総括所見:英領香港(1996年)


CRC/C/15/Add.63(1996年10月30日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1996年10月2日および3日に開かれた第329~331回会合(CRC/C/SR.329-331参照)においてグレートブリテン・北アイルランド連合王国直轄地域(香港)の第1回報告書(CRC/C/11/Add.9) を検討し、1996年10月11日に開かれた第343回会合において以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、締約国が、その報告書および委員会の質問票に対する文書回答の双方を期限通りに提出したことに対し、謝意を表する。委員会は、冒頭発言において代表団が情報提供を行なったこと、および委員会における対話が協力の精神に裏打ちされていたことを歓迎する。
3.委員会は、香港地域が、1997年7月1日に中華人民共和国に返還される際に主権の変更が行なわれることをめぐって、特別な状況に直面していることに留意する。委員会はまた、報告の準備を始めとする香港に対する条約の継続的適用に関わる問題が、合同連絡グループを通じて英国政府と中国政府との議論の対象になっていることにも留意する。

B.積極的側面

4.1993年に親子条例が制定され、かつて非嫡出子に適用された法的不利益が取り除かれたことが留意される。委員会はまた、障害をもつ者の地域への統合を目的とした障害差別条例が採択されたことも歓迎する。
5.委員会は、保護者が家庭で子どもを付添いなしの状態に置いておくことの危険に取り組むため、政府がさまざまな措置をとっていることを歓迎する。
6.社会福祉庁が、とくに子どもの虐待に関する通報を受けることを目的としたホットラインをどのように運営しているかに関する情報は、評価の意とともに留意される。委員会はまた、思春期の子どもたちに共通の健康問題に関する意識を促進するためにとられた措置、およびこの問題に関する電話に対応するために保健庁中央保健教育部にホットライン・サービスが設置されたことにも留意する。思春期の子どもたちに共通の健康問題に関する訓練事業において、中等学校の生徒がヘルス・アンバサダー(健康大使)に任命されていることも、大いなる関心とともに留意されるところである。同じように、学校に通う6~18歳の子どもの健康上のニーズに対応するための事業である「生徒保健サービス」が新たに開始されたことは、温かく歓迎される。健康の促進および疾病の予防のための努力を前進させることを目的として、「保健促進基金」が設立されたことについても同様である。
7.委員会は、病院をより赤ちゃんおよび子どもに優しいものにするために行なわれた取組みに、評価の意とともに留意する。このような取組みには、病院の小児科病棟の施設の改善のためにとられた措置、および小児科病棟の子どもたちには遊び場を、子どもが入院している親には子どもとともに過ごすための場を提供するためにとられた措置が含まれる。委員会はまた、とくに条約第26条および27条の実施に際して利用可能な給付との関わりで、「包括的社会保障扶助計画」に向上が見られたことも歓迎する。
8.委員会は、大学によって現在進められ、かつ政府が資金を出している、子どもの権利に関する5つの調査プロジェクトに関して代表団から提供された情報を歓迎する。
9.委員会は、香港警察に対する苦情申立てを検討するための独立機関を設置するよう奨励する。

C.主要な懸念事項

10.1994年9月に条約の適用範囲が香港にも拡大された際、英国政府は条約に対し、香港地域に適用されるさらなる留保を付した。締約国が留保の撤回をなお決定していないことは、とくにそれが子どもの労働時間、少年司法および難民の問題に関わっているだけに、委員会の遺憾とするところである。
11.委員会は、人権法の採択を歓迎するものの、同法が定着していないことに留意する。委員会は、その条文が子どもにも適用される2つの主要な人権規約を承認する規定が同法に含まれていることは認知しながらも、同法において子どもの権利に関する条約への具体的言及がないことを、遺憾に思うものである。この点に照らし、かつ、政府が機会均等法を採択しかつ機会均等委員会を設置するために積極的な措置をとったことを踏まえ、ジェンダーの平等に関して追求されたのと同様の戦略が子どもの権利に関してとられていないことは、委員会の遺憾とするところである。政府が、条約の原則および規定に照らして定期的に立法および政策を再検討する姿勢を見せていることを踏まえ、委員会は、その再検討の過程で、子どもの権利に関する独立の監視機関を設置する可能性、および子どもの権利に関する立法の採択に当たって系統だったかつホリスティックなアプローチを追求する可能性に対して充分な優先順位が与えられていないように思えることを、懸念する。
12.条約の規定を実施するための政策および事業を遂行することを目的としたさまざまな機構の設置に関して積極的な措置がとられたことには留意しながらも、委員会は、子どもの権利に優先順位が与えられることを確保するための、関連の政府機関の間の調整活動が充分かどうか、依然として懸念する。
13.委員会は、条約の一般原則、とくに第3条および第12条で掲げられた原則の全面的な実施を確保するために充分な措置がとられていないことを、懸念する。このことは、とりわけ、子どもの権利を促進しかつ保護するための政策的措置の選択、立案および適用に関して当てはまる。この点で、政策の立案および意思決定の過程に、子どもに与える影響の分析を組み入れるシステムがいまだに整えられていないことが、留意される。また、委員会の見解では、子どもが家族、学校および社会において果たすべき役割についての見方に関わってある種の態度がいまだに残っていることにより、香港における条約第12条および第13条の規定の実施が速やかに受け入れられない可能性がある。
14.中国からの不法移民の子どもの状況、およびその状況のために、香港と中国とで家族が引き裂かれている問題に関して生ずる諸問題に関して、委員会は、このような子どもおよび家族のための滞在許可件数の引上げ幅(105件から150件)は、現在中国に6万人いると推定されている、1997年7月1日以降香港に居住する権利を有する可能性がある子どものニーズを満たすには明らかに不充分であることを懸念する。
15.子どもの虐待、放任および子どもに影響を与える事故の多発の問題に取り組むための措置がとられたにも関わらず、これらの問題はなお懸念を生ぜしめる余地を残している。同じように、青年の自殺の問題も含めた思春期の子どもたちの精神的健康の問題は、委員会の深刻な懸念の対象である。
16.委員会は、母乳育児を奨励するための措置が不充分なように思えることを、懸念する。委員会は、赤ちゃん向けの粉ミルクが、この件に関する国際的指針に逆行して病院で無料配布され続けていることに留意する。同じように、とりわけ育児休暇および子育て中の母親の雇用条件に関する法規定がどの程度条約の原則および規定と両立しているかは、隠然として委員会の懸念の対象である。
17.委員会は、とくに学校カリキュラムの中で人権教育に必要な地位を与えることとの関わりで、条約第29条の実施に対して充分な注意が払われてきていないように思えるとの見解をとるものである。
18.香港の収容センターにおけるベトナム人の子どもの取扱いに関わる幅広い問題は、委員会が深く懸念するところである。委員会の見解では、このような子どもたちは過去も現在も、同地域への難民のさらなる流入を抑えようとする政策の犠牲になっている。状況が複雑であることは論を待たないが、このような子どもたちの収容を続ける政策は条約と両立しない。
19.加えて、委員会は、刑事責任年齢が低いことは条約の原則および規定と両立しないという見解をとるものであり、かつ、刑事責任年齢を引き上げないという決定が行なわれたことを遺憾に思うものである。

D.提案および勧告

20. 条約の原則および規定を実施するためには、とくに「子どもの最善の利益」の原則、および、政府が国際的な場において、世界人権会議で採択された最終文書も含めて「子ども最優先の原則」に同意してきた事実に照らして、子どもの問題に優先順位を与えることが必要である。したがって、政策の選択肢および提案を立案するに当たっては、同時にそれが子どもに与える影響を評価することにより、意思決定担当者が、政策立案に当たって子どもの権利への影響をよりよく承知できるようにするよう、勧告する。また、委員会が勧告する、子どもの権利の実施に対するホリスティックかつ包括的なアプローチが国内法において反映され、かつ正当に考慮に入れられるようにするための措置をとることも、提案されるところである。委員会は、子どもの権利に関わる政府の政策の実施を監視することを具体的な目的とした、独立機構の設置を勧告する。独立機構は、子どもの権利のために行なわれた活動を公衆および立法機関に知らせる上でも重要な役割を果たしうることが、留意される。委員会はまた、子どもの権利を、香港の主権の委譲に関わる問題についての議論で全面的に取り上げ、かつ、この件および関連の問題に関する合同連絡グループでの対話で高い優先順位を与えるよう勧告する。
21.委員会は、香港における子どものための包括的戦略の発展との関わりも含め、条約の監視および実施に市民社会および非政府組織をより緊密に関与させるための努力を奨励する。
22.子どもの権利を促進しかつ保護するための継続的努力、とくに条約第4条の実施に関わる努力の一環として、委員会は、子どもの権利に関する政策および事業の制度的調整を行なうための現行システムが効果的かどうかについて、とくに子ども虐待との関わりでさらなる評価を行なうよう勧告する。さらに、委員会は、年齢層による統計的データの収集および分析が条約第1条の規定に従って行なわれるようにするよう、提案したい。委員会はさらに、条約のすべての原則および規定の実施の進展を監視するための指標の発展および活用について、研究を実施しまたは奨励することを検討するよう、提案する。
23.香港の住民の間で人権および子どもの権利に関する意識を高めるための継続的努力との関わりで、委員会は、一般公衆に子どもの権利に関する条約について知らせ、かつ専門家の研修事業に人権および子どもの権利についての教育を盛りこむためにさらなる措置をとることを検討するよう、提案する。委員会は、将来の市民意識調査に、公衆が条約ならびにその原則および規定についてどの程度の意識および理解を持っているかに関する質問を盛りこむよう、奨励する。
24.委員会は、とくにジェンダーおよび民族的出身に基づく差別ならびに障害児および婚外子に対する差別に関して、差別の防止、差別との闘いおよび寛容の促進に対する意識を高めるためにとられた措置の効果を評価することをさらに検討するよう、提案したい。
25.条約第12条の実施に関して、委員会は、子どもが権利の主体であるという観点から、家庭、学校および社会における子どもの参加について、この問題についての勧告を立案する方向での研究を行なうよう奨励する。
26.委員会は、とくに香港と中国とで引き裂かれている家族に関して困難が生じていることとの関連で、中国からの不法移民の子どもの問題に取り組むため、さらなる措置をとる必要がある旨、勧告する。家族の再統合のための待機期間を短縮し、滞在許可定数を引き上げ、かつ将来生じるであろう問題に対処するための他の措置を検討するために、子どもの最善の利益に照らして緊急に行動を起こすべきだというのが委員会の見解である。
27. 委員会は、子ども虐待の問題に対処するために行なわれている重要な努力を、いま一度認知したい。にも関わらず、委員会は、このような子どもの権利侵害の防止のためには社会の態度がさらに変化する必要があるとの見解をとるものである。このような変化は、体罰ならびに身体的および心理的虐待を受け入れないことのみならず、子どもの固有の尊厳をより尊重することについても必要となる。
28.最近、児童虐待のケースに対応するためソーシャルワーカーの採用人数が増加しているにも関わらず、委員会は、専門家ひとり当たりの仕事の負担がいまなお高すぎる可能性があり、このような問題に取り組むためいっそうの措置をとるべきかどうか、さらに研究する価値があるとの見解をとるものである。委員会は、家庭で子どもを付添いなしの状態に置いておくことを防止するための措置としても、地域における保育センターの設置に高い優先順位を与え、その設置をさらに熱心に追求するための努力を行なうよう、奨励する。加えて、委員会は、家族計画教育事業を将来再検討する際に、子ども虐待の防止に関する同事業の効果が確実に評価されるようにするための取組みを行なうよう奨励する。
29. 障害児の状況の改善に関して、委員会は、学校の構造の改革への投資、および障害児のニーズに合わせて教員が授業方法を調整しかつ適応することを援助するための研修の支援を始めとして、障害児を普通学校に統合するための努力を行なうよう、奨励する。
30. 委員会は、母乳育児を促進しかつ奨励する政策を支えるためにとられている措置の効果を調査するよう、奨励する。病院で赤ちゃん向けの粉ミルクが無料配布されている問題、および条約で規定されている母乳育児奨励義務と雇用条件とが両立しているかどうかの問題を、そのような見直しにおいて欠かさないよう勧告されるところである。
31.委員会は、学校におけるプレッシャーと思春期の子どもの健康問題との関連の可能性を、報告に関する議論の中でこれらの問題に関して表明された懸念を踏まえて調査するよう提案する。委員会はまた、若者の自殺の理由および子どもの自殺を防止するための事業の効果もさらなる研究に値するのではないかとも提案する。
32.委員会は、子どもの権利に関する条約についての教育も含めた人権教育を、すべての学校のコア・カリキュラム課目として導入するよう勧告する。委員会は、そのためには学校の時間割においてこの課目に充分な時間を割り当てる必要があることに、留意する。委員会はまた、子どもに生活の手段を備えさせ、かつ子どもの意思決定および人権の視点に立った分析的思考能力を奨励する上でこのような取組みがどの程度効果的だったかを判断するため、人権に関する意識啓発および人権教育についての評価を将来行なうようにも提案したい。委員会はまた、条約第12条の精神を踏まえ、懲戒措置およびカリキュラムの発展に関する議論への参加も含めて、学校における子どもの参加により高い優先順位を与えるよう勧告したい。条約第31条がより全面的に実施されるようにするための方法および手段についても、さらなる研究の価値があるように思える。
33.収容されているベトナム人の子どもの状況に関して、委員会は、過去の誤ちが今後繰り返されないようにするため、この問題についての現在のおよび以前の政策の評価を行なうよう勧告する。委員会は、収容所に残っている子どもに対しては、条約の原則および規定に照らした解決策を見つけなければならない旨、勧告する。したがって、彼らの収容状況の著しい改善を確保するための措置が直ちにとられなければならず、かつこのような子どもたちを将来的に保護するための他の措置が実行に移されなければならないというのが、委員会の見解である。
34.委員会は、刑事責任年齢の問題に関わる立法を、条約の原則および規定に照らしてその年齢を引き上げる方向で、見直すよう勧告する。
35.委員会は、締約国報告書、委員会における議論の議事要録およびこの総括所見を一般に幅広く配布しかつ普及することを勧告する。
36.委員会は、政府が、この総括所見に掲げられた提案および勧告を実現するためにとった措置に関する進展報告書を、1997年6月末までに作成するよう勧告する。


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