子どもの権利委員会・一般的意見10号:少年司法における子どもの権利(前編)


子どもの権利委員会
第44会期(2007年1月15日~2月2日)採択
CRC/C/GC/10(原文英語〔PDF〕)
日本語訳:平野裕二〔日本語訳全文(PDF)

目次
I.はじめに
II.この一般的意見の目的
III.少年司法:包括的政策の主導的原則
IV.少年司法:包括的政策の中核的要素
  • A.少年非行の防止
  • B.介入/ダイバージョン(後掲Eも参照)
  • C.年齢と、法に抵触した子ども
  • D.公正な審判のための保障 → 中編
  • E.処分(前掲IV章Bも参照)
  • F.自由の剥奪(審判前の勾留および審判後の収容を含む) → 後編
V.少年司法の組織
VI.意識啓発および訓練
VII.データ収集、評価および調査研究

I.はじめに

1.締約国は、子どもの権利に関する委員会(以下「委員会」)に提出する報告において、刑法に違反したとして申立てられ、罪を問われ、または認定された子ども(「法律に抵触した子ども」とも称される)の権利についてかなり詳細な注意を払うことが多い。委員会の定期報告書ガイドラインにしたがい、子どもの権利に関する条約(以下「条約」)第37条および第40条の実施状況が、締約国によって提供される情報の主たる焦点である。委員会は、条約にしたがって少年司法の運営を確立しようとする多くの努力に、評価の意とともに留意する。しかしながら、たとえば手続的権利、法に抵触した子どもを司法手続によらずに取り扱うための措置の開発および実施、ならびに、最後の手段に限られた自由の剥奪の利用等の分野において、多くの締約国が、条約の全面的遵守の達成にはいまなおほど遠い状況にあることもまた明らかである。
2.委員会は同様に、子どもが法律に抵触することを防止するために締約国がとった措置に関する情報が欠けていることを懸念する。これは、少年司法分野で包括的政策が存在しないことによるのかもしれない。このことが、法律に抵触した子どもの取扱いについて多くの締約国が(きわめて)限られた統計的データしか提供しないことの理由である可能性もある。
3.少年司法分野における締約国の履行状況を検討してきた経験こそ、委員会がこのような一般的意見を作成した理由である。委員会は、この一般的意見によって、締約国に対し、条約にしたがって少年司法の運営を確立するための努力に関わるより詳細な指針および勧告を提示したいと考える。このような少年司法においては、とくにダイバージョンおよび修復的司法のような代替的措置の活用が促進されるべきであり、締約国はこれによって、法律に抵触した子どもに、これらの子どもの最善の利益のみならず社会全体の短期的・長期的利益にもかなう、いっそう効果的な方法で対応できるようになろう。

II.この一般的意見の目的

4.委員会は最初に、条約では締約国に対して包括的な少年司法政策の策定および実施が求められていることを強調しておきたい。このような包括的アプローチは、条約第37条および第40条に掲げられた具体的規定の実施に限定されるのではなく、条約第2条、第3条、第6条および第12条に掲げられた一般原則ならびに条約の他のあらゆる関連条項(第4条および第39条等)も考慮に入れたものであるべきである。したがって、この一般的意見の目的は次のとおりとなる。
  • 条約にもとづいて、かつ条約にしたがって少年非行を防止しかつこれに対応するための包括的な少年司法政策を策定および実施するとともに、これに関わって、国連経済社会決議1997/30で設置され、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連児童基金(UNICEF)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)および非政府組織(NGO)の代表が参加する「少年司法に関する機関横断パネル」の助言および支援を得るよう、締約国に対して奨励すること。
  • 少年非行の防止、司法手続によることなく少年非行に対応することを可能にする代替的措置の導入、ならびに、条約第37条および第40条の他のあらゆる規定の解釈および実施にとくに注意を払いながら、このような包括的な少年司法政策の内容について締約国に指針および勧告を提示すること。
  • 他の国際基準、とくに少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、自由を奪われた少年の保護に関する国連指針(ハバナ規則)および少年非行の防止のための国連指針(リャド・ガイドライン)が、国レベルの包括的な少年司法政策に統合されることを促進すること。

III.少年司法:包括的政策の主導的原則

5.条約の諸要件についてより詳しく展開する前に、委員会は、少年司法に関する包括的政策の主導的原則をまず挙げておきたいと考える。少年司法の運営にあたって、締約国は、条約第2条、第3条、第6条および第12条に掲げられた一般原則、ならびに、条約第37条および第40条に掲げられた少年司法の基本的原則を体系的に適用しなければならない。

差別の禁止(第2条)
6.締約国は、法律に抵触したすべての子どもが平等に取り扱われることを確保するために、あらゆる必要な措置をとらなければならない。事実上の差別および格差に対し、特段の注意を払わなければならない。このような差別および格差は、一貫した政策が存在しないことを理由として、ストリートチルドレン、人種的、民族的、宗教的または言語的マイノリティに属する子ども、先住民族の子ども、女児、障害のある子どもおよび繰り返し法律に抵触する子ども(累犯者)のような、被害を受けやすい立場に置かれた集団の子どもに関わって生じる可能性がある。これとの関連で、少年司法の運営に携わるあらゆる専門家の訓練(後掲パラ97参照)が、罪を犯した子どもの平等な取扱いを増進しかつ是正措置、救済および補償を提供する規則、規定または手順書の確立とともに、重要である。
7.法律に抵触した子どもの多くは、たとえば教育または労働市場へのアクセスを試みたときに、差別の被害者ともなる。とくに、かつて罪を犯した子どもが社会に再統合しようと努力するさいに適切な支援および援助を提供することによって、このような差別を防止し、かつ、社会において建設的な役割を担うこれらの子どもの権利(条約第40条1項)を強調する公的キャンペーンを行なうための措置をとることが必要である。
8.刑法に、浮浪、怠学、家出など、心理的または社会経済的問題の結果であることが多い子どもの行動上の問題を犯罪化する条項が掲げられていることは、きわめてよく見られる。とりわけ、女児およびストリートチルドレンがこのような犯罪化の被害者であることが多いのは懸念の対象である。地位犯罪としても知られるこれらの行為は、成人が行なった場合には犯罪とは見なされない。委員会は、締約国に対し、子どもと成人について法のもとにおける平等な取扱いを確立する目的で、地位犯罪に関する規定を廃止するよう勧告する。これとの関連で、委員会はまた、リャド・ガイドライン第56条も参照するよう求めるものである。そこでは次のように定められている。「青少年がさらなるスティグマ(烙印)、被害および犯罪者扱いの対象となることを防止する目的で、成人が行なった場合には犯罪と見なされないまたは処罰されないいずれかの行為は、青少年が行なった場合にも犯罪と見なされないまたは処罰されないことを確保するため、法律が制定されるべきである」
9.加えて、浮浪、路上徘徊または家出のような行動への対応は、親および(または)その他の養育者への効果的支援を含む子ども保護措置、および、このような行動の根本的原因に対応する措置の実施を通じて、行なわれるべきである。

子どもの最善の利益(第3条)
10.少年司法の運営との関わりで行なわれるすべての決定において、子どもの最善の利益が第一義的に考慮されなければならない。子どもは、その身体的および心理的発達ならびに情緒的および教育的ニーズの面で、成人とは異なる。このような違いが根拠となって、法律に抵触した子どもの有責性は軽減されるのである。これらのものをはじめとする違いこそが独立の少年司法制度を設けなければならない理由であり、そこでは子どもの異なる取扱いが要求される。子どもの最善の利益を保護するとは、たとえば、罪を犯した子どもに対応するさいには刑事司法の伝統的目的(禁圧/応報)に代えて立ち直りおよび修復的司法という目的が追求されなければならないということである。このような対応は、実効的な公共の安全にも注意しながら進めることができる。

生命、生存および発達に対する権利(第6条)
11.すべての子どもが有しているこの固有の権利は、締約国が少年非行の防止のための効果的な国の政策およびプログラムを策定するにあたり、指針および示唆の源とされるべきである。非行が子どもの発達にきわめて否定的な影響を及ぼすことは、言うまでもないからである。さらに、この基本的権利は、子どもの発達を支援するような方法で少年非行に対応するための政策につながらなければならない。死刑および仮釈放の可能性のない終身刑は、条約第37条(a)で明示的に禁じられている(後掲パラ75-77参照)。自由の剥奪の利用は、調和のとれた子どもの発達にとってきわめて重大な帰結をもたらすとともに、社会への子どもの再統合を深刻に阻害する。これとの関連で、条約第37条(b)は、発達に対する子どもの権利が全面的に尊重および確保されるよう、逮捕、拘禁または収監を含む自由の剥奪は最後の手段として、かつもっとも短い適当な期間でのみ用いられるべきことを、明示的に規定しているところである(後掲パラ78-88参照)[1]。
[1] 自由を奪われた子どもに対して条約で認められている諸権利は、法律に抵触した子どもに対しても、ケア、保護もしくは治療(精神保健的治療、教育的治療および薬物治療を含む)のための施設、児童保護施設または出入国管理施設に措置された子どもに対しても適用されることに注意。

意見を聴かれる権利(第12条)
12.子どもに関わるあらゆる事柄について自由に自己の見解を表明する子どもの権利は、少年司法手続のすべての段階を通じて全面的に尊重および実施されるべきである(後掲パラ43-45参照)。委員会は、少年司法制度に関わった子どもたちの声がますます、改善および改革のための、かつ権利の充足のための、強力な原動力になりつつあることに留意する。

尊厳(第40条1項)
13.条約は、法律に抵触した子どもに与えられるべき取扱いについての一連の基本的原則を定めている。
  • 尊厳および価値についての子どもの意識に合致した取扱い。この原則は、すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利について平等であると定める世界人権宣言第1条に掲げられた基本的人権を反映するものである。尊厳および価値に対する固有の権利は、条約前文でも明示的に言及されているものであり、法執行機関との最初の接触から子どもに対応するあらゆる措置の実施に至るまでの、子どもに対応する手続全体を通じて尊重および保護されなければならない。
  • 子どもによる、他の者の人権および基本的自由の尊重を強化する取扱い。この原則は、前文において、子どもは国際連合憲章に宣明された理想の精神のもとで育てられるべきであるとされていることと合致するものである。この原則はまた、少年司法制度において、子どもの取扱いおよび教育が人権および自由の尊重を発展させることを目的として行なわれなければならないということも意味する(条約第29条1項(b)および教育の目的に関する一般的意見1号参照)。このような少年司法の原則により、条約第40条2項で認められている公正な裁判のための保障が全面的に尊重されかつ実施されなければならないことは、明らかである(後掲パラ40-67参照)。警察官、検察官、裁判官および保護観察官など、少年司法における重要な主体がこれらの保障を全面的に尊重および保護しようとしなければ、このような貧弱な範しか示されなかった子どもが他の者の人権および基本的自由を尊重するようになることなど、どのようにして期待できるだろうか。
  • 子どもの年齢を考慮に入れた、かつ、子どもが社会復帰しかつ社会において建設的な役割を果たすことを促進する取扱い。この原則は、法執行機関との最初の接触から子どもに対応するあらゆる措置の実施に至るまでの、子どもに対応する手続全体を通じて適用、遵守および尊重されなければならない。この原則により、少年司法の運営に携わるあらゆる専門家は、子どもの発達、子どもの力強くかつ継続的な成長、子どもの福祉にとって適切な対応、および、子どもを対象として蔓延している諸形態の暴力について、知悉していることが求められる。
  • 子どもの尊厳が尊重されるようにするためには、法律に抵触した子どもの取扱いにおけるあらゆる形態の暴力が禁止および防止されなければならない。委員会が受け取ってきた報告によれば、暴力は、警察との最初の接触から、審判前の勾留の最中、および、自由剥奪刑を言い渡された子どものための処遇施設その他の施設での滞在中に至るまでの、少年司法手続のあらゆる段階で発生している。委員会は、締約国に対し、このような暴力を防止し、かつ加害者が裁判にかけられることを確保するために効果的な措置をとるとともに、2006年10月に国連総会に提出された「子どもに対する暴力に関する国連研究」報告書で行なわれている勧告を効果的にフォローアップするよう、促すものである。
14.委員会は、公共の安全の保全が司法制度の正当な目的のひとつであることを認知する。しかし委員会は、この目的の達成にもっとも役立つのは、条約に掲げられた少年司法の主導的かつ総括的な原則を全面的に尊重および実施することであるという見解をとるものである。

IV.少年司法:包括的政策の中核的要素

15.少年司法に関する包括的政策においては、次の中核的要素が取り上げられなければならない。すなわち、少年非行の防止、司法手続によらない介入および司法手続の文脈における介入、刑事責任に関する最低年齢および少年司法の適用年齢の上限、公正な審判のための保障、ならびに、自由の剥奪(審判前の勾留および審判後の収容を含む)である。

A.少年非行の防止

16.条約の実施におけるもっとも重要な目標のひとつは、子どもの人格、才能ならびに精神的および身体的能力の完全なかつ調和のとれた発達を促進することである(前文ならびに第6条・第29条)。子どもは、自由な社会において個人として責任のある生活を送るための準備ができるようにされるべきであり(前文・第29条)、そのような社会において、人権および基本的自由に関わって建設的な役割を担うことができなければならない(第29条・第40条)。これとの関連で、親には、条約において認められる権利を子どもが行使するにあたって、子どもの発達しつつある能力と一致する方法で適当な指示および指導を行なう責任がある。これらのものをはじめとする条約の規定に照らせば、犯罪活動に従事するようになるおそれを高めさせ、またはそのような重大なおそれを引き起こす可能性のある環境のもとで子どもが成長することが、子どもの最善の利益にそぐわないことは明らかである。十分な生活水準(第27条)、到達可能な最高水準の健康および保健ケアへのアクセス(第24条)、教育(第28条・第29条)、あらゆる形態の身体的もしくは精神的暴力、傷害または虐待(第19条)および経済的または性的搾取(第32条・第31条)からの保護、ならびに、子どものケアまたは保護のためのその他の適切なサービスに対する諸権利を全面的にかつ平等に実施するために、種々の措置がとられなければならない。
17.上述のように、少年非行の防止を目的とした一連の措置を欠いた少年司法政策には重大な欠陥がある。締約国は、少年司法に関する自国の包括的な国家政策のなかに、1990年12月14日に国連総会(決議45/112)で採択された少年非行の防止に関する国連指針(リャド・ガイドライン)を全面的に統合するべきである。
18.委員会はリャド・ガイドラインを全面的に支持するとともに、とくに家族、コミュニティ、仲間集団、学校、職業訓練および仕事の世界ならびにボランティア組織を通じて、あらゆる子どもが社会化と統合を果たすことを促進するような防止政策が重視されるべきであるという点について同意するものである。このことはとりわけ、防止政策においては、とくに脆弱な立場に置かれた家族を支援すること、基本的価値観に関する教育(法律にもとづく子どもと親の権利および責任についての情報を含む)に学校が関与すること、および、危険な状態に置かれている若者に特別なケアおよび注意を向けることに焦点が当てられなければならないということを意味する。これとの関連で、学校から脱落した子どもまたはその他の形で教育を修了していない子どもにも、特段の注意が向けられるべきである。仲間集団による支援の活用および親の強力な関与が推奨される。締約国はまた、子ども(とくに繰り返して法律に抵触する子ども)の特別なニーズ、問題、関心事および利益に対応し、かつその家族に適切なカウンセリングおよび指導を提供するような、コミュニティを基盤とするサービスおよびプログラムも発展させるべきである。
19.条約第18条および第27条は子どもの養育に対する親の責任の重要性を確認しているが、条約は同時に、締約国に対し、親(または他の養育者)が親としての責任を果たすにあたって必要な援助を与えることも求めている。援助のための措置は、否定的な状況が生ずることの防止のみならず、親の社会的可能性の促進にもよりいっそうの焦点を当てるようなものであるべきである。親の訓練、親子の相互交流増進プログラムおよび家庭訪問プログラムのような、家庭および家族を基盤とする防止プログラムについては豊富な情報が存在しており、またこれらのプログラムは子どもがごく幼い段階から開始することができる。これに加えて、乳幼児期教育が将来の暴力および犯罪の発生率の低下と相関関係にあることもわかっている。コミュニティ・レベルでは、リスクに焦点を当てた防止戦略である「配慮に満ちたコミュニティ」(CTC)のようなプログラムによって成果が得られてきた。
20.締約国は、防止プログラムの開発および実施に、条約第12条にしたがって子どもが、また親、コミュニティの指導者その他の重要な主体(たとえばNGO、保護観察機関およびソーシャルワーク機関の代表)が参加することを全面的に促進および支援するべきである。このような参加の質こそが、これらのプログラムの成功の鍵となる。
21.委員会は、締約国が、効果的な防止プログラムを開発する取り組みを進めるにあたって「少年司法に関する機関横断パネル」の支援および助言を求めるよう勧告する。

B.介入/ダイバージョン(後掲Eも参照)

22.刑法に違反したとして申立てられ、罪を問われ、または認定された子どもに対応するにあたって、国の機関は2種類の介入策を用いることができる。司法手続によらない措置と、司法手続の文脈における措置である。委員会は、締約国に対し、これらの措置において子どもの人権および法的保障が全面的に尊重および保護されることを確保するために最大限の配慮がなされなければならないことを、想起するよう求める。
23.法律に抵触した子ども(累犯者である子どもを含む)は、子どもが社会に再統合し、かつ社会において建設的な役割を担うことを促進するような方法で取り扱われる権利を有する(条約第40条1項)。子どもの逮捕、拘禁または収監は、最後の手段としてでなければ用いてはならない(第37条(b))。したがって、子どもがその福祉にとって適切で、かつその状況および行なわれた犯罪のいずれにも見合う方法で取り扱われることを確保するための広範な効果的措置を――少年司法に関する包括的政策の一環として――発展させ、かつ実施することが必要となる。これらの措置には、ケア、指導および監督の命令、カウンセリング、保護観察、里親養護、教育および職業訓練のプログラムならびに施設内処遇に代わる他の代替的措置などの、多様な処分が含まれるべきである(第40条4項)。

司法手続によらない介入
24.条約第40条3項によれば、締約国は、適当かつ望ましいときは常に、刑法に違反したとして申立てられ、罪を問われ、または認定された子どもを司法手続によらずに取り扱うための措置を促進するよう努めなければならない。罪を犯した子どもの大半は軽微な犯罪を行なったにすぎないことを踏まえれば、刑事/少年司法手続による処理からの除外およびこれに代わる(社会)サービスへの付託(すなわちダイバージョン)をともなう一連の措置が、ほとんどの事件において利用可能な、かつ利用されるべき実務として定着することが求められる。
25.委員会の見解では、法律に抵触した子どもを司法手続によらずに取り扱うための措置を促進する締約国の義務は、万引きまたは被害が限定されたその他の財産犯罪のような軽微な犯罪を行なった子ども、および初犯の子どもに対して適用される(ただし、もちろんこれに限られるものではない)。多くの締約国の統計が示すところによれば、子どもが行なう犯罪のかなりの部分(しばしば大半)はこれらの範疇に属するものである。このようなあらゆる事件を裁判所における刑事司法手続によらずに取り扱うことは、条約第40条1項に掲げられた諸原則に一致している。このようなアプローチは、スティグマの付与の回避につながるのに加えて、子どもにとっても公共の安全の利益にとっても望ましい結果をもたらすとともに、費用対効果もいっそう高いことが証明されてきた。
26.締約国は、法律に抵触した子どもを司法手続によらずに取り扱うための措置を自国の少年司法制度の不可欠な要素として位置づけるとともに、当該措置において子どもの人権および法的保障が全面的に尊重および保護されることを確保するべきである(第40条3項(b))。
27.法律に抵触した子どもを司法手続によらずに取り扱うための措置の正確な性質および内容について決定し、かつその実施のために必要な立法上その他の措置をとることは、締約国の裁量に委ねられている。とはいえ、一部締約国の報告書で提供された情報にもとづき、コミュニティを基盤とする多様なプログラムが開発されてきたことは明らかである。これには、社会奉仕、たとえばソーシャルワーカーまたは保護観察官による監督および指導、ファミリー・コンファランス〔家族集団会議〕ならびにその他の形態の修復的司法措置(被害者に対する原状回復および賠償を含む)などがある。他の締約国はこれらの経験を活用するべきである。人権および法的保障の全面的尊重に関しては、委員会は条約第40条の関連規定を参照するよう求めるとともに、次の点を強調するものである。
  • ダイバージョン(すなわち、刑法に違反したとして申立てられ、罪を問われ、または認定された子どもを司法手続によらずに取り扱うための措置)は、申立てられた犯罪を子どもが行なったこと、子どもが自由にかつ自発的に責任を認めており、かつ当該責任を認めさせるためにいかなる脅迫または圧力も用いられなかったこと、ならびに、最後に、子どもが当該責任を認めたことがその後のいかなる法的手続においても子どもの不利になるような形で用いられないことについて確証がある場合にのみ、活用されるべきである。
  • 子どもは、ダイバージョンについて、自由なかつ自発的な同意を書面で与えなければならない。このような同意は、措置の性質、内容および期間、ならびに、措置に協力せず、これを実行せずおよび修了しなかった場合の対応に関する、十分かつ具体的な情報にもとづいて与えられるべきである。締約国は、親の関与を強化する目的で、とくに子どもが16歳未満である場合には、親の同意も要件とすることを考慮してもよい。
  • 法律には、どのような場合にダイバージョンが可能かを明らかにする具体的規定が置かれていなければならず、またこの点に関わる決定を行なう警察、検察官および(または)その他の機関の権限は、とくに子どもを差別から保護する目的で、規制および審査の対象とされるべきである。
  • 子どもに対しては、権限ある機関から提示されたダイバージョンの適切さおよび望ましさならびに当該措置の再審査の可能性について、弁護士その他の適切な援助を行なう者と協議する機会が与えられなければならない。
  • 子どもがダイバージョンを完了したことをもって、事件の確定的および最終的終結とされるべきである。ダイバージョンについての秘密記録を行政上および再審査上の目的で保管することはできるが、当該記録は「犯罪記録」ととらえられるべきではなく、また過去にダイバージョンの対象とされた子どもが前科を有するものと見なされてはならない。ダイバージョンについていずれかの登録が行なわれるときは、当該情報へのアクセス権は、法律に抵触した子どもに対応する権限を認められた機関に対して専権的に、かつ期間を限定して(たとえば最大1年)認められるべきである。

司法手続の文脈における介入
28.権限ある機関(通常は検察官事務所)によって司法手続が開始されるときは、公正な審判の原則が適用されなければならない(後掲D参照)。同時に、少年司法制度においては、社会的および(または)教育的措置を活用することによって法律に抵触した子どもに対応し、かつ、最後の手段としての自由の剥奪(およびとくに審判前の勾留)の使用を厳格に制限するための豊富な機会が用意されるべきである。手続の処分段階においては、自由の剥奪は最後の手段として、かつもっとも短い適当な期間でのみ用いられなければならない(第37条(b))。すなわち締約国は、指導および監督の命令、保護観察、社会内モニタリングまたはデイ・レポート・センター〔通所型保護観察施設〕、ならびに自由の剥奪からの早期釈放の可能性のような措置を最大限にかつ効果的に活用できるように、十分な訓練を受けた職員による保護観察機関を整備することが求められる。
29.委員会は、条約第40条1項にしたがって、再統合のためには、スティグマの付与、社会的孤立または子どもに関する否定的な情報公開といった、コミュニティへの子どもの全面的参加を阻害しうるいかなる行動もとられてはならないことを想起するよう、締約国に求める。法律に抵触した子どもが再統合を促進するような方法で取り扱われるようにするために、子どもが社会の完全かつ建設的な構成員になることが、あらゆる行動によって支援されるべきである。

C.年齢と、法に抵触した子ども

刑事責任に関する最低年齢
30.締約国によって提出された報告書が示すところによれば、刑事責任に関する最低年齢については広範な幅が存在する。7~8歳という非常に低い水準から、14~16歳という、賞賛に値する高い水準までさまざまである。刑事責任に関して2つの最低年齢を用いている国もかなり多い。法律に抵触した子どものうち、犯罪遂行時に低いほうの最低年齢には達しているものの高いほうの最低年齢に達していない者は、この点に関して必要な成熟度を有している場合にのみ、刑事責任を有すると推定されるのである。このような成熟度の評価は、しばしば心理学の専門家の関与を要件としないまま、裁判所/裁判官に委ねられており、そのため重大な犯罪の場合には低いほうの最低年齢を用いるという実務が行なわれている。2つの最低年齢を用いる制度はしばしば混乱を招くのみならず、裁判所/裁判官の裁量に多くが委ねられ、結果として差別的実務が行なわれる可能性が生ずる。刑事責任に関する最低年齢についてこのような広い幅があることに照らし、委員会は、刑事責任に関する最低年齢について明確な指針と勧告を締約国に示す必要があると感ずるものである。
31.条約第40条3項は、締約国に対し、とくに、刑法に違反する能力を有しないと推定される最低年齢の確立の促進に努めるよう求めているが、この点に関わる具体的な最低年齢は挙げていない。委員会は、この規定を、締約国が刑事責任に関する最低年齢(MACR)を設ける義務として理解するものである。このような最低年齢とは、次のことを意味する。
  • 当該最低年齢に達しない年齢のときに罪を犯した子どもは、刑法上の手続において責任を問うことはできない。確かに(きわめて)若年の子どもでさえ刑法に違反する能力は有しているが、その子どもが罪を犯したときにMACRに達していなければ、刑法上の手続において正式に告発し、かつ責任を問うことはできないという反駁不能の推定が成立する。このような子どもについては、その最善の利益のために必要であれば、特別な保護措置をとることができる。
  • 犯罪遂行時に(すなわち刑法に違反したときに)MACRには達していたが18歳未満であった子ども(後掲パラ35-38参照)は、正式に告発し、かつ刑法上の手続の対象とすることができる。ただしこれらの手続(終局的結果を含む)は、この一般的意見で詳しく述べられている条約の原則および規定を全面的に遵守するものでなければならない。
32.北京規則の規則4は、情緒的、精神的および知的成熟に関する事実を念頭に置き、MACRの始期はあまりにも低い年齢に定められてはならないと勧告している。この規則にしたがい、委員会は、締約国に対し、MACRをあまりにも低い水準に設定するべきではないこと、および、現行の低いMACRを国際的に受け入れられている水準まで引き上げることを勧告してきた。これらの勧告から、刑事責任に関する最低年齢が12歳に満たないときには、委員会はこれを国際的に受け入れられるものとは見なさないという結論を導き出すことができる。締約国は、これよりも低いMACRを12歳まで引き上げて絶対的最低年齢とし、かつ、これよりも高い年齢水準への引き上げを継続するよう奨励される。
33.委員会は同時に、締約国に対し、自国のMACRを12歳まで引き下げることがないよう促す。より高い、たとえば14歳または16歳というMACRは、条約第40条3項(b)にしたがい、法律に抵触した子どもを司法的手続によらずに取り扱う少年司法制度(ただし、子どもの人権および法的保障が全面的に尊重されることを条件とする)に貢献するものである。これとの関連で、締約国は、自国の法律で定められたMACRに満たない子どもが刑法に違反したとして認定され、またはそのように申し立てられもしくは罪を問われた場合にどのように取り扱われるか、および、そのような子どもの取扱いがMACR以上の子どもの取扱いと同じぐらい公正かつ正当であることを確保するためにどのような法的保障が設けられているかについて、自国の報告書において、具体的な形で詳しく委員会に情報を提供することが求められる。
34.委員会は、MACRに関する例外を認める慣行について懸念を表明したい。これは、子どもがたとえば重大な犯罪を行なったとして罪に問われている場合、または子どもが刑事責任を問うのに十分な成熟度を有していると見なされる場合に、刑事責任に関するより低い最低年齢を用いてもよいとするものである。委員会は、締約国が、例外としてより低い年齢を用いることを認めないような形でMACRを定めるよう強く勧告する。
35.年齢の証明がなく、かつ子どもがMACRに達していることが立証できないときは、その子どもは刑事責任を有しないものとされなければならない(後掲パラ39参照)。

少年司法に関する年齢の上限
36.委員会はまた、少年司法の諸規則の適用に関する年齢の上限に対しても締約国の注意を促したい。これらの特別規則は――特別な手続規則ならびにダイバージョンおよび特別措置に関する規則のいずれの面でも――、その国で定められたMACRに始まって、犯罪(または刑法で処罰対象とされている行為)を行なったとされた時点で18歳に達していなかったすべての子どもに適用されるべきである。
37.委員会は、締約国が、刑法に違反したとして申し立てられ、罪を問われ、または認定された場合に条約第40条の規定にしたがって取り扱われる、すべての子どもの権利を認めたことを想起するよう求めたい。このことは、罪を犯したとされる時点で18歳未満であったすべての者は、少年司法の諸規則にしたがって取り扱われなければならないことを意味する。
38.したがって委員会は、自国の少年司法の諸規則の適用を16歳(またはそれ以下の年齢)未満の子どもに限定している締約国、または16歳ないし17歳の子どもが例外的に成人犯罪者として扱われることを認めている締約国に対し、少年司法の諸規則が18歳未満のすべての者を対象として差別なく全面的に実施されるようにする目的で法律を改正するよう勧告する。委員会は、一部の締約国が、一般的規則としてまたは例外としてのいずれであるかに関わらず、少年司法の諸規則を18歳以上の者に対して(通常は21歳まで)適用することを認めていることについて、評価の意とともに留意するものである。
39.最後に、委員会は、とくにすべての子どもが出生後ただちに登録されることを求めた条約第7条の全面的実施のためには、いずれかの方法で年齢制限を定めることがきわめて重要であることを強調したい。これはあらゆる締約国にとって当てはまることである。生年月日を証明できない子どもは、家族、仕事、教育および労働に関して、とくに少年司法制度内で、あらゆる種類の虐待および不公正な取扱いをきわめて受けやすくなる。すべての子どもは、自分の年齢を証明するために必要なときは常に、出生証明書を無償で提供されなければならない。年齢の証明がない場合、子どもは、年齢を立証できる可能性のある、信頼できる医学的または社会的調査の対象とされる資格を有し、かつ、証拠に矛盾がある場合または決定的な証拠がない場合には、灰色の利益の原則の対象とされる権利を有する。

→ 中編に続く


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