総括所見:ポーランド(第1回・1995年)


CRC/C/15/Add.31(1995年1月15日)/第8会期
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1995年1月16日および17日に開かれた第192回~第194回会合(CRC/C/SR.192-194)においてポーランドの第1回報告書(CRC/C/8/Add.11 & HRI/CORE/1/Add.25)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
(注)1995年1月26日に開かれた第208回会合において。

A.序

2.委員会は、締約国に対し、その報告書に関して、かつハイレベルな代表団を通じて委員会との建設的かつ率直な対話に携わったことに関して、評価の意を表する。委員会は、事前質問票(CRC/C/8/WP.4) への回答としてポーランド政府が提供した、文書による情報を歓迎するものである。その情報は会期前に委員会に届けられた。

B.積極的な側面

3.委員会は、閣僚評議会が報告書を正式に採択したことを歓迎する。
4.委員会はさらに、条約の批准時に行なわれた留保および宣言の内容を、その撤回の可能性を検討する方向で見直す意思を代表団が表明したことを歓迎する。
5.委員会は、条約で規定された権利の実施を阻害するさまざまな問題を特定しかつそれに取り組み、かつ、とくに子どもの保健の領域で適切な解決策を求めることに対して、政府が前向きな姿勢を示していることに心強い思いを感ずる。
6.委員会は、子どもの権利に関する意識を促進するために政府がとった措置を歓迎する。委員会はまた、ユニセフ・ポーランド委員会および子どもの権利保護委員会が条約の条文を刊行したこと、ならびに、いくつかのワークショップおよびセミナーが組織されたことも歓迎するものである。委員会は、条約の権利および原則についての教員の研修に関してとられた措置ならびに裁判官のために行なわれた同様の活動に、心強い思いを感ずる。
7.委員会は、市民的権利コミッショナーが行なった活動、ならびに、子どもの権利も含む人権および基本的自由の保護のために女性家族問題政府全権事務所を再設置するという最近の決定に、満足感とともに留意する。
8.委員会は、ポーランドが、現在の財政的困難にも関わらず、発展途上国の学生の教育の領域におけるものも含めて国際協力活動に参加しようとしていることを評価する。
9.委員会は、同国の危機的な政治的および経済的変化の時期にあって、締約国が、子どものための前向きな変化を導入することおよび子どものニーズを考慮に入れた政策を継続することを重視していることを、認識する。これとの関連で、委員会は、とくに、委員会の総括所見に閣僚評議会の注意を促し、適切な行動を求めることを代表団が保証したことを、歓迎するものである。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

10.委員会は、現在の政治的移行期にあって、かつ社会的変化および経済的危機の雰囲気のなかで、ポーランドが直面している困難に留意する。委員会は、多くの子どもたちの状況が、進行しつつある貧困および増加する失業の影響を受けていることに留意するものである。
12.委員会はまた、条約の一般原則と矛盾する偏見、非寛容および他の社会的態度によって引き起こされてきた困難にも留意する。

D.主要な懸念事項

12.委員会は、同国に広がっている困難な経済状況が子どもたちに与える影響に心を痛める。これとの関連で、委員会は、条約第3条および第4条に照らし、子ども、とくにもっとも被害を受けやすい状況に置かれた集団に属する子どもを保護するために適切な措置がとられているかどうかについて、とくに懸念するものである。
13.委員会は、同国にいまなお広がっている伝統的態度が、とくに第2条(差別の禁止の原則)、第3条(子どもの最善の利益の原則)および第12条(子どもの意見の尊重)を含む条約の一般原則の実現に資していないのではないかと懸念する。
14.委員会は、最低婚姻年齢、家族法および少年司法の領域の場合のように、既存の立法を条約と全面的に一致させるための法改正の枠組みにおいてとられた措置が、条約の一般原則等に照らしても不十分であることを懸念する。
15.委員会は、子どもの権利の促進および保護のための政策を実施するにあたって、さまざまな省庁の間で、かつ中央の公的機関と地域および地方の公的機関との間で十分な調整が行なわれていないことを懸念する。
16.委員会は、子どもの権利の分野で体系的な監視機構が存在しないこと、および、子どもの状況に関するデータ収集のための包括的なシステムが存在しないことに、懸念を表明する。このような状況は、条約の実施において蔓延している経済的および社会的格差を十分に克服することができない結果をもたらしている。
17.委員会は、子どもの権利の分野における国家的戦略がまだ採択されておらず、かつ、被害を受けやすい状況に置かれた子どもの権利の悪化を防止するためにセーフティ・ネットが設けられることを確保することを目的とした、このような子どもを保護するための具体的プログラムが、国内行動計画の採択によるものも含めてまだ確立されていないことを、懸念する。
18.委員会は、条約の原則および規定に関する意識が、市民のさまざまな層の間で不十分であることを懸念する。これとの関連で、委員会は、HIVまたはAIDSに感染した子どもおよびロマの子どものような、とくに被害を受けやすい状況に置かれた子どものニーズおよび状況に、社会が十分に敏感になっていないことも懸念するものである。委員会は、専門家集団、とくにソーシャルワーカー、法執行官および司法職員に対して十分な研修が行なわれていないことを懸念する。
19.委員会は、学校または子どもが措置される可能性のある施設における体罰および子どもの不当な取扱いを効果的に防止しかつそれと闘うために適切な措置がとられていないことを、遺憾に思う。委員会はまた、家庭における子どもの虐待および暴力が大規模に存在すること、および、この点で現行法による保護が不十分であることにも、心を痛めるものである。
20.少年司法の運営に関わる状況、ならびに、とくにそれが条約第37条および第40条ならびに北京規則リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護に関する国際連合規則のような他の関連の基準と両立するかどうかという点は、委員会にとって懸念の対象である。これとの関連で、委員会は、「少年の堕落」に関する規定が条約と両立しないように思えることを遺憾に思う。
21.委員会は、犯罪活動に子どもがますます利用されかつ関与させられるようになっていること、ならびに、子どもが性的虐待、薬物濫用、アルコール依存ならびに拷問および不当な取扱いにさらされやすくなっていることに、懸念とともに留意する。

E.提案および勧告

22.委員会は、ポーランド政府に対し、条約第12条~第16条に定義された権利の行使に関わって行なわれた留保および宣言を、撤回の方向で見直す可能性を検討するよう奨励する。
23.委員会は、子どもに関する包括的な政策を発展させ、かつ同国における子どもの権利条約の実施の効果的な評価を確保する目的で、締約国が、人権および子どもの権利に携わるさまざまな政府機構間の調整を全国および地方のいずれのレベルでも強化し、かつ、非政府組織とのより緊密な協力を確保するよう勧告する。これとの関連で、委員会は、市民的権利コミッショナーおよび最近再設置された女性家族問題政府全権事務所が現在有している権限および責任の強化を検討するよう提案するものである。
24.委員会はさらに、締約国が、もっとも被害を受けやすい状況に置かれた集団に属する子どもとの関わりも含めて、条約が対象としているさまざまな領域における子どもの状況に関するあらゆる必要な情報の収集に着手するよう勧告する。委員会はまた、条約で認められた権利の実現にあたって達成された進展および直面した困難を中央、地域および地方のレベルで評価し、かつ、とくに経済的変化が子どもに与える効果を定期的に監視するために、分野横断的な監視システムを確立するようにも提案するものである。そのような監視システムは、締約国が適切な政策を立案し、かつ蔓延している格差および伝統的偏見と闘うことを可能にしてくれよう。
25.委員会は、ポーランド政府に対し、条約第4条の全面的実施に注意を向け、かつ、中央、地域および地方のレベルで賢明な資源配分を確保するよう奨励する。経済的、社会的および文化的権利の実施のための予算配分は、利用可能な資源を最大限に用いて、かつ子どもの最善の利益に照らして確保されるべきである。
26.委員会はさらに、政府に対し、子どもの権利の分野における国内行動計画の採択を考慮し、かつ、子どもを保護すること、および、経済的移行の流れの中で彼らの権利が悪化することを防止するセーフティネットの確立を確保することを目的として、具体的なプログラムを発展させるよう奨励する。
27.委員会は、条約第42条に照らし、大人および子どもの双方によって条約の規定および原則が広く知られかつ理解されるようにするために、さらなる努力が必要であるという見解に立つものである。
28.条約第2条に照らし、被害を受けやすい状況に置かれた子ども、とくにロマの子どもおよびHIV/AIDSに感染した子どもに対する差別的態度または偏見の増加を防止するためにも、さらなる措置がとられるべきである。
29.委員会は、教員、法執行官および裁判官を含む、子どもとともにまたは子どものために働く専門家集団を対象として子どもの権利に関する定期的研修プログラムを組織し、かつ、人権および子どもの権利をこれらの専門家の養成カリキュラムに含めることを勧告する。
30.委員会は、締約国が、子どもの権利条約の規定と国内法との全面的一致を確保する目的で法改正を継続し、かつ、差別の禁止、子どもの最善の利益および子どもの意見の尊重を含む条約の一般原則を明確に反映させるよう提案する。これとの関連で、委員会は、1968年家族法を見直すこと、および、国際養子縁組に関して現在設けられている保障措置を向上させることを勧告するものである。これとの関連で、委員会は、ポーランド政府に対し、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約の批准を検討するよう奨励する。
31.委員会はさらに、拷問または他の残酷な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは処罰の明確な禁止および家庭における体罰の禁止を、国内法に反映させるよう提案する。この分野について、委員会はまた、家庭の内外における不当なまたは残酷な取扱いに関する苦情を監視するための手続および機構を発展させるようにも提案するものである。さらに、あらゆる形態のネグレクト、虐待、搾取、拷問または不当な取扱いの被害を受けた子どもの身体的および心理的回復ならびに社会的再統合を、子どもの健康、自尊心および尊厳を助長するような環境のなかで促進するための特別プログラムが設けられるべきである。
32.委員会は、政府が、法改正の枠組みのなかで、子どもの権利条約の規定および原則に照らし、保護者のいない子どもおよび難民認定を拒否されて送還を待っている子どもの状況への対応を構想するよう勧告する。これとの関連で、委員会は、締約国に対し、UNHCRの技術的援助を求めることを検討するよう奨励するものである。
33.少年司法の運営の分野について、委員会は、包括的な改革を行なうこと、ならびに、当該改革において、子どもの権利条約(とくに第37条、第39条および第40条)ならびに北京規則リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護に関する国際連合規則のようなこの分野の他の関連の国際基準を指針とすることを、提案する。少年非行の防止、自由を奪われた子どもの権利の保護、および、公的援助という名目のものも含めた少年司法制度のあらゆる側面における基本的権利および法的保障措置への尊重に、とくに注意が向けられるべきである。少年司法制度に携わるすべての専門家、とくに裁判官、法執行官、矯正施設職員およびソーシャルワーカーを対象として、関連の国際基準に関する研修プログラムが組織されるべきである。委員会は、この領域における技術的援助を、人権センターおよび犯罪防止刑事司法局に対して求めるよう勧告する。
34.委員会は、家族教育を提供し、かつ社会における家族の役割および親の平等責任に関する意識を発展させるために、さらなる努力が行なわれるべきであると考える。とくに条約第18条および第27条に照らし、両親が子育ての責任を遂行する際に援助を提供するシステムを強化するため、さらなる措置がとられるべきである。さらに、ひとり親となることの問題に関して研究を行なうこと、および、ひとり親の特別なニーズに対応するため関連のプログラムを確立することが、提案されるところである。
35.委員会は、締約国に対し、施設養護に代わる可能性のある手段を構想しかつ利用できるようにし、かつ施設に措置された子どもの権利の実現を効果的に監視する機構を確立する目的で、施設における子どもの状況に対処するよう奨励する。
36.委員会は、締約国に対し、条約を実施する努力、とくに国内法を条約に調和させ、子どもの権利に関する調整機構および監視機構を発展させ、かつ子どもの権利を明確な優先順位として位置づける包括的な社会政策を採択する努力について、とくに人権センターおよびユニセフの国際的な技術的援助および助言を求めるよう奨励する。
37.最後に委員会は、条約第44条第6項に照らし、政府が提出した報告書を公衆一般が利用できるようにし、かつ、関連の議事要録および委員会がここに採択した総括所見とともに同報告書を刊行することを検討するよう、勧告する。


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最終更新:2017年02月28日 05:57