総括所見:ドイツ(OPSC)


CRC/C/OPSC/DEU/CO/1(2014年2月24日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2014年1月27日および28日に開かれた第1867回および第1868回会合(CRC/C/SR.1867およびCRC/C/SR.1868参照)においてドイツの第1回報告書(CRC/C/OPSC/DEU/1)を検討し、2014年1月31日に開かれた第1875回会合において以下の総括所見を採択した。

I.序

2.委員会は、締約国の第1回報告書および事前質問事項に対する文書回答(CRC/C/OPSC/DEU/Q/1/Add.1)の提出を歓迎する。委員会は、ハイレベルなかつ多部門型の代表団との間に持たれた建設的対話を評価するものである。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、子どもの権利条約に基づく締約国の第3回・第4回統合定期報告書に関する総括所見(2014年1月31日採択、CRC/C/DEU/CO/3-4)および武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書に基づく第1回報告書についての総括所見(2008年2月1日採択、CRC/C/OPAC/DEU/CO/1)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

II.一般的所見

積極的側面
4.委員会は、選択議定書の実施に関連する分野で締約国がとった、以下のものを含むさまざまな措置を歓迎する。
  • (a) 性的虐待被害者の権利を強化する2013年6月26日の法律。
  • (b) 手続のすべての段階で証人の陳述をビデオに録画すること、ならびに、公判における証人の陳述に代えて当該録画を用いることおよび(または)視聴覚的手段により証人の陳述を同時送信することを可能にするための刑事訴訟法改正。
5.委員会はさらに、締約国による以下の条約の批准にも評価の意とともに留意する。
  • (a) 通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書(2013年2月)。
  • (b) 人身取引と闘うための行動に関する欧州評議会条約(2012年12月)。
6.委員会はさらに、選択議定書の実施を促進する、以下のものを含む制度の創設ならびに計画およびプログラムの採択に関して達成された進展を歓迎する。
  • (a) 性暴力および性的搾取から子どもおよび10代を保護するための連邦政府行動計画(2011年)。
  • (b) 子どもの性的虐待問題に関する独立コミッショナーの設置(2010年)。
  • (c) 観光における性的搾取から子どもを保護するためにドイツ、オーストリアおよびスイスで2010年に開始された合同教育キャンペーン。

III.データ

データ収集
7.委員会は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノのあらゆる側面(児童セックス・ツーリズムを含む)を網羅した全国的なデータ収集システムが存在しないことを遺憾に思う。委員会はまた、選択議定書上の犯罪に関する比較可能なデータが連邦レベルで存在しないこと、および、すべての州を対象とする共通の指標が定められていないことにも、懸念とともに留意するものである。
8.委員会は、締約国に対し、選択議定書が包含するあらゆる分野を網羅した、データ収集、分析、監視および影響評価のための包括的かつ体系的な機構を発展させかつ実施するよう促す。これとの関連で、委員会は、とくに以下のことを勧告するものである。
  • (a) データが、もっとも被害を受けやすい立場におかれた集団の子どもに特段の注意を払いつつ、とくに性別、年齢、国民的および民族的出身、地理的所在ならびに社会経済的背景ごとに細分化されるべきこと。
  • (b) 選択議定書上の犯罪に関する訴追および有罪判決についてのデータが収集され、かつ犯罪の性質ごとに細分化されるべきこと。
  • (c) 締約国が、さまざまな州についてのデータを収集する際の共通指標システムを確立すべきこと。
  • (d) 締約国が、選択議定書上のすべての犯罪の根本的原因および広がり、ならびに、これらの犯罪に対応するために実施されている政策および提供されているサービスの効果についての、質的および量的な研究および分析を実施すること。

IV.一般的実施措置

立法
9.選択議定書のさまざまな規定を締約国の法律に統合しようとする努力は歓迎しながらも、委員会は、締約国の焦点が人身取引、児童買春および児童ポルノにほぼ限られていることを懸念する。委員会はまた、現行法において、選択議定書で対象とされているすべての犯罪、とくに子どもの売買(人身取引に似てはいるものの同一ではない概念)が取り上げられているわけではないことも懸念するものである。
10.委員会は、締約国が、選択議定書の規定が国内法体系に全面的に編入されることを確保するためにあらゆる必要な立法上の措置をとるよう、勧告する。
国家的行動計画
11.性暴力および性的虐待から子どもおよび青少年を保護することを目的とした締約国の国家的行動計画は歓迎しながらも、委員会は、選択議定書で取り上げられているすべての問題に対処する包括的な戦略または国家的行動計画が定められていないことを遺憾に思う。
12.委員会は、締約国が、選択議定書で取り上げられているすべての問題を対象とする包括的な戦略または国家的行動計画を採択するとともに、その実施のために十分な人的資源、技術的資源および財源を提供するよう勧告する。委員会はまた、締約国に対し、当該戦略または計画について事前事後の定期的な評価が実施されることを確保するようにも奨励する。防止ならびに被害を受けた子どもの保護、身体的および心理的回復ならびに社会的再統合に、特段の焦点が当てられるべきである。
調整および評価
13.委員会は、締約国が連邦国家であることおよび州に対して自治が認められていることを認識する。しかしながら委員会は、締約国が、連邦、州およびコミュニティのレベルにおける選択議定書の全般的調整、監視、評価および実施のための中央機関を有していないことに、懸念とともに留意するものである。
14.条約の実施に関する締約国の第3回・第4回統合定期報告書についての総括所見に掲げた勧告(CRC/C/DEU/CO/3-4、パラ14)を参照しつつ、委員会は、締約国が、選択議定書の実施を効果的に調整する全面的な任務、能力および権限ならびに十分な人的資源、技術的資源および財源を有する、十分なかつ常設の連邦機関を指定するよう勧告する。
普及および意識啓発
15.性的虐待の問題に関する意識啓発を目的とした複数の全国的な取り組みおよびキャンペーンは歓迎しながらも、委員会は、子ども、親または法定保護者ならびに子どもとともにおよび子どものために働く専門家の間で選択議定書のないように関する意識が低いままであることを懸念する。
16.委員会は、締約国が、子どもともにまたは子どものために働くすべての専門家ならびに子ども(とくに、被害を受けやすい状況にある子どもおよびその家族)および公衆一般の間で選択議定書の規定を広く知らせるため、あらゆる必要な措置をとるよう勧告する。そのための手段には、適切なメディアの活用、ならびに、防止措置に関する、かつ選択議定書上のすべての犯罪の有害な影響に関する長期的な意識啓発キャンペーンおよび教育プログラム(学校カリキュラムを含む)の開発および実施も含まれる。
研修
17.委員会は、選択議定書関連の問題についての研修プログラムを実施するために行なっている努力に関して、対話の際に締約国から提供された情報を歓迎する。しかしながら委員会は、研修活動において、選択議定書のすべての規定に十分に焦点が当てられているわけではなく、かつ、子どもとともにおよび子どものために働く関連の専門家(とくに司法関係者)への対応が適切に行なわれているわけではないことを懸念するものである。
18.委員会は、締約国が、研修活動を強化するとともに、選択議定書の実施に関与するすべての専門家(裁判官、検察官、警察官、ソーシャルワーカー、保健ケア従事者ならびに子どもとともに及び子どものために働くその他の職種の専門家を含む)を対象とした、選択議定書で取り上げられているすべての分野についての体系的な研修プログラムの開発のために質量ともに十分な人的資源、技術的資源および財源を配分するよう、勧告する。

V.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止(第9条第1項および第2項)

選択議定書で禁じられた犯罪を防止するためにとられた措置
19.委員会は、子どもが選択議定書上の犯罪の被害者となる危険性を高める根本的原因(子どもの貧困、ならびに、マイノリティ集団に属する子どもならびに保護者のいない子どもの移住者および庇護希望者に対する差別など)に取り組むための締約国の努力が不十分であることを遺憾に思う。
20.委員会は、締約国が、子どもの貧困および被害を受けやすい立場におかれた集団に属する子どもに対する差別に取り組むため、あらゆる必要な措置をとるよう勧告する。これとの関連で、委員会はまた、締約国に対し、選択議定書上の犯罪の被害者になる危険性が高い子どもの特定およびモニタリング、ならびに、これらの子どもを対象とした心理社会的支援および意識啓発プログラムの実施を目的とする機構を設置することも、奨励するものである。
児童セックス・ツーリズム
21.委員会は、観光における性的搾取から子どもを保護するために締約国、オーストリアおよびスイスが開始した合同教育キャンペーン、および、行動規範の策定のような、児童セックス・ツーリズムを防止するために締約国がとった措置を歓迎する。しかしながら委員会は、児童セックス・ツーリズムを防止するための政策(とくに行動規範)の実施、および、観光業界が子どもを被害者となることから保護することを確保するためにとられた措置についての情報がないことを遺憾に思うものである。委員会はまた、児童セックス・ツーリズムについて締約国で行なわれた訴追に関するデータがないことも遺憾に思う。
22.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 児童セックス・ツーリズムを防止しかつ撤廃する目的で、効果的な規制枠組みを確立しおよび実施し、ならびに、あらゆる必要な立法上、行政上、社会上その他の措置をとること。
  • (b) 児童セックス・ツーリズムの防止および撤廃を目的とする多国間、地域間および二国間の取り決めを通じた国際協力を強化すること。
  • (c) 児童セックス・ツーリズムの有害な影響に関する観光業界への働きかけを強化し、かつ、旅行代理店および観光業者の間で世界観光倫理規範を広く普及すること。
  • (d) 旅行業者に対し、旅行・観光業における性的搾取から子どもを保護するための行動規範への署名を奨励すること。

VI.子どもの売買、児童ポルノおよび児童買春の禁止ならびに関連の事項(第3条、第4条第2項および3項、第5条、第6条ならびに第7条)

現行刑事法令
23.選択議定書上の犯罪を刑法に含めるために締約国が行なった努力は歓迎しながらも、委員会は、選択議定書第2条で定められた子どもの売買の定義が刑法に反映されていないこと、および、子どもが性的搾取、利得を目的とした臓器移植、強制労働への従事および不法な養子縁組の被害者となる事案が選択議定書第3条で要求されているように子どもの売買との関係で犯罪化されていないことを、依然として懸念する。
24.委員会は、締約国が、刑法その他の関連の法律を、選択議定書第2条および第3条と完全に一致させる目的で引き続き改正するよう勧告する。とくに、締約国は、選択議定書にしたがって子どもの売買(とくに、選択議定書第3条第1項および第5項にしたがって、性的搾取、利得目的の臓器移植、強制労働に従事させることおよび不法な養子縁組を目的とする子どもの売買)を定義しかつ犯罪化するべきである。
25.委員会はまた、選択議定書上の犯罪(とくに児童ポルノ9を処罰する刑法の一部の規定で子どもが14歳までしか保護の対象とされていないことにも、懸念とともに留意する。
26.委員会は、締約国が、18歳未満のすべての子どもが全面的に保護されることを確保するよう勧告する。
不処罰
27.委員会は、選択議定書上のすべての犯罪の実行犯の捜査、訴追および処罰に関する情報がないことを懸念する。
28.委員会は、締約国に対し、選択議定書上の犯罪が捜査されること、および、実行犯とされる者が訴追されかつ適正な制裁を受けることを確保するためにあらゆる必要な措置をとるよう、促す。委員会は、締約国が、選択議定書上の犯罪の実行犯の捜査、訴追および処罰に関する詳細な情報を次回の定期報告書で提供するよう、勧告するものである。
域外裁判権および犯罪人引渡し
29.委員会は、締約国の法律において、選択議定書第4条第2項に挙げられているすべての事件についての域外裁判権が明示的に認められているわけではないことを遺憾に思う。委員会はまた、選択議定書上の犯罪についての裁判権に関して双方可罰性が必要とされていることも遺憾に思うものである。
30.委員会は、締約国が、国内法によって、選択議定書上の犯罪について域外裁判権(双方可罰性の基準を満たさない場合の域外裁判権を含む)を設定しおよび行使し、ならびに、必要なときは選択議定書第5条にしたがって選択議定書を犯罪人引渡しの法的根拠として用いることができることを確保するための措置をとるよう、勧告する。

VII.被害を受けた子どもの権利の保護(第8条ならびに第9条第3項および第4項)

被害を受けた子どもの権利を保護するためにとられた措置
31.委員会は、選択議定書の被害を受けた子どもであって、国外出身であり、かつ常に被害者と認められるわけではなく犯罪者とみなされる可能性もある者を対象とする証人保護プログラムが不十分であることを懸念する。委員会はまた、選択議定書上の犯罪の被害者となった子どもであって非正規な移住状況にありまたは在留資格が不明確な者が、選択議定書の保護体制の利益を十分に享受できていないことにも、懸念とともに留意するものである。
32.委員会は、締約国が、選択議定書上のいかなる犯罪の被害を受けた子どもも刑罰の対象とされず、かつ被害者とみなされることを確保するよう勧告する。選択議定書第9条第3項に照らし、委員会はまた、選択議定書の被害者となったすべての子どもが保護体制への平等なアクセスを認められること、および、選択議定書第8条第3項にしたがって子どもの最善の利益が常に第一次的に考慮されることを確保するため、締約国があらゆる必要な立法措置をとることも勧告するものである。
刑事司法制度における保護措置
33.被害者および証人である子どもの保護を確保するために締約国がとった立法措置は歓迎しながらも、委員会は、被害者および証人である子どもがしばしば自己の手続的権利についての十分な情報を受け取っていないことに、懸念とともに留意する。委員会はまた、証人による陳述の視聴覚的記録を用いることができるようになったことは歓迎しながらも、当該技術の利用が限定されていることも懸念するものである。
34.選択議定書第8条第1項に照らし、委員会は、締約国が、刑事司法手続のあらゆる段階で被害者および証人である子どもの保護を確保するよう勧告する。締約国は、この点に関し、経済社会理事会が決議2005/2で採択した「子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての指針」を指針とするべきである。委員会は、その際、締約国が、とりわけ同指針の第7章および第11章をとくに重視するとともに、情報を受ける権利および司法手続中に苦痛から保護される権利の効果的かつ徹底的な実施を確保する目的で、質量ともに十分な人的資源、技術的資源および財源を配分するためにあらゆる努力を行なうよう勧告する。
被害者の回復および再統合
35.委員会は、選択議定書上のあらゆる犯罪の被害者の回復および再統合のための措置が、とくに男子および保護者のいない子どもについて不十分であること(児童ポルノまたは強制労働の影響を受けた子どものためのカウンセリングセンターの数が少ないことを含む)を懸念する。委員会はまた、人身取引、児童買春および児童ポルノの被害を受けた子どもの家族に対して支援が行なわれていないことにも懸念とともに留意し、かつ、選択議定書上の犯罪が関わる事件における被害者補償法の実施についての情報がないことを遺憾に思うものである。
36.委員会は、締約国が、選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どもおよびその家族が全国で適切な援助(身体的および心理的回復ならびに全面的な社会的再統合のための援助を含む)を提供されることを確保するため、あらゆる必要な措置をとるよう勧告する。これとの関連で、委員会はまた、締約国が、被害を受けた子どもの援助に責任を負う者を対象として適切な法律上および心理学上の研修が実施されること、ならびに、被害を受けた子どもを含む関係者の参加を得ながらこれらのサービスの体系的評価が行なわれることを確保するようにも勧告するものである。委員会はさらに、締約国が、被害を受けたすべての子どもが法的に責任のある者に対して差別なく被害賠償を求める十分な手続にアクセスできることを確保するよう、勧告する。
ヘルプライン
37.子どもおよび青少年を対象とするヘルプライン「悩み相談電話」(Nummer gegen Kummer)が存在することは歓迎しながらも、委員会は、同相談電話が、選択議定書の対象である集団に全面的に行き届いているわけではないことを遺憾に思う。委員会はまた、同ヘルプラインおよび子どもの性的虐待問題に関する独立コミッショナーが運営しているヘルプラインのいずれも全国的サービスまたは24時間・週7日体制で利用可能なサービスとなっていないことにも、懸念とともに留意するものである。
38.委員会は、締約国に対し、子どもヘルプラインに対する財政支援を強化するとともに、以下のことを確保する目的で人的資源、技術的資源および財源を配分することを検討するよう、奨励する。
  • (a) ヘルプラインのために働いている専門家が、選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どもに対してカウンセリングを行なうための訓練を受けること。
  • (b) 全国的に24時間・週7日体制でヘルプラインにアクセスできること。
  • (c) 選択議定書関連の問題についてヘルプラインに相談できることが、とくに、被害を受けやすい状況にある子どもの間で周知されること。

VIII.国際的な援助および協力(第10条)

多国間、二国間および地域間の取り決め
39.選択議定書第10条第1項に照らし、委員会は、締約国に対し、選択議定書が対象とするすべての犯罪の防止、摘発、捜査ならびに当該犯罪に責任を負う者の訴追および処罰を向上させる目的で、とくに近隣諸国との多国間、地域間および二国間の取り決めを通じ、引き続き国際協力を強化する(当該取り決めの実施を調整するための手続および機構を強化することによるものも含む)よう、奨励する。

IX.フォローアップおよび普及

フォローアップ
40.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を関連の政府省庁、議会ならびに連邦、州および地方の公的機関に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
総括所見の普及
41.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した報告書および文書回答ならびにこの総括所見を、インターネット等も通じ、公衆一般、市民社会組織、若者グループ、専門家グループおよび子どもが広く入手できるようにすることを勧告する。

X.次回報告書

42.選択議定書第12条第2項にしたがい、委員会は、締約国が、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約条約第44条にしたがって提出される、条約に基づく次回の定期報告書に記載するよう要請する。


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最終更新:2014年05月06日 17:24