総括所見:フィリピン(第1回・1995年)


CRC/C/15/Add.29(1995年2月15日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1995年1月10日および11日に開かれた第185回、第186回および第187回会合(CRC/C/SR.185-187)においてフィリピンの第1回報告書(CRC/C/3/Add.23)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1995年1月26日に開かれた第208回会合において。

A.序

2.委員会は、子どもの権利条約の締約国になった最初の国々のひとつであるフィリピンの第1回報告書が提出されたことに、満足感とともに留意する。委員会は、同報告書が委員会のガイドラインに従っていること、および、同報告書に、条約が実施される法的枠組みについての詳細な情報が記載され、かつ締約国が直面した困難についての若干の言及が見られることに、評価の意を表するものである。委員会は、事前質問票(CRC/C/7/WP.3)に掲げられた質問への回答として政府により文書で提出され、かつ会期前に委員会に送達された情報を歓迎する。しかしながら委員会は、とられた措置の具体的効果に関する情報が欠けていたことに遺憾の意とともに留意するものである。
3.多数のメンバーからなるフィリピンの代表団によって補足的な情報が提供され、かつ、代表団が多様な部門でさまざまな子ども関連の問題に従事しているメンバーから構成されていたことにより、文書によって受領された情報を補完すること、および開かれたかつ建設的な対話に携わることが可能になった。

B.積極的な側面

4.委員会は、フィリピン政府が子どもの権利の促進および保護に堅い決意を示していることに留意する。委員会は、子どもの権利の促進および保護をとくに目的とした新法の制定およびプログラムの採択を通じて、国内法を条約に一致させるために締約国が行なった努力を歓迎するものである。このような達成としては、1990年の子どものための世界サミットを受けて、子どものためのフィリピン国内行動計画「フィリピンの子どもたち:2000年およびそれ以降」が採択されたことを挙げることができる。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

5.委員会は、締約国が地理的および文化的に多様であること、フィリピン諸島の7000の島々に住民が散らばっていること、ならびに、幅広い経済的および社会的格差が締約国に存在することに、留意する。
6.委員会はさらに、武力紛争が子どもに及ぼす悪影響も含めて、民主化の過程における政治的不安定から生じている困難を認識する。
7.委員会はまた、自然災害が子どもの状況に悪影響を及ぼしてきたことにも留意する。

D.主要な懸念事項

8.委員会は、法改正の分野における真剣な努力および達成にも関わらず、国内法を条約に全面的に一致させるためにとるべき措置が残っていることを懸念する。このような措置には、刑事責任に関する最低年齢、性的同意に関する最低年齢、最低就業年齢、義務教育の年齢制限、婚外子の地位、拷問の禁止、国際養子縁組、および、自由の剥奪および物乞いの犯罪視を含む少年司法の運営に関わる立法に関するものが含まれる。
9.子どもの状況を監視するための効率的な機構が存在しないことは懸念の対象である。これとの関連で、委員会は、信頼できる質的および量的データが存在しないこと、プログラムを実施する手段が不足していること、および、とられた政策の進展および影響を評価するための指標および機構が存在しないことに留意する。
10.委員会は、同様に、予算配分に関わる条約第4条の規定に充分な注意が払われていないように思えることを懸念する。締約国における予算配分のバランスが社会部門とその他の部門とのあいだでとれていないこと、および、軍事支出の割合が高いため子どもに関わる問題が犠牲にされていることは、懸念とともに留意されるところである。これとの関連で、委員会は、締約国の富が不平等に配分されていることおよび条約で規定された権利の享受に格差があることにより、都市部の貧しい子ども、農村部で生活する子どもおよびマイノリティ(または「文化的」コミュニティ)に属する子どもが不利益をこうむっていることに、懸念を表明する。
11.委員会は、出生後の子どもの登録を確保するうえでの困難、および、登録されなかった子どもが基本的権利および自由の享受に関して直面している問題について懸念する。
12.委員会はまた、女子、障害児、国際結婚により生まれた子ども、出稼ぎ労働者の子ども、働く子ども、および武力紛争の影響を受けている子どもを含む一部のカテゴリーの子どもが条約で認められた権利を全面的に享受することを確保するために実際的な措置がとられていないことにも懸念を表明する。
13.委員会は、家庭において児童虐待(性的虐待を含む)および放任が存在することに、深刻な危機感を覚える。このことは、子どもが遺棄されまたは家出し、人権侵害のさらなる危険に直面する事態につながることが多い。
14.委員会はまた、警察または軍隊要員による事例も含めて、暴力が高いレベルで発生していることおよび子どもの不当な取扱いおよび虐待が多数行なわれていることにも見過ごせない。委員会は、子どもの虐待および放任と闘う政府の努力が防止の観点からも制裁の観点からも不充分であることに、懸念とともに留意するものである。そのような子どものリハビリテーションのための措置が存在しないことも懸念の対象である。そのような侵害の加害者を訴追および処罰し、または、これとの関連で行なわれた決定をペドファイル(小児性的虐待者)に対するものも含めて公開するために効果的な措置がとられていないことは、住民のあいだに、加害者が処罰されない状況が蔓延しており、そのため権限のある公的機関に苦情を申し立てても無駄であるという気持ちをもたらすことにつながる可能性がある。
15.教育への権利に関して、委員会は、とくに女子、農村部または遠隔地で生活する子ども、および武力紛争の影響を受ける子どもとの関わりで、条約の関連の原則および規定の全面的実施に関してほとんど進展が見られないことに懸念とともに留意する。委員会はまた、職業訓練の機会が存在しないこと、初等教育における中退率が高いこと、および中等教育における就学率が低いことも、不安に感ずるものである。
16.農村部からの移住、極端な貧困、遺棄および家庭における暴力の状況により、路上で生活しかつ(または)働くことを余儀なくされ、基本的権利を奪われ、かつさまざまな形態の搾取にさらされる子どもが多数存在しかつ増加していることは、深い懸念の対象である。
17.少年司法の運営の制度の現在の体制、およびそれが条約および少年司法に関わる他の国際基準の原則および規定と両立していないことに関しても、具体的な懸念が表明されるところである。

E.提案および勧告

18.委員会は、締約国がひきつづき国内法と条約の規定とを調和させるよう勧告する。性的同意および刑事責任に関する年齢制限の引上げ、婚外子に対する差別の解消、拷問の禁止、および少年司法の運営に関わる法規定の見直しが、真剣に考慮されるべきである。委員会はまた、締約国が、国際養子縁組における子どもの保護および協力に関する1993年のハーグ条約の批准を構想するようにも提案する。委員会はまた、政府が、条約に掲げられた規定の尊重および効果的実施を確保するためにあらゆる必要な措置をとるようにも勧告するものである。
19.条約の実施およびその監視に携わるさまざまな政府機関のあいだの調整が確保されるべきであり、かつ、非政府組織とのいっそう緊密な協力に向けて努力が行なわれるべきである。
20.条約の監視機構を強化するための措置がとられるべきである。子どもの権利の全面的享受を目的としたプログラムの進展および効率性を評価するため、質的および量的なデータおよび指標が開発されるべきである。子どもの権利の実施に関する監視報告書も広報されるべきである。
21.公的機関は、充分な資源が子どもに配分されることを確保するために、もっとも傷つきやすい立場に置かれたグループのニーズに特別に配慮しながら、利用可能な資源を最大限に用いてあらゆる適切な努力を行なうべきである。
22.教員、裁判官、ソーシャルワーカーおよび警察官のようなさまざまな専門家グループを対象として、いっそう子どもの権利中心の研修プログラムが組織されるべきである。そのようなプログラムは、子どもの基本的権利および子どもの尊厳の感覚の促進および保護を強調すべきである。家族生活教育を提供し、かつ親の責任に関する意識を発展させるため、さらなる努力が行なわれるべきである。委員会は、非政府組織および子どもおよび青少年のグループに対し、アドボカシー(権利擁護)のための行動の一環として態度を変える必要性があることに注意を向けるよう奨励する。
23.委員会は、条約第2条に規定された差別の禁止の原則が全面的に適用されなければならないことを強調する。一部のグループの子ども、とくに遠隔地の子ども、「文化的」コミュニティに属する子ども、女子、障害児および婚外子に対する差別を解消するため、いっそう積極的なアプローチがとられるべきである。
24.委員会は、締約国が、子どもに向けられたあらゆる暴力および子どもの不当な取扱い、とくに性的虐待に対する行動を強化するよう勧告する。子どもに対する不当な性的行為の防止を目的としたプログラムを増加させるべきである。この現象の深い原因が真剣に探究されるべきである。委員会はまた、この点に関する態度を変え、かつこの点に関する態度に影響を与えるうえで、非政府組織および子どもおよび若者のグループの積極的な参加も奨励する。
25.締約国は、子どもの不当な取扱いの苦情に対応するための充分な手続および機構を発展させること、子どもの権利侵害の事例が正当に調査されること、およびそのような調査の結果が広報されることを確保するべきである。
26.委員会は、最低就業年齢に関するものを含む第32条の規定を実施するためにさらなる措置をとり、かつ、締約国における児童労働を防止しかつそれと闘うための努力を行なうよう勧告する。インフォーマル部門で働いている子どもにとくに注意が向けられるべきである。委員会は、締約国が、この領域についてILOの技術的援助を求めるよう勧告する。
27.委員会は、締約国が少年司法の運営の制度の包括的改革を行なうこと、および、その改正にあたって、条約、ならびに、北京規則、リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護のための国連規則のような他の関連の国際基準の原則および規定を指針とすることを、勧告する。委員会は、法執行官、裁判官および司法の運営に従事するその他の職員に対する研修を組織すること、および、そのような研修の一部を少年司法制度に関するこれらの国際基準に割くことを、提案するものである。委員会は、この領域における技術的援助の必要性を強調し、かつ、締約国に対し、この点に関して国際連合人権センターおよび犯罪防止刑事司法部にそのような援助を求めるよう奨励する。
28.委員会はまた、締約国が提出した報告書、その検討の議事要録および委員会の総括所見を、締約国においてできるだけ広く普及するよう勧告する。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年9月23日)。