欧州連合・子どもの性的搾取および児童ポルノとの闘いに関する枠組決定(2003年)


 欧州連合理事会は、
 欧州連合条約ならびにとくにその第29条、第31条第1項(e)および第34条第2項(b)を顧慮し、
 〔欧州〕委員会の提案を顧慮し、
 欧州議会の意見を顧慮し、
 一方、
(1)自由、安全および正義の領域においてアムステルダム条約の規定を実施する最善の方法についての理事会および委員会の行動計画、タンペレ欧州理事会の結論および2000年4月11日の欧州議会決議に、子どもの性的搾取および児童ポルノに対する立法措置(共通の定義、罪状および刑罰を含む)またはその呼びかけが含まれているので、
(2)人身取引および子どもの性的搾取と闘うための行動に関する1997年2月24日の理事会共同行動(97/154/JHA)およびインターネット上の児童ポルノと闘うための2000年5月29日の理事会決定(2000/375/JHA)のフォローアップとして、加盟国の多様な法的アプローチに対応し、かつ子どもの性的搾取および児童ポルノに関する効率的な司法共助および法執行共助の発展に寄与するさらなる立法上の措置が必要であるので、
(3)欧州議会が、児童セックス・ツーリズムと闘うための措置の実施についての委員会報告書に関する2000年3月30日の決議において、児童セックス・ツーリズムは子どもの性的搾取および児童ポルノの犯罪と緊密に関連した犯罪行為であることをあらためて指摘し、かつ、委員会に対し、これらの犯罪行為の構成要件に関して最低限の規則を定める枠組決定の提案を理事会に提出するよう要請しているので、
(4)子どもの性的搾取および児童ポルノは、人権、ならびに調和のとれた養育および発達に対する子どもの基本的権利の重大な侵害であるので、
(5)子どもの性的搾取のとくに重大な形態である児童ポルノが、新たな技術およびインターネットの利用により増加しおよび拡散しつつあるので、
(6)国際機関が行なっている重要な活動を欧州連合の活動によって補完しなければならないので、
(7)子どもの性的搾取および児童ポルノのような重大な犯罪については、すべての加盟国に共通する刑事法上の構成要件(効果的な、均衡のとれたかつ抑止効果のある制裁を含む)を可能な最大限の司法共助と並んで不可欠な要素とする、包括的アプローチによって対応することが必要であるので、
(8)補足性および比例制の原則にしたがい、この枠組決定は、欧州レベルでこれらの目的を達成するために必要な最低限の内容に留まるものであって、この目的のために必要な限度を超えるものではないので、
(9)このような犯罪の加害者に対しては、子どもの性的搾取および児童ポルノを、組織犯罪と闘うためにすでに採択されている文書(資金洗浄ならびに犯罪の手段となるものおよび犯罪の収益の特定、追跡、凍結、押収および没収に関する1998年12月3日の理事会共同行動(98/699/JHA)および欧州連合加盟国における犯罪組織への参加の犯罪化に関する1998年12月21日の理事会共同行動(98/699/JHA)等)の適用範囲とするのに十分な厳格性を有する処罰が導入されなければならないので、
(10)子どもの性的搾取との闘いが有する特有の特徴により、加盟国は、国内法において効果的な、均衡のとれたかつ抑止効果のある制裁を定めなければならず、かつ当該制裁は法人が行なう活動にも適合するようにされるべきであるので、
(11)この枠組決定の対象となる犯罪の捜査および訴追を目的とする事情聴取は、被害者が子どもであるときはその年齢および発達段階にしたがって行なわれるべきであるので、
(12)この枠組決定は〔欧州〕共同体の権限を損なうものではないので、
(13)この枠組決定は、理事会が採択した諸文書(人身売買および子どもの性的搾取と闘う担当者のインセンティブ提供および交流プログラムを設ける1996年11月29日の共同行動(96/700/JHA)、欧州薬物対策局に与えられた権限を拡大する1996年12月16日の共同行動(96/748/JHA)、欧州司法ネットワークの創設に関する1998年6月29日の共同行動(98/428/JHA)、欧州連合加盟国間の司法共助を向上させるための連絡担当裁判官の交換の枠組に関する1996年4月22日の共同行動(96/277/JHA)、刑事共助の望ましい実践に関する1998年6月29日の共同行動(98/427/JHA)等)ならびに欧州議会および理事会が採択した諸法(地球規模のネットワークにおける違法なおよび有害なコンテンツと闘うことによりインターネットのより安全な利用を促進することについての複数年次共同体行動計画を採択する1999年1月25日の欧州議会および理事会決定(No 276/1999/EC)、子ども、若者および女性に対する暴力と闘うための予防措置についての共同体行動プログラム(ダフネ・プログラム)を採択する2000年1月24日の欧州議会および理事会決定(No 293/2000/EC)等)を補完することによって子どもの性的搾取および児童ポルノとの闘いに貢献すべきであるので、
 この枠組決定を採択した。

第1条(定義)

 この枠組決定の適用上、
  • (a) 「子ども」とは、18歳未満のすべての者をいう。
  • (b) 「児童ポルノ」とは、次のいずれかを視覚的に描写しまたは表現したポルノ的資料をいう。
    • (i) 性的にあからさまな行為に関与しもしくは従事する実在の子ども(子どもの性器または陰部をみだらに陳列することも含む)。
    • (ii) (i)に掲げられた行為に関与しもしくは従事する、子どものように見える実在の者。
    • (iii) (i)に掲げられた行為に関与しもしくは従事する非実在の子どもの写実的画像。
  • (c) 「コンピュータ・システム」とは、プログラムにしたがってデータの自動処理を行なう装置、または相互に接続されたもしくは関連する一群の装置であってそのうちの一もしくは二以上の装置がプログラムにしたがってデータの自動処理を行なうものをいう。
  • (d) 「法人」とは、適用可能な法律に基づき法人格を有するすべての主体であって、国または国の権限を行使する他の公的機関および公的国際機関を除くものをいう。

第2条(子どもの性的搾取に関わる犯罪)

 各加盟国は、故意に行なわれた次の行為が処罰対象とされることを確保するため、必要な措置をとる。
  • (a) 子どもを威迫して売春させもしくはポルノ的パフォーマンスに参加させること、または当該目的で子どもから利益を得ることもしくはその他の形態により子どもを搾取すること。
  • (b) 子どもを募集して売春を行なわせまたはポルノ的パフォーマンスに参加させること。
  • (c) 次のいずれかの場合に子どもとの性的活動に従事すること。
    • (i) 威迫、有形力または脅迫が用いられるとき。
    • (ii) 性的活動に従事した子どもに対し、引き換えに金銭その他のいずれかの形態の報酬または対価が与えられるとき。
    • (iii) 子どもとの信頼関係、子どもに対する権威または影響力を有すると認められている立場が濫用されるとき。

第3条(児童ポルノに関わる犯罪)

1.各加盟国は、次の行為(コンピュータ・システムを利用して行なわれるか否かは問わない)が故意におよび権限なしに行なわれたときは処罰対象とされることを確保するため、必要な措置をとる。
  • (a) 児童ポルノを製造すること。
  • (b) 児童ポルノを頒布し、配布しまたは送信すること。
  • (c) 児童ポルノを提供し、またはその利用を可能にすること。
  • (d) 児童ポルノを取得しまたは所持すること。
2.加盟国は、児童ポルノに関わる行為が次の条件を満たすときは、その刑事責任を問わないことができる。
  • (a) 第1条(b)(ii)について、子どものように見える実在の者が、描写が行なわれた時点で現に18歳以上であったとき。
  • (b) 第1条(b)(i)および(ii)に関わる製造および所持について、性的同意年齢に達した子どもの画像が、その同意を得ておよび自分たち自身の私的利用のみを目的として製造および所持されるとき。ただし、同意の存在が立証されても、同意を得る際にたとえば年長であること、成熟していること、立場、地位、経験または加害者への被害者の依存が濫用されたときは、当該同意は有効と見なされない。
  • (c) 第1条(b)(iii)について、当該ポルノ的資料が製造者自身の私的利用のみを目的として製造者によって製造および所持される場合であって、その製造のために第1条(b)(i)および(ii)のポルノ的資料がいっさい用いられていないとき。ただし、当該行為に当該資料の配布のおそれがともなわないことを条件とする。

第4条(扇動、幇助、教唆および未遂)

1.各加盟国は、第2条および第3条に掲げられた犯罪の実行の扇動または幇助もしくは教唆が処罰対象とされることを確保するため、必要な措置をとる。
2.各加盟国は、第2条ならびに第3条第1項(a)および(b)に掲げられた犯罪の未遂が処罰対象とされることを確保するため、必要な措置をとる。

第5条(処罰および加重事由)

1.4の規定にしたがうことを条件として、各加盟国は、第2条、第3条および第4条に掲げられた犯罪が少なくとも長期1年から3年の拘禁刑による処罰対象とされることを確保するため、必要な措置をとる。
2.4の規定にしたがうことを条件として、各加盟国は、次の犯罪が少なくとも長期5年から10年の拘禁刑による処罰対象とされることを確保するため、必要な措置をとる。
  • (a) 第2条(a)に掲げる犯罪のうち「子どもを威迫して売春させもしくはポルノ的パフォーマンスに参加させること」および第2条(c)(i)に掲げる犯罪。
  • (b) 第2条(a)に掲げる犯罪のうち「当該目的で子どもから利益を得ることもしくはその他の形態により子どもを搾取すること」および第2条(b)に掲げる犯罪のうち売春に関わる行為について、次に掲げる事由の少なくとも一が該当するとき。
    • 被害者が国内法上の性的同意年齢に達しない子どもであること。
    • 犯罪者が意図的にまたは無謀な行為により子どもの生命を危うくしたこと。
    • 当該犯罪が重大な暴力をともなっており、または当該犯罪によって子どもに重大な危害が生じたこと。
    • 当該犯罪が、共同行動 98/733/JHA に掲げられた処罰の水準に関わらず、当該共同行動にいう組織犯罪の枠組のなかで行なわれたこと。
  • (c) 第2条(a)に掲げる犯罪のうち「当該目的で子どもから利益を得ることもしくはその他の形態により子どもを搾取すること」および第2条(b)に掲げる犯罪のうちポルノ的パフォーマンスに関わる行為、ならびに、第2条(c)(ii)および(iii)ならびに第3条第1項(a)、(b)および(c)に掲げる犯罪について、被害者が国内法上の性的同意年齢に達しない子どもであり、かつ、この項の(b)の第2、第3および第4インデントに掲げられた事由の少なくとも一が該当するとき。
3.各加盟国は、第2条、第3条または第4条に掲げられた犯罪の一について有罪判決を受けた者に関し、適当なときは、子どもの監督に関わる職業上の活動を行なうことを一時的にまたは恒久的に禁止できることを確保するため、必要な措置をとる。
4.各加盟国は、第1条(b)(iii)に掲げられた児童ポルノに関わる行為について、刑事上の制裁以外の制裁または措置を含むその他の制裁を定めることができる。

第6条(法人の責任)

1.各加盟国は、個人としてまたは法人の機関の一部として行動するいずれかの自然人であって当該法人内部で指導的地位にある者が、次のいずれかの権限に基づき、かつ当該法人の利益のために第2条、第3条および第4条に掲げられた犯罪を行なう場合に、当該犯罪に関する責任を当該法人に負わせ得ることを確保するため、必要な措置をとる。
  • (a) 法人の代表権。
  • (b) 法人のために決定を行なう権限。
  • (c) 法人内部で管理を行なう権限。
2.すでに1で規定されている場合とは別に、各加盟国は、1に掲げられた者による監督または管理の欠如により、法人の権限に基づき活動する者が当該法人の利益のために第2条、第3条および第3条に掲げられた犯罪を行なうことが可能になる場合に、当該犯罪に関する責任を当該法人に負わせ得ることを確保するため、必要な措置をとる。
3.1および2に基づく法人の責任は、第2条、第3条および第4条に掲げられた犯罪の加害者、扇動者または共犯者である自然人に対する刑事手続を妨げるものではない。

第7条(法人に対する制裁)

1.各加盟国は、第6条第1項の規定にしたがって責任を負うものとされる法人に対し、効果的な、均衡のとれたかつ抑止効果のある制裁が科されることを確保するため、必要な措置をとる。当該制裁には、刑罰としてのまたは刑罰以外の金銭的制裁を含むものとし、かつ、次のもののようなその他の制裁を含むことができる。
  • (a) 公的な給付金または補助金の受給資格を停止すること。
  • (b) 商業的活動を行なう資格を一時的または恒久的に停止すること。
  • (c) 司法的監督のもとに置くこと。
  • (d) 裁判所による解散命令を発すること。
  • (e) 犯罪を行なうために用いられた施設を一時的にまたは恒久的に閉鎖すること。
2.各加盟国は、第6条第2項の規定にしたがって責任を負うものとされる法人に対し、効果的な、均衡のとれたかつ抑止効果のある制裁が科されることを確保するため、必要な措置をとる。

第8条(裁判権および訴追)

1.各加盟国は、次の場合において第2条、第3条および第4条に掲げられた犯罪についての裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
  • (a) 当該犯罪の全部または一部が自国の領域内で行なわれるとき。
  • (b) 当該犯罪を行なった者が自国の国民であるとき。
  • (c) 犯罪が、当該加盟国の領域で設立された法人の利益のために行なわれるとき。
2.各加盟国は、犯罪が自国の領域外で行なわれる場合、1(b)および1(c)が定める裁判権の規則を適用しないことまたは特定の事案または状況にかぎって適用することを決定することができる。
3.国内法に基づいて自国民の引渡しを行なわない加盟国は、第2条、第3条および第4条に掲げられた犯罪が自国民のいずれかによって自国の領域外で行なわれる場合に当該犯罪について裁判権を設定し、かつ適当なときは訴追を行なうために、必要な措置をとる。
4.加盟国は、2項の規定を適用すると決定するときは、適当なときは当該決定が適用される特定の事案または状況も明らかにして、理事会および委員会の事務局長に対ししかるべき通告を行なう。
5.各加盟国は、第3条に基づく犯罪および関連するときは第4条に基づく犯罪が自国の領域内からアクセスされたコンピュータ・システムを利用して行なわれる場合に、当該コンピュータ・システムが自国の領域にあるか否かに関わらず、当該状況が自国の裁判権の対象に含まれることを確保する。
6.各加盟国は、第2条に掲げられた犯罪のうち少なくとももっとも重大な犯罪について、国内法にしたがって被害者が成年に達した後に当該犯罪の訴追を可能とするため、必要な措置をとる。

第9条(被害者の保護および被害者への援助)

1.加盟国は、この枠組決定の対象とされる犯罪の捜査または訴追について、少なくとも第8条第1項(a)が該当する場合に、当該犯罪の被害を受けた者による通報または告発が要件とされないことを定める。
2.第2条に掲げられた犯罪の被害者は、刑事手続における被害者の地位に関する2001年3月15日の理事会枠組決定(2001/220/JHA)第2条第2項、第8条第4項および第14条第1項にしたがい、とくに脆弱な状況にある被害者と見なされるべきである。
3.各加盟国は、被害者の家族に対する適切な援助を確保するため、可能なあらゆる措置をとる。各加盟国はとくに、適切かつ可能なときは、前項の枠組決定第4条の規定を当該規定に掲げられた家族に適用する。

第10条(領域的適用範囲)

 この枠組決定は、ジブラルタルにも適用される。

第11条(共同行動 97/154/JHA の廃止)

 共同行動 97/154/JHA はここに廃止する。

第12条(実施)

1.加盟国は、遅くとも2006年1月20日までにこの枠組決定を遵守するために必要な措置をとる。
2.加盟国は、2006年1月20日までに、この枠組決定に基づいて課される義務を自国の国内法に編入する規定の文を、理事会および委員会の事務局長に送付する。理事会は、2008年1月20日までに、この情報を利用して作成された報告書および委員会の報告書に基づき、加盟国がこの枠組決定の規定をどの程度遵守しているかについての評価を行なう。

第13条(発効)

 この枠組決定は、欧州連合官報に掲載された日に効力を生ずる。


2003年12月22日にブリュッセルで作成した。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年8月17日)。
最終更新:2011年08月17日 12:54