総括所見:アメリカ(OPSC・2008年)


CRC/C/OPSC/USA/CO/1(2008年6月25日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2008年5月22日に開かれた第1320回会合(CRC/C/SR.1320)においてアメリカ合衆国の第1回報告書(CRC/C/OPSC/USA/1)を検討し、2008年6月6日に開かれた第1342回会合において以下の総括所見を採択した。

2.委員会は、選択議定書を実施するためにとられた立法上、行政上、司法上その他の措置に関する相当の情報を与えてくれる、締約国の第1回報告書(ただし委員会の報告ガイドラインにしたがって書かれてはいなかった)および事前質問事項に対する文書回答の提出を歓迎する。委員会はまた、ハイレベルな部門横断型代表団との開かれたかつ建設的な対話も歓迎するものである。
3. 委員会は、締約国に対し、この総括所見は、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書に基づく第1回報告書に関して同日に採択された総括所見(CRC/C/OPAC/USA/CO/1)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

I.全般

積極的側面
4.委員会は、人身取引を監視しかつこれと闘う目的で行なわれている広範な国際援助活動(人身取引(TIP)局が行なう技術協力、研修、意識啓発および被害者援助も含む)を歓迎する。
5.委員会は、司法省犯罪局、連邦捜査局および「行方不明の子どもと搾取された子どものための全国センター」の提携によって国内の児童買春と闘うために行なわれている「イノセンス・ロスト(失われた無垢)」イニシアチブを歓迎する。
6.委員会はさらに、以下のものを含む無数の法律が成立したことを歓迎する。これは、子どもの商業的性的搾取との闘いにおける締約国のコミットメントを実証するものである。
  • (a) 児童買春について責任を負う者を訴追するための州のプログラムを強化し、かつ合衆国および他の国々の人身取引被害者に対する援助を増進させた、人身取引被害者保護法(2000年)ならびに2003年および2005年の同再授権法。
  • (b) 国外で子どもに対する性犯罪を行なった締約国市民を訴追する域外裁判権を拡大したPROTECT〔今日の子どもの搾取を終わらせるための訴追的救済措置その他の手段〕法(2003年)。
  • (c) 子どもを対象とする性犯罪者の処罰をより厳しくし、かつ子どもに対する犯罪の公訴時効を撤廃した、アダム・ウォルシュ子どもの保護および安全法(2006年成立)。
7.委員会はまた、締約国が以下の文書を批准したことも歓迎する。

II.データ

データ収集
8.委員会は、子どもの商業的性的搾取に関するデータの収集および研究の実施に関する締約国のコミットメントおよび努力に留意しながらも、選択議定書が対象とする問題に関する機能的なデータ収集システムが存在しないことを主たる理由として、締約国における子どもの売買、児童買春および児童ポルノについての利用可能な情報が不十分であることを懸念する。さらに委員会は、人身取引の定義が、国際連合組織犯罪条約を補足するパレルモ人身取引議定書に掲げられた定義を広く解釈する人身取引被害者保護法(2000年)に基づいていることに留意する。これとの関連で、委員会は、子どもに対する広範な犯罪活動を相互に差異化することなく人身取引と定義することで、選択議定書が対象とする活動についての細分化されたデータおよび分析的情報を収集すること、ならびに、被害者を特定し、かつ国内的および国際的レベルでこれらの犯罪を防止しおよびこれと闘うための適切な戦略を特定することに困難が生ずる可能性があることを、懸念するものである。
9.委員会は、締約国が、選択議定書が対象とするあらゆる問題についてのデータを収集し、分析しおよび監視するための、包括的かつ体系的機構を発展させかつ実施することを検討するよう、勧告する。データは、とくに犯罪の性質ならびに〔被害者の〕年齢、性別、民族、社会経済的地位および所在ごとに細分化されるべきである。データ収集および研究の対象範囲には、合衆国本土および島嶼領域ならびに合衆国が主権を行使しているその他の海外自治領のすべてを含めることが求められる。委員会はまた、締約国が、選択議定書が対象とするすべての分野におけるプログラムおよび活動の策定に際し、選択議定書で用いられている定義または締約国が締結した他の国際基準に掲げられた定義を使用することを検討するようにも、勧告するものである。

III.実施に関する一般的措置

国家的行動計画
10.委員会は、人身取引、とくに国境を越える人身取引と闘うためにいくつかの計画およびプログラムが採択されかつ実施されてきたとはいえ、選択議定書の実施ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノの根絶のための全般的戦略が存在しないことに留意する。
11.委員会は、締約国が、選択議定書が対象とするすべての問題に包括的に対処するための国家的行動計画を策定し、かつその実施のために十分な人的資源および財源を提供するよう勧告する。
選択議定書の実施の調整
12.委員会は、司法省、国務省および保健社会福祉省など、選択議定書の実施を担当するいくつかの政府省庁があることには留意しながらも、これらの省庁間ならびに連邦、州および地方の公的機関間の調整水準が不十分であることを懸念する。委員会はまた、政府機関と、選択議定書が対象とする分野で活動している非政府組織との調整がしばしば不十分であることにも、懸念とともに留意するものである。
13.委員会は、締約国が、連邦および州のいずれのレベルにおいても、選択議定書が対象とする分野で活動するさまざまな機関および政府省庁間の調整を強化するよう勧告する。締約国はまた、選択議定書の実施および評価に関する非政府組織との調整を強化することも奨励されるところである。
普及および研修
14.委員会は、締約国が全般的に質の高い研修資源および研修施設を有していることに留意し、かつ、「行方不明の子どもと搾取された子どものための全国センター」が裁判官、検察官および法執行官に対して提供している、子どもの性的搾取の捜査および防止に関する研修を歓迎する。しかしながら委員会は、連邦および州のいずれのレベルでも選択議定書の体系的普及および選択議定書に関する体系的研修が行なわれておらず、また選択議定書およびそこで対象とされている事柄に関わる諸問題があまり知られていないことを、懸念するものである。
15.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) あらゆる関連の専門家集団(法執行官、裁判官、弁護士、ソーシャルワーカーおよび保健ケアワーカー、出入国管理官および税関職員、宗教的指導者およびコミュニティの指導者、市民社会組織ならびに養子縁組に関する認証団体を含む)を対象とする、選択議定書の規定についての体系的な教育および研修を継続しおよび強化すること。
  • (b) 学校カリキュラムおよび子ども向けの適切な資料を活用することにより、住民、とくに子どもおよび親の間で選択議定書の規定を普及するための措置を強化すること。
  • (c) 選択議定書第9条第2項に照らし、市民社会およびメディアと協力しながら、あらゆる適当な手段による情報提供、教育および訓練を通じ、選択議定書に掲げられたすべての犯罪の防止措置および有害な影響に関する公衆一般(子どもを含む)の意識を促進すること。そのための手段には、適切な言語への翻訳を行なうとともに、このような情報提供プログラム、教育プログラムおよび研修プログラムに対するアクセスへの、コミュニティならびにとくに子どもおよび被害を受けた両性の子どもの参加を奨励することも含まれる。
資源配分
16.委員会は、相当量の財源が人身取引の防止のために配分されていることに留意しながらも、そのうち人身取引の被害を受けた子どもおよび選択議定書が対象とする他の犯罪の被害者にとくに配分される資源はごく少ない割合に留まっていることを懸念する。
17.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書の実施のための予算配分額、とくに選択議定書が対象とする犯罪の被害を受けた子どものためのサービスに充てられる配分額について、次回報告書でいっそうの情報を提供すること。
  • (b) 犯罪の防止、被害を受けた子どもの保護およびリハビリテーションならびに議定書が対象とするすべての犯罪の加害者の訴追を目的とするプロジェクトおよび計画を、とくに地方のレベルで発展させかつ実施するために必要な人的資源および財源を提供すること。
  • (c) 子どもにとくに焦点を当てた予算編成に対し、人権アプローチをもって臨むこと。
国内人権機関
18.必要な法律およびサービスのほとんどは州の管轄事項であることから、選択議定書の実施を監視するための独立機関を連邦レベルで創設するのが困難であることは認識しながらも、委員会は、選択議定書の実施を監視するオンブズマンのような機関が連邦または州のレベルに設けられていないことを懸念する。
19.委員会は、連邦政府および州政府が、パリ原則にしたがって、選択議定書を監視しおよび促進するための人権機関を創設することを検討するよう勧告する。これらの機関に対しては、その権限を履行するのに必要な人的資源および財源が提供されるべきである。

IV.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止

20.委員会は、児童虐待およびネグレクトを防止するための締約国の取り組みには留意するものの、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに対して依然として焦点が当てられていないことを懸念する。委員会はまた、防止のための努力が主として国の特定地域に限定されており、締約国に存在する、脆弱な立場にあって選択議定書が対象とするすべての犯罪の被害をとりわけ受けやすい相当に大規模な集団の子ども(貧困下で暮らしている子ども、移民の子ども、先住民族の子どもおよび困難な家族状況で暮らしている子どもなど)が対象とされていないことも、懸念するものである。
21.委員会は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノの根絶はその助長要因に対応するホリスティックなアプローチをとることによって促進されるという見解に立ち、締約国が、貧困および周縁化のような、子どもが子どもの売買、児童買春、児童ポルノおよび児童セックス・ツーリズムの被害を受けやすくなることを助長する根本的原因に対応するための努力を強化するよう勧告する。防止のための努力においては、このような慣行の被害をとくに受けやすい子どもを締約国全域で保護することに、特段の注意が向けられるべきである。
22.委員会は、子どもの搾取をともなう性的サービスへの需要を減少させることに焦点を当てたプログラム(意識啓発キャンペーンを含む)が少ないことを懸念する。
23.委員会は、防止措置および訴追措置の両方を通じ、子どもの搾取をともなう性的サービスへの需要に対応するよう勧告する。防止措置には、とくに、子どもの性的搾取に対する需要を生み出している個人および集団を対象とした公衆意識啓発キャンペーンが含まれるべきである。
児童買春
24.委員会は、被害者中心アプローチに焦点を当てたプログラムによって児童買春に対応しようとする締約国の努力に留意する。しかしながら委員会は、子どもの買春の現象が締約国において広範に広がっておりかつ増加しつつあるという情報を懸念するものである。委員会はまた、児童買春法の執行が州レベルではきわめて低調であり、かつ保護プログラム、研修および教育のために配分される資源が十分ではないという情報も懸念する。
25.委員会は、締約国が、児童買春(人身取引によって同国に連れてこられた外国の子どもを関与させるものおよび「国内」児童買春の双方)と引き続き闘うよう勧告する。これとの関連で、委員会はとくに、締約国が、州レベルの児童買春法の執行および実施を監視するとともに、意識啓発キャンペーンおよび研修を含む保護プログラムのための人的資源および財源を増加させることを検討するよう、勧告するものである。
児童ポルノ
26.委員会は、国内的にも世界規模の現象としても児童ポルノと闘うために締約国が行なっている努力(この点に関わる無数の捜査および訴追も含む)を評価しながらも、締約国が世界最大の児童ポルノの製造国、配布国および消費国のひとつであること、ならびに、新たな技術の台頭によって促進される子どもがらみのサイバー犯罪の発生件数が増加していることを、懸念する。
27.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 児童ポルノに関する現行法の枠組みの執行を向上させること。
  • (b) 技術の日進月歩の性質に対応するために必要な措置をとる努力を強化すること。
  • (c) 児童ポルノの被害を受けた子どもを特定しかつ援助するための措置を強化すること。
  • (d) 児童ポルノを防止しかつ処罰するための国際協力を引き続き強化すること。
セックス・ツーリズム
28.委員会は、「旅行および慣行における性的搾取から子どもを保護するための行動規範」の運用が2004年に開始されたこと、および、PROTECT法(2003年)の採択により、国外で児童セックス・ツーリズムに関与した締約国の国民について50件以上の起訴および29件の有罪判決がもたらされたことを歓迎する。委員会はまた、カンボジア、コスタリカ、ブラジル、ベリーズおよびメキシコのような国々における、合衆国の児童セックス・ツーリストを対象とした抑止キャンペーンおよび広報キャンペーンへの資金拠出も評価するものである。しかしながら委員会は、締約国が依然として児童セックス・ツーリストの主たる送り出し国のひとつであるという情報を懸念する。
29.委員会は、締約国が、外国で貧困下で暮らしている子どもを虐待しおよび搾取することは容認されるという考え方のような態度に対抗するための意識啓発も含め、セックス・ツーリズムと闘うためにとっている措置を引き続き強化するよう勧告する。委員会はまた、締約国が、とりわけ、観光客をとくに対象とする意識啓発キャンペーンを通じて責任ある慣行を促進し、かつ、旅行および慣行におけるあらゆる形態の子どもの商業的性的搾取と闘うために旅行業者、メディア、NGOおよび市民社会組織と緊密に協力することにより、セックス・ツーリズムを防止するためのさらなる措置をとるようにも勧告するものである。
違法な養子縁組
30.委員会は、国際養子縁組に関するハーグ条約が最近批准されたことを歓迎するとともに、国務省が中央当局として特定されたことに留意する。これとの関連で、委員会は、利益目的の者が、ハーグ条約第22条第2項(a)および(b)に掲げられた要件および資格(清廉性、専門的能力および説明責任を含む)を遵守しなければならないとはいえ、中央当局の権能の行使を認められる可能性があることを懸念する。委員会はまた、現行規則によれば、国外の生母に対する産前費用その他の費用の支払いが依然として可能であるという情報も懸念するものである。
31.養子縁組目的の子どもの売買に対する保護措置を強化するため、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 養子縁組目的の売買の発生件数を抑制するため、国際養子縁組に関するハーグ条約を十分にかつ効果的に実施すること。
  • (b) 認証機関のみならず承認を受けた個人も非営利の目的のみを追求することを確保すること。
  • (c) 子どもの積極的勧誘となる可能性があるあらゆる形態の行為(産前費用その他の費用の支払いを含む)を明示的に禁ずること。
  • (d) 売買の目的に関わらず、子どもの売買、とくにインターネット経由で行なわれる売買のすべての事案を防止しかつ処罰するための努力を強化すること。
  • (e) 子どもの最善の利益の原則およびハーグ条約で保障されている保護措置が、ハーグ条約に加盟していない国からの養子縁組の場合にも平等に尊重されることを確保するよう努めること。
  • (f) アメリカ人である子どもが第一次的には合衆国で養子とされることを確保するため、国際養子縁組法(2000年)第303条(a)(1)(B)に掲げられた補完性の原則を実効的に適用すること。

V.禁止および関連の事項

現行刑事法令
32.委員会は、締約国において、児童ポルノ、不法な性的目的による子どもの州際輸送および子どもの人身取引に関するおおむね発展した十分な法律が連邦レベルで設けられていることを歓迎する。しかしながら委員会は、州法と連邦法との間に若干の不一致があることにより、議定書が対象とするあらゆる犯罪の定義および禁止に関して一定の空白が生ずる可能性があることを懸念するものである。これとの関連で、委員会はとくに以下のことを懸念する。
  • (a) 児童買春そのものを定義しまたは禁ずる連邦法が存在しないこと。
  • (b) 児童ポルノに関わる活動は連邦レベルでは重罪であるのに対し、一部の州では軽罪でしかない可能性があること。
  • (c) 選択議定書が対象とする犯罪の未遂または当該犯罪へのあらゆる形態の参加が連邦法および州法において必ずしも処罰の対象とされていないこと。
33.委員会は、刑法がもっぱら各州の管轄事項であることから、締約国が、選択議定書が対象とするすべての犯罪が全国で選択議定書第2条および第3条にしたがって定義されかつ禁止されることを確保するよう、勧告する。委員会はさらに、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 連邦および州の両方のレベルで、選択議定書第2条および第3条にしたがって児童買春を定義しかつ禁止すること。
  • (b) 選択議定書上のすべての犯罪を、連邦および州の両方のレベルで、その重大な性質を考慮した適切な刑罰によって処罰できるようにすること。
  • (c) 選択議定書が対象とするいずれかの犯罪の未遂および共謀または当該犯罪への参加が選択議定書第3条第2項にしたがって処罰されることを確保すること。
34.委員会はさらに、子どもの権利の保護をさらに向上させるため、アメリカ合衆国が続いて子どもの権利条約の締約国となるよう勧告する。
裁判権および犯罪人引渡し
35.委員会は、合衆国外で行なわれたセックス・ツーリズムおよび児童ポルノ関連の犯罪について締約国が域外裁判権を設定できることは歓迎しながらも、一部の連邦法(18 U.S.C., paragraphs 1585 and 1587など)で定められている犯罪者の国籍に基づく締約国の域外裁判権が、選択議定書が対象とするすべての犯罪に及ぶわけではないことを懸念する。委員会はまた、連邦法に、被害者が締約国の国民である場合の域外裁判権の主張について一般的定めが置かれていないことにも留意するものである。
36.委員会は、子どもの売買、児童買春、児童ポルノおよび児童セックス・ツーリズムをともなう行為の責任者を訴追しおよび処罰するための枠組みを強化する目的で、締約国が、第4条に列挙されたすべての事案について裁判権を設定するよう勧告する。さらに委員会は、選択議定書が対象とするいずれかの犯罪を国外で行なった容疑がある者が自国の領域内にいる場合であって、締約国がその者を他の締約国に引渡さないときは、犯罪が行なわれた国が選択議定書の締約国ではない場合または国内法でこれらの行為を犯罪としていない場合であっても、締約国が当該容疑者を訴追できるようにすることも勧告するものである。

VI.被害を受けた子どもの権利の保護

選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を保護するためにとられた措置
37.委員会は、選択議定書が対象とする犯罪の被害を受けた子どもを刑事司法制度において保護するためにとられた措置(支援者にアクセスできること、子どもが証言を行なうべきではないと判断されるときは法廷における直接の証言に代わる手段が認められること、閉鎖回路テレビ(CCTV)による子どもの証言が多くの州で活用されていること、子どもの事情聴取の専門家が存在することおよび発達の観点から適切な質問方法が用いられていることを含む)を歓迎する。しかしながら委員会は、州法において子ども、とくに売買春に関与した子どもの逮捕および訴追を免除することがまだ統一的慣行となっていないことから、被害を受けた子ども、とくに合衆国内における人身取引の被害者である子どもおよび売買春に利用された子どもが処罰されまたは犯罪者扱いされる事例がある旨の情報を懸念するものである。
38.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書に基づくいずれかの犯罪の被害を受けた18歳未満のすべての者が、そのこと自体を理由として、連邦または州のレベルで犯罪者にも処罰の対象にもされないことを確保すること。この目的のため、委員会は、締約国が、被害を受けた子どもの保護に関する上限年齢が全国的に18歳と定められることを確保するよう勧告する。
  • (b) 選択議定書に掲げられた犯罪の被害を受けた子どもが刑事司法制度において取り扱われる際、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保するため、あらゆる必要な措置をとること。
  • (c) 選択議定書第8条第1項に照らし、連邦および州の両方のレベルで、刑事司法手続のあらゆる段階における、18歳未満のすべての被害者および証人の保護を確保すること。締約国はまた、これとの関連で、子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての国際連合指針(国連経済社会理事会決議2005/20参照)を指針とするべきである。
被害者の回復および再統合
39.委員会は、人身取引被害者保護法により、合衆国において、市民でない者であって重大な形態の人身取引の被害を受けた者(商業的性的行為を行なうよう誘導された18歳未満の者を含む)が同国での在留を認められ、かつ一定の公的扶助を難民と同一の程度で受給する資格を有することに、評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、他国からの人身取引の被害者である子どもは一定のサービスを利用可能であるものの、国内の商業的性的搾取の被害を受けた子どもに対しては十分なサービス(身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のために必要な一時避難シェルターを含む)が用意されていないことが多いことを、懸念する。委員会はさらに、場合によって、性的搾取目的の人身取引の被害を受けた外国人が身元の明らかでない人身取引被害者として退去強制させられる可能性があるという情報を懸念するものである。
40.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書第9条第3項にしたがい、選択議定書が対象とする犯罪の被害を受けた男女すべての子どもに対し、十分なサービス(全面的な社会的再統合ならびに全面的な身体的および心理的回復のためのサービスを含む)が利用可能とされることを確保すること。
  • (b) 議定書が対象とする犯罪の被害を受けた外国人の子どもが、退去強制されるのではなく、その身体的および心理的回復のために必要なサービスを与えられることを確保すること。出身国への帰還が子どもの利益に照らして最善の選択肢であると考えられるときは、出身国の状況に関わる十分なアセスメント(可能であれば家族環境に関するものも含む)が行なわれるべきである。
  • (c) 選択議定書第8条第4項にしたがい、議定書で禁じられた犯罪の被害者とともに活動する者を対象とする適切な研修、とくに法律および心理学に関する研修を確保するための措置をとること。
  • (d) 選択議定書第9条第4項にしたがい、この議定書に掲げられた犯罪の被害を受けたすべての子どもが、法的に責任のある者に対して差別なく被害賠償を求める十分な手続にアクセスできることを確保すること。

VII.国際的援助および協力

41.委員会は、締約国が、人身取引との国際的闘いに相当の貢献を行なってきたことを歓迎する。委員会はまた、ニューメキシコ州とメキシコのチワワ州との協力に関して対話中に提供された情報も、人身取引との闘いにおける望ましい実践例を確立するものとして歓迎するものである。
42.委員会は、締約国が、選択議定書にしたがい、子どもの売買、児童買春、児童ポルノおよび児童セックス・ツーリズムをともなう行為の防止、摘発、捜査、その責任者の訴追および処罰に正当な注意を向けながら、多国間、地域間および二国間の取決めによる国際協力を強化するよう勧告する。これらの取決めは常に、子どもの最善の利益にかない、かつ国際人権基準を尊重するものであるべきである。
43.委員会は、締約国に対し、選択議定書を十分に適用するための措置の策定、実施および評価における国際連合の機関およびプログラム(地域間プログラムを含む)ならびに非政府組織との協力を継続するよう、奨励する。
44.委員会はまた、締約国に対し、貧困、低開発および脆弱な制度的能力のような、子どもが子どもの売買、児童買春、児童ポルノおよび児童セックス・ツーリズムの被害を受けやすくなることを助長する根本的原因に対応するための国際協力の強化を促進することも奨励する。

VIII.フォローアップおよび普及

(a)フォローアップ
45.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を政府省庁、連邦議会、上院および州当局に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
(b)普及
46.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を促進する目的で、締約国が提出した報告書および文書回答ならびに委員会が採択した総括所見を、インターネット等を通じ(ただしこれにかぎるものではない)、公衆一般、市民社会組織、若者グループ、専門家グループおよび子どもが広く入手できるようにすることを勧告する。

IX.次回報告書

47.第12条第2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、2010年1月23日を提出期限とする次回報告書に記載するよう要請する。

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最終更新:2011年08月20日 18:24