子どもの権利委員会・一般的意見13号:あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利(1)


子どもの権利委員会
第56会期(2011年1月17日~2月4日)採択〔注/実際には2011年2月11日の特別会合で採択
CRC/C/GC/13(原文英語〔PDF〕)
日本語訳:平野裕二〔日本語訳全文(PDF)

目次
I.はじめに
II.目的
III.子どもの生活における暴力
IV.第19条の法的分析
  • A.第19条第1項
  • B.第19条第2項
V.より幅広い条約上の文脈における第19条の解釈
VI.子どもに対する暴力についての国家的調整枠組み
VII.実施のための資源および国際協力の必要性

I.はじめに

1.第19条は次のように定めている。
1.締約国は、親、法定保護者または子どもの養育をする他の者による子どもの養育中に、あらゆる形態の身体的もしくは精神的な暴力、侵害もしくは虐待、放任もしくは怠慢な取扱い、性的虐待を含む不当な取扱いまたは搾取から子どもを保護するためにあらゆる適当な立法上、行政上、社会上および教育上の措置をとる。
2.当該保護措置は、適当な場合には、子どもおよび子どもを養育する者に必要な援助を与える社会計画の確立、およびその他の形態の予防のための効果的な手続、ならびに上記の子どもの不当な取扱いについての実例の認定、報告、照会、調査、処理および追跡調査のため、および適当な場合には、司法的関与のための効果的な手続を含む。
(訳者注/国際教育法研究会訳を一部修正。)
2.この一般的意見がまとめられた理由。子どもの権利委員会(以下「委員会」)が子どもの権利条約(以下「条約」)第19条に関するこの一般的意見を発表するのは、子どもに対して振るわれている暴力の規模および激しさが憂慮すべき状態だからである。子どもの発達、および、社会が潜在的に有する非暴力的な紛争解決策を脅かすこのような慣行に効果的に終止符を打つためには、暴力を終わらせるための措置が大規模に強化および拡大されなければならない。
3.概要。この一般的意見は、以下の基本的前提および所見を基盤とするものである。
  • (a) 「子どもに対する暴力はいかなるものも正当化できず、子どもに対するあらゆる暴力は防止可能である」 [1]。
  • (b) 子どもの養育および保護に対する子どもの権利基盤アプローチのためには、子どもをもっぱら「被害者」として見るのではなく、権利を有する個人としての子どもの人間としての尊厳ならびに身体的および心理的不可侵性を尊重しかつ促進する方向へのパラダイム転換が必要である。
  • (c) 尊厳という考え方は、すべての子どもが権利の保有者として、かつ、個人の人格、特有のニーズ、利益およびプライバシーを有する、かけがえのない、価値あるひとりの人間として承認され、尊重されかつ保護されることを要求する。
  • (d) 法の支配の原則は、おとなに対して適用されるのと同様に、子どもに対しても全面的に適用されるべきである。
  • (e) 意見を聴かれ、かつその意見を正当に重視される子どもの権利があらゆる意思決定プロセスにおいて体系的に尊重されなければならず、かつ、子どものエンパワーメントと参加が、子どもの養育および保護のための戦略およびプログラムの中心となるべきである。
  • (f) 自己に関係するまたは自己に影響を与えるすべての事柄において自己の最善の利益を第一義的に考慮される子どもの権利が、とくに子どもが暴力の被害を受けた場合に、かつあらゆる防止措置において、尊重されなければならない。
  • (g) 公衆衛生、教育、社会サービスその他のアプローチを通じた、あらゆる形態の暴力の第一次予防が何よりも重要である。
  • (h) 委員会は、子どもの養育および保護ならびに暴力防止における家族(拡大家族を含む)の第一義的立場を認める。しかしながら、委員会はまた、暴力の過半数は家族の文脈で生じていること、および、したがって子どもが家族に覆いかぶさっているまたは家族内で一般化している困難および困窮の被害を受けているときは介入および支援が必要であることも、認めるものである。
  • (i) 委員会はまた、学校、ケアセンター、居住型施設、警察の拘置所および司法施設も含め、国の施設においてかつ国の行為主体によって、子どもに対して広範かつ激しい暴力が振るわれていること(これが子どもの拷問および殺害に至る場合もある)、および、子どもに対する暴力が武装集団および国の軍隊によってしばしば用いられていることも認識する。
4.暴力の定義。この一般的意見の適用上、「暴力」とは、条約第19条第1項に列挙されているとおり、「あらゆる形態の身体的または精神的な暴力、侵害または虐待、放任または怠慢な取扱い、性的虐待を含む不当な取扱いまたは搾取」として理解される。ここで暴力という用語を選んだのは、子どもに対する暴力に関する国際連合研究(2006年)で用いられた用語法にしたがって、第19条第1項に列挙された、子どもに対するあらゆる形態の危害を表現するためである。ただし、種々の危害を記述するために用いられる他の用語(侵害、虐待、放任〔ネグレクト〕または怠慢な取扱い、不当な取扱いおよび搾取)も同様の重みを持つ [2]。一般的用語法では、暴力という言葉は身体的危害および(または)意図的危害のみを意味するものとして理解されることが多い。しかし委員会は、この一般的意見で暴力という用語を選んだことが、いかなる意味でも、身体的および(または)意図的ではない形態の危害(とくにネグレクトおよび心理的な不当な取扱い等)の影響およびこれに対処する必要性を過小評価するものとして解釈されてはならないことを、最大限の力をこめて強調する。
[2] 他の言語への条約の翻訳では、英語の「暴力」(violence)に正確に対応する文言が含まれているとはかぎらない。
5.国の義務および家族その他の主体の責任。「締約国」への言及は、国レベルのみならず州および自治体のレベルでも子どもに対する責任を担わなければならない締約国の義務を指している。これらの特別な義務とは、相当の注意義務であり、かつ暴力または人権侵害を防止する義務、被害を受けた子どもおよび目撃者を人権侵害から保護する義務、調査を行ないかつ責任者を処罰する義務ならびに人権侵害の救済措置へのアクセスを提供する義務である。暴力がどこで発生するかに関わらず、締約国は、親その他の養育者が、その能力および資力の範囲内で、かつ子どもの発達しつつある能力を尊重しながら、子どもの最適な発達のために必要な生活条件を確保することを支援および援助する、積極的かつ主体的義務を有する(第18条および第27条)。締約国はさらに、仕事の文脈において暴力の防止、暴力からの保護および暴力への対応に責任を有しているすべての者および司法制度に属するすべての者が子どものニーズに対応しかつその権利を尊重していることを確保しなければならない。
6.一般的意見13号の作成経緯。この一般的意見は、締約国報告書の審査およびそれぞれの総括所見、子どもに対する暴力に関して行なわれた2度の一般的討議の勧告(2000年および2001年)、体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利に関する一般的意見8号(2006年)ならびに他の一般的意見で行なわれた暴力の問題に関する言及において委員会が示してきた既存の指針をもとに、これを発展させたものである。この一般的意見は、子どもに対する暴力に関する国際連合研究のための独立専門家報告書に掲げられた勧告(A/61/299)への注意を喚起するとともに、締約国に対し、これらの勧告を遅滞なく実施するよう求める。また、「子どもの代替的養護に関する指針」〔PDF〕[3] で参照可能な詳細な指針に対しても注意を喚起するものである。この一般的意見はまた、実践における第19条の実施の追求における、国際連合諸機関、各国政府、非政府組織(NGO)、コミュニティ団体、開発機関および子どもたち自身の専門性および経験も参考にしている [4]。
[3] 国連総会決議64/142添付文書。
[4] 「子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての指針」(国連経済社会理事会決議2005/20添付文書)参照。
7.第19条の文脈的理解。委員会は以下のことを認識する。
  • (a) 第19条は、暴力に直接関係する条約の多くの規定のひとつである。委員会はまた、第19条が、子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに関する選択議定書ならびに武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書とも直接関連していることも認識する。しかし委員会は、第19条が、条約の文脈においてより幅広くあらゆる形態の暴力に対応しかつこれを解消していくための議論および戦略に関する中核的規定であると考えるものである。
  • (b) 第19条は、暴力に直接関わる規定に留まらず、条約の広範な規定と強く結びついている。条約の原則として特定されている諸権利を掲げた条項(この一般的意見のV参照)に加えて、第19条の実施は第5条、第9条、第18条および第27条の文脈に位置づけられなければならない。
  • (c) 人間の尊厳の尊重、身体的および心理的不可侵性ならびに法律に基づく平等の保護に対する子どもの権利は、他の国際的および地域的人権文書でも承認されている。
  • (d) 第19条を実施するためには、国内的、地域的および国際的人権機関、諸機構ならびに国際連合諸機関の内部および相互の協力が必要である。
  • (e) とくに、子どもに対する暴力に関する〔国連〕事務総長特別代表との協力が必要である。同特別代表は、あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利を保護するため、加盟国および幅広いパートナー(国際連合諸機関、市民社会組織および子どもたちを含む)と緊密に協力しながら、子どもに対する暴力に関する国際連合研究の勧告の実施を促進する任務を与えられている。
8.普及。委員会は、締約国が、政府および行政機構内で、かつ親、その他の養育者、子ども、職能団体、コミュニティおよび市民社会一般を対象として、この一般的意見を広く普及するよう勧告する。印刷媒体、インターネットおよび子どもたち自身のコミュニケーション手段を含むあらゆる普及経路が活用されるべきである。そのためには、手話、点字および障害のある子どもが読みやすい形式を含む関連の言語にこれを翻訳することが必要になろう。また、文化的に適切で子どもにやさしい版を利用可能とすること、ワークショップおよびセミナーを開催すること、この一般的意見の意味合いおよび最善の実施方法を議論できるようにするための年齢および障害に固有の支援を実施すること、ならびに、子どものためにおよび子どもとともに働くすべての専門家の訓練にこれを編入することも必要である。
9.条約上の報告要件。委員会は、締約国が、条約別の報告ガイドライン(CRC/C/58/Rev.2 and Corr.1)、一般的意見8号(パラ53)、および、締約国代表との対話後に採択された委員会の総括所見に掲げられた報告要件を参照するよう求める。この一般的意見は、条約第44条に基づいて提出される報告書で締約国がどのような措置に関する情報を提供するよう期待されているかを集約し、かつ具体的に示したものである。委員会はまた、締約国が、子どもに対する暴力に関する国際連合研究の勧告(A/61/299、パラ116)の実施に向けた進展についての情報も含めるよう勧告する。報告は、暴力を禁止し、かつ暴力が行なわれたときに適切に介入するための法律その他の規則のほか、暴力の防止、意識啓発活動および前向きな非暴力的関係の促進のための措置についても行なわれるべきである。報告書ではさらに、介入(防止も含む)の各段階で誰が子どもおよび家族に対して責任を負っているのか、その責任はどのようなものか、専門家はどの段階でおよびどのような状況下で介入することができるのか、ならびに、さまざまな部門がどのように協働しているのかについても具体的に明らかにすることが求められる。
10.追加的情報源。委員会はまた、国際連合諸機関、国内人権機関、NGOおよび他の資格ある機関に対し、あらゆる形態の暴力の法的地位および蔓延状況ならびにその解消に向けた進展に関する関連情報を委員会に提供するようにも奨励する。

II.目的

11.この一般的意見は以下のことを追求するためのものである。
  • (a) 締約国が条約第19条に基づく自国の義務、すなわち親、法定保護者または子どもの養育をする他の者(国の行為主体を含む)による養育中に生ずる、子どもを対象とするあらゆる形態の身体的もしくは精神的暴力、侵害もしくは虐待、放任もしくは怠慢な取扱い、不当な取扱いまたは搾取(性的虐待を含む)を禁止し、防止しかつこれに対応する義務を理解する際の指針とすること。
  • (b) 締約国がとらなければならない立法上、司法上、行政上、社会上および教育上の措置の概略を示すこと。
  • (c) 子どもの養育および保護に対応するための取り組みが散発的に、ばらばらにかつ対症療法的に行なわれてきたことは、あらゆる形態の暴力の防止および解消に対してかぎられた影響しか及ぼしてこなかったことから、このような状態を克服すること。
  • (d) 生存、尊厳、ウェルビーイング、健康、発達、参加および差別の禁止に対する子どもの権利――これらの権利の履行は暴力によって脅かされる――を確保することに関する条約の全般的視点に基づく、第19条の実施に対するホリスティックなアプローチを促進すること。
  • (e) 締約国その他の関係者に対し、子どもの権利を基盤とする包括的な養育措置および保護措置を通じて暴力を解消するための調整枠組みを発展させる基盤を提供すること。
  • (f) 第19条に基づく自国の義務を履行するためにすべての締約国が迅速に行動する必要性を浮き彫りにすること。

III.子どもの生活における暴力

12.課題。委員会は、子どもに対する暴力を防止しかつこれに対応するために政府その他の主体が発展させてきた無数の取り組みを認知しかつ歓迎する。このような努力にも関わらず、現在行なわれている取り組みは全体として不十分である。過半数の国の法的枠組みは依然として子どもに対するあらゆる形態の暴力の禁止に至っておらず、法律が存在する場合でもその執行は不十分であることが多い。広く蔓延した社会的・文化的態度および慣行が暴力を容認している。とられる措置の効果は、子どもに対する暴力およびその根本的原因に関する知識、データおよび理解が欠如していることによって、取り組みが原因ではなく症状および結果に焦点を当てる対症療法的なものであることによって、かつ戦略が統合されておらず断片化されたままであることによって、かぎられたものにしかならない。問題に対処するために配分される資源は不十分である。
13.人権上の大命題。子どもに対する暴力の広範な蔓延および発生に対応し、これを解消することは、条約に基づく締約国の義務である。あらゆる形態の暴力を防止することを通じて人間の尊厳ならびに身体的および心理的不可侵性に対する子どもの基本的権利を確保および促進することは、条約に掲げられたすべての子どもの権利を促進するうえで不可欠である。ここで提示される他のあらゆる主張は、この人権上の大命題を強化するものであって、これにとって代わるものではない。したがって、暴力を防止しかつこれに対応するための戦略およびシステムにおいては、福祉アプローチではなく子どもの権利アプローチが採用されなければならない(さらに詳しくはパラ53参照)。
14.社会的発展と子どもの貢献。暴力とは無縁な、敬意に満ちた支持的な子育て環境は、子ども個人の人格の実現を支え、かつ、地域コミュニティおよびさらに幅広い社会における、社会性と責任感を有した、積極的貢献を行なう市民の成長を促進する。調査研究の示すところによれば、暴力を経験せずに健康的に発達する子どもは、子ども時代においてもおとなになってからも暴力的に振る舞う可能性が低い。ある世代で暴力を防止することは、次の世代で暴力が生じる可能性を低めることにつながる。したがって、第19条を実施することは、社会におけるあらゆる形態の暴力を少なくしかつ防止するための、そして子どもたちがおとなと同一の地位および価値を有する「人類社会」のために「社会の進歩および生活水準の向上」ならびに「世界における自由、正義および平和」を促進する(条約前文)ための、鍵となる戦略のひとつである。
15.生存および発達――子どもに対する暴力の破壊的影響。子どもの生存ならびに「身体的、精神的、霊的、道徳的および社会的発達」(第27条第1項)は、下記のとおり、暴力によって深刻な悪影響を受ける。
  • (a) 子どもに対する暴力および子どもの不当な取扱いがもたらす短期的・長期的な健康上の影響は広く認められている。これには、致死性の傷害、非致死性の(障害につながる可能性がある)傷害、身体的健康問題(発育不全、その後の肺・心臓・肝臓疾患ならびに性感染症を含む)、認知機能障害(学業・就労能力が損なわれることを含む)、心理的および情緒的影響(拒否されたおよび見捨てられたという感覚、愛着不全、トラウマ、恐怖、不安、不安定感および自尊感情の崩壊など)、精神的健康問題(不安障害、抑うつ障害、幻覚、記憶障害および自殺未遂など)ならびに健康上のリスクをともなう行動(有害物質濫用および早期の性行動など)などが含まれる。
  • (b) 発達上および行動上の影響(不登校ならびに攻撃的、反社会的および自己危害ならびに他害行動など)は、とくに人間関係の悪化、退学ならびに触法・不法行為につながる可能性がある。暴力にさらされることにより、子どもがさらなる被害を受け、かつ暴力的経験(その後の親密なパートナー間の暴力を含む)を重ねていくおそれが高まることを示す証拠が存在する。
  • (c) 子どもの暴力に対して国が高圧的なまたは「ゼロ・トレランス」の政策で臨むことは、それが暴力に対してさらなる暴力で対応することにより子どもに被害を与える懲罰的アプローチであるため、きわめて破壊的な影響をもたらす。このような政策は、市民の安全をめぐって公衆が懸念を表明することにより、かつマスメディアがこれらの問題を大々的に取り上げることにより、形成されることが多い。公共の安全に関する国の政策においては、暴力に暴力で報復する悪循環から脱することができるようにするため、子どもの犯罪の根本的原因が慎重に考慮されなければならない。
[5] パウロ・セルジオ・ピネイロ(子どもに対する暴力に関する国連事務総長研究のための独立専門家)による World Report on Violence against Children (Geneva, 2006), pp.63-66参照。
16.子どもに対する暴力の代価。保護に対する子どもの権利を否定することの人的、社会的および経済的代価は膨大であり、受け入れられない。直接的代価としては、医療ケア、法的サービスおよび福祉サービスならびに代替的養護が考えられる。間接的代価としては、永続する可能性がある損傷または障害、心理的代価または被害者の生活の質に生じるその他の影響、教育の阻害または中断、および、子どもの将来の生活における生産性の喪失が考えられる。また、暴力を経験した子どもが行なう犯罪の結果生じる刑事司法制度関連の代価も含まれる。女子が出生前に差別的に抹殺されることを原因とする人口動態的不均衡から生ずる社会的代価は大きく、女子に対する暴力(誘拐、早期婚および強制婚、性的目的の人身取引ならびに性的暴力を含む)の増加にとっても何らかの意味を有している可能性がある。

IV.第19条の法的分析

A.第19条第1項

1.「あらゆる形態の」(… all forms of …)
17.例外は存在しない。委員会は、どんなに軽いものであっても、子どもに対するあらゆる形態の暴力は受け入れられないという立場を一貫して維持してきた。「あらゆる形態の身体的もしくは精神的な暴力」という文言は、いかなる水準のものであっても、子どもに対する合法的な暴力が成立する余地を残していない。頻度、危害の深刻さおよび危害の意図は、暴力の定義の前提ではないのである。締約国は、子どもの最善の利益にのっとった比例的対応ができるようにするため、介入のための戦略においてこのような要素を参照することはできるが、定義においては、一部の形態の暴力を法的におよび(または)社会的に許容するような記述をすることにより、人間の尊厳ならびに身体的および心理的不可侵性に対する子どもの絶対的権利が後退させられることは、いかなる形でもあってはならない。
18.子どもの権利を基盤とする定義の必要性。締約国は、子どものウェルビーイング、健康および発達に関する国家的基準を定めなければならない。これらの条件を確保することが子どもの養育および保護の最終目標だからである。すべての環境におけるあらゆる形態の暴力を禁止するため、第19条に掲げられたさまざまな形態の暴力について、運用上の明確な法的定義を設けることが必要となる。これらの定義は、この一般的意見で示された指針を考慮したものでなければならず、用に耐える十分な明確さを備えていなければならず、かつさまざまな社会および文化において適用可能なものであることが求められる。(データ収集および国境を越えた経験交流を容易にする目的で)諸定義の国際的標準化のための努力が奨励されるべきである。
19.暴力の諸形態――概観。暴力の諸形態を概観した、すべてを網羅したものではない以下のリストは、あらゆる環境にあるおよび環境間を移行中のすべての子どもに適用されるものである。子どもはおとなによる暴力を経験する可能性があり、また子ども同士の間で暴力が発生することもある。さらに、自分自身を傷つける子どもも存在する。委員会は、諸形態の暴力が同時に発生することが多いこと、および、それは便宜上ここで用いているカテゴリーをまたぐ可能性があることを認識するものである。女子も男子もあらゆる形態の暴力を受けるおそれがあるが、暴力がジェンダーの要素を有していることも多い。たとえば、女子は男子よりも家庭における性的暴力を経験することが多いかもしれないが、一方で男子は刑事司法制度と接触する――かつ刑事司法制度における暴力を経験する――可能性がより高いかもしれない(暴力のジェンダー的側面についてはパラ72(b)も参照)。
20.放任(ネグレクト)または怠慢な取扱い。放任(ネグレクト)とは、子どもの養育に責任を負う者がそのための手段、知識およびサービスへのアクセスを有しているのに、子どもの身体的および心理的ニーズを満たさず、子どもを危険から保護せず、または医療、出生登録その他のサービスを利用しないことである。これには以下のものが含まれる。
  • (a) 身体的ネグレクト:子どもを危害から保護しないこと [6] (監督の欠如によるものも含む)、または基礎的な必要条件(十分な食料、居住場所、衣服および基礎的医療ケアを含む)を子どもに提供しないこと。
  • (b) 心理的または情緒的ネグレクト:いかなる情緒的支援および愛も存在しないこと、子どもに対して慢性的に注意を払わないこと、乳幼児の合図および信号を見過ごすことによって養育者が「心理的に利用不可能」な状態になること、および、親密なパートナー間の暴力、麻薬濫用またはアルコール濫用にさらされることを含む。
  • (c) 子どもの身体的または精神的健康のネグレクト:必要不可欠な医療ケアを与えないこと。
  • (d) 教育的ネグレクト:通学その他の手段を通じて子どもの教育を確保するよう養育者に求めた法律を遵守しないこと。
  • (e) 遺棄:重大な懸念の対象であり、一部の社会ではとくに婚外子および障害のある子どもに不相応なほどの影響を与えている可能性がある慣行 [7]。
[6] 締約国は事故の防止に関して養育者を支援することも義務づけられている(第19条および第24条第2項(e))。
[7] 多くの国では、貧困下で暮らしている親および養育者が養育手段を有していないために子どもが遺棄されている。定義上、ネグレクトとは、親が子どものニーズを満たす集団を有しているのに養育が行なわれないことである。委員会は、締約国に対し、「親および法定保護者が子どもの養育責任を果たすにあたって適当な援助を与え」(条約第18条第2項)るよう、しばしば促してきた。
21.精神的暴力。条約にいう「精神的な暴力」は、不当な心理的取扱い、精神的虐待、言葉による虐待および情緒的虐待またはネグレクトとして説明されることが多い。これには以下のものが含まれうる。
  • (a) 子どもを相手として執拗に行なわれるあらゆる形態の有害な関わり合い(たとえば、子どもに対し、価値がない、愛されていない、望まれていない、危険な状態にある、または他人のニーズを満たすかぎりにおいてしか存在価値がないと伝えること)。
  • (b) 恐怖心を煽ること、威嚇すること、および脅かすこと。搾取すること、および堕落させること。ないがしろにすること、および拒絶すること。孤立させること、無視すること、およびえこひいきすること。
  • (c) 情緒的反応を与えないこと。精神的健康、医療上のニーズおよび教育上のニーズをないがしろにすること。
  • (d) 侮辱すること、中傷すること、屈辱を与えること、けなすこと、からかうこと、および子どもの気持ちを傷つけること。
  • (e) ドメスティック・バイオレンスを目撃させること。
  • (f) 独居拘禁の状態、隔離状態、または屈辱的なもしくは品位を傷つける拘禁環境に置くこと。
  • (g) おとなまたは他の子どもによる心理的ないじめおよび通過儀礼 [8]。携帯電話およびインターネット等の情報通信技術(ICT)を通じて行なわれるものも含む(いわゆる「ネットいじめ」)。
[8] 「通過儀礼」(hazing)とは、ある者を集団に迎え入れる手段として用いられる、いやがらせ、暴力または屈辱をともあう儀式その他の活動を指す。
22.身体的暴力。これには致死的および非致死的な身体的暴力が含まれる。委員会は、身体的暴力には以下のものが含まれるという見解に立つものである。
  • (a) あらゆる体罰、および、他のあらゆる形態の拷問、残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰。
  • (b) おとなおよび他の子どもによる身体的ないじめおよび通過儀礼。
23.障害のある子どもは、以下のような特定の形態の身体的暴力の対象とされる場合がある。
  • (a) 強制的不妊手術(とくに女子)。
  • (b) 治療を名目とする暴力(たとえば電気痙攣療法(ECT)、および、子どもの行動を統制するために「嫌忌療法」として用いられる電気ショック)。
  • (c) 路上その他の場所で物乞いとして搾取する目的で子どもに意図的に障害を負わせること。
24.体罰一般的意見8号(パラ11)において、委員会は、「体」罰を、どんなに軽いものであっても、有形力が用いられ、かつ何らかの苦痛または不快感を引き起こすことを意図した罰として定義した。ほとんどの場合、これは手または道具――鞭、棒、ベルト、靴、木さじ等――で子どもを叩くという形で行なわれる。しかし、たとえば、蹴ること、子どもを揺さぶったり放り投げたりすること、引っかくこと、つねること、かむこと、髪を引っ張ったり耳を打ったりすること、子どもを不快な姿勢のままでいさせること、やけどさせること、薬物等で倦怠感をもよおさせること、または強制的に口に物を入れることをともなう場合もありうる。委員会の見解では、体罰はどんな場合にも品位を傷つけるものである。体罰の他の具体的形態は、子どもに対する暴力に関する国際連合研究のための独立専門家報告書に列挙されている(A/61/299、パラ56,60および62)。
25.性的な虐待および搾取。性的な虐待および搾取には以下のものが含まれる。
  • (a) 何らかの不法なまたは心理的に有害な性的活動に従事するよう子どもを勧誘しまたは強制すること。[9]
  • (b) 商業的性的搾取において子どもを使用すること。
  • (c) 子どもの性的虐待を描いた音声素材または視覚画像で子どもを使用すること。
  • (d) 子ども買春、性的奴隷制、旅行および観光における性的搾取、性的目的の(国内でおよび国境を越えて行なわれる)子どもの人身取引および売買、ならびに強制婚。多くの子どもは、物理的な力または高速はともわないものの、それでも心理的侵襲、搾取およびトラウマをもたらす性的被害を経験している。
[9] 性的虐待は、おとなによって子どもに押しつけられる何らかの性的活動であって、子どもが刑法によって保護される権利を有しているものから構成される。性的活動はまた、子どもが他の子どもに対して行なう場合であっても、加害者側の子どもが被害者側よりも相当に年長である場合、または力、脅しその他の圧力手段を用いる場合には虐待とみなされる。子ども同士の性的活動は、当事者である子どもが、同意に基づく性的活動について締約国が定めた年齢制限よりも年長であるときは、性的虐待とは見なされない。
26.拷問および非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰。これには、自白を得ること、不法なまたは望ましくない行動について子どもを超司法的に処罰すること、または子どもをその意思に反して活動に従事させることを目的として子どもに対して振るわれるあらゆる形態の暴力であって、典型的には警察官および法執行官、居住型その他の施設の職員ならびに子どもに対して権力を有している者(国以外の武装主体を含む)によって用いられるものが含まれる。被害者は、周縁化され、不利な立場に置かれおよび差別され、かつその権利および最善の利益を擁護する責任を負うおとなから保護されていない子どもであることが多い。これには、法に抵触した子ども、路上の状況にある子ども、マイノリティおよび先住民族の子ども、ならびに、出身国外にあって保護者のいない子どもが含まれる。このような行為にともなう残忍性は、生涯にわたる身体的および心理的危害ならびに社会的ストレスをもたらすことが多い。
27.子ども同士の暴力。これには、子ども(しばしば集団の子ども)によって他の子どもに加えられる、いじめの形をとることが多い身体的、心理的および性的暴力が含まれる。このような暴力は、子どもの身体的および心理的不可侵性ならびにウェルビーイングを即時的に損なうのみならず、中期的かつ長期的に、その発達、教育および社会的統合に深刻な影響を及ぼすことが多い。また、若者ギャング集団による暴力も、被害者としてであれ参加者としてであれ、子どもに深刻な犠牲をもたらしている。子どもが行為者であるとはいえ、このような暴力に適切な形で対応しかつこれを防止するためのすべての試みにおいて、これらの子どもに責任を有するおとなの役割が決定的に重要である。このような試みにおいて措置をとる際には、懲罰的アプローチをとることおよび暴力に対して暴力を用いることにより暴力が悪化しないことを確保しなければならない。
28.自己危害。これには、摂食障害、有害物質の使用および濫用、自傷行為、自殺念慮、自殺未遂および実際の自殺が含まれる。思春期の子どもの自殺は、委員会にとってとりわけ懸念の対象である。
29.有害慣行。これには以下のものが含まれるが、これにかぎられない。
  • (a) 体罰その他の残酷なまたは品位を傷つける形態の罰。
  • (b) 女性性器切除。
  • (c) 四肢の一部または全部を切断すること、身体を拘束すること、傷または火傷を負わせることおよび焼印を押すこと。
  • (d) 暴力的かつ品位を傷つける通過儀礼。女子に無理やり食事をとらせること。無理やり太らせること。処女検査(女子の生殖器の検査)。
  • (e) 強制婚および早期婚。
  • (f) 「名誉」犯罪。「報復」目的の暴力行為(異なる集団間の紛争の影響が関係当事者の子どもに及ぶ場合)。ダウリー関連の死および暴力。
  • (g) 「魔女」狩りおよび関連の有害慣行(「悪魔払い」等)。
  • (h) 口蓋垂切除および抜歯。
30.マスメディアにおける暴力。マスメディア、とくにタブロイド紙およびイエローペーパーは、衝撃的な出来事を強調して取り上げ、結果として子ども、とくに不利な立場におかれた子どもまたは青少年について偏見およびステレオタイプに基づくイメージをつくり出す傾向にある。このような子どもは、振る舞い方または着ているものが異なるというだけで、暴力的存在または非行少年として描写されることが多い。このような煽動的ステレオタイプは、懲罰的アプローチを基盤とする国の政策への道を開くことにつながる。当該政策には、子どもおよび若者が行なっていると考えられているまたは実際に行なっている不品行への対応としての暴力が含まれる可能性もある。
31.情報通信技術を通じた暴力 [10]。ICTに関連した子どもの保護上のリスクは、以下のような重なり合う分野から構成されている。
  • (a) インターネットその他のICTによって容易となった、視覚および音声の双方による子どもの虐待素材製造のために行なわれる子どもの性的虐待。
  • (b)子ども、および、子ども個人または諸カテゴリーの子どもの真似をする者のみだらな写真または擬似写真(「加工」)およびビデオを撮影し、制作し、その撮影を許可し、配布し、見せ、所持しまたは広告するプロセス。
  • (c) ICTの利用者としての子ども。
    • (i) 情報の受け手としての子どもは、実際にまたは潜在的に有害な広告、スパム、資金提供の呼びかけ、個人情報、ならびに、攻撃的な、暴力的な、憎悪にあふれた、偏見に満ちた、人種主義的な、ポルノ的な [11]、望まない、かつ(または)誤解を招くコンテンツにさらされる可能性がある。
    • (ii) ICTを通じて他人と接触する子どもは、いじめられ、いやがらせを受けもしくはしつこく接触を図られ(子どもの「誘惑」)、かつ(または)、威迫、策略もしくは説得により、見知らぬ者とオフラインで会うこと、性的活動に関与するための「仕込み」を受けること、および(または)個人情報を提供することを受け入れさせられる可能性がある。
    • (iii) 行為主体としての子どもは、他人へのいじめもしくはいやがらせ、心理的発達に悪影響を及ぼすゲームの利用、不適切な性的素材の作成およびアップロード、誤解を招く情報もしくはアドバイスの提供、ならびに(または)、不法なダウンロード、ハッキング、賭博、金銭詐欺および(もしくは)テロリズムに関与するようになる可能性がある。 [12]
[10] インターネットおよび携帯電話のような情報技術は、子どもたちの安全を保つのに役立つ前向きな手段として、かつ暴力または不当な取扱いが疑われる場合または実際に行なわれた場合にそれを通報する方法として、大きな潜在的可能性を有している。これらの技術を安全に使えるように子どもたちのエンパワーメントを図ることも含め、情報技術の規制および監視を通じて保護的環境をつくり出すことが必要である。
[11] ポルノグラフィーにさらされることは、子ども同士の性的虐待の増加につながる可能性がある。ポルノグラフィーにさらされた子どもは、年下の子どもまたは接触が容易で自分がコントロールできる子どもを相手に、自分が見たものを実地で「やってみる」からである。
[12] EU〔欧州連合〕キッズ・オンライン・プロジェクトが作成の表(AUPs in Context: Establishing Safe and Responsible Online Behaviours (Becta, 2009), p.6で引用されていたもの)を修正。「子どもおよび青少年の性的搾取の防止および根絶のためのリオデジャネイロ宣言および行動呼びかけ」も参照(以下より入手可能 http://iiicongressomundial.net/congresso/arquivos/Rio%20Declaration%20and%20Call%20for%20Action%20-%20FINAL%20Version.pdf)。
32.子どもの権利の制度的および組織的侵害。あらゆる形態の暴力からの子どもの保護について責任を負う、国のあらゆる段階の公的機関は、条約上の義務を実施する効果的手段を欠くことにより、直接間接に危害を及ぼす可能性がある。このような不作為としては、立法その他の規定を採択しまたは改正しないこと、法律その他の規則の実施が不十分であること、および、子どもに対する暴力を特定し、防止しかつこれに対応するための物質的、技術的および人的資源および能力の提供が不十分であることなどがある。子どもに対する暴力を終わらせるための活動の進展または欠点を事前評価し、監視しかつ事後評価するための十分な手段が措置およびプログラムにともなっていない場合にも、不作為である。また、一部の行為を行なう過程で、専門家は暴力からの自由に対する子どもの権利を侵害する可能性がある。たとえば、子どもの最善の利益、意見および発達目標をないがしろにするような方法で自己の責任を遂行する場合などである。



  • 更新履歴:ページ作成(2011年5月22日)。