の「船」で統一とする。  ---- **ストーリー 宇宙航行技術が高度に発達した遥かな未来、アフター・マザーズ・デス(AMD)1991年。~ 地球によく似た環境を持つ惑星「ネオケニア」への人類移住計画が開始されてから、およそ一世紀が経とうとしていたころ。~ ネオケニアは8年後に「死神」と呼称される巨大隕石が激突し滅亡することが確実視され、ネオケニアのレンジャー隊は日々住民の脱出作業に追われていた。~ そんな混乱の最中に突如として、未知のテクノロジーで造られた「箱船」と呼ばれる謎の宇宙船が、「神」のお告げの石板と共にネオケニアの地表に現れた。~ 「告知 箱船ノ乗員求ム 男女各一名 動物集メニ自信ノアル者ニ限ル 神様ヨリ」 箱船の行先など分からない。&ruby(クルー){乗組員}になったとしても命の保証なども全くない。~ だが、あろうことか星間連邦はこの与太話にGOサインを出し、連邦公認で箱船の&ruby(クルー){乗組員}の公募を開始。~ 「この船に乗り込む男女一組の乗組員を募集! そして出来るだけ多くの雄雌1つがいの動物たちを集めよ! タイムリミットは8年!」 駆け出しのレンジャー隊員である主人公「ケン・チャレンジャー」は、父親のように勇敢な男になるという志と、~ 一足先に女性乗組員に志願していた、見かけはかわいいが乱暴で毒舌な幼馴染「リンダ」たっての願いという後押しを得て、遂に男性乗組員に志願したのであった。~ かくしてケンの男磨きを兼ねた、動物捕獲のためにネオケニア全土を駆け巡る奮闘の日々が始まった。~ ネオケニアと共に滅びさる動物達を救うため、そしてリンダを守り愛するに相応しい男へと成長するために……。 ---- **特徴 上記のような経緯で企画が立ち上げられたゲームだけあり、設定、システム、ストーリーと全てにおいて一般的なRPGとは一線を画している。~ 説明書や公式サイトでもくどいほど「王道RPGとの違い」が強調されている((説明書にはわざわざそれを強調する漫画まで掲載されている。))。 -世界の終わりが明確に決められている。 --極端に言えば、何もしなくても8年が経過し、1999年に隕石が落ちてきてネオケニアは滅亡する。 --日数が進むと他の人間は惑星を脱出してしまい、街中には人がいなくなり各種施設も利用できなくなっていく。なんともリアル。 -タイムリミットまでに動物を集めることがゲームの目的 --動物を一定数捕獲して箱船に登録する。ゲームクリアの条件はこれだけである。そしてそのためにはどんな手順を踏んでもいいし、動物集めさえ達成できるなら、それ以外にどこに行って何をしてもいい。 ---RPGとしては最初から行動可能範囲が広大で、色々な場所に行ける。フィールド上の任意の地点へひとっ飛びに転送してもらうシステムも最初から利用可能。ストーリー上の束縛も緩く、自由度が高い。 --ケンは妙に不気味な世界中の動物を出来るだけ集めるのだが、動物はゲームクリアの条件というストーリー上の役割だけではなく、システム的にも様々な点で動物が密接に絡んでおり、動物集めがゲームの核になっている。 --「動物」とは言うが、多くの動物は、戦うことになるモンスターでもある。戦闘で動物を捕獲すればEXPなどを獲得し、キャラのレベルを上げて強化することができる。 --また動物は箱船に登録するだけでなく、動物を換金したり、加工して肉や装備品にしたり、乗り物にしたり((乗り物としての動物は、特定の店で一時的に借りる形式のみ。手持ちの動物を乗り物にするといったシステムではない))、パーティメンバーの一員にしたり、動物の能力を取り込んでステータスを強化したり獣人などの特殊能力を覚えたりと、色々なことに利用できる。 --基本的な動物の捕獲方法は、戦闘でダメージを与えてHPを減らすだけ。HPが少なくなって弱った動物は降参して、自動的に捕獲できる。ただしその動物のHPの最大値を大きく上回るダメージを与えてしまうと、身体がバラバラになってしまい捕獲できず、経験値なども得られない。 ---そのためこちらが強くなりすぎると動物を捕まえにくくなるのだが、かといってこちらが弱いと強力な動物を捕まえるのが困難。タイムリミットもあるので、ただ戦闘を繰り返してレベルを上げて敵をガンガン倒すだけでいいというものではなく、今の戦力に見合った動物はどこにいるのか、今の戦力でどうすれば捕まえられるかなど、戦力のバランスも考える必要がある((特技のダメージは半固定なので、後半になって捕獲し忘れた弱い動物がいたとしても捕獲できないということはない))。 -本作はA・B・Cの3つのシナリオが存在する。 --A「メリークリスマス」、B「ハッピーチャイルド」、C「アストロアーク」の3つ。 --各シナリオは世界設定が多少異なるパラレルワールドのような関係にあり、それぞれストーリー内容、箱船への動物登録数のノルマ、行ける場所などが違う。 ---シナリオAとBは練習用シナリオとしての側面もあり、動物登録のノルマが少なく捕獲できる動物の種類が少ない、A・B双方の舞台となるエリアが互いに出入りできないようになるなどの制限がある。また、定期的にストーリー進行のイベントが発生し動物集めが補助的な役割になっている、ストーリー上のラスボスが存在するなど、一般的なRPG同様、シナリオ中心の展開となっている。どちらのシナリオも猟奇的な表現やエピソードが目立ち、この点でも普通のRPGとは一線を画している。 ---シナリオCは全エリアに侵入可能、全種類の動物が捕獲可能、と、最も自由度が高く、ゲームの醍醐味である動物集めを存分に味わえる。シナリオ面では本作の世界や動物集めをさせられる理由など、ゲーム設定の根幹部分に関わる真相に迫っていくが、A・Bのようなドラマチックなイベントシーンなどはほぼ無く、ゲーム進行におけるストーリー的な縛りはA・Bよりも薄い。このシナリオでしか見れない各登場人物達のエピソードもあるが、いずれもA・Bとはかなり毛色の違う内容になっている。またシナリオ上、制限時間が他のシナリオよりも1年短い。 --どのシナリオをプレイするかは好きに選べるが、シナリオC開始前には''『AB両方クリアしてからCをプレイしましょう』''というお告げが来る。ここは素直に従ったほうが無難。 -ちなみに一つのセーブデータにつき一つのシナリオしか選べないため、能力や捕獲動物などといったステータスを他のシナリオにまたぐことはできない。 --PS版以降では条件を満たすことでシナリオD:「ラストイヤー」が出現する。 ---残り猶予1年で100種類以上の動物を集めるという、タイムトライアル的な特殊なシナリオ。最初から全ての特殊能力が使えるなどの利点もあり、早いペースで動物を沢山集めやすい。 ---ちなみに1年しか無い理由は、ケンとリンダがそれまでの7年間を''いちゃついて過ごし、動物集めを全くやらなかった''という、夏休みの最終日に慌てて宿題をやるのと同レベルの理由の為。 ---- **評価点 -動物集めの楽しさと自由度の高さ --確かに捕獲をしないとクリアできないし、それ自体も面白い。しかし動物を捕獲することで、収集のみでなく冒険や育成の楽しさを同時に味わえる作りになっている。 --大抵の動物はフィールドやダンジョンにいるが、入手が難しい動物もいる。ボスのように奥に陣取るのはまだ良い方で、年数が経つと絶滅したり特定の状況や状態じゃないと出遭えない動物もいる。コンプリートは一筋縄ではいかない。 --無一文にならないと出現しない、タイムリミットギリギリになってやっと捕獲可能、と言ったご無体な動物も。ノーヒントでのコンプリートは正に至難の業である。 --捕獲手段も戦闘で倒す以外に、マップ上に罠を仕掛ける、動物商から買う、ハンターに依頼する、卵から孵化させたり等と様々な方法がある。 --捕まえた動物の使い道も、各種類を雌雄一匹ずつ登録すれば、あとはプレイヤーの思うまま。食料や装備に加工するも良し、売るも良し、戦闘で嗾けるも良し、調教して仲間に加えるも良し。 --このようにプレイヤーの試行錯誤の余地が満遍なくちりばめられており、戦略性は極めて高い。コンプリートしたとしても、タイムトライアルであるシナリオDの存在があり、熟練プレイヤーにも更なる挑戦の場が与えられる。 --RPGとしては最初から行動可能範囲が広く、いつどこに行って、どんな手順で動物を集めるかはプレイヤー次第であり、非常に自由度が高い。そのため、現在で言うところのオープンワールド的なRPGとも評される。 ---ストーリー重視とされるシナリオA・Bですら、ストーリーを進めて問題を解決しないと箱船を起動できない期間こそあれど、条件さえ整ったらストーリー進行を放棄して動物を集め終えてゲームクリアしてしまうことも可能。~ ただし、真エンディングを見るにはストーリーを最後まで進めることが条件となる。 -とことん王道を逸脱したシナリオ --本作の舞台となる世界を襲うものは、RPGに付き物の魔王や侵略者といった勧善懲悪的な存在ではなく、&bold(){大自然の驚異そのもの}。~ ゆえに、プレイヤーはどうあがいてもネオケニアを救えない。かろうじて救えるものはリンダと奇抜な動物たちのみである。~ 更に、本来恨まれる筋合いなどないはずのケンやリンダに、様々な陰謀や試練、人の狂気が立ちはだかり、容赦なく襲いかかってくる。 --本作では原作でのビジュアルシーンがフルアニメーションによってリメイクされており、生理的・心理的にドギツイ展開がより一層の生々しさと共に繰り広げられていくことになる。 --しかしプレイすると「生物、ひいては人間の内面と外見のギャップを受け入れ愛することの大切さ」「不器用な生き様にならざるを得ない人間の悲哀や哀愁」そういったものを感じさせる内容となっており、ただ狂気的なだけではなくどこか惹きつけられる魅力を持っている。 --シナリオA・Bのラスボスは心理的に来るどこか気の触れた人間が相手となり、主人公やヒロインを戦闘以外の面でも追い詰めようとする。 ---ただその末路や経緯が「不器用な人間の悲哀」を感じさせる存在ともとれ、本作のテーマ「人間や生物といった外見と内面のギャップや矛盾」をも感じられる。 --シナリオ毎にエンディングテーマが違うのだが、その歌詞がAは幼い我が子に、Bは愛する女性に、Cが成長して旅立つ息子に向けたものになっているのも、作中のテーマと照らし合わせると感慨深い。 #region(シナリオAB詳細(ネタバレ注意)) -シナリオA「メリークリスマス」 --主人公ケンと同じ声と顔を持つ生き別れの双子の弟「ネク」が現れ、幸せに暮らすケンへの復讐のため暗躍する。 --このネクは生い立ちが非常にえげつない設定で、孤児となって製薬会社の女社長に拾われた後はろくに愛情も注がれず、学校にも通わせてもらえないばかりか、''薬漬けにされたあげく、ある薬の原料となる原住民の死体を調達させられていた''というもの。主人公と同じ顔をした男が不気味なマスクをつけ、サンタクロースの格好で猟奇殺人を行っていく姿は強烈。中でも「死体は捜すより作る方が簡単なのサ」という台詞は多くのプレイヤーに強い印象を残した。 ---物語の後半では事件の発端となった製薬会社に乗り込むのだが、地下室に多くの人間が拉致され、''大量の死体が浮かんだカプセルが研究室内に陳列されている''という異常な光景を目撃することになる。 ---ちなみに主人公の実の父親はある村の村長だったが、一夜にして村民全員を惨殺したという疑いで精神病院の隔離地下施設に隔離されている。その上、ネクにその事実を告げられて対面を果たした直後にネクの手によって惨殺されてしまう。その上、惨殺事件の真実に関してはシナリオ内では一切触れられることがない。 --ラスボスはヒロイン・リンダの父親「ヒューム」。精神が崩壊しているのか言動が狂気じみている。 ---特筆すべきはその身体の設定。何と''リンダの母親「アン」が上半身に埋め込まれている。''しかもそれが明らかとなった直後に自ら殺してしまう(それも自覚ゼロで、直後に逆上して主人公達に襲い掛かってくる)。「愛し合う二人はいつも一緒」という台詞と野営時の特殊台詞もあってゾッとさせる事実である。 ---シナリオAでは過去に筋肉増強剤が流行し、肉体と精神をも蝕むようになっても服用を続ける人間が絶えなかったという設定がある。ヒュームもそれが原因と思わせるような描写がされているが、ゲーム中でのあるキャラの台詞によれば薬物反応は見られなかったという事実が知らされる。結局、真相は解らずじまい。 ---ちなみにヒュームは娘のリンダがあまりに自分と似ていない((リンダの母親のアンは、ネオケニアの移住民に対して常に顕性(優勢)な遺伝子を持つ先住民ビースチャンの血を引いているため、リンダは遺伝的特徴を100%母親から受け継いでいるという設定がある。))ため本当に自分の子供なのか疑心暗鬼になり、妻へのDVの末に離婚、リンダの養育費を稼ぐために件の筋肉増強剤を使用し無理な仕事をしていたという設定がある。 ---なお、シナリオBではヒュームは妻と和解し、再びよりを戻し幸せな生活を送ることになる。・・・と思った矢先、シナリオ開始直後に何者かに(街の大多数の人間たちと共に)惨殺された挙句、妻と共にゾンビに作りかえられて襲い掛かってくる。彼らが(シナリオBで)何をした。 -シナリオB「ハッピーチャイルド」 --ラスボスはサブヒロイン「サチコ」の父親「エモリ教授」。 ---娘のサチコが自殺した原因を作った人間に復讐するため、戦闘用人造人間を操り大量殺人事件を引き起こしていた。自らのエゴに走るあまり、多くの無関係の人物を巻き込むほど狂気に走っており、殺しの対象がいるというだけで、街の住人を皆殺しにした挙句にゾンビ化(前述の通りリンダの両親も犠牲になった)させたりシャトルを爆発させたりと、やりたい放題の暴走ぶりを見せる。その一方で大げさかつ空々しい口ぶりで善人として振舞い、ケンとリンダを欺き続ける。 ---娘を深く愛する父親であったものの、自らの娘のクローンをサイボーグ兵器に改造して復讐の道具として利用したり、娘を箱船のパートナーにするためにケンの心を奪おうとした際に''「理論上はね、子供だって作れるはずなんだよ…試してみようよォ!」「ンン~ン生娘の匂いだァ!!」''などとのたまいながら娘のクローンの股ぐらに頭を突っ込むなど、完全に常軌を逸した言動を繰り返す。~ このシーンでエモリが連呼する''「サチコでどうだ?!」''は彼の%%変態ぶり%%狂気性を象徴するフレーズとして特に有名。声優の青野武の熱演も相まって非常に印象深い。 ---挙句の果てには「逆恨みの何が悪い!」と開き直る始末。なまじ一途で努力家である分、却ってタチが悪い。そしてその後、大量の筋肉増強剤を浴びるように飲み下し、化け物と化して襲い掛かってくる。 -この二つのラスボスの共通点は「娘の事を思うあまり狂気に走ってしまった」事と言える。~ そしてこの設定とドぎつい外見を活かすように、''この2人のみ戦闘中にアニメーションする''。『天外魔境II』のような演出だが、その強烈さは段違いである。 -なお、シナリオABについてはゲームシステムのチュートリアル的側面もある関係で、シナリオAではシナリオBの、シナリオBではシナリオAでメインとなるエリアに侵入できないのだが、それぞれそのゲーム内での理由がAシナリオでは''ある指名手配犯一人(おそらくエモリ教授)の抹殺の為に核ミサイルが投下されたため立ち入り禁止''、Bシナリオでは''グリーン製薬のタンクからあらゆる生命を生きながらにして腐食させる未知の細菌が漏れ出し全域が汚染されたため立ち入り禁止''という理由付けになっている。 --そのため、シナリオAではエモリ教授が、シナリオBではネクが存在が仄めかされる程度で直接には未登場となっている。 ---サチコはシナリオAでも登場するが、本筋にあまり絡まないサブキャラとして登場する。 #endregion -バカゲーとしての側面 --シビアなだけではない、笑える要素も少なくなく、単なる鬱ゲーに留まらない作りにもなっている。 ---序盤のアニメシーンは全体的にコメディ調でプレイヤーを笑わせに来る。それだけに以降の展開とのギャップも凄いのだが…。 ---シナリオABでもストーリー中にお笑い要素はあり、ケンとリンダのバカップルぶりなどは暗いストーリーの清涼剤的役割も果たしている。 ---街の人々の台詞や壁のラクガキ、「YES」のみしかない(比喩表現ではなく本当に「YES」のみ)選択肢など笑い所がチラホラある。 ---猟犬を治療する際の獣医の台詞や解体屋の台詞など施設の店主の台詞が妙に生々しいが、慣れてくるとおかしさも感じてくる。 --特にシナリオC「アストロアーク」が他のシナリオのセルフパロディに走っている。シナリオ選択画面の「シナリオCを''大笑いしながら遊ぶ''ためにABを先にクリアしよう」のお告げは伊達ではない。 #region(シナリオC詳細(ネタバレ)) -シナリオスタート直後に主人公が''バナナの皮で滑って転んで1年間昏睡する羽目になる''。 --しかも脊髄損傷、頭蓋骨陥没とかなりの重症で大量の輸血まで必要としていた。どう転んだらそこまでの重症に…。 --ちなみにゲーム中でもしっかり1年経過している。 -シナリオAで主人公たちを苦しめたネクが初っ端から登場。しかも打って変わってコミカルな好人物となり、ケンと仲の良い弟として描かれる。 --サチコはシナリオABでは接触する事の無かったネクと結ばれ、ケンとリンダも顔負けのバカップルぶりを見せつけてくれる。 --他にもあるキャラが他のシナリオと全く違う運命を辿っていたり、他のシナリオで使われていた台詞が意外な場面で使われていたりと思わずニヤリと来る場面を多く見かける。 ---シナリオAでのケンの台詞「違う!リンダじゃないんだ!」や、エモリ教授の逆恨みについての発言などは元のシーンを知った上で見ると爆笑ものだろう。 ---シナリオABのラスボス同士が「娘が父親の手を離れ嫁に行ってしまうという悲しみ」に共感しあって共に去って行くシーンは特に印象的だろう。2人とも「娘の事を思うあまり狂気に走ってしまった」だけあって。 --解釈によっては登場人物の多くが幸せに暮らせた世界。と、言えなくもない。シナリオABの展開を知った上で見ると尚更であり、キャラへの感情移入度が強い人は笑いながら嬉し涙すら出るかもしれない。 #endregion -物語の根底には巧妙で壮大なSF設定があり、SFものとしての面白味もある。 #region(ネタばれ注意) -各シナリオはおおむね共通のエンディングとなっている。箱船に乗ったケンとリンダは遥か未来へと時間を飛び、かつての巨大隕石衝突から長い時間を掛けて再生した、水と緑の豊かな惑星に降り立ち、動物達と共に再び生命を繁栄させていく。 --隕石衝突によって削り取られた地殻同士が衛星軌道上で引き合って、月を思わせる衛星になっている。 -つまり惑星ネオケニアの正体は、人類が宇宙へと散り散りになった結果座標を忘れ去られたという地球であり、本作の物語は「人類と地球の繁栄、滅亡、復活」を何度となく繰り返していくという、一種の「ループもの」とも言える設定であることが示唆されている。 --そのため各シナリオの世界は厳密にはパラレルワールドではなく、微妙に差異のあるループを繰り返す中の、どこかの周回の物語という解釈も可能となっている。 --ループ設定を仄めかす描写も序盤から散りばめられている。ネオケニアの先住民ビースチャンや箱船の謎、箱船内のロボットがケンとリンダに対して「前より上手くなった」「今度こそやり遂げられる」といったことを言うなど。 --ちなみにゲーム本編の時代では、人類全体が出生率の減少などにより種としての寿命が尽きかけているため、人類とビースチャンの混血しか種を存続できないとされている。ネオケニアへの移住もビースチャンとの混血を増やして人類を存続させる為であり、1999年に隕石で滅ぶ事を承知の上で期限付きの移住を行ったのである。 ---しかし実はビースチャンやその混血が高い繁殖力、身体能力を持てるのはネオケニアだけの話であり、惑星外に出た途端、普通の人間と同じになってしまう事がある場所で明かされる。つまりこの移住計画自体、人類の存亡に関して言えば人口を一時的に増やした程度の意味しか無かった事になる。よって、ネオケニアの滅亡によってケンとリンダ以外の人類はそう遠くない未来に絶滅する可能性が高い。 ---箱船の計画に政府がGOサインを出したのも、人類の種を存続させる為の僅かな可能性に賭けた為である。 #endregion -ベテラン声優陣の演技 --特に高山みなみ演じるヒロイン・リンダの好演が魅力的。喜怒哀楽豊かでじゃじゃ馬で生命力溢れる少女が見事に表現されている。プレイヤーはゲームのほぼ全編に渡ってリンダの声を聞くことになるので、ある意味で本作を象徴する魅力となっている。本編中のヒロインの声だけではなく、ゲーム起動時のメーカーやタイトルのコール、エンディングテーマ、動物コンプリートのご褒美と、これでもかと言うほどリンダボイスを堪能できる。 ---と言うのも、桝田氏は高山氏の演技力に惚れこんでおり((説明書で「高山みなみ先生が「愛してるワ」とか「好きよ」とか言いまくるしな。ウひひ」などと平然と書き連ねたり、小説でも「高山みなみの声を想像しながら読んで欲しい」と注意書きを入れるほどの熱の入れっぷり。挙句、本作中でも高山みなみの名前を捩った声優のサイン色紙など登場する始末である。))、『天外魔境II』で脇役に起用した事を後悔していた為である。以降の桝田作品でも高山氏は主役かそれに準じる重要キャラに起用される事になる。この公私混同気味の高山みなみ推しには批判の声もあるが、本作においては高山氏の演技が大きな魅力となっているのは紛れもない事実であろう。 --ゲーム開始直後にいきなり[[ジャイアン>ドラえもんシリーズ]]の母(CV:青木和代)の声がして面食らうこと請け合い((説明書にもストレートに「ジャイアンのお母さん(笑)」と注釈が付けられている。))。そんな主人公の母ミームはシナリオに深くは関わらないが、豪快かつ母性愛の塊のような母親像にはある種の安心感を覚えることだろう。 --矢尾一樹が演じるネクも狂気とコミカルの演じ分けが巧み。ネクはシナリオAで鬼気迫る演技で哀しきサイコパスを演じきった一方、シナリオCでは全力でプレイヤーの腹筋を殺しに掛かってくれる。 ---同じく矢尾氏が演じたケンは主人公の為、台詞こそ非常に少ないが、それだけにその台詞の印象は強い。 --その他のキャラクターも、内海賢二、青野武、佐久間レイと言った大手の声優陣の見事な演技によって生命が吹き込まれており、狂気を感じさせる面もあればコミカルな一面もあるなど魅力的。 ---ちなみに大元のPCエンジン版とそれ以降の移植では一部の声優が変わっている。 ---- **賛否両論点 -独特過ぎるシステムや設定、狂気的な演出、鬱展開の数々は当然ながら人を選ぶ。 --ハマる人はとことんハマるが、合わない人にはまず合わない。 -奇抜過ぎる動物のデザイン --''本作におけるモンスター(=捕獲対象となる動物)は「ブタ」「ウサギ」などと同じ名前を冠しても、どこかグロテスクだったり奇抜だったりと地球上の生物とは似ても似つかない不気味な集団である。''我々の美的感覚など本作では無力と感じるだろう。 --本作ではこれら奇抜な外見の動物(と呼ばれているもの)が戦闘の相手であり、異形な人間外の敵はほとんどいない。 ---頭があるべき部分に大きな唇があるだけのゼブラや水陸両用のイルカ、腕が生えていてクロールで泳ぐサメなど奇抜な外見に事欠かない。二足歩行の昆虫型宇宙人のようなゴキブリや巨大なミミズなど精神的にくるものもいる。 ---まともな外見をしている動物は''イヌとオオカミのみ''。PS・SS版のみネコも含む。 ---オリジナルとなるPCEでは、開発中にPCエンジン雑誌にて特設コーナーを連載、「動物」デザインを読者から公募した事も。 ---中には内臓が奇形化して動き出したような、モンスターと呼ぶ事すら躊躇われるものまで((名前もズバリ「ゾウモツ」。…動物ですらない。ちなみに公募モンスターの第1席で、投稿時の名前は「カツオノエボシ」だったが、ゲーム中の文字数制限のため名前が変更された。))。 --「~アゲイン」はリメイク前よりもデザインがまだマイルドになっており、一般的に「キモカワイイ」のも出るだけまだマシ。SS版やPCE版はそういった要素もない。 ---例えばペンギンはPS版ではイワトビペンギンに近い「可愛い」の範疇に入るデザインだが、PCE版では''縦に裂けた巨大な口のついたペンギンらしきシルエットの何か''という[[バイオハザード>バイオハザードシリーズ]]にでも出そうなグロテスクなクリーチャーであった。 --こういったデザインに%%見過ぎて美的感覚が崩壊した所為で%%不思議な魅力を感じるプレイヤーも多い一方、やはり苦手な人に生理的嫌悪感を植え付けかねない点は否めない。 --何故こういう設定なのかは、話を進めればわかる。 -性的なネタの数々 --直接的な描写こそ無いものの、それを思わせる演出、台詞が随所にちりばめられている。 --動物の登録を行う部屋が子宮を模していたり、登録の度に喘ぎ声のようなものが聞こえたり((しかも雄と雌それぞれにそれっぽい声が用意されている。))と、テーマがテーマだけに基本演出の時点から枚挙に暇が無い。 --ストーリー中でも、上述の「サチコはどーぉだぁあ!?」のシーンや、老博士がテーブルの下に潜んで未亡人にご奉仕、などと言った危ないシーンがちらほら。 --シナリオCで野営した時のリンダとの会話、リンダと野営するとティッシュを消費する((主人公が鼻をかんだだけと言う話もあるが。))、主人公の家で録音される男女の戯れ、箱船の中にある「''愛の巣''」と、そこに置く家具として''回転ベッド''を購入出来たりと小ネタとしても幾つかある。 --こういった下ネタ、或いはそう連想させる表現もまた人を選ぶ。 -一部の動物の捕獲条件が非常に難しい --季節限定だったり、一定の年月が経つと絶滅する動物等は簡単な方で、特殊な条件を満たさないと捕獲できない動物も多く、全動物の捕獲はやりこみ要素になっている。 --基本的にクリアに必要な分だけなら普通にプレイしているだけでも足りるので、残りは色々と歩き回って新種を探す楽しみがある。 --時間的猶予が少ないシナリオDではクジラの捕獲が運頼みすぎたりと、全種捕獲の壁となりやすいのはきついと言えばきつい。 -ストーリーの一部が説明不足。 --シナリオの核心的な部分も含め、シナリオ内で提示された謎に対する答えが断片的にしか語られず、解釈任せになっている面が多々ある。 ---これを消化不良と取るか考察の楽しみがあると取るかでストーリーの印象が変わる。 ---- **問題点 -PCE版に比べて、フィールド上のBGMの迫力がなくなっている。 --PCE版はジャングルの奥地のような迫力あるものになっているが、こちらはサバンナや動物園のような緊張感のないものになった、という指摘が多い。 --一方戦闘直後のSEで迫力が増しているのもあるが。 -音声の再生が完全に終わるまで待たされることがあり、テンポが悪い場面がある。 --キャラの台詞のうち、ボイス付きの台詞は飛ばすことができず、ボイスを最後まで聞かなければならない。 ---シナリオCでのみ、「2回目以降のプレイじゃ、声があると少しダルいと思うぞ」という配慮により、ボイスのON/OFFを切り替えるオプションがいつでも(初回プレイからでも)利用可能。 --戦闘中の各行動の演出において、SEが完全に終わるまで待たされることがあり、SEの長い技の演出などはテンポをやや損ねている。 -ゲーム画面がややチープ --さすがにPCE版とは比べるべくもないが、同時期のPSのゲームと比べると劣る部類。見下ろし方の2DマップによるRPGという点も、既にポリゴン描写による3DRPGが周流となり始めていた時期であったことも手伝って、時代遅れの感が否めなかった。 ---キャラドットは描き込まれていない訳ではなく、イベントでは細かいモーションもあるのだが、頭身が高い分顔が小さく全員がのっぺらぼうになっており、また殆どのキャラが常に足踏みをするなど、やはり時代不相応のチープさは漂う。 --この点は開発者自身も「ゲーム画面はショボいぞ!」と明言している ---一方で、「本作のゲームシステムは2Dデザインを前提として成り立っており、『動物集めの楽しさ』を重視する上で外すことのできない選択であった」とも語っている。 ---- **総評 グラフィック面では前時代的でチープと捉えられてしまうところは否めないが、開発者の語る通り、RPGとしての特徴である戦闘・育成・収集の楽しさが「動物集め」の一点に凝縮されており、「種の保存」という作品テーマと相まって、既存のRPGの枠にはまらない独特な魅力を内包している。~ アクの強いシナリオが目立つが、鬱だけに留まらない様々な要素もあり、合う人ならばこの作品の持つ不思議な魅力を感じ取れることだろう。独特な個性と過激な表現で人を選んでしまう側面はあるものの、人によってはとことんハマるタイプのゲームと言えよう。 ---- **その後の展開 -1998年6月18日にアスキーより『リンダキューブ完全版』(SS版)が発売された。 --PCE版における狂気性や表現を復活させつつ「昔ブタ」などといった追加要素やギャラリーなどのおまけ要素も満載。 ---それに伴い、レーティングは18歳以上推奨となっている。 -現在ではPSP・PS3のゲームアーカイブスで『リンダキューブアゲイン』を購入可能。ちなみにCERO:C。グロ系に免疫のない方は覚悟してプレイして欲しい。 ---- **余談 -オリジナル版は''18歳以上推奨指定作品''となっている。本作にも暴力表現警告の三角シールが設けられているが、実はこれ、本作のためにソニーが用意したものである。 -シナリオごとにヒロイン・リンダの境遇が違う為、苗字もそれぞれ異なったものに変わっている。 --シナリオAは「リンダ・アウレア」、シナリオBは「リンダ・バーニング」、シナリオCは「リンダ・チャレンジャー」となっている。((ちなみに、アルファベットではAurea、Burning、Challengerとなり、最初の一文字がシナリオに合わせてある)) -PS版の取扱説明書はコミカルなイラストと赤ペンによる注釈が加えられているというモノであり、本編とのギャップが激しい。 --しかし本編の内容に反している訳でもなかったりする。 --SS版の取扱説明書にはPS版とは異なる注釈がなされており、中には情報が少なく捕獲困難だった動物のヒントなどもイラスト付きで描かれている。 --この手書きの注釈は桝田省治の直筆である。~ 最初は他のスタッフに書かせていたそうだが「もっと''字が汚い方がいい''。私がやる」と桝田氏が筆を取った。((ソースはニンテンドードリーム19年4月号のデス仙人のコラム。デス仙人が当時の字の綺麗なスタッフだったそうな。)) -本作の初期案は「天国の動物園」というタイトルで、文字通り動物を集めて動物園を作るというものだった。 --濃いストーリーは無いし、なんと本作の看板たるリンダに該当するキャラすらいなかった、正に動物集めに特化した作品だったと言う。本作におけるシナリオCに近い内容である。 ---しかし知人や関係者からの意見を取り入れ、スケールの壮大化、美少女ヒロインの登場、ストーリーの付加という形で完成形へと近づいて行ったという。タイトルもセールスポイントである「美少女ヒロイン」と「3本のシナリオ」を合わせて『リンダキューブ(Linda3)』に決まった((他に上がった案で「箱船は星の海へ」「Astro Ark」は前者はキャッチコピーに、後者はシナリオCのタイトルに用いられた。))。 --シナリオA、Bも桝田氏の中では本編であるシナリオCの練習用のオマケなのだという。かと言って無難に済ませる気は無く、「''無茶してやれ''」と言う考えと、周囲の「オマケ1本じゃせこい」という意見も取り入れた事で、濃厚でパラレルな本作のシナリオが出来上がった。 ---結果として、シナリオCの伏線をBで引いたりシナリオAで残された謎の解をBに置くなど、パラレルならではのシナリオ構成が可能になり、桝田氏自身も予想だにしなかった発見があったという。 --また、実はシナリオはもう1本用意されており、登場人物の1人のフローラ博士がキーマンとなる内容だったとの事((ホスピコに研究所を構える3人の博士の中で、Aのキーマンのパンハイム、Bのキーマンのエモリに対し、フローラのみ本編には関わってこない。))。 ---しかしその内容は(性的な意味で)相当まずいものだったらしく、桝田氏も「収録しなくて良かった」と語っているほど。ただ、不採用の一番の理由は単に「つまらなかった」かららしい。 -本作の教会のBGMは『[[俺の屍を越えてゆけ]]』に使い回されている。 -2017年5月25日、テレビ東京による地上波のゲーム番組『勇者ああああ』にてなんと本作が紹介された。 --「絶対に8年後に滅びる世界」「箱船の存在と動物収集をする主人公とヒロイン」「動物の捕獲方法と精肉可能である点」「ティッシュの自動消費」「それぞれのシナリオはパラレルな物語」などグロや狂気の部分はカットされたが、それ以外の本作の個性的な部分が紹介されその結果リアルタイム検索で「リンダキューブアゲイン」が1位に上昇する事態と相成った。 -ゲームアーカイブスにおける本作の配信について、アルファ・システムの代表である佐々木哲哉が同社のブログに[[その経緯を記している。>http://www.alfasystem.net/a_m/diary.cgi?date=20080911]] ---- //PCE版、SS版について更に追記お願いします。 //発売日などを足してみましたが、一応CO。 // //家庭用ゲーム初の18歳以上推奨指定というのは誤りなので変更

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