子どもにやさしい司法に関する欧州評議会閣僚委員会指針

  • 採択日:2010年11月17日
  • 原文英語(日本語訳:平野裕二)

前文

 閣僚委員会は、
 欧州評議会の目的が、とくに法律上の問題に関する共通の規則の採択を促進することによって加盟国間におけるさらなる統一を達成することであることを考慮し、
 子どもの権利を保護しかつ促進する、拘束力を有する既存の国際基準および欧州の基準(とくに以下のものを含む)の効果的実施を確保する必要があることを考慮し、
 ECHRで保障されているとおり、かつ欧州人権裁判所の判例にしたがって、司法および公正な裁判に対し――そのすべての構成要素(とくに情報を知らされる権利、意見を聴かれる権利、弁護人選任権および代理人選任権を含む)に関して――アクセスするすべての者の権利は、民主的社会において必要なものであり、かつ子どもにも平等に適用される(ただし、その際には自己の意見を形成する子どもの能力が考慮される)ことを考慮し、
 関連する欧州人権裁判所の判例、欧州評議会諸機関の決定、報告書その他の文書(拷問および非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰の防止に関する欧州委員会(CPT)の勧告を含む)、ならびに、欧州評議会人権コミッショナーの声明および見解ならびに欧州評議会議員会議の種々の勧告を想起し、
 閣僚委員会が子どもの権利の分野で加盟国に対して行なった種々の勧告(庇護希望者の収容措置に関する勧告Rec(2003)5、少年非行に対する新たな対処法および少年司法の役割に関する勧告Rec(2003)20、入所施設で暮らす子どもの権利に関する勧告Rec(2005)5、欧州刑務所規則に関する勧告Rec(2006)2、制裁または措置の対象とされた少年犯罪者のための欧州規則に関する勧告CM/Rec(2008)11、および、子どもを暴力から保護するための統合的国家戦略についての政策指針に関する勧告CM/Rec(2009)10を含む)に留意し、
 第28回欧州法務大臣会議で採択された、子どもにやさしい司法に関する決議第2号(ランサローテ、2007年10月)を想起し、
 以下のもののような、国際連合による子どもの権利の保障の重要性を考慮し、
 加盟国がより高い基準またはより望ましい措置を導入しまたは適用することを妨げることなく、子どもの権利に関する既存の拘束的規範の効果的実施を保障する必要があることを想起し、
 欧州評議会プログラム「子どもたちのためにおよび子どもたちとともに築くヨーロッパ」を参照し、
 子どもにやさしい司法の実施に向けて加盟国で達成された進展を認知し、
 にもかかわらず、司法制度に子どもにとっての障壁が存在していること(とくに、司法にアクセスする権利が存在せず、部分的でありまたは条件付であること、手続が多様かつ複雑であること、種々の事由に基づく差別の可能性があることなど)に留意し、
 子どもが関与するまたは子どもに影響を与える手続において、子どもが司法制度による二次被害を受ける可能性を防止する必要があることを想起し、
 現存する欠陥および問題点について調査し、かつ子どもにやさしい司法の原則および実務を導入しうる分野を特定するよう、加盟国に対して慫慂し、
 欧州評議会加盟国全域で協議の対象とされた子どもたちの意見および見解を認知し、
 この指針が、法律上および実務上存在する欠点の実際的是正策を明らかにすることに対する貢献を目的としていることに留意し、
 加盟国が子どもの具体的な権利、利益およびニーズにあわせて司法制度および司法外制度のあり方を修正するための実践的ツールとして以下の指針を採択するとともに、加盟国に対し、司法における子どもの権利に責任を負いまたはその他の形で関係しているすべての公的機関の間でこの指針が広く普及されることを確保するよう、慫慂する。

I.適用範囲および目的

1.この指針では、司法手続およびそのような手続に代わる措置における子どもの立場および役割ならびに意見、権利およびニーズの問題について取り扱う。
2.この指針は、いかなる理由に基づいてであるかおよびいかなる立場においてであるかを問わず、子どもが、刑事法、民事法または行政法の実施に関与するあらゆる権限ある機関および部局と何らかの方法で接触するあらゆる場合に適用されるべきである。
3.この指針の目的は、そのようないかなる手続においても、子どものすべての権利、とくに情報に対する権利、代理人選任権、参加権および保護に対する権利が、子どもの成熟度および理解力ならびに事案の事情を正当に考慮しながら全面的に尊重されることを確保することである。子どもの権利を尊重することにより、他の関係当事者の権利が脅かされるべきではない。

II.定義

 子どもにやさしい司法に関するこの指針(以下「本指針」)の適用上、次の用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
  • a.「子ども」とは、18歳未満のすべての者をいう。
  • b.「親」とは、国内法にしたがって親責任を有する一または複数の者をいう。親が存在しないか、またはすでに親責任を有していないときは、後見人、または指定された法定代理人をいうこともある。
  • c.「子どもにやさしい司法」とは、以下に列挙した諸原則に留意し、かつ子どもの成熟度および理解力ならびに事案の事情を正当に考慮しながら、すべての子どもの権利の尊重および効果的実施を到達可能な最高水準で保障する司法制度をいう。「子どもにやさしい司法」とは、とくに、アクセスしやすく、年齢にふさわしく、迅速であり、怠惰に陥ることがなく、子どものニーズおよび権利に適合しおよび焦点化され、ならびに、子どもの権利(適正手続に対する権利、手続に参加しかつ手続を理解する権利、私生活および家族生活を尊重される権利ならびに不可侵性および尊厳に対する権利を含む)を尊重する司法のことである。

III.基本原則

1.本指針は、前文で言及されている諸文書および欧州人権裁判所の判例に掲げられた既存の諸原則を基礎とし、それらを発展させたものである。
2.当該諸原則の発展については、以下の節においてさらに詳しく述べられる。これらの諸原則は、本指針のすべての章に適用されるべきである。

A.参加

1.自己の権利について知らされ、司法にアクセスするための適切な方法を与えられ、ならびに自己が関与するまたは自己に影響を与える手続において相談されおよび意見を聴かれるすべての子どもの権利が、尊重されるべきである。これには、このような参加を意味のあるものとする目的で、子どもの成熟度および子どもが有している可能性のある意思疎通上の困難に留意しながら、子どもの意見を正当に重視することも含まれる。
2.子どもは完全な権利保有者として見なされおよび取り扱われるべきであり、ならびに、自分自身の意見を形成する能力および事案の事情を考慮に入れた方法で自己のすべての権利を行使する資格が認められるべきである。

B.子どもの最善の利益

1.加盟国は、自己が関与するまたは自己に影響を与えるすべての案件において自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利が効果的に実施されることを保障するべきである。
2.当事者である子どもまたは影響を受ける子どもの最善の利益を評価するに際しては、以下のことが守られるべきである。
  • a. 子どもの意見および見解が正当に重視されること。
  • b. 子どもが有する他のすべての権利(尊厳、自由および平等な取扱いに対する権利など)が常に尊重されること。
  • c. 関係するすべての利益(子どもの心理的および身体的ウェルビーイングならびに法的、社会的および経済的利益を含む)が正当に考慮されるよう、関連のすべての公的機関によって包括的アプローチがとられること。
3.同一の手続または事案に関与するすべての子どもの最善の利益は、相反する可能性がある子ども同士の利益を調和させる目的で、個別に評価されおよび衡量されるべきである。
4.終局決定を行なう最終的権限および責任を司法機関が有しているときは、加国は、必要に応じ、子どもが関与する手続においてその最善の利益を評価するための学際的アプローチを確立する目的で協調のとれた努力を行なうべきである。

C.尊厳

1.子どもは、その個人的状況、ウェルビーイングおよび具体的ニーズに対して特段の注意を払われ、かつその身体的および心理的不可侵性を全面的に尊重されながら、いかなる手続または事案においても、その全体を通じ、配慮、繊細さ、公正さおよび敬意をもって取り扱われるべきである。このような取扱いは、子どもが司法的もしくは非司法的手続またはその他の介入のいずれの対象にされたかを問わず、かついずれかの手続または事案においてどのような法律上の地位および立場にあるかに関わらず、子どもに対して行なわれるべきである。
2.子どもは、拷問または非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは処罰の対象とされてはならない。

D.差別からの保護

1.子どもの権利は、性、人種、皮膚の色もしくは民族的背景、年齢、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的もしくは社会的出身、社会経済的背景、親の地位、国民的マイノリティとのつながり、財産、出生、性的指向、性自認またはその他の地位のようないかなる事由に基づく差別もなく、保障されなければならない。
2.移住者である子ども、子どもの難民および庇護希望者、保護者にともなわれずに入国した子ども、障害のある子ども、ホームレスの子どもおよびストリートチルドレン、ロマの子どもならびに入所施設の子どもなど、より脆弱な立場に置かれた子どもに対しては、特別な保護および援助を与える必要がある可能性もある。

E.法の支配

1.法の支配の原則は、成人に適用されるのと同様に子どもに対しても全面的に適用されるべきである。
2.罪刑法定主義および比例性の原則、無罪推定、公正な裁判に対する権利、法律上の助言を得る権利、裁判所にアクセスする権利ならびに上訴権のような適正手続の諸要素は、成人に対して保障されるのと同様に子どもに対しても保障されるべきであり、子どもの最善の利益の名目で最小限に抑えられまたは否定されるべきではない。このことは、すべての司法的および非司法的手続ならびに行政手続に適用される。
3.子どもは、適切な、独立した、かつ効果的な苦情申立て手続にアクセスする権利を認められるべきである。

IV.司法手続の前、最中および後における子どもにやさしい司法

A.子どもにやさしい司法の一般的要素

1.情報および助言
1.子どもおよびその親は、司法制度または他の権限ある公的機関(警察、出入国管理部局、教育部局、社会部局または保健ケア部局など)に最初に関与することになった時点から、かつ当該プロセス全体を通じて、とくに以下のことに関する情報を速やかにかつ十分に知らされるべきである。
  • a. その権利(とくに、子どもが関与しているまたは関与する可能性のある司法的または非司法的手続との関連で有している具体的権利)、および、その権利が侵害された場合に利用可能な救済手段(司法的もしくは非司法的手続またはその他の介入を利用する機会も含む)。これには、手続が継続する期間の見込み、不服申立て手続にアクセスする可能性および独立の苦情申立て機構に関する情報が含まれる場合もある。
  • b. 関連する制度および手続。これに関する情報提供の際は、子どもが置かれる特定の立場および子どもが果たす可能性のある役割ならびに種々の手続的段階を考慮に入れるものとする。
  • c. 司法的または非司法的手続に参加する際に子どもを支援するために設けられている機構。
  • d. 定められた法廷内手続および法廷外手続の妥当性および考えられる結果。
  • e. 適用可能なときは、子どもおよびその親の苦情申立てについて行なわれた告発またはフォローアップ。
  • f. 子どもが当事者であるときは、裁判手続その他の関連の出来事(聴聞など)の期日および場所。
  • g. 手続または介入の一般的進行状況および結果。
  • h. 保護措置の利用可能性。
  • i. 子どもに影響を与える決定の再審査を行なうために設けられている機構。
  • j. 司法手続、代替的な民事上の手続その他の手続を通じ、犯罪者または国から賠償を得るために設けられている機会。
  • k. 諸サービス(保健サービス、審理サービス、社会サービス、通訳および翻訳サービスその他)または支援を提供できる機関の利用可能性、および、(適用可能なときは緊急の金銭的支援を得て)当該サービスにアクセスする手段。
  • l 子どもが他国の住民である場合にその最善の利益を可能なかぎり保護するために特別な取決めが存在するときは、当該取決め。
2.子どもに対する情報および助言の提供は、その年齢および成熟度に適合した方法、子どもが理解できる言語ならびにジェンダーおよび文化に配慮した言葉遣いで提供されるべきである。
3.原則として、子どもおよび親または法定代理人の双方に対して直接情報が提供されるべきである。親に対する情報の提供は、当該情報を子どもに伝達することの代替的手段とされるべきではない。
4.関連の法的情報を掲載した子どもにやさしい資料が利用可能とされかつ広く配布されるべきであり、また子どもを対象とする特別な情報サービス(専門のウェブサイトおよびヘルプラインなど)が設けられるべきである。
5.子どもに対する告発の情報は、告発が行なわれた後、速やかにかつ直接に与えられなければならない。この情報は、子どもおよび親の双方に対し、告発の正確な内容および告発によって生じる可能性のある結果が理解できるような方法で提供されるべきである。
2.私生活および家族生活の保護
6.司法的または非司法的手続およびその他の介入に関与しているまたは関与した子どものプライバシーおよび個人データは、国内法にしたがって保護されるべきである。このことは、子どもの身元を明らかにしうるまたは間接的にその開示につながりうるいかなる情報または個人データも、とくにメディアにおいて利用可能とされまたは公表されてはならないことを一般的に含意する。このような情報または個人データには、画像、子どもまたは子どもの家族に関する詳細な描写、氏名または住所、録音および録画等が含まれる。
7.加盟国は、立法措置またはメディアによる自主規制の監視を通じ、6に掲げられたプライバシー権がメディアによって侵害されることを防止するべきである。
8.加盟国は、とくに子どもが関与する手続において、子どもの個人データおよび要配慮データを記載したあらゆる記録または文書へのアクセスの制限について定めるべきである。子どもの最善の利益を考慮しつつ、個人データおよび要配慮データの転送が必要となるときは、加盟国は、関連のデータ保護法制にしたがってこのような転送の規制を行なうべきである。
9.司法的もしくは非司法的手続またはその他の介入において子どもが聴聞されまたは証言を行なうときは常に、これを非公開で行なうことが望ましい。原則として、直接の当事者のみがその場に出席するべきである。ただし、当該出席によって子どもの証言が妨げられないことを条件とする。
10.子どもとともにおよび子どものために働く専門家は、子どもに危害が生じるおそれのある場合を除き、秘密保持に関する厳格な規則を遵守するべきである。
3.安全(特別防止措置)
11.子どもは、すべての司法的もしくは非司法的手続またはその他の介入において、脅迫、報復および二次被害を含む危害から保護されるべきである。
12.子どもとともにおよび子どものために働く専門家は、必要なときは、子どもとともに働くための適格性を確保する目的で、国内法にしたがい、かつ司法の独立を妨げることなく、定期的な適性資格審査の対象とされるべきである。
13.加害者であると疑われる者が親、家族構成員または主たる養育者であるときは、子どもに対して特別な警戒措置が適用されるべきである。
4.専門家の研修
14.子どもとともにおよび子どものために働くすべての専門家は、さまざまな年齢層の子どもの権利およびニーズならびに子どもにあわせて修正された手続についての、必要な学際的研修を受けるべきである。
15.子どもと直接接する専門家は、あらゆる年齢および発達段階の子どもならびにとくに被害を受けやすい状況に置かれた子どもとの意思疎通についての訓練も受けているべきである。
5.学際的アプローチ
16.私生活および家族生活に対する子どもの権利を全面的に尊重しつつ、子どもについて包括的に理解し、かつその法的、心理的、社会的、情緒的、身体的および認知的状況についてのアセスメントを可能とする目的で、種々の専門家間の緊密な協力が奨励されるべきである。
17.決定を行なう専門家に対して必要な支援を提供し、特定の事案において子どもの利益を最善の形で実現できるようにする目的で、子どもが関与しまたは子どもに影響を与える手続または介入において子どもとともにまたは子どものために働く専門家(弁護士、心理学者、医師、警察官、出入国管理官、ソーシャルワーカーおよび調停官など)を対象とした共通アセスメント枠組みが確立されるべきである。
18.学際的アプローチを実施する際には、秘密保持に関する職業上の規則が尊重されるべきである。
6.自由の剥奪
19.子どもの自由の剥奪は、いかなる形態であれ、最後の手段とされ、かつもっとも短い適当な期間で用いられるべきである。
20.自由の剥奪が行なわれるときは、子どもは原則として成人とは別に収容されるべきである。子どもが成人とともに拘禁される場合、これは例外的な理由により、かつ子どもの最善の利益を唯一の根拠として行なわれるべきである。あらゆる状況において、子どもはそのニーズに適した施設に拘禁されるべきである。
21.自由を奪われた子どもの脆弱性、家族の絆の重要性および社会への再統合を促進することの重要性にかんがみ、権限ある公的機関は、国際文書および欧州の文書に定められた子どもの尊重を確保し、かつその充足を積極的に支援するべきである。他の諸権利に加え、子どもに対してはとくに以下の権利が認められるべきである。
  • a. 司法の利益および子どもの利益に照らして制限が必要とされる場合を除いて、面会および通信を通じ、親、家族および友人と定期的かつ有意味な接触を維持する権利。この権利の制限が懲罰として用いられることがあってはならない。
  • b. 適切な教育、職業指導および職業訓練ならびに医療ケアを受け、かつ、思想、良心および宗教の自由ならびに余暇(体育およびスポーツを含む)へのアクセスを享受する権利。
  • c. 子どもの情緒的および身体的ニーズ、その家族関係、住居、就学および就労の可能性ならびに社会経済的地位について十全な注意を払いつつ、子どもが自己のコミュニティに復帰するための準備を前もって整えられるようにするためのプログラムにアクセスする権利。
22.保護者にともなわれずに入国した未成年者(庇護希望者を含む)および入国前に養育者から分離された子どもの自由の剥奪が、在留資格がないことのみをきっかけまたは根拠として行なわれることはあってはならない。

B.司法手続の前における子どもにやさしい司法

23.刑事責任に関する最低年齢はあまりに低くあるべきではなく、かつ法律によって定められるべきである。
24.調停、(司法制度からの)ダイバージョンおよび裁判外紛争解決手続のような司法手続に代わる手段は、これが子どもの最善の利益にかなう可能性があるときは常に奨励されるべきである。このような代替的手段を予備的に活用することが、司法に対する子どものアクセスを妨げる理由として用いられるべきではない。
25.子どもは、裁判手続または裁判所外の代替的手段のいずれかを利用する機会について余すところなく情報を提供されかつ相談されるべきである。このような情報の提供に際しては、それぞれを選択した場合に考えられる結果についても説明が行なわれるべきである。裁判手続に代わる手段が存在するときは常に、法律上その他の十分な情報に基づき、裁判手続と当該代替手段のいずれを利用するかが選択できるようにされるべきである。子どもに対しては、提案されている代替手段の妥当性および望ましさについて判断するに際し、法的助言その他の援助を得る機会が与えられるべきである。このような決定を行なうにあたっては、子どもの意見が考慮されるべきである。
26.裁判手続に代わる手段においては、同等の水準の法的保護措置が保障されるべきである。この指針および子どもの権利についての関連のあらゆる法的文書に掲げられた子どもの権利の尊重は、裁判所内外のいずれの手続においても同等に保障されるべきである。

C.子どもと警察

27.警察は、すべての子どもの人格権および尊厳を尊重するとともに、その脆弱性を顧慮する(すなわち、子どもの年齢および成熟度、ならびに、身体障害もしくは精神障害がありまたは意思疎通の困難を有している可能性がある子どもの特別なニーズを考慮する)べきである。
28.子どもが警察に逮捕されたときは常に、子どもに対し、その年齢および理解力の水準にふさわしい方法および言葉遣いで、拘束の理由が知らされるべきである。子どもに対しては弁護士のアクセスが提供されるべきであり、かつ、その親または子どもが信頼する者に連絡する機会が与えられるべきである。
29.例外的事情がある場合を除き、親は、子どもが警察署にいることを連絡され、子どもが拘束された理由の詳細を知らされ、かつ警察署に来るよう求められるべきである。
30.拘束された子どもは、弁護士または子どものいずれかの親もしくは親が立ち会えないときは子どもが信頼する他の者の立ち会いがなければ、犯罪行為について尋問され、または犯罪行為への関与に関する調書を作成しもしくはこれに署名するよう求められるべきではない。親または子どもが信頼する他の者については、当該犯罪行為への関与が疑われるときまたは司法妨害に相当する行為を行なうときは、立ち会いを認めないことができる。
31.警察は、可能なかぎり、留置中のいかなる子どもも成人とともに拘禁されないことを確保するべきである。
32.公的機関は、警察に留置されている子どもが、安全であり、かつそのニーズにふさわしい環境で収容されることを確保するべきである。
33.これが検察官の権限とされている加盟国においては、検察官は、捜査手続全体を通じて子どもにやさしいアプローチが用いられることを確保するべきである。

D.司法手続の最中における子どもにやさしい司法

1.裁判所および司法手続へのアクセス
34.子どもは、権利の保有者として、自己の権利を効果的に行使し、または自己の権利侵害について行動するための救済措置を利用できるべきである。国内法は、適当なときは、自己の権利についておよび自己の権利を守るための救済措置の利用について十分に理解している子どもが十分な法的助言に基づいて裁判所にアクセスできることを容易にするべきである。
35.手続の費用または弁護人の不存在など、裁判所へのアクセスを妨げるいかなる障壁も取り除かれるべきである。
36.子どもに対して行なわれた一部の特定犯罪または民事法もしくは家族法の一部の側面に関わる事件については、裁判所へのアクセスは、必要なときは子どもが成年に達してから一定期間が経過するまで認められるべきである。加盟国は自国の時効を見直すよう奨励される。
2.弁護人および代理人
37.子どもと親その他の当事者との間に利益相反があるまたはその可能性がある手続においては、子どもに対し、自らの名義で自分自身の弁護人および代理人を選任する権利が認められるべきである。
38.子どもは、成人と同一の条件またはより寛大な条件で無償の法律扶助にアクセスできるべきである。
39.子どもの代理人を務める弁護士は、子どもの権利および関連の問題について訓練を受けかつ精通し、継続的かつ徹底的な研修を受け、かつ子どもの理解力の水準にあわせて子どもと意思疎通する能力を有しているべきである。
40.子どもは独自の権利および完全な地位を有する依頼人と見なされるべきであり、子どもの代理人を務める弁護士はその子どもの意見を提出するべきである。
41.弁護士は、子どもに対し、子どもの意見および(または)見解によってもたらされる可能性がある結果についてあらゆる必要な情報および説明を提供するべきである。
42.親子間に利益相反がある事件においては、権限ある公的機関は、子どもの意見および利益を代弁する訴訟後見人または他の独立の代理人を任命するべきである。
43.とくに親、家族構成員または養育者が犯罪の被疑者である手続においては、十分な代理および親とは独立の代理人を選任する権利が保障されるべきである。
3.意見を聴かれる権利および意見表明権
44.裁判官は、自己に影響を与えるあらゆる事案において意見を聴かれ、または、少なくとも、当該事案について十分な理解力を有していると見なされるときには意見を聴かれる子どもの権利を尊重するべきである。この目的のために用いられる手段は、子どもの理解力の水準および意思疎通を図りかつ事案の事情を考慮する子どもの能力に適合したものであるべきである。子どもは、意見を聴かれたいと希望する事案に関して相談の対象とされるべきである。
45.子どもの意見および見解は、その年齢および成熟度にしたがって正当に重視されるべきである。
46.意見を聴かれる権利は子どもの権利であって、子どもに課される義務ではない。
47.子どもは、年齢のみを理由として意見を聴かれることから排除されるべきではない。裁判官は、子どもが自己に影響を与える事件で意見を述べたいと申し出たときは常に、意見を聴かないことが子どもの最善の利益にかなう場合を除いて意見を聴くことを拒否せず、当該事件においてその子どもに影響を与える事柄についての意見および見解に耳を傾けるべきである。
48.子どもに対しては、意見を聴かれる権利を効果的に活用する方法についてのあらゆる必要な情報が提供されるべきである。ただし、意見を聴かれかつその意見を考慮される権利が必ずしも最終的決定を左右しない場合もあることが、子どもに対して説明されるべきである。
49.子どもに影響を与える判決および裁判所の決定、とくに子どもの意見および見解のとおりにならなかった決定においては、子どもが理解できる言葉でしかるべき理由が付されかつ説明が行なわれるべきである。
4.不当な遅延の回避
50.子どもが関与するあらゆる手続において、法の支配を尊重しながら迅速な対応を行ないかつ子どもの最善の利益を保護するため、緊急性の原則が適用されるべきである。
51.家事事件(たとえば親子関係、監護権、親による奪取)においては、裁判所は、家族関係に悪影響が生じるいかなるおそれも回避するために格別の注意を払うべきである。
52.必要なときは、司法機関は、仮の決定または予備的判決を言い渡し、一定期間監視した後に再審査する可能性を検討するべきである。
53.司法機関は、法律にしたがい、決定の即時執行が子どもの最善の利益にかなう事件においてそのような決定を行なうことができるべきである。
5.手続のあり方、子どもにやさしい環境および子どもにやさしい言葉遣い
54.子どもは、あらゆる手続において、その年齢、特別なニーズ、成熟度および理解力の水準を尊重しながら、かつ子どもが有している可能性がある意思疎通上の困難に留意しながら取り扱われるべきである。子どもが関与する事件は、恐怖心を覚えさせることのない、子どもに配慮した環境で扱われるべきである。
55.子どもは、手続の開始前に、裁判所その他の施設の配置ならびに関係職員の役割および身分についてよく知る機会を与えられるべきである。
56.子どもの年齢および理解力の水準にふさわしい言葉が用いられるべきである。
57.司法的および非司法的手続においてならびにその他の介入の際に子どもが意見を聴かれまたは事情聴取されるときは、裁判官その他の専門家は敬意および繊細さをもって子どもとやりとりするべきである。
58.子どもは、親、または適当なときは子どもが選んだおとなにつきそってもらうことを認められるべきである。ただし、理由を付された決定により、当該人物について別段の判断が行なわれたときはこのかぎりでない。
59.録画もしくは録音または非公開の審理前聴聞のような事情聴取手法が活用され、かつ証拠能力を認められるべきである。
60.子どもは、可能なかぎり、その福祉にとって有害となる可能性のある画像または情報から保護されるべきである。有害となる可能性がある画像または情報を子どもに開示するか否か決定する際には、裁判官は、心理学者およびソーシャルワーカーのような他の専門家の助言を求めるべきである。
61.子どもが関与する審判期日は、子どものペースおよび注意持続時間にあわせて定められるべきである。定期的な休憩が予定されるべきであり、また審判の時間が長すぎてはならない。子どもがその認知能力を最大限に活用して参加することを促進し、かつ子どもの情緒的安定を支えるため、中断および混乱は最低限に抑えられるべきである。
62.適当かつ可能なかぎり、子どものための、子どもにやさしい環境を備えた事情聴取および待機のための部屋が手配されるべきである。
63.法律に抵触した子どものため、可能なかぎり、専門の裁判所(または法廷)、手続および制度が設けられるべきである。これには、警察、司法機関、裁判制度および検察機関内に専門の部局を設置することも含まれる場合がある。
6.子どもの証言/陳述
64.子どもの事情聴取および子どもからの陳述の取得は、可能なかぎり、訓練を受けた専門家によって行なわれるべきである。子どもの年齢、成熟度および理解力の水準ならびに子どもが有している可能性がある意思疎通上の困難を顧慮しながら、子どもが、もっとも望ましい環境およびもっとも適切な条件下で証言を行なえるようにするため、あらゆる努力が行なわれるべきである。
65.被害者または証人である子どもによる視聴覚手段を用いた陳述は、当該陳述の内容について争う相手方の権利を尊重しつつ、奨励されるべきである。
66.複数回の事情聴取が必要なときは、子どもの最善の利益に照らしてアプローチの一貫性を確保するため、同一人物によって行なわれることが望ましい。
67.事情聴取の回数は可能なかぎり限定されるべきであり、かつ、その長さは子どもの年齢および注意持続時間に適合したものであるべきである。
68.被害者または証人である子どもと、加害者であると申し立てられている者との直接の接触、対面またはやりとりは、被害者である子どもが求める場合を除き、可能なかぎり回避されるべきである。
69.子どもは、刑事事件において、加害者であると申し立てられている者と相対することなく証言する機会を与えられるべきである。
70.証言に関する規則が緩和されていること(宣誓または他の同様の宣言が要求されないことなど)または子どもにやさしい他の手続的措置が設けられていることのみをもって、子どもの証言の価値が減殺されるべきではない。
71.子どもの証言の有効性を補強するため、子どものさまざまな発達段階を考慮した事情聴取標準手続が立案されかつ実施されるべきである。当該標準手続においては、誘導尋問を回避することによって信頼性が高められるべきである。
72.裁判官は、子どもの最善の利益および福祉にかんがみ、子どもが証言しないことを認めることができるべきである。
73.子どもの陳述および証言が、当該子どもの年齢のみを理由として無効であるまたは信頼性に欠けると推定されることがあってはならない。
74.被害者および証人である子どもの陳述を、特別に設計された子どもにやさしい施設および子どもにやさしい環境において録取する可能性が検討されるべきである。

E.司法手続の後における子どもにやさしい司法

75.子どもの弁護士、訴訟後見人または法定代理人は、子どもに対し、言い渡された決定または判決について子どもの理解力の水準にあわせた言葉で伝達しかつ説明するとともに、上訴または独立した苦情申立て機構への申立てなど、とりうる措置に関する必要な情報を提供するべきである。
76.国の機関は、子どもが関係するおよび子どもに影響を与える司法決定/判決が遅滞なく執行されることを促進するため、あらゆる必要な措置をとるべきである。
77.決定が執行されないときは、子どもに対し、可能であればその弁護士、訴訟後見人または法定代理人を通じて、非司法的機構または司法へのアクセスのいずれかを通じて利用可能な救済措置についての情報が提供されるべきである。
78.強制による判決の実施は、子どもが関与する家事事件では最後の手段とされるべきである。
79.争いの激しい手続における判決後は、子どもおよびその家族に対し、専門機関による指導および支援が、理想的には無償で提供されるべきである。
80.ネグレクト、暴力、虐待またはその他の犯罪の被害者に対しては、特別な保健ケアならびに適切な社会的および治療的介入のためのプログラムまたは措置が、理想的には無償で提供されるべきであるとともに、子どもおよびその養育者に対し、当該サービスが利用できることについて速やかにかつ十分に情報が提供されるべきである。
81.子どもの弁護士、訴訟後見人または法定代理人に対しては、子どもが被害者である刑事手続の際にまたはその後に損害賠償請求を行なうためにあらゆる必要な措置をとる権限が認められるべきである。適当なときは、当該費用を国が負担し、かつ加害者から回収することも考えられる。
82.法律に抵触した子どもを対象とする措置および制裁は常に、比例性の原則、子どもの年齢、身体的および精神的福祉ならびに発達および事案の事情に留意した、行なわれた行為に対する建設的かつ個別化された対応であるべきである。教育、職業訓練、就労、更生および再統合に対する権利が保障されるべきである。
83.社会への再統合を促進する目的で、かつ国内法にしたがい、子どもの犯罪記録は、子どもが成年に達するのと同時に司法制度外では開示されないこととされるべきである。重大な犯罪の場合には、当該情報の開示に関する例外は、とくに公の安全を理由としてまたは子どもに関わる職業への就労が関連する場合に、認められる場合がある。

V.その他の子どもにやさしい行動の促進

 加盟国は、以下の措置をとるよう奨励される。
  • a. 子どもにやさしい司法のあらゆる側面(子どもに配慮した面接技法ならびにそのような技法に関する情報の普及および研修を含む)についての調査研究を促進すること。
  • b. 子どもにやさしい司法の分野における実践交流および協力の推進を国際的に図ること。
  • c. 関連の法律文書を子どもにやさしく解説した資料を刊行し、かつ可能なかぎり広く普及すること。
  • d. 可能であれば弁護士会、福祉機関、(子ども)オンブズマン、非政府組織(NGO)等と連携した子どもの権利に関する広報事務所を設置し、または維持しかつ必要なときは強化すること。
  • e. 裁判所および苦情申立て機構への子どもによるアクセスを促進するとともに、裁判所および独立した苦情申立て機構への子どもによる効果的アクセスを国内的にも国際的にも支援するうえでNGOおよびその他の独立機関(子どもオンブズマンなど)が果たしている役割をさらに認めかつ促進すること。
  • f. 子どものための専門裁判官・弁護士制度の確立を検討するとともに、子どもおよびその家族のために法的措置および社会的措置の双方をとることができる裁判所をさらに発展させること。
  • g. 国内的救済措置が存在しない場合または尽くされた場合に正義および権利保護を追求できるようにすることを目的とした、人権および子どもの権利の保護のための国際的なおよび欧州レベルの機構を発展させ、かつ、子どもおよび子どものために行動する他の者による当該機構の利用を促進すること。
  • h. 子どもの権利を含む人権を、学校カリキュラムにおける、および、子どもとともに働く専門家を対象とした、義務的学習要素とすること。
  • i. 子どもの権利に関する親の意識啓発のための制度を発展させかつ支援すること。
  • j. 子どもが鑑定目的の面接および検診を受け、包括的なアセスメントの対象とされ、かつ、適当な専門家によるあらゆる関連の治療サービスを受けられる、子どもの被害者および証人を対象とした、子どもにやさしい、複数の機関による学際的センターを設置すること。
  • k. 無償のオンライン相談、ヘルプラインおよび地域コミュニティサービスのような、専門的でかつアクセスしやすい支援・情報サービスを設置すること。
  • l とくに子どもが関与するまたは子どもに影響を与えるすべての種別の手続において子どもの最善の利益を評価する際に子どもの権利を十分に保障しかつ実施する目的で、司法制度において子どもに接しながら働くすべての関連の専門家が適当な支援および研修ならびに実践的指導を受けることを確保すること。

VI.監視および評価

 加盟国はまた、以下の措置をとることも奨励される。
  • a. この指針の実施のために必要な改革を確保するため、国内の法律、政策および実務のあり方を見直すこと。
  • b. 子どもの権利に関わる関連の欧州評議会諸条約を、未批准であれば迅速に批准すること。
  • c. 子どもにやさしい司法現場における活動方法を定期的に再検討しかつ評価すること。
  • d. この指針の実施を促進しかつ監視する目的で、自国の司法制度および行政制度にしたがい、適当な枠組み(一または複数の独立機構を含む)を維持しまたは確立すること。
  • e. 市民社会(とくに市民社会組織)、および、子どもの権利の促進および保護を目的とする諸機関が監視プロセスに全面的に参加することを確保すること。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年2月27日)。
最終更新:2012年02月27日 09:55