総括所見:イギリス(第3~4回・2008年)


CRC/C/GBR/CO/4(2008年10月20日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2008年9月23日および24日に開かれた第1355回~第1357回会合(CRC/C/SR.1355-1357参照)において大ブリテンおよび北アイルランド連合王国の第3回・第4回定期報告書(CRC/C/GBR/4)を検討し、2008年10月3日に開かれた第1369回会合において以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、締約国の第3回・第4回統合報告書、および事前質問事項に対する文書回答の提出を歓迎する。委員会はまた、多部門の上級職員からなる代表団との間で持たれた率直かつ建設的な対話も歓迎するものである。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書についての締約国の第1回報告書に関して同日に採択された総括所見(CRC/C/GBR/OPAC/CO/1)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

B.締約国によりとられたフォローアップ措置および達成された進展

4.委員会は以下のことを歓迎する。
  • (a) 対話の過程で締約国から提供された、条約第22条および第37条(c)に付された留保を撤回する旨の決定に関する情報。
  • (b) 2004年子ども法、2006年保育法および「イングランド子ども計画」(2007年)をはじめ、条約の規定および原則に直接言及する、子どもの権利に関わる多くの法律が採択されたこと。
  • (c) 平等人権委員会が創設されたこと。
  • (d) 子どもに影響を及ぼすイングランドのすべての政策について主たる責任を有する、子ども学校家庭省(DCSF)および子ども学校家庭大臣が創設されたこと。
  • (e) 締約国の国内裁判所で条約が参照された事例があること。
5.委員会は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書の批准プロセスを開始するために必要なすべての立法上その他の措置がとられた旨の締約国の発表を歓迎する。委員会はまた、第2回報告書の検討(2002年)以降、締約国がとくに次の文書を批准しまたはこれに加入したことにも、評価の意とともに留意するものである。
  • (a) 武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書(2003年6月24日)。
  • (b) 拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰に関する条約の選択議定書(2003年12月10日)。
  • (c) 女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約の選択議定書(2004年12月17日)。
  • (d) 国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関する1993年のハーグ第33号条約(2003年2月27日)。
  • (e) 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書(2006年2月9日)。

C.主要な懸念領域および勧告

1.実施に関する一般的措置(条約第4条、第42条および第44条第6項)

委員会のこれまでの勧告
6.委員会は、これまでの締約国報告書に関する総括所見を実施するための締約国の努力は歓迎しながらも、そこに掲げられた勧告の一部、とくに以下の点に関わる勧告が全面的に実施されていないことに、遺憾の意とともに留意する。
7.委員会は、締約国に対し、これまでの報告書に関する総括所見の勧告のうちまだ――または十分に――実施されていないものおよびこの総括所見に掲げられた勧告に対応するため、あらゆる必要な措置をとるよう促す。この文脈において、委員会は、子どもの権利条約の実施に関する一般的措置についての委員会の一般的意見5号(2003年)に対して締約国の注意を喚起するものである。
留保および宣言
8.委員会は、条約第22条および第37条(c)に関する留保の撤回の発表を歓迎しながらも、締約国が、海外領土および王室属領への第32条の適用に関する留保を維持していることを遺憾に思う。
9.委員会は、締約国に対し、海外領土および王室属領との関係における第32条への留保を撤回するよう奨励する。
立法
10.委員会は、とくに2004年子ども法(イングランドおよびウェールズに適用され、とくにイングランドに子どもコミッショナーを創設したもの)および2006年保育法の採択により、自国の法律を条約と調和させるために締約国が行なっている努力を評価する。しかしながら委員会は、同国全域のすべての法律において条約の原則が正当に考慮されているわけではないこと、および、締約国が条約を国内法に編入しておらず、かつ子どもに影響を及ぼすすべての法律が条約に一致することを確保しているわけでもないことを、依然として懸念するものである。
11.委員会は、締約国が引き続き自国の法律を条約に一致させるための措置をとるよう勧告する。この目的のため、締約国は、この点に関わって北アイルランドにおける権利章典案および英国権利章典案の策定によって与えられた機会を活用し、たとえばこれらの法案に子どもの権利についての特別な項目を設けることによって、これらの法案に条約の原則および規定を編入することを考えることができる。
調整
12.委員会は、締約国が地方分権体制のもとで機能していること、および、このシステムのため条約の実施を調整する単一機関を設けるのが困難であることに留意する。これとの関連で、イングランドにおいて子ども若者家庭大臣官房室に責任を集中させたことならびにスコットランドおよびウェールズでも同様の発展が見られたことのような、調整のために行なわれてきた最近の努力は歓迎されるところである。にもかかわらず、委員会は、締約国全域(地方レベルを含む)で条約の包括的および効果的実施を調整しかつ評価する任務を委ねられた機関が存在しないことを、依然として懸念する。
13.委員会は、締約国が、とくに地方当局が優先順位の決定および予算配分について相当の権限を有している現状では地方レベルも含めて、締約国全域で条約の実施の効果的調整を確保するべきである旨の、前回の勧告を繰り返す。この目的のため、締約国は、十分な資源を与えられ、かつ円滑に機能する調整機関が各法域に設けられることを確保することに加え、締約国全域で条約の調整および評価を行なう責任を、高い地位および注目度を有する単一の機関に割り当てることを考えることができる。
国家的行動計画
14.委員会は、「イングランド子ども計画」、「ウェールズの子ども・若者のための7つの中核的目標」および北アイルランドで策定された戦略において条約への言及が見られることを歓迎する。委員会はまた、「すべての子どもが重要である」に基づいてイングランドで進められている一連の改革も歓迎するものである。しかしながら委員会は、条約が締約国全域の戦略策定の枠組みとして日常的に用いられているわけではないこと、および、条約の原則、価値および目標の全面的実現を確保するための全般的政策が存在しないことを、依然として懸念する。
15.委員会は、締約国に対し、子どもの権利の促進および保護に関与している公共部門および民間部門と協力しながら、かつ子どもの権利アプローチに基づいて、締約国全域で条約を実施するための包括的行動計画を採択するよう奨励する。その際、締約国は、2002年国連総会特別会期の成果文書「子どもにふさわしい世界」およびその中間レビュー(2007年)を考慮するべきである。委員会はまた、達成された進展を定期的に評価し、かつ存在する可能性がある欠点を明らかにする目的で、締約国が、行動計画の全面的実施のための十分な予算配分ならびにフォローアップおよび評価の機構を確保するようにも勧告する。これらの計画においては、もっとも脆弱な立場に置かれた集団に属する子どもに特別な注意が払われるべきである。
独立の監視
16.委員会は、連合王国を構成する4つのすべての社会で独立の子どもコミッショナーが設置されたこと、および、これらのコミッショナーが子どもの権利の促進および保護のために行なってきた無数の取り組みを歓迎するものの、その独立性および権限が限られていること、および、これらの機関がパリ原則に全面的に一致する形で設置されたわけではないことを、懸念する。
17.委員会は、締約国が、設置された4つのすべてのコミッショナーがパリ原則にしたがって独立性を有すること、および、とくに子どもの権利侵害について子どもまたはその代理人が行なう苦情を受理しかつ調査する任務を与えられることを確保するよう、勧告する。これらの機関に対しては、締約国全域のすべての子どもの権利が保護されるよう、その権限を効果的かつ調整のとれたやり方で遂行するために、必要な人的資源および財源が与えられるべきである。これとの関連で、委員会は、子どもの権利の保護および促進における独立した国内人権機関の役割についての委員会の一般的意見2号(2002年)に対し、締約国の注意を喚起する。
資源配分
18.委員会は、子どもに関する支出が近年増加していることに、評価の意とともに留意する。にもかかわらず、委員会は、当該増加が貧困を根絶しかつ不平等に対処するためには十分でないこと、および、一貫した予算分析および子どもの権利影響評価が行なわれていないため、締約国全域でどの程度の支出が子どもに配分されており、かつ子どもに影響を及ぼす政策および法律の効果的実施にこれがどの程度役立っているのかを明らかにすることが困難であることを、懸念するものである。
19.委員会は、締約国が、条約第4条にしたがい、かつ貧困の根絶にとくに焦点を当てながら、利用可能な資源を子どもの権利の実施のために最大限に配分するとともに、すべての法域を通じて不平等を削減するよう勧告する。このような取り組みにおいて、締約国は、「子どもの権利のための資源配分――国の責任」をテーマとして行なわれた2007年9月21日の一般的討議後に委員会が行なった勧告を考慮するべきである。予算配分額が政策上の発展の実現および法律の実施にどの程度相応するものとなっているかを評価するため、子どもの権利影響評価を定期的に実施することが求められる。
普及、研修および意識啓発
20.委員会は、条約を含む国際人権文書の原則および規定について専門家に研修を実施するために締約国が行なっている最近の努力、ユニセフの「権利を尊重する学校」プロジェクトへの締約国の支援、ならびに意識啓発活動の開発および実施におけるNGOとの連携を歓迎する。にもかかわらず、委員会は、条約に関する体系的な意識啓発が行なわれておらず、かつ、子ども、親、または子どもとともに働く専門家の間で条約に関する知識水準が低いことを懸念するものである。さらに委員会は、条約が学校カリキュラムの一部とされていないことを遺憾に思う。
21.委員会は、締約国が、とくに法定のナショナル・カリキュラムに条約を含めることによって、条約のすべての規定がおとなおよび子どもによって同様に広く知られかつ理解されることを確保するための努力をさらに強化するとともに、条約の原則および価値がすべての学校の構造および実践に統合されることを確保するよう、勧告する。委員会はまた、子どものためにおよび子どもとともに働くすべての専門家集団、とくに法執行官、出入国管理官、メディア、教員、保健従事者、ソーシャルワーカーおよび子どものケアのための施設の職員を対象とする、十分かつ体系的な研修を強化することも勧告するところである。
市民社会との協力
22.委員会は、報告書の作成および条約の実施において締約国が市民社会組織と協力していること(報告書の作成については公式の協議も含む)に、評価の意とともに留意する。
23.委員会は、締約国が、NGOおよび子ども団体を含む市民社会が子どもの権利の促進および実施に積極的かつ系統的に参加すること(とくに政策および協力プロジェクトの計画段階における参加を含む)、ならびに、委員会の総括所見のフォローアップおよび次回定期報告書の作成にも同様に参加することを奨励するよう、勧告する。

2.一般原則(条約第2条、第3条、第6条および第12条)

差別の禁止
24.委員会は、差別の禁止に対する子どもの権利を連合王国の反差別法(提出予定の平等法案)に導入することによってその主流化を図る明確な機会を得て、平等法を整備しおよび強化しようとする締約国の計画を歓迎する。委員会はまた、差別の問題に関する行動計画の採択ならびにこの問題に関して行なわれている監視および情報収集の活動も歓迎するものである。しかしながら委員会は、実際には一部の集団の子ども(ロマおよびアイリッシュのトラベラーの子ども、移民、庇護希望者および難民である子ども、レズビアン、バイセクシュアル、ゲイおよびトランスジェンダーの子ども(LBGT)ならびにマイノリティ集団に属する子どもなど)が依然として差別および社会的スティグマの付与を経験していることを、懸念する。委員会はまた、子ども、とくに思春期の子どもに対する全般的な不寛容の雰囲気および公衆の否定的態度がメディアを含む締約国に存在しているように思われ、このことがしばしば子どもの権利のさらなる侵害の根本的原因になっている可能性があることも、懸念するものである。
25.委員会は、締約国が、以下のものを含む措置をとることにより、あらゆる理由に基づく差別からの全面的保護を確保するよう勧告する。
  • (a) メディアを含む社会における、子ども、とくに思春期の子どもに対する不寛容および不適切な特性の付与に対応するため、緊急の措置をとること。
  • (b) 差別に反対する意識啓発その他の防止活動を強化するとともに、必要なときは、脆弱な立場に置かれた集団の子ども(ロマおよびアイリッシュのトラベラーの子ども、移民、庇護希望者および難民である子ども、レズビアン、バイセクシュアル、ゲイおよびトランスジェンダーの子ども(LBGT)ならびにマイノリティ集団に属する子どもなど)のための積極的差別是正措置をとること。
  • (c) 社会のあらゆる部門における子どもへの差別事案が、懲戒、行政的制裁または必要なときは刑事的制裁を科すことも含めて効果的に対応されることを確保するため、あらゆる必要な措置をとること。
子どもの最善の利益
26.委員会は、とくに少年司法、出入国管理ならびに移動の自由および平和的集会の分野で、子どもの最善の利益の原則が、子どもに影響を与えるすべての立法上および政策上の事柄においていまなお第一次的な考慮事項として反映されていないことを遺憾に思う。
27.委員会は、子どもの最善の利益の原則が、条約第3条にしたがい、子どもに影響を与えるすべての法律および政策(刑事司法および出入国管理の分野におけるものも含む)に十分に統合されることを確保するため、締約国があらゆる適当な措置をとるよう勧告する。
生命、生存および発達に対する権利
28.委員会は、イングランドおよびウェールズで子どもの死亡に関する法定調査が導入されたことを歓迎しながらも、前回の審査以降6名の子どもが勾留下で死亡したこと、および、勾留されている子どもの自傷行動の蔓延率が高いことを非常に懸念する。
29.委員会は、締約国が、防止措置の実効性を再検討することも含め、生命に対する子どもの権利を保護するために利用可能なあらゆる資源を活用するよう勧告する。締約国はまた、子どもがケアを受けているか勾留中であるかにかかわらず、子どもが予想外に死亡しまたは重傷を負ったあらゆる事案について自動的に独立のかつ公的な調査が行なわれる制度も導入するべきである。
30.委員会は、締約国が暴動鎮圧手段としての円形プラスチック弾の使用を廃止したことを歓迎しながらも、それに代えて、より有害でないことが証明されていない減エネルギー弾(AEP)が導入されたことを懸念する。委員会はまた、テイザー銃の使用がイングランドおよびウェールズで警察官に対して許可され、かつ北アイルランドにおいても試験的に許可されたこと、ならびに、いずれの場合にもこれを子どもに対して使用できることも、懸念するものである。
31.締約国は、テイザー銃およびAEPを、適用される規則および制限の対象となる武器として扱うべきであり、かつ、子どもに対するすべての有害な装備の使用に終止符を打つべきである。
子どもの意見の尊重
32.委員会は、2006年保育法を歓迎するとともに、関連の指針において、子どものためのサービスを計画する際に幼い子どもの意見を考慮することが地方当局に対して求められていること、および、視学官が学校その他の施設を訪問する際には子どもと協議することが求められていることを、歓迎する。委員会はまた、イングランドおよびウェールズにおいて、学校管理機関に対し、学校における行動についての方針を策定する際に子どもの関与を得る新たな義務が課されたことも、歓迎するものである。しかしながら委員会は、教育法および教育政策に第12条を掲げる点に関してほとんど進展がないことを懸念する。さらに、委員会は、第12条に掲げられた権利が障害のある子どもに適用されることを確保するためにとられた措置が不十分であることを懸念するものである。
33.委員会は、締約国が、条約第12条にしたがい、かつ、意見を聴かれる子どもの権利についての一般的討議(2006年)後に委員会が採択した勧告を考慮に入れながら、以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 家庭、学校およびコミュニティならびに施設ならびに行政上および司法上の手続において、法律上も実務上も、子どもの意見の尊重の原則を促進し、推進しかつ実施すること。
  • (b) 連合王国若者議会、ファンキー・ドラゴン(ウェールズ)および若者議会(スコットランド)のような子ども参加の場を支援すること。
  • (c) 意味のある子ども参加の機会を増加させるため、メディアを含む市民社会組織と引き続き連携すること。

4.市民的権利および自由(条約第7条、第8条、第13~17条および第37条(a))

  • (訳者注)3が欠落しているのは原文ママ。
平和的集会の自由
34.委員会は、反社会的行動防止命令(ASBO)(後掲パラ79および80も参照)ならびにいわゆる「モスキート音発生装置」の使用および「解散命令対象地域」の概念の導入により、子どもの移動および平和的集会の自由が制限されていることを懸念する。
35.委員会は、締約国が、ASBOおよびモスキート音発生装置のようなその他の措置について、これらが移動および平和的集会の自由に対する子どもの権利を侵害するかぎりにおいて再検討するよう勧告する。これらの自由を享受することは子どもの発達にとって必要不可欠であり、これに対しては、条約第15条に掲げられた、きわめて限定された制約以外は課すことができない。
プライバシーの保護
36.委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 子どもが最終的に告発されまたは有罪と認定されたか否かにかかわらず、子どもに関するDNAデータが全国DNAデータベースに保存されること。
  • (b) 締約国が、子ども、とくにASBOを発令された子どもについて、このような子どもがメディアで否定的に取り上げられ、かつ公に「名指しして辱める」ことの対象とされることから保護するための十分な措置をとっていないこと。
  • (c) 子どもがテレビのリアリティ・ショーに出演することが、そのプライバシーに対する不法な干渉となる可能性があること。
37.委員会は、締約国が以下の措置をとることを勧告する。
  • (a) データ保護に関するより強力な規制を導入すること等により、子どもがそのプライバシーに対する不法なまたは恣意的な干渉から保護されることを、法律上も実際上も確保すること。
  • (b) とくに、子どもの最善の利益に反する、子どもを公に辱めの対象とするようなメッセージを発しないようにすることにより、メディアにおける子どものプライバシーを尊重するための努力を、メディアと協力しながら強化すること。
  • (c) テレビ番組によって子どもの権利が侵害されないことを確保するため、テレビ番組、とくにリアリティ・ショーへの子どもの参加を規制すること。
残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰
38.委員会は、やむを得ない必要がありかつ最後の手段としてでないかぎり身体的拘束および独居拘禁が用いられないことを確保するため、締約国がこれらの措置の使用を見直したことに留意する。しかしながら委員会は、実際には子どもの身体的拘束がいまなお自由の剥奪の場で用いられていることを依然として懸念するものである。
39.委員会は、締約国に対し、子どもに対する拘束が最後の手段としてのみかつもっぱら自傷他害を防止するために用いられること、および、懲戒目的のあらゆる身体的拘束手段が廃止されることを確保するよう促す。
体罰
40.委員会は、「合理的懲罰」の抗弁の適用を制限する法改正がイングランド、ウェールズ、スコットランドおよび北アイルランドで行なわれたことには留意しながらも、この抗弁が廃止されていないことを懸念する。委員会は、家庭におけるすべての体罰を禁止することに対するウェールズ国民議会のコミットメントを歓迎するものの、権限委譲の条件上、国民議会が必要な法律を制定するのは不可能であることに留意するものである。委員会は、締約国が家庭におけるあらゆる体罰を明示的に禁止していないことを懸念するとともに、子どもの体罰の事案に関していずれかの抗弁が設けられていることは、一定の形態の体罰は容認されることを示唆するものであるから条約の原則および規定に一致しないという、委員会の見解を強調する。
41.委員会はさらに、実質的にすべての海外領土および王室属領において、家庭、学校および代替的養護環境における体罰が合法であることを懸念する。
42.委員会は、前回の勧告(CRC/C/15/Add.188、パラ35)を繰り返し、「体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利」についての委員会の一般的意見8号に照らし、かつ、自由権規約委員会、女性差別撤廃委員会および経済的、社会的および文化的権利に関する委員会によって行なわれた同様の勧告に留意しながら、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) イングランドおよびウェールズ、スコットランドならびに北アイルランドならびにすべての海外領土および王室属領において、あらゆる法的抗弁の廃止等も通じ、優先的課題として、家庭におけるあらゆる体罰を禁止すること。
  • (b) 連合王国全域ならびに海外領土および王室属領において、学校ならびにその他のあらゆる施設およびその他のあらゆる形態の代替的養護における体罰が明示的に禁じられることを確保すること。
  • (c) あらゆる体罰から保護される子どもの権利についての公衆の意識を高め、かつ子育てにおける体罰の使用を容認する公衆を減少させる目的で、積極的かつ非暴力的な形態のしつけおよび規律、ならびに、人間の尊厳および身体的不可侵性に対する子どもの平等な権利の尊重を積極的に促進すること。
  • (d) 積極的な子育てに関する親の教育および専門家の研修を行なうこと。
子どもに対する暴力に関する国連研究のフォローアップ
43.子どもに対する暴力に関する国連事務総長研究(A/61/299)について、委員会は、締約国が、ヨーロッパ・中央アジア地域協議(2005年7月5~7日、リュブリャナ)の成果および勧告を考慮しながら、子どもに対する暴力に関する国連研究の独立専門家報告書に掲げられた勧告を実施するためにあらゆる必要な措置をとるよう勧告する。締約国は、すべての子どもがあらゆる形態の身体的、性的および精神的暴力から保護されることを確保し、かつ、このような暴力および虐待を防止しかつこれに対応するための具体的な(かつ適切な場合には期限を定めた)行動に弾みをつける目的で、市民社会と連携しながら、かつとくに子どもの参加を得ながら、これらの勧告を行動のためのツールとして活用するべきである。

5.家庭環境および代替的養護(条約第5条、第18条(第1~2項)、第9~11条、第19~21条、第25条、第27条(第4項)および第39条)

44.委員会は、里親養護の方が施設養護よりも望ましいとされる旨の締約国の説明に留意する。委員会はまた、ケアの対象とされている子どもにとっての成果を向上させようとする締約国の努力、および、イングランドにおける独立審査官の設置も歓迎するものである。委員会は、子どもの養育責任を果たすにあたって適当な援助を受けていない家族が多いこと、とくに貧困のために危機的状況にある家族がそうであることを懸念する。さらに、委員会は以下のことを懸念するものである。
  • (a) 親のケアを奪われた子どもを支援する職員および施設への投資が不十分であること。
  • (b) 子どもが、親の低所得の結果として代替的養護の対象とされる可能性があること。
  • (c) 親の一方または双方が収監されている子どもの状況。
  • (d) 代替的養護の対象とされる子どもの人数が増えていることとともに、とくに、このような子どもに占めるアフリカ系の子ども、障害のある子どもおよび民族的マイノリティ出身の子どもの割合が高いこと。
  • (e) 代替的養護の対象とされている子どものモニタリングが、処遇の再審査に関するものも含め、不十分であること。
  • (f) 代替的養護の対象とされている子どもがあまりにも頻繁に措置先を移動させられていること、および、このような子どもとその親およびきょうだいとがほとんど面接交渉できないこと。
  • (g) 代替的養護の対象とされている子どものうち苦情申立て機構にアクセスできる子どもの人数が限られていること。
45.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 親および法定保護者が子どもの養育責任を果たすにあたって適当な援助を与えるための努力を強化すること。
  • (b) 子どもが親の低所得の結果として代替的養護の対象とされることがないようにすること。
  • (c) すべての措置において子どもの意見を考慮するとともに、子どもに対し、子どもがアクセスしやすい苦情申立て機構を全国で提供すること。
  • (d) 親の一方または双方が収監されている子どもに対し、とくに(子どもの最善の利益に反しないかぎり)親との接触を維持するためならびにこのような子どもに対するスティグマの付与および差別を防止するための支援を確保すること。
  • (e) とくに定期的訪問を通じ、親族家庭、里親養護、養子縁組里親家庭および他の養護施設に措置された子どもの状況をモニターすること。
  • (f) これほど多くの障害児が長期の施設養護の対象とされている理由を評価するとともに、このような環境にある障害児のケアおよび処遇を再審査すること。
  • (g) 親およびきょうだいから分離されたすべての子ども(長期の入所型施設養護の対象とされている子どもを含む)について面接交渉手続の開始を促進すること。
  • (h) 子どもに成人後の人生に向けた準備をさせるための訓練教育プログラムを提供すること。
  • (i) 親のケアを受けていない子どもに関する一般的討議(2005年9月16日)で出された委員会の勧告を考慮すること。
養子縁組
46.委員会は、アフリカ系の子ども民族的マイノリティの子どもが、同じ民族的出身の家族によって養子とされるまで長期間待機する場合があることを懸念する。
47.委員会は、子どもが、常にその最善の利益にかなう形で、かつとくにその文化的背景を正当に考慮しながら、可能なかぎり迅速に養子とされるような状況を促進する努力を、締約国が強化するよう勧告する。
48.委員会は、締約国が、国際養子縁組に関するハーグ条約について、当該条約の適用を海外領土には拡大しない旨の宣言を行なっていることを懸念する。
49.委員会は、締約国が、国際養子縁組に関するハーグ条約の適用を海外領土に拡大するために必要な措置をとるよう勧告する。
暴力、虐待およびネグレクト
50.委員会は、子どもの暴力、虐待およびネグレクトの問題に対処するために締約国が行なっている努力を歓迎する。しかしながら委員会は、子どもの暴力、虐待およびネグレクト(家庭におけるものも含む)の蔓延率が高いこと、および、この点に関する包括的な全国的戦略が存在しないことを依然として憂慮するものである。委員会は、子どもに対して行なわれた虐待を記録しおよび分析する包括的システムがいまなお存在せず、かつ、被害者の身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のための機構が締約国全域で十分に利用可能とされていないことを、遺憾に思う。
51.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 暴力、性的虐待、ネグレクトまたは搾取(家庭、学校および施設養護その他の養護におけるものも含む)の事案数および規模を監視するための機構を設置すること。
  • (b) 子どもとともに働く専門家(教員、ソーシャルワーカー、医療従事者、警察官および司法関係者を含む)が、子どもに影響を与えるドメスティック・バイオレンスが疑われる事案について通報しおよび適切な行動をとる自己の義務に関する研修を受けることを確保すること。
  • (c) 暴力、虐待、ネグレクトおよび不当な取扱いの被害者が法的手続中にふたたび被害を受けることのないようにするため、このような被害者への支援を強化すること。
  • (d) 締約国全域で、回復、カウンセリングおよびその他の形態の再統合のための十分なサービスにアクセスできるようにすること。

6.基礎保健および福祉(条約第6条、第18条(第3項)、第23条、第24条、第26条および第27条(第1~3項))

障害のある子ども
52.委員会は、障害のある子どもの状況の分析および改善に関して国レベルおよび地方レベルで行なわれている締約国の取り組みを歓迎する。しかしながら、委員会は以下のことを懸念するものである。
  • (a) 障害のある子どもの社会へのインクルージョンに関する包括的な全国的戦略が存在しないこと。
  • (b) 障害のある子どもが、条約で保障された権利(保健サービスへのアクセス、余暇および遊びについての権利を含む)を享受するにあたって引き続き障壁に直面していること。
53.障害者の機会均等化に関する基準規則(国連総会決議48/96)および障害のある子どもの権利に関する委員会の一般的意見9号(2006年)に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 障害のある人の保護について定めた法律ならびに障害のある子どものためのプログラムおよびサービスが効果的に実施されることを確保するため、あらゆる必要な措置をとること。
  • (b) 早期発見プログラムを発展させること。
  • (c) (準)医療従事者および関連の職員、教員ならびにソーシャルワーカーなど、障害のある子どもとともに働く専門的職員に対して研修を行なうこと。
  • (d) 障害のある子どもの社会へのインクルージョンに関する包括的な国家的戦略を策定すること。
  • (e) 障害のある子どもの権利および特別なニーズに関する意識啓発キャンペーンを実施し、このような子どもの社会へのインクルージョンを奨励し、かつ差別および施設措置を防止すること。
  • (f) 障害のある人の権利に関する国際条約およびその選択議定書の批准を検討すること。
健康および保健サービス
54.委員会は、とくに相当額の投資を通じて保健サービスへのアクセスに関する不平等に対処するため締約国が行なっている努力にもかかわらず、最富裕層と最貧困層との間の乳児死亡率の格差が拡大しつつあることに示されているように、不平等が依然として問題であることを懸念する。
55.委員会は、すべての政府機関を横断する調整のとれたアプローチ、および、保健政策と所得不平等および貧困の削減を目的とする政策とのいっそうの調整を通じ、保健サービスへのアクセスに関する不平等に対処することを勧告する。
精神保健
56.委員会は、とくにイングランドにおける相当の財政投資にもかかわらず、締約国の子どもの10人に1人が診断可能な精神保健上の問題を有している一方で、そのうち約25%しか必要な治療およびケアにアクセスできていないこと、および、子どもがいまなお成人向け精神病棟で治療される可能性があることを、懸念する。委員会はまた、北アイルランドにおいて、紛争の遺産を理由として、この点に関する子どもの状況がとりわけ問題含みであることも懸念するものである。
57.委員会は、よりリスクの高い状況に置かれている子ども(親のケアを奪われた子ども、紛争の影響を受けている子ども、貧困下で暮らしている子どもおよび法律に触れた子どもを含む)にとくに注意を払いながら、精神保健上の問題を有する子どものニーズを締約国全域で満たせるようにするため、資源の追加および対応能力の向上を図るよう勧告する。
母乳育児
58.委員会は、母乳育児の促進および支援に関して締約国で近年達成された進展は評価しながらも、「母乳代替品の販売促進に関する国際基準」の実施が引き続き不十分であること、および、母乳代替品の攻撃的宣伝が依然として一般的に行なわれていることを懸念する。
59.委員会は、締約国が「母乳代替品の販売促進に関する国際基準」を全面的に実施するよう勧告する。締約国はまた、赤ちゃんにやさしい病院をさらに促進し、かつ保育者研修に母乳育児を含めることを奨励するべきである。
思春期の健康
60.思春期の子どもに影響を及ぼす分野で締約国が行なっている努力には留意しながらも、委員会は、とくに下層の社会経済的背景を有する女子の間でおよび海外領土(とくにタークス・カイコス諸島)において10代妊娠率が高いことを依然として懸念する。
61.委員会は、締約国が、思春期の子どもに対して十分なリプロダクティブヘルス・サービス(学校におけるリプロダクティブヘルス教育を含む)を提供するための努力を強化するよう、勧告する。
62.委員会は、締約国(海外領土を含む)の青少年によるアルコール、薬物その他の有害物質の使用件数が多いことを懸念する。
63.委員会は、締約国が、以下の措置をとることも含め、締約国全域の青少年による有害物質の使用の問題に引き続き対応することを勧告する。
  • (a) 焦点の明確な防止措置を提供するため、これらの問題の根本的原因を研究すること。
  • (b) 精神保健サービスおよびカウンセリング・サービスを、これらのサービスがすべての法域(海外領土を含む)の青少年にとってアクセスしやすく、かつ青少年に配慮したものであることを確保しながら強化すること。
  • (c) 有害物質に関する正確かつ客観的な情報を子どもに提供するとともに、その使用をやめまたは依存から脱しようとしている子どもに支援を提供すること。
生活水準
64.委員会は、2020年までに子どもの貧困に終止符を打つという政府の決意、および、2006年保育法が地方当局に課した乳幼児間の貧困削減要件を歓迎する。委員会はまた、この目標は立法措置を通じて反映されおよび執行されることになる旨の代表団の情報にも、評価の意とともに留意するものである。しかしながら委員会は、子どもの貧困がここ数年で削減されてきたことには留意しながらも、貧困が連合王国全域(海外領土を含む)に影響を与えている非常に深刻な問題であること、および、子どもの20%以上が持続的貧困下で暮らしているとされる北アイルランドにおいてこれがとりわけ問題となっていることを、懸念する。さらに委員会は、政府の戦略においてもっとも厳しい貧困下で暮らしている子どもの集団に十分な焦点が当てられていないこと、および、トラベラーの子どもの生活水準がとりわけ劣悪であることを懸念するものである。
65.委員会は、十分な生活水準は子どもの身体的、精神的、霊的、道徳的および社会的発達にとって不可欠であり、かつ子どもの貧困は乳児死亡率、保健および教育へのアクセスならびに子どもの生活の日常的な質にも影響を及ぼすことを強調したい。条約第27条にしたがい、委員会は締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 目標達成のための測定可能な指標を確立することも含め、2020年までに子どもの貧困に終止符を打つという目標を達成するための法律を採択し、かつ十分に実施すること。
  • (b) この法律およびフォローアップの措置においては、支援をもっとも必要としている子どもおよびその家族を優先させること。
  • (c) 必要な場合には、親および子どもに責任を負う他の者に全面的支援を与えることに加え、とくに栄養、衣服および住居に関して子どものための物的援助および支援プログラムを提供するための努力を強化すること。
  • (d) トラベラーに安全かつ十分なキャラバン基地を提供する地方当局の法定義務を再導入すること。

7.教育、余暇および文化的活動(条約第28条、第29条および第31条)

教育(職業訓練および職業指導を含む)
66.委員会は、条約に掲げられた目標を保障するために締約国が教育分野で行なっている膨大な努力に、評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、経済的苦境にある親とともに暮らしている子どもの学校の成績に関して相当の不平等が根強く残っていることを懸念するものである。一部の子どもの集団、とくに障害のある子ども、トラベラーの子ども、ロマの子ども、庇護希望者の子ども、さまざまな理由(病気、家庭の義務等)で中退した子どもおよび不登校の子どもならびに10代で母親となった子どもは、普通学校か代替的教育施設かを問わず就学または教育の継続もしくは再開について問題を有しており、教育に対する権利を全面的に享受できていない。さらに、委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 子どもは協議の権利をごくわずかしか有しておらず、とくに停退学に対して異議を申し立てる権利または特別な教育的ニーズ裁定委員会の決定に異議を申し立てる権利を有していないため、学校生活のあらゆる側面への子どもの参加が不十分であること。
  • (b) 教育内容等に関して苦情を申し立てる権利が親に限定されていること。このことは、とくに地方当局の育成下にある子ども(このような子どもについては地方当局が親の権威を有しているが、それが用いられることはほとんどない)にとって問題となる。
  • (c) いじめが深刻かつ広範な問題となっており、そのため子どもの通学および学習の成功が阻害されている可能性があること。
  • (d) 停退学件数が依然として多く、とりわけ全体として学校の成績がよくない集団の子どもに影響が生じていること。
  • (e) 分離教育の問題がいまなお北アイルランドに存在すること。
  • (f) 委員会の前回の勧告にもかかわらず、北アイルランドで11歳の時点での成績選抜が続けられていること。
67.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもの社会的背景が学校の成績に及ぼす影響を減少させるための努力を継続しおよび強化すること。
  • (b) 不利な立場にあり、周縁化されており、かつ学校から離れているあらゆる集団の子どもに対して〔権利の〕全面的享受を確保する真にインクルーシブな教育に対するすべての子どもの権利を確保する目的で、相当の追加的資源を投入すること。
  • (c) 学校に通っていないすべての子どもが良質な代替的教育を受けることを確保すること。
  • (d) 懲戒措置としての停退学を最後の手段としてのみ用いるようにし、停退学の件数を減少させ、かつ、学校との紛争を抱えた子どもを援助するため学校にソーシャルワーカーおよび教育心理学者を配置すること。
  • (e) 親のケアを受けていない子どもが、その最善の利益を積極的に擁護する代理人を確実に任命されるようにすること。
  • (f) 人権、平和および寛容に関する教育によるものも含め、学校におけるいじめおよび暴力に対処するための努力を強化すること。
  • (g) 学校、教室および学習に関わる事柄であって自己に影響を与えるあらゆるものについての子ども参加を強化すること。
  • (h) 自己の見解を表明することのできる子どもが、停退学に対して異議を申し立てる権利および(とくに代替的養護を受けている子どもについて)特別な教育的ニーズ裁定委員会に異議を申し立てる権利を有することを確保すること。
  • (i) 北アイルランドにおける分離教育に対応するための措置をとること。
  • (j) イレブンプラス進学先決定試験を廃止することによって北アイルランドの二層化文化に終止符を打つとともに、すべての子どもが初等学校後の就学受入れ体制に含まれることを確保すること。
余暇および遊びに対する権利
68.委員会は、「イングランド子ども計画」において、子どもの遊びに対する中央政府の投資としては過去最大の額が計上されていることを評価しながらも、ウェールズを唯一の例外として、遊びの権利が締約国のすべての子どもによって全面的に享受されているわけではないことを懸念する。これはとくに遊びのためのインフラが充実していないことによるものであり、またとくに障害のある子どもにとって当てはまる。委員会はまた、近年生じている遊び場の着実な減少により、子どもが公共のオープンスペースで集まらざるを得ない状況に押しやられる効果が生じていることも懸念するものである。しかし、このような行動は、ASBOにしたがって反社会的と見なされる可能性がある。
69.委員会は、締約国が、子どもが休息し余暇を持つ権利、その年齢にふさわしい遊びおよびレクリエーション活動を行なう権利ならびに文化的生活および芸術に自由に参加する権利を保障するための努力を強化するよう勧告する。締約国は、障害のある子どもを含む子どもに対して遊びおよび余暇活動を行なうための十分かつアクセスしやすい遊び場空間を提供することに、特段の注意を払うべきである。

8.特別な保護措置(条約第22条、第30条、第38条、第39条、第40条、第37条(b)~(d)ならびに第32~36条)

子どもの庇護希望者および移民
70.委員会は、締約国が第22条に対する留保を撤回する決意を示していること、および、2007年3月に新たな庇護手続が導入されたこと(この手続のもと、子どもによるすべての庇護申請は、特別訓練、とくに子どもの事情聴取に関する訓練を受けた「専任担当者」によって検討される)を歓迎する。委員会はまた、締約国にやってきた保護者のいない子どもの庇護希望者に関わる広範な改革プロセスを連合王国国境局(UKBA)が進めていること、および、連合王国国境局に対し、子どもを保護する具体的な法定義務を課す立法の計画があることも歓迎するものである。しかしながら、委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 自由権規約委員会も最近認知したように、アセスメントが進行中の者も含む子どもの庇護希望者が引き続き収容されており、アセスメント終了まで数週間にわたって収容され続ける可能性があること。
  • (b) 庇護を希望している子どもの人数に関するデータが存在しないこと。
  • (c) 保護者のいない子どもであって送還されなければならない者の一時受入れ状態を評価するための、後見人制度のような独立した監督機構が設けられていないこと。
  • (d) 2004年庇護および出入国管理法第2条で、連合王国入国時に有効な渡航書類を有していない10歳以上の子どもの訴追が認められていること。
71.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 条約第37条(b)にしたがい、子どもの庇護希望者および移民の収容が常に最後の手段として、かつもっとも短い適当な期間で用いられることを確保するための努力を強化すること。
  • (b) 連合王国国境局(UKBA)において、スクリーニング目的の子どもの事情聴取を行なう、特別訓練を受けた職員が任命されることを確保すること。
  • (c) 保護者のいない庇護希望者および移民の子どものために後見人の任命を検討すること。
  • (d) 庇護を希望している子ども(年齢について争いがある者を含む)の人数に関する細分化されたデータを次回報告書で提供すること。
  • (e) 保護者のいない未成年者が庇護を希望している事案で年齢について争いがある場合、疑わしきは申請者の利益にという原則にしたがって対応するとともに、年齢の決定方法について専門家の指導を求めること。
  • (f) 子どもの送還が行なわれる場合、送還後の環境(家庭環境を含む)に関する独立のアセスメントを含む、十分な保護措置をともなって行なわれることを確保すること。
  • (g) 有効な入国書類を持たずに連合王国に入国した保護者のいない子どもに抗弁を保障できるようにするため、2004年庇護および出入国管理法第2条の改正を検討すること。
武力紛争における子ども
72.締約国は武力紛争への子どもの関与に関する条約の選択議定書に関する第1回報告書を提出しているので、委員会は、読者に対し、この項目に関する勧告については当該報告書に関わって採択された総括所見(CRC/C/OPAC/GBR/1)を参照するよう要請する。
性的搾取および性的虐待
73.委員会は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する条約の選択議定書の批准が行なわれる予定である旨の発表を歓迎するとともに、子どもの商業的性的搾取と闘うために締約国が行なっている無数の活動(被害を受けた子どもが犯罪者として扱われることを防止するための措置および子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議で掲げられた方針を実施するための措置を含む)に留意する。委員会は、性的搾取の被害(海外領土におけるものも含む)を受けた子どもに関するデータが存在しないことを懸念するものである。
74.委員会は、締約国が、子どもの性的搾取および性的虐待に対する十分な対応を準備しかつこれと闘うために必要不可欠であるこれらの現象の規模に関するデータを、海外領土におけるものも含めて収集するための努力を強化するよう勧告する。締約国は常に、法律上も実務上も、児童買春を含むこれらの犯罪行為の被害を受けた子どもを犯罪者ではなくもっぱら回復および再統合を必要とする被害者と見なすべきである。委員会はまた、締約国が、性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する欧州評議会条約を批准するようにも勧告する。
売買、人身取引および誘拐
75.委員会は、締約国が人身取引と闘う行動に関する欧州評議会条約を批准するつもりである旨の情報に、評価の意とともに留意する。連合王国反人身取引行動計画の採択は歓迎しながらも、委員会は、これを実施するために必要な資源(人身取引の対象とされた子どもに良質なサービスおよび安全な居住環境が提供されることを確保するために必要なものを含む)が提供されていないことを懸念するものである。
76.委員会は、締約国が、反人身取引行動計画の効果的実施のために必要な資源を提供するよう勧告する。委員会はまた、締約国が人身取引と闘う行動に関する欧州評議会条約を批准するとともに、人身取引の対象とされた子どもの保護に関する基準が国際基準を満たすことを確保することにより、自国の義務を実施するようにも勧告するものである。
少年司法の運営
77.委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 刑事責任年齢が、スコットランドにおいては8歳、イングランド、ウェールズおよび北アイルランドについては10歳と定められていること。
  • (b) 海外領土のアンティグア、モントセラト、バミューダおよび王室属領マン島におけるものも含め、子ども、とくに16~18歳の者が成人裁判所で審理されうる事案がいまなお存在すること。
  • (c) 自由を奪われる子どもの人数が多いこと。このことは、拘禁が常に最後の手段として適用されているわけではないことを示すものである。
  • (d) 再拘留される子どもの人数が多いこと。
  • (e) 拘禁されている子どもが教育に対する法律上の権利を有していないこと。
  • (f) 海外領土において、法律に触れた18歳未満の者を成人用のものと同一の自由剥奪施設に収容する実務が行なわれていること。
  • (g) 最近発表された「青少年犯罪行動計画」(2008年7月)に、「青少年司法制度の透明性を高める目的で」刑事手続に処された16歳および17歳の者についての報道規制を廃止する旨の提案が含まれていること。
  • (h) テロ対策法案の規定が、テロ関連犯罪の容疑をかけられまたは当該犯罪で告発された子どもにも適用されること。委員会はとくに、告発前の勾留機関の延長および通告要件に関する規定について懸念するものである。
  • (i) タークス・カイコス諸島で自由を奪われた子どもが、子どものための拘禁施設が存在しないために最終的にジャマイカで拘禁される可能性があること。
78.委員会は、締約国が、少年司法に関する国際基準、とくに条約第37条、第39条および第40条、ならびに、「少年司法における子どもの権利」に関する一般的意見10号、少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止のための国連指針(リャド・ガイドライン)および自由を奪われた少年の保護に関する国連規則(ハバナ規則)を全面的に実施するよう、勧告する。 委員会はまた、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 委員会の一般的意見10号、とくにパラ32および33にしたがい、刑事責任に関する最低年齢を引き上げること。
  • (b) 法律に触れた子どもの拘禁に代わる広範な措置を発展させること。また、拘禁は最後の手段として、かつもっとも短い期間で使用されるべきであるという原則を法律上の原則として確立すること。
  • (c) 法律に触れた子どもが、告発されている犯罪の重大性にかかわらず常に少年司法制度において対応されるものとし、けっして通常裁判所において成人として審理されることがないようにすること。
  • (d) 条約第37条(c)に対する留保の歓迎すべき撤回を受けて、自由を奪われた子どもが、その最善の利益にしたがって別段に判断される場合を除き、自由の剥奪が行なわれるすべての場所において成人から分離されることを確保すること。
  • (e) 自由を奪われたすべての子どもに対し、教育に対する法律上の権利を認めること。
  • (f) 子どもに対するテロ対策法案の適用を見直すこと。
  • (g) 海外領土の子どもが他国で自由を剥奪される場合に、条約第40条に掲げられたすべての保障が尊重され、かつその尊重状況が適正に監視されることを確保すること。締約国はまた、これらの子どもが、接触を維持しないことが子どもの最善の利益にかなうと判断される場合を除き、定期的訪問を通じてその家族との接触を維持する権利を有することも確保するべきである。
  • (h) 刑事司法手続のすべての段階において犯罪の被害を受けた子どもまたは犯罪の証人である子どもの権利および利益を保護するための適当な措置をとること。
79.委員会は、子どもの集まりを制限する民事上の命令であり、違反の場合は刑事犯罪に移行する可能性もある反社会的行動防止命令(ASBO)が子どもに適用されることを懸念する。委員会はさらに以下のことを懸念するものである。
  • (a) 当該命令の発令が容易であること、禁止される行動の範囲が広いこと、および、命令違反が刑事上の犯罪であって重大な結果につながる可能性があること。
  • (b) ASBOが、子どもの最善の利益にかなう措置であるどころか、実際には子どもが刑事司法制度の対象となることを助長する可能性があること。
  • (c) 命令の対象となる子どものほとんどが不利な立場に置かれた背景を有する者であること。
80.委員会は、締約国が、子どもに対するASBOの適用を廃止する目的で、ASBOに関する独立の見直しを実施するよう勧告する。

9.国際人権文書の批准

国際人権文書の批准
81.委員会は、締約国に対し、まだ加盟国となっていない国際人権文書、すなわち、すべての移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する国際条約、障害のある人の権利に関する条約、および強制失踪からのすべての者の保護に関する条約の批准を検討するよう奨励する。さらに委員会は、締約国が、委員会との対話中に発表されたように、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書の批准を迅速に進めるよう勧告するものである。

10.フォローアップおよび普及

フォローアップ
82.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を議会ならびに中央政府および地方分権政府の関連省庁に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
普及
83.委員会はさらに、条約、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した第3回・第4回定期報告書および文書回答ならびに委員会が採択した関連の勧告(総括所見)を、インターネット等を通じ(ただしこれにかぎるものではない)、公衆一般、市民社会組織、若者グループおよび子どもが関連の言語で広く入手できるようにすることを勧告する。

11.次回報告書

84.委員会は、締約国に対し、第5回定期報告書を2014年1月14日までに提出するよう慫慂する。報告書は120ページを超えるべきではない(CRC/C/118参照)。
85.委員会はまた、締約国に対し、2006年6月の第5回人権条約機関委員会間会合で承認された「国際人権条約に基づく報告についての統一指針(共通コア・ドキュメントおよび条約別文書についての指針を含む)」(HRI/MC/2006/3)に掲げられた共通コア・ドキュメントについての要件にしたがい、最新のコア・ドキュメントを提出するよう慫慂する。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年8月29日)。/前編・後編を統合(2012年10月20日)。
最終更新:2012年10月20日 09:00