総括所見:インド(第1回・2000年)


CRC/C/15/Add.115(2000年2月23日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.子どもの権利委員会は、2000年1月11日および12日に開かれた第589回~第591回会合(CRC/C/SR.589-591参照)において、1997年3月19日に提出されたインドの第1回報告書(CRC/C/28/Add.10)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)2000年1月28日に開かれた第615回会合において。

A.序

2.委員会は、委員会のガイドラインにしたがった報告書について評価の意を表する。委員会は、事前質問リスト(CRC/C/Q/IND.1)に対する詳細かつ有益な文書回答に留意するものである。委員会は、時間の制約により、締約国の代表団が出された質問のすべてに答えられなかったことを遺憾に思う。にもかかわらず、委員会は、行なわれた対話が開かれた性質のものであったことを評価するものである。委員会は、締約国が提供した追加の文書回答を評価する。

B.積極的な側面

3.委員会は、人権および子どもの権利の保護を目的とした広範な憲法上および立法上の規定および諸制度(たとえば国家人権委員会、国家女性委員会および指定カースト・指定部族委員会)が存在することを心強く思う。さらに、委員会は、裁判所、とくに最高裁判所が国際人権文書の規定を頻繁に参照していることを歓迎するものである。
4.委員会は、人権の保護を伸長するための活動に、「公益訴訟」を通じてのものも含めてNGOその他の草の根組織がますます関与するようになっていることを歓迎する。
5.委員会は、教育識字庁の設置を歓迎し、かつ、万人を対象とした無償のかつ義務的な初等教育を達成することに対して締約国が表明している決意に留意する。
6.委員会は、インドにおける子どもの健康および児童労働の問題に対応するために締約国が行なっている努力、および国際機関および非政府組織との協力に留意する。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

7.インドの子どもの人数が世界の子ども人口の膨大な割合を占めていることを考慮にいれ、委員会は、その管轄下にあるすべての子どものニーズを満たすにあたってインドが直面している課題が、とくに経済的および社会的分野において膨大な難問を提示するものであることに留意する。委員会はまた、高い人口増加率により必要な資源の維持が困難になっていることにも留意するものである。
8.委員会は、インドの人口の相当部分に影響を与えている極度の貧困、構造調整の影響および自然災害が、条約にもとづく締約国の義務のすべてを履行するうえで深刻な困難となる要因であることに留意する。
9.社会がこれほど多様かつ多文化的であることを踏まえ、委員会はさらに、伝統的な慣習(たとえばカースト制度)および社会的態度(たとえば部族集団に対する)の存在が、差別と闘う努力の障害となっており、かつとくに貧困、非識字、児童労働、子どもの性的搾取ならびに路上で生活しかつ(または)働く子ども〔の現象〕を悪化させていることに留意する。

D.主要な懸念事項および委員会の勧告

D.1 実施に関する一般的措置

立法
10.条約第4条に照らし、委員会は、国内法の枠組みにおける条約の地位が不明確であることに留意し、かつ、現行の連邦法、州法および民事的地位法を条約に全面的に一致させるためにとられた措置が不十分であることを懸念する。
11.委員会は、締約国が、条約の一般原則を正当に考慮しながら、国内法が条約と全面的に両立することを確保するための努力を追求するよう勧告する。これとの関連で、委員会は、締約国に対し、子ども法の採択を検討するよう奨励するものである。
12.委員会は、立法、および裁判所および諸委員会(すなわち国家人権委員会、国家女性委員会および指定カースト・指定部族委員会)の決定を実施し、かつ子どもの権利に関わるそのような機関の活動を容易にするために行なわれた努力が不十分であることに留意する。
13.委員会は、締約国が、現行法の効果的実施を確保および強化するため、必要な資源(すなわち人的資源および財源)の配分も含むあらゆる必要な措置をとるよう勧告する。委員会はさらに、締約国に対し、国家人権委員会、国家女性委員会および指定カースト・指定部族委員会を含む国内人権機関の能力および効果を強化するため、十分な資源を提供することその他のあらゆる必要な措置をとるよう勧告するものである。
調整
14.連邦制の統治構造をとっていることから連邦と州のレベル間の責任分担に関して複雑な状況が生じていることに留意し、委員会は、行政上の調整および協力が不十分であることが条約実施において深刻な問題となっているように思えることを、懸念する。
15.委員会は、締約国が、条約を実施するための包括的な国内行動計画を、子どもの権利アプローチにもとづいて採択するよう勧告する。委員会は、中央、州および自治体の各統治レベルにおける、および当該各統治レベル間の、部門間の調整および協力に注意を向けるよう勧告するものである。締約国は、能力構築を含む条約実施のための支援を地方行政機関に提供するよう奨励される。
独立機構/監視体制
16.委員会は、条約が対象とするあらゆる領域に関して、もっとも傷つきやすい立場に置かれたグループ(すなわちスラムで生活する子ども、各種のカーストおよび部族集団に属する子ども、農村部で生活する子ども、障害をもった子ども、路上で生活しおよび(または)働く子ども、武力紛争の影響を受けている子どもおよび難民の子ども)を含む18歳未満のすべての者の細分化されたデータを収集および分析する効果的な機構が存在しないことを懸念する。
17.委員会は、締約国が、子どもの権利の実現に関して達成された進展を評価し、かつ条約実施のためにとるべき政策の立案に役立てる目的で、細分化されたデータを収集するための包括的なシステムを発展させるよう勧告する。
18.委員会は、締約国が子どものための国家委員会を設置する意思を有していることを歓迎する。
19.委員会は、締約国に対し、とくに連邦、州および地方の各レベルで条約実施における進展を恒常的に監視および評価することを権限とする、法律にもとづきかつ独立した子どものための国家委員会を設置するよう奨励する。さらに、当該委員会は、治安部隊に関するものも含む子どもの権利侵害の苦情を受理しかつそれに対応する権能を与えられるべきである。
予算資源の配分(第4条)
20.委員会は、教育への予算配分を国家予算の4%から6%に増加させようという締約国の決意を歓迎する。しかしながら、委員会は、子どもの経済的、社会的および文化的権利を「利用可能な手段を最大限に用いて」実施することに関して条約第4条に払われている注意が不十分であることを、懸念するものである。
21.委員会は、締約国が、予算配分が子どもの権利の実施に与える影響の体系的評価を確立し、かつこの点に関する情報を収集および普及する方法を発展させるよう勧告する。委員会はまた、締約国が、中央、州および地方の各レベルにおいて、かつ必要な場合には国際協力の枠組みのなかで資源の適切な配分を確保するようにも勧告するものである。
NGOとの協力
22.委員会は、報告書の作成を含む条約実施における非政府組織との協力が依然として限られていることに留意する。
23.委員会は、締約国に対し、政策立案を含む条約実施の全段階を通じてNGOおよび市民社会一般を関与させるための体系的アプローチを検討するよう奨励する。
研修/条約の普及(第42条)
24.第42条に照らし、委員会は、子どもを含む公衆一般および子どもとともに働く専門家の間で条約に関する意識水準が低いことに留意する。委員会は、締約国が、体系的かつ対象を明確にした方法で十分な普及活動および意識啓発活動を行なっていないことを懸念するものである。
25.これとの関連で、委員会は、締約国が、条約実施に関わる情報を子どもおよび親、市民社会ならびにあらゆる部門および段階の政府の間で普及するための継続的プログラムを発展させるよう勧告する。委員会は、締約国に対し、非識字であるまたは正規の教育を受けていない傷つきやすい立場に置かれたグループを対象とするためのとりくみも含め、同国における子どもの権利教育を促進するための努力を追求するよう奨励するものである。さらに、委員会は、締約国が、子どもとともに働くすべての専門家集団(すなわち裁判官、弁護士、法執行官、公務員、地方政府職員、子どものための施設および拘禁場所で働く職員、教員、心理学者を含む保健従事者ならびにソーシャルワーカー)を対象とした、条約の規定に関する体系的かつ継続的な研修プログラムを発展させるよう勧告する。委員会は、締約国に対し、この点に関してとくにユニセフの援助を求めるよう奨励するものである。

D.2 子どもの定義

26.第1条に照らし、委員会は、法律により定められたさまざまな年齢制限が条約の一般原則その他の規定にしたがっていないことを懸念する。委員会がとりわけ懸念するのは、刑法にもとづく刑事責任年齢が7歳と定められておりきわめて低いこと、および、16~18歳の男子が成人として審理される可能性があることである。委員会は、性的同意に関する最低年齢が男子について定められていないことを懸念する。委員会はさらに、最低年齢基準の執行が不完全であること(たとえば1929年の児童婚姻禁止法)を懸念するものである。
27.委員会は、年齢制限が条約の原則および規定に一致することを確保するために締約国が国内法の見直しを行なうこと、および、このような最低年齢要件を執行するためにいっそうの努力を行なうことを勧告する。

D.3 一般原則

差別の禁止への権利(第2条)
28.条約第2条に照らし、委員会は、異なる州に住んでいる子ども、農村部で生活している子ども、スラムで生活している子どもならびにさまざまなカースト、部族集団および先住民族集団に属している子どもによる条約上の権利の享受の水準が著しく異なることを深く懸念する。
29.委員会は、もっとも脆弱な立場に置かれた集団を対象としたプログラムのための予算供与を増加させることも含む政策の見直しおよび方向転換を通じて社会的不平等に対応するため、あらゆるレベルで調和のとれた努力を行なうよう勧告する。
30.条約第2条に照らし、委員会は、カーストにもとづく差別および部族集団に対する差別が、このような刊行が法律で禁じられているにもかかわらず存在していることを懸念する。
31.憲法第17条および条約第2条にしたがって、委員会は、締約国が、州が「不可触性」の差別的慣行を廃止することを確保し、カーストおよび部族を動機とした虐待を防止し、かつそのような慣行または虐待を行なった国または民間の行為者を訴追するための措置をとるよう勧告する。さらに、憲法第46条にしたがい、締約国は、とくにこのような集団を保護しかつその地位を高めるための積極的措置を実施するよう奨励されるところである。委員会は、1989年指定カースト・指定部族(残虐行為防止)法、1995年指定カースト・指定部族(残虐行為防止)規則および1993年清掃肉体労働者雇用法の全面的実施を勧告する。委員会は、締約国に対し、カーストにもとづく差別を防止しかつそれと闘うための包括的な公衆教育キャンペーンを遂行する努力を、引き続き行なうよう奨励するものである。人種差別撤廃委員会(CERD/C/304/Add.13)にならい、委員会は、このようなグループの構成員が、保健、教育、労働、ならびに井戸のような公共の場所およびサービスへのアクセスを含む条約上の権利を平等に享受することの重要性を強調する。
32.委員会は、女子に対する差別的な社会の態度および有害な伝統的慣行が根強く残っていることに留意する。これには、女児の嬰児殺、選択的中絶、低い就学率および高い中退率、若年婚および強制婚のほか、婚姻、離婚、乳児の監護および後見ならびに相続のような分野でジェンダーに基づく不平等を固定化させている、宗教に基づく民事的地位法が含まれる。
33.条約第2条に照らし、委員会は、締約国に対し、保護法の執行を確保するよう奨励する。委員会は、締約国に対し、とくに家庭におけるジェンダー差別を防止しかつそれと闘うための包括的な公衆教育キャンペーンを遂行する努力を継続するよう奨励するものである。このような努力を援助するため、女子を差別する伝統的な慣行および態度を根絶する努力を支援する目的で政治的、宗教的および地域共同体の指導者が動員されるべきである。
子どもの意見の尊重(第12条)
34.第12条に照らし、委員会は、とくに家庭、学校、ケアのための施設、裁判所および少年司法制度において、子どもの意見が不十分にしか重視されていないことに留意する。
35.委員会は、締約国に対し、条約第12条にしたがって、自己に影響を与えるあらゆる事柄における子どもの意見の尊重および子どもの参加を、家庭、学校、ケアのための施設、裁判所および少年司法制度において促進しかつ容易にするよう奨励する。これとの関連で、委員会は、子どもが十分な情報を得たうえで決定およびその表明を行ない、かつその意見を考慮されることを援助するにあたり、教員、ソーシャルワーカーおよび地方行政職員を対象とした、地域共同体におけるスキル訓練プログラムを発展させるよう勧告するものである。

D.4 市民的権利および自由

名前および国籍(第7条)
36.時宜を得た出生登録が行なわれないことが基本的権利および自由の子どもによる全面的享受に好ましくない結果をもたらす可能性があることを踏まえ、委員会は、条約第7条に照らし、インドのきわめて多数の子どもの出生が登録されていないことを懸念する。
37.委員会は、締約国が、条約第7条にしたがってすべての出生が時宜を得た形で登録されることを確保するためにいっそうの努力を行ない、かつ、農村部において登録に関わる研修および意識啓発の措置をとるよう勧告する。委員会は、移動登録所ならびに学校および保健施設における登録係の設置のような措置を奨励するものである。
拷問または他の残酷な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは処罰を受けない権利(第37条(a))
38.条約第37条(a)に関して、委員会は、拘禁施設における子どもの日常的な不当な取扱い、体罰、拷問および性的虐待の報告が多数存在し、かつ、路上で生活しかつ(または)働く子どもの殺害が法執行官によって行なわれているという主張があることを懸念する。
39.委員会は、警察署に連れてこられた子どもひとりひとりの登録を拘禁の日時および理由も含めて義務的なものとすること、および、そのような拘禁を判事による頻繁な義務的審査の対象とすることを勧告する。委員会は、締約国に対し、刑事訴訟法第53条および第54条を改正することにより、拘禁の時点における、および定期的な間隔を置いた健康診断(年齢の確認も含む)を義務的なものとするよう奨励するものである。
40.委員会は、警察の拘禁下にある者の強姦、死亡または負傷の疑いがある事件について司法審問を義務的なものとすること、調査機関を設置すること、および拘禁下の虐待の被害者に対して賠償金を支払うことをとくに求めた、国家警察委員会による1980年の勧告および議会委員会による1996年の勧告を締約国が実施するよう勧告する。拘禁下における子どもの虐待の事件に関する苦情申立ておよび訴追の機構を整備するため、少年法の改正が勧告されるところである。加えて、委員会は、刑事訴訟法第197条(拘禁下の虐待または不法な拘禁の苦情が申し立てられた場合に法執行官を訴追するにあたり、政府の承認を要件とするもの)および警察法第43条を改正することにより、不法な拘禁または拘禁下の虐待の事件において警察が令状執行中の行動に関する免責を主張できないようにすることを勧告する。
41.委員会は、締約国に対し、同国が1997年に署名した拷問および他の残酷な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を禁止する条約を批准するよう奨励する。

D.5 家庭環境および代替的養護

養子縁組(第21条)
42.条約第21条および第25条に照らし、委員会は、インドにおいて統一の養子縁組法が存在しないこと、ならびに、締約国内外の措置を監視しかつフォローアップするための効果的な措置がとられていないことを懸念する。
43.委員会は、締約国に対し、国内外の養子縁組に関する法的枠組みを見直すよう勧告する。委員会は、締約国が、国際養子縁組における子どもの保護および協力に関する1993年のハーグ条約の加盟国となるよう勧告するものである。
暴力/虐待/放任/不当な取扱い(第19条)
44.条約第19条および第39条に照らし、委員会は、インドにおいて、学校およびケアのための施設のみならず家庭においても子どもの不当な取扱いが広がっていることを懸念する。
45.委員会は、締約国が、家庭、学校およびケアのための施設における子どもの体罰および性的虐待を含むあらゆる形態の身体的および精神的暴力を禁止するために立法上の措置をとるよう勧告する。委員会は、このような措置とあわせて、子どもの不当な取扱いの好ましくない結果に関する公衆教育キャンペーンを行なうよう勧告するものである。委員会は、締約国が、とくに家庭および学校において、体罰に代わる手段として積極的かつ非暴力的な形態のしつけおよび規律の維持を促進するよう勧告する。虐待された子どものリハビリテーションおよび再統合のためのプログラムを強化すること、および、不当な取扱いの苦情を受理し、そのような取扱いの発生を監視し、調査しかつ訴追するための十分な手続および機構を設置することが必要である。

D.6 基礎保健および福祉

障害のある子ども(第23条)
46.1995年障害者(機会均等、権利保護および完全参加)法には留意しながらも、委員会は、障害児、とくに農村部で生活する障害児のケアの水準およびケアへのアクセスがきわめて貧弱であること、および障害児のケアに責任をもつ者に援助が提供されていないことを懸念する。条約第23条に照らし、委員会は、精神的および身体的障害をもった子どもの権利を保障し、かつそのような子どもの社会への全面的インクルージョンを促進する政策およびプログラムの実施を確保する必要があることを強調するものである。
47.障害者の機会均等化に関する基準規則(総会決議48/96)および「障害のある子ども」に関する一般的討議の日に採択された委員会の勧告(CRC/C/69)に照らし、委員会は、締約国が、障害をもった子どものリハビリテーション施設の定員を増加させ、かつ、農村部で生活する障害児のサービスへのアクセスを向上させるよう勧告する。予防、インクルーシブな教育、家庭におけるケアおよび障害児の権利の促進に焦点を当てた意識啓発キャンペーンを行なうことが必要である。障害児とともに働く者が十分な研修を受けられるようにすることも求められる。委員会は、締約国に対し、必要な資源が利用できるようにするためにいっそうの努力を行ない、かつ、とくにユニセフ、WHOおよび関連のNGOの援助を求めるよう奨励するものである。
健康および保健サービスへの権利(第24条)
48.条約第24条に照らし、委員会は、締約国が、若干の国家プログラムを設置することにより、すでに主要な健康問題に焦点を当てかつ優先順位を置いていることに留意する。にもかかわらず、委員会は、妊産婦死亡率が高いこと、および、子どもの低体重出生および栄養不良(微量栄養素欠乏症を含む)の水準が高いことを懸念するものである。このような現象は、出生前ケアへのアクセスが欠けていること、ならびに、より一般的には、質の高い公共保健施設へのアクセスが限られていること、資格のあるヘルスワーカーの人数が不十分であること、健康教育が貧弱であること、安全な飲料水へのアクセスが不十分であること、および環境衛生が貧弱であることとつながっている。このような状況を悪化させているのは、女性および女子がとくに農村部において直面している極端な格差である。
49.委員会は、締約国が、児童期疾病統合管理戦略を採用、拡大および実施し、かつもっとも傷つきやすい立場に置かれたグループ層に特段の注意を払うためにあらゆる必要な措置をとるよう勧告する。委員会はまた、締約国が、女児の嬰児殺および選択的中絶のような慣行につながる社会文化的要因を見定め、かつそのような要因に対応する戦略を策定するための研究を行なうようにも勧告するものである。委員会は、社会の最貧層にひきつづき資源を配分すること、および、とくにWHO、ユニセフ、世界食糧計画および市民社会との協力およびそこからの技術的援助を継続することを勧告する。
50.委員会は、たとえば女子の健康に悪影響を与える若年婚の割合がきわめて高いことを踏まえ、青少年、とくに女子の健康がなおざりにされていることを懸念する。青少年、とくに女子の自殺、および子どもへのHIV/エイズの影響は委員会にとって深刻な懸念の対象である。
51.委員会は、締約国が、もっとも傷つきやすいグループ層を対象とした、リプロダクティブ・ヘルスおよび子どもの健康に関する現行の国家プログラムを強化するよう勧告する。委員会は、締約国が、公衆およびとくに保健専門職を対象とした意識啓発および感受性増進プログラムを強化することにより、HIV/エイズの影響を受けた者への差別と闘うよう勧告するものである。委員会は、社会の最貧層にひきつづき資源を配分すること、および、とくにWHO、ユニセフ、UNAIDS〔国連エイズ合同計画〕および市民社会との協力およびそこからの技術的援助を継続することを勧告する。
十分な生活水準への権利(第27条)
52.委員会は、スラムを含む不十分な居住環境で生活している子どもの割合が高いこと、および、そのような子どもの栄養状態、および安全な飲料水および衛生へのアクセスが不十分であることを懸念する。委員会は、構造調整プロジェクトが家庭および子どもの権利に与える悪影響を懸念するものである。
53.条約第27条に照らし、委員会は、締約国が、1996年の第2回ハビタット〔国連人間居住会議〕で子どもの居住へのアクセスに関して表明した決意を実施するために適切な措置をとるよう勧告する。強制退去に関する人権委員会決議1993/77に照らし、委員会は、締約国に対し、強制的な居住地移動、避難およびその他のタイプの非自発的な人口移動の発生を防止するよう奨励するものである。委員会は、再定住のための手続およびプログラムにおいて登録が含められ、包括的な家族リハビリテーションの便宜が図られ、かつ基本的サービスへのアクセスが確保されるよう勧告する。
54.委員会は、路上で生活しかつ(または)働く子どもの人数が多くかつ増加していることを懸念する。このような子どもたちは、インドにおいてもっとも周縁に追いやられた子どもグループのひとつである。
55.委員会は、締約国が、このような子どもが身分証明書類、栄養、衣服および住居を提供されることを確保するための機構を設置するよう勧告する。さらに、締約国は、このような子どもが保健、身体的および性的虐待ならびに有害物質濫用に関するリハビリテーション・サービス、家族との和解のためのサービス、職業訓練およびライフスキル訓練を含む教育、および法律扶助にアクセスできることを確保するべきである。委員会は、締約国が、この点に関して市民社会と協力し、かつ国の努力を市民社会と調整するよう勧告する。

D.7 教育、余暇および文化的活動

教育の権利および目的(第28条および第29条)
56.教育への基本的権利に関する第83次憲法改正法案を歓迎しながらも、委員会は、教育との関連で締約国に蔓延している貧弱な状況に懸念を表明する。この状況を特徴づけているのは、インフラストラクチャー、便益および設備が全般的に欠けていること、資格のある教員の人数が不十分であること、および、教科書その他の関連する学習教材が徹底的に不足していることである。さまざまな州の間、農村部と都市部との間、男女間、富裕層と貧困層との間、および指定カーストおよび指定部族に属する子どもの間で、教育へのアクセス、初等段階および中等段階における通学および中退率に関して著しい格差が存在することに関わって、深刻な懸念が存在する。委員会は、とくにさまざまな懸念(女子の状況、および児童労働の発生の削減を含む)に対応するうえで有益となる可能性があることにかんがみて、教育の提供および質を向上させることに重点的な注意を向けることの重要性を強調するものである。
57.委員会は、締約国に対し、第83次憲法改正法案を成立させるよう奨励する。1993年および1996年の最高裁判所決定(それぞれウンニ・クリシュナン事件およびM・C・メフタ対タミールナドゥ州他事件)にならい、委員会は、締約国が、14歳未満のすべての子どもを対象とする無償の義務教育を義務づけた憲法第45条を遵守するための措置を実施するよう勧告するものである。
58.委員会は、締約国が、教育へのアクセスに関して蔓延している格差に関する研究を行ない、かつ、そのような格差に対応するための措置、教員養成プログラムおよび学校環境の質を向上させるための措置、および、ノンフォーマル教育計画の質が監視および保証され、かつ当該計画に参加する働く子どもその他の子どもがメインストリーム教育に統合されることを確保するための措置を発展させるよう勧告する。委員会は、締約国が、もっとも傷つきやすい立場に置かれたグループの子どもが中等教育に進学する機会を確保および促進するよう勧告するものである。
59.委員会は、締約国が、すべての諸人民、民族的、国民的および宗教的集団ならびに先住民の間の寛容ならびに性の平等および友好を含む、条約第29条に掲げられた教育の目的を正当に考慮するよう勧告する。委員会は、締約国が、条約を含む人権問題を学校カリキュラムに導入することを検討するよう勧告するものである。
60.委員会は、締約国に対し、必要な資源を利用可能とし、かつとくにユニセフ、ユネスコおよび関連のNGOの援助を求めるよう奨励する。

D.8 特別な保護措置

保護者のいない子ども、庇護希望者である子どもおよび難民である子ども(第22条)
61.全体として国際難民法の原則にしたがった行政上の方針がとられていることを歓迎しながらも、委員会は、法律が存在しないことにより、子どもの庇護申請者および難民が条約で規定された保護および援助を確実に得られるという保証が依然として存在しないことを懸念する。委員会は、難民の親から生まれた子どもが無国籍となる可能性があること、家族の再統合に対応するための十分な法制度が存在しないこと、および、難民の子どもが事実上通学しているとはいえ、このような子どもに教育への権利を認めた法律が存在しないことを、懸念するものである。
62.委員会は、難民および庇護申請中の子どもの十分な保護(身体的安全、健康、教育および社会福祉の分野におけるものを含む)を確保し、かつ家族の再統合を促進するための包括的な立法を採択するよう勧告する。難民の子どもの保護を促進するため、委員会は、締約国に対し、1951年の難民の地位に関する条約および1967年のその議定書、1954年の無国籍者の地位に関する条約、ならびに1961年の無国籍の削減に関する条約の批准を検討するよう奨励するものである。
子どもと武力紛争および子どもの回復(第38条および第39条)
63.委員会は、紛争地域、とくにジャンムー・カシミール州および東北部諸州における状況が子ども、とくに生命、生存および発達に対する子どもの権利(条約第6条)に深刻な影響を与えていることを懸念する。条約第38条および第39条に照らし、委員会は、子どもがこのような紛争に関与し、かつその犠牲になっているという報告があることにきわめて深刻な懸念を表明するものである。さらに、委員会は、このような紛争地域における子どもの失踪に治安部隊が関与しているという報告があることを懸念する。
64.委員会は、締約国が、武力紛争における子どもの保護およびケアを目的とした人権法および人道法の尊重をいかなるときにも確保するよう勧告する。委員会は、締約国に対し、子どもに対して権利侵害が行なわれた場合に公正かつ徹底的な調査が行なわれ、かつ責任者が迅速に訴追されること、ならびに被害者に対して公正かつ十分な補償を行なうことを確保するよう、求めるものである。委員会は、治安部隊の構成員が行なったとされる虐待の究明を国家人権委員会が行なうことを可能にするため、人権保護法第19条を廃止するよう勧告する。自由権規約委員会の勧告(CCPR/C/79/Add.81)にならい、委員会は、治安部隊の構成員に対する刑事訴追または民事手続には政府の許可が必要とされるという要件を廃止するよう勧告するものである。
経済的搾取(第32条)
65.委員会は、インドが、ILO-IPECプログラムを実施するためILOとの了解覚書に署名した(1992年)最初の国であることに留意する。委員会はさらに、1986年児童労働(禁止および規制)法の別表が改訂されたことにも留意するものである。にもかかわらず、委員会は、とくにインフォーマル部門、家内制企業、家事労働および農業において、債務労働を含む児童労働に携わっている子どもが多いことを懸念する。そのような子どもの多くは危険な条件下で働いている。委員会は、雇用に関する最低年齢基準がほとんど執行されておらず、かつ、使用者が法律を遵守することを確保するための適切な処罰および制裁が科されていないことを懸念するものである。
66.委員会は、締約国に対し、条約第32条に関わる宣言を撤回するよう奨励する。当該宣言は、児童労働に対応するため締約国が行なっている努力に照らして不必要であるためである。委員会は、締約国が、1986年児童労働(禁止および規制)法、1976年債務労働(制度廃止)法および1993年清掃肉体労働者雇用法の全面的実施を確保するよう勧告する。
67.委員会は、1986年児童労働法を改正し、家内制企業ならびに政府の学校および訓練センターが子どもの雇用の禁止から除外されないようにすること、および、農業その他のインフォーマル部門を含めるため対象を拡大することを、勧告する。工場法は、児童労働を使用するすべての工場または工房を対象とするために改正されるべきである。ビーディ〔タバコ〕法は、家内生産の免除を撤廃するために改正されるべきである。使用者は、その施設で働くすべての子どもの年齢の証拠書類を備え、かつ要求に応じて提出することを義務づけられるべきである。
68.委員会は、とくに児童労働者のための補償基金に関する最高裁判所の決定(M・C・メフタ対タミールナドゥ州事件およびM・C・メフタ対インド連邦事件)に照らし、締約国が、法律により刑事上および民事上の救済が規定されることを確保するよう勧告する。委員会は、適切な、時宜を得たかつ子どもに優しい対応が行なわれるよう裁判手続を簡素化すること、および最低年齢基準の執行を精力的に追求することを勧告するものである。
69.委員会は、締約国が、州および地区に対し、児童労働監視委員会を設置および監督し、かつ、十分な人数の労働監察官に対してその業務を効果的に遂行するのに十分な資源が提供されることを確保するよう奨励することを勧告する。州および地方のレベルにおける基準の実施を監視する国家機構が設置されるべきであり、かつ、当該機関に対し、違反の苦情を受理しかつ対応する権限および1次情報報告書を提出する権限が与えられるべきである。
70.委員会は、締約国が児童労働の性質および規模に関する国家的な研究を行なうこと、および、措置の立案および進展の評価の基盤とするため違反を含む細分化されたデータを収集および更新することを勧告する。委員会はさらに、締約国が、労働上の危険に関して公衆一般、とくに親および子どもに情報を提供しかつその感受性を増進するためのキャンペーンを遂行する努力、および、使用者団体、労働者団体および市民組織、労働監察官および法執行官のような政府職員ならびにその他の関連の専門家を関与させかつ訓練するための努力をひきつづき行なうよう勧告するものである。
71.委員会は、締約国に対し、権限ある諸公的機関が教育およびリハビリテーション・プログラムなどに関して協力しかつその活動の調整を行なうこと、および、締約国と関連の国際連合機関(ILOおよびユニセフなど)およびNGOとの間で現在行なわれている協力が拡大されることを確保するよう、求める。委員会は、締約国が、就労のための最低年齢に関するILO第138号条約ならびに最悪の形態の児童労働の禁止および撲滅のための即時的行動に関するILO第182号条約を批准するよう勧告するものである。
薬物濫用(第33条)
72.第33条に照らし、委員会は、とくにムンバイ、ニューデリー、バンガロールおよびカルカッタの大都市中心部において不法な薬物の使用および取引が増加していること、および、18歳未満の者、とくに女子の間でタバコの使用が増えていることを懸念する。
73.委員会は、締約国が、国際連合薬物統制計画(UNDCP)の指導を得て国家薬物統制計画または総合基本計画を策定するよう勧告する。委員会は、締約国に対し、タバコの使用を含む有害物質の使用について子どもに正確かつ客観的な情報を提供するための努力、および、タバコ広告の包括的制限を通じ、誤った有害な情報から子どもを保護するための努力をひきつづき行なうよう奨励するものである。委員会は、WHOおよびユニセフから協力および援助を得るよう勧告する。委員会はさらに、締約国が、有害物質の濫用の被害を受けた子どものためのリハビリテーション・サービスを発展させるよう勧告するものである。
性的搾取および性的虐待(第34条)
74.委員会は、女性および子どもの売買および商業的性的搾取と闘うための行動計画に留意する。しかしながら、問題の規模にかんがみ、委員会は、子ども、とくに底辺カーストに属する子ども、および都市部の貧困地域および農村部の子どもの性的虐待および性的搾取について懸念するものである。このような搾取および虐待は、宗教的および伝統的文化、子どもの家事労働、路上で生活しかつ(または)働く子ども、地域における暴力および民族紛争、ジャンムー・カシミール州のような紛争地域における治安部隊による虐待、ならびに、近隣諸国(とくにネパール)からのとくに女子の売買および商業的搾取を背景として生じている。委員会はまた、このような現象と闘うために十分な措置がとられていないこと、およびリハビリテーションのための十分な措置が存在しないことも懸念するものである。
75.委員会は、締約国が、法律により子どもの性的搾取が犯罪とされ、かつ、国民か外国人かを問わず関係したすべての犯罪者が処罰対象とされることを、このような慣行の被害を受けた子どもが処罰されないことを同時に確保しながら確保するよう、勧告する。デーヴァダーシーが法律で禁じられていることには留意しながらも、委員会は、締約国が、この慣行を撲滅するためにあらゆる必要な措置をとるよう勧告するものである。商業的性的目的のものを含む子どもの売買と闘うため、誘拐を禁じる規定が刑法に置かれるべきである。委員会は、締約国が、子どもの性的搾取に関わる法律がジェンダーに中立であることを確保すること、違反の場合に民事上の救済を提供すること、適切な、時宜を得た、子どもに優しい、かつ被害者に配慮した対応が行なわれるよう裁判手続が簡素化されることを確保すること、侵害の対象とされた者を差別および報復から保護するための規定を含めること、および執行を精力的に追求することを、勧告する。
76.委員会は、実施を監視するための国家機構が、苦情申立て手続およびヘルプラインとともに設置されるべきことを勧告する。性的虐待および性的搾取の被害を受けた子どもを対象として、リハビリテーション・プログラムおよびシェルターが設置されるべきである。
77.委員会は、締約国が子どもの性的虐待および性的搾取の性質および規模に関する国家的な研究を行なうこと、および、措置の立案および進展の評価の基盤とするため細分化されたデータを収集および更新することを勧告する。委員会は、締約国が、児童婚姻および儀式としての売買春のような有害な伝統的慣行と闘うため徹底的なキャンペーンを遂行する努力、および、身体的および精神的不可侵性に対する子どもの権利および性的搾取からの安全に関して公衆一般への情報提供、その感受性の増進および動員を行なう努力をひきつづき行なうよう勧告するものである。
78.委員会は、とくに西ベンガル、オリッサおよびアンドラプラデールの諸州の東部国境地帯に沿って、近隣諸国の国境警察隊との協力をともなう2国間および地域間の協力を強化するよう勧告する。締約国は、権限のある公的機関が協力しかつその活動を調整すること、および、締約国ととくにユニセフとのあいだで現在行なわれている協力が拡大されることを、確保するべきである。
少年司法の運営(第37条、第40条および第39条)
79.委員会は、インドにおける少年司法の運営をめぐって、かつそれが条約第37条、第40条および第39条ならびに他の関連の国際基準と両立していないことをめぐって、懸念を覚える。委員会はまた、刑事責任年齢がきわめて低いこと(7歳)、および、16~18歳の男子が成人として審理される可能性があることも懸念するものである。18歳以上の者には死刑が事実上適用されないことには留意しながらも、委員会は、法律上はその可能性が存在することをきわめて懸念する。委員会はさらに、成人との拘禁を含む子どもの拘禁が過密かつ不衛生な環境下で行なわれていること、司法職員、弁護士および法執行官を含む専門家を対象として条約、その他の現行国際基準および1986年少年法に関する研修が行なわれていないこと、および、これらの規定に違反した職員を訴追するための措置およびその執行が存在しないことを懸念するものである。
80.委員会は、法律が条約、とくに第37条、第40条および第39条、ならびに少年司法の運営に関する国際連合最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止に関する国際連合指針(リャド・ガイドライン)、自由を奪われた少年の保護に関する国際連合規則および刑事司法制度における子どもについての措置に関するウィーン指針のような他の関連の国際基準にしたがうことを確保するため、締約国が少年司法の運営に関わる法律を見直すよう勧告する。
81.委員会は、締約国が、18歳未満の者に対して死刑を科すことを法律で廃止するよう勧告する。委員会はまた、締約国が、刑事責任年齢の引上げを検討し、かつ18歳未満の者が成人として審理されないことを確保するようにも勧告するものである。条約第2条に掲げられた差別の禁止の原則にしたがい、委員会は、1986年少年法第2条(h)を改正し、18歳未満の男子が女子と同様に少年の定義に含まれることを確保するよう勧告する。委員会は、1986年少年法を全面的に執行すること、および、司法職員および弁護士に研修を施しかつ同法について承知させることを、勧告するものである。委員会はさらに、過密状態を軽減し、迅速な審理に付すことができない者を釈放し、かつ刑務施設を可能なかぎり早急に改善するための措置をとるよう勧告する。委員会は、締約国が、罪を犯した少年のための施設の定期的な、頻繁なかつ独立した監視を確保するよう勧告するものである。
82.委員会はさらに、締約国が、少年司法調整委員会を通じ、とくに国際連合人権高等弁務官事務所、国際犯罪防止センター、少年司法国際ネットワークおよびユニセフの技術的援助を求めることを検討するよう提案する。

D.9 報告書の普及

83.最後に、委員会は、条約第44条6項にしたがって、締約国が提出した第1回報告書を公衆一般が広く入手できるようにし、かつ、委員会が提示した事前質問票への文書回答、関連の議事要録、および報告書の検討後に委員会が採択した総括所見ともに報告書を刊行することを検討するよう、勧告する。そのような文書は、政府、議会および関心ある非政府組織を含む公衆一般の間で条約ならびにその実施および監視に関する議論および意識を喚起するため、広く配布されるべきである。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年10月2日)。/前編・後編を統合(2012年10月20日)。
最終更新:2012年10月20日 08:43