総括所見:イギリス海外領土(2000年)


CRC/C/15/Add.135(2000年10月16日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2000年9月21日に開かれた第647回~648回会合(CRC/C/SR.647-648参照)において、1999年5月26日に受領されたグレートブリテン・北アイルランド連合王国(海外領土)の第1回報告書(CRC/C/41/Adds.7 and 9) を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)2000年10月6日に開かれた第669回会合において。

A.序

2.委員会は、定められたガイドラインにしたがって作成された海外領土に関する締約国の第1回報告書、および委員会の事前質問事項(CRC/C/Q/UK-OT/1)に対する文書回答が提出されたことを歓迎する。委員会は、締約国との間に持つことができた建設的な、開かれたかつ率直な対話を心強く思うとともに、議論中に行なわれた提案および勧告への積極的反応を歓迎するものである。委員会は、条約の実施に直接関与している多くの海外領土の代表が代表団に含まれていたことによって諸領土の子どもの権利の状況に関してより十全な評価ができたことに、満足の意を表明する。

B.積極的側面

3.委員会は、乳幼児期の健康の分野における締約国の努力を歓迎する。このような努力は、予防接種率が高いこと(90~100%)およびワクチンによって予防可能な疾病の発生件数が少ないこと、ならびに、乳児および子どもの死亡率が相対的に低いことに明らかである。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

4.委員会は、世界中に広く分散している相当数の海外領土が、多様な文化を有しており、経済的および社会的発展の水準も多様であり、かつ自治の度合いもさまざまであることを認知する。委員会はまた、一部の領土が遠隔地に存在し、かつ自然災害の被害を受けやすいことにも留意するものである。とくに委員会は、島のおよそ3分の2を破壊した、モントセラトのスーフリエールヒルズ山の噴火による荒廃に留意するものである。委員会はさらに、海外領土の規模が小さく、かつ熟練した人的資源の利用可能性が限られていることにより、海外領土における条約の全面的実施に悪影響が生じていることに留意する。

D.懸念事項および委員会の勧告

1.実施に関する一般的措置

条約の適用および報告
5.委員会は、子どもの権利条約の適用がまだ締約国のすべての海外領土(ジブラルタルを含む)に拡大されていないことを懸念する。委員会はまた、海外領土への条約の適用拡大に関して連合王国が国際連合に対して行なった通告(1994年9月7日)において、条約の適用がヘンダーソン、デュシー、オエノならびにサウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島にも拡大されたとされながら、締約国報告書にこれらの領土に関する情報が記載されていないことも懸念するものである。
6.委員会は、締約国が、その管轄内にあるすべての領土に条約の適用を拡大するためにとった措置に関する情報を次回定期報告書で提出するよう勧告する。委員会はまた、締約国が、子どもの権利条約の適用が拡大されたすべての海外領土に関する報告書が時宜を得た形で提出されることを促進するため、あらゆる適当な措置をとるようにも勧告するものである。
条約に対する留保
7.委員会は、子どもの権利条約第32条および第37条(c)に関して締約国が付した留保がまだ撤回されておらず、かつ海外領土に依然として適用されていることを懸念する。委員会はまた、ケイマン諸島との関連で条約第22条に付された留保がまた撤回されていないことにも、懸念とともに留意するものである。
8.1993年のウィーン宣言および行動計画に照らし、委員会は、締約国に対し、海外領土との関連も含めて留保を全面的撤回の方向で見直す可能性を検討するよう奨励する。

立法
9.委員会は、法改正を導入しかつ条約の実施を送信するために多くの海外領土で行なわれてきた努力に留意する。これとの関連で、委員会は、バミューダが、子ども法(1998年)、子の奪取の民事上の側面に関するハーグ条約を実施する子の奪取法(1998年)およびドメスティック・バイオレンス(保護命令)法(1997年)を制定したことに留意するものである。ケイマン諸島は、扶養法(1996年改正)、青少年(拘禁施設)令(1996年)および青少年司法法(1995年)を制定した。フォークランド諸島およびセントヘレナはいずれも、それぞれ1994年および1996年に子ども条例を採択した。委員会は、1995年に制定されたケイマン諸島の子ども法がまだ施行されておらず、かつ追加的改正が行なわれる予定であることに、懸念とともに留意する。多くの海外領土がさらなる法改正を導入しようとしていることには留意しながらも、委員会は、海外領土の国内法に条約の原則および規定がいまなお全面的に反映されていないことを依然として懸念するものである。
10.委員会は、各海外領土の国内法が条約の原則および規定に全面的に一致し、かつそこにこれらの原則および規定が積極的に反映されることを確保するため、締約国が法的適合性審査を実施するよう勧告する。委員会は、ケイマン諸島に対し、子ども法を改正しかつ施行する努力を強化するよう奨励するものである。委員会はまた、海外領土で包括的な子どもの権利法を採択することも奨励する。
調整
11.委員会は、条約の実施を調整するための機構がバミューダ、英領ヴァージン諸島、モントセラトおよびセントヘレナで設置されていることに留意する。しかしながら委員会は、同様の努力がすべての海外領土で行なわれているわけではないことを懸念するものである。委員会はまた、子どものための国家的行動計画がまだ海外領土で策定されていないことも懸念する。条約の調整および実施に非政府組織(NGO)の参加を得るための努力が不十分なことに対しても、懸念が表明されるところである。
12.委員会は、締約国が、海外領土ですでに設置されているこれらの調整機構の効果的運用を促進するために十分な資源(人的資源および財源)が配分されることを確保する努力、および、まだこのような機構が設置されていない海外領土で機構の設置をさらに援助する努力を強化するよう、勧告する。委員会はさらに、海外領土に対し、条約に掲げられた規定および原則に基づく子どものための国家的行動計画を策定しかつ実施するため、適当な措置をとるよう奨励するものである。海外領土は、条約の促進および実施にNGOが含まれることを促進するため、あらゆる適当な措置をとるよう奨励される。
データ収集
13.委員会は、条約のすべての側面に関する細分化されたデータの収集を確保し、ならびに達成された進展を評価しおよび子どもに関して採用された政策の効果を評価するための十分なデータ収集機構がほとんどの海外領土で存在しないことに、懸念とともに留意する。この文脈において、委員会は、海外領土におけるデータ収集では一般的に15歳未満の子どもしか対象とされていないことに留意するものである。
14.委員会は、それぞれの海外領土について、条約が対象とするすべての分野を編入した包括的なデータ収集システムを導入するよう勧告する。このようなシステムにおいては、とりわけ脆弱な立場に置かれている子ども(障害のある子ども、貧困下で暮らしている子ども、少年司法制度の対象とされている子ども、婚外子、10代で母となった子ども、性的虐待を受けた子ども、施設に措置されている子どもおよび離島コミュニティで暮らしている子どもを含む)をとくに重視しながら、18歳未満のすべての子どもが網羅されるべきである。
監視機構
15.子どもの権利侵害に関する苦情申立てを扱う機関としてバミューダの人権委員会、セントヘレナの子ども保護グループならびに英領ヴァージン諸島およびタークス・カイコス諸島の苦情コミッショナーが存在することには留意しながらも、委員会は、これらの機構内に子どものための窓口を設けるための努力が不十分であることを懸念する。委員会はまた、ケイマン諸島がオンブズマンを設置しようとしていることにも留意するものである。委員会は、アンギラ、フォークランド諸島およびモントセラトが、条約上の権利侵害に関わる子どもの苦情申立てを登録しかつこれに対応するための独立機関をまだ設置していないことを、懸念する。
16.委員会は、バミューダ、英領ヴァージン諸島、セントヘレナおよびタークス・カイコス諸島の人権監視機構内に子どもの権利窓口を設けることを勧告する。加えて、委員会は、これらの機構が独立した、子どもにやさしい、かつ子どもにとってアクセスしやすいものであることを確保するため、あらゆる適当な措置をとるよう勧告するところである。委員会はまた、他の海外領土において、子どもの権利侵害に関する苦情に対応しかつそのような侵害に対する救済措置を提供する、独立した、子どもにやさしい監視機構を設置することも奨励する。このような機構には子どものための窓口も含まれるべきである。委員会はさらに、子どもが監視機構を効果的に活用することを促進するための意識啓発キャンペーンを行なうよう提案する。
予算配分
17.委員会は、条約第4条に照らし、「利用可能な資源を最大限に用いることにより」子どもの経済的、社会的および文化的権利を実施するための予算資源の配分について十分な注意が払われていないことを懸念する。
18.条約第2条、第3条および第6条に照らし、委員会は、締約国に対し、利用可能な資源を最大限に用いることにより、および必要な場合には国際協力の枠組みのなかで子どもの経済的、社会的および文化的権利の実施を確保するための予算配分を優先させることによって条約第4条を全面的に実施することに、特段の注意を払うよう奨励する。
条約の原則および規定の普及
19.委員会は、条約の原則および規定を普及するための努力が不十分であり、専門家集団、子ども、親および公衆一般が、全般的に、条約およびそこに掲げられた権利基盤アプローチについて十分に理解していないことを、懸念する。
20.委員会は、条約の規定がおとなによっても子どもによっても広く知られかつ理解されることを確保するため、さらなる努力を行なうよう勧告する。委員会はまた、子どもとともにおよび子どものために働く専門家集団(裁判官、弁護士、法執行官、教職員、学校管理者、心理学者およびソーシャルワーカーを含む保健従事者、ならびに子どものケアのための施設の職員を含む)を対象とする十分な研修および(または)感受性強化措置の強化も勧告するものである。子どもの権利に関するメディアの意識を高めるための努力も求められる。委員会はさらに、海外領土におけるあらゆる段階の教育制度のカリキュラムに条約を統合することを奨励するものである。

2.子どもの定義

21.委員会は、海外領土における法定刑事責任年齢が低いこと(8~10歳)について懸念を表明する。フォークランド諸島においてアルコールの私的消費に関する最低年齢が低いこと(5歳)にも懸念が表明されるところである。加えて、委員会は、ほとんどの海外領土の法律において、17歳に達した子どもの特別な保護およびケアについて十分な定めが置かれていないことを懸念する。
22.委員会は、条約の原則および規定との全面的一致を確保する目的で、とくに法定刑事責任年齢に関して海外領土の国内法の見直しを行なうよう勧告する。委員会はさらに、18歳未満のすべての子どもに対して十分な保護およびケアが保障されるよう、現行法の見直しを行なうことを勧告するものである。

3.一般原則

23.委員会は、締約国が、立法、行政上および司法上の決定ならびに子どもに関連する政策およびプログラムにおいて、条約の規定、とくに第2条(差別の禁止)、第3条(子どもの最善の利益)、第6条(生存および発達)および第12条(子どもの意見の尊重)に反映された条約の一般原則を全面的に考慮していないように思われることについて、懸念を表明したい。
24.委員会の見解では、条約の規定、とくに一般原則が、政策に関わる議論および意思決定の指針とされるのみならず、あらゆる法改正ならびに司法上および行政上の決定ならびに子どもに影響を及ぼすプロジェクト、プログラムおよびサービスに条約の原則が適切に統合されることを確保するため、さらなる努力が行なわれるべきである。
差別の禁止
25.委員会は、締約国が海外領土当局に対し具体的な人種差別禁止法の導入を検討するよう要請したこと、および、いくつかの海外領土がその要請に応じたことに留意する。しかしながら委員会は、条約第2条の全面的実施を確保するための努力が不十分であること、および、ジェンダー、性的指向および出生の地位を理由とする差別がいくつかの海外領土において明らかに残っていることを懸念するものである。これとの関連で、委員会は、これらの問題(とくに性的虐待および性的搾取)ならびに性的同意に関する法定最低年齢に関わる法律が女子のみに言及しており、男子に対して平等かつ十分な保護を提供していないことに留意する。とりわけ多くの海外領土(とくにフォークランド諸島およびカリブ海の領土)における学業成績の低さに明らかなとおり、男子が直面しているジェンダーバイアスが増大していることに懸念が表明されるところである。委員会はまた、一部の海外領土において、異性間の関係に関する同意年齢と同性間の関係に関するそれとの間に乖離が存在していることにも留意する。委員会は、多くの海外領土において、10代で母となった子どもおよび婚外子に対する差別を防止するための努力が不十分であることに、懸念を表明するものである。
26.委員会は、条約第2条との全面的一致を確保し、ならびに、とくにジェンダー、性的指向および出生の地位に関わる差別を防止しおよびこれと闘うために、海外領土の国内法の見直しを行なうよう勧告する。とくに海外領土は、男子が性的虐待および性的搾取からの平等かつ十分な保護を提供されることを確保するための法改正を行なうべきである。加えて、委員会は、男子および女子が不適切なジェンダー役割にしたがって社会化され、その結果、子どもに関する社会の態度がジェンダーに基づいて決定されてしまうことから生ずる差別に対応するため、あらゆる適当な措置をとるよう勧告する。
子どもの意見の尊重
27.委員会は、多くの海外領土において、家庭裁判所で子どもの発達しつつある能力にしたがって子どもの意見の尊重を確保するための努力が行なわれてきたことに留意する。しかしながら委員会は、多くの海外領土において、条約第12条の全面的実施を確保するための努力が不十分であることを懸念するものである。
28.委員会は、海外領土が、必要な体制を強化し、かつ子どもの参加権に関する公衆の意識を高めることへの体系的アプローチを発展させるとともに、家庭、コミュニティ、学校ならびにケア制度、行政制度および司法制度における子どもの権利の尊重を奨励するよう、勧告する。

4.家庭環境および代替的養護

親の指導および責任
29.委員会は、海外領土、とくにバミューダおよびカリブ海の領土でひとり親家庭が多数にのぼることに、懸念とともに留意する。これらの領土において、「通い婚」または「コモンロー」上の関係から生まれた婚外子の権利(扶養および相続の権利を含む)に関して十分な法的保護が存在しないように思われることにも、懸念が表明されるところである。委員会は、通い婚の関係が子どもに及ぼす金銭的および心理的影響について、さらなる懸念を表明する。親の指導および責任の分野で十分な支援および相談が行なわれていないことも、特段の懸念の対象である。委員会はまた、カリブ海の領土からの出移民率が高いことも親の責任および指導に悪影響を及ぼしていることにも、懸念とともに留意する。
30.海外領土は、条約第18条に照らし、とくに子育ておよび親の共同責任の行使に関する支援(親の訓練を含む)の提供を通じ、家族教育および家族に関する意識を発展させるための努力を強化するよう奨励される。委員会はまた、海外領土が、婚外子の子どもの権利が保護されることを確保するため、法的措置を含むあらゆる適当な措置をとるようにも勧告するものである。委員会はさらに、締約国が、カリブ海の領土におけるひとり親家庭および通い婚関係の状況ならびにそれが子どもに及ぼす影響(金銭的および心理的影響の両方)について研究を行なうよう勧告する。
代替的養護
31.子どもに代替的養護を提供するための法律上および行政上の手続がすべての海外領土で設けられていることには留意しながらも、委員会は、一部の代替的養護プログラムにおいて措置の監視が不十分であることを懸念する。委員会は、タークス・カイコス諸島の子どもが、領土内で親族または善意の第三者に措置することができない場合にジャマイカの代替的養護施設に送致されることはもはやないことに留意しながらも、タークス・カイコス諸島の代替的養護施設の現状に関する情報が存在しないことを懸念するものである。代替的養護施設の子どもを対象とする独立した苦情申立て機構が不十分であること、および、訓練を受けた職員がこの分野で利用可能となっていないことに対し、懸念が表明される。一部の海外領土において非公式な養子縁組の慣行が存続していることに対しても、懸念が表明されるところである。
32.委員会は、代替的養護施設が存在する海外領土において、ソーシャルワーカーおよび福祉ワーカーに対して追加的研修(子どもの権利に関するものを含む)を実施し、かつ子どもを対象とする独立の苦情申立て機構を設置するよう、勧告する。委員会はまた、家庭環境を奪われた子どもの十分なケアおよび保護を確保する目的で、基準要綱を定めることを検討するようにも勧告するところである。条約第3条および第20条に照らし、委員会は、子どもの最善の利益を確保する目的で、タークス・カイコス諸島の代替的養護プログラムの見直しを行なうよう勧告する。条約第21条に照らし、委員会は、里親養護ならびに国内養子縁組および国際養子縁組の監視手続を強化するよう勧告する。加えて、非公式な養子縁組の慣行を監視し、かつこの点に関わる濫用を防止するため、あらゆる適当な措置が取られるべきである。委員会は、連合王国が、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約(1993年)の適用を海外領土に拡大することを検討するよう、奨励する。
ドメスティック・バイオレンス、不当な取扱いおよび虐待
33.委員会は、虐待の被害を受けた子どもに対していっそうの保護および支援を提供し、かつ虐待の子どもの被害を受けた子どもとともにおよびこのような子どものために活動する専門家(警察官を含む)を対象とする研修を導入するため、一部の海外領土、とくにバミューダ、ケイマン諸島およびフォークランド諸島で行なわれている努力に留意する。しかしながら委員会は、ドメスティック・バイオレンス、子どもの不当な取扱いおよび虐待(性的虐待を含む)の発生件数が増加しており、かつこれらの問題に関する意識および情報が欠けていることに、懸念を表明するものである。多くの海外領土において、これらの問題を防止しかつこれと闘うため財源および人的資源の配分ならびにプログラムの設置が不十分であることに対しても、懸念が表明される。委員会は、バミューダを除く海外領土において、子どもの不当な取扱いおよび虐待の通報義務が導入されていないことに、懸念とともに留意するものである。もっぱら規模が小さいことに関わる海外領土の制約は承知しながらも、委員会は、虐待の被害を受けた子どものプライバシー権を保護する努力が不十分であることを懸念する。
34.第19条に照らし、委員会は、締約国が、すべての海外領土において十分な政策措置を採択し、かつ伝統的な態度の変革に寄与する目的で、ドメスティック・バイオレンス、不当な取扱いおよび性的虐待に関する研究を実施するよう勧告する。委員会はまた、子どもの不当な取扱いおよび虐待が時宜を得た形で通報されるようにするための効果的機構を導入するため、あらゆる適当な措置をとることも勧告するところである。委員会はさらに、ドメスティック・バイオレンス、子どもの不当な取扱いおよび性的虐待の事案が、子どものプライバシー権の保護を正当に考慮しながら、子どもにやさしい司法手続において適正に捜査され、かつ加害者に対して制裁が科されるようにするよう、勧告する。加えて、条約第39条にしたがって被害を受けた子どもの身体的および心理的回復ならびに社会的再統合を確保し、かつ被害者の犯罪化および被害者に対するスティグマの付与を防止するための措置も、とられるべきである。
体罰
35.委員会は、多くの海外領土において体罰がいまなお広く実践されていること、および、国内法では一般的に学校、ケアのための施設および家庭における体罰の使用が禁止されおらずかつ根絶されていないことに、重大な懸念を表明する。委員会はまた、英領ヴァージン諸島が、いまなお司法上の体罰の使用を法律で禁じていない、残された唯一の領土であることにも、懸念とともに留意するものである。
36.委員会は、学校、少年司法制度および代替的養護制度ならびに家庭におけるあらゆる形態の体罰を禁止しかつ根絶するため、立法措置を含むあらゆる適当な措置をとるよう勧告する。委員会はさらに、公衆の態度を変革するとともに、代替的形態によるしつけおよび規律の維持が子どもの人間の尊厳と一致する方法で、かつ条約、とくに第19条および第28条2項にしたがって行なわれることを確保する目的で、意識啓発および教育のためのキャンペーンを実施するよう提案するところである。

5.基礎保健および福祉

思春期の健康
37.委員会は、アンギラ、英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島、モントセラト、タークス・カイコス諸島およびバミューダを含むカリブ海の海外領土が、1998年にバルバドスで開催された「思春期のセクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスの権利に関するカリブ海若者サミット」に参加したことに留意する。委員会は、10代の妊娠、中絶、HIV/AIDSおよび性感染症(STD)、薬物濫用、暴力ならびに精神疾患を含む思春期の健康の分野でプログラムおよびサービスが不十分でありかつ十分なデータが存在しないことについて、懸念を表明するものである。委員会は、とくにカリブ海の領土において10代の妊娠件数が多いことを、とりわけ懸念する。
38.委員会は、「思春期のセクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスの権利に関するカリブ海若者サミット」に参加した領土に対し、同サミットで行なわれた勧告をフォローアップし、かつ適当なときはその実施に努めるよう奨励する。委員会は、思春期の健康に関わる政策をいっそう促進し、かつリプロダクティブヘルス教育(男性が避妊手段の使用を受け入れることの促進も含む)を強化するため、あらゆる適当な措置を措置をとるよう勧告するところである。委員会はさらに、思春期の健康に関わる問題(HIV/AIDSおよびSTDに感染し、その影響を受け、または感染しやすい状況に置かれている子どもの特別な状況も含む)の規模を理解するため、包括的かつ学際的な研究を実施するよう提案する。加えて、締約国が、思春期の子どものための、若者にやさしいケア、カウンセリングおよびリハビリテーションのサービスをすべての海外領土において発展させるため、十分な人的資源および財源の配分を含むさらなる措置をとることが勧告されるところである。
障害
39.委員会は、障害のある子どものためのプログラム(早期介入および学校への統合のためのプログラムを含む)を確立するために海外領土、とくにバミューダ、英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島、フォークランド諸島およびセントヘレナが行なっている努力に留意する。しかしながら委員会は、障害のある子どもが法的に保護されておらず、かつこのような子どものための施設およびサービスが不十分であることに、懸念を表明するものである。委員会はまた、モントセラトの火山危機以降、訓練を受けた特別教育教員が同島から移住したことにも、特段の懸念とともに留意する。
40.障害者の機会均等化に関する基準規則(国連総会決議48/96付属文書)および障害のある子どもの権利に関する一般的討議で委員会が採択した勧告(CRC/C/69, chap. IV.D)に照らし、委員会は、障害を予防するための早期発見プログラムを確立しおよび(または)増進させ、障害のある子どもの施設措置に代わる手段を実施し、障害のある子どもを対象とする特別教育プログラムを確立し、かつ障害のある子どもの社会へのインクルージョンを奨励するため、さらなる努力を行なうよう勧告する。委員会はさらに、障害のある子どもを対象とするプログラムの効果的実施のために十分な資源が配分されることを確保するため、あらゆる適当な措置をとるよう勧告するところである。障害のある子どもともにおよびこれらの子どものために働く専門家を対象とした、さらなる研修も勧告される。委員会は、締約国が、モントセラトにおける特別教育教員の募集および訓練を促進するため、あらゆる適当な措置をとるよう勧告するところである。
十分な生活水準に対する権利
41.委員会は、ほとんどの海外領土が相対的に高い生活水準を享受していることを承知しながらも、島の3分の2を破壊した火山の噴火以降、モントセラトの生活水準が相当に下降していることを懸念する。子どものいるすべての家族がシェルターから出て住居を提供されたことには評価の意とともに留意されるものの、委員会は、同災害が子どもに与えた心理的影響を懸念するものである。委員会は、2つの初等学校および1つの病院が新設されたことに留意しながらも、火山の噴火以降、子どものためのプログラムおよびサービスがなお全面的に回復されていないことを懸念する。加えて、委員会は、アンギラ、セントヘレナおよび同属領ならびにタークス・カイコス諸島に住む子どもが、他の海外領土に住む子どもと比べて平等かつ十分な生活水準を享受していないことを懸念するものである。
42.条約第27条に照らし、委員会は、締約国に対し、経済的に不利な立場に置かれた家族に物質的援助および支援を提供し、かつ十分な生活水準に対する子ども(とくにモントセラトで災害の影響を受けた子どもならびにアンギラ、セントヘレナおよび同属領ならびにタークス・カイコス諸島に住む子ども)の権利を保障するための努力を増進させるよう、奨励する。委員会は、締約国に対し、子どもおよび親に対して十分な支援および必要な場合にはカウンセリングを確保する目的で、災害がモントセラトの子どもに及ぼした影響(心理的影響も含む)を評価するための研究を実施するよう奨励するところである。

6.教育、余暇および文化的活動

43.教育分野で締約国が行なっている努力は認めながらも、委員会は、一部の海外領土、とくにタークス・カイコス諸島およびモントセラトで退学件数が増加していることおよび学校中退数が多いことを依然として懸念する。教育へのアクセスに関して、委員会は、フォークランド諸島の巡回教員サービスに中等学校が含まれていないこと、および、キャンプ町の子どもはスタンリーの中等学校に通わなければならないこと(子どもは政府が運営するホステルで生活し、その費用は親が払わなければならない)に、懸念とともに留意するものである。委員会はまた、フォークランド諸島およびカリブ海の領土を含む一部の海外領土で男子の学業成績が低いことにも、懸念とともに留意する。連合王国の新たな国籍政策によって海外領土の国民には完全な市民権が認められるようになったものの、これらの海外領土の生徒が連合王国で学業を継続したいと希望する場合は依然として連合王国の生徒よりも高い学費を払っていることに対しても、懸念が表明されるところである。
44.委員会は、怠学を防止しおよび抑止し、さらに子ども(とくに男子)に対してとくに義務教育期間中は学校に留まるよう奨励するため、あらゆる適当な措置をとるよう勧告する。委員会は、締約国に対し、とくにカリブ海の領土およびフォークランド諸島で男子の学業成績が低いことについて、問題の規模および性質を理解しかつ男子の学業成績を高めるための研究を実施するよう促すものである。フォークランド諸島は、支払い能力がないことによりキャンプ町の子どもが教育への十分かつ平等なアクセスを制限されまたは否定されないことを確保するため、あらゆる適当な措置をとるよう勧告される。委員会は、締約国に対し、連合王国で学業を継続したいと希望する海外領土の国民が学費の支払いに関して差別されないことを確保するため、高等教育政策を見直すよう勧告するものである。

7.特別な保護措置

難民および国内避難民である子ども
45.委員会は、1997年の火山の噴火以来、避難を余儀なくされているモントセラトの家族の状況を懸念する。モントセラトにおける、国内避難民の家族のためのプログラムおよびサービス(十分な住居、教育および保健サービスへのアクセスを含む)の再建速度が相対的に遅いことに対しても、懸念が表明されるところである。加えて、近隣の国々および海外領土に避難するためモントセラトを離れた家族および連合王国に定住した家族の状況に関する情報が存在しないことについても、懸念が表明される。
46.委員会は、締約国が、国内避難民の家族の状況(十分な住居、教育および保健サービスへのアクセスを含む)を改善するためにあらゆる適当な措置をとるよう勧告する。委員会は、締約国が、次回定期報告書において、近隣の国々および海外領土に避難するためモントセラトを離れた家族の状況およびこのような家族の移行を促進するために行なわれた(二国間または地域レベルの)取決めに関する情報を提出するよう、勧告するところである。これとの関係で、委員会はさらに、締約国が、災害の結果連合王国に定住したモントセラト出身の家族の状況に関する情報も提供するよう勧告する。
地雷
47.締約国が、フォークランド諸島の残存地雷除去の実現可能性および費用を評価すると約束していることには留意しながらも、委員会は、1982年の紛争終結以降、地雷の埋設場所を特定しかつそれを除去するための努力が行なわれてこなかったことを懸念する。
48.委員会は、締約国が、フォークランド諸島の地雷の埋設場所を特定しおよびそれを除去し、潜在的危険に関する意識を促進し、ならびに子どもおよび地雷に関連する事故を防止するため、あらゆる適当な措置をとるよう勧告する。委員会は、締約国に対し、対人地雷の使用、貯蔵、生産および移譲の禁止ならびに廃棄に関する条約(1997年)の適用を海外領土、とくにフォークランド諸島に拡大することを検討するよう奨励するところである。
児童労働
49.経済的により不利な立場に置かれている一部の海外領土の社会経済的状況およびとくに男子の退学率の高さに照らし、委員会は、海外領土における児童労働および子どもの経済的搾取の状況に関する情報および十分なデータが欠けていることを懸念する。
50.委員会は、締約国が、児童労働に関わる海外領土の状況を評価するために包括的研究を行なうよう勧告する。加えて、締約国は、適切な場合には、これらの海外領土において労働法の執行を確保し、かつとくにインフォーマル部門における経済的搾取から子どもを保護するための監視機構を導入しおよび(または)強化するよう、奨励されるところである。委員会はまた、締約国が、最悪の形態の児童労働に関するILO第182号条約の適用を海外領土に拡大することを検討するようにも提案する。委員会はさらに、締約国が、就業の最低年齢に関するILO第138号条約の適用を海外領土に拡大することを検討するよう提案するものである。
薬物および有害物質の濫用
51.委員会は、薬物需要削減および麻薬統制に関して締約国が国レベルでも地域レベルでも行なっている努力に留意する。しかしながら委員会は、とくにバミューダおよびカリブ海の海外領土の若者の間で、薬物および有害物質の濫用が数多く発生していることを懸念するものである。薬物および有害物質の濫用の被害を受けた子どもが利用可能な医療およびリハビリテーションのプログラムおよびサービスが不十分であることに対しても、懸念が表明される。
52.条約第33条に照らし、委員会は、締約国が、行政上、社会上および教育上の手段も用いながら、麻薬および向精神薬の不法な使用から子どもを保護し、かつこれらの物質の不法な製造および取引における子どもの使用を防止するための努力を増進させるよう勧告する。委員会は、締約国に対し、薬物および有害物質の濫用の被害を受けた子どもを対象とするリハビリテーション・プログラムを強化するための努力を継続するよう奨励するものである。
性的搾取および性的虐待
53.委員会は、買春およびポルノを含む子どもの商業的性的搾取の状況に関する情報が存在しないことに、懸念とともに留意する。委員会はまた、とくに、懸念すべき理由があると思われるバミューダおよびカリブ海の一部の領土において、性的虐待および搾取の被害を受けた子どもの身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のためのプログラムが存在しないことにも留意するものである。
54.条約第34条その他の関連条項に照らし、委員会は、締約国が、問題の規模を理解しかつ適当な政策および措置(被害者の身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のためのものを含む)を実施するために、研究を実施するよう勧告する。委員会は、締約国が、第1回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議(ストックホルム、1996年)で採択された行動綱領に掲げられた勧告を考慮に入れるよう、勧告するものである。
少年司法
55.委員会は、少年司法に関する法律がすべての海外領土で制定されていることに留意する。司法上の体罰がほとんどの海外領土で法的に廃止されたことは評価しながらも、委員会は、英領ヴァージン諸島でこれを廃止するための法案がまだ通過していないことを懸念するものである。委員会はまた、以下の点に関して懸念を表明する。
  • (a) 少年事件の審理が開かれるまでの期間が長いこと、少年が関わる事案の秘密が保持されないこと、未成年者が成人の拘禁施設に収容されていること、法律に触れた子ども(女子を含む)のための施設が不適切であること、この点に関わって子どもとともに活動している、訓練を受けた職員の人数が不十分であること、および、法律扶助プログラムが存在しないこと。
  • (b) 教育、保健、カウンセリング、および更生のためのその他のサービスへのアクセスが不十分であり、かつ、権利を侵害された子どものための苦情申立て機構が存在しないこと。
56.委員会は、海外領土に関して締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 条約、とくに第37条、第40条および第39条、ならびに、少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止のための国連指針(リャド・ガイドライン)および自由を奪われた少年の保護に関する国連規則のようなこの分野における他の国連基準の精神に照らして少年司法制度を改革するため、追加的措置をとること。
  • (b) 自由の剥奪は最後の手段としてのみ、可能なかぎり短い期間で、かつ重大な犯罪についてのみ考慮し、自由を奪われた子どもの権利(プライバシーに対する権利を含む)を保護し、少年司法制度の対象とされている間も、子どもがその家族との接触を維持することを確保し、子どもに対して教育、保健、カウンセリング、および更生のためのその他のサービスへの十分なアクセスが提供されることを確保し、かつ、権利を侵害された子どものための苦情申立て機構を導入すること。
  • (c) 少年司法制度に関与するすべての専門家を対象とした、関連の国際基準に関する研修プログラムを導入すること。
57.委員会はさらに、英領ヴァージン諸島が、同島における司法上の体罰の使用を廃止するために立法評議会に提出された法案を通過させるための努力を強化するよう、勧告する。

8.選択議定書の批准

58.委員会は、締約国が、武力紛争への子どもの関与ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の2つの選択議定書を批准し、かつ海外領土にも適用することを検討するよう勧告する。

9.報告手続から生まれた文書の普及

44.委員会は、条約第44条6項に照らし、締約国が提出した第1回報告書および文書回答を広く公衆一般が入手できるようにするとともに、委員会が採択した総括所見および関連の議事要録とともに報告書を刊行することを検討するよう勧告する。このような文書は、政府および一般公衆(NGOを含む)の間で条約ならびにその実施および監視に関する議論および意識を喚起するため、広く配布されるべきである。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年8月24日)。
最終更新:2011年08月24日 16:12