子どもの権利委員会・一般的討議勧告:少年司法の運営


(第10会期、1995年)
原文:英語(PDF)
日本語訳:平野裕二

C.少年司法の運営に関する一般的討議

(略)
205.少年司法の運営の問題は、とくに締約国報告書との関連で委員会が採択した総括所見において、委員会による一貫した関心の対象となってきた(CRC/C/15 and addenda)。そのため、今回の一般的討議は、委員会が任務を開始するようになって最初の数年間の経験を評価する機会となった。
206.委員会の経験から明らかになってきたのは、少年司法の運営は、世界のあらゆる地域で、またあらゆる法体系との関連で実際上の関心の対象になっているということである。子どもの権利条約およびこの分野で採択されているその他の国連基準――少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止に関する国連指針(リャド・ガイドライン)および自由を奪われた少年の保護に関する国連規則――から派生する挑戦的かつ革新的な理念は、子どもを基本的権利および自由の主体として承認し、かつ子どもに関わるすべての行動において子どもの最善の利益が第一次的考慮事項として指針とされる、子ども志向の制度をもたらすものである。このような制度を達成するため、締約国は、自国の国内法および国内実務が子どもの権利条約と全面的に一致することを確保するために、とくに第4条に照らし、あらゆる必要な措置をとる必要がある。
207.(略)
208.委員会は、議論の際に検討すべき2つの主要な分野として、現行の基準を効果的に実施することの関連性、および、とくに技術的援助プログラムを通じた国際協力の有用性を挙げていた。委員会としては、これらのテーマについて討議することが、子どもの人権の保護および尊重に関して説明責任を果たしていくことの重要性を強調することに資し、かつこれらの権利の実現のための国際連帯を促進することの必要性を強調することにつながると考えたものである。
209~211.(略)
212.一般的討議への導入は、委員会の委員であるサンドラ・メイソン氏によって行なわれた。メイソン委員の発言では、子どもの権利に対する条約のホリスティック・アプローチと、少年司法の分野でとくに関連性を有する条約の一般原則の本質的有用性が強調された。子どもを権利の主体として捉えること、法律の前における平等の明確な承認および実施を確保すること、ならびに、人権と法的権利との間に存在する本質的つながりを承認することが、現行の基準、とくに子どもの権利条約の尊重を確保するために不可欠な手段として強調された。
213.委員会の委員および招請された参加者のさまざまな発言によって活発な議論が確保され、そのなかで、国連が定めている現行の規範および原則の重要性が強調され、国レベル・地域レベルで実施されているプロジェクトの具体例が紹介され、かつ、世界中で子どもの権利の実現を確保していく過程で成功裡に達成された成果および直面した困難について言及された。
214.このような枠組みのなかで、条約の普遍性が、特段の重要性を有するものとして取り上げられた。批准国が181か国にのぼることに鑑み、条約は、少年司法の運営の問題に対応していく際の共通の参照文書であり、かつ倫理的ビジョンを示すものである。条約の規定に拘束力があるということは、締約国が、そこに掲げられた諸権利をはっきりと承認したことを含意する。加えて、条約は、子どもの権利の実現にもっとも資する規定の実施を求めており、したがって、他の関連の国際基準(とくに北京規則リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護に関する国連規則)とあわせて考慮されなければならない。これらの文書は、条約で認められている諸権利を補完し、かつその実施のための指針を示すとともに、人権と少年司法との間に抵触が生じる可能性はないことを確認するものである。
215.このようなアプローチは、委員会による締約国報告書の検討、事前質問事項の作成ならびに政府に宛てられた総括所見および勧告のとりまとめにおいて広くとられている。さらに、条約第44条を踏まえて提出されるべき将来の定期報告書に関するガイドラインの作成においても、このようなアプローチが指針とされることになろう。
216.より幅広い文脈で子どもの権利を実現していくための行動においても、このようなアプローチを参考にすることが求められる。少年司法を、刑事法への抵触が生じた状況に限定して考えることはできないためである。一例として、子どもの庇護希望者および難民ならびに保護者のいない子どもの分野に対して注意が払われた。実際のところ、このような子どもに対しては子どもの権利条約の多様な規定が適用されるのであり、また条約という法的文書は普遍的性質を有しているのであるから、このような子どもの基本的人権および法的保障の水準は、とくに自由の剥奪または家族からの分離の状況下にあっては拡大されるのである。このような状況では、子どもが尊厳および価値についての感覚を促進するのにふさわしい方法で取り扱われること、ならびに、決定が、自己の意見を形成する力のある子どもに対して自由に自己の意見を表明する権利を保障する適正手続のなかで、子どもの最善の利益に照らして明確な形で行なわれることを確保することが必要不可欠となる。
217.監視機能の履行に関わる委員会の経験を評価するなかで、報告書には少年司法に関する情報(逮捕、拘禁または収監によって自由を剥奪された子どもの人数に関するデータを含む)が記載されていない場合が非常に多いことが強調された。報告書は法的規定の一般的記述に留まっていることが通例であり、司法運営制度に少年が関わることにつながる社会的諸要因またはその過程で行なわれた決定の社会的影響について取り上げられていることはめったにない。同様に、子どもの権利の効果的実現に向けた進捗を阻害する要因または困難も特定されていないのが通例である。
218.とりわけ、条約の一般原則が国内法または国内実務に十分反映されていないことが感じられた。差別の禁止との関連で特段の懸念が表明されたのは、子どもの刑事責任の鑑別および子どもに適用される措置の決定において、(たとえば第二次性徴期への到達、事理弁識年齢または子どもの人格との関連で)主観的かつ恣意的な基準がいまなお広く用いられている場合があることである。地位が低いことから社会的排除およびスティグマ(警察官によるものを含む)に直面することが多い、路上で生活しかつ(または)働いている子どもの状況に対しても注意が払われた。このような状況は、頻繁に行なわれる極端な人権侵害が、ほとんど監視または処罰の対象とされず、そのため容認しえない不処罰の状況下で行なわれることにつながる。
219.条約は、少年司法の運営との関連でも子どもの最善の利益の原則を再確認している。このことは、条約が、子どもは尊厳および価値についての感覚を促進するのにふさわしい方法で取り扱われるべきであり、また当該方法は、子どもの人権および基本的自由の尊重を強化し、かつ子どもの年齢および特別なニーズを考慮に入れたものでなければならないと強調している点に、とくに表れているところである。しかし、複数の報告が明らかにしているところによれば、特別な少年司法制度が存在しないことも多く、裁判官、弁護士、ソーシャルワーカーまたは施設職員を対象とした特別な研修がまったく実施されておらず、かつ、基本的権利および法的保障についての情報が子どもに提供されていない。こうした理由から、かつ条約に反して、自由の剥奪が、条約で求められているように最後の手段としてかつもっとも短い可能な期間でのみ用いられることにはなっておらず、また家族との接触も原則とされていいない。法的その他の援助も提供されておらず、無償の法律扶助が提供されていないこともしばしばある。
220.同様に、自己に影響を与える手続に参加する子どもの権利との関連では、子どもが自己の権利(弁護人の援助を受ける権利を含む)について、または事案をとりまく状況もしくは決定された措置について、十分に認識している例はほとんどないことが、締約国報告書から明らかにされてきた。子どもはまた、基本的権利の侵害の被害を受けたとき(不当な取扱いおよび性的虐待の事案を含む)にも、苦情申立ての権利をしばしば否定されている。さらに、少年司法が社会的および感情的圧力の対象となる傾向が強まりつつあることは、子どもの最善の利益の尊重が損なわれる機会を生み出すことにつながるので、特段の懸念の対象である。
221.一部の国で死刑がいまなお18歳未満の者についても認められていること、むち打ちが教育的措置および懲罰措置として使用されていること、ならびに、子どもの健康、自尊心および尊厳を育む環境のなかで行なわれる身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のための効果的制度を促進していく必要性に対して十分な注意が払われていないことに、深い遺憾の意とともに留意された。
222.この文脈において、条約第42条に照らし、かつ人権教育のための国際連合10年の精神にのっとり、子どもの権利に関する情報提供および意識啓発のための体系的キャンペーンを確保する明確な必要性があることが感じられた。子どもの基本的権利の侵害または基本的な法的保障の軽視の防止を強化する手段として、学校制度等も通じ、アクセスしやすい情報を子どもに提供するために特段の努力が行なわれるべきである。
223.同様に、この分野で子どもとともにおよび子どものために働いている関連の専門家集団を対象として体系的な研修活動が実施されることを確保するために、さらなる措置をとることが求められる。これとの関連で、子どもの権利条約を養成・研修カリキュラムに編入すること、および、関連の行動規範に条約の基本的価値観を反映させることの重要性が強調された。また、裁判官、弁護士、ソーシャルワーカー、法執行官、出入国管理官および子どものための施設で働く職員が果たす役割に対し、特段の言及がなされた。
224.条約およびこの分野で採択された他の関連の国際連合基準を含む少年司法基準についてのマニュアル(可能であればこれらの基準に関する評釈を付したもの)および法執行官研修マニュアルが出版されかつ広く普及されることを緊急に確保しなければならないことが強調された。委員会は、このような努力に参加していく積極的意思を表明しつつ、アドボカシーおよび研修活動のためのツールとしてのこのようなマニュアル(人権センターおよび犯罪防止・刑事司法部によって作成されたものを含む)の重要性を認めた。
225.これらの措置はいずれも、子どもの権利の効果的実現の確保にさらに資し、かつ、少年司法の分野で採択された国際基準に国内法が全面的に合致することを促進することにつながるはずである。
226.さらに、これまで述べてきたすべての措置は、子どもが常に人としての人間の尊厳に内在する権利の主体として捉えられること、および、子どもが主として被害者として捉えられること(性的搾取、児童買春および児童ポルノの状況に置かれている場合を含む)を確保するうえで役立つことになろう。子どもの刑事責任は、子どもが貧困および社会的排除に直面しなければならなかった状況を明確に除外した、客観的基準に基づいて判断されるべきである。
227.さらに、自由の剥奪、とくに未決拘禁は、けっして不法にまたは恣意的に用いられるべきではなく、かつ、他のすべての代替的解決策では不十分であることが証明された場合にのみ用いられるようにすることが求められる。すべての子どもは、自由を奪われた際、法的および他の適切な援助に速やかにアクセスする権利、および、その自由の剥奪の合法性を裁判所または他の公平なかつ独立の機関において争う権利が認められるべきである。子どものプライバシーを、犯罪記録およびメディアによって行なわれる可能性がある報道との関連も含めて、手続のあらゆる段階で全面的に尊重することが求められる。
228.同じ文脈で、福祉という名目のもと、子どもの最善の利益を正当に考慮することも条約で認められた基本的保障を確保することもなく行なわれる、子どもの施設措置についても懸念が表明された。このような基本的保障には、司法機関で措置決定について争う権利、子どもに対して行なわれる処遇および子どもの措置に関連する他のあらゆる事情について定期的に再審査される権利ならびに苦情申立ての権利が含まれる。
229.施設擁護に代わる措置の追求が促され、また子どものための施設で蔓延している透明性の欠如に終止符を打つために十分な措置をとることが求められた。これとの関連で、このような施設への定期的訪問およびこのような施設の効果的監視を(苦情が申し立てられている場合には当該苦情との関連も含めて)確保するための独立機構を国レベルおよび国際的レベルで発展させていくことを真剣に考慮するべきである旨、提案が行なわれた。とくに武力紛争の状況下で赤十字国際委員会が果たしている重要な役割、および、拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いおよび刑罰に関する条約の選択議定書の枠組みのなかで拘禁施設への定期訪問制度を導入すべく人権委員会が現在行なっている努力を想起しながら、参加者は、
国内独立機構が特段の関連性を有することを強調した。これとの関連で、裁判官が果たしうる役割、および、若者の権利および利益の尊重を確保するためのオンブズマンによる介入の重要性への言及もあった。
230.議論の際には、子どもの権利の効果的享受、ならびに、自尊心および尊厳を育む環境における子どもの再統合を確保するうえで、家族の役割が根本的重要性を有することが認められた。条約およびリャド・ガイドラインの双方に照らし、家族に対し、施設に措置された子どもとの接触をいっそう緊密かつ頻繁なものとすることおよび子どもの処遇について発言することが奨励されるべきである。子どものプログラムに対する家族の関与の度合いを高め、かつ自宅滞在のための子どもの一時外出を促進することを通じて、子どもの社会化を促進することが求められる。これとの関連で、少年司法の心理社会的影響についての調査研究が勧告された。
231.これとの関連で興味深い点として留意されたのは、伝統的制度においては、子どもの社会的再統合および子どもの積極的な社会参加の促進を確保するプロセスで、拡大家族を含む家族およびコミュニティが重視されていることである。このような制度は、家族のプライバシーが尊重されることを可能にするとともに、身柄拘束または体刑に代わる手段としての癒しおよび和解の措置の検討を奨励することにつながる。
232.したがって、この分野における調査研究が、条約およびその基本的価値観と全面的に両立する伝統的解決策を特定するために重要であると考えられる。このような解決策が特定の社会で広く共有されれば、子どもの権利の効果的実現に有用となる可能性がある。
233.一般的意見では、国際連合システムにおいて明らかに優先課題と位置づけられるようになった、少年司法の分野における国際協力の大きな関連性が強調された。
234.したがって、子どもの権利委員会、犯罪防止・刑事司法委員会および国際連合社会開発・人道問題センターの犯罪防止・刑事司法部、人権委員会ならびに人権センターの助言サービス・技術的援助・情報部をはじめとする関連機関は、調査研究、研修、普及および情報交換、現行の基準の実施および監視の分野でならびに具体的な技術的援助プログラムにおいて、いっそうの協力を進めるべきである。そのようにして初めて、刑事司法と人権との間にある本質的結びつきを明確な形で再確認しつつ、資源を合理的に使用し、活動を適切に整理し、かつプログラムの効率性を高めることが可能になる。このような理由から、これらの機関の一部の代表がテーマ別討議に参加してくれたのは歓迎されるところである。
235.条約の報告制度(締約国との間で持たれる対話および委員会が採択する総括所見を含む)は、技術的援助プログラムの包括的枠組みを確保するうえで決定的に重要であることが認識された。報告制度は、いずれかの特定の国の状況を明確に理解するための、また国際協力を助長し、かつ国内の能力および社会基盤を強化するための基礎となるものである。
236.委員会が締約国に対して行なう勧告は、調査研究、法改正および専門家集団の研修の分野における技術的援助プログラムの実施において、または身柄拘束措置に代わる手段を検討する際に、かつニーズ評価作業および評価手続にとって、特別な有用性を持つものとなりうる。
237.以上のあらゆる理由から、かつ子どもの権利条約がほぼすべての国によって批准されていることを踏まえ、少年司法の領域における国際的な協力および援助の分野で委員会が結節点となるのは自然なことであり、委員会はこの分野で触媒としての役割を果たしている。
238.このような精神にのっとり、委員会は、技術的協力の戦略およびそのために考えられるネットワークの設置について検討するために考えられた取り組みを歓迎した。委員会はさらに、人権高等弁務官の行動計画を踏まえ、またはこの目的のための独立機関の設置を通じて委員会に対するいっそうの援助を確保するために行なわれている提案も歓迎した。


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