総括所見:イギリス(第2回・2002年)


CRC/C/15/Add.188(2002年10月9日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2002年9月19日に開かれた第811回および第812回会合(CRC/C/SR.811 and 812参照)において、1999年9月14日に提出された大ブリテンおよび北アイルランド連合王国の第2回定期報告書(CRC/C/83/Add.3)を検討し、2002年10月4日に開かれた第833回会合(CRC/C/SR.833)において以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、締約国の第2回定期報告書が時宜を得た形で提出されたことに、評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、同報告書が委員会の報告ガイドラインにしたがっていないことを遺憾に思うものである。委員会は、事前質問事項(CRC/C/RESP/UK/2)に対する文書回答、および付属文書で提供された追加情報を歓迎する。委員会はまた、子ども若者部およびさまざまな省庁の上級職員からなる代表団(地方分権政府の代表を含む)の出席が、開かれた対話、および締約国における条約の実施に関する理解の向上に寄与してくれたことに、評価の意とともに留意するものである。

B.締約国によりとられたフォローアップ措置および達成された進展

3.委員会は以下のことを歓迎する。
  • (a) 条約第32条および第37条(d)に付された2つの留保が撤回されたこと。
  • (b) 国際労働機関(ILO)の最低年齢条約(1973年、第138号)および最悪の形態の児童労働条約(1999年、第182号)が批准されたこと。
  • (c) 1998年人権法が施行されたこと。
  • (d) 北アイルランドにおいて聖金曜日協定にしたがって和平プロセスが進められていること、北アイルランド人権委員会を設置する1998年北アイルランド法が制定されたこと、北アイルランド警察オンブズマンが設置されたこと、および、人種関係(北アイルランド)令(1997年)が発布されたこと。
  • (e) 子ども若者部が設置されたこと、および、締約国全域で、子どもに焦点を当てた新たな体制が政府内で発展していること。
  • (f) 締約国の国際援助において子どもの権利が促進されていること。
  • (g) 200年子ども(リービングケア)法および2000年ホームレス法が採択されたこと。
  • (h) 1997年ハラスメントからの保護法、1997年性犯罪者法、および、家庭内暴力およびドメスティック・バイオレンス(北アイルランド)令(1998年)が採択されたこと。
  • (i) イングランド、ウェールズおよびスコットランドにおいて学校体罰の廃止が完了し、かつスコットランド学校基準等法(2000年)が採択されたこと。

C.主要な懸念領域および勧告

1.実施に関する一般的措置

委員会の前回の勧告
4.委員会は、条約の批准に内在する法的義務にもかかわらず、締約国の第1回報告書(CRC/C/11/Add.1)に関する委員会の総括所見(CRC/C/15/Add.34)に掲げられた懸念および勧告の多く、とくにパラ22-27、29-36、39、40ならびに42に掲げられたものへの対応が不十分であることを懸念する。これらの懸念および勧告はこの文書においてあらためて繰り返されている。
5.委員会は、締約国に対し、第1回報告書に関する総括所見に掲げられた勧告のうち未実施のものまたは十分に実施されていないものに対応し、かつ第2回定期報告書に関するこの総括所見に掲げられた勧告および懸念に対応するため、あらゆる努力を行なうよう促す。
留保および宣言
6.締約国が第37条(d)および第32条に付された留保を撤回したことは歓迎しながらも、委員会は、出入国管理および市民権に関する広範な留保(これは条約の趣旨および目的に反するものである)を撤回する意図が締約国にないことを、依然として懸念する。加えて委員会は、締約国において子どもがいまなお成人とともに拘禁されていることを理由として、締約国が第37条(c)に対する留保を撤回する立場にないことを懸念するものである。これとの関連で、委員会は、締約国が成人とともに拘禁される子どもの人数を減らすための努力を行なってきた一方、もはや当該留保の撤回を妨げているのは資源面での考慮のみであるように思えることを懸念する。
7.委員会は、前回の勧告(CRC/C/15/Add.34、パラ22および29)にしたがい、かつウィーン宣言および行動計画に照らし、締約国が、成人と同じ施設における子どもの拘禁を終わらせ、かつ第37条(c)に対する留保を撤回するためにあらゆる必要な措置をとるよう勧告する。委員会はまた、締約国が、第22条に対する留保について、締約国の法律は条約第22条にしたがっているのでこの留保は形式的には不必要であるという締約国の見解を踏まえ、撤回の方向で再検討するようにも歓迎するものである。
立法
8.欧州人権条約に掲げられた諸権利を国内法に編入する1998年人権法が施行されたことには留意しながらも、委員会は、欧州条約に掲げられたものよりもはるかに幅広い子どもの権利条約の規定および原則がいまだ国内法に編入されておらず、かつ新法において条約が全面的に遵守されることを確保するためのいかなる正式な手続も存在しないことを、懸念する。委員会は、スコットランドの教育制度が第12条を遵守することおよびウェールズの保育制度における体罰が禁じられることを確保するなど、地方分権政府において条約との両立性を確保するための若干の法改正が導入されたことに留意しながらも、締約国が、国内法が領域全体で条約と両立することを確保していないことを、依然として懸念するものである。
9.委員会は、締約国に対し、すべての法律において条約が遵守され、かつ条約の規定および原則が法律上および行政上の手続で広く適用されることを確保する目的で、条約の権利、原則および規定を国内法に編入するよう奨励する。締約国はまた、条約の規定に関する研修を行ない、かつ条約をより広く普及することも奨励されるところである。
資源
10.条約を実施するための資源が増加していること、子どもに関する支出を明らかにするために予算を分析する方向に向けて若干の前向きが動きが見られること、子どもの貧困を2010年までに半減させ、かつ一世代のうちに根絶することが国家的目標とされていること、ならびに、地域的対象を明確にした子どものためのサービスを通じて子どもの貧困および社会的排除に対処するための戦略および政策がとられていることには留意しながらも、委員会は、条約が、条約第4条で定められているように「利用可能な資源を最大限に用いて」実施されていないことを、依然として懸念する。
11.委員会は、子どもに関する支出の割合を明らかにし、優先課題を特定し、かつ「利用可能な資源を最大限に用いて」資源を配分する目的で、締約国が、締約国全体のおよび地方分権政府におけるすべての部門別予算および総予算の分析を行なうよう勧告する。委員会はまた、締約国が、国際開発省の活動においてもこの原則を適用するよう勧告するものである。
調整
12.委員会は、地方分権政府で創設された他の機関に加えて2001年に子ども若者部が設置されたことは歓迎するものの、締約国全域で条約の実施を調整する中央機構が存在しないことにより、包括的かつ首尾一貫した子どもの権利政策が実現しにくくなっていることを依然として懸念する。それぞれの地方政府に対する権限委譲プロセスが進められていることにより、北アイルランド、スコットランド、イングランドおよびウェールズのさまざまなレベルの政府間ならびに諸政府および地方当局間で、締約国全体を通じた条約の実施の効果的調整を行なう必要性が、いっそう差し迫ったものとなっている。
13.委員会は、前回の勧告(前掲、パラ23)にしたがい、締約国が、締約国全体(地方分権政府も含む)で条約の実施を調整する役割を、十分な権限および資源を有し、非常に注目されやすく、かつ容易に特定可能な恒久的機関に割り当てるよう勧告する。
行動計画
14.委員会は、ウェールズ国民議会が策定した「子ども若者戦略」において条約が枠組として用いられたことを歓迎するものの、これが締約国全体に当てはまるわけではないことを依然として懸念する。委員会は、条約に基づきかつ締約国全体で適用される全般的戦略を公表しかつ実施するという、文書回答においておよび締約国代表団主席によって行なわれた決意表明に、満足感とともに留意する。しかしながら委員会は、政策策定に対して権利基盤アプローチがとられていないこと、および、条約が、締約国全体のあらゆる行政段階で戦略策定のための適切な枠組みと認められてきたわけではないことを、依然として懸念するものである。委員会はまた、総合的な子どもの権利観に基づく国家的行動計画が存在しないことも懸念する。
15.委員会は、締約国に対し、締約国全域で条約を実施するための包括的行動計画を早期に採択しおよび実施するよう奨励する。その際、「ケアの前進のための道」を考慮に入れるとともに、開かれた、豊富な協議をともなう参加型のプロセスを通じ、もっとも脆弱な立場に置かれた集団に属する子ども(たとえば貧困世帯の子ども、マイノリティ集団の子ども、障害児、ホームレスの子ども、ケアの対象とされている子ども、16~18歳の子ども、アイリッシュおよびロマのトラベラーの子どもならびに庇護希望者など)に特別な注意を払うことが求められる。
独立の監視機構
16.委員会は、ウェールズで独立した子どもコミッショナーが設置されたことを歓迎するものの、とくに権限移譲の対象とされていない事柄との関連で同コミッショナーの権限が限られていることを懸念する。委員会は、北アイルランドおよびスコットランドで子どものための独立した人権機関を設置する計画があることを歓迎するものである。しかしながら委員会は、締約国がイングランドにおいて子どものための独立した人権機関をまだ設置していないことを、深く懸念する。
17.委員会は、前回の勧告(前掲)にしたがい、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) すべての子どもを対象として条約のあらゆる権利を監視し、保護しおよび促進するため、人権の促進および保護のための国内機関に関する原則(パリ原則、国連総会決議48/134付属文書)にしたがい、締約国全域でおよび国レベルで、広範な任務および適切な権限ならびに資源を有する独立した人権機関を設置すること。このような機関は、子どもが容易にアクセスでき、自ら活動方針を決定することができ、子どもの権利の侵害について子どもに配慮したやり方で調査を行なう権限を与えられ、かつ、子どもが自己の権利の侵害に対する効果的な救済を得られることを確保するようなものであるべきである。
  • (b) すべての人権機関がそれぞれの立法機関との関係で正式な助言の職務を有すること、および、これらの機関が相互に公式なつながり(協力関係を含む)を確立することを確保すること。
  • (c) 国内人権機関に対して十分な資源および適切な職員を提供すること。
  • (d) これらの機関の設置および活動に子どもおよび子ども団体が効果的に関与することを確保すること。
データ収集
18.委員会は、事前質問事項への文書回答で提供された統計データ、最近刊行された子どもおよび若者に関する統計、ならびに、毎年「子ども白書」を刊行したいという子ども若者部の意図を歓迎する。にもかかわらず、委員会は、条約が対象とする分野についてのデータを収集しおよび分析する全国的機構が存在しないことを、なお懸念するものである。
19.委員会は、締約国が、条約が対象とするすべての分野について18歳未満のすべての子ども(もっとも脆弱な立場に置かれた集団を含む)に関する細分化されたデータを収集する全国的システムを設置すること、および、進展を評価しかつ条約の実施のための政策を立案する目的でこれらのデータを活用するよう勧告する。委員会は、イングランド、北アイルランド、スコットランドおよびウェールズにおけるならびに締約国全体に関する定期的報告書を作成するとともに、連合王国およびスコットランドの議会ならびに北アイルランドおよびウェールズの国民議会において、これらの報告書に関する幅広い公開の議会討議を促進するよう奨励するものである。
研修/条約の普及
20.委員会は、スコットランドで教育に対する権利基盤アプローチが採用されたことを歓迎する。しかしながら委員会は、最近の研究によればほとんどの子どもが条約に掲げられた権利を知らないことを、とりわけ懸念するものである。したがって委員会は、締約国が、条約に関する十分な普及活動、意識啓発活動および研修活動を体系的な、かつ対象を明確化した方法で行なっていないことを懸念する。
21.前回の勧告(前掲、パラ26および32)ならびに条約第42条に照らし、委員会は締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもおよび親、市民社会ならびにあらゆる部門および段階の行政組織の間における、条約およびその実施に関する情報の普及を相当に拡大すること(脆弱な立場に置かれた集団に積極的に情報を届けるための取り組みも含む)。
  • (b) 子どものためにおよび子どもとともに働くすべての専門家集団(たとえば裁判官、弁護士、法執行官、公務員、地方政府職員、子どものための施設および拘禁場所で働く職員、教員ならびに保健従事者など)を対象とする、子どもの権利を含む人権に関する体系的かつ継続的な研修プログラムを発展させること。

2.一般原則

差別の禁止に対する権利
22.人種関係(北アイルランド)令(1997年)の採択、および、国籍法における婚内子と婚外子の差別を終結させることに関する締約国のコミットメントは歓迎しながらも、委員会は、差別の禁止の原則が、締約国のすべての場所において、すべての子どもを対象として全面的に実施されているわけではなく、かつ、とくに障害のある子ども、貧困家庭の子ども、アイリッシュおよびロマのトラベラーの子ども、子どもの庇護希望者および難民、マイノリティ集団に属する子ども、ケアの対象とされている子ども、拘禁されている子どもならびに16~18歳の子どもに関して、経済的、社会的、文化的、市民的および政治的権利の享受に不平等があることを、懸念する。
23.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 差別にさらされている子ども、とくに脆弱な立場に置かれている前掲の集団に属する子どもの状況を監視すること。
  • (b) イングランド、スコットランド、北アイルランドウェールズにおける子どもによる権利の享受の状況を、比較しながら監視すること。
  • (c) このような監視の結果に基づき、あらゆる形態の差別の解消を目的とした、対象が十分に明確化された具体的行動を掲げる包括的戦略を策定すること。
  • (d) 婚姻した父のみならず非婚の父を通じても国籍の承継を可能とするため、国籍法を改正すること。
24.委員会は、2001年の「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対する世界会議」で採択されたダーバン宣言および行動計画をフォローアップするために締約国がとった措置およびプログラムのうち子どもの権利条約に関わるものについての具体的情報を、教育の目的に関する委員会の一般的意見1号も考慮に入れながら、次回の定期報告書に記載するよう要請する。
子どもの最善の利益
25.子どものケアおよび保護に関わる法律に子どもの「福祉」が掲げられていることには留意しながらも、委員会は、子どもの最善の利益を第一次的に考慮するという原則が、子どもに影響を及ぼす締約国全域の法律および政策、とくに少年司法制度および出入国管理実務に一貫した形で反映されていないことを懸念する。
26.委員会は、前回の勧告(前掲、パラ24)にしたがい、締約国が、子どもに影響を及ぼす締約国全域のすべての法律および政策、とくに少年司法制度および出入国管理実務において、最高の考慮事項のひとつとしての子どもの最善の利益を採用するよう勧告する。
生命に対する権利
27.委員会は、北アイルランドにおいて、円形プラスチック弾が暴動鎮圧手段として引き続き用いられていることを懸念する。これは子どもを傷つけるとともに、その生命を危うくさせる可能性もあるためである。
28.拷問禁止委員会の勧告(A/54/44、パラ77(d))の勧告にならい、委員会は、締約国に対し、暴動鎮圧手段としての円形プラスチック弾の使用を廃止するよう促す。
子どもの意見の尊重
29.委員会は、締約国全域の行政機関、地方当局および市民社会において子どもの参加および子どもとの協議がますます奨励されるようになっていること、地方当局のサービス計画立案において子どもとの協議プロセスが確立されたこと、子ども若者部に若者諮問フォーラムが設置されたこと、ならびに、締約国のあらゆる場所で子どもおよび若者のためのその他の場(スコットランド若者議会など)が設けられていることを歓迎する。しかしながら委員会は、締約国全域の法律、たとえば離婚に関わる司法上の手続、養子縁組、教育および保護に関する法律に、第12条の義務が一貫した形で編入されていないことを懸念するものである。加えて、委員会は、1989年子ども法に掲げられた、法的手続における独立の代理に対する子どもの権利が体系的に行使されていないことを懸念する。委員会はまた、教育において、児童生徒が自己に影響を与える事柄について組織だった協議の対象とされていないことも懸念するものである。委員会は、締約国の子どもの諸集団が、自分たちの意見が正当に考慮されていないという気持ちを表明していることに留意する。
30.委員会は、締約国が、条約第12~17条にしたがい、社会のすべての子ども集団の、組織だった、意味のある、かつ効果的な参加(たとえば生徒会を通じた学校における参加を含む)を促進し、その便宜を図り、かつこれを監視するために、さらなる措置をとるよう勧告する。さらに委員会は、締約国が、第12条の両方の項の義務を法律に一貫した形で反映させるためにさらなる措置をとるとともに、裁判手続および行政手続(離婚および別居の手続を含む)において、自己の意見を形成する力のある子どもが意見を表明する権利を認められ、かつその意見が正当に重視されることを確保するよう、勧告するものである。委員会はさらに、子どもに影響を及ぼすプログラムおよび政策の立案において、子どもが表明した意見が考慮されかつ影響を与えることを可能にするような手続を設置するよう、勧告する。

3.市民的権利および自由

名前および国籍ならびにアイデンティティの保全
31.最近の養子縁組および子ども法案(2002年)には留意しながらも、委員会は、婚外子、養子とされた子どもまたは受精補助医療を背景として生まれた子どもに、その生物学的親の身元を知る権利が認められていないことを懸念する。
32.条約第3条および第7条に照らし、委員会は、その出生の事情にかかわらずすべての子どもおよび養子とされた子どもが可能なかぎりその親の身元に関する情報を得られるようにするため、締約国があらゆる必要な措置をとるよう勧告する。
拷問または他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱い
33.委員会は、2000年4月から2002年2月にかけて、296名の子どもが、刑務所で使用された拘束および統制措置によって傷害を負ったという最近の数字に、特段の懸念を覚える。加えて、委員会は、入所型施設および拘留施設において身体的拘束が頻繁に用いられていること、ならびに、子どもが少年拘禁施設および刑務所の独居拘禁房に措置されていることを、懸念するものである。
34.委員会は、締約国に対し、条約、とくに第37条および第25条との一致を確保するため、締約国全域の拘留施設、教育施設、保健施設および福祉施設における拘束および独居拘禁の使用を見直すよう促す。
体罰
35.委員会は、1995年の勧告(前掲、パラ32)後、イングランド、ウェールズおよびスコットランドのすべての学校において体罰が廃止されたことを歓迎するものの、当該廃止がまだ北アイルランドのすべての私立学校を対象とするところまで拡大されていないことを懸念する。委員会は、ウェールズ国民議会があらゆる形態の保育(家庭的保育を含む)における体罰を禁ずる規則を採択したことを歓迎するものの、このような文脈におけるすべての体罰を禁止する法律がイングランド、スコットランドおよび北アイルランドではまだ整備されていないことを、非常に懸念するものである。
36.前回の勧告(前掲、パラ31)に照らし、委員会は、締約国が「合理的懲罰」の抗弁をあくまで維持するとし、家庭におけるあらゆる子どもの体罰を禁止する方向に向けた実質的な行動を何ら起こしていないことを、深く遺憾に思う。
37.委員会は、「合理的懲罰」の抗弁を削除するのではなく制限するという政府の提案は、とくにそれが子どもの尊厳の重大な侵害であることから、条約の原則および規定ならびに前掲の勧告に一致しないという見解に立つものである(経済的、社会的および文化的権利に関する委員会の同様の見解も参照。E/C.12/1/Add.79, para. 36)。さらに、このような提案は一部の形態の体罰は容認されることを示唆するものであり、したがって積極的かつ非暴力的な規律を促進するための教育的措置を阻害することにつながる。
38.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 「合理的懲罰」の抗弁を削除し、かつ現行法で対象とされていない家庭その他のあらゆる文脈におけるすべての体罰を禁止するための法律を、締約国全域で緊急に採択すること。
  • (b) 子どもおよび親ならびにこれらの者とともにおよびこれらの者のために働くあらゆる者の関与を得ながら、積極的な、参加型のかつ非暴力的な形態のしつけおよび規律ならびに人間の尊厳および身体的不可侵性に対する子どもの平等な権利の尊重を促進するとともに、体罰の有害な影響に関する公衆教育プログラムを実施すること。

4.家庭環境および代替的養護

暴力/虐待/ネグレクト/不当な取扱い
39.委員会は、家庭内暴力およびドメスティック・バイオレンス(北アイルランド)令(1998年)、虐待からの子どもの保護に関する通達10/95号、教育機関の役割、スコットランド学校〔基準〕等法(2000年)およびスポーツにおける子どもの保護部の設置(2001年)のような、児童虐待の分野で行なわれた取り組みに留意する。にもかかわらず、委員会は、家庭における暴力およびネグレクトの結果、毎週1名ないし2名の子どもが死亡していることを深く懸念するものである。委員会はまた、締約国全域で、家庭、学校、施設、ケア制度および拘禁環境における子どもへの暴力(性暴力を含む)が蔓延していることも懸念する。委員会はまた、子どものネグレクトの水準が悪化していることにも、深い懸念とともに留意する。委員会は、これらの現象の規模を抑えるための、調整のとれた戦略が存在しないことを憂慮するものである。委員会はとくに、子どもの死亡について十分かつ体系的なフォローアップが行なわれていないこと、および、16歳未満の子どもに対する犯罪が記録されていないことに留意する。ケア制度について、委員会は、私的に里親託置された子どものための一貫した保護措置が存在しないことに留意する。委員会は、法廷で証言する子どもを支援するために政府がとった措置は歓迎するものの、子ども保護制度の役割に関する公的教育が行なわれていないことに留意するものである。
40.前回の勧告(前掲、パラ31)にしたがい、かつ条約第3条、第6条、第12条、第19条および第37条に照らし、委員会は締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもの死亡に関する法定調査制度を導入すること。
  • (b) 暴力の結果による子どもの死亡を減らし、かつ子どもに対するあらゆる形態の暴力を減らすための、調整のとれた戦略を策定すること。
  • (c) 代替的養護下にあるすべての子ども(私的に里親託置された子どもも含む)を対象として、法律上の一貫した保護措置を確保すること。
  • (d) 学校等も通じ、子どもの死亡および児童虐待を減らすことを目的とした、子どもの保護における法定機関その他のサービス機関の役割に関する情報をともなう大規模な公衆教育キャンペーンおよびプログラムを実施すること。
  • (e) 虐待、不当な取扱いおよびネグレクトの事案を受理し、監視し、捜査しかつ訴追するための効果的な手続および機構を設置すること。その際、虐待を受けた子どもが法的手続において被害を受けず、かつそのプライバシーが保護されることを確保すること。
  • (f) 子どもに対するすべての犯罪を英国犯罪調査に記録すること。
  • (g) 被害者のケア、回復および再統合のための体制を整えること。
  • (h) 被虐待児のための守秘対応センターへの全面的支援を通じて通報制度を強化するとともに、不当な取扱いの事案の特定、通報および取扱いに関する研修を教員、法執行官、ケアワーカーおよび保健専門家に対して行なうこと。

5.基礎保健および福祉

41.乳児死亡率が低下したこと、および、全国的保健サービスの計画において子どもに新たに焦点が当てられるようになったことは歓迎しながらも、委員会は、健康および保健サービス(精神保健サービスを含む)へのアクセスに関する、社会経済的地位および民族と結びついた不平等(たとえばアイリッシュおよびロマのトラベラーの乳児死亡率が高いことなど)が締約国全域で根強く存在すること、母乳育児率が相対的に低いこと、および、非合法であるにもかかわらず女性性器切除が根強く行なわれていることを、依然として懸念する。
42.委員会は、健康および保健サービスへのアクセスに関する不平等を少なくし、母乳育児を促進しおよび「母乳代替品の販売促進に関する国際基準」を採用し、ならびに、教育上その他の措置を通じて女性性器切除の禁止を執行するため、締約国があらゆる適当な措置をとるよう勧告する。
思春期の健康
43.10代の妊娠件数を削減するために締約国が行なっている努力には留意しながらも、委員会は、締約国において10代妊娠率が高いことを依然として懸念する。委員会は、マンツーマンのメンター制度、ならびに精神保健上の問題の発見およびこれへの対応に対する学際的アプローチを歓迎し、かつ全英優先課題指針(1999~2002年)に子どもの精神保健が導入されたことには留意するものの、多くの子どもが精神保健上の問題に苦しんでおり、かつ若者の自殺率がいまなお高いことを依然として懸念するものである。委員会は、同性愛およびトランスセクシュアルの若者が、自己の性的指向にしたがって生きられるようにするための適切な情報、支援および必要な保護にアクセスできていないことを懸念する。委員会はさらに、若者の性感染症感染件数が増加していることを懸念するものである。
44.前回の勧告(前掲、パラ30)にしたがい、委員会は締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) とくに(独立の「10代の妊娠に関する助言グループ」が勧告しているように)性教育を含む健康教育を学校カリキュラムの一部とし、すべての子どもが避妊手段を利用できるようにし、ならびに、秘密が守られかつ青少年に配慮した助言および情報その他の適切な支援へのアクセスを向上させることを通じて10代の妊娠率を削減するために、さらなる必要な措置をとること。
  • (b) 手当の受給資格および子育て講座との関連で、16歳未満の若い母親に関する政策を見直すこと。
  • (c) 精神保健サービスおよびカウンセリング・サービスを、これらのサービスが思春期の子どもにとってアクセスしやすく、かつこれらの子どもに配慮したものであることを確保しながら強化するためにあらゆる必要な措置をとるとともに、自殺の原因および背景に関する研究を実施すること。
  • (d) 同性愛およびトランスセクシュアルの若者に十分な情報および支援を提供すること。委員会は、締約国に対し、代表団が行なった意思表明に留まらず、適用可能なときは1988年地方自治法第28条を廃止するよう奨励する。
生活水準
45.委員会は、締約国において貧困下で暮らしている子どもの割合が高いことを著しく懸念する。このことは、これらの子どもによる条約上の多くの権利の享受を制限し、かつ、これらの子どもの間で死亡、自己、妊娠、劣悪な居住環境およびホームレス化、栄養不良、教育面での失敗および自殺の発生件数が高まることにつながるものである。委員会は、子どもの貧困を解消するという締約国の決意およびこれに関連して行なわれている取り組みは歓迎するものの、締約国全域を対象とする、効果的かつ調整のとれた貧困根絶戦略が存在しないことに留意する。
46.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 子どもの貧困の解消をさらに迅速に行なうため、「利用可能な資源を最大限に用いることにより」あらゆる必要な措置をとること。
  • (b) 若者のホームレス化の原因およびその結果に対応するための努力の調整を向上させ、かつこのような努力を強化すること。
  • (c) 16~18歳の者を対象とする給付および社会保障手当についての法律および政策を見直すこと。

6.教育、余暇および文化的活動

教育
47.委員会は、教育予算の増加、および、教育改善措置地区等の取り組みを通じて識字能力および数学の水準を高めるために締約国がとった措置、ならびに、幅広いシティズンシップ教育プログラムの開発を歓迎する。さらに委員会は、条約第12条を反映させるためにスコットランドで進められている法律の発展を歓迎するものの、同様の法律は締約国全域で必要とされていること、および、指針では第12条を実施するための措置としては不十分であることに留意するものである。委員会は、停退学率がいまなお高く、もっぱら特定集団の子ども(黒人の子どもを含む民族的マイノリティ、アイリッシュおよびロマのトラベラー、障害のある子ども、庇護希望者等)に影響が生じていること、および、子どもの社会経済的背景およびその他の要素(ジェンダー、障害、民族的出身または養護に関わる地位)によって子どもの教育上の成果が著しく異なることを、懸念する。さらに、委員会は、学校におけるいじめが広がっていることを懸念するものである。委員会は、刑務所および少年拘禁センターで自由を奪われている子どもが教育に対する法律上の権利を有していないこと、このような子どもの教育が教育担当省庁の責任とされていないこと、および、このような子どもが特別な教育上のニーズに対する支援を受けていないことを、とりわけ懸念する。委員会はさらに、ケア制度の対象とされている子どもの大多数および10代の母親が基礎的な教育修了資格を得ていないことを懸念するものである。委員会は、北アイルランドにおける統合学校の発展を歓迎するものの、統合されている学校は全体の4%に過ぎず、引き続き分離教育が主となっていることを、依然として懸念する。
48.条約第2条、第12条、第28条および第29条に照らし、かつ委員会の前回の勧告(前掲、パラ32)にしたがい、委員会は締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 締約国全域の法律で、第12条が反映され、ならびに自己の教育に関わるすべての事柄(学校懲戒を含む)について意見を表明しかつその意見を正当に重視される子どもの権利が尊重されることを、確保すること。
  • (b) 停学または退学を削減し、締約国全域の子どもが停退学の前に意見を聴かれる権利および停退学に対して異議を申し立てる権利を有することを確保し、かつ、停退学の対象とされた子どもが引き続きフルタイムの教育にアクセスできることを確保するため、適当な措置をとること。
  • (c) 異なる集団の子ども間における教育上の達成および停退学率の不平等を解消し、かつすべての子どもに適切な質の教育を保障するため、あらゆる必要な措置をとること。
  • (d) 拘禁されている子どもが教育に対する平等な法律上の権利を有することを確保し、かつケアの対象とされている子どもの教育を向上させること。
  • (e) 家庭および学校における子どもへの暴力に関する一般的討議で採択された委員会の勧告に照らし、いじめその他の形態の学校における暴力を防止し、かつこれらの戦略の策定および実施に子どもを含めるための措置をとり、かつそのための十分な機構および体制を設置すること。
  • (f) 教育の目的に関する委員会の一般的意見1号を考慮に入れながら、すべての初等中等学校および教員養成のカリキュラムに条約に関する教育および人権教育を含めること。
  • (g) 相当数の親の要求を満たすため、北アイルランドの統合学校の予算を増額するとともに、その増設を促進するための適当な措置およびインセンティブを導入すること。
  • (h) 10代の母親の継続教育を促進しおよび奨励するため、このような母親を対象とする教育プログラムを発展させること。
  • (i) 学校民営化が教育に対する子どもの権利に及ぼす影響の評価を実施すること。

7.特別な保護措置

子どもの庇護希望者/難民
49.委員会は、1994年に〔NGOである難民評議会に〕子ども助言者委員会が設置されたことを歓迎するとともに、家族とともにまたは自分自身で庇護を請求する子どもの人数が増えていることを認識する。委員会は、これらの子どもの収容は条約の原則および規定と両立しないことを懸念する。委員会はさらに、〔庇護希望者等の居住地の〕分散システムはよりよい統合を阻害し、かつ人種関連の事件の拡大につながる可能性があること、庇護を希望する子どもを一時居住先に措置することは保健または教育へのアクセスのような基本的権利を侵害する可能性があること、申請の処理に数年かかる場合があること、子ども助言者委員会の資金が常に十分であるわけではないこと、および、現在進められている庇護制度および出入国管理制度の改革において子どもの庇護希望者の特有のニーズおよび権利が対応されていないことを、懸念するものである。
50.条約の原則および規定、とくに第2条、第3条、第22条および第37条にしたがい、かつ、子どもが庇護を希望しているか否かにかかわらず、委員会は締約国が子どもに関して以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 条約第37条に一致する形で、保護者のいない未成年者の収容は控えることを方針とし、かつ、収容の合法性を迅速に争う権利を確保すること。いかなる場合にも、収容は常に最後の手段であり、かつもっとも短い適当な期間で用いられなければならない。
  • (b) 子どもの難民および庇護希望者が教育および保健のような基礎的サービスにアクセスでき、かつ、庇護を希望する家族のための手当であって子どもに影響を及ぼしうるものの受給資格に関して差別がないことを確保すること。
  • (c) 保護者のいない子どもの庇護希望者および難民に対する後見人の任命を検討すること。
  • (d) 特定の地域に定住した子どもが18歳に達した際に当該地域を離れることを強制されないようにするため、あらゆる必要な措置をとること。
  • (e) 庇護申請に対応する手続を迅速化するための努力、および、子どもを不適切な一時居住先に措置するのではなく子ども養護法制上の「援助を必要とする子ども」として居住先を手配するための努力を行なうこと。
  • (f) 出入国管理制度および庇護制度で対応されている保護者のいない未成年者その他の子どものための、法定代理その他の形態の独立の権利擁護の利用可能性および実効性に関する検討を行なうこと。
  • (g) 現在進められている出入国管理制度および庇護制度の改革において、これらの制度を条約の原則および規定と一致させるため、子どもの特有の状況に遺漏なく対応すること。
アイリッシュおよびロマのトラベラー
51.委員会は、アイリッシュおよびロマのトラベラーに属する子どもが差別されていることを懸念する。このような差別は、とくに、その他の子どもと比較した場合のこれらの子どもの死亡率の高さ、教育におけるこのような子どもの隔離、その住環境およびこのような子どもに対する社会の態度に表れているところである。委員会はまた、政策とサービス提供との間に乖離があることも懸念する。
52.前回の勧告(前掲、パラ40)にしたがい、委員会は、締約国が、これらの集団に属する子どもが権利を享受することを妨げる要因に効果的に対応するための包括的かつ建設的な行動計画を、これらの集団およびその子どもが関与する協議型および参加型のプロセスによって立案するよう勧告する。
武力紛争における子ども
53.委員会は、軍の年間新規入隊者のおよそ3分の1が18歳未満であること、陸海空軍が若者を標的としていること、および、入隊者は最低4年間軍務に就かなければならない(非常に若年の入隊者については6年間に延長される)ことを、深く懸念する。委員会はまた、若年の入隊者がいじめの被害を受けているという訴えが広く存在すること、および、18歳未満の子どもが国外で敵対行為に直接参加していることも懸念するものである。委員会はまた、北アイルランド紛争が子どもに及ぼす悪影響(北アイルランドで施行されている非常事態立法その他の法律の活用によるものも含む)について依然として懸念する。
54.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書を批准するとともに、その趣旨および目的を念頭に置きながら、締約国が選択議定書への署名時に行なった宣言で挙げられている状況において18歳未満の者を配置しないようにするためあらゆる必要な措置をとること。
  • (b) 16歳に達しているが18歳には満たない者を徴募するときは、条約第38条3項に照らして最年長の者を優先させるよう努めるとともに、18歳以上の者を徴募する努力を強化しかつ増進させること。
  • (c) 前回の勧告(前掲、パラ34)に照らし、北アイルランドで現在運用されている非常事態立法その他の法律が条約の原則および規定と一致することを確保するため、少年司法の運営制度との関連も含めてこれらの法律の見直しを行なうこと。
経済的搾取(児童労働も含む)
55.委員会は、全国最低賃金が就業の最低年齢に達した若年労働者に適用されないこと、および、したがってこれらの若年労働者が経済的に搾取されるおそれがありうることを懸念する。委員会は、最低賃金に関する政策に、若者の学業および技能向上を奨励することを目的とした締約国のプログラムが反映されていることに留意するものである。にもかかわらず、委員会は、このような政策が働かなければならない子どもに対する差別となる可能性があることを懸念する。
56.委員会は、締約国が、差別の禁止の原則に照らし、若年労働者の最低賃金に関する政策を再検討するよう勧告する。
性的搾取および人身取引
57.委員会は、子どもを商業的性的搾取から保護するための国家計画(2001年)、および、子どもの性的搾取と闘うために締約国とフィリピン政府との間で調印された了解覚書(1997年)を歓迎する。にもかかわらず、委員会は、性的搾取その他の搾取を目的とする人身取引がいまなお問題となっていること、および、性的搾取を受けた子どもがいまなお法律で犯罪者とされることを、懸念するものである。
58.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 児童買春の規模、原因および背景に関する研究を行なうこと。
  • (b) 性的搾取を受けた子どもが犯罪者とされないよう、法律を見直すこと。
  • (c) 子どもの商業的性的搾取に反対する会議(1996年および2001年)で採択された「宣言および行動綱領」ならびに「グローバル・コミットメント」にしたがった政策およびプログラムを引き続き実施すること。
  • (d) この分野の政策およびプログラムに対し、十分な資源(人的資源および財源の両方)が配分されることを確保すること。
少年司法の運営
59.委員会は、罪を犯した少年を対象として修復的司法およびコミュニティを基盤とするその他の建設的処分を導入するための取り組みを締約国が行なっていること、17歳の者がほぼ完全に少年司法制度の対象とされていること、および、罪を犯した子どもの行動に対応するための学際的チームが創設されたことを歓迎するものの、法律に触れた子どもの状況が第1回報告書の検討以降悪化していることに、重大な懸念とともに留意する。委員会は、子どもが刑事司法制度の対象とされる年齢が低いこと(スコットランドでは刑事責任年齢がいまなお8歳と定められており、締約国のそれ以外の地域では10歳と定められている)、および、責任無能力推定原則が廃止されたことをとりわけ懸念する。委員会は、スコットランドの子ども聴聞制度に異なるアプローチが反映されていること、および、16~18歳の若者を子ども聴聞制度の対象とすることに関する議論が行なわれていることを歓迎するものである。委員会は、締約国の第1回報告書以降、12~14歳の子どもが自由を奪われるようになったことをとりわけ懸念する。より一般的には、委員会は、拘禁命令および拘束命令を発令する裁判所の権限が最近になって強化された結果、より多くの子どもが、より低年齢で、より軽微な犯罪について、かつより長い刑期で拘禁されるようになっていることを深く懸念する。委員会は、したがって、自由の剥奪が、条約第37条(b)に違反して、最後の手段としてかつもっとも短い適当な期間でのみ用いられていないことを懸念するものである。委員会はまた、子どもが拘禁下で不十分な環境を経験していること、および、子どもが(15~17歳を対象とする)若年犯罪者施設で十分な保護または援助を受けていないことも、著しく懸念する。この点について委員会は、子どもに対する職員配置の比率が非常に低いこと、暴力、いじめ、自傷行為および自殺が高水準で発生していること、更生のための機会が不十分であること、懲戒措置としてのまたは保護のための独居拘禁が不適切な環境下でかつ長期間にわたって用いられていること、ならびに、収監されている女子および一部の男子がいまなお成人から分離されていないことに、留意するものである。
60.加えて、委員会は、以下のことに懸念とともに留意する。
  • (a) 1998年犯罪および秩序違反法により、イングランドおよびウェールズで、条約の原則および規定に違反する可能性のある措置が導入されたこと。
  • (b) 一定の状況において子どもが成人裁判所で審理されうること。
  • (c) 拘禁されている子どもが、独立の権利擁護サービス、ならびに教育、十分な保健ケア等の基礎的サービスに常にアクセスできるわけではないこと。
  • (d) 刑事司法制度に関わることになった子どものプライバシーが常に保護されるわけではなく、かつ重大犯罪の場合はその氏名がしばしば公表されること。
  • (e) 17歳未満の若者が再拘留に関して成人と見なされること。
61.前回の勧告(前掲、パラ36および36)にしたがい、委員会は、締約国が、条約の規定および原則、とくに第3条、第37条、第40条および第39条、ならびに、少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止のための国連指針(リャド・ガイドライン)、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則、刑事司法制度における子どもに関する行動についてのウィーン指針のようなこの分野における他の関連の国際基準を立法政策および実務に全面的に統合した少年司法制度を確立するよう、勧告する。
62.とくに、委員会は締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 刑事責任に関する最低年齢を相当に引き上げること。
  • (b) 1998年犯罪および秩序違反法によって導入された新たな命令を再検討し、かつそれを条約の原則および規定と両立するようにすること。
  • (c) 犯罪の状況または重大性にかかわらず、いかなる子どもも成人として審理されないことを確保すること。
  • (d) 条約第40条2項(b)(vii)にしたがい、法律に触れたすべての子どものプライバシーが全面的に保護されることを確保すること。
  • (e) 子どもの拘禁が最後の手段としてかつもっとも短い適当な期間でのみ用いられること、および、子どもが拘禁時に成人から分離されることを確保するとともに、自由の剥奪に代わる措置の活用を奨励すること。
  • (f) 自由を奪われたすべての子どもが、独立の権利擁護サービス、および、独立の、子どもに配慮した、かつアクセスしやすい苦情申立て手続にアクセスできることを確保すること。
  • (g) 拘禁の環境を見直し、かつ、自由を奪われたすべての子どもが、教育、健康および子どもの保護に対して他の子どもと同一の法律上の権利を有することを確保するため、緊急にあらゆる必要な措置をとること。
  • (h) 18歳未満のすべての子どもに対して特別な保護を与える目的で、再拘留についての17歳の若者の地位を見直すこと。
  • (i) 扱われる事件数を相当に増やせるようにし、かつ16~18歳の若年犯罪者を子ども聴聞制度の対象にできるようにするため、スコットランドの子ども聴聞制度に適切な資源を配分すること。

8.選択議定書

63.委員会は、締約国が、子どもの売買、児童買春および児童ポルノならびに武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の両選択議定書を批准していないことに留意する。
64.委員会は、締約国に対し、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する条約の選択議定書、ならびに、前掲勧告のとおり、武力紛争への子どもの関与に関する条約の選択議定書を批准するよう奨励する。

9.文書の普及

65.委員会は、条約第44条6項に照らし、締約国が提出した第2回定期報告書および文書回答を広く公衆一般が入手できるようにするとともに、関連の議事要録および委員会が採択した総括所見の刊行を検討するよう勧告する。このような文書は、政府、議会および一般公衆(関心のあるNGOおよび子どもグループを含む)の間で条約ならびにその実施および監視に関する議論および意識を喚起するため、広く配布されるべきである。

10.報告書の定期的提出

66.委員会は、締約国に対し、条約で定められた第4回定期報告書の提出期限、すなわち2009年1月15日までに次回定期報告書を提出するよう慫慂する。この報告書は、第3回および第4回定期報告書を統合したものであるべきである。しかしながら、委員会は毎年多数の報告書を受領しており、その結果、締約国報告書の提出日から委員会による検討が行なわれるまで相当の遅延が生じていることから、委員会は、締約国に対し、第3回・第4回統合報告書を、その提出期限の18か月前である2007年7月15日までに提出するよう慫慂するものである。
67.最後に、委員会は、締約国の次回定期報告書に、大ブリテンおよび北アイルランド連合王国のすべての海外属領および王室属領からの情報が記載されることを期待する。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年8月26日)。/前編・後編を統合(2012年10月20日)。
最終更新:2012年10月20日 08:59