子どもの権利委員会・一般的討議勧告:子どもの経済的搾取


(第4会期、1994年)
原文:英語
※一般的討議が行なわれたのは第4会期だが、以下の勧告は第5会期に関する報告書に掲載されたものである。
日本語訳:平野裕二

子どもの経済的搾取に関する勧告

 委員会は、第5会期において、とくに児童労働に関連する子どもの経済的搾取(家事労働、子どもの売買、児童買春および児童ポルノのようにインフォーマル部門におけるものを含む)についての一般的討議の際に検討された問題の重要性を認め、かつ委員会と国際連合機関、専門機関およびその他の権限ある機関(とくに非政府組織)との間で交わされた実りのある意見交換を踏まえ、その活動の枠組みのなかでこの現実に引き続き注意を払っていくとともに、この分野における一連の勧告を採択することを決定した。

はじめに
1.子どもの経済的搾取に関する一般的討議は、子どもの権利条約で強調されている、子どもの人権に対する重要なホリスティックアプローチを反映したものだった。この精神にのっとり、子どもの権利委員会は、すべての権利が相互に不可分でありかつ関連していて、そのひとつひとつが子どもの人間の尊厳にとって本質的なものであることを想起する。したがって、条約に掲げられたひとつひとつの権利を実施していく際には、経済的搾取から保護される権利の場合にそうであるように、子どもが有する他のすべての権利の実施およびそれらの権利の尊重を考慮するべきである。
2.委員会はさらに、締約国が、条約に基づき、条約で認められているすべての権利を、自国の管轄下にあるすべての子どもに対し、いかなる種類の差別もなく尊重しかつ確保すること(第2条)、その目的の達成のためにあらゆる適切な措置をとること(第4条)、および、とられるすべての行動において子どもの最善の利益を第一次的考慮事項と位置づけること(第3条)を約束していることを想起する。さらに、子どもに影響を及ぼすすべての事柄について、子どもの意見が正当に重視されるべきであり、かつ、子どもに対し、自己の生活に影響を及ぼすいかなる意思決定過程にも参加する機会が与えられるべきである(第12条)。
3.この一般的枠組みは、当然、子どもの経済的搾取の状況においても適用される。ここで条約は、他の場合と同様に、締約国に対し、十分な法的枠組みおよび必要な実施機構を条約の原則および規定に一致する形で確立することを通じた行動をとるよう求めているのである。
4.そのような措置は、経済的搾取の状況およびそれが子どもの生活に及ぼす有害な影響の防止を強化することにつながるであろうし、子どもの保護の制度の強化を目的としてとられるべきであるし、かつ、いかなる形態の経済的搾取の被害を受けた子どもについても、その身体的および心理的回復ならびに社会的再統合を、子どもの健康、自尊心および尊厳を醸成する環境のなかで促進することにつながるであろう。
5.条約は、その報告制度(条約第2部参照)を通じ、締約国が条約の実施に関して達成された進展の定期的な評価を確保することの重要性も強調している。締約国は、このような監視活動により、自国の法律および政策を定期的に見直し、かつさらなる行動またはその他の行動が必要とされている分野に焦点を当てることができるようになる。そこで委員会は、子どもの状況の改善における報告制度の関連性を想起するとともに、各国、国際連合機関、専門機関および他の権限ある機関に対し、経済的搾取からの子どもの保護の枠組みのなかで以下の一連の勧告を検討するよう慫慂する。
  • (a) 委員会は、子どもの権利の分野で活動するすべての関連の主体による包括的かつ協調的な行動を通じて初めて、経済的に搾取されている子どもに関わる防止、保護およびリハビリテーションの政策を向上させ、かつその成功を確保することが可能になることを認識する。このような理由から、委員会は、国レベルおよび国際的レベルの双方における調整の重要性および必要性を強調するものである。
    • (i) 委員会は、これとの関連で、政策を調整しかつ子どもの権利条約の実施を監視するための、経済的搾取からの保護の分野で具体的な権限を有する国家的機構の設置を勧告する。
      • a. 国レベルで活動するさまざまな権限のある機関によって構成される(子どもの権利条約に関する国家委員会などの)このような調整機構は、条約の実施に対する総合的かつ学際的なアプローチを確保し、かつ発展する活動の効果的な相互作用および補完性を促進するのに適した立場にある。さらに、あらゆる関連の情報の収集を容易にし、現実の体系的かつ正確な評価を可能ならしめ、かつ子どもの権利の促進および保護のための新たな戦略(経済的搾取からの保護の分野におけるものを含む)の検討への道を開くこともできる。
6.このような調整機構は、協力を奨励すべき{調整非政府組織](労働者団体および使用者団体を含む)調整の活動にとっての重要な参照窓口にもなる。実際、世界人権会議でも認められたように、このような組織は、とくにアドボカシー、教育、研修またはリハビリテーションの分野――あらゆる形態の経済的搾取から子どもを保護するうえでもきわめて重要な分野――で、条約の効果的実施において重要な役割を担うのである。
    • (ii) 委員会は、子どもの権利条約が国際協力に必要不可欠な役割を与えていることを想起する。委員会はさらに、条約の実施を支えるために国際的な協力および連帯を促進する必要があること、および、国際連合システムにおいて子どもの権利が優先的課題として位置づけられるべきであることが、世界人権会議において認められたことを想起するものである。
      • a. そこで委員会は、各国に対し、とくに二国間および地域間のレベルで、子どもの権利の促進のための協力および連帯を強化する方策を検討するよう奨励する。
      • b. 委員会はまた、関連の国際連合機関および専門機関、国際金融機関ならびに国際開発機関に対し、あらゆる形態の経済的搾取からの子どもの保護の分野におけるものも含む活動の調整および相互作用を増進させることも奨励する。
      • c. 委員会はさらに、国際連合機関および専門機関に対し、それぞれの権限にしたがい、子どもの人権および状況についての検討および監視を恒常的に行なうよう奨励する。この枠組みにおいて、委員会は、技術的な助言および援助のプログラムにとって、条約が示唆に富む法的枠組みとして決定的関連性を有していることを想起するとともに、委員会が、国際連合システム全体の行動における子どもの権利についての中心的機関として引き続き果たしていこうと考えている触媒としての役割を再確認するものである。
  • (b) 委員会は、経済的搾取の状況の防止を確保し、かつ経済的搾取の栄養を受けた子どもの保護およびリハビリテーションを図るために、情報および教育が不可欠な重要性を有することを強調する。
    • (i) この枠組みにおいて、委員会は、締約国が、この条約の原則および規定を、適切かつ積極的な手段により、大人および子どもの双方に対して同様に広く知らせることを約束していることを想起する(第42条)。
      • a. この目的のため、委員会は、締約国が、子どもが自己の権利(学習する権利、遊ぶ権利および休息をとる権利を含む)、自己が享受することのできる保護措置、および、経済的搾取の状況に置かれた場合に――健康にとって有害であり、調和のとれた発達を妨げ、教育を阻害し、または犯罪活動への関与につながる活動の場合などのように――直面するリスクについて認識できるようにすることを目的として、子どもをとくに対象とした、条約に関する幅広い広報キャンペーンを開始するよう勧告する。
      • b. 同様に、条約に関する意識啓発および理解の深化を図る目的、とくに子どもの尊厳の尊重を確保し、差別的な態度を防止し、かつ経済的搾取の状況からの子どもの効果的保護を達成する目的で、公衆一般を対象とする広報キャンペーン(家庭およびコミュニティのレベルにおけるものならびに労働者および使用者を対象とするものを含む)が構想されるべきである。子どもとともにまたは子どものために働く特別な専門家集団(教員、法執行官、裁判官およびソーシャルワーカーを含む)を対象とする研修も開催されるべきであり、このような研修は、子どもに対する差別ならびに周縁化およびスティグマを防止し、かつ子どもの視点を正当に考慮するよう奨励することに資するであろう。
      • c. これらのさまざまな活動は、政府機関および非政府機関と緊密に協力しながら発展させられるべきであり、かつ、そこではメディアが重要な役割を果たすことになろう。このような活動は、違法かつ秘密であることが多い経済的搾取の状況に光を当てること、ならびに、このような状況に対する公衆の無関心および冷淡さを克服することに資するはずである。このような活動は、さらに、現在存在する問題の規模を理解し、かつ、これらの問題に立ち向かっていくために必要な措置の採択を検討することも可能にしてくれるだろう。
    • (ii) 委員会は、子どもの経済的搾取の状況に対抗するための不可欠な防止手段のひとつである教育の重要性を強調する。そこで委員会は、とくに初等教育をすべての子どもに対して義務的かつ無償とすることにより、教育を正当に重視するよう勧告するものである。さらに、教育は、子どもの権利条約で認められているように、子どもの人格、才能および能力の全面的発達を確保するための決定的手段として、また十分な情報に基づく自由な選択を行なう平等な機会を享受しつつ、社会において責任ある生活を送るための準備をしながら子ども時代を経験するための機会を子どもに与える好機として、構想されるべきである。
  • 委員会はまた、条約を、学校カリキュラムの枠組みのなかで、人権のための教育を意味のある形で例示したものとして、また子ども団体の設立または支持等も通じて学校生活および社会生活への子ども参加を奨励するためのインセンティブとして位置づけることも勧告する。合法的に就労している子どもの場合、条約第32条にも照らして、柔軟な教育制度が実施されるべきである。
  • (c) 経済的搾取からの子どもの保護の分野において、委員会は、子どもは家庭および社会における尊重および連帯の利益を与えられるべき人間存在であると考える。
    • (i) 性的搾取または労働を通じての搾取の場合、委員会は、子どもは保健、教育および発達の観点から特別の保護の利益を与えられるべき被害者であると考える。
    • (ii) いかなる場合にも、以下の活動は厳格に禁じられなければならない。
      • 子どもの発達を脅かす活動または人間の価値および尊厳に反する活動。
      • 残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱い、子どもの売買または隷属状況をともなう活動。
      • 子どもの調和のとれた身体的、精神的および霊的発達にとって危険もしくは有害である活動、または子どもの将来の教育および訓練を脅かしそうな活動。
      • とくに被害を受けやすい状況および周縁化された状況に置かれた社会的集団との関連で差別をともなう活動。
      • 子どもの権利条約第32条第2項で言及されている最低年齢、および、とくにILOが勧告している最低年齢に満たないすべての活動。
      • 薬物または禁制品の取引など、法律により処罰される犯罪行為のために子どもを使用するすべての活動。
    • (iii) 子どもの権利条約第32条にしたがい、すべての子どもは経済的搾取から保護される権利を有する。締約国は、子どもの最善の利益を考慮しながら、子どもがいかなる形態の搾取からも法的に保護されることを確保する目的で、基準の策定または現行法の改正を行なわなければならない。締約国は、あらゆる形態の就労(家庭内および農業部門における就労ならびにインフォーマルな就労を含む)を考慮しながら、子どもの保護の確保を目的としたあらゆる立法上、行政上その他の措置をとるよう慫慂される。
    • (iv) 締約国はまた、経済的搾取の結果、深刻な身体的および道徳的危険にさらされている子どものリハビリテーションを確保するための措置もとらなければならない。これらの子どもに対して必要な社会的および医学的援助を提供すること、ならびに、子どもの権利条約第39条に照らし、これらの子どものための社会的再統合プログラムを構想することが不可欠である。

付属文書IV:子どもの経済的搾取に関する一般的討議

 国際連合・子どもの権利委員会は、国際連合諸機関および非政府組織の参加を得て、1993年10月4日、子どもの経済的搾取に関する一般的討議を開催した。委員会はその後、討議のフォローアップ方法を提案するための作業部会を任命した(CRC/C/20、パラ196参照)。作業部会のメンバーに任命されたのは、ルイス・A・バンバレン・ガステルメンディ氏、アキラ・ベレンバーゴ氏、トマス・ハマバーグ氏およびマルタ・サントス・パイス氏である。
勧告
1.一般的討議の記録の拡大版として一件書類がまとめられるべきである。そこには、1993年10月7日に委員会が採択した声明(前掲、付属文書VI)、1993年10月4日の討議の議事要録、委員会を代表して行なわれた発言の書面(前掲、付属文書V)、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する国際連合特別報告者が行なった発言の書面、および、この分野における現在の主要な政策文書(とくに、国際連合人権委員会が決議1993/79で採択した「児童労働の搾取を撤廃するための行動計画」および同人権委員会が決議1992/74で採択した「子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止のための行動計画」)を含めることが求められる。一件書類の作成および配布に際してはILOとの協力が希望されるところである。
2.これらの文書は、カバーレターを添えて、子どもの権利条約の全締約国、1993年10月7日の委員会の声明で挙げられている諸機関(世界銀行、IMF、UNDP、UNESCO、UNICEF、WHO、ILO、インターポール、および、NGOコミュニティの諸代表)およびこの分野で活動してる他のすべての権限ある機関に対して送付されるべきである。
3.WHOおよびIMFへの書簡では、経済改革プログラムにおける子どもの権利の保護について、両機関と委員会との討議を開催するべきである旨の提案をあらためて繰り返すことが求められる。
4.UNESCOへの書簡では、同機関が、今後の活動プログラムにおいて、学校教育を児童労働(子どもの性的搾取を含む)の効果的な代替的選択肢としていくことを重視するよう勧告することが求められる。
5.ILOへの書簡では、同機関が実施している有害な児童労働撤廃のためのプログラムの重要性、ならびに、最低年齢および就労条件に関するILOの基準(とくにILO第138号条約)の批准および効果的実施の重要性を強調することが求められる。
6.WHOへの書簡では、到達可能な最高水準の健康の享受ならびに疾病の治療および健康の回復のための便宜に対する子どもの権利の重要性を強調することが求められる。
7.すべての書簡で、子どもの権利条約およびこの分野で行なわれている関連のプログラム(児童労働の搾取の撤廃ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止を目的とする国際連合の両行動計画など)の重要性を強調することが求められる。
8.子どもの権利委員会は、子どもの権利の分野で活動する国際連合諸機関(子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する人権委員会特別報告者、ならびに、差別防止およびマイノリティ保護に関する小委員会および現代的形態の奴隷制に関する同小委員会の作業部会を含む)との効果的な交流および協力を確保することに対して委員会が付与している重要性を踏まえ、条約の実施に関する報告書の検討の枠組みのなかで締約国と行なったこの問題に関する議論について、これらの機関に恒常的に情報を提供していくことを決定する。


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最終更新:2017年02月17日 03:06