CRC個人通報 No.3/2016(デンマーク、条約違反を認定)


子どもの権利委員会(第77会期)
CRC/C/77/D/3/2016 [注¶](2018年3月8日)
原文:英語
日本語訳:平野裕二〔PDF

通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書に基づいて子どもの権利委員会が採択した見解

No.3/2016

[注¶¶] [注¶¶¶]
¶ 技術的理由により2018年3月14日に再発行したもの。
¶¶ 委員会が第77会期(2018年1月15日~2月2日)に採択したもの。
¶¶¶ 委員会の委員のうち本通報の検討に参加したのは、Suzanne Aho Assouma、Amal Salman Aldoseri、Hynd Ayoubi Idrissi、Jorge Cardona Llorens、Bernard Gastaud、Olga A. Khazova、Hatem Kotrane、Cephas Lumina、Gehad Madi、Benyam Dawit Mezmur、Clarence Nelson、Mikiko Otani、Luis Pedernera Reyna、Jose Angel Rodriguez Reyes、Kirsten Sandberg、Ann Marie Skelton、Velina Todorova および Renate Winterである。
提出者 I.A.M.(代理人弁護士= N.E. Hansen)
被害者とされる者 K.Y.M.
締約国 デンマーク
通報日 2016年2月12日
見解採択日 2018年1月25日
主題 ソマリアで強制的に女性性器切除の対象とされるおそれがある場合の、ソマリアへの女児の送還
手続上の論点 主張の裏づけ
実体上の論点 差別の禁止;子どもの最善の利益;あらゆる形態の暴力または不当な取扱いからの子どもの保護
条約の条項 第1条、第2条、第3条および第19条
選択議定書の条項 第7条(f)

1.1 通報の申立人である I.A.M. はプントランド出身のソマリア国民である(1990年生まれ)。申立人は、2016年1月5日にデンマークで出生した娘の K.Y.M に代わって本通報を提出した。申立人およびその娘は、プントランド(ソマリア)への送還命令を受けている。申立人は、娘の送還は条約第1条、第2条、第3条および第19条に基づく同女の権利の侵害であると主張する。申立人は弁護士による代理を受けている。選択議定書は、2016年1月7日にデンマークについて効力を生じた。
1.2 選択議定書第6条に基づき、通報作業部会は、委員会を代表して2016年2月16日に締約国に対して要請を行ない、本件を委員会が検討している間、申立人およびその娘を出身国に送還しないよう求めた。締約国は、2017年〔2016年〕2月18日、申立人およびその娘に対する送還命令の執行を停止した。2017年〔2016年〕8月16日、締約国は当該暫定措置の解除を要請した(後掲パラ4.1参照)。作業部会は、委員会を代表して、2017年1月16日、当該暫定措置の解除を求めた締約国の要請を受け入れないことを決定した。
1.3 締約国は、2017年3月2日、本通報の検討の打ち切りを要請した(後掲パラ6参照)。作業部会は、委員会を代表して、2017年6月9日、本通報の検討を打ち切らないことを決定した。

申立人が主張する事実関係
2.1 申立人は、有効な渡航書類を持たないまま2014年9月25日にデンマークに入国し、その4日後、夫とともに庇護申請を行なった [1]。デンマーク移民局は、2015年3月31日、申立人の夫はダブリンIII規則 [2] に基づいてスウェーデンに移送されるべきであると決定した。同決定は、2015年4月22日、デンマーク難民不服申立委員会によって支持された。2015年5月21日、申立人の夫はスウェーデンに移送された。
[1] 申立人は、2007年からスウェーデンに在留していたという夫がどのようにまたはいつ申立人と合流してデンマークに到着したのか、明らかにしていない。
[2] 欧州連合規則604/2013(ダブリンIII規則)は、第三国国民または無国籍者がいずれかの加盟国で行なった国際保護の申請の審査の担当国を決定する手順について定めている。
2.2 申立人が妊娠6か月であった2015年10月5日、移民局は申立人の庇護申請を棄却した。申立人はこの決定について難民不服申立委員会に不服申立てを行ない、プントランドに送還されれば、家族の意思に反して秘密裡に婚姻したこと [3] を理由に家族から殺され、また娘が女性性器切除の対象とされるおそれがあることを恐れていると述べた。
[3] 難民不服申立委員会が2016年2月2日付で行なった決定によれば、申立人は2007年、地位がより低い氏族出身の男性と、秘密裡にかつ家族の意思に反して婚姻していた。
2.3 難民不服申立委員会は、2016年2月2日、申立人の不服申立てを棄却するとともに、ソマリアへの申立人の送還を、特定の地域を示すことなく命じた。同委員会は、申立人の陳述が、とくに申立人が2007年に秘密裡に婚姻したことについて知ったときの父親の反応 [4]、および、夫が2007年に出国したにもかかわらず申立人が2014年までプントランドに留まっていた事実との関連で、一貫性および信憑性を欠いていると判断した。同委員会は、申立人が、2007年から2014年にかけて、それ以上の報復を経験することなく自宅で生活していたことに留意している。申立人の娘が強制的に女性性器切除の対象とされるおそれについて、同委員会は、ソマリアにおける女性性器切除についての移民局の報告書 [5] に依拠して判断を行なった。同報告書によれば、女性性器切除はソマリア全土で法律により禁止されており、とくにプントランドでは、母親は娘が母親の意思に反して女性性器切除の対象とされないようにすることが可能であるとのことであった。
[4] 難民不服申立委員会が2016年2月2日付で行なった決定によれば、申立人は当初、移民局に対し、婚姻について知った父親は申立人を一晩中ベルトで打ち、夫を殺すと脅したと陳述していた。しかし申立人は、難民不服申立委員会に対しては、父親から自室に1か月軟禁され、ベッドに縛りつけられ、足を金属で打たれたと陳述した。
[5] Denmark, Ministry of Immigration, Integration and Housing, "South central Somalia: female genital mutilation/cutting: thematic paper - country of origin information for use in the asylum determination process"(2016年1月)参照(https://www.nyidanmark.dk/NR/rdonlyres/D011EB99-7FB6-4693-921A-8F912F4079CB/0/female%20genital%20mutilationnotat2016.pdf より入手可能)。同報告書が述べるところによれば、「女性は娘がFGM/Cの慣行の対象とされないようにすることが可能であり、実際に何とか回避した女性も複数存在する。ただしこれは、母親の性格と、FGM/Cおよびこの慣行にともなう強い心理的圧力(家族構成員からも社会からも同様に加えられるもの)に立ち向かうために必要な決意を母親が有しているか否かに、大きく左右される」(p.8)。また、「娘がこのような慣行の対象とされるべきではないという強い個人的確信こそ、母親が〔娘の保護に〕成功するためにもっとも重要だが、母親の学歴、社会的地位、文化的または地理的つながりも相当の、とはいえそれほどではない、重要性を有する」とも指摘されている。
2.4 申立人は、デンマークの司法制度では難民不服申立委員会の決定に対して上訴することはできないため、国内的救済措置は尽くされたとする。申立人はさらに、移民局が決定を言い渡したときには娘はまだ生まれていなかったため、娘が女性性器切除の対象とされるおそれの問題についてはひとつの機関、すなわち難民不服申立委員会による評価しか行なわれていないと付言している。

申立ての内容
3.1 申立人は、娘がソマリアに送還されれば女性性器切除の対象とされる可能性があるので、条約第1条、第2条、第3条および第19条に基づく娘の権利が侵害されることになると主張する [6]。また、女性性器切除などの一定の事案では、ノンルフールマンの原則が条約に基づいて適用されるのであり、また同原則は域外適用効力を有するとする。さらに、自由権規約委員会、拷問禁止委員会および女性差別撤廃委員会がすでに、退去強制の事案についてはそれぞれの条約が域外適用の効力を有すると決定してきたとも指摘する [7]。
[6] 申立人は、娘がどのような態様の女性性器切除の対象とされると考えているのかについて明らかにしていない。
[7] 申立人は、M.N.N. v. Denmark 事件に関わる女性差別撤廃委員会の決定(CEDAW/C/55/D/33/2011)を引用している。
3.2 申立人は、女性の98%が女性性器切除の対象とされている国において、シングルマザーである自分が社会的圧力に抗して娘をこのような慣行から守ることはできそうにないと主張する。申立人は、難民不服申立委員会はソマリアにおける女性性器切除についての移民局の報告書(2016年)に基づいて決定を行なったのであり、その報告書では、母親が反対すれば女児が性器を切除されないようにすることは可能であると述べられている(p.8)と指摘する。しかし申立人は、同じ報告書で、母親が他の女性たちの意思に立ち向かうだけの強さを持っていない場合には圧力に屈する可能性があり、または母親が家を空けているときに家族構成員が切除を実行する場合もあることが明らかにされている(p.10)とも指摘する。また、ソマリアおよびプントランドで女性性器切除は法律により禁じられているものの、法律は実際には執行されていないともいう。申立人が付言するところによれば、申立人自身も6歳のときに女性性器切除の対象とされたほか、秘密裡に婚姻したためにソマリアで抑圧に苦しみ、男性支配の社会で当局に保護を求めることもできなかった。申立人は最後に、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の「南部・中部ソマリアへの帰還に関する見解」(Position on returns to southern and central Somalia、2014年6月)に言及している。UNHCRはこの文書で、各国に対し、いかなる者も南部・中部ソマリアに強制的に帰還させないよう促している(パラ20)。
3.3 申立人は、条約第19条に基づき、締約国は子どもをいかなる害または暴力からも保護する義務を負うと述べる。その際、締約国は常に子どもの最善の利益を考慮しなければならない。
3.4 申立人は、娘の事案を扱ったのが難民不服申立委員会のみであり、上訴へのいかなるアクセスも認められなかったことから、娘は条約第2条に違反して差別されたと主張する。申立人の主張によれば、これは娘がソマリア人の母親からデンマークで出生したためであり、デンマークで出生した他のいかなる子どもも、これと同じような形で公正な裁判の保障を受けられないことはないはずである。
3.5 申立人は、難民不服申立委員会が、その決定のなかで子どもの権利条約にまったく言及していないことを指摘している。

締約国の所見ならびに受理許容性および本案
4.1 締約国は、2016年8月16日付の所見で、委員会に対し、難民不服申立委員会は2016年2月2日付で行なった決定に代えて2016年3月14日に新たな決定を行ない、申立人およびその娘は、――申立人の出身地である――プントランドに送還するものとし、ソマリアの他のいかなる地域にも送還しない旨、明示したと通知してきた。ただし、暫定措置を求めた委員会の要請に照らし、送還の期限は停止された(前掲パラ1.2参照)。
4.2 締約国が委員会に通知してきたところによれば、デンマーク外国人法第53条(a)にしたがい、移民局の決定については難民不服申立委員会に対して自動的に不服申立てが行なわれる(ただし、申請が明らかに根拠を欠くと判断されるときはこの限りでない)。難民不服申立委員会は独立の準司法機関であり、国際保護の付与および取消しのための共通手続に関する欧州理事会指令2013/32/EUの第46条にいう裁判所または審判所とみなされる。同委員会の委員長および副委員長は裁判官であることが要件とされており、また他の委員は、弁護士資格を有し、かつ外務省または移民・統合・住宅省の本庁に勤務していなければならない。同委員会の委員は、デンマーク裁判所機構(裁判官の場合)またはデンマーク難民評議会、外務省および移民・統合・住宅省(他の委員の場合)の指名に基づき、同委員会の執行委員会によって任命される。不服申立委員会の委員は、任命機関または指名機関に対して指示を求めることはできず、その資格停止または解任は、(デンマークの裁判所に勤務する裁判官と同様に)起訴手続・修正特別法廷によってしか行なえない。同委員会による決定は終局決定であるため、他に上訴の道は存在しない。
4.3 締約国の指摘するところによれば、デンマーク外国人法第7条(1)にしたがい、外国人が難民の地位に関する1951年の条約の適用対象にあたる場合、申請によって在留許可が与えられる。外国人法第7条(2)にしたがい、在留許可は、外国人がその出身国で死刑または拷問もしくは陵虐の対象とされるおそれがある場合にも与えられる。難民不服申立委員会は、庇護希望者が出身国に送還された場合に死刑または拷問の対象とされる現実のおそれにさらされることを裏づける具体的かつ個別的な要因が存在する場合、外国人法第7条(2)に基づく在留許可の付与の条件が満たされたと判断する。外国人法はさらに、庇護申請を棄却する場合には常に当該おそれの有無に関する決定がともなわなければならないと定めている。同委員会が締約国の国際的義務にしたがって決定を行なうことを確保するため、同委員会と移民局は、国際法(とくに難民の地位に関する1951年の条約、拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰に関する条約、欧州人権条約ならびに市民的および政治的権利に関する国際規約)に基づいて庇護希望者に付与される法的保護を詳細に説明した多数の覚書を合同で作成してきた。
4.4 難民不服申立委員会における手続には口頭審理も含まれており、庇護希望者はそこで陳述を行ないかつ質問に答えることが認められている。同委員会による決定は、当該事案の個別的かつ具体的評価に基づくものである。庇護の理由に関する庇護希望者の陳述は、その出身国における状況について知られている事実を含む、あらゆる関連の証拠に照らして評価される。これに関連して、同委員会は、出身国の人権状況(重大かつ組織的な人権侵害の一貫したパターンの有無など)に関する背景資料の包括的収集を行なう [8]。同委員会は、事案に関わるすべての事実が提起されることを確保するとともに、庇護希望者および証人ならびに同委員会に提供された他のあらゆる証拠の検討に基づいて決定を行なう。締約国の指摘するところによれば、庇護希望者は、その者が外国人法第7条の適用対象に該当するか否かを決定するために必要となる情報を提供しなければならない。したがって、庇護を付与するための条件が満たされていることを裏づけるのは庇護希望者の責任である。手続中に庇護希望者が行なった陳述に不整合または遺漏の特徴が見られる場合、同委員会はその理由を明らかにしようと試みる。ただし、庇護を付与する理由の決定的要素について整合性を欠いた陳述が行なわれたときは、庇護希望者の信憑性は低下する可能性がある。このような場合、同委員会は、そのような不整合に関する庇護希望者の説明および当該庇護希望者が置かれた特別な状況(とくに年齢、文化的背景、識字能力または拷問被害者であることなど)を考慮する。
[8] 締約国の指摘するところによれば、背景資料はさまざまな情報源から収集される。これには、UNHCRのウェブサイト、欧州出身国情報ネットワーク、デンマーク外務省、デンマーク移民局出身国情報部、デンマーク難民評議会、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチその他の国際的人権団体が含まれる。
4.5 難民不服申立委員会は、事案に特有の事実関係に関わる情報の検討のみならず、必要な背景情報(庇護希望者の出身国または第1次庇護国における状況に関するものを含む)の提供についても責任を負う。同委員会は、この目的のため、デンマークが庇護希望者を受け入れている国々(ソマリアを含む)の状況に関する全般的な背景資料を包括的に収集している [9]。これらの資料は継続的に更新されている。
[9] 難民不服申立委員会が参照している背景情報は www.fln.dk/da/baggrundsmateriale で閲覧可能である。
4.6 締約国は、委員会が、あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利についての一般的意見13号(2011年)で、諸締約国には、条約第19条に基づき、子どもに対するあらゆる形態の暴力(女性性器切除のような有害慣行を含む)を禁止し、防止しかつこれに対応する義務がある旨の見解を確立していること(パラ11(a))に留意している。また、有害慣行に関する女性差別撤廃委員会の合同一般的勧告31号(2014年)/子どもの権利委員会の合同一般的意見18号(2014年)で、両委員会は、諸締約国は有害慣行に効果的に対応しかつこれを解消するための立法措置をとらなければならないとしている。諸締約国は、出入国管理および庇護に関連する法律および政策において、有害慣行の対象とされるおそれまたはそのような慣行の結果として迫害されるおそれのあることが庇護を付与する理由のひとつとして認められることを確保するべきである。当該女児または女性の同伴者である親族に対して保護を与えることも、個別の事案ごとに検討するよう求められる(パラ55(m))。さらに、出身国外にあって保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもの取扱いについての委員会の一般的意見6号(2005年)にしたがい、締約国は、条約第6条および第37条で想定されているもののような、子どもに回復不可能な危害が及ぶ現実のおそれがあると考えるに足る相当の理由がある国に子どもを帰還させてはならない(そのようなおそれが帰還先の国に存在するか、または子どもがその後に帰還させられる可能性のあるいずれかの国に存在するかを問わない)。そのようなおそれの評価は、年齢およびジェンダーに配慮したやり方で実施されるべきであるとされる。したがって、条約違反があったとみなされるのは、送還された場合に子どもが回復不可能な危害を受ける現実のおそれがあるときに限られるというのが締約国の主張である。女児の追放に関わって、いずれかの国に送還されれば女児が女性性器切除の対象とされると主張される事案においては、これが指導的原則であるべきであるとされる。
4.7 締約国の主張するところによれば、申立人は、娘がプントランドに送還された場合に回復不可能な危害を受ける現実のおそれにさらされる旨の主張を十分に裏づけていないことから、申立てにいちおうの証拠があることを立証できていない。したがって、選択議定書第7条(f)に基づき、申立人の請求については受理できない旨の宣言が行なわれるべきであるとする。
4.8 締約国の指摘するところによれば、申立人は、自らが置かれた状況について、すでに難民不服申立委員会に提供されて同委員会による評価を受けたものとは異なる、新たなかつ具体的な情報を何ら提供していない。同委員会は、陳述が一貫性および整合性を備えているか否かを認定する。本件においては、申立人の全般的信憑性が相当に低下していた。それは、申立人自身の庇護申請理由が、その説明が複数の本質的論点に関して申請のために捏造されたもののように思われ、かつその陳述が一貫していないことに基づき、同委員会によって認容されなかったためである。
4.9 同委員会は、2016年2月2日の決定で、申立人は娘がプントランドに送還された場合に女性性器切除の対象とされる蓋然性があることを示さなかったと認定した。同委員会が重視したのは、同地域における女性性器切除の全般的状況、とくに母親は娘が女性性器切除の対象とされないようにすることができる旨の、利用可能であった背景情報である。そのため同委員会は、申立人の有する恐怖はデンマーク外国人法に基づく庇護を正当化できるものではないとの結論に至った。
4.10 締約国の指摘するところによれば、問題となる決定的論点は、申立人が、親族または地域共同体一般から加えられる可能性がある圧力に抵抗することによって、女性性器切除の対象とされることから娘を保護する意思および能力を有しているか否かである。この点に関して申立人は、母方のおばが娘の性器を切除するのではないかという恐怖をほのめかした。締約国は、娘が女性性器切除の対象とされるという恐怖について、申立人は詳細なまたは具体的な陳述を行なわなかったと主張する。申立人の陳述から、申立人もその夫も女性性器切除に反対していることは明らかである。締約国はまた、申立人が、2014年にソマリアを出国して(強制的に婚姻させられることを避けるためとされる)エチオピアに渡航し、その後、配偶者の援助を得てヨーロッパに渡ったことも指摘する。したがって申立人は、相当の個人的強さをもった自立した女性であると思われ、いかなる社会的圧力にも抗して娘を女性性器切除から保護することができるはずであるとする [10]。
[10] この点に関して、申立人は、Collins and Akaziebie v. Sweden 事件(申請第23944/2005号)における欧州人権裁判所の決定(2007年3月8日)を引用している。
4.11 締約国の指摘するところによれば、申立人は中部・南部ソマリアの状況に言及した報告書に依拠しており、これらの報告書によれば女性人口の90~99%が女性性器切除を受けているとされる。しかし、これらの報告書は本件には無関係である。英国内務省が2015年2月に刊行した国別情報ガイダンス [11] によれば、女性性器切除は、プントランドでは中部・南部ソマリアほど広範にかつ一貫して実践されていない。また、この慣行はプントランドでは禁じられている。同じガイダンスでは、国際連合児童基金(UNICEF)によれば女性性器切除の件数はソマリランドとプントランドでは減少しているように思われるとされており、また同地域の10~14歳の女児の75%は女性性器切除の対象とされていないこと(これに対し、15歳以上の女児では98%が対象とされている)が述べられている。さらに、Lifos(スウェーデン移民庁)が刊行した、ナイロビ(ケニア)ならびにモガディシュ、ハルゲイサおよびボサソ(ソマリア)に派遣された現地調査団の報告書(2012年6月)によれば、ガローウェとボサソ――申立人の出身地――で2010年に実施された調査では女性性器切除に対する態度の変化が明らかになっており、これは〔女性性器切除実施率の〕全般的減少(2014年には85%であったものが2010年には72%に減少)に反映されている。同じ報告書では、女性性器切除を受けさせるために祖母が孫娘を奪取する事件はプントランドではもはや報告されていないとも述べられている。この慣行は、同地域で最大の都市(人口70万人)であるボサソではなく、農村部でより広く行なわれているという。
[11] United Kingdom Home Office, "Somalia: women fearing gender-based harm and violence", Country Information Guidance, February 2015 参照。
4.12 同委員会が条約に何ら言及していないという申立人の主張に関して、締約国は、同委員会が条約に明示的に言及していないからといって、同委員会が条約を考慮しなかったことにはならないと指摘する。締約国が述べるところによれば、同委員会は、子どもが関わる庇護申請を検討する際のきわめて重要な要素のひとつとして、条約および他の関連の国際条約を考慮している。
4.13 ソマリアの全般的治安状況に関して、締約国は、申立人が援用した欧州人権裁判所の事件(R.H. v Sweden 事件)[12] はプントランドではなくモガディシュへの女性の送還に関するものであり、したがって本件では適用できないと指摘する。
[12] R.H. v Sweden 事件(申立番号第4601/2014号)における欧州人権裁判所の決定(2015年9月10日)参照。
4.14 締約国はまた、難民不服申立委員会の先例によれば、移民局の決定後に新たに庇護の理由が提示されても、当該事案が自動的に移民局に送致されて第1次決定の再検討が行なわれることにはならないとも指摘する。ほとんどの場合、同委員会の審理において十分な情報に基づいて新たな情報の評価を行なうことが可能であるため、送致は必要とされない。事案が移民局に再送致されるのは、通常、庇護希望者の出身国に関する新たな情報が提供された場合、または事案の決定にとって本質的であったと考えられる法的根拠に変更があった場合である。また、同委員会の審理には移民局の代表も出席する。したがって移民局は、難民不服申立委員会が事案についての決定に至る前に、庇護を付与する理由があるか否か検討するのである。さらに、条約のいかなる規定も、本件のような事案における上訴権は付与していないとする。
4.15 締約国の主張するところによれば、申立人の娘は、条約第2条の違反と考えることが正当であるような、娘自身またはその親の人種、皮膚の色、性、宗教その他の地位を理由とするいかなる種類の差別も受けていない。

締約国の所見に関する申立人のコメント
5.1 申立人は、2016年12月14日付のコメントにおいて、回復不可能な危害を受けるおそれの裏づけが不十分であるという締約国の主張は本案と密接に関連しているとする。申立人の指摘するところによれば、申立人が娘とともに送還される国は条約を批准しておらず、そこでは申立人にもその娘にもいかなる保護も与えられないであろうから、申立人の娘が子どもであることに鑑みればこの送還は条約第1条違反である。
5.2 申立人は、条約第3条は締約国に対し、子どもの最善の利益のみにしたがって行動する義務を課していると主張する。たとえば、女性性器切除を行なうために娘をソマリアに連れていこうとしていると述べる母親がいれば、締約国は、娘の最善の利益を保障するために子どもを母親から引き離す義務があろう。
5.3 申立人の主張するところによれば、たとえソマリランドとプントランドで女性性器切除が禁じられているとしても、この慣行はいまなお――発生率はプントランドのほうがソマリランドより低いかもしれないとはいえ――社会に深く根づいている。したがって危険性は存在する。問題となる争点は、申立人とその娘が送還された場合に、このような有害慣行からの、必要とされる保護を申立人が得られるか否かである。プントランドでは法律が執行されていないため、女性性器切除からの保護は実際にはまったくまたはごくわずかしか存在しない。シングルマザーには娘を24時間保護することはできず、また不在中にこのような慣行が行なわれることを防ぐこともできない。申立人の指摘するところによれば、難民不服申立委員会は、2014年3月27日の決定で、ソマリア出身のシングルマザーに対し、娘を女性性器切除の対象とする社会的圧力に抵抗することはできないであろうとの推定に基づいて庇護を付与している。たとえ申立人が、送還時に女性性器切除の加害者となる可能性がある者として祖母その他の親族を名指ししなくとも、共同体の構成員およびソマリア社会一般の構成員からも圧力を加えられる可能性がある。申立人の主張するところによれば、難民不服申立委員会はこのような根拠に基づいて申立人に保護を付与するべきであった。決定的論点は申立人が女性性器切除の対象とされることから娘を保護する意思および能力を有しているか否かであるという締約国の発言と、申立人は「相当の個人的強さをもった自立した女性」であると思われるという結論は、同委員会の審理では提起されなかった主張であり、したがって申立人はこれに異議を唱えることができなかった。申立人の付言するところによれば、締約国が引用しているUNICEFの統計(パラ4.11参照)は1回の調査に基づくものであり、したがってこれらの数字は信頼できない。
5.4 申立人は、難民不服申立委員会による2016年2月の決定は条約に何ら言及しておらず、それ自体が違反であると強く主張する。また、移民局のウェブサイトに掲載された関連の国際条約一覧にも条約は含まれていないとする。
5.5 申立人の見解によれば、締約国は決定を行なう際に子どもの最善の利益を顧慮する義務を負っていた。申立人の主張するところによれば、欧州人権裁判所は、全般的な治安状況を理由として、男性のネットワークを有しない独身女性をソマリアに送還することは欧州人権条約違反であると判断している。
5.6 申立人は、委員会は締約国が難民不服申立委員会の決定を是正することを「認める」べきではなく、2016年2月の決定が条約違反であったかどうかを検討するべきであるとしている。
5.7 申立人は、上訴の可能性がないことに関する主張をあらためて繰り返している。申立人の述べるところによれば、難民不服申立委員会は本件事案の再審理を行なったものの、申立人は新たな審理の場には召喚されず、新たな決定を受領しても異議申立ての機会は与えられなかった。

当事者からの追加書面
6.2017年3月2日付の所見で締約国が指摘するところによれば、申立人とその娘は、難民不服申立委員会が、〔子どもの権利〕委員会が本件に関する決定に至るまで出国期限を定めないこととしたにもかかわらず、申立人らに割り当てられた入所施設に現れなかった。2017年2月7日、同委員会は移民局および国家外国人センターに連絡をとり、申立人とその娘の所在について問い合わせたが、両機関とも、申立人とその娘の所在は承知していないと同委員会に通知した。警察はその後、申立人らはデンマークを出国したと思われると述べた。2017年2月10日、同委員会は申立人の弁護士に連絡をとったが、弁護士も申立人の所在は承知していないとのことであった。締約国の主張するところによれば、難民不服申立委員会は申立人とその娘がデンマークを出国したと考えたのであるから、申立人らはもはやデンマークの管轄下にはなく、申立人の娘は、考えられるいかなる条約違反の被害者ともみなすことはできない。締約国の考えるところによれば、本件通報は委員会の手続規則の規則13(1)に基づいて受理が認められず、または同手続規則の規則26に基づいて本件通報の処理は打ち切られるべきである [13]。
[13] 締約国は、自由権規約委員会が M.R.R. v. Denmark 事件(CCPR/C/118/D/2440/2014)と B.N.A. v. Denmark 事件(CCPR/C/118/D/2468/2014)で行なった、事案の検討を打ち切る旨の決定を引用している。いずれの決定も、各申立人の所在が不明になったことに基づいて行なわれたものである。
7.申立人の弁護士は、2017年4月10日、締約国は申立人とその娘がすでにデンマークにいないことを立証できていないと指摘している。申立人らが庇護センターからいなくなっていることは、申立人らがデンマークを出国したと自動的に結論づける十分な理由にはならない。さらに、たとえ申立人らがすでにデンマークにいないとしても、これは管轄除外の十分な理由にはならないとする [14]。
[14] これとの関連で、申立人は、自由権規約委員会および拷問禁止委員会がともに、申立人がすでに出身国に送還されていた場合に、事案の受理は認められるとする決定または各条約の違反を認定する決定を採択してきたことを指摘している。
8.締約国は、2017年5月18日、申立人とその娘が、〔子どもの権利〕委員会における手続が進行している間はデンマークに滞在する権利を有していたことを強く主張した。また、デンマーク外国人法第42条(a)(1)に基づき、デンマークに滞在する外国人であって在留の申請を行なっている者については、生計費および必要なあらゆる保健ケアサービスの費用が移民局によって負担される。移民局は、滞在場所を決定するとともに、当該外国人が特定の入所施設に滞在するよう命じることもできる。しかし、申立人とその娘は滞在場所を離れ、かつ私的滞在場所の申請も行なっていない。難民不服申立委員会は、出入国管理簿に記録された庇護希望者の行方が14日以上知れないときは、警察に連絡をとる。これらの庇護希望者の居場所を警察が承知していない場合、難民不服申立委員会は事案の処理を終了する。このことに照らし、締約国は、申立人とその娘が自発的にデンマークを出国したことを事実として認めたものであると主張する。
9.締約国は、2017年11月7日、通報の検討を打ち切ることをふたたび要請し、かつ通報の受理は認められないことに関する従前の主張をあらためて繰り返した。プントランドが条約を批准していないことに関する申立人の主張について、締約国は、プントランドは国際社会から独立国として承認されておらず、したがって条約を批准したソマリアの一地域であることは変わらないと指摘する。いずれにせよ、関連する争点は条約の批准ではなくその遵守である。締約国が強く主張するところによれば、ある事案が移民局に差し戻されるのはきわめて重要な新たな情報が提供された場合のみであり、本件はそれに該当しないほか、いずれにせよ条約は本件のような事案で上訴する権利を付与するものではない。最後に締約国は、申立人は庇護が認められた他の難民不服申立委員会案件を援用するものの、これらの――プントランドへの送還をともなうものではない――事案と自己の事案との類似性を示さなかったと指摘する。締約国が指摘するところによれば、母親が社会的圧力に抵抗できるか否かは、個々の事案の個人的事情を非常に具体的に評価した結果に基づいてのみ判定可能である。

委員会における争点および手続

受理許容性の検討
10.1 委員会は、通報に含まれるいかなる主張についても、その検討を行なう前に、委員会の手続規則の規則20にしたがい、当該主張を受理することが選択議定書に基づいて認められるか否かを決定しなければならない。
10.2 委員会は、デンマーク難民不服申立委員会による決定は上訴の対象とならず、したがってすべての国内的救済措置が尽くされたという申立人の陳述に留意する。この点は締約国によって争われていない。したがって委員会は、選択議定書第7条(e)に基づく、本件通報の受理を妨げる要因はないと判断する。
10.3 委員会は、申立人の娘が、ソマリア人を母親としてデンマークで出生したためことの結果としてその申請が難民不服申立委員会によってしか検討されず、上訴のいかなる可能性もなかったことを理由に差別されたという、条約第2条に基づく申立人の主張に留意する。しかしながら、委員会の見るところ、申立人はこの主張を非常に一般的な形で行なっており、娘または申立人自身の出自と、デンマーク難民不服申立委員会の決定に対する上訴手続が存在しないとされることとの間に関連性が存在することを示していない。したがって委員会は、この主張は明らかに根拠を欠いており、選択議定書第7条(f)に基づいて受理することができないと宣言する。
10.4 委員会は、申立人が、娘がプントランドに送還された場合に女性性器切除の対象とされるおそれがある旨の主張を十分に裏づけていないという、締約国の主張に留意する。しかしながら委員会は、申立人が送還される事情についての申立人の主張に照らせば、条約第3条および第19条に基づく申立人の主張は、受理許容性について判断するうえでは十分に裏づけられていると判断するものである。
10.5 委員会は、申立人とその娘は締約国の領域を離れたとみなされており、したがってもはや締約国の管轄下にはないという締約国の主張に留意する。しかしながら委員会は、申立人とその娘がデンマークから出国したというのは、出国が確認されていないことから、憶測以上のものではないことに留意するものである。また、申立人らに対する送還命令は有効なままであり、すなわち、申立人とその娘は、居場所を特定されればいまなお送還に直面するということを意味する。したがって委員会は、手続規則の規則13(1)に基づいて本件通報の審査を妨げられることはないと判断するものである。
10.6 以上のことから、委員会は、(a) 子どもの最善の利益にしたがって行動し(条約第3条)、かつ (b) あらゆる形態の身体的または精神的暴力、傷害または虐待から子どもを保護するための措置をとる締約国の義務に関わる申立人の請求は受理することができると宣言する。

本案の検討
11.1 委員会は、選択議定書第10条(1)にしたがい、当事者から提出されたすべての情報に照らして本件通報を検討した。
11.2 委員会は、申立人の、娘がプントランドに送還されれば女性性器切除の対象とされるおそれにさらされる旨の主張、および、締約国は、条約第3条および第19条に違反して、申立人の庇護申請について決定する際に子どもの最善の利益を考慮しなかった旨の主張に留意する。
11.3 これとの関連で、委員会は委員会の一般的意見6号を想起するものである。委員会がそこで述べているとおり、国は、条約第6条および第37条で想定されているもののような(ただしけっしてこれに限られるものではない)、子どもに回復不可能な危害が及ぶ現実のおそれがあると考えるに足る相当の理由がある国に子どもを帰還させてはならず、またノンルフールマンの義務は、条約で保障されている権利の重大な侵害が国以外の主体によるものであるか否かにかかわらず、またそのような侵害が直接に意図されたものであるかまたは作為もしくは不作為の間接的結果であるかにかかわらず、適用される。このような重大な侵害のおそれの評価は、年齢およびジェンダーに配慮したやり方で実施されるべきである [15]。この意味で、委員会は次のような助言を行なっている。「……難民申請を評価するにあたって、国は、国際人権法および国際難民法(UNHCRが1951年難民条約に基づく監督機能を行使しながら発展させてきた見解を含む)の発展ならびに両者間の相互形成的関係を考慮に入れなければならない。とくに、1951年難民条約の難民の定義は、子どもが経験する迫害の特別な動機ならびに形態および表れを考慮に入れ、年齢およびジェンダーに配慮した方法で解釈されなければならない。親族の迫害、法定年齢に満たない者の徴用、売買春目的の子どもの人身取引および性的搾取または女性性器切除の強要は、子どもに特有の迫害の形態および表れの一部であって、このような行為が1951年難民条約上の事由のいずれかと関連しているときは難民資格を付与することが正当と認められる場合がある。したがって国は、国内の難民認定手続において、このような子どもに特有の迫害の形態および表れならびにジェンダーに基づく暴力に最大限の注意を向けるべきである」[16]。
[15] 委員会の一般的意見6号、パラ27、および、女性差別撤廃委員会の一般的勧告32号(女性の難民としての地位、庇護、国籍および無国籍に関わるジェンダー関連の側面、2014年)、パラ25参照。
[16] 委員会の一般的意見6号、パラ74参照。
11.4 女性差別撤廃委員会女性差別撤廃委員会の合同一般的勧告31号/子どもの権利委員会の合同一般的意見18号において、両委員会は、女性性器切除が即時的かつ(または)長期的にさまざまな健康上の影響をもたらす可能性があることに留意した [17]。両委員会は、出入国管理および庇護に関連する法律および政策において、有害慣行の対象とされるおそれまたはそのような慣行の結果として迫害されるおそれのあることが庇護を付与する理由のひとつとして認められるべきであり、かつ、当該女子・女性に付添っている場合がある親族に対して保護を与えることも検討されるべきであることを勧告した [17]。
[17] 女性差別撤廃委員会の合同一般的勧告31号/子どもの権利委員会の合同一般的意見18号、パラ19参照。
[18] 前掲、パラ55。
11.5 委員会は、女性の98%が女性性器切除の対象とされており、かつ国/地方の公的機関からいかなる保護も受けられない国では、女性性器切除の対象とされることから娘を保護することはできないという申立人の主張に留意する。女性性器切除の慣行は、ソマリア全土で法律により禁じられているとはいえ、法律が執行されていないためにいまなお蔓延している。申立人自身も、6歳のときに女性性器切除の対象とされ、秘密裡に婚姻したために抑圧を受け、かつ男性支配の社会にあって国の公的機関に保護を求めることができなかった。また、委員会は、締約国が表明した一連の所見(複数の報告によれば、母親が家族または共同体の圧力に抵抗することができるなら、プントランドで女性性器切除の対象とされることから娘を保護することは可能である旨の所見、申立人は、娘が冒すことになる具体的危険を説明していない旨の所見、申立人は、ソマリアを出国してヨーロッパに渡航したことをもって、いかなる社会的圧力にも抗して娘を女性性器切除から保護することができると推定されなければならない、相当の個人的強さをもった自立した女性であることを明らかにした旨の所見、および、申立人の全般的信憑性は、申立人自身の庇護申請理由に関わる信憑性が欠けているとみなされるために損なわれている旨の所見)に留意する。最後に、委員会は、ソマリランドとプントランドでは女性性器切除の発生率は低下しており [19]、また2013年のデータによれば10~14歳の女児の75%はこの慣行の対象とされていない [20]という、締約国の主張に留意するものである。
[19] Lifos - Swedish Migration Agency, "Report of fact-finding mission to Nairobi, Kenya, and Mogadishu, Hargeisa and Boosaaso in Somalia in June 2012" 参照。
[20] UK Home Office, "Somalia: women fearing gender-based harm and violence" 参照。
11.6 委員会は、当事者から提出された複数の報告 [21] によればプントランドにおける女性性器切除の実施率は(とくに、同地域における女性性器切除を禁じた2014年の法律、あらゆる形態の女性性器切除を禁じた2013年のファトワー〔宗教令〕および女性性器切除に対抗する2014年の政策 [22] の結果として)低下してきたように思われるものの、この慣行がいまなおソマリア社会に深く根づいていることに留意する。
[21] とくに Lifos - Swedish Migration Agency, "Report of fact-finding mission in June 2012" および UK Home Office, "Somalia: women fearing gender-based harm and violence" 参照。いずれの報告も、プントランドにおける女性性器切除の全般的実施率を70%前後としている。
[22] ソマリア女性開発・家族問題省「女性性器切除政策」(2014年11月、UNICEFソマリアの支援を受けて策定したもの)参照。
11.7 委員会はまた、難民不服申立委員会が、2017年2月2日の決定において、申立人自身の庇護理由に関する申立人の主張を審理したうえで信憑性に欠けると認定したことにも留意する。同委員会は、その同じ決定において、娘がプントランドに送還されれば女性性器切除の対象とされるおそれがある旨の申立人の主張の検討に1パラグラフを割いたうえで、同委員会は「とくに、プントランド(ソマリア)では、母親には娘が母親の意思に反して女性性器切除の対象とされないようにすることが可能であるという情報を含む利用可能な背景情報を決定的に重視する」と述べて、この主張を棄却している。ここで依拠された背景情報とは、プントランド地域ではなく、中部・南部ソマリアにおける女性性器切除についての移民局の報告書(2015年)であった。同委員会はまた、申立人とその娘をソマリアに送還することも命じており、その後の決定(2017年3月14日付)でようやく、さらなる理由はまったく示さないまま、送還先を訂正して申立人らはプントランドに送還されるべきであるとした。
11.8 委員会は、子どもの送還に関わる決定においては子どもの最善の利益が第一次的に考慮されるべきであること、および、そのような決定においては――適切な適正手続の保障措置をともなった手続のなかで――子どもが安全な状況に置かれ、かつしかるべきケアを提供され、かつ諸権利を享受できるようにされることが確保されるべきであることを想起する [23]。本件において、委員会は、委員会に提出された主張および情報(プントランドにおける申立人の過去の経験およびプントランドにおける女性性器切除の具体的状況についての報告に基づいて実施された、母親は社会的圧力に抵抗することができるはずである旨の評価を含む)に留意する。しかしながら、委員会の所見は次のとおりである。
  • (a) 難民不服申立委員会の評価は、中部・南部ソマリアに関する1件の報告を一般的に参照するに留まっており、とくにプントランドにおける女性性器切除実施率が一貫して高いことおよび申立人が男性の支援ネットワークを有さないシングルマザーとして送還されることに照らせば、申立人とその娘が送還される具体的かつ個人的な文脈を評価の対象とせず、かつ子どもの最善の利益を考慮していなかった。
  • (b) 締約国の主張するところによれば、申立人は、ソマリアを出国したことをもって、いかなる社会的圧力にも抗することが可能であり、したがって女性性器切除の対象とされることから娘を保護することのできる、相当の個人的強さをもった自立した女性であるように思われるという。しかしながら委員会は、申立人の出国は圧力に抵抗することができなかったものとも解釈できることに留意するものである。いずれにせよ委員会は、第19条に基づく子どもの権利は母親が家族および社会の圧力に抵抗できるか否かに左右されるものであってはならず、また締約国は、親または保護者が社会的圧力に抵抗できない場合でさえ、あらゆる状況下で、あらゆる形態の身体的または精神的暴力、傷害または虐待から子どもを保護するための措置をとるべきであると判断する。
  • (c) 送還先の国において子どもが女性性器切除などの回復不可能な有害慣行の対象とされるおそれについての評価は予防原則(the principle of precaution)にしたがって実施されるべきであり、受入れ国がこのような慣行から子どもを保護できないという合理的疑いが存在するときは、締約国は子どもの送還を行なわないようにするべきである。
[23] 移住労働者権利委員会の合同一般的意見3号(2017年)および子どもの権利委員会の合同一般的意見22号(2017年)、パラ29および33参照。
11.9 したがって委員会は、締約国が、条約第3条および第19条に違反して、プントランドに送還されれば申立人の娘は女性性器切除の対象とされるおそれがある旨の主張を評価する際に子どもの最善の利益を考慮せず、かつ送還時に子どものウェルビーイングを確保するための適正な保障措置をとらなかったと結論する。
11.10 委員会は、通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書第10条(5)に基づいて行動し、委員会に提出された諸事実は条約第3条および第19条の違反を明らかにするものであるとの見解をとる。
12.締約国は、申立人とその娘をプントランドに送還しないようにする義務を負う。締約国はまた、今後同様の違反が行なわれないようにするために必要なあらゆる措置をとる義務も負う。
13.委員会は、締約国が、通報手続に関する条約の選択議定書に加盟したことをもって、条約またはその実体的選択議定書(武力紛争への子どもの関与に関するものならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関するもの)の違反があったか否かを決定する委員会の権限を認めたことを想起する。
14.通報手続に関する選択議定書第11条にしたがい、委員会は、委員会の見解を実施するためにとられた措置についての情報を180日以内に締約国から受領したいと考える。締約国はまた、条約第44条に基づいて委員会に提出する報告書にも、このような措置がとられた場合には当該措置についての情報を記載するよう要請される。最後に、締約国は、本見解を公表し、かつ締約国の公用語で広く普及するよう要請されるところである。

  • 更新履歴:ページ作成(2018年8月24日)。