子どもの権利委員会・一般的意見13号:あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利(2)


IV.第19条の法的分析(続き)

A.第19条第1項(続き)

2.「養育中に〔監護を受けている間に〕」(while in the care of …)
33.「養育者」(caregivers)の定義。委員会は、子どもの発達しつつある能力および漸進的自律を尊重しつつ、それでも18歳未満のすべての者はいずれかの者による「監護を受けて」いる、またはそうあるべきであると考える。子どもが置かれる状態は3つしか存在しない。法律上成年として扱われる [13] か、主たる養育者もしくはそれに代わる養育者の監護下にあるか、または国の事実上の監護下にあるかである。第19条第1項にいう「養育者」(「親、法定保護者または子どもの養育をする他の者」)の定義は、子どもの安全、健康、発達およびウェルビーイングについて明確な、承認された法的、職業倫理的および(または)文化的責任を有する者をすべて対象としている。主として、親、里親、養親、イスラム法のカファラにおける養育者、保護者、拡大家族およびコミュニティの構成員、教育・学校および乳幼児期支援の関係者、親が雇用する保育者、レクリエーションおよびスポーツのコーチ(若者グループの監督者を含む)、職場の雇用主または監督者、ならびに、養育者の立場にある(政府系または非政府系の)施設職員(たとえば保健ケア、少年司法ならびにドロップインセンターおよび居住型養護施設の責任者であるおとな)である。出身国外にあって保護者のいない子どもの場合、国が事実上の養育者となる。
[13] 委員会が過去に締約国に対して行なった、女子および男子の双方について婚姻年齢を18歳に引き上げるべきである旨の勧告(子どもの権利条約の文脈における思春期の健康と発達に関する一般的意見4号(2003年)、パラ20)にしたがい、かつこのような状況下にある子どもが不当な取扱いをとくに受けやすいことにかんがみ、委員会は、第19条が、早期婚および(または)強制婚を通じて成年に達したまたは成年擬制の対象とされた18歳未満の子どもにも適用されると考える。
34.養育現場(care settings)の定義。養育現場とは、「恒久的な」主たる養育者(親もしくは保護者等)またはそれに代わるもしくは「一時的な」養育者(教員または若者グループの指導者等)の監督のもと、子どもが一定期間(短期、長期、繰り返しまたは一度きり)を過ごす場である。子どもはこれらの養育現場間を非常にしばしばかつ柔軟に移動することが多いが、これらの現場間を移行中の子どもの安全(たとえば登下校中、または水、燃料、食料もしくは動物の餌を取りに行くとき)については、主たる養育者が依然として――直接に、または代理的養育者との調整および協力を通じて――責任を負う。子どもはまた、養育現場で物理的監督を受けていない間(たとえば目が届かない場所で遊んでいるとき、または監督されないままネットサーフィンをしているとき)も、主たる養育者またはそれに代わる養育者による「養育中」であると見なされる。通常の養育現場として挙げられるのは、家庭、学校その他の教育施設、乳幼児の養育現場、学童保育所、余暇施設、スポーツ施設、文化施設およびレクリエーション施設、宗教施設ならびに礼拝所などである。医療施設、リハビリテーション施設およびケア施設、労働現場ならびに司法現場では、子どもは専門家または国の関係者の監護下に置かれ、これらの者は子どもの最善の利益を遵守し、かつ保護、ウェルビーイングおよび発達に対する子どもの権利を確保しなければならない。やはり子どもの保護、ウェルビーイングおよび発達が確保されなければならない第3のタイプの現場として、近隣地域、コミュニティ、ならびに、難民および紛争や自然災害により避難を余儀なくされた人々のためのキャンプまたは居留地がある。[14]
[14] 子どもに対する暴力に関する国際連合研究が、子どもに対する暴力が生じている現場について記述している。「子どもの代替的養護に関する指針」〔PDF〕に掲げられた詳細な指針も参照。
35.主たる養育者またはそれに代わる養育者が明らかでない子ども。第19条は、主たる養育者もしくはそれに代わる養育者、または子どもの保護およびウェルビーイングの確保を委託された他の者がいない子ども(たとえば、子どもが筆頭者である世帯の子ども、路上の状況にある子ども、親が移民として他国にいる子どもまたは出身国外にあって保護者のいない子ども [15] 等)にも適用される。締約国には、たとえこのような子どもが里親家庭、グループホームまたはNGOの施設のような物理的養育現場の環境にいない場合でも、事実上の養育者または「子どもを監護する」者としての責任を負う義務があるのである。締約国は、「子どもに対してその福祉に必要な保護およびケアを確保する」義務(第3条第2項)および「一時的にもしくは恒久的に家庭環境を奪われた子ども」に対して「代替的擁護を確保する」義務(第20条)を有する。このような子どもの権利を保障する方法にはさまざまなものがあるが、家庭のような養育体制を組むことが望ましく、かつこのような子どもが暴力にさらされるおそれとの関係で慎重な検討が行なわれなければならない。
[15] 委員会の一般的意見6号(2007年)、パラ7の定義参照。
36.暴力の加害者。子どもは、主たる養育者もしくはそれに代わる養育者による、かつ(または)養育者がその暴力等から保護すべき他の者(たとえば近隣住民、子どもの仲間および見知らぬ者)による暴力を受ける場合がある。さらに、子どもは、専門家および国の関係者が子どもに対する自己の権力をしばしば悪用する多くの現場(学校、居住型施設、警察署または司法施設等)で暴力にさらされるおそれがある。このような環境はすべて第19条の適用範囲なのであり、同条の適用は養育者が個人的文脈で振るう暴力にかぎられるわけではない。

3.「(措置を)とる」(shall take …)
37.「とる」(shall take)は締約国の裁量の余地をいっさい残さない用語である。したがって締約国は、すべての子どもにこの権利を全面的に保障するための「あらゆる適当な……措置」をとる厳格な義務を負う。

4.「あらゆる適当な立法上、行政上、社会上および教育上の措置」(all appropriate legislative, administrative, social and educational measures)
38.実施および監視に関する一般的措置。委員会は、子どもの権利条約の実施に関する一般的措置についての一般的意見5号(2003年)に対し、締約国の注意を喚起する [16]。委員会はまた、締約国が、子どもの権利の保護および促進における独立した国内人権機関の役割に関する一般的意見2号(2002年)も参照するよう求めるものである。このような実施措置および監視措置は、第19条を現実のものとするうえで必要不可欠である。
[16] とくにパラ9(必要とされる措置の範囲)、パラ13および15(留保の撤回および適格性)ならびにパラ66および67(条約の普及)を参照。
39.「あらゆる適当な……措置」。「適当な」という文言は政府のあらゆる部門を横断する広範な措置を指しており、あらゆる形態の暴力を防止しかつこれに対応するために、これらの措置が活用されかつ効果的なものとされなければならない。「適当な」という文言を、一部の形態の暴力は受け入れられるという意味だと解釈することはできない。統合的な、一貫した、部門横断的なかつ調整のとれた制度が必要であり、そこでは第19条第1項に掲げられた一連の措置が全面的に編入され、かつ第2項に列挙された介入策が全面的に網羅されていることが求められる。持続的なかつ調整のとれた政府の政策および体制に統合されない散発的なプログラムおよび活動は、かぎられた効果しか持たないことになろう。ここに掲げた措置の策定、監視および評価においては、子ども参加が必要不可欠である。
40.立法上の措置とは、立法(予算を含む)ならびに実施および執行のための措置の両方を指す。これは、枠組み、制度、機構ならびに関係機関および権限を有する担当官の役割および責任について定めた、国、州および自治体の法律ならびにあらゆる関連の規則から構成される。
41.以下の措置をまだとっていない締約国は、とらなければならない。
  • (a) 条約の2つの選択議定書、ならびに、子どもの保護について定めた他の国際的および地域的人権文書(障害のある人の権利に関する条約およびその選択議定書、ならびに、拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取り扱いまたは刑罰に関する条約を含む)を批准すること。
  • (b) 条約の趣旨および目的に反する、またはその他の形で国際法に反する宣言および留保を見直しかつ撤回すること。
  • (c) 条約機関その他の人権機構との協力を強化すること。
  • (d) 第19条および条約のホリスティックな枠組みにおけるその実施のあり方にしたがって国内法を見直しかつ改正するとともに、子どもの権利に関する包括的政策を定め、かつ、あらゆる場面におけるあらゆる形態の子どもに対する暴力の絶対的禁止ならびに加害者に対する効果的かつ適当な制裁 [17] を確保すること。
  • (e) 子どもに対する暴力を終わらせるために採択された立法および他のあらゆる措置を実施するため、十分な予算配分を行なうこと。
  • (f) 被害者および目撃者である子どもの保護ならびに救済措置および賠償への効果的アクセスを確保すること。
  • (g) 関連の立法において、メディアおよびICTに関わって子どもの十分な保護が定められることを確保すること。
  • (h) 子どもおよび子どもを養育している者に対し、統合的サービスを通じて必要な支援を提供することによって最適な積極的子育てを促進する、社会プログラムを確立しかつ実施すること。
    • (i) 法律および司法手続(権利を侵害されたときに子どもが利用可能な救済措置を含む)を子どもにやさしい方法で執行すること。
    • (j) 子どもの権利に関する独立の国内機関を設置しかつ支援すること。
[17] 「制裁」との関連では、「加害者」には自己危害を行なう子どもは含まれない。他の子どもに危害を加える子どもの処遇は、教育的かつ治療的なものでなければならない。
42.行政上の措置には、あらゆる形態の暴力から子どもを保護するために必要な政策、プログラム、監視および監督制度を確立する政府の義務が反映されるべきである。これには以下のものが含まれる。
  • (a) 国および地方の政府レベル
    • (i) 子どもの保護に関する戦略およびサービスを調整する、政府の中央機関を設置すること。
    • (ii) 国および地方のレベルの実施機関を効果的に運営し、監視しかつその説明責任を履行させる目的で、機関間運営委員会に参加する関係者の役割、責任および関係を明らかにすること。
    • (iii) サービスの地方分権化の過程でその質、説明責任および公平な配分が守られることを確保すること。
    • (iv) 子どもの保護(防止を含む)のために配分された資源を最善の方法で活用するため、体型的かつ透明な予算策定プロセスを実施すること。
    • (v) 世界的基準に一致する形で作成され、かつ国内で定められた目標および目的にあわせて修正されかつそれを指針とする指標に基づき、諸制度、サービス、プログラムおよび成果が体系的に監視および評価されること(効果分析)を確保する目的で、包括的かつ信頼できる全国的データ収集システムを確立すること。
    • (vi) 独立した国内人権機関に支援を提供するとともに、子どもの権利オンブズマンのような、子どもの権利に関わる具体的権限を有する機関が設けられていない場合にはその設置を促進すること [18]。
  • (b) 政府機関、職能団体および市民社会組織のレベル
    • (i)(自己主体感および持続可能性の奨励につながる参加型プロセスを通じて)以下のものを策定および実施すること。
      • a. 機関内および機関横断型の子ども保護政策。
      • b. 子どもの養育に関わるすべてのサービスおよび現場(保育所、学校、病院、スポーツクラブおよび居住型施設等を含む)を対象とした、専門職倫理綱領、プロトコール、了解覚書およびケア基準。
    • (ii) 子どもの保護のための取り組みに関わって学術的な教育訓練機関の関与を得ること。
    • (iii) 良質な調査研究プログラムを推進すること。
[18] 一般的意見2号、とくにパラ1、2、4および19を参照。
43.社会上の措置は、保護に関わる子どもの権利の履行に対する政府のコミットメントを反映し、かつ対象が明確な基礎的サービスを提供するようなものであるべきである。このような措置は、国、および国の責任のもとで活動する市民社会関係者の双方が開始および実施できる。このような措置には以下のものが含まれる。
  • (a) たとえば以下のような、リスクを低めかつ子どもに対する暴力を防止するための社会政策上の措置
    • (i)子どもの養育および子どもの保護に関わる措置を社会政策制度の主流に統合すること。
    • (ii) 被害を受けやすい立場に置かれた集団(とくに先住民族およびマイノリティの子どもならびに障害のある子どもを含む)によるサービスへのアクセスおよびその権利の全面的享受を阻害する要因および状況を特定しかつ防止すること。
    • (iii) 危険な状況にある家族への金銭的および社会的支援を含む貧困削減戦略。
    • (iv) 公衆衛生および公の安全、居住、雇用および教育に関わる政策。
    • (v) 保健サービス、社会福祉サービスおよび司法サービスへのアクセスを向上させること。
    • (vi) 「子どもにやさしいまち」づくり。
    • (vii) アルコール、違法な薬物および武器への需要およびアクセスを低下させること。
    • (viii) 子どもの養育および保護のための世界的基準を策定、促進および執行する目的で、マスメディアおよびICT産業と連携すること。
    • (ix) マスメディアが制作する情報および資料のうち子どもの人間の尊厳および不可侵性を尊重しないものから子どもを保護すること、家庭その他の場所で生じた子どもに影響を与える出来事についての、再被害化につながる報告の流布を差し控えること、および、関係当事者全員が検討できる多様な情報源の活用を基盤とする専門的調査方法を推進することを目的とした、指針を策定すること。
    • (x) 公衆の間で子どもおよび子ども時代に関する適切なイメージが保持されることを支援するため、子どもたちがメディアで意見および期待を表明する機会、ならびに、子ども向け番組に関与するだけではなく、レポーター、アナリストおよびコメンテーター等としてあらゆる種類の情報の制作および伝達に参加する機会を提供すること。
  • (b) たとえば以下のような、子どもを個別に支援するための社会プログラム、および、子どもの家族その他の養育者が最適かつ前向きな子育てを行なうことを支援するための社会プログラム
    • (i) 子どものためのプログラム:保育、乳幼児期発達および学童保育プログラム。子どもおよび若者のグループおよびクラブ。困難(自己危害を含む)を経験している子どもを対象とした、カウンセリングによる支援。訓練を受けた者が対応する、24時間かつフリーダイヤルのチャイルド・ヘルプライン。定期的審査に服する里親家族サービス。
    • (ii) 家族その他の養育者のためのプログラム:心理社会的および経済的課題に対応するための、コミュニティを基盤とする相互援助グループ(たとえば子育てグループや少額融資グループ)。家庭の生活水準を支えるための福祉プログラム(一定年齢に達した子どもへの直接給付を含む)。雇用、住居および(または)子育てに関して困難を抱えている養育者への、カウンセリングによる支援。ドメスティック・バイオレンス、アルコールもしくは薬物への依存その他の精神保健上のニーズに関わる課題を抱えている養育者を援助するための治療プログラム(相互援助グループを含む)。
44.教育上の措置では、子どもに対する暴力を容認および助長する態度、伝統、慣習および行動慣行に対処するべきである。これらの措置は、メディアおよび市民社会の参加も得て、暴力に関する開かれた対話を奨励するようなものであることが求められる。また、子どもの生活、スキル、知識および参加を支え、かつ養育者および子どもに接する専門家の能力増進につながるようなものであるべきである。このような措置は、国、および国の責任のもとで活動する市民社会関係者の双方が開始および実施できる。具体例としては以下のようなものがあるが、これにはかぎられない。
  • (a) すべての関係者向け:前向きな子育てを促進し、かつ、暴力を容認または奨励する否定的な社会的態度および慣行と闘うための、オピニオンリーダーやメディアを通じた広報プログラム(意識啓発キャンペーンを含む)。子どもにやさしくかつアクセスしやすい形式による、条約、この一般的意見および締約国報告書の普及。ICTの文脈における保護について教育および助言するための措置の支援。
  • (b) 子どもたち向け:ライフスキル、自己防衛および特定のリスク(ICTに関わるものならびに前向きな友人関係を発展させる方法およびいじめと闘う方法に関わるものを含む)に関する、正確な、アクセスしやすい、かつ年齢に応じた情報を提供し、かつエンパワーメントを図ること。学校カリキュラムその他の方法を通じ、子どもの権利全般、および、とくに意見を聴かれ、かつその意見を真剣に考慮される権利についてのエンパワーメントを図ること。
  • (c) 家族およびコミュニティ向け:親および養育者を対象とした、前向きな子育てに関する教育。特定のリスクおよび子どもに耳を傾けかつその意見を真剣に考慮する方法に関する、正確かつアクセスしやすい情報の提供。
  • (d) 専門家および諸機関(政府および市民社会)向け:
    • (i) 子どもとともにおよび子どものために働くすべての専門家および非専門家(教育制度の全段階の教員、ソーシャルワーカー、医師、看護師その他の保健専門職、心理学者、弁護士、裁判官、警察官、保護観察官および刑務所職員、ジャーナリスト、コミュニティワーカー、居住型施設の養育担当者、公務員および公的機関の役職者、庇護担当官ならびに伝統的指導者および宗教的指導者を含む)を対象として、第19条および実践におけるその適用に対する子どもの権利アプローチについて、初任時および任期中に一般的研修および役割別研修(必要な場合には部門横断型の研修も含む)を行なうこと。
    • (ii) このような研修の規制および認証を目的として、教育訓練機関および職能団体と連携しながら、公的に認められた証明制度を発展させること。
    • (iii) 条約が、子どもとともにおよび子どものために働くことが予定されているあらゆる専門家の教育カリキュラムの一部となることを確保すること。
    • (iv) 「子どもにやさしい学校」その他の(とくに子ども参加の尊重を含む)取り組みを支援すること。
    • (v) 子どもの養育および保護に関する調査研究を推進すること。

B.第19条第2項

「当該保護措置は、適当な場合には、……を含む」(such protective measures should, as appropriate, include …)
45.介入策の範囲。ホリスティックな子ども保護システムにおいては、各締約国の社会文化的伝統および法体系を考慮に入れながら、第19条第2項に掲げられた諸段階のすべてにわたって包括的かつ統合的な措置を用意することが必要である。 [19]
[19] 「子どもの代替的養護に関する指針」〔PDF〕で参照可能な詳細な指針も各段階で考慮に入れられるべきである。
46.防止。委員会は、子どもの保護はあらゆる形態の暴力の積極的防止およびあらゆる形態の暴力の明示的禁止から開始されなければならないことを、これ以上ない調子で強調する。国には、子どものケア、指導および養育に対して責任を有しているおとなが子どもの権利を尊重および保護するために必要なあらゆる措置をとる義務があるのである。防止には、あらゆる子どもを対象として、暴力と無縁な、尊重に基づく子育てを積極的に促進し、かつ子ども、家族、加害者、コミュニティ、制度および社会のレベルで暴力の根本的原因に的を絞るための、公衆衛生上その他の措置が含まれる。子ども保護システムの開発および実施においては、一般予防(第一次予防)および対象を明確にした予防(第二次予防)が常に至高の課題として重視されなければならない。防止措置は、長期的には最大の効果をもたらすものである。ただし、防止に対してコミットメントを示したからといって、暴力が起きたときに効果的対応をとる国の義務が軽減されるわけではない。
47.防止措置には以下のようなものが含まれるが、これにはかぎられない。
  • (a) あらゆる関係者向け:
    • (i) あらゆる形態の暴力の寛容および容認を固定化する態度(ジェンダー、人種、皮膚の色、民俗的または社会的出身、障害その他の力の不均衡を含む)に異を唱えること。
    • (ii) 創造的な公的キャンペーン、学校教育およびピア・エデュケーション、家庭、コミュニティおよび施設における教育的取り組み、専門家および専門家グループ、NGOならびに市民社会を通じて、子どもの保護に対する条約のホリスティックかつ前向きなアプローチに関する情報を普及すること。
    • (iii) 子どもたち自身、NGOおよびメディアを含む社会のあらゆる部門とのパートナーシップを発展させること。
  • (b) 子どもたち向け:
    • (i) 子どもによる諸サービスおよび救済手続へのアクセスを容易にするため、すべての子どもを登録すること。
    • (ii) 自己の権利に関する意識および社会的スキルの発達ならびに年齢にふさわしいエンパワーメントを通じて子どもたちが自分自身および仲間を守れるよう、支援すること。
    • (iii) 養育者による支援以上に特別な支援を必要としていると判断された子どもの生活に、責任のある、かつ信頼されるおとなを関与させる、「メンター」プログラムを実施すること。
  • (c) 家族およびコミュニティ向け:
    • (i) 安全な環境で子どもにケアを提供する家族の能力を支えるため、子どもの権利、子どもの発達および前向きなしつけの方法に関する知識に基づく望ましい子育てのあり方を親および養育者が理解し、擁護しかつ実践することを支援すること。
    • (ii) 産前産後のサービス、家庭訪問プログラム、良質な乳幼児期発達プログラム、および不利な立場に置かれた集団を対象とする所得創出プログラムを提供すること。
    • (iii) 精神保健サービス、有害物質濫用治療サービスおよび子ども保護サービス間の連携を強化すること。
    • (iv) とくに困難な状況に直面している家族を対象として、レスパイト(一時的休息保障)・プログラムおよび家族支援センターを提供すること。
    • (v) 家庭で暴力を経験してきた親(ほとんどは女性)およびその子どもを対象として、シェルターおよびクライシス・センターを提供すること。
    • (vi) 子どもの私的関係および家族関係に不当に介入することは避けつつ、事情に応じ、家族の結合を促進しかつ私的場面における子どもの権利の全面的行使および享受を確保する措置をとることにより、家族への援助を提供すること。[20]
  • (d) 専門家および諸機関(政府および市民社会)向け
    • (i) 防止の機会を特定し、かつ調査研究およびデータ収集に基づいて政策および実践に示唆を与えること。
    • (ii) 参加型のプロセスを通じ、権利を基盤とする子ども保護政策および手続ならびに専門職向けの倫理綱領およびケア基準を実施すること。
    • (iii) とくに、施設措置および身柄拘束を最後の手段としてかつ子どもの最善の利益にかなう場合にのみ用いるようにする目的でコミュニティを基盤とするサービスを発展させかつ実施することにより、養護現場および司法の現場における暴力を防止すること。
[20] 自由権規約委員会、子どもの権利に関する一般的意見17号(1989年);欧州人権裁判所、オルソン対スウェーデン事件(第1号)判決(Olsson vs. Sweden (No.1), Judgment of 24 March 1988, Series A No.130)、パラ81;米州人権裁判所、ベラスケス・ロドリゲス対ホンジュラス事件判決(Velasquez Rodriguez vs. Honduras, Judgment on the Merits, 10 January 1989, Series C., No.3)、パラ172。
48.特定(identification)[21]。これには、(対象を明確にした防止の取り組みのきっかけとするために)特定の個人または子どもおよび養育者の集団のリスク要因を明らかにすること、および、(できるかぎり早期に適切な介入策を行なうきっかけとするために)現実に起きている不当な取扱いの兆候を発見することが含まれる。そのためには、子どもと接触するすべての者が、あらゆる形態の暴力のリスク要因および指標について認識し、そのような指標を解釈する方法について指導を受け、かつ適切な行動(緊急保護の提供を含む)をとるために必要な知識、意思および能力を有していることが必要である。子どもに対しては、生じつつある問題が危機的段階に達する前に合図を送る機会が、かつ、おとなに対しては、たとえ子どもがはっきりと助けを求めない場合でもそのような問題を認知しかつ行動する機会が、できるだけ多く提供されなければならない。障害のある子どものように、代替的コミュニケーション手段を用いていること、移動できないことおよび(または)無能力者と見なされていることを理由としてとくに被害を受けやすい状況に置かれている、周縁化された集団の子どもについては、とくに警戒が必要となる。このような子どもが他の子どもとの平等を基礎として問題を伝達しかつ合図を送れることを確保するため、合理的配慮が行なわれるべきである。
[21] パラ48以降は、非公式なおよび慣習的な司法制度の手続にも適用可能である。
49.通報(reporting)[22]。委員会は、子ども、その代理人その他の者が子どもに対する暴力を通報するための、安全な、十分に広報された、秘密が守られかつアクセスしやすい支援機構(24時間のフリーダイヤルによるホットラインおよびその他のITCを活用するものも含む)、すべての締約国が発展させるよう強く勧告する。通報機構の設立には、(a) 苦情申立ての利用を促進するための適切な情報を提供すること、(b) 調査および裁判手続に参加すること、(c) さまざまな状況にとって適切で、かつ子どもおよび一般公衆に広く周知された処理手順を策定すること、(d) 子どもおよび家族のための関連の支援サービスを設置すること、および、(e) 通報制度を通じて寄せられる情報を受け取りかつその処理を進める要員を訓練し、かつ継続的支援を提供することが含まれる。通報機構は、主として懲罰的な対応のきっかけとなるのではなく、公衆衛生上の支援および社会的支援を提供する援助志向サービスと組み合わせて設けられなければならず、かつそのようなサービスとして紹介されるべきである。意見を聴かれ、かつその意見を真剣に考慮される子どもの権利が尊重されなければならない。すべての国で、子どもと直接関わる専門家に対し、少なくとも暴力の事例、疑いまたはリスクの通報が要求されるべきである。通報が善意で行なわれたときは通報した専門家の保護を確保する手続が設けられなければならない。
[22] 「子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての指針」も参照。
50.付託(referral)。通報を受理する者に対しては、対応の調整を担当するいずれかの機関に対してどのような場合にかつどのような方法で問題を付託するのかについて、明確な指針および訓練が与えられるべきである。これにしたがい、子どもが(即時的または長期的)保護および専門的支援サービスを必要としていると判断されたときは、訓練を受けた専門家および行政職員が部門間の付託を行なうことも考えられる。子ども保護システムで働く専門家は、機関間協力および連携手順について訓練を受けていなければならない。このようなプロセスでは、(a) 子ども、養育者および家族の短期的および長期的ニーズについて(子どもならびに養育者および家族の意見表明を促し、かつそれを正当に重視しながら)参加型かつ分野横断型のアセスメントを実施すること、(b) アセスメントの結果を子ども、養育者および家族と共有すること、(c) これらのニーズを満たすための一連のサービスに子どもおよび家族を付託すること、および、(d) 介入策が妥当であったかについてフォローアップおよび事後評価を実施することが行なわれることになろう。
51.調査(investigation)。暴力の事案の調査は、子ども、代理人または第三者のいずれによって通報されたかに関わらず、役割別のおよび包括的な研修を受けた有資格の専門家によって行なわれなければならない。そこでは、子どもの権利を基盤とした、かつ子どもに配慮したアプローチをとることが必要である。厳格な、しかし子どもに配慮した調査手続は、暴力が正確に特定されることを確保するうえで役立ち、かつ行政手続、民事手続、子ども保護手続および刑事手続のための証拠を提供する一助となろう。調査のプロセスを通じて子どもにさらなる害を及ぼすことにならないよう、最大限の配慮が行なわれなければならない。そのため、すべての関係者には子どもの意見表明を促し、かつその意見を正当に重視する義務がある。
52.処遇(treatment)。「処遇」は、暴力を経験した子どもの「身体的および心理的回復ならびに社会的再統合を促進する」ために必要な多くのサービスのひとつであり、「子どもの健康、自尊心および尊厳を育む環境の中で」行なわれなければならない(第39条)。これとの関連で、(a) 子どもの意見表明を促し、かつその意見を正当に重視すること、(b) 子どもの安全、(c) 直ちに安全な場所に措置しなければならない可能性があること、および、(d) 実施される可能性がある介入策が子どもの長期的ウェルビーイング、健康および発達に及ぼす予測可能な影響に対して注意が払われなければならない。子どもに対しては、長期的なフォローアップ・サービスとともに、虐待が明らかになるのと同時に医学的、精神保健的、社会的および法的サービスおよび支援を提供しなければならない場合もある。家族集団会議その他の同様の実践を含む広範なサービスが利用可能とされるべきである。暴力の加害者、とくに子どもの加害者のためのサービスおよび処遇も必要とされる。他の子どもに対して攻撃的な子どもは、愛情に満ちた家族環境およびコミュニティ環境を奪われていることが多い。このような子どもは、欲求不満、憎悪および攻撃性を植えつける子育て環境の被害者と見なされなければならない。教育的措置が優先されなければならず、そこでは子どもの向社会的態度、能力および行動を向上させることが目的とされなければならない。同時に、家庭および近隣地域におけるこのような子どもおよびその他の子どものケアおよび支援を促進する目的で、このような子どもの生活環境が検討されなければならない。自己危害を行なう子どもについては、これは重度の心理的苦痛の結果であり、かつ他の者による暴力の結果である可能性もあることが認められている。自己危害は犯罪として扱われるべきではない。介入は支援的なものでなければならず、いかなる意味でも懲罰的であってはならない。
53.フォローアップ(follow-up)。以下の点が常に明確にされなければならない。すなわち、(a) 通報および付託からフォローアップに至る全過程において、子どもおよび家族に対して責任を負う者、(b) とられる一連の措置の目的(これについては子どもおよびその他の関係者と十分に議論されなければならない)、(c) 介入策の詳細、実施期限および延長の提案、ならびに、(d) 措置の見直し、モニタリングおよび評価のための機構および日時である。介入の諸段階で継続性を確保することは必要不可欠であり、これはケースマネジメント・プロセスを通じて最善の形で達成できる可能性がある。効果的援助のためには、参加型プロセスを通していったん決定された措置が不当に遅延しないようにすることが必要である。フォローアップは、第39条(回復および再統合)、第25条(処遇および措置の定期的審査)、第6条第2項(発達に対する権利)および第29条(発達に対する意思および期待を提示するものとしての教育の目的)の文脈において理解されなければならない。子どもが双方の親と接触することは、子どもの最善の利益に反しないかぎり、第9条第3項にしたがって確保されるべきである。
54.司法的関与(judicial involvement)[23]。常に、かつあらゆる場合に、適正手続が尊重されなければならない。とりわけ、子どもの保護およびさらなる発達ならびに最善の利益(および加害者による再犯のおそれがあるときは他の子どもの最善の利益)が意思決定の第一義的目的とならなければならず、かつ、状況によって正当と考えられる、もっとも侵害度の少ない介入策が考慮されなければならない。さらに、委員会は以下の保障を尊重するよう勧告する。
  • (a) 子どもおよびその親に対しては、司法制度または他の権限ある公的機関(警察、移民担当機関または教育機関、社会機関または保健ケア機関等)により、迅速かつ十分な情報提供が行なわれるべきである。
  • (b) 暴力の被害者である子どもは、司法手続全体を通じて、その個人的状況、ニーズ、年齢、ジェンダー、障害および成熟度を考慮に入れた、かつその身体的、精神的および道徳的不可侵性を全面的に尊重する、子どもにやさしくかつ子どもに配慮した方法で取り扱われるべきである。
  • (c) 司法的関与は、可能であれば、前向きな行動の奨励および否定的行動の禁止を積極的に行なう、予防的なものであるべきである。司法的関与は、部門の枠を超え、かつ調整のとれた統合的アプローチのひとつの要素であるべきであり、子ども、養育者、家族およびコミュニティとともに働く他の専門家を支援しかつその活動を容易にするとともに、子どもの養育および保護に関わって利用可能な一連のサービスへのアクセスを促進することが求められる。
  • (d) 暴力の被害を受けた子どもが関与するあらゆる手続において、法の支配を尊重しながらも、迅速性の原則が適用されなければならない。
[23] 「子どもにやさしい司法に関する欧州評議会閣僚委員会指針」(2010年11月17日採択)、「子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての指針」および国連総会決議65/213〔司法の運営における人権〕も参照。
55.司法的関与は以下の要素から構成される場合がある。
  • (a) 家族集団会議、代替的な紛争解決のしくみ、修復的司法および親戚知己協定のような、通常の手続とは異なる調停的対応(手続において人権が尊重され、説明責任が果たされ、かつ訓練を受けたファシリテーターが進行を担当する場合)。
  • (b) 具体的な子ども保護措置に結びつく、少年裁判所または家庭裁判所による介入。
  • (c) 刑事法上の手続(とくに国の関係者が法律上または事実上免責されるという広範に行なわれている慣行を廃するため、厳格に適用されなければならない)。
  • (d) 子どもの不当な取扱いが疑われている事案の処理において行なわれた懈怠または不適切な行動に関する、専門職に対する懲戒手続または行政手続(倫理綱領またはケア基準の違反を理由とする職能団体の内部手続、または外部手続)。
  • (e) さまざまな形態の暴力に苦しむ子どもを対象として補償およびリハビリテーションを確保するための、司法的命令。
56.適切な場合には、暴力の被害を受けた子どものために、少年または家族専門の裁判所および刑事手続が設けられるべきである。これには、障害のある子どもの平等かつ公正な参加を確保する目的で司法手続における配慮が行なえるよう、警察、司法機関および検察官事務所に専門部局を設けることも含まれうる。子どもとともにおよび子どものために働く専門家ならびにこのような事案に関与する専門家は全員、さまざまな年齢層の子どもの権利およびニーズならびに子どもに合わせて修正された手続に関する、具体的な分野横断型研修を受けるべきである。他分野連携アプローチを実施する一方で、守秘義務に関する専門職の規則を尊重することが求められる。子どもをその親または家族環境から分離する決定は、それが子供の最善の利益である場合以外には行なわれてはならない(第9条および第20条第1項)。ただし、加害者が主たる養育者である暴力事案の場合、前掲の子どもの権利に関わる保障を踏み外さないかぎりにおいて、かつ重大性その他の要因次第で、社会的および教育的処遇ならびに修復的アプローチに焦点を当てた介入措置のほうが、もっぱら懲罰的な司法的関与よりも望ましいことが多い。被害者への補償、ならびに、救済機構および上訴機構または独立の苦情申立て機構へのアクセスを含む、効果的な救済措置が利用可能とされるべきである。
57.効果的な手続(effective procedures)。第19条第1項および第2項で言及され、かつ制度構築アプローチ(パラ71参照)に統合された保護措置を実施するためには、その執行、質、妥当性、アクセス可能性、効果および効率性を確保するための「効果的な手続」が必要となる。このような手続には以下のものが含まれるべきである。
  • (a) 必要に応じて処理手順および了解覚書による権限を与えられた、部門横断型の調整。
  • (b) 体系的かつ継続的なデータ収集・分析の開発および実施。
  • (c) 調査研究課題の策定および実施。
  • (d) 子どもおよび家族のための政策、手続および成果に関わる測定可能な目標および指標の策定。
58.成果指標は、暴力の発生件数、発生率および態様もしくは程度にもっぱら焦点を当てた狭いものに留まるのではなく、権利を有する者としての子どもの前向きな発達およびウェルビーイングに焦点を当てるべきである。暴力の根本的原因を明らかにする際および是正のための一連の措置を勧告する際には、子どもの死因審査、重傷事案審査、審問検死および系統的検討も考慮されなければならない。調査研究は、相互補完性を最大限にするため、子どもの保護に関する既存の国際的および国内的知識体系をもとに発展させ、かつ学際的および国際的連携を活用しなければならない。



  • 更新履歴:ページ作成(2011年5月22日)。
最終更新:2011年05月22日 20:25