総括所見:イギリス(第1回・1995年)


CRC/C/15/Add.34(1995年2月15日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1995年1月24日および25日に開かれた第204回、第205回および第206回会合(CRC/C/SR.204-206) において大ブリテンおよび北アイルランド連合王国の第1回報告書(CRC/C/11/Add.11)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1995年1月26日に開かれた第208回会合において。

A.序

2.委員会は、締約国との建設的な対話に携わる機会が得られたことを評価し、かつ、委員会の事前質問票(CRC/C.7/WP.1参照)に対する政府による文書回答が時宜を得て提出されたことを歓迎する。委員会は、締約国の代表団によって口頭で提供された追加的情報が、委員会が提起した問題の多くを理解しやすくさせる上で大いに助けになったことを、歓迎するものである。口頭による追加的情報は、締約国の第1回報告書が、条約で定められたさまざまな権利の実施を阻害する要因および困難に関する充分な情報を欠いていたという委員会の所見に照らして、とくに有益であった。

B.積極的な側面

3.委員会は、締約国がイングランドおよびウェールズに適用される子ども法を採択したことに留意する。委員会はまた、締約国が条約の適用を多くの属領に拡大したことにも注意を払うものである。委員会は、スコットランドにおける子ども聴聞を規制する手続に関わる条約第37条への留保の撤回を検討する意思が締約国にあることを、歓迎する。
4.さらに、委員会は、乳児突然死症候群を削減するため、および学校におけるいじめの問題と闘うために締約国が行なった取組みを歓迎する。加えて、委員会は、子どもの性的虐待の問題に取り組むためにとられた措置にも意を強くするものである。このような措置には、この深刻な問題に取り組む際の学際的アプローチを唱道しかつ促進する「共同作業」イニシアチブの発展によるものも含まれる。
5.委員会は、子どもの雇用の領域における立法を見直すこと、および、家族、家族間暴力および障害に関わる問題について新法を提出することに対する政府の決意に関して委員会が受け取った情報を歓迎する。同様に、委員会は、国際養子縁組における子どもの保護および協力に関する1993年のハーグ条約を批准するという政府の意思も含めて、養子縁組の領域でさらなる立法を通過させるためにとられた措置を歓迎するものである。委員会は、制定法としての効力を有し、かつ1993年教育法の枠組みにおいて発展させられてきた、特別な教育的ニーズを持った子どものための実践要綱に留意する。
6.委員会は、就学前教育の提供を充実させることに対する政府の決意に留意する。委員会は、同様に、保健に関わる公的機関および非政府組織との協力のもとに子どもサービス計画を制定するよう地方の公的機関に義務づけるという、締約国による最近の取組みを評価するものである。

C.主要な懸念事項

7.委員会は、締約国が条約に対して行なった留保が幅広い性質のものであることを懸念する。このことは、条約の趣旨および目的との両立性に関して疑念を生ぜしめるものである。とくに、国籍出入国法の適用に関わる留保は、第2条、第3条、第9条および第10条も含む条約の原則および規定と両立しないように思える。
8.委員会は、子どもの権利に関する条約の実施に関して効果的な調整機構がどの程度存在するかについて、依然として不明瞭さを感ずる。委員会は、子どもの権利の実施を調整しかつ監視するための機構を、第三者的なものも含めて設置することについて充分な検討が行なわれたかどうか懸念するものである。
9.条約第4条に関して、委員会は、経済的、社会的および文化的権利の実施を、利用可能な資源を最大限に用いて確保するためにとられた措置が充分かどうかについて、懸念する。委員会には、締約国においても、および国際開発援助の流れにおいても、社会部門に充分な支出が配分されていないように思える。委員会は、社会で最も傷つきやすい立場に置かれたグループに属する子どもが基本的権利を享受できるようにすることについて充分な検討が行なわれたかどうか疑問に思うものである。
10.委員会は、北アイルランドに暮らしている子どもが経験している困難、および当地における緊急立法の運用が子どもに与える影響について、締約国の第1回報告書にほとんど情報が記載されていないことに留意する。委員会は、緊急立法下における子どもの不当な取扱いを防止するための効果的保護措置が存在しないことを懸念するものである。これとの関係で、委員会は、同じ立法のもとで、10歳という幼い子どもを告訴なしで7日間拘束することが可能であることに注意を払う。また、路上の人を制止し、尋問しかつ捜索する権限が緊急立法によって警察および軍隊に与えられていることが、子どもがひどい扱いを受けているという苦情につながってきたことも、留意されるところである。委員会は、この状況が、そのような苦情に関する捜査および行動のシステムへの信頼を失わせることにつながるのではないかと、懸念する。
11.委員会は、条約の一般原則、すなわち第2条、第3条、第6条および第12条の規定の実施を確保するためにとられた措置が不充分なように思えることを、懸念する。これとの関係で、委員会は、子どもの権利の尊重に影響する保健、教育および社会保障のような領域における立法に、子どもの最善の利益の原則が反映されていないように思えることに、とくに注意を払うものである。
12.差別の禁止に関わる条約第2条に関して、委員会は、その実施を確保するためにとられた措置が不充分であることに懸念を表明する。とくに、委員会は、子どもに対する市民権の承継に関して、条約第7条および第8条に矛盾する形で非婚の父親に適用される制約が、子どもに悪影響を与える可能性があることを懸念するものである。加えて、委員会は、一部の民族的マイノリティの子どもが、よりケア措置の対象になりやすいように思えることを、懸念する。
13.さらに、条約第6条に照らし、委員会は、さまざまな社会経済的グループの子どもおよび民族的マイノリティに属する子どもの健康状態に懸念を表明する。
14.条約第12条の実施に関して、委員会は、イングランドおよびウェールズの親が子どもを学校の性教育プログラムの一部に出席させないことができる場合も含めて、意見を表明する子どもの権利に充分な注意が向けられていないことを懸念する。このような決定、および子どもの退学を含む他の決定において、子どもは、条約第12条に基づいて求められているように、意見を述べるよう制度的に促されず、かつ、その意見も正当に考慮されない可能性がある。
15.委員会は、貧困下で暮らす子どもの数が増えていることに、懸念とともに留意する。委員会は、子どもが路上で物乞いをしかつ眠るという現象がより目立つようになっていることを認識するものである。委員会は、若者の手当の受領資格に関する規則の変更が、若いホームレスの数の増加の原因になったのではないかと懸念する。締約国における離婚率の高さおよびひとり親家庭および10代の妊娠の数の多さは、懸念とともに留意されるところである。これらの現象は、手当の支給額の充分さおよび家族教育の利用可能性および効果に関するものを含めて、多くの問題を提起するものである。
16.委員会は、子どもの身体的および性的虐待について委員会が受け取った報告に心を痛める。これとの関係で、委員会は、家庭における合理的な懲罰に関する国内法の規定について不安を感ずるものである。このような法規定に合理的な懲罰という曖昧な表現が掲げられていることは、それが主観的かつ恣意的な形で解釈されることに道を開く可能性がある。したがって、委員会は、子どもの身体的不可侵性に関わる法的およびその他の措置が、第3条、第19条および第37条も含めた条約の規定および原則と両立しないように思えることを懸念するものである。委員会は、同様に、私的な財源により運営されている学校は、そこに通う子どもに体罰を行なうことがいまだに認められていることを懸念する。このことは、条約第28条2項も含めた条約の規定と両立しないように思える。
17.締約国における少年司法制度の運営は、委員会にとって一般的懸念の対象である。刑事責任年齢の低さ、および少年司法の運営に関わる国内法は、条約の規定、とくに第37条および第40条と両立しないように思える。
18.委員会は、1994年刑事司法公共秩序法の規定の一部について依然として懸念する。委員会は、同胞の規定が、とくにイングランドおよびウェールズの12~14歳の子どもに「拘束訓練命令」を適用する可能性を定めていることに、留意するものである。委員会は、そのような拘束訓練命令を幼い子どもに適用することが、少年司法の運営に関わる条約の原則および規定、とくに第3条、第37条、第39条および第40条と両立するかどうかについて懸念する。とくに、委員会は、イングランドおよびウェールズの拘束訓練センターおよび北アイルランドの訓練学校の運営および設置に関する指針の理念が、拘禁および処罰に力点を置いているように思えることを、懸念するものである。
19.委員会は、同様に、社会福祉制度のもとでケア措置された子どもが北アイルランドの訓練学校に拘束される可能性があり、かつ、将来的にはイングランドおよびウェールズの訓練光速センターに措置される可能性があることを、懸念する。
20.委員会はまた、1988年刑事証拠(北アイルランド)令が条約第40条、とくに無罪の推定への権利および証言または有罪の自白を矯正されない権利と両立しないように思えることも、懸念する。北アイルランドにおいて、警察の尋問に対して沈黙を守ることが10歳以上の子どもの有罪認定の裏付けとして用いることができることが、留意されるところである。審判における沈黙も、同様に、14歳以上の子どもの不利益に用いることができる。
21.ジプシーおよびトラベラーの子どもの状況は、とくに基本的サービスへのアクセスおよびキャラバン基地の提供に関して、委員会にとって懸念の対象である。

D.提案および勧告

22.委員会は、とくにこの点に関して世界人権会議で達成されかつウィーン宣言および行動計画に盛りこまれた合意に照らして、締約国に対し、条約に対する留保を撤回の方向で見直すことを検討するよう奨励したい。
23.委員会は、締約国が、政府省庁間および中央および地方の政府系公的機関の間の調整も含め、条約の実施を調整する目的で国内機構を確立することを検討するよう提案したい。さらに、委員会は、締約国が、英国全体で子ども法および子どもの権利に関する条約の監視を行なう恒久的機構を確立するよう提案するものである。さらに、非政府組織、とくに締約国において子どもの権利の尊重の監視に携わっている非政府組織と政府との定期的かつより緊密な協力を促進するための手段を確立することが、提案されるところである。
24.条約第4条の実施に関して、委員会は、条約の一般原則、とくに子どもの最善の利益に関わる第3条の規定を、中央政府および地方政府の各段階における政策決定の指針とするよう提案したい。このようなアプローチは、義務教育を修了しかつフルタイムに就業していない子どもに対する手当の支給に関するものも含めて、中央政府および地方政府のレベルにおける社会部門への資源配分についての決定とも関わるものである。委員会は、社会的および経済的不平等の拡大および貧困の増加の問題を克服するために追加的努力を行なうことの重要性に留意する。
25.英国における子どもの健康、福祉および生活水準に関わる問題に関して、委員会は、さまざまな社会経済的グループの子どもおよび民族的マイノリティに属する子どもの健康状態に影響を与える問題、および、子どもおよびその家族に影響を与えるホームレスの問題に優先的に対応するための追加的措置を勧告する。
26.委員会は、条約第42条に従い、締約国が、条約の規定および原則を子どもにも大人にも同様に広く知らせるための措置をとるよう勧告する。教員、警察、裁判官、ソーシャルワーカー、ヘルスワーカー、およびケア施設および拘禁施設の職員のような、子どもとともにまたは子どものために働く専門家の養成カリキュラムに子どもの権利に関する教育を盛りこむことも、提案されるところである。
27.委員会は、条約の一般原則、とくに子どもの最善の利益に関わる第3条および意見を周知させかつその意見を正当に考慮される権利に関わる第12条の規定を、子どもの権利を実施するために行なわれる立法上のおよび行政上の措置および政策において盛りこむことに対し、さらなる優先順位を与えるよう提案したい。締約国が、家庭および地域におけるものも含む自己に影響を与える決定への子どもの参加を促進するため、さらなる機構を確立する可能性を検討することが提案されるところである。
28.委員会は、北アイルランドにおいて緊急に人種関係立法を導入することを勧告し、かつ、この問題に関するフォローアップを行なう政府の意思について締約国の代表団から提出された情報に意を強くする。
29.委員会はまた、条約の原則および規定との一致を確保するため、国籍および出入国に関する法律および手続の見直しを行なうようにも提案したい。
30.委員会は、家族教育の提供によるものも含めて、子どもに対する責任について親を教育するためにさらなる措置をとるよう勧告する。家族教育は、両親の責任が平等であることを強調すべきである。政府が10代の妊娠の問題を深刻なものとしてとらえていることは認めながらも、委員会は、10代の妊娠を減らすために、防止中心のプログラムの形をとった追加的努力が必要とされていることを提案する。防止中心のプログラムは教育キャンペーンの一環として行なうことも可能である。
31.委員会はまた、社会における暴力の問題を克服するためにも追加的努力が必要とされているという見解に立つものである。委員会は、条約第3条および第19条に掲げられた規定に照らし、家庭における子どもの体罰を禁止するよう勧告する。とくに第19条、第28条、第29条および第37条で条約が認めている身体的不可侵性への子どもの権利との関係で、かつ子どもの最善の利益に照らして、委員会は、締約国が追加的教育キャンペーンを行なう可能性を検討するよう提案するものである。そのような措置は、家庭における体罰の使用に関する社会の態度を変え、かつ、子どもの体罰の法的禁止の受容を促進する上で役に立つはずである。
32.教育に関わる問題に関して、委員会は、退学に対して異議申立てをする子どもの権利を効果的に確保するよう提案する。自己に関わる学校運営上の問題に関して意見を表明する機会を子どもたちに提供することを確保するための手続の導入も、提案されるところである。さらに、委員会は、教員の養成カリキュラムに子どもの権利に関する条約についての教育を盛りこむよう勧告する。条約の一般原則および第29条の規定に照らし、教授法が条約の精神および哲学に影響を受け、かつそれを反映するよう勧告されるところである。委員会はまた、締約国が、子どもの権利に関する条約についての教育を学校カリキュラムに導入する可能性を検討するようにも提案したい。民間の財源によって運営されている学校における体罰の使用を禁ずるため、立法措置が勧告されるところである。
33.委員会はまた、締約国が、北アイルランドの学校におけるアイルランド語による教育、および統合学校教育に対してさらなる支援を行なうようにも提案する。
34.委員会は、現在北アイルランドにおいて運用されている、少年司法の運営制度に関わるものも含めた緊急立法およびその他の立法を、条約の原則および規定との一致を確保するために見直すよう勧告する。
35.委員会は、少年司法の運営制度が子ども中心のものになることを確保するため、法改正を継続するよう勧告する。委員会はまた、少年非行を防止するために、締約国が、条約に掲げられかつリャド・ガイドラインによって補完された必要な措置をとることも勧告したい。
36.さらに具体的には、委員会は、英国全域で刑事責任年齢を引き上げることを真剣に考慮するよう勧告する。委員会はまた、子どもの権利に関する条約の全面的尊重を確保する目的で、新たな1994年刑事司法公共秩序法の注意深い監視を導入するようにも勧告するものである。とりわけ、とくに12歳~14歳の子どもへの拘束訓練命令、不定期の身柄拘束、および15歳~17歳の子どもに対して科すことが可能な刑の倍増を認めた同法の規定は、条約の原則および規定との両立性との関わりで見直されるべきである。
37.子どもの雇用に関わる問題について検討されている法改正の流れにおいて、委員会は、締約国がその留保を撤回の方向で見直すことを検討するよう、希望を表明する。同様に、委員会は、政府がILO第138号条約の締約国となる可能性を検討してもよいのではないかと希望を表明するものである。
38.子どもに影響を与える性的搾取および薬物濫用の問題も、さらなる防止措置をとることとの関連も含めて、緊急に対応されるべきである。
39.委員会は、条約第39条の規定の実施に対してより注意を向ける価値があるという見解に立つものである。とくに放任、性的搾取、虐待、家庭内紛争、暴力、薬物濫用の犠牲となった子どもおよび少年司法制度における子どもの身体的および心理的回復および社会的再統合を促進するための措置がとられることを確保するため、プログラムおよび戦略が発展させられるべきである。そのような措置は、国内的文脈にあってはもちろん、国際協力の枠組みにおいても適用されるべきである。
40.加えて、委員会は、教育への権利も含めてジプシーおよびトラベラーのコミュニティに属する子どもの権利のための積極的措置をとること、および、これらのコミュニティのために適当な形で指定したキャラバン基地を充分な数だけ確保することを、勧告する。
41.委員会はまた、香港属領における条約の実施に関する情報を1996年までに委員会に提出するようにも勧告する。
42.委員会は、締約国に対し、締約国報告書、委員会における同報告書の議論の議事要録、および同報告書の検討後に委員会が採択した総括所見を広く普及するよう奨励する。委員会は、これらの文書に対し議会の注意を促すこと、および、そこに掲げられた行動のための提案および勧告のフォローアップを行なうことを提案したい。これとの関連で、委員会は、非政府組織とのより緊密な協力を継続するよう提案するものである。


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最終更新:2011年08月22日 09:32