総括所見:インド(OPSC・2014年)


CRC/C/OPSC/IND/CO/1(2014年7月7日)/第66会期
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2014年6月2日および3日に開かれた第1885回および第1886回会合(CRC/C/SR.1885 and 1886参照)においてインドの第1回報告書(CRC/C/OPSC/IND/1)を検討し、2014年6月13日に開かれた第1901回会合において以下の総括所見を採択した。

I.序

2.委員会は、締約国の第1回報告書および事前質問事項に対する文書回答((CRC/C/OPSC/IND/Q/1/Add.1)の提出を歓迎するとともに、締約国の多部門型代表団との間に持たれた建設的対話を評価する。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、2014年6月13日に採択された、子どもの権利条約に基づく締約国の第3回・第4回統合定期報告書についての総括所見(CRC/C/IND/CO/3-4)および武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書に基づく第1回報告書についての総括所見(CRC/C/OPAC/IND/CO/1)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

II.一般的所見

積極的側面
4.委員会は、締約国が以下の条約を批准したことに評価の意とともに留意する。
  • (a) 国際的な組織犯罪の防止に関する条約、ならびに、同条約を補足する、人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書ならびに陸路、海路および空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書(2011年5月)。
  • (b) 国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約(2003年6月)。
  • (c) 買売春を目的とする女性および子どもの人身取引の防止およびこれとの闘いに関する南アジア地域協力連合条約(2002年)。
5.委員会は、選択議定書の実施に関連する分野で締約国がとった、以下の法律の採択を含むさまざまな措置を歓迎する。
  • (a) 人身取引からの子どもの保護を強化した刑事(改正)法(2013年)。
  • (b) 性犯罪からの子どもの保護法(2012年)。
  • (c) 情報技術(改正)法(2008年)。
  • (d) 少年司法(子どものケアおよび保護)改正法(2006年)。
6.委員会はさらに、選択議定書の実施を促進する制度の創設ならびに国家的計画およびプログラムの採択に関して達成された、以下のものを含む進展を歓迎する。
  • (a) 国家子ども政策(2013年)。
  • (b) 「子どもの養子縁組を規律する指針」(2011年)。
  • (c) 「子どもの人身取引および移住労働の防止、救出、補償およびリハビリテーションに関する対応要綱」(2008年)。
  • (d) 「「人身取引の防止ならびに商業的性的搾取を目的とする人身取引の被害者の救出、リハビリテーション、再統合および補償に関する包括的計画」(2007年)。
  • (e) 「商業的性的搾取を目的とする人身取引の被害を受けた子どもの事前救出、救出および事後救出活動に関する対応要綱」(2005年)。
  • (f) 225の人身取引対策部部署の設置。
  • (g) 児童買春との闘いに関する中央諮問委員会の創設。

III.データ

データ収集
7.締約国が行方不明の子どもを対象とする子ども追跡システムを発展させてきたことには留意しながらも、委員会は、2009~2010年に開始された子ども保護統合制度で構想されているような、選択議定書で対象とされているすべての犯罪についてのデータを収集する包括的システムが存在しないことを懸念する。このようなシステムにより、締約国は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノの規模および形態を明らかにできるはずである。委員会はまた、選択議定書で対象とされている犯罪について、たとえば国家犯罪記録局を通じて入手できる統計がきわめて限られていることも遺憾に思う。
8.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 選択議定書で対象とされているすべての分野に関するデータ収集、分析、監視および影響評価のための包括的かつ体系的な機構を発展させかつ実施すること。
  • (b) 選択議定書で対象とされているすべての犯罪、および、そのような犯罪の被害を受けるおそれが強い、権利を侵害されやすい状況に置かれた子どもについてのデータが体系的に収集されることを確保すること。当該データは、もっとも被害を受けやすい状況に置かれた子どもに特段に注意を払いながら、とくに性別、年齢、国民的および民族的出身、州または自治地域、農村部または都市部における居住、先住民族としての地位および社会経済的地位別に細分化されるべきである。
  • (c) 犯罪の性質別に細分化された、訴追および有罪判決の件数に関するデータも収集されることを確保すること。
  • (d) 収集されたデータが、選択議定書を実施するための政策の立案、この目的に向けて達成された進展の評価および予防の基礎として分析されかつ活用されることを確保すること。
  • (e) さまざまな州および連邦直轄地域に関するデータを収集するための共通指標システムを確立すること。

IV.一般的実施措置

立法
9.人身取引からの子どもの保護を強化した刑事(改正)法(2013年)、ならびに、性的暴行、セクシュアルハラスメントおよび児童ポルノの使用からの子どもの保護を強化した性犯罪からの子どもの保護法(2012年)をはじめ、選択議定書に関連して多数の法律が採択されたことについて締約国を称賛しながらも、委員会は、国内法が、選択議定書で対象とされているすべての犯罪を全面的に編入しているわけではなく、かつこれらの犯罪の禁止および犯罪化の面で調和が図られていないことを懸念する。委員会はまた、取り組みの焦点が主として人身取引に当てられており、選択議定書で対象とされているその他の犯罪、とくに子どもの売買および児童ポルノが適正に考慮されていないことも懸念するものである。
10.委員会は、締約国に対し、国内法を選択議定書に調和させるための努力を継続するよう促す。とくに委員会は、締約国が、選択議定書第1条、第2条および第3条に基づく義務にしたがい、子どもの売買(人身取引と類似してはいるものの同一ではない概念)、児童買春および児童ポルノのあらゆる事案を定義しかつ規制するよう勧告するものである。
国家的行動計画
11.委員会は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関連するさまざまな計画および戦略が採択されたことを評価する。これには、優先的保護分野として選択議定書上の犯罪を対象とし、かつ子どもに影響を与えるすべての法律、政策、計画プログラムの指針となるべき新たな国家子ども政策(2013年)も含まれる。しかしながら委員会は、同政策を運用するための包括的な国家的行動計画がまだ採択されていないことを遺憾に思うものである。
12.委員会は、締約国が、条約の実施のための国家的行動計画(これには、選択議定書で対象とされているすべての犯罪をとくに取り上げた、明確な達成目標および指標をともなう個別の計画または節を含むものとする)を策定するとともに、その実施のために十分な人的資源、技術的資源および財源を提供するよう勧告する。この目的のため、締約国は、第1回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議(ストックホルム、1996年)で採択された宣言および行動綱領、ならびに、ストックホルム(1996年)、横浜(日本、2001年)およびリオデジャネイロ(ブラジル、2008年)で開催された第1回、第2回および第3回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議で表明されかつ新たにされたグローバル・コミットメントを考慮に入れながら、選択議定書のすべての規定の実施に注意を払うべきである。
調整および評価
13.委員会は、締約国が、旧女性・子ども発達局を女性・子ども発達省に格上げして財源および人的資源も増やすことにより、その権限および調整の役割を強化したことを歓迎する。しかしながら委員会は、これらの措置がまだ、子どもに関連する政策およびプログラムを実施し、かつその実施状況を評価するための、あらゆるレベルにおける省庁間の調整の改善につながっていないことを懸念するものである。
14.委員会は、締約国が、子どもの権利政策の策定および実施に取り組んでいるさまざまな機関および委員会間の調整を強化するとともに、女性・子ども発達省が、さまざまな部門を横断して、かつ国、州および県のレベルで選択議定書の実施を効果的に調整するための十分な権限ならびに人的資源、財源および技術的資源を有することを確保するよう、勧告する。委員会はまた、締約国が、とられた措置の定期的な監視および評価を実施し、当該評価の結果を、選択議定書で対象とされているすべての分野に関するさらなる戦略および政策の策定のために活用することも勧告するものである。
普及および意識啓発
15.締約国が、商業的性的搾取を目的とする子どもの人身取引の防止についての広報戦略の策定といった意識啓発活動を行なってきたことには留意しながらも、委員会は、締約国において選択議定書に関する意識啓発およびその普及を目的とした体系的かつ包括的な活動が行なわれていないことから、公衆一般、子どもならびに子どもとともにおよび子どものために働く専門家の間における、選択議定書に関する理解および意識の水準の低さが助長されていることを懸念するものである。
16.委員会は、選択議定書第9条第2項にしたがい、締約国が、とくに防止措置および選択議定書で対象とされているすべての犯罪の有害な影響に焦点を当てた適切なメディアキャンペーン、啓発キャンペーン、プログラムおよび研修等を通じて、選択議定書の規定が公衆、とくに子どもとともにおよび子どものために働くすべての専門家の間で広く知られるようにすることを勧告する。
研修
17.法執行官を対象とした人身取引に関する2年間の研修事業の開始など、子どもとともにおよび子どものために働く専門家・準専門家集団の能力構築を目的として締約国が行なっている努力には留意しながらも、委員会は、関連の専門家(とくに警察および司法の運営に従事している者)が選択議定書の規定について十分な研修を受けていないこと、選択議定書で対象とされているすべての犯罪が研修で十分に網羅されていないこと、および、遠隔地の専門家の能力構築を目的とした体系的努力がきわめて限定的であることを懸念する。
18.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) コミュニティその他の関係者の関与を得た参加型のプロセスを通じ、選択議定書で対象とされているすべての分野についての学際的な研修プログラムを開発すること。このような研修は定期的に実施されるべきであり、かつ、子どもとともにおよび子どものために働くすべての関連の専門家集団、省庁および機関(遠隔地におけるものを含む)を対象として行なわれるべきである。
  • (b) 専門家が、選択議定書で対象とされている犯罪から子どもを保護するために自己の知識およびスキルを効果的に実践できることを確保する目的で、裁判官、法執行官(とくに警察)ならびに子どもとともにおよび子どものために働くその他の専門家を対象として行なわれた研修の定期的評価を実施すること。
資源配分
19.子どもに特化した制度への全般的予算供給に関して締約国から提供された情報には留意しながらも、委員会は、子どもの保護に対する予算配分額がきわめて少ないこと、ならびに、資金の不適切な管理および汚職が選択議定書の実施に悪影響を与えていることを懸念する。委員会はまた、選択議定書を実施するための活動に対して配分される特定可能な予算がないことも遺憾に思うものである。
20.委員会は、締約国が、とくに、防止、保護、被害者の身体的および心理的回復ならびに社会的統合ならびに選択議定書で対象とされている犯罪の捜査および訴追を目的としたプログラムを開発しかつ実施するために必要な人的資源、技術的資源および財源を提供することにより、国、州および県のレベルにおける選択議定書のあらゆる規定の効果的実施のために、十分なかつ対象の明確な資源が配分されることを確保するよう勧告する。委員会はまた、締約国が汚職の防止およびこれとの闘いのためにあらゆる必要な措置をとることも勧告するものである。

V.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止(選択議定書第9条第1項および第2項)

選択議定書で禁じられた犯罪を防止するためにとられた措置
21.委員会は、選択議定書で対象とされている犯罪を防止するために締約国が行なっている努力に留意する。しかしながら委員会は、とくに児童買春および児童ポルノの防止との関連で、防止措置が依然として不十分かつ断片的であることを遺憾に思うものである。とくに、委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 指定カーストおよび指定部族出身の子ども、家庭環境を奪われた子ども、路上の状況にある子ども、児童婚の対象とされた子どもならびにセックスワーカーの子どもなど、選択議定書上の犯罪の被害を受けるおそれがある子どもを発見し、特定しかつモニターするために設けられている機構が不十分であること。
  • (b) ジェンダー差別、文化的ステレオタイプ、貧困、立退きまたは避難および安全性を欠いた移住など、選択議定書上の犯罪との関連で子どもが被害を受けやすい状況に置かれることにつながる根本的原因および助長要因に対処するためにとられた措置が不十分であること。
  • (c) デーヴァダーシーまたは花嫁購入の慣行など、文化的に認められた有害慣行が蔓延していること。
  • (d) 性的虐待および性的搾取からの、男子およびインターセックスの子どもの保護が不十分であること。
  • (e) 利得を目的とした子どもの不法な臓器移植、子どもの売買、ならびに、児童買春および児童ポルノへの子どもの関与の防止を目的としたプログラムについて、またそのようなプログラムの効果について、報告書においても対話の際にも情報が提供されなかったこと。
22.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 選択議定書上の犯罪の被害を受けるおそれがある子どもを特定しかつモニターするための効果的な機構を設置すること。
  • (b) 根本的原因およびその規模を明らかにする目的で、子どもの売買、児童買春および児童ポルノの性質および規模に関する調査研究を実施するとともに、選択議定書上のすべての犯罪に対処するための、包括的なかつ対象を明確にしたアプローチを採用すること。
  • (c) もっとも被害を受けやすい状況に置かれた子どもの集団に特段の注意を払いながら、子どもの売買に相当する、文化的に認められた有害慣行を解消するための努力を強化すること。
  • (d) 性的虐待からの男子およびインターセックスの子どもの保護委に対処するための重要な措置が防止戦略に編入されることを確保すること。
  • (e) 選択議定書で対象とされている分野における防止をより効果的なものにする観点から、とくにユニセフおよびその他の国際機関との技術的協力を強化すること。
養子縁組
23.委員会は、非合法な養子縁組の防止を目的とした「子どもの養子縁組を規律する指針」(2011年)の発出をはじめ、不法な養子縁組から子どもを保護するために締約国がとった措置に留意する。しかしながら委員会は、子どもがいまなお不法な養子縁組から十分に保護されておらず、養子縁組目的の子どもの売買が生じる可能性がある状況を招いていることを懸念するものである。委員会は、以下のことをとりわけ懸念する。
  • (a) 締約国において、規制のない非公式な養子縁組が継続して行なわれていること。
  • (b) 病院から赤ん坊が盗まれていることとともに、赤ん坊を盗む行為および遺棄する行為全般を防止し、かつその根本的原因に対処するために締約国がとっている措置、ならびに、子どもを盗む行為および行なわれている可能性がある子どもの売買行為について適用される制裁についての情報がないこと。
  • (c) 「ゆりかご赤ちゃん受け入れセンター」に預けられた子どもの所在に関する情報がないこと。
  • (d) 締約国において虚偽の出生登録が相当の規模で行なわれており、かつその防止のために十分な努力が行なわれていないこと。
  • (e) 仲介者が生物学的家族を説得して養子縁組のために子どもを手放させようとすることを防止するための法律上または政策上の措置が不十分であること。
  • (f) 非合法な養子縁組の禁止、養子縁組斡旋機関の認可に関する規制要件および料金の規制に関する情報がないこと。
  • (g) 子どものさまざまな権利を侵害し、かつ子どもの売買にもつながりうる代理出産(国際的代理出産を含む)の商業的利用が広く行なわれていること。
24.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 養子縁組のすべての事案が選択議定書ならびに国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約(1993年)の原則および規定に全面的に一致される形で進められることを保障するための政策および法律を策定しかつ実施すること。
  • (b) 赤ん坊を病院から盗む行為および乳児をゆりかごセンターに遺棄する行為、虚偽の出生登録、ならびに、仲介者が母親を説得して養子縁組のために子どもを手放させようとする行為を防止するためにあらゆる必要な措置(効果的な監視制度の設置を含む)をとるとともに、これらの行為に対して十分な制裁が科されることを確保すること。
  • (c) 非合法な養子縁組を明示的に禁止するとともに、非合法な国内養子縁組および国際養子縁組を防止するためのプログラムを策定すること。
  • (d) 斡旋機関の認可および監視ならびに斡旋機関がさまざまなサービスに対して課す料金を効果的に規制すること。
  • (e) 子どもが搾取されることを防止するため、養子縁組のフォローアップを適宜行なうこと。
  • (f) 生殖補助医療法案およびそれに続くその他の法律に、代理出産の斡旋の定義、規制およびその規模の監視について定めた規定が掲げられることを確保するとともに、非合法な養子縁組を目的とする子どもの売買を犯罪化すること。
児童セックスツーリズム
25.「安全で名誉ある観光業のための行動規範」(2010年)の採択等を通じ、児童セックスツーリズムと闘うために締約国が行なっている努力は歓迎しながらも、委員会は、「マッサージパーラー」および「ヘルススパ」との関係で行なわれている児童セックスツーリズムおよび宗教的巡礼者向けの施設における子どもの性的搾取についての報告、ならびに、締約国のさまざまな地域で生じているその他の関連の問題について懸念を覚える。
26.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 児童セックスツーリズムを防止しかつ解消するために、効果的な規制枠組みを確立しかつ実施し、かつ、あらゆる必要な立法上、行政上、社会上その他の措置をとること。
  • (b) 児童セックスツーリズムの事件について捜査が行なわれ、かつ加害者とされる者が訴追および適正な制裁の対象とされることを確保するため、あらゆる必要な措置をとること。
  • (c) 児童セックスツーリズムの有害な影響に関する観光業界への働きかけを強化するとともに、国連世界観光機関の世界観光倫理規範および選択議定書の規定を、旅行代理店および観光業者の間で、法的制裁に関する情報も含めて広く普及すること。
  • (d) これらの業者に対し、「旅行・観光業における性的搾取から子どもを保護するための行動規範」署名業者となることを奨励すること。
  • (e) セックスツーリズムおよび児童ポルノ事案に関するデータが体系的に収集され、かつ、とくに性別、年齢、国民的および民族的出身、州または自治地域、農村部または都市部における居住ならびに被害態様別に細分化されることを確保するとともに、オンラインポルノを摘発するための監視システム(サイバー監視を含む)を設置すること。

VI.子どもの売買、児童ポルノおよび児童買春の禁止ならびに関連の事項(第3条、第4条(2および3)、第5条~7条)

現行刑事法令
27.委員会は、立法と選択議定書の規定との一致を確保するために締約国が行なっている努力を歓迎する。しかしながら委員会は、選択議定書の規定の一部が国内法に編入されたにもかかわらず、国内法がいまなお選択議定書と全面的には一致しておらず、かつ法律も全面的に実施されているわけではないことに、懸念とともに留意する。とくに委員会は、以下のことに懸念とともに留意するものである。
  • (a) 刑法において、子どもの売買および児童買春の具体的かつ包括的な定義が定められておらず、かつ、児童買春を目的とする子どもの提供、入手、周旋または供給が犯罪化されていないこと。
  • (b) 刑事法(改正)法(2013年)で定められている人身取引の定義で、子どもの場合も含めて実力またはその他の形態の威迫、誘拐、詐欺もしくは欺罔の要素があったことが要件とされており、かつ、人身取引被害者が刑事訴追から明示的に免除されていないこと。
28.委員会は、締約国が、刑法を改正して選択議定書第2条および第3条に全面的に一致させ、かつ刑法が実際に効果的に執行されることを確保するよう勧告する。とくに、締約国は以下の措置をとるべきである。
  • (a) 選択議定書第2条にのっとり、児童買春の包括的定義を編入すること。
  • (b) 児童買春を目的とする子どもの提供、入手、周旋または供給を犯罪化すること。
  • (c) 搾取を目的として子どもを募集し、輸送し、移動させまたは受領することが行なわれた場合に、それが人身取引と判断されるためには実力またはその他の形態の威迫、誘拐、詐欺もしくは欺罔の要素がなければならないとする要件を削除する目的で、刑法を改正すること。
  • (d) 選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どもは犯罪者とみなされない旨を明示的に規定すること。
不処罰
29.委員会は、選択議定書上の犯罪を行なった者の捜査および訴追が稀にしか行なわれないことに深い懸念を表明する。とくに委員会は、選択議定書で保護されている子どもの権利の侵害に対処するため、時宜を得たかつ子どもにやさしいやり方で対応する法執行官の能力が不十分であり、かつ時として法執行官がそのような対応に消極的であることを懸念するものである。
30.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 選択議定書で対象とされている犯罪への対応において職務怠慢が見られたすべての専門家(とくに法執行官)を捜査し、かつ十分に処罰すること。
  • (b) 専門的研修を通じ、選択議定書上の犯罪を摘発しかつ訴追するすべての法執行機関および司法機関の能力を強化すること。
  • (c) 次回の定期報告書で、選択議定書上の犯罪を行なった者の捜査、訴追および処罰に関する具体的情報を提供すること。
域外裁判権および犯罪人引渡し
31.インドの市民がインド領域外で犯罪を行なった場合に締約国が域外裁判権を行使していることには留意しながらも、委員会は、選択議定書上の犯罪についての裁判権では双方可罰性要件の充足が必要とされていることを遺憾に思う。委員会はまた、選択議定書が、その規定に違反した疑いがある者の引渡しのための手段として活用できるか否かについての具体的情報が締約国から提供されなかったことにも留意すべきものである。
32.委員会は、締約国が、国内法において、選択議定書第4条で対象とされているすべての場合について域外裁判権(双方可罰性の基準を満たさない場合の域外裁判権を含む)を設定しかつ行使できることを確保するための措置をとるよう、勧告する。委員会はさらに、締約国が、犯罪人引渡しの法的根拠として選択議定書第5条を活用することを検討するよう勧告するものである。

VII.被害を受けた子どもの権利の保護(第8条ならびに第9条(3および4))

被害を受けた子どもの権利を保護するための措置
33.選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を保護するためにとられた多くの措置について締約国から提供された情報には留意しながらも、委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 苦情申立て機構へのアクセス、および、法的責任を負う者に対する被害賠償請求のための十分な手続に関する情報がないこと。
  • (b) 司法手続におけるビデオ会議および子どもに配慮した空間のような、子どもに配慮した手続が稀にしか利用可能とされないこと。
  • (c) 刑事司法手続の過程で、被害を受けた子どもに対し、法的援助または児童心理学者およびソーシャルワーカーによる支援が十分に提供されていないこと。
  • (d) 被害を受けた子どもが時として犯罪者として扱われていること。
34.委員会は、締約国に対し、刑事司法手続および何らかの責任究明手続のあらゆる段階で、選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を保護するための措置を強化するよう、促す。とくに委員会は、締約国に対し、以下のことを確保するよう促すものである。
  • (a) 自己の権利を侵害された可能性のある子どもにとって、苦情申立て機構へのアクセスおよびその利用が容易であり、かつ助言およびカウンセリングが提供されること。
  • (b) 子どもに配慮した手続が確立されかつ遵守されること、および、刑事司法制度における子どもの被害者および証人の取扱いに際して子どもの最善の利益が第一次的に考慮されること。
  • (c) 選択議定書第8条第1項および子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての指針(経済社会理事会決議2005/20付属文書)にしたがい、刑事手続および司法手続のあらゆる段階における子どもの被害者および証人との子どもにやさしい接し方について、すべての専門家が研修を受けること。
  • (d) 法執行機関、検察官および裁判官が子どもにやさしい手続(子ども向けに設計された事情聴取室、被害を受けた子どものためにひとつの場所で提供される包括的支援サービス、修正を加えた法廷環境および被害を受けた子どもの出廷回数の削減を含む)を適用できるようにするため、十分な技術的資源および財源が提供されること。
  • (e) 選択議定書上の犯罪の被害を受けたすべての者に対し、資格のある、独立した、無償のまたは補助がある弁護士およびその他の適切な専門家による援助が利用可能とされること。
  • (f) 被害を受けた子どもが手続において児童心理学者およびソーシャルワーカーの支援を受けられること。
  • (g) 選択議定書第9条第4項にしたがい、被害を受けたすべての子どもが、法的に責任のある者に対して差別なく被害賠償を求める十分な手続にアクセスできること。
被害者の回復および再統合
35.委員会は、「商業的性的搾取を目的とする人身取引の被害を受けた子どもの事前救出、救出および事後救出活動に関する対応要綱」(2005年)および「子どもの人身取引および移住労働の防止、救出、補償およびリハビリテーションに関する対応要綱」(2008年)の採択をはじめ、人身取引の被害を受けた子どもを対象とする支援サービスを発展させるために締約国が行なっている努力を歓迎する。にもかかわらず、委員会は、回復および再統合のために締約国がとっている措置が限定的であり、かつ、選択議定書で対象とされているすべての犯罪の被害を受けた子どものニーズを十分に考慮したものになっていないことを懸念するものである。委員会は、以下のことをとりわけ懸念する。
  • (a) 十分な施設が存在しないこと。
  • (b) 施設の登録に関する認証方法が設けられておらず、かつ、子どものニーズに合わせた十分なカウンセリングサービスおよび心理学的支援が提供されていないこと。
  • (c) 施設におけるケア、監督およびコミットメントの基準が不十分であること。
  • (d) 子どもの施設措置の定期的再審査および再検討に関する効果的体制が整備されていないこと。
  • (e) 被害者が施設を対処すると、再統合のための援助が限定されてしまうこと。
36.委員会は、締約国に対し、選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どもの身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のためにあらゆる適切な措置をとるとともに、これらの措置が、子どもの自尊心および尊厳を醸成するような環境で提供されることを確保するよう、促す。とくに委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 選択議定書で対象とされているすべての犯罪の被害を受けた子どもに対して回復およびリハビリテーションのための支援を提供する機構およびインフラを確立するとともに、十分な財政的および技術的支援を確保すること。
  • (b) 選択議定書上の犯罪の被害者の認識および取扱いに関する医療専門家向け研修の実施を検討する等の手段により、選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どもに対し、適切なケア、援助およびカウンセリング(被害者の全面的な社会的再統合ならびに身体的および心理的回復のためのものを含む)が提供されることを確保するために、あらゆる必要な措置をとること。
  • (c) 子どもの施設措置の定期的再審査および再検討のために効果的措置がとられることを確保すること。
  • (d) 施設退所者の再統合を、その家族の所在を特定し、かつ家族再統合を確保するためにあらゆる必要な措置をとることなどにより、確保すること。
  • (e) これらの勧告の実施に際し、ユニセフおよび国際移住機関との技術的協力を強化すること。

VIII.国際的な援助および協力(第10条)

多国間、二国間および地域間の取り決め
37.選択議定書第10条1項に照らし、委員会は、締約国に対し、選択議定書が対象とするすべての犯罪について防止、摘発、捜査ならびに当該犯罪に責任を負う者の訴追および処罰を向上させる目的で、とくに近隣諸国との多国間、地域間および二国間の取り決めを通じ、引き続き国際協力を強化する(当該取り決めの実施を実施するための手続および調整機構を強化することによるものも含む)よう、奨励する。

IX.フォローアップおよび普及

フォローアップ
38.委員会は、締約国が、とくにこの総括所見に掲げられた勧告を関連政府省庁、議会、ならびに国および地方の公的機関に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
39.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した第1回報告書および文書回答ならびにこの総括所見を、インターネット等も通じ(ただしこれに限るものではない)、公衆一般、市民社会組織、若者グループ、専門家グループおよび子どもが広く入手できるようにすることを勧告する。

X.次回報告書

40.選択議定書第12条第2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、議定書の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約条約第44条にしたがって委員会に提出される、条約に基づく次回の定期報告書に記載するよう要請する。


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