少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)後編

北京規則(前編)より続く)

第3部 審判および処分

規則14 審判権者

14.1 罪を犯した少年の事件が(規則11にもとづいて)ダイバージョンの対象とされなかったときは、少年は、公正な審判の原則にしたがって、権限ある機関(裁判所、審判所、委員会、審議会等)によって対応されなければならない。
14.2 手続は、少年の最善の利益に資するものでなければならず、かつ、少年の参加と自由な自己表現を可能とするような、理解に満ちた雰囲気のなかで行なわれなければならない。
〈注釈〉
 権限ある機関または人を、審判権者として普遍的に通用するような形で定義するのは困難である。ここでいう「権限ある機関」とは、法廷または審判廷(単独または複数の裁判官によって構成される)を司る者(職業裁判官および素人裁判官を含む)、および審判の性格を有する行政委員会(たとえばスコットランドおよびスカンジナビア諸国の制度)またはその他のいっそう非公式なコミュニティ機関もしくは紛争解決機関を含むものとして解される。
 罪を犯した少年に対応する手続は、いかなる場合にも、「法の適正手続」として知られる手続のもとでいかなる刑事被告人に対してもほぼ普遍的に適用される最低基準にしたがわなければならない。適正手続にしたがい、「公正な審判」には、無罪の推定、証人の召喚および尋問、一般的な法的防御、黙秘権、審理における最終陳述権、上訴権等のような基本的な保障が含まれる(規則7.1も参照)。

規則15 弁護士、親および保護者

15.1 少年は、手続全体を通じ、法的助言者によって代理される権利、または無償の法律扶助が用意されている国ではそのような援助を申請する権利を有する。
15.2 親または保護者は、手続に参加する権利を有する。また、権限ある機関は、親または保護者に対し、少年の利益のために手続に出席するよう求めることができる。ただし、権限ある機関は、親または保護者を出席させないことが少年の利益のために必要であると考える理由がある場合、その参加を認めないことができる。
〈注釈〉
 規則15.1は、被拘禁者処遇最低基準規則93項と同様の用語法を用いている。弁護士による代理および無償の法律扶助は少年の法的援助を確保するために必要とされているのに対し、規則15.2で述べられている親または保護者の参加権は、少年に対する一般的な心理的および情緒的な援助として見なされなければならない。このような援助は手続全体に及ぶ機能である。
 権限ある機関が事件の適切な処分について検討するさい、とくに少年の法定代理人(または、さらにいえば、少年が真に信頼することができ、かつ実際に信頼しているその他の個人的援助者)の協力を得ることが有益な場合がある。ただし、親または保護者が審判に出席することが否定的な役割を果たす場合、たとえば親または保護者が少年に敵対的な態度を示す場合などには、そのような配慮が逆効果になりうる。したがって、親または保護者を排除する可能性も用意しておかなければならない。

規則16 社会調査報告

16.1 軽微な犯罪に関するものを除くすべての事件において、権限ある機関が刑の言渡しに先立つ最終処分を行なう以前に、権限ある機関による賢明な審判が促進されるよう、少年が生活している背景および状況ならびに犯罪が行なわれた状況が適正に調査されなければならない。
〈注釈〉
 社会調査報告(社会報告または判決前報告)は、少年に関わるほとんどの法的手続において必要不可欠な補助手段である。権限ある機関は、社会的および家庭的背景、学歴、教育経験等のような、少年についての関連の事実について知らされなければならない。この目的のため、裁判所または委員会に配属された特別な社会サービスまたはソーシャルワーカーを活用している法域もある。プロベーション担当官を含むその他の職員も同様の機能を果たすことがある。したがって、この規則は、質の高い社会調査報告の実施を行なうために適切な社会サービスが用意されることを要求しているのである。

規則17 審判および処分の指導原理

17.1 権限ある機関による処分は以下の原則にしたがって行なわれなければならない。
  • (a) とられる対応は、常に、犯罪の状況および重大性のみならず、少年の状況およびニーズならびに社会のニーズにも比例したものでなければならない。
  • (b) 少年の人身の自由の制限は、慎重な検討を行なったうえでなければ科すことはできず、かつ可能なかぎり最小限度に抑えられなければならない。
  • (c) 人身の自由の剥奪は、少年が、他人に対する暴力をともなう重大な行為を行なったことまたは他の重大な犯罪を繰り返していることが認定された場合であって、他の適切な対応が存在しない場合でなければ科すことができない。
  • () (d)事件の検討にあたっては少年の福祉が指導的な要素とされなければならない。
17.2 死刑は、少年が行なった犯罪に対しては科すことができない。
17.3 少年に対して身体刑を科してはならない。
17.4 権限ある機関はいつでも手続を打ち切る権限を有するものとする。
〈注釈〉
 青少年の審判に関する指針を策定するさいの主要な困難は、以下のような理念的な対立が未解決であるところから生じる。
  • (a) 社会復帰か、正当な応報か。
  • (b) 援助か、抑圧と処罰か。
  • (c) 個別事件の実体のみに対する対応か、社会一般の保護にしたがった対応か。
  • (d) 一般的抑止か、個別の無力化か。
 以上のアプローチの対立は少年事件の場合にいっそう顕著に現れるものである。少年事件特有の事件および対応が多種多様であることから、以上の選択肢は複雑にからみあうものとなる。
 少年司法の運営に関する最低基準規則の役割は、どのアプローチにしたがうべきかを規定することではなく、国際的に受け入れられた原則ともっとも一致するアプローチを特定することである。したがって、規則17.1、とくにその(a)および(c)に掲げられた基本的要素が、共通の出発点を定める実際的な指針であると理解されなければならない。権限ある機関がこれらの指針を心に留めていれば(規則5も参照)、罪を犯した少年の基本的権利、とくに人格の発達と教育に関する基本的権利の保護を確保することへの相当な貢献となるはずである。
 規則17.1(b)は、厳格に懲罰的なアプローチは適切なものではないということを意味している。成人の事件では、また場合によっては少年が重罪を犯した事件でも、正当な応報と応報的制裁に少しは利点があると思われる場合もあるかもしれない。しかし少年事件では、青少年の福祉と未来を保障することの利益が、そのような考慮を常に上回らなければならないのである。
 第6回国連〔犯罪防止犯罪者処遇〕会議の決議8にのっとり、規則17.1(b)は、青少年が必要とする具体的事情に対応する必要性を念頭に置いて、施設措置に代わる手段を可能なかぎり最大限に用いることを奨励している。したがって、公共の安全に留意しながら、すでに存在する代替的制裁を全面的に活用し、また新たな代替的制裁を開発しなければならない。刑の宣告猶予、条件付の刑、委員会命令その他の処分を通じ、可能なかぎり最大限に保護観察が言渡されるべきである。
 規則17.1(c)は、第6回会議の決議4に掲げられた指導原理のひとつに対応している。その指導原理とは、少年の場合、公共の安全を保護するために他に適切な対応がない場合を除いて拘禁を行なわないようにすることを目指したものである。
 死刑を禁ずる規則17.2の規定は、市民的および政治的権利に関する国際規約第6条5項にしたがっている。
 身体刑を禁ずる規定は、市民的および政治的権利に関する国際規約7条、拷問および他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いまたは刑罰からのすべての人の保護に関する宣言、拷問および他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を禁止する条約、および子どもの権利条約草案にしたがったものである。
 いつでも手続を打ち切る権限(規則17.4)は、成人の場合に対し、罪を犯した少年の取扱いに固有の特徴である。介入を完全に停止することが当該事件に関する最善の処分であるとうかがわせるような状況は、いずれの時点でも権限ある機関に対して知らされなければならない。

規則18 さまざまな処分の手段

18.1 権限ある機関が多種多様な処分の手段を利用できるようにすることにより、施設措置を可能なかぎり最大限に回避できるようにするための柔軟性が認められなければならない。そのような手段には以下のものが含まれ、その一部を併用することもできる。
  • (a) ケア、指導または監督。
  • (b) 保護観察。
  • (c) コミュニティ奉仕命令。
  • (d) 金銭的処罰、賠償および被害回復。
  • (e) 中間処遇その他の処遇命令。
  • (f) グループ・カウンセリングおよび類似の活動への参加命令。
  • (g) 里親託置、生活共同体またはその他の教育的施設に関する命令。
  • (h) その他の適切な命令。
18.2 いかなる少年も、部分的にか完全にかを問わず、親の監督から引き離されてはならない。ただし、少年の事案の状況によりその必要がある場合にはこのかぎりでない。
〈注釈〉
 規則18.1は、これまでにさまざまな法制度で実践され、効果が証明されてきた重要な対応および制裁のいくつかを列挙しようとしたものである。これらは全体として希望の持てる選択肢であり、そのまま活用したりさらに発展させたりする価値がある。一部地域では適切な職員が不足していることもありうるので、同規則では職員配置の要件は掲げていない。そのような地域では、職員がそれほど必要とされない手段を試み、または開発することができるであろう。
 規則18.1に挙げられた例は、とりわけ、代替的処分を効果的に実施するためにコミュニティに依拠しかつ訴えているという点で共通している。コミュニティを基盤とした矯正は、多くの側面を備えた伝統的な手段である。それを基盤として、コミュニティを基盤としたサービスを提供するよう関連機関への奨励が行なわれなければならない。
 規則18.2は家族の重要性を指摘している。家族は、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約第10条1項によれば、「社会の自然かつ基礎的な単位」である。家族においては、親は子どもをケアと監督を行なう権利のみならず、その責任も有している。したがって、規則18.2は、子どもを親から引き離すことは最後の手段でなければならないと求めているのである。親からの分離は、事案の事実関係により、このような重大な措置をとることが正当化される明らかな事情がある場合(たとえば児童虐待)にのみ行なうことができる。

規則19 施設措置の可能なかぎり最小限の使用

19.1 少年の施設措置は常に、最後の手段のかつ必要最小限の期間の処分でなければならない。
〈注釈〉
 進歩的犯罪学では施設内処遇よりも施設外処遇を優先させることが提唱されている。施設内処遇の効果という点で、施設外処遇との違いはほとんどまたはまったく見出されていない。いかなる施設環境でも個人に多くの悪影響が及ぼされるのは避けられないと思われ、それを処遇の努力によって打ち消すことは明らかに不可能である。このことは、悪影響を受けやすい少年の場合にはとくに当てはまる。さらに、自由を喪失するだけではなく通常の社会環境からも切り離されることの悪影響が、少年の場合は早期の発達段階にあるために成人の場合よりも深刻であることも、確かである。
 規則19は、質の面(「最後の手段」)と時間の面(「必要最小限の期間」)という二つの側面で施設措置を制限することを目的としている。規則19は、第六回国連会議の決議四に掲げられた基本的な指導原理のひとつ、すなわち罪を犯した少年は他に適当な対応が存在しないかぎり拘禁されてはならないという原則を反映したものである。したがって同規則は、少年を施設に措置しなければならない場合には、拘禁のための特別な施設体制を用意し、かつ罪を犯した者、犯罪および施設にはそれぞれ違いがあることを念頭に置いて、自由の喪失を可能なかぎり最小限に抑えなければならないことを訴えている。実際のところ、「閉鎖」施設よりも「開放」施設のほうが優先されるべきである。さらに、いかなる施設も刑務所型のものではなく矯正または教育を目的としたものでなければならない。

規則20 不必要な遅滞の回避

20.1 各事件は最初の段階から迅速に取り扱われなければならず、いかなる不必要な遅滞もあってはならない。
〈注釈〉
 少年事件の公式手続を迅速に行なうことは最高の考慮事項である。さもなければ、手続と処分によって達成される可能性があるどんな成果も台無しになるおそれがある。少年は、時間の経過とともに、手続および処分と犯罪との関連性を知的にも心理的にも見出すことが、不可能ではないにせよ、ますます困難となるはずである。

規則21 記録

21.1 罪を犯した少年の記録は厳重に秘密とされなければならず、第三者に対して開示されてはならない。そのような記録に対するアクセスは、当該事件の処分に直接関係している者または適切な形で権限を与えられたその他の者に限定されるものとする。
21.2 罪を犯した少年の記録は、同一人物が関わってその後に生じた事件に関する成人の手続で用いられてはならない。
〈注釈〉
 同規則は、記録または書類に関係する相対する利益、すなわち警察、検察その他の機関が統制を強化しようとするさいの利益と罪を犯した少年の利益とのあいだで均衡を図ることを狙いとしたものである(規則8も参照)。「適切な形で権限を与えられたその他の者」には、一般的に、とくに研究者が含まれることになろう。

規則22 専門化および訓練の必要性

22.1 少年事件に対応するすべての職員に必要な専門的能力を確立および維持するため、専門養成教育、現職者研修、再研修コースその他の適切な形態による指導が活用されなければならない。
22.2 少年司法職員は、少年司法制度に接触する少年の多様性を反映していなければならない。少年司法関係機関で女性およびマイノリティが公正に代表されることを確保するための努力が行なわれなければならない。
〈注釈〉
 処分権者はさまざまに異なる背景を持った人である場合がある(英国やコモンロー制度の影響を受けた地域では治安判事、ローマ法を用いる国々やその影響を受けた国々では法的訓練を受けた裁判官、他の場所では選挙または任命による普通の市民または法律家、コミュニティに基盤を置く委員会の委員など)。このようなすべての処分権者を対象として、法学、社会学、心理学、犯罪学および行動科学についての最低限の訓練が必要である。このことは、権限ある機関の組織的専門性および独立性と同じぐらい重要であると考えられる。
 ソーシャルワーカーやプロベーション担当官に対し、罪を犯した少年に対応するいかなる職務を担当するときにもその前提として職業上の専門性を要求することは現実的に不可能かもしれない。したがって、在職中に専門的指導を受けることが最低限の資格要件となろう。
 専門的資格は、少年司法の公正かつ効果的な運営を確保するために必要不可欠な要素である。したがって、職員の採用、昇進および専門的研修のあり方を改善するとともに、その職務を適切に遂行できるようにするための必要な手段を提供することが必要とされる。
 少年司法が公正に運営されることを達成するため、少年司法職員の選任、任命および昇進にあたってはあらゆる政治的、社会的、性的、人種的、宗教的、文化的その他の差別が行なわれないようにしなければならない。このことは第六回会議でも勧告されたところである。第六回会議はさらに、刑事司法職員として女性が公正かつ平等に扱われることを確保するよう加盟国に呼びかけるとともに、少年司法の運営における女性職員の採用、研修および昇進の促進のために特別措置がとられるべきことを勧告している。

第4部 施設外処遇

規則23 処分の効果的実施

23.1 上述の規則14.1に規定された権限ある機関による命令を、当該機関自身または必要に応じてその他の機関が実施するために適切な体制が整えられなければならない。
23.2 そのような体制には、権限ある機関が時宜に応じて必要と見なす形で当該命令を変更する権限が含まれなければならない。ただし、当該変更が本規則に掲げられた諸原則にしたがって決定されることを条件とする。
〈注釈〉
 少年事件における処分は、成人の事件における場合以上に、罪を犯した者の人生に長期にわたって影響を及ぼす傾向がある。したがって、権限ある機関、または最初に事件の処分を行なった権限ある機関と同等の資格を持つ独立機関(パロール委員会、プロベーション事務所、青少年福祉機関その他)が処分の実施を監視することが重要である。いくつかの国ではこの目的のために行刑裁判官が任命されている。
 そのような機関の構成、権限および職務は柔軟なものでなければならない。幅広く受け入れられるようにするため、この点は規則23では一般的な言葉で説明されている。

規則24 必要な援助の提供

24.1 社会復帰の過程を促進する目的で、宿泊場所、教育もしくは職業教育、雇用またはその他の有益かつ実際的な援助のような必要な援助を、手続のあらゆる段階において少年に提供するための努力が行なわれなければならない。
〈注釈〉
少年の福祉を促進することは最高の考慮事項である。したがって、規則24は、社会復帰の過程全体を通じて少年の最善の利益を増進するような、必須の便益、サービスその他の必要な援助を提供することの重要性を強調している。

規則25 ボランティアその他のコミュニティ・サービスの動員

25.1 ボランティア、ボランティア団体、地元の諸機関その他のコミュニティにおける資源に対し、コミュニティの環境における、かつできるかぎり家族という単位のなかにおける少年の社会復帰に効果的に寄与するよう、呼びかけが行なわれなければならない。
〈注釈〉
 この規則は、罪を犯した少年に関わるすべての活動で社会復帰が志向されることの必要性を反映したものである。権限ある機関の命令が効果的に遂行されるためには、コミュニティとの協力が必要不可欠となる。とりわけボランティアおよびボランティア・サービスは貴重な資源となることが証明されてきているが、現在は充分に活用されていない。場合により、かつて罪を犯した人(かつて嗜癖者であった人を含む)との協力も相当な援助となりうる。
 規則25は、規則1.1~1.6に掲げられた諸原則から派生するものであり、市民的および政治的権利に関する国際規約の関連規定にしたがったものである。

第5部 施設内処遇

規則26 施設内処遇の目的

26.1 施設に措置された少年の訓練および処遇の目的は、少年が社会において社会的に建設的かつ生産的な役割を担うことを援助するため、ケア、保護、教育および職業的スキルを提供することである。
26.2 施設に措置された少年は、その年齢、性別および性格を理由としてかつその健全な発達のために必要とされるケア、保護およびあらゆる必要な援助(社会的、教育的、職業的、心理的、医学的および身体的な)を与えられなければならない。
26.3 施設に措置された少年は、成人から分離されなければならず、かつ施設を別にして、または成人も収容している施設においては区画を別にして収容されなければならない。
26.4 罪を犯して施設に収容された青少年女子は、その個人的なニーズおよび問題に関して特別な注意を受ける資格がある。青少年女子に対し、罪を犯した青少年男子よりも劣るケア、保護、援助、処遇および訓練が与えられることはけっしてあってはならない。その公正な処遇が確保されなければならない。
26.5 施設に措置された少年の利益および福祉にのっとり、親または保護者の面接交渉権が保障されなければならない。
26.6 退所のさいに少年が教育面で不利な立場に置かれていることがないことを確保する目的で、施設に措置された少年に対して充分な学業上または適当な場合には職業上の訓練を提供するため、省庁および部局の枠を越えた協力が促進されなければならない。
〈注釈〉
 規則26.1と26.2で規定されている施設内処遇の目的は、どんな制度や文化のもとでも受け入れられるであろう。しかし、このような目的がどこででも達成されているというわけではなく、この点に関する課題はまだまだ残されている。
 薬物嗜癖、暴力的性向、精神病の青少年で施設に措置された者にとっては、とくに医学的および心理的援助がきわめて重要である。
 規則26.3に規定されているように罪を犯した成人を通じての悪影響を回避し、また施設環境のなかで少年の福祉を保障することは、第六回会議の決議四に掲げられた本規則の基本的な指導原理のひとつにのっとっている。この規則は、各国が、罪を犯した成人の悪影響を防止するために、同規則に挙げられている措置と少なくとも同じぐらい効果的なその他の措置をとることは妨げていない(規則13.4も参照)。
 規則26.4は、第6回会議で指摘されたように、罪を犯した女子は男子よりも注意を向けられないのが当たり前という事実に対応したものである。とくに、第6回会議の決議9は、罪を犯した女子が刑事司法手続のすべての段階で公正に取り扱われるべきこと、身柄拘束中の女子が抱える特有の問題とニーズに特別な注意を向けることを求めている。さらに、この規則は第6回会議のカラカス宣言にものっとって検討されなければならない。カラカス宣言とは、とくに、女性に対する差別の撤廃に関する宣言および女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約を背景として、刑事司法の運営における平等な取扱いを求めたものである。
 面接交渉権(規則26.5)は、規則7.1、10.1、15.2および18.2の規定にしたがったものである。省庁や部局の枠を越えた協力(規則26.6)は、施設内の処遇と訓練の質を全般的に高めるうえでとりわけ重要となる。

規則27 国際連合が採択した被拘禁者処遇最低基準規則の適用

27.1 被拘禁者の処遇に関する最低基準規則および関連の勧告は、罪を犯した少年であって施設に措置された者(審判のために身柄を拘束されている者を含む)の処遇に関連するかぎりにおいて適用されなければならない。
27.2 年齢、性別および性格に応じた少年の多様なニーズを満たすことができるよう、被拘禁者の処遇に関する最低基準規則に掲げられた関連の諸原則を可能なかぎり最大限に実施するための努力が行なわれなければならない。
〈注釈〉
 被拘禁者処遇最低基準規則は、国連が発布したこの種の文書としては最初のもののひとつである。それが世界的な影響を持つに至ったことについては一般的な一致が見られる。実施が現実というよりも希望に留まっている国もなお存在するものの、最低基準規則は、矯正施設の人道的かつ公正な運営の面でいまなお重要な影響力を失っていない。
 被拘禁者処遇最低基準規則には、罪を犯した少年で施設に措置された者も対象とする、いくつかの基本的な保護(宿泊設備、建物、寝具、衣服、苦情申立ておよび請願、外部との接触、食事、医療、宗教上の礼拝、年齢による分離、職員、作業等)が掲げられている。処罰と規律の維持、危険な犯罪者の拘束に関する規定も置かれている。同最低基準規則を、罪を犯した少年であって少年司法の運営に関する最低基準規則の適用範囲にいる者を対象とした施設に特有の特徴にしたがって修正することは、適切ではないであろう。
 規則27は、施設に措置された少年が必要としている条件(規則27.1)と、その年齢、性別および性格に応じた多様なニーズ(規則27.2)に焦点を当てている。したがって、この規則の目的および内容は、被拘禁者処遇最低基準規則の関連規定と相互に関連したものである。

規則28 条件付釈放の頻繁かつ早期の利用

28.1 施設からの条件付釈放は、適切な機関によって可能なかぎり最大限に利用され、かつ可能なかぎり早い時点で認められなければならない。
28.2 施設から条件付で釈放された少年は、適切な機関による援助および監督の対象とされ、かつコミュニティの全面的支援を与えられなければならない。
〈注釈〉
 条件付釈放を命ずる権限は、規則14.1にいう権限ある機関に委ねられてもよいし、他の機関に委ねられてもよい。この点にかんがみ、ここでは「権限ある」機関ではなく「適切な」機関に言及するだけで充分である。
 状況が許すかぎり、条件付釈放のほうが刑期を満了することよりも優先されなければならない。社会復帰に向けて満足のいく進展が見られた証拠があれば、施設措置の時点では危険と見なされていた犯罪者でさえ、現実的条件が整うなら条件付釈放の対象となりうる。保護観察と同様、そのような釈放は、権限ある機関が定めた要件を、決定のさいに定められた期間、満足のいく形で履行することを条件とすることができる。その条件とはたとえば、罪を犯した者の「善行」、コミュニティ・プログラムへの出席、ハーフウェイハウスでの居住などである。
 罪を犯した者が施設から条件付で釈放された場合、保護観察官または(とくに保護観察が採用されていない場合には)その他の職員による援助と監督が提供され、またコミュニティによる支援が奨励されなければならない。

規則29 中間施設による処分体制

29.1 ハーフウェイハウス、教育ホーム、昼間訓練センター、および少年の適切な社会的再統合に役立つようなその他の適切な処分体制などの、中間施設による処分体制を整えるための努力が行なわれなければならない。
〈注釈〉
 施設措置期間後のケアの重要性は過小評価されてはならない。この規則は、一連の中間施設による処分体制を整える必要性を強調するものである。
 この規則はまた、罪を犯してコミュニティに復帰する青少年のさまざまなニーズを見たすとともに、社会への再統合の成功に向けた重要な措置として指導と構造的支援を提供することを目的とした、多様な施設とサービスの必要性も強調している。

第6部 調査研究、計画、政策立案および評価

規則30 計画、政策立案および評価の基盤としての調査研究

30.1 効果的な計画および政策立案を行なうための基盤として、必要な調査研究を組織および促進する努力が行なわれなければならない。
30.2 少年非行と少年犯罪の傾向、問題および原因、ならびに身柄拘束中の少年に特有の多様なニーズを定期的に再検討および評価する努力が行なわれなければならない。
30.3 定期的評価のための調査研究の機構を少年司法の運営の制度に組みこむ形で確立し、かつ、運営の適切な評価ならびに将来の改善および改革のため関連のデータと情報を収集および分析する努力が行なわれなければならない。
30.4 少年司法の運営におけるサービスの提供は、国としての発展の努力の不可欠な一部として体系的に計画および実施されなければならない。
〈注釈〉
 見識に裏付けられた少年司法政策の基盤として調査研究を活用することは、知識の発展に実践が遅れないようにし、かつ少年司法制度の継続的発展と改善を進めるための重要なしくみとして広く認知されている。調査研究と政策間で相互のフィードバックが行なわれることは、少年司法の場合にはとくに重要である。青少年の生活様式ならびに少年犯罪の態様や範囲が急速に、かつ往々にして劇的に変化することによって、少年犯罪や少年非行に対する社会と司法の対応はみるみるうちに時代遅れで不充分なものとなる。
 したがって、規則30は、少年司法の運営に関する政策の立案と適用の過程に調査研究を統合するための基準を確立したものである。この規則は、現行のプログラムや措置の定期的な再検討および評価を行なうことと、全体的な発展目標の幅広い文脈のなかで計画を立てることの必要性にとくに注意を促している。
 少年のニーズや非行の傾向と問題を常に評価していくことは、公式・非公式のいずれのレベルかを問わず、適切な政策の立案方法を改善し、充分な介入のあり方を定めるための前提である。このような文脈においては、独立の個人や機関による調査研究が責任ある機関によって促進されなければならないし、少年自身(制度に関わりを持つに至った少年に限られない)の意見を調査して考慮することも有益かもしれない。
 計画の過程においては、必要なサービスを提供するためのいっそう効果的かつ公正な制度が重視されなければならない。この目的に向けて、少年に特有の広範なニーズおよび問題を包括的かつ定期的に評価し、かつ明快な優先順位を定めることが行なわれるべきである。これとの関係で、既存の資源の活用における調整も行なわれなければならない。このような資源には、確立されたプログラムを実施および監視するための具体的手続を設置するうえで適当と思われる、代替的手段やコミュニティの支援が含まれる。


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