子どもの権利委員会・一般的意見18号/女性差別撤廃委員会・一般的勧告31号:有害慣行(前編)


女性差別撤廃委員会
子どもの権利委員会
CEDAW/C/GC/31-CRC/C/GC/18(2014年11月14日/原文英語
CEDAW/C/GC/31/Rev.1-CRC/C/GC/18/Rev.1(2019年5月8日/原文英語)
訳者注/子どもの権利委員会の第80会期(2019年1月)および女性差別撤廃委員会の第72会期(2019年2~3月)において、パラ20とパラ55(f)の後半を削除する改訂が行なわれた。そのほか、各一般的意見の採択年が追加されているが、煩雑になるのでこのページには反映させていない(日本語訳PDFには反映済み)。
日本語訳:平野裕二〔日本語訳全文(PDF)〕

目次
  • I.はじめに
  • II.一般的勧告/一般的意見の目的および範囲
  • III.合同一般的勧告/一般的意見を作成する根拠
  • IV.女性差別撤廃条約および子どもの権利条約の規範的内容
  • V.有害慣行と判断するための基準
  • VI.有害慣行の原因、形態および表れ方
    • A 女性性器切除
    • B 児童婚および/または強制婚
    • C 複婚
    • D いわゆる名誉の名の下に行なわれる犯罪
  • VII.有害慣行に対応するためのホリスティックな枠組み
    • A データ収集および監視
    • B 立法および法執行
    • C 有害慣行の防止 → CRC/CEDAW 有害慣行 後編
    • D 保護措置および応答性の高いサービス
  • VIII.一般的勧告/一般的意見の普及および活用ならびに報告
  • IX.条約の批准または加入および留保

I.はじめに

1.女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約および子どもの権利に関する条約には、有害慣行の解消に一般的にも具体的にも関連する、法的拘束力のある義務が掲げられている。女性差別撤廃委員会および子どもの権利委員会は、監視権限を遂行するなかで、女性および子ども(主として女子)に影響を及ぼすこれらの慣行に対して一貫して注意を喚起してきた。両委員会がこの合同一般的勧告/一般的意見を作成することに決定したのは、このように権限が重複しており、かつ、有害慣行がどこでおよびどのような形態で行なわれるかにかかわらず、これを防止し、これに対応しかつこれを解消することへの決意を共有しているためである。

II.一般的勧告/一般的意見の目的および範囲

2.この一般的勧告/一般的意見の目的は、両条約に基づく有害慣行の解消義務を全面的に遵守するためにとられなければならない立法上、政策上その他の適切な措置に関する有権的指針を提示することにより、両条約の締約国の義務を明らかにすることである。
3.両委員会は、有害慣行が、直接にも、かつ/または女子として対象とされた慣行の長期的影響によっても、成人女性に影響を及ぼすことを認知する。そこでこの一般的勧告/一般的意見では、女性の権利に影響を及ぼす有害慣行を解消する女性差別撤廃条約の締約国の義務について、関連する規定との関わりでさらに詳しく述べる。
4.さらに、両委員会は、男子も暴力、有害慣行および偏見の被害を受けていること、ならびに、男子を保護し、かつジェンダーに基づく暴力ならびにその後の人生における偏見およびジェンダーの不平等の固定化を防止するために、男子の権利についての対応がとられなければならないことを認識する。そこで、ここでは、男子の権利の享有に影響を及ぼす差別から派生する有害慣行について子どもの権利条約の締約国が負っている義務にも言及する。
5.この一般的勧告/一般的意見は、両委員会がそれぞれ公にしてきた関連の一般的勧告および一般的意見、とくに女性に対する暴力についての一般的勧告19号(女性差別撤廃委員会)、ならびに、体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利についての一般的意見8号およびあらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利についての一般的意見13号(子どもの権利委員会)とあわせて読まれるべきである。女性性器切除に関する一般的勧告14号(女性差別撤廃委員会)の内容は、この一般的勧告/一般的意見によって更新されるものとする。

III.合同一般的勧告/一般的意見を作成する根拠

6.女性差別撤廃委員会および子どもの権利委員会は、有害慣行が、ステレオタイプ化された役割に基づいて女性・女子を男性・男子よりも劣っているとみなす社会的態度に深く根ざしていることに、一貫して留意している。両委員会はまた、暴力が有するジェンダーの側面も強調し、かつ、ジェンダーに基づく態度およびステレオタイプ、力の不均衡、不平等および差別が、しばしば暴力または強制をともなう慣行の広範な存在を固定化させていることも明らかにしている。家庭、コミュニティ、学校、その他の教育現場および施設ならびにより幅広い社会における女性および子どもの「保護」または管理の形態としてのジェンダーに基づく暴力 [1] を正当化するためにもこれらの慣行が利用されていることについて、両委員会が懸念を有していることも、重要なこととして想起しておかなければならない。さらに、両委員会は、性およびジェンダーに基づく差別が、女性 [2] ・女子(とくに、不利な立場に置かれている集団に属しておりまたはそのように認識されていて、有害慣行の被害を受けるおそれがより高い女性・女子)に影響を及ぼすその他の要因と交差しあっていることに、締約国の注意を喚起する。
[1] 女性差別撤廃員会・一般的勧告19号、パラ11;子どもの権利委員会・障害のある子どもの権利についての一般的意見9号、パラ8、10および79;子どもの権利委員会・到達可能な最高水準の健康を享受する子どもの権利についての一般的意見15号〔2013年〕、パラ8および9。
[2] 女性差別撤廃委員会・条約第2条に基づく締約国の中核的義務についての一般的勧告28号、パラ18。
7.したがって、有害慣行は、性、ジェンダー、年齢その他の理由に基づく差別に根ざしており、かつ、社会文化的・宗教的慣習および価値観ならびに不利な立場に置かれた一部の女性・子どもの集団に関連する誤解を援用することによってしばしば正当化されてきた。全般的に、有害慣行は深刻な形態の暴力と関連していることが多く、またはそれ自体が女性・子どもに対する暴力のひとつの形態となっている。これらの慣行の性質および広がりの度合いは地域および文化によって異なるものの、もっとも蔓延しておりかつ十分に記録されているのは、女性性器切除、児童婚および/または強制婚、複婚、いわゆる名誉の名の下に行なわれる犯罪ならびにダウリー関連の暴力である。これらの慣行は両委員会で提起されることが多く、かつ立法上および計画上のアプローチを通じて目に見えて減少したケースもあるため、ここではこれらの慣行を主要な実例として用いる。
8.有害慣行は、ほとんどの国で、多種多様なコミュニティに根づいている。これらの慣行のなかには、主として移住の動きが原因で、これまで当該慣行が記録されてこなかった地域・国でも見出されるようになったものもある一方、このような慣行が消滅したものの、紛争状況等の多くの要因が原因となって再び行なわれるようになりつつある国もある。
9.有害慣行として特定された慣行は他にも数多く存在する。いずれも、社会的に構築されたジェンダー役割および父権的権力関係制度と強く関係しており、かつこのような役割および制度を強化するものであって、時には不利な立場におかれた一部の女性および子どもの集団(障害のある個人および白色症の個人を含む)に対する否定的な見方または差別的信条を反映していることもある。これらの慣行には、女子のネグレクト(男子に対する優先的なケアおよび処遇と関連するもの)、妊娠期におけるものを含む食事についての極端な制約(食事の強要および食べ物の禁忌を含む)、処女性検査および関連の慣行、縛ること、傷をつけること、焼印を押すこと/部族の印をつけること、体罰、投石、暴力的通過儀礼、寡婦に関わる慣行、魔女であるとの告発、新生児殺ならびに近親姦が含まれるが、これに限られるものではない [3]。有害慣行には、女子・女性を美しくすることもしくは婚姻できるようにすることを目的として(太らせること、隔離すること、口唇拡大板を使うことおよび首輪で首を伸ばすことなど [4])、または若くして妊娠しないようにもしくはセクシュアルハラスメントおよび性暴力を受けないように女子を保護しようとして(加熱した石等で胸を平らにしようとする「ルパサージュ(アイロンかけ)」など)行なわれる身体改造も含まれる。加えて、世界中の多くの女性および子どもが、医学上または健康上の理由のためではなく身体に関する社会的規範を遵守するための治療および/または形成手術をますます受けるようになっているほか、ファッションとして痩せるようプレッシャーを受けて摂食障害および健康障害の発生に至る女性および子どもも多い。
[3] 女性差別撤廃委員会・一般的勧告19号、パラ11および子どもの権利委員会・一般的意見13号、パラ29参照。
[4] A/61/299、パラ46参照。

IV.女性差別撤廃条約および子どもの権利条約の規範的内容

10.両条約の起草時は有害慣行の問題について現在ほど知られていなかったものの、いずれの条約にも、有害慣行を人権侵害として対象とし、かつ、これらの慣行が防止されかつ解消されることを確保するための措置をとることを締約国に義務づける規定が含まれている。加えて、両委員会は、締約国報告書の審査および締約国とのその後の対話の際にならびにそれぞれの総括所見において、この問題をますます取り上げるようになってきた。この問題についての見解は、両委員会の一般的勧告および一般的意見のなかでさらに詳しく明らかにされてきている [5]。
[5] これまでのところ、女性差別撤廃委員会は9つの一般的勧告で有害慣行に言及してきた。条約第5条の実施についての3号、14号、19号、婚姻および家族関係における平等についての21号、女性と健康についての24号、暫定的特別措置についての25号、条約第2条に基づく締約国の中核的義務についての28号、婚姻、家族関係およびそれらの解消の経済的影響についての29号ならびに紛争の防止、紛争時および紛争後の状況における女性についての30号である。子どもの権利委員会は、一般的意見8号および同13号で、有害慣行を非網羅的に列挙している。
11.両条約の締約国は、女性および子どもの権利を尊重し、保護しかつ充足する義務の遵守義務を負う。両方の条約の締約国はまた、女性および子どもによる権利の承認、享有および行使を害する行為を防止し、かつ、私人が女性・女子に対する差別(女性差別撤廃条約との関連ではジェンダーに基づく暴力または子どもの権利条約との関連では子どもに対するあらゆる形態の暴力を含む)を行なわないことを確保する相当の注意義務 [6] も有する。
[6] 相当の注意とは、両条約の締約国が負う、暴力または人権侵害を防止し、かつ被害者および証人を人権侵害から保護する義務、責任者(私人を含む)を調査しかつ処罰する義務ならびに人権侵害に対する救済措置にアクセスできるようにする義務として理解されるべきである。女性差別撤廃委員会・一般的勧告19号、パラ9;28号、パラ13;30号、パラ15;個人通報および調査に関する女性差別撤廃委員会の諸見解および諸決定ならびに子どもの権利委員会・一般的意見13号、パラ5参照。
12.両条約は、人権の保護および促進を確保するための、明確に定められた法的枠組みを確立する義務の概要を定めている。そのための重要な第一歩は、両文書を国内法上の枠組みに編入することを通じてとられる。両委員会はともに、有害慣行を解消するための法律には、予算の確保、実施、監視および効果的な執行のための適切な措置が含まれなければならないと強調している [7]。
[7] 女性差別撤廃委員会の一般的勧告28号、パラ38(a)および諸総括所見ならびに子どもの権利委員会・一般的意見13号、パラ40。
13.さらに、保護義務により、締約国は、有害慣行が速やかに、公正にかつ独立の立場から調査されること、効果的な法執行が行なわれること、および、そのような慣行によって危害を受けた者に効果的な救済措置が提供されることを確保するための法的体制を確立することを要求される。両委員会は、締約国に対し、有害慣行を法律で明示的に禁止し、かつ当該犯罪および引き起こされる危害の重大性にしたがって十分な制裁または刑罰の対象とするとともに、防止、被害者の保護、回復、再統合および救済のための手段を整え、かつ、有害慣行が処罰されない状況と闘うよう求める。
14.有害慣行に効果的に対応しなければならないという要件は、2つの条約に基づく締約国の中核的義務のひとつに数えられるので、これらの条項その他の関連条項 [8] に付された留保であって、有害慣行の対象とされずに生活する女性および子どもの権利を尊重し、保護しかつ充足する締約国の義務を広範に限定しまたは修正する効果を有するものは、2つの条約の趣旨および目的と両立せず、女性差別撤廃条約第28条(2)および子どもの権利条約第51条(2)にしたがって許容されない。
[8] 女性差別撤廃条約第2条、第5条および第16条ならびに子どもの権利条約第19条および第24条(3)。

V.有害慣行と判断するための基準

15.有害慣行は根強く残る慣行および行動であり、性、ジェンダー、年齢その他の理由に基づく差別、ならびに、暴力をともない、かつ身体的および/または心理的危害もしくは苦痛を引き起こすことが多い複合的なかつ/または相互に交差しあう形態の差別に根ざしたものである。これらの慣行が被害者に引き起こす危害は直接の身体的および精神的影響に留まらず、女性・子どもの人権および基本的自由の承認、享有および行使を害する目的または効果を有することが多い。女性・子どもの尊厳、身体的、心理社会的および道徳的不可侵性、発達、参加および健康の状態ならびに教育上、経済上および社会上の地位にも悪影響が生ずる。したがって、これらの慣行については両委員会の活動において検討の対象とされる。
16.この一般的勧告/一般的意見の適用上、ある慣行を有害であるとみなすためには、当該慣行が次の基準を満たしていることが求められる。
  • (a) 当該慣行が、個人の尊厳および/または不可侵性を否定するものであり、かつ2つの条約に掲げられた人権および基本的自由を侵害していること。
  • (b) 当該慣行が、女性・子どもに対する差別であり、かつ、個人または集団として女性・子どもに悪影響(身体的、心理的、経済的および社会的危害ならびに/または暴力、ならびに、社会に全面的に参加する能力もしくは自己の可能性を全面的に発達させかつ開花させる能力の制限を含む)をもたらす限りで有害であること。
  • (c) 当該慣行が、伝統的な、再興されつつあるまたは新たに行なわれるようになりつつある慣行であって、性、ジェンダー、年齢およびその他の相互に交差しあう要因に基づく女性・子どもの男性支配および不平等を固定化させる社会的規範によって定められかつ/または維持されているものであること。
  • (d) 当該慣行が、女性および子どもに対し、被害者が全面的な、自由なかつ十分な情報に基づく同意を与えておりまたは与えることができるか否かにかかわらず、家族、コミュニティの構成員または社会一般によって押しつけられていること。

VI.有害慣行の原因、形態および表れ方

17.有害慣行の原因は多次元的であり、性およびジェンダーに基づくステレオタイプ化された役割、両性のいずれかが優れておりまたは劣っているという推定、女性・女子の身体およびセクシュアリティを管理しようとする試み、社会的不平等ならびに男性優位の権力構造の蔓延が含まれる。これらの慣行を変革しようとする努力においては、伝統的な、再興されつつあるまたは新たに行なわれるようになりつつある有害慣行の根底にあるこれらの組織的および構造的原因に対応するとともに、女子・女性ならびに男子・男性が、有害慣行を容認する伝統的な文化的態度の変容に寄与し、かつそのような変革の主体として行動できるようにそのエンパワーメントを図り、かつ、これらの過程を支援するコミュニティの能力を強化しなければならない。
18.有害慣行と闘うために行なわれている努力にもかかわらず、その影響を受ける女性・女子の全体数は著しく多いままであり、かつ、たとえば紛争状況下において、またソーシャルメディアの広範な活用のような技術的発展を原因として、増えている可能性もある。両委員会は、締約国報告書の検討を通じて、有害慣行を実践しているコミュニティの構成員であって移住を通じてまたは庇護を求めるために目的地国に移り住んだ者が引き続き有害慣行を支持していることが多いことに留意してきた。これらの有害慣行を支持する社会的規範および文化的信条は根強く残っており、かつ、時として、新たな環境で自分たちの文化的アイデンティティを維持しようとしてコミュニティがこれらの規範および信条を強調することもある(とくに、目的地国のジェンダー役割によって女性・女子の個人的自由が拡大する場合)。

A 女性性器切除

19.女性性器切除、女性割礼または女性性器切断は、医学上または健康上の理由とは関わりなく、女性の外性器を部分的にもしくは完全に除去し、またはその他のやり方で女性の性器を傷つける慣行である。この一般的勧告/一般的意見では女性性器切除(FGM)という。FGMは、世界のすべての地域でおよび一部の文化圏内で行なわれている慣行であり、婚姻の要件とされており、かつ、女性・女子のセクシュアリティを管理する効果的な手段と考えられている。この慣行は、即時的かつ長期的にさまざまな健康上の影響をもたらす可能性があり、これには激痛、ショック、出産時の感染症および合併症(これは母子双方に影響を及ぼすものである)、瘻孔などの長期的な婦人科的問題ならびに心理的影響および死亡が含まれる。世界保健機関および国連児童基金による推計では、世界中で1億~1億4千万人の女子・女性がいずれかのタイプのFGMを受けさせられてきた。

B 児童婚および/または強制婚

20.児童婚(早期婚とも呼ばれる)とは、少なくとも当事者の一方が18歳未満であるすべての婚姻をいう。児童婚では、正式な婚姻であるか非公式なものであるかを問わず、圧倒的多数で女子が関与している(ただし、時には女子の配偶者も18歳未満であることがある)。当事者の一方または双方が全面的な、自由なかつ十分な情報に基づく同意を与えていないことに鑑み、児童婚は強制婚の一形態であると考えられる。
訳者注/採択当初はこれに続けて次のように述べられていたが、2019年の改訂により削除された。
「自己の人生に影響を与える決定を行なうことについて子どもの発達しつつある能力および自律を尊重するという観点から、例外的状況においては、成熟した、判断能力のある18歳未満の子どもの婚姻を認めることもできる。ただし、その子どもが16歳以上であり、かつ、そのような決定が、法律によって定められた正当な例外的事由および成熟していることを示す証拠に基づき、文化および伝統におもねることなく、裁判官によって行なわれることを条件とする。」
21.状況によっては、子どもが非常に幼くして婚約または婚姻をさせられることがあり、多くの場合、幼い女子が強制的に婚姻させられる相手の男性は数十歳も年上である可能性がある。2012年に国連児童基金が報告したところによれば、世界中で4億人の女性(20~49歳)が18歳に達する前に婚姻しまたはこれに準ずる結合関係に入っていた [9]。そのため両委員会は、女子がその全面的な、自由なかつ十分な情報に基づく同意に反して婚姻させられた事案(当該女子の年齢が低すぎるために、成人としての生活を送ることまたは意識的なかつ十分な情報に基づく決定を行なうことの用意が身体的および心理的に整っておらず、したがって婚姻に同意する状況にない場合など)に特段の注意を払ってきたところである。他の例としては、慣習法または制定法にしたがって保護者が女子の婚姻に同意する法的権限を有しており、そのため自由に婚姻する権利に反して女子が婚姻させられる場合などがある。
22.児童婚には早期のかつ頻繁な妊娠および出産がともなうことも多く、そのため妊産婦罹病率および妊産婦死亡率が平均より高くなる。妊娠関連死は、世界的に、15~19歳の女子(婚姻しているかしていないかは問わない)の死因の筆頭である。非常に幼い母親から生まれた子どもの新生児死亡率は、より年長の母親から生まれた子どもよりも高い(2倍に達することもある)。児童婚および/または強制婚では、とくに夫が新婦よりも相当に年上である場合または女子が限られた教育しか受けていない場合、女子は自分自身の人生との関係で限られた意思決定権限しか持たないのが一般的である。児童婚はまた、(とくに女子の)学校中退率の上昇、退学、ドメスティックバイオレンスのおそれの高まりおよび移動の自由についての権利の享有の制限も助長する。
23.強制婚とは、当事者のいずれかまたは双方が全面的かつ自由な同意を自ら表明していない婚姻をいう。強制婚は、前述の児童婚のほか、交換婚または相殺婚(たとえばバアドおよびバアダル)、奴隷婚およびレビラト婚(寡婦に対して死亡した夫の親族との婚姻を強制すること)を含む、その他のさまざまな形態で行なわれる場合がある。状況によっては、強姦加害者が被害者と(通常は被害者の家族の同意に基づき)婚姻することによって刑事罰を免れることが認められる場合に、強制婚が行なわれることもある。強制婚は、移住の動きを背景として、女子が家族の出身コミュニティ内で婚姻することを確保するために、または拡大家族の構成員等に対して特定の目的地国に移住しかつ/もしくはそこで生活するための資格証明書類を与えるために、行なわれる場合もある。武装集団による紛争中の強制婚の利用も増えつつあるほか、強制婚が、女子が紛争後の貧困を免れるための手段とされることもある [10]。強制婚はまた、当事者の一方に解消または離脱が認められていない婚姻と定義される場合もある。強制婚は、女子が人身の自律権および経済的自律権を欠き、かつ婚姻を回避しまたは婚姻から抜け出すために逃走しまたは焼身自殺その他の自殺を試みるという結果につながることも多い。
[10] 女性差別撤廃委員会・一般的勧告30号、パラ62。
24.ダウリー(持参財)および花嫁代償金の支払いのあり方は当該慣行を実践しているコミュニティによってさまざまだが、このために女性・女子が暴力および他の有害慣行の被害をいっそう受けやすくなる可能性がある。夫またはその家族構成員は、ダウリーの支払いまたはその額面についての期待を満たさなかったという理由で、殺害、焼殺および酸による攻撃を含む身体的または心理的暴力行為に及ぶことがある。場合によっては、家族同士が、金銭的利得と引き換えに娘の一時的「婚姻」に同意することもあるが、これは契約婚とも呼ばれる人身取引の一形態である。子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書の締約国は、ダウリーの支払いまたは花嫁代償金をともなう児童婚および/または強制婚に関して明示的義務を負っている。これは議定書第2条(a)で定義された「子どもの売買」に相当しうるからである [11]。女性差別撤廃委員会は、そのような支払いまたは選択によって婚姻を成立させることを認めるのは配偶者を自由に選択する権利の侵害であることを繰り返し強調するとともに、一般的勧告29号において、このような慣行は婚姻を有効に成立させるための要件とされるべきではなく、またこのような取決めが締約国によって執行可能なものとして承認されるべきではないことを説明した。
[11] 第3条(1)(a)(i)も参照。

C 複婚

25.複婚は女性・女子の尊厳に逆行し、かつその人権および自由(家族における平等および保護を含む)を侵害するものである。複婚のあり方は、法的および社会的文脈によって、また同じ法的および社会的文脈の内部でも、さまざまに異なる。複婚の影響には、身体的、精神的および社会的ウェルビーイングと理解される妻の健康への害、妻が負うことになる可能性がある物質的危害および剥奪ならびに子どもに対する情緒的および物質的危害(これによって子どもの福祉に重大な影響が生じることも多い)が含まれる。
26.多くの締約国が複婚の禁止を選択してきた一方で、いくつかの国では、合法的か不法であるかにかかわらず、複婚が実践され続けている。歴史を通じ、一部の農業社会においては、個々の家族のためにより大きな労働力を確保するための方策として複婚家族制度が機能してきたとはいえ、研究によれば、複婚は逆に(とくに農村部では)家族の貧困を強化する結果につながることが多いことが明らかになっている。
27.女性・女子の双方が複婚的結合の対象とされているが、女子は相当に年上の男性と婚姻または婚約をさせられる可能性がはるかに高いことが証拠により明らかにされており、そのため暴力および権利侵害のおそれが高まっている。制定法と宗教法、身分法及び伝統的慣習法ならびにこれらに基づく慣行とが共存している場合、この慣行が根強く残ることの助長要因となることが多い。もっとも、複婚が民事法で認められている締約国もある。文化および宗教に対する権利を保護する憲法上その他の規定が、複婚的結合を認める法律および慣行を正当化するために用いられることもある。
28.複婚は女性差別撤廃条約に反する [12] ので、同条約の締約国は、複婚を抑制しかつ禁止する明示的義務を負っている。女性差別撤廃委員会はまた、複婚が女性およびその子どもの経済的ウェルビーイングにとって相当の影響をもたらす [13] ことも主張するものである。
[12] 女性差別撤廃委員会・一般的勧告21号、28号および29号。
[13] 女性差別撤廃委員会・一般的勧告29号、パラ27。

D いわゆる名誉の名の下に行なわれる犯罪

29.いわゆる名誉の名の下に行なわれる犯罪とは、行なわれた疑いがある、行なわれたと認識された、または実際に行なわれた行動が家族またはコミュニティに不名誉をもたらすと家族構成員が考えたという理由で、完全にではないにせよ不相応な割合で女子・女性が対象とされる暴力行為をいう。このような行動には、婚姻前に性的関係を持つこと、取り決められた婚姻に同意しないこと、親の同意を得ずに婚姻すること、姦通を行なうこと、離婚を求めること、コミュニティにとって受け入れられないと捉えられる服装をすること、家の外で働くこと、またはステレオタイプ化されたジェンダー役割にしたがわないこと一般が含まれる。いわゆる名誉の名の下に行なわれる犯罪は、女子・女性に対し、性暴力の被害を受けたという理由で行なわれることもある。
30.このような犯罪には殺害も含まれ、またしばしば配偶者、女性もしくは男性の親族、または被害者が属するコミュニティの構成員によって行なわれる。いわゆる名誉の名の下に行なわれる犯罪は、女性に対する犯罪行為と捉えられるのではなく、コミュニティによって、逸脱とされる行動が行なわれた後にコミュニティの文化的、伝統的、慣習的または宗教的規範を保全しかつ/または回復するための手段として是認されることが多い。状況によっては、国内法もしくはその実際の適用によって、または法律が定められていないことによって、これらの犯罪を行なった者の違法性阻却事由または情状酌量事由として名誉の抗弁を行なうことが認められており、減刑または刑の免除が行なわれている。加えて、事件について知っている者が裏付け証拠の提出について消極的な態度をとることにより、事件の訴追が阻害されることもある。

VII.有害慣行に対応するためのホリスティックな枠組み

31.両条約とも、有害慣行の解消に具体的に言及している。女性差別撤廃条約の締約国は、適切な立法、政策および措置を計画しかつ採択するとともに、その実施において、有害慣行および女性に対する暴力を生じさせる差別の撤廃にとっての具体的な障害、障壁および抵抗に対する効果的対応がとられることを確保する義務を負う(第2条および第3条)。ただし、締約国は、何よりも女性の人権が侵害されないことを確保しながら、とられた措置が直接の関連性および適切性を有することを実証できなければならず、また当該措置によって所期の効果および成果が達成されるか否かを実証できなければならない。さらに、そのような対象を明確化した政策を追求する締約国の義務は即時的性質の義務であり、締約国は、文化的および宗教的理由を含むいかなる理由によっても、いかなる遅延も正当化することができない。締約国はまた、両性のいずれかの劣等性もしくは優越性の観念または男女のステレオタイプ化された役割に基づく偏見および慣習その他のあらゆる慣行の解消を達成する目的で男女の社会的および文化的な行動様式を修正し(第5条(a))、かつ、子どもの婚約および婚姻がいかなる法的効果も有しないことを確保する(第16条(2))ために、暫定的な特別措置(第4条(1))を含むすべての適切な措置をとる義務も負う [14]。
[14] 女性差別撤廃委員会・一般的勧告25号、パラ38。
32.一方、子どもの権利条約は、締約国に対し、子どもの健康にとって有害な伝統的慣行を廃止する目的で効果的かつ適切なあらゆる措置をとることを義務づけている(第24条(3))。加えて、身体的、性的または心理的暴力を含むあらゆる形態の暴力から保護される子どもの権利を規定する(第19条)とともに、締約国に対し、いかなる子どもも、拷問または他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いまたは処罰を受けないことを確保するよう、要求している。条約の4つの一般原則、すなわち差別からの保護(第2条)、子どもの最善の利益の確保(第3条(1))[15]、生命、生存および発達に対する権利の擁護(第6条)ならびに意見を聴かれる子どもの権利(第12条)は、有害慣行の問題にも適用される。
[15] 子どもの権利委員会・一般的意見14号(自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利)。
33.どちらの場合にも、有害慣行の効果的な防止および解消のためには、明確に記述された、権利を基盤とする、かつ地域的関連性を有するホリスティックな戦略であって、支援的な法律上および政策上の措置(あらゆるレベルにおける相応の政治的コミットメントおよび説明責任と組み合わされた社会的措置を含む)をともなう戦略を確立することが必要である。両条約に掲げられた義務は、有害慣行を解消するためのホリスティックな戦略の策定の基礎となるものであり、以下にこのような戦略に含まれるべき要素を掲げる。
34.このようなホリスティックな戦略は、垂直的にも水平的にも主流化および調整が図られなければならず、またあらゆる形態の有害慣行を防止しかつこれに対処するための国家的努力に統合されなければならない。水平的調整のためには、教育、保健、司法、社会福祉、法執行、出入国管理および庇護ならびに通信およびメディアを含む諸部門を横断する組織化が必要である。同様に、垂直的調整のためには、地方、広域行政圏および国のレベルにおける諸主体間の組織化ならびに伝統的および宗教的権威との組織化が必要になる。このようなプロセスを促進するため、既存のまたはとくに設置された上級機関に、あらゆる関係者と協力しながらこれらの活動を進める責任を委任することが検討されるべきである。
35.いかなるものであれ、ホリスティックな戦略を実施しようとすれば必然的に十分な組織的、人的、技術的および財政的資源の提供が必要であり、かつこれらの資源を補完する適切な措置および手段(規則、政策、計画および予算など)がともなわなければならない。加えて、締約国は、有害慣行からの女性・子どもの保護ならびに女性・子どもの権利の実現における進展を追跡するための独立した監視機構が整備されることを確保する義務を負う。
36.有害慣行の解消を目的する戦略はまた、他の広範な関係者(独立の国内人権機関、保健、教育および法執行の専門家、市民社会の構成員ならびに有害慣行に従事している人々を含む)の関与を得るものでもなければならない。

A データ収集および監視

37.量的および質的データの恒常的かつ包括的な収集、分析、普及および活用は、政策の有効性の確保、適切な戦略の策定および措置の立案にとって、また効果の評価、有害慣行の解消に向けて達成された進展の監視ならびに再興されつつある有害慣行および新たに登場しつつある有害慣行の特定にとって、きわめて重要である。データが利用できることにより、傾向の検討が可能になり、かつ、政策ならびに国および国以外の主体による効果的なプログラム実施と、これに対応した態度、行動様式、実践および蔓延率の変化との妥当な関係を確立することができるようになる。性別、年齢、地理的所在、社会経済的地位、教育水準その他の主要な要素によって細分化されたデータは、有害慣行に対応するための政策立案および行動の指針となる、女性および子どものなかでもリスクが高い状況および不利な立場に置かれた集団の特定にとって中心的重要性を有するものである。
38.このような認識があるにもかかわらず、有害慣行に関する細分化されたデータは依然として限られており、かつ国別および経時的に比較可能なものであることも稀であるため、問題の規模および変遷についての理解、ならびに、十分な適合性および対象の明確性を有する措置の特定が限定的なものとなっている。
39.両委員会は、両条約の締約国に対し、以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 有害慣行に関する量的および質的データ(性別、年齢、地理的所在、社会経済的地位、教育水準その他の主要な要素によって細分化されたもの)の恒常的な収集、分析、普及および活用に優先的に取り組むとともに、当該活動に十分な資源が提供されることを確保すること。保健ケア・社会サービス部門、教育部門および司法・法執行部門に、保護関連の問題に関する恒常的なデータ収集システムが設置されかつ/または維持されるべきである。
  • (b) 人口動態および諸指標に関する全国的な調査ならびに国勢調査を活用してデータを収集すること。このようなデータを、全国的な代表性を有する世帯調査から得られたデータによって補完することも考えられる。フォーカス・グループ・ディスカッション、多種多様な関係者を対象とする詳細なキー・インフォーマント・インタビュー、構造的観察法、ソーシャル・マッピングその他の適切な手法を通じた質的調査が実施されるべきである。

B 立法および法執行

40.いかなるホリスティックな戦略においても、その鍵となる要素のひとつは関連の法律の作成、制定、実施および監視である。各締約国は、有害慣行を非難する明確なメッセージを発し、被害者を法的に保護し、危険な状況にある女性・子どもを国および国以外の主体が保護できるようにし、適切な対応およびケアを提供し、かつ、救済措置が利用できることおよび処罰の免除に終止符が打たれることを確保する義務を負っている [16]。
[16] 女性差別撤廃条約第2条(a)-(c)、第2条(f)および第5条ならびに子どもの権利委員会・一般的意見13号参照。
41.ただし、法律の制定だけでは、有害慣行と効果的に闘うのには不十分である。したがって、相当の注意の要件にしたがい、法律は、その実施、執行およびフォローアップならびに達成された成果のモニタリングおよび評価を促進するための、一連の包括的措置によって補完されなければならない。
42.多くの締約国は、両条約に基づく義務に反して、有害慣行を正当化し、認め、または有害慣行につながる法規定を維持している。児童婚を認める法律、女子・女性に対して行なわれた犯罪の違法性阻却事由または情状酌量事由としていわゆる名誉の抗弁を規定している法律、または強姦その他の性犯罪の加害者が被害者と婚姻することによって制裁を回避できるようにしている法律などである。
43.複数の法体系が存在している締約国では、たとえ法律で有害慣行が明示的に禁じられていても、慣習法、伝統法または宗教法の存在によって実際にはこれらの慣行が支持されている可能性があるために、禁止規定が効果的に執行されない場合がある。
44.慣習法を扱う裁判所もしくは宗教裁判所または伝統的な裁定制度の裁判官が偏見を有しており、かつ女性および子どもの権利について扱う能力を十分に有していない場合、および、そのような慣習的制度の権限内にある問題は国その他の司法機関によるいかなる再審査または吟味の対象にもされるべきではないと考えられている場合には、有害慣行の被害者による司法へのアクセスが否定されまたは制限される。
45.有害慣行を禁止する法律の起草に関係者が全面的にかつインクルーシブに参加することにより、有害慣行に関わる主要な懸念が正確に特定され、かつ対応されることを確保することができる。当該慣行を実践しているコミュニティ、その他の関係者および市民社会の構成員の関与および意見を求めることは、このプロセスにとって中心的重要性を有する。ただし、有害慣行を支持する支配的な態度および社会的規範によって法律の制定および執行の努力が弱められないようにするため、配慮が行なわれるべきである。
46.多くの締約国は政府の権限の委任および委譲を通じて地方分権化を図るための措置をとってきたが、これによって、有害慣行を禁じた、自国の管轄全域で適用される法律を制定する義務が縮減されまたは否定されるべきではない。地方分権化または権限委任のために、地域および文化圏によって有害慣行からの女性・子どもの保護に関わる差別が生じることにならないようにするための保障措置が設けられなければならない。権限の委任にともなって、有害慣行の解消を目的とする法律を効果的に執行するために必要な人的、財政的、技術的その他の資源が提供される必要がある。
47.有害慣行に関与している文化的集団は、国境を越えたそのような慣行の拡散を助長する可能性がある。このような事態が生じている場合、拡散を封じこめるための適切な措置が必要である。
48.国内人権機関は、有害慣行の対象とされない個人の権利を含む人権の促進および保護ならびにこれらの権利に関する公衆の意識の増進において果たすべき重要な役割を有している。
49.女性・子どもにサービスを提供している個人、とくに医療従事者および教員は、有害慣行の実際のまたは潜在的な被害者を発見するうえで他に例のない立場にある。ただし、このような個人が秘密保持の規則に拘束されていることも多く、そのような規則が、有害慣行が実際に行なわれたことまたは行なわれる可能性があることを通報する義務と衝突する場合もある。このような事態は、このような事案の通報をこれらの者の義務とする具体的規則によって克服されなければならない。
50.医療専門家または政府の被用者もしくは公務員が有害慣行の実行に関与しておりまたは当該行為の共犯者である場合、その地位および責任(通報する責任を含む)は、刑事上の制裁または行政上の制裁(専門職免許の喪失もしくは契約停止など)の決定における加重事由とみなされるべきである(制裁を科すに先立って警告を行なうことが求められる)。関連の専門家を対象とする組織的研修は、この点に関わる効果的な防止措置と考えられる。
51.刑法上の制裁は、有害慣行の防止および解消に寄与するやり方で一貫して執行されなければならないが、締約国はまた、被害者に対する潜在的脅威および悪影響(報復行為を含む)も考慮しなければならない。
52.金銭的賠償は、発生件数の多い地域では実行可能性に欠ける場合もある。ただし、有害慣行の影響を受けた女性および子どもは、あらゆる場合に、法的救済措置、被害者支援およびリハビリテーションのサービスならびに社会的および経済的機会にアクセスできるべきである。
53.子どもの最善の利益ならびに女子・女性の権利の保護が常に考慮されるべきであり、またこれらの者がその視点を表明できるようにし、かつその意見が正当に重視されることを確保するために必要な諸条件が整備されなければならない。児童婚および/または強制婚の解消ならびに支払われたダウリーおよび花嫁代償金の返還が子どもまたは女性に与える可能性がある短期的および長期的影響についても、慎重に考慮されるべきである。
54.締約国ならびにとくに出入国管理官および庇護担当官は、女性・女子が、有害慣行の対象となることを避けるために出身国から避難してきた可能性もあることを認識しておくべきである。これらの官吏は、このような女性・女子を保護するためにどのような措置をとる必要があるかについての、文化および法律に関わる、ジェンダーに配慮した適切な研修を受けるべきである。
55.両委員会は、両条約の締約国が、有害慣行への効果的な対応およびその解消を目的とした法律の採択または法改正を行なうよう勧告する。その際、締約国は以下のことを確保するべきである。
  • (a) 法律を起草する過程が全面的なインクルージョンおよび参加を保障するものであること。この目的のため、締約国は、当該法律の起草、採択、普及および実施について公衆が広く知り、かつこれを支持することを促すべく、対象を明確にしたアドボカシーおよび意識啓発を行ない、かつ社会的動員のための措置を活用するべきである。
  • (b) 当該法律が、女性差別撤廃条約および子どもの権利条約ならびに有害慣行を禁ずるその他の国際人権基準に掲げられた関連の義務を全面的に遵守しており、かつ、とくに複数の法体系が存在する国においては、当該法律が、いずれかの有害慣行を認め、容認しまたは定めている慣習法、伝統法または宗教法に優越すること。
  • (c) 有害慣行を容認し、認め、または有害慣行につながるすべての法律(伝統法、慣習法または宗教法を含む)、および、いわゆる名誉の名の下で行なわれる犯罪の遂行における抗弁または情状酌量事由として名誉の抗弁を認めるすべての法律を、これ以上遅れることなく廃止すること。
  • (d) 当該法律が、一貫性および包括性を有し、かつ、防止、保護、支援およびフォローアップのためのサービスならびに被害者の援助(被害者の身体的および心理的回復ならびに社会的再統合に向けたものを含む)に関する詳細な指針を明らかにするとともに、民事法上および/または行政法上の十分な規定によって補完されていること。
  • (e) 当該法律において、有害慣行の根本的原因(性、ジェンダー、年齢およびその他の相互に交差しあう要因に基づく差別を含む)への十分な対応(暫定的特別措置をとることによるものを含む)が定められており、被害者の人権およびニーズに焦点が当てられ、かつ、子どもおよび女性の最善の利益が全面的に考慮されていること。
  • (f) 女子および男子の婚姻に関する最低法定年齢が、親の同意の有無にかかわらず18歳と定められること。
訳者注/2019年の改訂により、これに続けて述べられていた以下の指摘が削除された。
「例外的事情がある場合に18歳未満での婚姻が認められるときは、絶対的最低年齢が16歳を下回らないこと、許可事由が正当であり、かつ法律によって厳格に定められていること、および、当該婚姻の許可が、一方のまたは双方の子どもによる全面的な、自由な、かつ十分な情報に基づく同意(当事者である子どもは出廷しなければならない)を踏まえて、裁判所によってのみ与えられることという条件が満たされなければならない。」
  • (g) 婚姻登録の法的要件が定められるとともに、意識啓発、教育、および、管轄内のすべての者が登録にアクセスできるようにするための十分なインフラの存在を通じて効果的実施が行なわれること。
  • (h) 児童婚を含む有害慣行を効果的に防止するため、義務的な、アクセスしやすい、かつ無償の全国的な出生登録制度が確立されること。
  • (i) 国内人権機関に対し、秘密が保持される、ジェンダーに配慮した、かつ子どもにやさしい方法で個人の苦情申立ておよび請願(女性・子どもに代わって行なわれるものまたは女性・子どもが直接行なうものを含む)を検討し、かつ調査を実施する権限が委任されること。
  • (j) 子ども・女性のためにならびに子ども・女性とともに働く専門家および機関が、有害慣行が行なわれたまたは行なわれる可能性があると考える合理的根拠がある場合に、事件の発生またはそのおそれについて通報することを法律により義務づけられること。義務的通報の責任を課すにあたっては、通報者のプライバシーおよび秘密の保護が確保されるべきである。
  • (k) 刑法の起草および改正を目的とするすべての取り組みは、被害者および有害慣行の対象とされるおそれがある者を保護するための措置およびサービスと組み合わせて行なわれなければならないこと。
  • (l) 法律により、有害慣行の犯罪について、たとえそれが当該有害慣行の犯罪化に至っていない国で実行された場合であっても、締約国の国民および常居者に適用される裁判権が設定されること。
  • (m) 出入国管理および庇護に関連する法律および政策において、有害慣行の対象とされるおそれまたはそのような慣行の結果として迫害されるおそれのあることが庇護を付与する理由のひとつとして認められること。当該女子・女性に付添っている場合がある親族に対して保護を与えることも、個別の事案ごとに検討されるべきである。
  • (n) 当該法律に、実施、執行およびフォローアップに関するものを含む定期的な評価および監視についての規定が含まれること。
  • (o) 有害慣行の対象とされた女性および子どもが司法に平等にアクセスできること(時効など、法的手続の開始を妨げる法律上および実際上の障壁に対応することも含む)、ならびに、実行犯および当該慣行を幇助しまたは容認した者の責任が問われること。
  • (p) 当該法律で、有害慣行の対象とされるおそれがある者の安全を守るための必要的な差止命令または保護命令が定められ、かつ、そのような者の安全についての規定および被害者を報復から保護するための措置に関する規定が置かれること。
  • (q) 違反の被害者が、実際に、法的救済措置および適切な賠償に平等にアクセスできること。



  • 更新履歴:ページ作成(2015年2月6日)。/パラ5「一般的勧告4号」を「一般的勧告14号」に修正(9月13日)。/2019年の改訂(パラ20)の結果を反映(2019年12月27日)。
最終更新:2019年12月27日 11:01
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