総括所見:アイルランド(第3~4回・2016年)


CRC/C/IRL/CO/3-4(2016年3月1日)/第71会期
原文:英語(平野裕二仮訳)

I.序

1.委員会は、2016年1月14日に開かれた第2064回および第2066回会合(CRC/C/SR.2064 and 2066参照) においてアイルランドの第3回・第4回統合定期報告書(CRC/C/IRL/3-4)を検討し、2016年1月29日に開かれた第2104回会合(CRC/C/SR.2104)において以下の総括所見を採択した。
2.委員会は、締約国における子どもの権利の状況についての理解を向上させてくれた、締約国の第3回・第4回統合定期報告書および事前質問事項に対する文書回答(CRC/C/IRL/Q/34/Add.1)の提出を歓迎する。委員会は、締約国のハイレベルなかつ部門横断型の代表団との間に持たれた建設的対話に評価の意を表するものである。

II.締約国によりとられたフォローアップ措置および達成された進展

3.委員会は以下の文書の批准を歓迎する。
  • (a) 通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書(2014年)。
  • (b) 国際労働機関(ILO)の家事労働者条約(2011年、第189号)(2014年)。
4.委員会は、以下の立法措置がとられたことに評価の意とともに留意する。
  • (a) 子どもを憲法上の権利の保有者として明示的に認めた、第31次憲法改正(子ども)法(2012年、署名による法制化は2015年)。〔訳者注/第42a条を指す。日本語訳はこちらを参照〕
  • (b) 子どもの保護のための措置を向上させた、子ども最優先法(2015年)。
  • (c) 多様な家族の子どもの状況に対応するために家族法を包括的に改革した、子どもおよび家族関係法(2015年)。
  • (d) 成人刑事施設での子どもの拘禁を認めた現行法令集の規定をすべて廃止し、かつ関連の措置について定めた、子ども(改正)法(2015年)。
  • (e) 16歳以降に本人が選択したジェンダーが国によってあらゆる目的について全面的に承認される旨を定めた、ジェンダー承認法(2015年)。
  • (f) 教員の身元調査に関する制定法上の手続における教員評議会の役割について明確な制定法上の根拠を定めた、教員評議会(改正)法(2015年)。
  • (g) アイルランド人権平等委員会を設置し、かつ人権および平等に関わる公的機関の積極的義務を導入した、アイルランド人権平等委員会法(2014年)。
  • (h) 特定の例外的事情がある場合を除いて出生記録への父の名の登録を義務化し、かつ姓について合意が成立しない場合の出生登録の機構について定めた、民事登録(改正)法(2014年)。
5.委員会はまた、以下の制度上および政策上の措置も歓迎する。
  • (a) アイルランド人権平等委員会が設置されたこと(2014年)。
  • (b) 子ども・家族機関が設置されたこと(2014年)。
  • (c) 「よりよい成果、よりよい未来:子ども・若者のための国家政策枠組み(2014~2020年)」が採択されたこと。
6.委員会は、人権擁護者の状況に関する特別報告者の訪問(2013年)および人権と極度の貧困の問題に関する独立専門家の訪問(2011年)を歓迎する。

III.主要な懸念領域および勧告

A.実施に関する一般的措置(第4条、第42条および第44条(6))

委員会の前回の勧告
7.委員会は、締約国が、前回の勧告(2016年、CRC/C/IRL/CO/2)のうち十分に実施されていないもの、とくに立法および実施、独立の監視、障害のある子ども、健康および保健ケアサービス、思春期の健康、生活水準、子どもの難民および庇護希望者、少年司法の運営ならびにマイノリティに属する子どもに関するものに対応するために、あらゆる必要な措置をとるよう勧告する。
条約の法的地位
8.委員会は、前回の勧告(CRC/C/IRL/CO/2、パラ9)にもかかわらず、条約が国内法に全面的に編入されていないことを遺憾に思う。
9.委員会は、締約国に対し、優先的課題として、条約を国内法に全面的に編入するためにあらゆる必要な措置をとるよう促す。
立法
10.委員会は、国内法と条約との調和を向上させるために締約国が行なってきた最近の努力に、肯定的対応として留意する。しかしながら委員会は、子ども最優先法と子どもおよび家族関係法(2015年)がまだ全面的に施行されていないことを懸念するものである。さらに委員会は、関連の行政手続および意思決定過程において条約の規定を尊重する公的機関の制定法上の義務を定めた法律が存在しないことを懸念する。
11.委員会は、締約国が、子どもの権利に影響を及ぼす法律が条約とどの程度一致しているかについての詳細な評価を実施するとともに、行政手続および意思決定過程等において条約が尊重されることを確保するための具体的な法律および(または)改正法を実施するよう勧告する。その際、締約国は、前述の2つの法律および子どもの権利の保護のための関連法におけるその他の未施行の規定を速やかに施行するために、十分な資源が配分されることを確保するべきである。
包括的な政策および戦略
12.委員会は、締約国の「子ども・若者のための国家政策枠組み(2014~2020年)」(「よりよい成果、よりよい未来」)を歓迎する。委員会はまた、同枠組みは枠組み助言評議会を通じて市民社会との共同事業として実施されていく旨、締約国が明らかにしたことも歓迎するものである。委員会は、締約国に対し、「よりよい成果、よりよい未来」枠組みを実施するための行動計画に、条約に基づいてまとめられた指標および目標を含めるよう奨励する。その際、締約国は、条約で対象とされているすべての分野が含まれること、および、同枠組みの実施が十分な人的資源、技術的資源および財源によって裏づけられることを確保するべきである。
調整
13.委員会は、締約国が、条約の実施を調整するために子ども・若者問題局を設置したことを歓迎する。しかしながら委員会は、特定の問題、とくに分野横断的な問題についてどの政府機関が主たる責任を負うのかが十分に明確でない状態が続いていることを、依然として懸念するものである。
14.委員会は、締約国が、内閣の正式な構成員としての子ども・若者大臣の職位を維持するとともに、特定の問題についてどの機関が責任を負うのかが明確になることを確保するよう、勧告する。締約国はまた、子ども・若者問題局に対し、さまざまな部門を横断して、国、広域行政圏および地方のレベルで条約の実施に関連するすべての活動を調整するための明確な任務および十分な権限ならびに十分な人的資源、技術的資源および財源も与えるべきである。
資源配分
15.委員会は、締約国が国際通貨基金および欧州連合の金融救済プログラムからの離脱に成功したことを歓迎する。しかしながら委員会は、締約国が、とくに条約の実施を目的とした予算の配分を行なっていないことを懸念するものである。委員会はまた、2009年の景気沈滞以降、多数の政府部局および国の機関(子どもオンブズマン事務所および保健局を含む)の予算が削減されてきたことも懸念する。委員会はさらに、子ども手当および障害児支援給付を含む社会福祉給付が、生活費の上昇を十分に反映する均衡的なやり方で引き上げられていないことを懸念するものである。委員会はまた、トラベラーおよびロマの子どものための予算配分の減額が発表されたことも懸念する。
16.子どもの権利のための資源配分:国の責任」に関する2007年の一般的討議に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どものための資源がどのように配分されかつ使用されているか、すべての行政段階において予算全体を通じて追跡するためのシステムを実施することにより、国家予算の策定において子どもの権利アプローチを活用すること。
  • (b) 子どもの予算上のニーズについて包括的評価を実施し、かつ社会部門に配分される予算を増額するとともに、子どもの権利に関わる指標の適用を通じて格差に対応すること。
  • (c) 子どもの権利の保護および促進のために配分される資源が十分であることを確保するとともに、これとの関連で、子どもの権利の実現に関わるプロジェクトの定期的評価を含めること。
  • (d) トラベラーおよびロマの子ども、ならびに、積極的是正のための社会的措置を必要とする可能性がある障害児に関する具体的な予算科目を定めるとともに、当該予算科目が経済危機の時期にあっても保護されることを確保すること。
  • (e) 財政上および予算上の決定が条約上の義務と合致することを確保する目的で、統合社会的影響評価の枠組みに子どもの権利影響評価を含めること。
データ収集
17.委員会は、トラベラーおよびロマの子ども(その社会経済的状況を含む)に関する細分化されたデータがないことを懸念する。
18.実施に関する一般的措置についての一般的意見5号(2003年)に照らし、委員会は、データ収集システムは条約のすべての分野を対象とするべきであり、かつ、すべての子ども(とくに、被害を受けやすい状況に置かれている子ども)の状況についての分析を容易にするため細分化されるべきであることを、締約国に対してあらためて繰り返す。その際、締約国は、そのようなデータが、トラベラーおよびロマの子どもの状況のモニタリングがはっきりと可能になるように細分化されることを確保するべきである。さらに委員会は、これらのデータおよび指標が、関係省庁の間で共有され、かつ、条約の効果的実施を目的とした政策、プログラムおよびプロジェクトの策定、監視および評価のために用いられるべきことを勧告する。締約国はまた、統計的情報の定義、収集および普及の際、「人権指標:測定・実施ガイド」(Human rights indicators: a guide to measurement and implementation)と題する国際連合人権高等弁務官事務所の報告書に掲げられた概念上および手法上の枠組みも考慮に入れるべきである。
独立の監視
19.委員会は、対話の際に締約国から行なわれた、子どもオンブズマン事務所の資金体制に関する説明(議会が直接の支出を行なうことは憲法上不可能であること)に留意する。しかしながら委員会は、子ども・若者問題局を通じた現在の資金拠出体制により、同事務所の独立性および自律性が制限されていることを依然として懸念するものである。委員会はまた、子どもオンブズマン法(2002年)にしたがい、同事務所は、公的機関の行動について、当該行動が庇護、出入国管理、帰化および市民権に関する法律の運用に関わるものであるときは調査を禁じられていることも懸念する。
20.子どもの権利の促進および保護における独立した人権機関の役割についての一般的意見2号(2002年)に照らし、委員会は、締約国が、パリ原則との全面的一致を確保する目的で、子どもオンブズマン事務所の独立性(資金および権限との関連を含む)を確保sるよう勧告する。その際、締約国は、同事務所に対し、子ども・若者問題局を通じてではなく直接財源を提供する方法および手段をさらに検討するべきである。さらに委員会は、締約国が、難民、庇護希望者および(または)非正規移住者の状況に置かれた子どもからの苦情申立てについて子どもオンブズマン事務所が調査することを禁じた、子どもオンブズマン法(2002年)の規定の改正を検討するよう勧告する。
普及、意識啓発および研修
21.委員会は、初等学校および中等学校双方のカリキュラムに子どもの権利および人権が含まれていること、ならびに、子ども・若者問題局のウェブサイトを通じて、締約国が委員会に提出した定期報告書および委員会の総括所見が普及されていることに、肯定的対応として留意する。しかしながら委員会は、公的機関の間で認識が欠けており、これらの機関が必ずしも子どもの最善の利益の原則を適用しておらず、または子供の意見が適切に考慮されることを確保していないことを、依然として懸念するものである。委員会はまた、人権機構に関する認識および子どもの権利に関する理解が一般公衆の間で依然として低水準であることも懸念する。
22.委員会は、締約国に対し、条約を、被害を受けやすい状況に置かれた子どもをとくに対象として、子どもにやさしい補助手段およびデジタルメディア等も通じ、かつソーシャルメディアを含むマスメディアの支援を得ること等の手段により、可能なかぎり広く促進するよう奨励する。委員会はまた、締約国が、子どもとともにおよび子どものために働く専門家を対象として十分かつ体系的な研修および(または)意識啓発を実施するための努力を強化することも勧告するものである。
子どもの権利と企業セクター
23.委員会は、ビジネスと人権に関する国家行動計画(2016~2019年)についての締約国の作業大綱を歓迎する。しかしながら委員会は、当該文書において、子どもの権利に対する確固たる決意が何ら表明されておらず、かつ、企業セクターが子どもの権利に与える影響に関わる国の義務についての委員会の一般的意見16号(2013年)も十分に考慮されていないことを懸念するものである。
24.企業セクターが子どもの権利に与える影響に関わる国の義務についての委員会の一般的意見16号(2013年)に照らし、委員会は、締約国が、企業セクターが国際的および国内的な人権基準、労働基準、環境基準その他の基準(とくに子どもの権利に関わるもの)を遵守することを、公共調達の場合も含めて確保するための規則を定めかつ実施するよう勧告する。とくに委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 締約国で操業する産業および企業を対象とした、その活動が子どもの権利に悪影響を及ぼしまたは環境基準その他の基準を脅かさないことを確保するための規制枠組みを強化すること。
  • (b) 企業による国際的および国内的な環境基準および健康基準の実施を監視するための独立機構を設置し、違反があった場合には適切な制裁を科すとともに救済措置を提供し、かつ、適切な国際的認証が追求されることを確保すること。
  • (c) 企業に対し、自己の企業活動により生ずる環境面、健康関連および人権面の影響ならびにこのような影響に対処するための計画についてのアセスメント、協議ならびにその全面的な公的開示を行なうよう、要求すること。
  • (d) 以上の勧告を実施する際、人権理事会が2008年に全会一致で採択した国際連合「保護・尊重・救済」枠組みを指針とすること。

B.子どもの定義(第1条)

25.委員会は、婚姻最低年齢(18歳)についての例外規定を廃止するための家族法(1995年)改正が進行中である旨の、対話の際に締約国が行なった発言に留意する。しかしながら委員会は、当該改正が行なわれるまでの間、18歳未満の子どもがなお婚姻できることを懸念するものである。
26.委員会は、締約国が、18歳未満の婚姻を認めるすべての例外規定を廃止するため、家族法(1995年)の改正を速やかに進めるよう勧告する。

C.一般原則(第2条、第3条、第6条および第12条)

差別の禁止
27.委員会は、トラベラーおよびロマの子どもならびにその家族に対する構造的差別(公人が公に行なった差別的発言が処罰されないとされていることを含む)について懸念を覚える。委員会は、人種主義対策国家行動計画(2005~2008年)で開始された機構および資金の流れの維持に関する締約国の説明には留意するものの、適切な最新の国家行動計画が策定されていないことを依然として懸念するものである。委員会はまた、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーおよびインターセックスの子どもに対する差別についても懸念を覚える。
28.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) トラベラーおよびロマの子どもに対する、ならびに、子どもの性的指向またはジェンダーアイデンティティを理由とする差別、スティグマおよび社会的排除と闘うための努力を強化すること。
  • (b) 人種主義対策国家行動計画(2005~2008年)の後継計画として、適切に高い位置づけを与えられた包括的な計画を策定すること。
子どもの最善の利益
29.委員会は、自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利が、関連のあらゆる法律ならびに行政手続および意思決定過程における積極的義務としていまなお全面的に実施されているわけではないことを懸念する。
30.自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利についての一般的意見14号(2013年)に照らし、委員会は、この権利が、すべての立法上、行政上および司法上の手続および決定、ならびに、子どもに関連し、かつ子どもに影響を与えるすべての政策、プログラムおよびプロジェクトに適切に統合されかつ一貫して適用されることを確保するための努力を締約国が強化するよう、勧告する。これとの関連で、締約国は、権限を有するすべての関係者にに対し、あらゆる分野で子どもの最善の利益について判断し、かつそれを第一次的考慮事項として正当に重視することに関する指針を提供するための手続および基準を定めるよう奨励されるところである。
子どもの意見の尊重
31.委員会は、「意思決定への子ども・若者の参加に関する国家戦略」を歓迎する。委員会はまた、締約国が、意見を聴かれる子どもの権利を認めた法律の規定を有していることにも留意するものである。しかしながら、委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 当該法規定が効果的に実施されているわけではないこと。
  • (b) 子どもおよび家族関係法(2015年)に基づき、家族法手続において子どもの意見を聴くための専門家の費用は親が負担しなければならないこと。
  • (c) 教育法において、個別事案で意見を聴かれる子どもの権利が定められていないこと。
  • (d) 締約国が、投票年齢を18歳から16歳に引き下げることに関する国民投票を実施する旨、「子ども・若者のための国家政策枠組み(2014~2020年)」において表明しているにもかかわらず、当該国民投票がまだ実施されてないこと。
32.意見を聴かれる子どもの権利についての一般的意見12号(2009年)に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) ソーシャルワーカーおよび裁判所がこの原則を遵守するようにするための制度および(または)手続を定める等の手段により、関連の法的手続、とくに家族法手続で意見を聴かれる子どもの権利を認めた法律の効果的実施を確保するための措置をとること。
  • (b) 子どもの養育に関するすべての手続で子どもの意見が聴かれることを保障するため、家族法手続において子どもの意見を聴くための専門家の費用の負担に関連する規定が子どもおよび家族関係法(2015年)に設けられることを確保すること。
  • (c) 個別事案で意見を聴かれる子どもの権利を確保するための教育法改正を確保すること。
  • (d) 従前の決意表明にしたがい、投票年齢の16歳への引き下げに関する国民投票を実施する計画の実行を検討すること。

D.市民的権利および自由(第7条、第8条および第13~17条)

アイデンティティに対する権利
33.委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 生殖補助医療(とくに代理母が関与するもの)によって生まれた子どもの権利および利益に対して十分な注意が払われていないこと。
  • (b) カトリックの司祭を父とする子どもが父親の身元に関する情報にアクセスできることを確保するための措置がとられていないこと。
  • (c) 民事登録(改正)法(2014年)で、婚外子に与えられるべき姓について十分に明確に定められていないこと。
34.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 生殖補助医療(とくに代理母が関与するもの)を通じて生まれた子どもが、自己の最善の利益を第一次的に考慮されることおよび自己の出自についての情報にアクセスできることを確保すること。締約国は、その際、代理母および親となる予定の者に対する適切なカウンセリングおよび支援の提供を検討するべきである。
  • (b) カトリックの司祭を父とする子どもが、父を知り、かつ適切なときは父によって養育される自己の権利を自ら擁護することを援助するための措置を確保するとともに、このような子どもが必要な心理的治療を受けられることを確保すること。
  • (c) 婚外子が自己の姓に関して法的安定性を有することを確保するための措置(考えられる法改正を含む)を実施するとともに、これらの措置が、このような子どもが直面しうるスティグマまたは差別を最小限に抑える目的でとられることを確保すること。
思想、良心および宗教の自由
35.委員会は、子どもに対し、宗教の授業を実効的に免除され、かつ当該授業に代わる適切な授業を受ける権利が確保されていないことを懸念する。
36.委員会は、締約国が、少数宗派としての背景または非宗派的背景を有する子どものニーズにしたがって、子どもに対し、宗教の授業を免除され、かつ当該授業に代わる適切な授業を受ける、アクセスしやすい選択肢を確保するよう勧告する。

E.子どもに対する暴力(第19条、第24条(3)、第28条(2)、第34条、第37条(a)および第39条)

虐待およびネグレクト
37.委員会は、子どもの保護に関するガイドライン「子ども最優先:子どもの保護および福祉のための国家指針」が2011年にあらためて発行されたことを歓迎する。しかしながら、委員会は以下のことを懸念するものである。
  • (a) 当該ガイドラインにしたがって行なわれた子どもの保護に関連する付託への対応を担当する子ども・家族機関に対し、当該ガイドラインの遵守を確保するための十分な権限または資源が与えられていないこと。
  • (b) 実際上、業務時間外のソーシャルワーク緊急サービスが不十分であり、かつ、虐待の影響を受けている子どものためのアクセスしやすいカウンセリングサービスが十分に存在しないこと。
  • (c) ドメスティックバイオレンスの被害者のための避難施設が十分に存在しないこと。
38.あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利についての一般的意見13号(2011年)に照らし、かつ持続可能な開発目標16のターゲット2(子どもの虐待、搾取、人身取引ならびに子どもに対するあらゆる形態の暴力および拷問の廃絶)に留意しながら、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 子ども・家族機関が、子どもの保護に関連する付託への対応および危険な状況にある子どものニーズへの対応を時宜を得たやり方で行なえるようにするため、同機関への十分な人的資源、技術的資源および財源の配分を確保するとともに、暴力および虐待の根本的原因に対処するための長期的プログラムを実施すること。
  • (b) ドメスティックバイオレンスの影響を受けている者およびその子どものために、24時間対応できる十分な避難施設を確保するとともに、これらの被害者に対して救済措置およびリハビリテーションを提供すること。
  • (c) 元被害者、ボランティアおよびコミュニティの構成員の関与を得て、かつこれらの人々の研修を支援する等の手段により、ドメスティックバイオレンス、子どもの虐待およびネグレクトを防止しかつこれに対処していくための、コミュニティを基盤とするプログラムを奨励すること。
有害慣行
39.委員会は、締約国がジェンダー承認法(2015年)を採択したことに、肯定的対応として留意する。しかしながら委員会は、インターセックスの子どもに対し、十分な情報に基づく同意を与えられるようになる前に医学的に不必要な手術その他の治療(これは不可逆的な影響をともなうことが多く、かつ深刻な身体的および心理的苦痛を引き起こしうるものである)が行なわれる事案があり、かつ、このような事案において救済および補償が行なわれていないことを、依然として懸念するものである。
40.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 何人も乳児期または児童期に不必要な手術または治療の対象とされないことを確保し、当事者である子どもに身体的不可侵性、自律および自己決定を保障し、かつ、インターセックスの子どもがいる家族に対して十分なカウンセリングおよび支援を提供すること。
  • (b) 十分な情報に基づく同意を得ないままインターセックスの子どもに対して行なわれた手術その他の医学的治療の事案を調査するとともに、そのような治療の被害者に対して救済措置(十分な補償を含む)を提供するための法的規定を採択すること。
  • (c) さまざまな性的多様性ならびに関連の生物学的および身体的多様性について、またインターセックスの子どもに対する不必要な手術その他の医学的介入がもたらす影響について、医療専門家および心理専門家を教育すること。

F.家庭環境および代替的養護(第5条、第9~11条、第18条(1)~(2)、第20条、第21条、第25条および第27条(4))

家族法手続
41.委員会は、家族法事件を担当する裁判官を対象として子どもに関わる事件に対応するための体系的研究が実施されていないこと、および、このような事件の処理に長期の遅れが生じていて当事者である子どもに有害な影響を与えていることを懸念する。
42.委員会は、締約国が、子どもが関わる家族法事件に関する裁判官の研修を奨励し、かつそのための十分な資源を提供するとともに、これらの事件が裁判所制度において優先的に扱われることを確保するよう、勧告する。
家庭環境を奪われた子ども
43.委員会は、子ども・家族機関法の採択を歓迎する。これは、子どもが家庭環境を奪われることにつながりうる手続において締約国が子どもの最善の利益を確保するための基盤を向上させるものである。しかしながら委員会は、代替的養護に措置された子どもについて以下のような状況が存在することを依然として懸念する。
  • (a) 個別のニーズ評価および養護計画のための措置ならびに記録の保管が不十分であること。
  • (b) 特別なニーズを有する子どものための代替的養護サービスが不十分であることから、このような子どもが締約国外の代替的養護施設に収容されなければならない状況が生じていること。
  • (c) 特別養護区画における単独隔離措置が不適切に利用されていること。
  • (d) 子どもの保護、精神保健および障害を担当する締約国の諸機関の間で調整が十分に行なわれていないために、このような状況に置かれた子どもに対して提供される養護が断片化されたまたは不十分なものになっていること。
  • (e) 養護を離脱する子ども(とくにホームレス経験のある子ども)に提供される養護終了後のサービスおよび支援が不十分であること。
44.子どもの代替的養護に関する指針(総会決議64/142付属文書)に対して締約国の注意を喚起しつつ、委員会は、締約国が、施設に入所した子どものリハビリテーションおよび社会的再統合を最大限可能な範囲で促進する目的で、代替的養護施設および関連の子ども保護機関に対して十分な人的資源、技術的資源および財源が配分されることを確保するよう勧告する。委員会はまた、締約国が以下の措置をとることも勧告するものである。
  • (a) 代替的養護を受けている子どもに関する個別のニーズ評価、養護計画および記録の保管の効果的実施を確保すること。
  • (b) 特別養護サービスの発展に優先的に取り組むことにより、このような子どものニーズに対する対応がとられること、これが締約国の領域全体で行なわれること、および、単独隔離措置が不適切な形で利用されないことを確保すること。
  • (c) 代替的養護を受けている子どものうち障害または精神保健上のニーズを有する子どもについて、そのニーズへの対応が統合的かつ包括的なやり方でとられることを確保するための措置を実施すること。この目的のため、締約国は、締約国の子ども・家族機関と保健サービス局の関連部署との間で実効的な機関間協力を確保するための適切な調整機構を設置するべきである。
  • (d) リービングケアの前に、若者が移行計画の立案に早い段階から関与するようにし、かつ養護の離脱後に援助を利用できるようにすることにより、若者に十分な準備の機会および支援を提供すること。
  • (e) 子ども養護法(1991年)においてホームレス経験のある子どものニーズが十分に対応されることを確保するため、必要に応じて法改正を行なうこと。
養子縁組
45.委員会は、締約国の養子縁組法制の統合および現代化を図った養子縁組法(2010年)を歓迎する。しかしながら委員会は、養子とされた子どもが自己の出自に関する情報および家族追跡のためのサービスにアクセスできることを確保する包括的な法的枠組みがないことを、依然として懸念するものである。
46.委員会は、締約国が、国際基準にしたがい、情報開示、家族追跡および縁組後の支援に関する規定を養子縁組法(2010年)に編入することを検討するよう勧告する。

G.障害、基礎保健および福祉(第6条、第18条(3)、第23条、第24条、第26条、第27条(1)~(3)および第33条)

障害のある子ども
47.委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 普通教育への障害のある子どものインクルージョンおよび障害のある子どもの自律の奨励に関する包括的戦略が定められていないこと、ならびに、特別な教育上のニーズを有する者の教育法(2004年)がまだ全面的に施行されかつ実施されていないこと。
  • (b) 障害のある子どものケアを、入院または施設措置ではなく、可能または適切な場合には自宅環境で行なうことを容易にするための措置が不十分であること。
  • (c) 障害のある子どもが乳幼児期教育サービスに十分にアクセスできていないこと。
  • (d) 特別なニーズを有するすべての子ども(視覚障害および聴覚障害がある子どもを含む)を対象として、点字および手話のような合理的配慮が行なわれているわけではないこと。また、国家試験との関係で、締約国の国家試験委員会が障害のある子どもに合理的配慮を行なうための明確かつ客観的な枠組みが存在しないこと。
48.障害のある子どもの権利についての一般的意見9号(2006年)に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 障害に対する人権基盤型アプローチを採用し、かつ、障害のある子どものインクルージョンに関する包括的戦略を定めること。
  • (b) 自宅環境における障害児のケアを容易にするための十分な措置を確保すること。その際、締約国は、領域全体を通じてそのような措置に関する一貫性および十分な基準を確保する目的で、国家的な政策および枠組みの採択を検討するべきである。
  • (c) 障害のある子どもに対して特別ニーズ教育支援および乳幼児期教育を提供する目的で、十分な人数の専任教員および専門家を養成しかつ雇用すること。
  • (d) 障害のある子どもを対象として、その教育上のニーズへの合理的配慮(国家試験に関連するものを含む)が行なわれることを確保するための、明確かつ客観的な枠組みを確立すること。
健康および保健ケアサービス
49.委員会は、ひとり親家庭の子ども、貧困下の子どもならびにトラベラーおよびロマの子どもの健康状態が全国平均よりも相当に悪いことを深く懸念する。委員会は、トラベラーおよびロマの子どものうち、締約国において負担不可能な費用を請求されずに医療ケアにアクセスするために必要な医療カードを有している子どもの割合が低いことを、とりわけ懸念するものである。
50.委員会は、締約国に対し、とくにひとり親家庭の子ども、貧困下の子どもならびにトラベラーおよびロマの子どもが保健ケアサービスへのアクセスから排除される根本的原因となっている社会経済的不利益に対処するよう、促す。委員会はまた、締約国が、このような子どもが保健ケアサービスに他の子どもと同様にアクセスでき、かつ他の子どもと同一のサービスの質を享受できることを確保するため、あらゆる必要な措置(トラベラーおよびロマの子どもに医療カードを発行するためのプログラムを含む)を実施することも勧告するものである。
母乳育児
51.委員会は、「ヘルシーアイルランド枠組み」のもとでとられている母乳育児促進措置に、肯定的対応として留意する。しかしながら委員会は、以下のことを依然として懸念するものである。
  • (a) 生後6か月までの赤ちゃんの完全母乳育児率が、とくにトラベラーの女性の間で低いこと。
  • (b) 完全母乳育児に関する保健専門家を対象とした研修が不十分であること。
  • (c) 締約国に存在する赤ちゃんにやさしい病院の数が不十分であること。
  • (d) 乳幼児への栄養補給または母乳育児に関する国家的戦略が定められていないこと。
52.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 母乳育児の重要性および人工栄養のリスクに関する資料にアクセスできるようにすることおよび意識啓発を行なうことにより、完全かつ継続的な母乳育児を促進するための努力を強化すること。とくに、トラベラーのコミュニティを対象とする措置が含まれるべきである。
  • (b) 完全母乳育児の重要性に関する保健専門家を対象とした研修を再検討し、かつ強化すること。
  • (c) 赤ちゃんにやさしいと認証された病院の数をさらに増やすこと。
  • (d) 乳幼児への栄養補給慣行に関する国家的戦略を策定しかつ実施するとともに、その際、「母乳代替品の販売促進に関する国際基準」を、その執行のための十分な措置とあわせて実施することを検討すること。
精神保健
53.委員会は、「入院中の子ども・青少年のための精神保健サービス」が最近強化されたことを歓迎する。しかしながら委員会は、以下のことを依然として懸念するものである。
  • (a) 医学的治療、とくに精神保健ケアサービスに対する子どもの同意および拒否についての包括的法律が定められていないこと。
  • (b) 子どものための精神保健ケア施設が十分に利用可能とされていないため、子どもが成人精神病棟に入院させられていること。また、精神保健支援にアクセスするまでの待機者リストが長く、かつ、精神保健上のニーズ(とくに摂食障害)を有する子どもおよび青少年のための時間外サービスが不十分であること。
  • (c) 精神保健上の困難を有する子どものための、子どもに焦点を当てた権利擁護および情報提供のサービスが存在しないこと。
54.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 医学的治療に対する子どもの同意および拒否について明確かつ包括的に定めた法律を制定するとともに、当該法律が、条約の趣旨にのっとり、かつ子どもの発達しつつある能力の明確な承認を含むものであることを確保すること。
  • (b) 子どもおよび青少年のための精神保健ケアサービスの対応能力および質を向上させるための措置を実施すること。その際、締約国は、院内治療のための精神保健ケアサービス、時間外施設および摂食障害治療施設の対応能力の強化に優先的に取り組むべきである。
  • (c) とくに子どもを対象とし、かつ、しかるべき形でアクセスしやすくかつ子どもにやさしい、精神保健に関わる権利擁護および情報提供のサービスの設置を検討すること。
自殺
55.委員会は、締約国が最近、自殺防止戦略を採択したことに留意する。しかしながら委員会は、思春期の子どもの自殺件数が多いことを依然として懸念するものである。
56.子どもの権利条約の文脈における思春期の健康と発達についての一般的意見4号(2003年)に照らし、委員会は、締約国が、自殺の防止に関する措置(そこでは子どもおよび青少年の特有のニーズが考慮されるべきである)をさらに強化し、かつ、その効果的実施のために十分な人的資源、技術的資源および財源が配分されることを確保するよう勧告する。
思春期の健康
57.委員会は、妊娠期生命保護法(2013年)が、母親の生命に「真のかつ相当な危険」がある場合にしか中絶を認めておらず、かつ、妊娠が強姦もしくは近親姦の結果である場合または重度の胎児障害がある場合でさえ中絶を犯罪としていることを懸念する。さらに委員会は、「真のかつ相当な危険」という文言により、医師が客観的な医療実務にしたがってサービスを提供できなくなってることを懸念するものである。委員会はまた、思春期の子どもが、セクシュアル/リプロダクティブヘルス教育および緊急避妊法に深刻なほどアクセスできないことも懸念する。
58.思春期の健康と発達についての一般的意見4号(2003年)に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) あらゆる場合の中絶を非犯罪化するとともに、子どもが安全な中絶および中絶後のケアサービスにアクセスできることを確保する目的で法律の見直しを行なうこと。また、中絶に関する決定において、妊娠した女子の意見が常に聴かれ、かつ尊重されることを確保すること。
  • (b) 妊娠した10代、思春期の母親およびその子どもの権利を保護し、かつこれらの女子および子どもに対する差別と闘うための政策を策定しかつ実施すること。
  • (c) 思春期の子どもを対象とする包括的なセクシュアル/リプロダクティブヘルス政策を採択するとともに、セクシュアル/リプロダクティブヘルス教育が、若年妊娠および性感染症の予防にとくに注意を払いながら、学校の必修カリキュラムの一部とされ、かつ思春期の女子および男子を対象として行なわれることを確保すること。
  • (d) 男子および男性にとくに注意を払いながら、責任のある親としてのあり方および性的行動についての意識を高め、かつそのようなあり方および行動を促進するための措置をとること。
生活水準
59.委員会は、一貫して貧困下で生活している子どもの人数が相当に増加していること(このような貧困が、トラベラー、ロマおよび難民としての背景を有する子どもならびにひとり親世帯で暮らしている子どもに不均衡な影響を及ぼしていると報告されていることを含む)を深く懸念する。
60.委員会は、締約国に対し、被害を受けやすい状況に置かれた子ども、とくにトラベラー、ロマおよび難民である子どもならびにひとり親世帯で暮らしている子どもの貧困を削減するための努力をさらに強化するよう、促す。委員会はまた、締約国が、2020年に向けた貧困削減達成目標の改訂において、一貫して貧困下で生活している子どもの人数の増加が考慮に入れられ、かつ、当該目標が定められた期限内に達成されるようにするための詳細な行動計画が整備されることを確保することも、勧告するものである。
61.委員会は、ホームレスであることの影響を受けている家族が、社会住宅へのアクセスに関して相当の遅延に直面しており、かつ、不適切な、一時的なまたは緊急の宿泊施設で長期間生活していることが多い旨の報告があることを深く懸念する。
62.委員会は、締約国に対し、より多くの社会住宅および緊急住宅支援が利用できるようにするための措置を実施するよう促す。その際、締約国は、これらの措置を通じて提供される住宅および支援が、当事者である子どものニーズにふさわしいものであり、かつ十分な保障措置、再審査および評価の対象とされることを確保するべきである。

H.教育、余暇および文化的活動(第28~31条)

63.委員会は、締約国で子どもが多様な態様の学校を利用できる必要性への対応を試みるために「民間セクターにおける多元主義と宗派教育フォーラム」(訳者注/「初等教育部門における宗派教育と多元主義フォーラム」の誤り〕が設置されたことを歓迎する。しかしながら委員会は、非宗派学校の数がきわめて少ないことを依然として懸念するものである。委員会はまた、以下のことも懸念する。
  • (a) 学校が、子どもの宗教を理由としておよび(または)子どもの親が学校の元生徒であるか否かを理由として差別的な受け入れ方針を実践し続けていること。
  • (b) 苦情申立ての取扱いについて教育部門で設けられている体制が不十分であること。
  • (c) 修学認定試験が子どもに圧力をかけていること。
  • (d) すべての生徒が楽しむことのできる、学校における身体的活動が不十分であること。
64.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 非宗派学校または多宗派学校の利用可能性を相当に高め、かつ、学校への受け入れにおける差別を解消するための現行法の枠組み(平等地位法を含む)を改正するための具体的措置を速やかにとること。
  • (b) 学校の生徒のための効果的な苦情申立て機構を設置すること。
  • (c) 子どもに生ずるストレスを軽減する目的で、修学認定試験の改革を検討すること。
  • (d) すべての生徒が楽しむことのできる、身体的余暇活動のカリキュラムを開発すること。

I.特別な保護措置(第22条、第30条、第32条、第33条、第35条、第36条、第37条(b)~(d)および第38~40条)

子どもの難民および庇護希望者
65.委員会は、庇護希望者または難民の状況に置かれた子どもの大多数が、子どもに関連する国の基準の対象とされていない民間運営施設に受け入れられており、かつ、これらの施設の査察および評価の大多数が、十分に独立していない内部査察担当者によって実施されているという報告があることを懸念する。委員会は、難民および庇護希望者への直接支給政策に関連する苦情に対応するための不服申立て担当官が1名任命されている旨の、対話の際に提供された情報に留意するものである。しかしながら委員会は、これによって独立の監督が確保されているわけではないこと、および、これが子どもに対して十分に周知されておらずまたは子どもにとって十分にアクセスしやすいものとなっていない可能性があることを、依然として懸念する。このことに照らし、委員会は、以下の点に関する報告があることを懸念するものである。
  • (a) 多数の施設が、乳幼児のいる家族のための十分な設備を備えていないこと。
  • (b) 庇護希望者および難民の受け入れ施設で、子どもの保護のための十分なサービスが提供されておらず、子どもに教育への十分なアクセスが保障されておらず、または全般的に適切な衣服および食料(そのような施設に受け入れられている少数宗派の子どものための文化的に適切な食料を含む)への十分なアクセスが保障されていないこと。
  • (c) 庇護希望者に支給される子ども手当の額が、締約国における生活費の上昇およびインフレに追いついていないこと。
66.出身国外にあって保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもの取扱いについての一般的意見6号(2005年)に照らし、委員会は、締約国が、庇護および難民に関する政策、手続および実務を、国際法上の義務および他の文書(国連難民高等弁務官が作成した「望ましい実務に関する声明」を含む)に掲げられた原則と一致させるために必要な措置をとるよう、勧告する。さらに委員会は、締約国が、庇護希望者および難民の状況に置かれた子どもに対し、支援サービスに関して、アイルランド国籍の子どもと同一の基準およびアクセスが保障されることを確保するための措置を強化するよう、勧告するものである。委員会は、締約国に対し、すべての難民受け入れ施設の独立した立場からの査察を確保するよう促す。さらに委員会は、締約国が、庇護希望者および難民の受け入れ施設について以下のことを確保するための措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) これらの施設が、乳幼児および家族にとって適切な設備(レクリエーション区画を含む)を備えること。
  • (b) これらの施設が、子どもの保護のための十分なサービス、子どものための十分な教育ならびに子どものための十分な衣服および食料(十分な品質の、かつ少数宗派の子どもにとって文化的に適切な食料を含む)を有すること。これらの施設はまた、食事に関する配慮が必要な子どものニーズにも対応するとともに、可能なかぎり、入所者が自分たち自身の食料を保管しかつ調理することも認めるべきである。
  • (c) 子ども手当が締約国における生活費に対応することを確保するため、庇護希望者に支給される子ども手当を均衡的に増額すること。
移住の状況にある子ども
67.委員会は、締約国が国際保護法(2015年)を採択したことに留意する。しかしながら委員会は、同法がまだ施行されていないことから、締約国にいる子どもの移住者のニーズへの全面的に対応に関する枠組みが依然として不十分であることを懸念するものである。委員会は、その結果、非正規な移住状況にある者に移住者としての地位を付与する、明確なかつアクセスしやすい手続が設けられていないことを懸念する。委員会はまた、移住者としての地位が非正規な状況にあって養護の対象とされている子どもが独立の立場からの法的助言を受けられることを確保するための措置が不十分であることから、このような子どもが自己の移住者としての地位を時宜を得た形で確認できない事態がしばしば生じていることも懸念するものである。
68.すべての子どもが条約に基づく自己の権利の全面的保護および実施に対する権利を有していることを強調しながら、委員会は、締約国に対し、条約に掲げられた権利が、移住者としての子どもまたはその親の地位にかかわらず、締約国の管轄下にあるすべての子どもに対して保障されることを確保し、かつ、これらの権利のあらゆる侵害に対応するよう、促す。とくに委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促すものである。
  • (a) 締約国にいる子どもの移住者のニーズに対応するため、国際人権基準にしたがった包括的な法的枠組みを速やかに採択すること。
  • (b) 当該法的枠組みに、非正規な移住状況にある子どもおよびその家族に移住者としての地位を付与するための、明確なかつアクセスしやすい正式な手続が含まれることを確保すること。
  • (c) 非正規な移住状況にある子どもに対し、独立の立場からの法的助言および自己の移住者としての地位に関する時宜を得た説明が提供されることを確保するための措置をとること。
マイノリティ集団に属する子ども
69.委員会は、トラベラーおよびロマの子どもに対する構造的差別(教育、保健および十分な生活水準へのアクセスに関するものを含む)について深い懸念を覚える。委員会は、以下のことをとりわけ懸念するものである。
  • (a) 締約国がトラベラーおよびロマをマイノリティ集団として認めていないことから、とくに、十分なデータが存在せず、かつ、その結果として、対象が明確な支援プログラムおよび支援措置のための基盤が脆弱な状態が生じていること。
  • (b) 移動住宅または仮設住宅にいるトラベラー世帯の相当数が、給水および衛生のための十分な施設または安全かつ適切な遊び場にまったくアクセスできていないこと。
  • (c) トラベラーの子どもおよびその家族の住宅のための資金供給が劇的に減額されたこと。
  • (d) 住宅(雑則)法(2002年)にしたがって移動生活が犯罪化されており、かつ、これとあいまって一時定住サイトの供給が不十分であることから、強制立退きおよび文化的慣行としての移動生活の抑圧が生じていること。
  • (e) 締約国の「国家トラベラー/ロマ統合戦略」の実施に関して人権が基盤とされておらず、かつ、同戦略のための目的、達成目標、指標、時間枠および資金供給機構が設けられていないこと。また、同戦略のさらなる策定および実施に関するトラベラーおよびロマのコミュニティとの協議が不十分であること。
  • (f) 定住条件のために子ども手当給付の受給資格が妨げられていること。
70.委員会は、締約国に対し、とくに教育、保健ケアおよび十分な生活水準へのアクセスとの関連で、トラベラーおよびロマの子どもに対する構造的差別に対応するための具体的かつ包括的な措置を実施するよう促す。このことに照らし、委員会はさらに、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) トラベラーおよびロマを締約国の民族集団として法的に認めることを検討すること。また、その際、対象が明確な支援プログラムおよび支援措置の提供を促進するため、これらのコミュニティに関する細分化されたデータ収集を行なうこと。
  • (b) トラベラーおよびロマの世帯が滞留するサイトに、給水および衛生のための十分な施設ならびに子どものための安全かつ適切なレクリエーション設備が備えられることを確保すること。
  • (c) トラベラーおよびロマの子どもおよびその家族のニーズに対応する住宅施設に配分される資金を増額するとともに、そのような資金が効果的かつ時宜を得たやり方で使用されることを確保する機構および手続を用意すること。
  • (d) 移動生活の文化的慣行が犯罪とされないことを確保するために関連の法律を廃止しまたは改正する等の手段により、このような文化的慣行に対する権利を尊重すること。その際、締約国はまた、強制立退きに対する十分な保障措置、ならびに、このような強制立退きの被害者のための時宜を得た救済および相応の賠償へのアクセスも確保するべきである。
  • (e) 「国家トラベラー/ロマ統合戦略」のさらなる策定および実施にトラベラーおよびロマのコミュニティが効果的に参加することを確保するため、これらのコミュニティとの透明な、アクセスしやすくかつ意味のある協議を、これらの協議が当該戦略において人権が明確に基盤とされることのきっかけとなることを確保しながらさらに実施するとともに、これを基盤として、目的、達成目標、指標、時間枠および資金供給機構のあり方を定めること。
  • (f) 子ども手当給付を、定住条件の充足を要件としない普遍的給付とすること。
少年司法の運営
71.委員会は、刑事司法法(2006年)にしたがい、刑事責任年齢が重大な犯罪については10歳に引き下げられた旨の前回の懸念(CRC/C/IRL/CO/2、パラ66)をあらためて繰り返す。委員会はまた、成人刑事施設に拘禁されている17歳の男子がいまなお存在するという報告についても懸念を覚えるものである。
72.少年司法における子どもの権利についての一般的意見10号(2007年)に照らし、委員会は、締約国に対し、少年司法制度を条約その他の関連基準に全面的に一致させるよう促す。とくに委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促すものである。
  • (a) 2001年子ども法で定められているとおり、刑事責任年齢を14歳とした規定を復活させること。
  • (b) 拘禁が避けられない場合、当該拘禁が可能なもっとも短い期間で行なわれること、これらの子どもが成人とともに拘禁されないこと、および、拘禁環境が国際基準に合致すること(教育および保健ケアサービスへのアクセスとの関連を含む)を確保すること。
  • (c) 少年司法に関する機関横断パネルおよびその構成機関(国際連合薬物犯罪事務所、国際連合児童基金、国際連合人権高等弁務官事務所および非政府組織を含む)が開発した技術的援助ツールを活用するとともに、必要に応じ、当該パネルの構成機関に対して少年司法分野における技術的援助を求めること。
武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書についての委員会の前回の総括所見および勧告のフォローアップ
73.委員会は、締約国が軍隊への志願入隊に関する最低年齢を18歳に引き上げたことを歓迎する。委員会はまた、国際刑事裁判所法(2006年)によって、国際刑事裁判所規程ならびに国際刑事裁判所の特権および免除に関する協定が国内法に編入されたことにも、肯定的対応として留意するものである。しかしながら委員会は、締約国が、以下の点に関して、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書について委員会が前回行なった勧告を考慮していないことを遺憾に思う。
  • (a) 選択議定書に関する広報、普及および研修活動が軍隊および軍事研修に限定されていることに関する勧告(CRC/C/OPAC/IRL/CO/1、パラ7)。
  • (b) 選択議定書の実施に関する独立の監視機構を設置するべきこと、および、子どもオンブズマン事務所が、依然として、子どもの権利侵害の訴えが国の安全保障または軍事活動に関連しまたは影響するものである場合にはこれを調査できないとされていることに関する勧告(CRC/C/OPAC/IRL/CO/1、パラ8)。
  • (c) 18歳未満の子どもの徴募および敵対行為における使用(国以外の武装集団によるものを含む)を明示的に犯罪化する国内法の制定に関する勧告(CRC/C/OPAC/IRL/CO/1、パラ15)。
74.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもとともにおよび子どものために働くすべての関連の専門家集団(保健従事者、ソーシャルワーカー、教員、公務員、検察官、裁判官、ならびに、武力紛争の影響を受けている国からやってきた子どもの庇護希望者および難民のためにならびにこれらの子どもとともに働く公的機関など)を対象とした、選択議定書の規定に関する体系的な意識啓発、教育および研修のためのプログラムを発展させること。さらに委員会は、締約国が、とくに学校カリキュラムおよび人権教育を通じて、公衆一般ならびにとくに子どもおよびその親に対し、選択議定書の規定を広く知らせるよう勧告する(CRC/C/OPAC/IRL/CO/1、パラ7)。
  • (b) 18歳未満の子どもとの関連で国防軍がとった行動について十分な説明責任が課されることを確保する目的で、子どもオンブズマン法(2002年)第11条1項(b)の改正および(または)他の適切な監督機構の設置を検討すること(CRC/C/OPAC/IRL/CO/1、パラ9)。
  • (c) 選択議定書の精神を全面的に尊重し、かつあらゆる状況下で子どもを全面的に保護する目的で、国の内外にかかわらず18歳未満の者を敵対行為に直接関与させることを明示的に犯罪化する法律を制定すること(CRC/C/OPAC/IRL/CO/1、パラ15)。
75.委員会は、締約国に入国する子どものうち武力紛争にさらされた可能性のある子どもの早期特定および支援のための措置が不十分であることを懸念する。
76.締約国は、締約国に入国する子どものうち武力紛争にさらされた可能性のある子どもの早期特定および支援のための措置を強化するべきである。当該制度には、心理社会的援助、リハビリテーション、社会的再統合、および、このような子どもが直面するトラウマに対応するための他の関連の措置を含めることが求められる。

J.国際人権文書の批准

77.委員会は、締約国が、子どもの権利の充足をさらに強化する目的で、まだ締約国となっていない中核的人権文書、とくに子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書、すべての移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する国際条約、障害のある人の権利に関する条約および強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約を批准するよう勧告する。

K.地域機関との協力

78.委員会は、締約国が、締約国および他の欧州評議会加盟国の双方における〔子どもの権利〕条約その他の人権文書の実施に関して欧州評議会と協力するよう勧告する。

V.実施および報告

〔訳者注/IVが抜けているのは原文ママ〕

A.フォローアップおよび普及

79.委員会は、締約国が、この総括所見に掲げられた勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。委員会はまた、第3回・第4回定期報告書、事前質問事項に対する締約国の文書回答およびこの総括所見を同国の言語で広く入手できるようにすることも勧告するものである。

B.次回報告書

80.委員会は、締約国に対し、第5回・第6回統合定期報告書を2021年10月27日までに提出し、かつ、この総括所見のフォローアップに関する情報を当該報告書に記載するよう慫慂する。報告書は、2014年1月31日に採択された委員会の条約別調和化報告ガイドライン(CRC/C/58/Rev.3)にしたがうべきであり、かつ21,200語を超えるべきではない(総会決議68/268、パラ16参照)。定められた語数制限を超えた報告書が提出された場合、締約国は、前掲決議にしたがって報告書を短縮するよう求められることになる。締約国が報告書を見直しかつ再提出する立場にないときは、条約機関による審査のための報告書の翻訳は保障できない。
81.委員会はまた、締約国に対し、国際人権条約に基づく報告についての調和化ガイドライン(共通コアドキュメントおよび条約別文書についてのガイドラインを含む)に掲げられた共通コアドキュメントについての要件(HRI/GEN/2/Rev.6, chap.I参照)および総会決議68/268のパラ16にしたがい、最新のコアドキュメントを、42,400語を超えない範囲で提出することも慫慂する。


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最終更新:2017年02月11日 03:07