総括所見:フィリピン(OPSC・2013年)


CRC/C/OPSC/PHL/CO/1(20013年6月26日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2013年1月22日に開かれた第1769回会合(CRC/C/SR.1769)においてフィリピンの第1回報告書(CRC/C/OPSC/PHL/1)を検討し、2013年2月1日に開かれた第1784回会合において以下の総括所見を採択した。

I.序

2.委員会は、豊富な情報を記載した締約国の第1回報告書、および、事前質問事項に対する文書回答(CRC/C/OPSC/PHL/Q/Add.1)の提出を歓迎する。委員会は、多部門から構成される締約国代表団との間に持たれた建設的対話を評価するものである。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、子どもの権利条約に基づく締約国の第3回・第4回統合報告書に関して採択された総括所見(CRC/C/PHL/CO/3-4、2009年)および武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書に基づく第1回報告書に関して採択された総括所見(CRC/C/OPAC/PHL/CO/1、2008年)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

II.一般的所見

積極的側面
4.委員会は、選択議定書の実施に関連する分野で締約国がとった以下の立法措置、とくに以下の法令の採択を積極的対応として歓迎する。
  • (a) 共和国法第9775号(児童ポルノ対策法)(2009年10月13日)。
  • (b) 共和国法第9231号(最悪の形態の児童労働の撤廃について規定し、かつ働く子どもの保護を強化する法律)(2003年12月19日)。
  • (c) 共和国法第9208号(2003年人身取引対策法)(2003年5月26日)。
5.委員会は、締約国が以下の文書を批准したことに評価の意とともに留意する。
  • (a) 家事労働者の適切な仕事に関する2011年の国際労働機関(ILO)第189号条約(2012年9月)。
  • (b) 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する、陸路、海路および空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書(2002年5月)。
  • (c) 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する、人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書(2000年12月)。
  • (d) 国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約(1996年)。
  • (e) すべての移住労働者およびその家族〔構成員〕の権利の保護に関する国際条約(1995年7月)。
6.委員会はさらに、選択議定書の実施を促進する諸制度の創設ならびに国家的な計画およびプログラムの採択における、以下のものを含む進展を歓迎する。
  • (a) 児童ポルノ対策省庁間評議会(IACCP)およびこれに付随する3か年(2011~2013年)戦略行動計画。
  • (b) 「省庁間評議会・委員会代表者会合」(2012年7月)の際に採択された、人身取引対策省庁間評議会(IACAT)および少年司法副評議会(JJWC)による2012~2016年合同戦略計画。
  • (c) 子どものための開発に関するフィリピン国家戦略枠組みおよび計画(2000~2025年)。
  • (d) 2011年の大統領令第53号により再開された子ども特別保護委員会(CSPC)。

III.データ収集

7.委員会は、フィリピン国家警察(PNP)、司法省(DOJ)および社会福祉開発省(DSWD)を含むさまざまな機関がデータ収集に関与していることに留意する。しかしながら委員会は、締約国が子どもの売買、児童買春および〔児童〕ポルノの規模および形態を特定できるようにする、選択議定書上のすべての犯罪を網羅した包括的なデータ収集システムが存在しないことを懸念するものである。委員会はさらに、選択議定書上の犯罪の被害者になりやすい特定の集団の子ども(路上の状況にある子ども、学校に行っていない子どもおよび搾取的環境で働いている子ども、貧困化で暮らしている子どもならびにミンダナオで武力紛争の影響を受けている子どもなど)に関する、適切に細分化されたデータおよび調査研究が存在しないことを懸念する。
8. 委員会は、締約国が、子どもの売買、児童買春または〔児童〕ポルノの原因、形態および広がりを正確に判断し、十分な情報に基づいて政策決定を行ない、かつ選択議定書の実施における進展を評価することを可能とする包括的なかつ中央集権化されたデータ収集システムを、パートナーの支援を得ながら設置するよう勧告する。データは定期的に更新されるべきであり、また年齢、性別、地理的所在、民族および社会経済的背景によって細分化されるべきである。加害者の人物像、訴追件数および有罪判決の件数についても、犯罪の性質によって細分化されたデータを収集することが求められる。

IV.実施に関する一般的措置

立法
9.委員会は、性的同意年齢が低く(12歳)、子どもが買春およびポルノの被害をいっそう受けやすくなっていることについての懸念(CRC/C/PHL/CO/3-4、パラ10、2009年)をあらためて表明する。委員会はさらに、子どもに対する性犯罪についての年齢を引き上げようとする法案第681号および第3049号がまだ制定されておらず、かつ子どもの保護に関する諸法律が適正に実施されていないことを懸念するものである。
10.委員会は、前回の勧告(CRC/C/PHL/CO/3-4、パラ10、2009年)をあらためて繰り返すとともに、締約国に対し、子どもの保護に関する必要な法律(法案第681号および第3049号を含む)を制定し、かつ性的同意に関する最低年齢を引き上げるよう促す。委員会はさらに、締約国が、州および地方のレベルで子どもの保護に関する法律についての意識を高め、かつ地方政府機関の行動の指針となる詳細なガイドライン、実施要綱および手続を策定する等の手段により、子どもの保護に関する法律が効果的に実施されることを確保するための積極的措置をとるよう、勧告するものである。
国家的行動計画
11.子どものための国家行動計画(2011~2016年)が採択されたことは歓迎しながらも、委員会は、同計画に基づく介入および活動を支えるための十分な資源が配分されていないこと、ならびに、その実施状況および効果を評価するための恒常的監視機構が地方レベルで設けられていないことに、懸念を表明する。
12.委員会は、締約国に対し、予算ニーズの包括的アセスメントを実施し、かつ、国家行動計画の実施のための活動を支える明確な予算配分額を確立するよう促す。委員会はまた、締約国が、同計画の実施における進展および課題を評価する目的で恒常的な監視および評価のための機構(地方およびコミュニティのレベルにおけるものを含む)を設置するよう勧告するものである。
調整および評価
13.委員会は、子ども福祉評議会(CWC)が、子どもの保護に関する政策およびプログラムの実施の調整を担当する省庁間主務機関であることを評価する。しかしながら委員会は、国、広域行政圏、州および地方のレベルで選択議定書に基づく活動を調整しかつ評価するCWCの能力について懸念を覚えるものである。さらに、委員会は、その後の立法を通じ、子どもの保護を実施しかつ監視するための個別の計画および予算を有するさまざまな省庁間機関が設置され、そのため取り組みの重複が生じていることを懸念する。CWCが、さまざまな評議会および委員会間の連携および調整のシステムを立案しかつ採択する目的で2012年7月に「省庁間評議会・委員会代表者会合」を開催したことには積極的対応として留意しながらも、委員会は、省庁横断型の計画の実施および省庁間評議会とCWCとの間の協働関係について体系的な評価が行なわれていないことを懸念するものである。
14.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書に基づく活動の実施および評価を調整する能力および権限を持った国家機関を指定するとともに、当該機関に対し、すべてのレベルでその権限を遂行するために必要なあらゆる人的資源、技術的資源および財源を提供すること。
  • (b) 子どもの保護に関する既存の省庁委員会およびその実施計画について、主要な成果および得られた教訓を明らかにするための定期的かつ包括的な組織的検討を実施するとともに、選択議定書に基づく政策および活動の実施に取り組んでいるさまざまな機関および委員会間の調整を強化するための共通戦略を策定すること。
  • (c) 子どもの権利に関連するさまざまな機関の活動を合理化し、かつ、これらの機関に対し、その役割を効率的に遂行するために必要な人的資源、技術的資源および財源を提供すること。
普及および意識啓発
15.選択議定書に関する情報を普及するための努力を締約国が強化していることは歓迎しながらも、委員会は、公衆および子どもたち自身の間で選択議定書に関する意識水準が低く、かつ子どもに対する犯罪についての公衆の理解が欠けていることにより、とくに子どもの商業的性的搾取が社会的に広く受け入れられており、かつ十分に通報されていないことを懸念する。
16.委員会は、締約国が、適切な意識啓発プログラムを促進しかつ組織するよう勧告する。これには、一般住民、コミュニティおよび子どもたち(とくに、被害を受けやすい状況に置かれた子どもたち)の間で選択議定書の規定ならびに通報手続および苦情申立て手続に関する意識啓発および中心的なメッセージの普及を図るための、マスメディアおよび情報技術を活用したキャンペーンも含まれる。
研修
17.子どもの保護に関する問題について、法執行官、裁判官、特別検察官およびソーシャルワーカー等の関係者に対して研修を実施するために行なわれた努力には留意しながらも、委員会は、ひとつには体系的な計画作成が行なわれていないことを理由として、これらの多くの活動が持続されておらずまたは体系的ではないことを遺憾に思う。委員会はまた、その結果、このような研修の取り組みが、対象とされている、政府のさまざまなレベルのあらゆる集団および機関に及んでいるわけではないことも遺憾に思うものである。
18.委員会は、締約国が、能力構築の取り組み(法執行官、検察官、司法関係者、出入国管理官、労働査察官、ソーシャルワーカーおよびメディア関係者を対象とする研修を含む)が体系的に計画され、持続され、調整され、かつその効果についての評価が行なわれることを確保するよう勧告する。
資源配分
19.委員会は、選択議定書を実施するための予算配分額が十分ではなく、かつ締約国が同意した政策公約および優先課題にも一致していないことを懸念する。委員会は、2009年児童ポルノ対策法に基づいて設置され、かつ同法の実施の調整、監視および監督を委ねられた児童ポルノ対策省庁間評議会(IACCP)が、いかなる予算配分も受けることなく創設されたことをとくに懸念するものである。委員会はまた、締約国における汚職の水準の高さにより、子どものための資金(子どもの売買、児童買春および児童ポルノを防止しかつこれと闘うために利用可能な資源を含む)が減少してきたことも懸念する。
20.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 選択議定書の実施のための明確に特定可能な予算項目を設けて予算配分を増額すること。そのための手段には、あらゆる行政段階で通常予算から使途指定方式により人的資源、技術的資源および財源を割り当てること、ならびに、選択議定書の規定に関連するプログラム(防止、保護および被害を受けた子どもの再統合に関するものを含む)を対象とすることが含まれる。
  • (b) IACAPの予算ニーズについて包括的評価を実施するとともに、同機関が、その任務を効果的に履行するための十分な人的資源、技術的資源および財源を有することを確保すること。
  • (c) 汚職の防止およびこれとの闘いを効果的に進め、かつ汚職行為について国および地方の官吏を訴追するための即時的措置をとること。

V.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止(第9条第1項および第2項)

選択議定書で禁じられた犯罪を防止するためにとられた措置
21.委員会は、締約国が、子どもの人身取引を防止するために地域の国々との協力を強化してきたことを歓迎する。しかしながら委員会は、推定6万~7万5千人の子どもが商業的性産業で搾取されており、かつ児童セックス・ツーリズムが締約国で依然として深刻な問題となっていることに、深い懸念を表明するものである。委員会はさらに以下のことを懸念する。
  • (a) 現行の政策およびプログラムが、子どもの売買、児童買春および児童ポルノの根底にある根本的原因(とくに貧困、安全性を欠いた移住および女子に対する差別)に対応するうえで十分かつ効果的なものとなっていないこと。
  • (b) 出生登録率が95%に上昇したとはいえ、登録されていない子どもが(とくにミンダナオにおいて)なおも多数存在し、選択議定書上の犯罪の被害を受けやすいままになっていること。
  • (c) 国内避難民である子どもおよび路上で生活している子どもの多数が(とくにマニラ市において)売春を余儀なくさせられているにもかかわらず、締約国が、もっとも被害を受けやすい状況にある子どもを対象とする措置に優先的に取り組んでいないこと。
  • (d) 子どもの性的搾取の犯罪に関する公衆の意識が(親および子どもたち自身も含めて)欠けており、かつ子どもの性的搾取がコミュニティにおいて文化的に容認されているため、このような犯罪の通報および訴追が妨げられていること。
  • (e) 青少年が、セクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスに関する情報およびサービス(家族計画および避妊、若年妊娠の危険性、性感染症(STI)およびHIV/AIDSの予防および治療〔に関するもの〕を含む)に対してきわめて限定的にしかアクセスできないこと。
22. 委員会は、締約国に対し、選択議定書上の犯罪の根本的原因に対処し、かつもっとも被害を受けやすい状況に置かれた家族および子どもに焦点を定めた包括的アプローチを採用するよう促す。とくに委員会は、締約国に対し、貧困削減戦略、ならびに、不利な立場に置かれたおよび周縁化された家族を対象とする支援的な社会的保護措置(子どもに対するケアおよび保護の責任を親がよりよい形で履行できるよう支援するための、子ども中心の早期介入プログラムを含む)を強化するよう、促すものである。委員会はさらに、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 危険な状況にある子どもを特定し、問題の規模を評価し、かつ対象が明確な政策およびプログラムを発展させる目的で、子どもの商業的性的搾取ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノの根本的原因および規模に関する調査研究を行なうこと。これとの関連で、子どもの性的搾取と闘うための積極的措置は、貧困削減のための介入との緊密な連携を図って進められるべきである。
  • (b) すべての子どもが出生時に登録されることを確保するための措置を継続しかつ強化すること。
  • (c) もっとも被害を受けやすい状況に置かれた子どもに焦点を定めた防止プログラムを発展させるとともに、とくに、国内避難民である子どもおよび路上の状況にある子どもに対して十分かつ安全なシェルター、保健ケア、教育および衣服が提供されることを確保するためにあらゆる必要な措置をとること。警察による陵虐、身体的および性的虐待ならびに有害物質濫用からこのような子どもを保護することに、特段の焦点が当てられるべきである。
  • (d) 児童ポルノを含む子どもの性的搾取についての態度を変革するため、マスメディアおよびコミュニティの参加(コミュニティの指導者、地元の教員、若者グループおよび子どもグループの動員を含む)を通じた集中的な意識啓発活動を実施すること。
  • (e) すべての教育機関における、セクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスに関する教育およびサービス(HIV/AIDSの予防および子どもの性的搾取の危険性に関する意識啓発を含む)を強化すること。
養子縁組
23.委員会は、締約国が、とくに1998年国内養子縁組法(共和国法第8552号)、1995年国際養子縁組法(共和国法第8043号)および家族法第183条~193条の改正(1998年2月)の採択を通じて、養子縁組を規制するための強力な国内法上の枠組みを確立したことに留意する。これにもかかわらず、委員会は、不法な養子縁組を目的とする子どもの売買、および、子どもが実子であると思えるようにするための個人による民事登録簿の改竄(いわゆる「出生偽装」)が締約国でいまだに蔓延していることを、依然として懸念するものである。
24.委員会は、前回の勧告(CRC/C/PHL/CO/3-4、パラ50、2009年)をあらためて繰り返すとともに、締約国に対し、すべての養子縁組が、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約および子どもの権利条約ならびに他の関連の国際基準の原則および規定に全面的に一致することを確保するため、あらゆる努力を行なうよう求める。委員会はさらに、締約国が、このような慣行に関する意識啓発キャンペーン、合法的な養子縁組の促進およびおよび「出生偽装」の実行犯の訴追等も通じて、「偽装出生」を防止しかつこれと効果的に闘うためにあらゆる必要な措置をとるよう勧告するものである。
児童セックス・ツーリズム
25.児童セックス・ツーリズムと闘うため、国家機関および非政府組織と連携しながら締約国が行なっている努力(.「子どもに目を向けた観光」(Child Wise Tourism)プログラムの実施を含む)は歓迎しながらも、委員会は、締約国で、とくにサバン、プエルトガレラ、セブ市、アンヘレス市およびパサイ市において、多数の子どもが外国人のペドファイルによって性的に搾取されていることを懸念する。委員会は、以下のことをとりわけ懸念するものである。
  • (a) スラム地区で生活している子どもおよび路上の状況にある子どもが、この形態の性的虐待および性的搾取の被害をもっとも受けやすい状態に置かれていること。
  • (b) 観光客によるものを含む児童ポルノの製造が締約国で増大しつつあること。
  • (c) 締約国が、児童セックス・ツーリズムを防止しかつこれと闘う目的で、子どもの人身取引および子どもの商業的性的搾取の事件の防止、監視および通報等に関して民間セクター(とくに旅行、宿泊および観光業界)を十分に関与させかつ規制していないこと。
26.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 選択議定書が対象とする犯罪の被害者にとくになりやすい状態に置かれている子ども(路上の状況にある子どもおよび貧困の影響を受けている子どもなど)を特定するための措置をとり、かつ、すでに行なわれている子ども保護プログラムおよび貧困削減戦略とこれらの措置を連携させること。
  • (b) インターネット上の児童ポルノならびに未登録の旅行者宿泊施設および子どもの性的搾取に関連する非公然活動の監視を強化するため、あらゆる必要な措置をとること。
  • (c) とくに子どもの人身取引および子どもの商業的性的搾取の事件の防止、監視および通報に関して、民間セクター(とくに観光業界)を規制しかつ関与させること。締約国はまた、観光省が、同省が児童セックス・ツーリズムの禁止および子どもの保護全般に関してホテル、旅行代理店ならびに観光業者およびツアーオペレーターとの間に締結した契約協定について、その遵守状況を効果的に監視することも確保するべきである。
  • (d) 児童セックス・ツーリズムの有害な影響に関する観光業界への働きかけを強化し、旅行代理店および観光業者の間で世界観光機関(WTO)の世界観光倫理規範を広く普及し、かつ、これらの代理店および業者に対し、旅行・観光業における性的搾取から子どもを保護するための行動規範への署名を奨励すること。

VI.子どもの売買、児童ポルノおよび児童買春の禁止ならびに関連の事項(第3条、第4条(第2~3項)ならびに第5条、第6条および第7条)

現行刑事法令
27.選択議定書のさまざまな規定を締約国の法律に統合しようとする努力は歓迎しながらも、委員会は、国内法に議定書上のすべての犯罪が全面的に編入されているわけではないことを懸念する。委員会はまた、これらの犯罪が、議定書(とくに第2条~3条)で要求されているように特定の犯罪として定義されかつ犯罪化されるのではなく、人身取引対策の法的枠組みのもとで扱われていることも懸念するものである。
28. 委員会は、締約国に対し、刑法を改正して選択議定書第2条~3条に全面的に一致させるよう促す。とくに委員会は、締約国が、子どもの売買、児童買春および児童ポルノのあらゆる事件を議定書にしたがって定義しかつ処罰するよう勧告するものである。
訴追および不処罰
29.委員会は、数千人の子どもが、同国から国外への、同国を通じてのおよび国内における、性的搾取および強制労働目的の人身取引の対象とされているにもかかわらず、選択議定書上の犯罪を行なった者の訴追件数および有罪判決数が著しく少なく、加害者が処罰されない事態が生じている旨の懸念(CRC/C/PHL/CO/3-4、パラ78、2009年)をあらためて表明する。委員会は、具体的には以下のことを懸念するものである。
  • (a) 法執行官、司法官および出入国管理官が人身取引および汚職の共犯となっていることを主たる理由として、児童ポルノおよび人身取引に関連する捜査および訴追との関係で不処罰が依然として広がっていること。
  • (b) 子どもが外国人ペドファイルによって性的に搾取される事件が多数発生しているにもかかわらず、締約国が、刑事告発を追求することなく外国人ペドファイルを送還し続けていること。
  • (c) 法執行官および検察官が、選択議定書上の犯罪を捜査しかつ訴追する十分な能力を有しておらず、かつ犯罪の訴追に際して被害を受けた子どもの参加に著しく依存していることから、事件が通報されないこと、告発が取り下げられることおよび陳述が撤回されることがしばしば生じていること。
30.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 政府職員による共犯の告発を厳格に捜査し、かつこのような犯罪について当該職員を訴追することを通じ、汚職および不処罰の問題に関する即時的対応を優先的課題としてとること。
  • (b) 外国人ペドファイルの特定、捜査および訴追を強化するため、法律上および制度上のあらゆる必要な措置をとること。
  • (c) 法執行機関が、被害を受けた子どもの陳述だけではなく、書証、証人、専門家ならびにその他の手続および技法から収集した証拠に基づいて事件の捜査および立証を行なうことを確保することにより、被害を受けた子どもの負担を軽減すること。
  • (d) 国家捜査局およびフィリピン司法アカデミー(PHILJA)の参加を強化すること等も通じた専門的研修により、選択議定書上の犯罪を摘発しかつ訴追する法執行機関および司法機関の能力を強化すること。
法人の責任
31.委員会は、締約国の法律において、選択議定書で定められた犯罪についての法人の刑事責任が明確に確立されていないことを懸念する。
32.委員会は、締約国が、 選択議定書第3条第4項に照らし、選択議定書で定められた犯罪についての法人の刑事責任を明確に確立するよう勧告する。
域外裁判権
33.委員会は、締約国の法律において、選択議定書第4条第2項で挙げられているすべての事件について、とくに罪を犯したとされる者が締約国の国民である場合の域外裁判権が明示的に認められているわけではないことを懸念する。委員会はまた、フィリピン国民が国外で行なった犯罪に対する域外裁判権の適用が双方可罰性の要件に服するとされていることも懸念するものである。
34.委員会は、締約国が、国内法によって、選択議定書上の犯罪について双方可罰性の基準を満たすことなく域外裁判権を設定しかつ行使できることを確保するための措置をとるよう、勧告する。
犯罪人引渡し
35.子どもの人身取引および性的搾取と闘うために地域内諸国との協力を強化することに関する締約国の努力は歓迎しながらも、委員会は、選択議定書が犯罪人引渡しの法的根拠として援用されておらず、かつ、犯罪人引渡しについて締約国と請求国との間に条約が締結されていることが条件とされていることを懸念する。
36.委員会は、締約国が、二国間条約の存在を条件とすることなく、選択議定書が犯罪人引渡しの法的根拠を構成するとみなすよう勧告する。

VII.被害を受けた子どもの権利の保護(第8条および第9条(第3~4項))

被害を受けた子どもの権利および利益を保護するためにとられた措置
37.子どもの証人尋問規則が制定されたことは歓迎しながらも、委員会は、被害を受けた子どもの権利および利益が刑事司法手続の際に十分に保護されていないことに、懸念とともに留意する。これとの関連で、委員会は、以下のことに懸念とともに留意するものである。
  • (a) 法執行機関が、子どもに配慮した捜査手続を適用する能力を欠いており、または組織的にそのような手続を適用しているわけではないこと。
  • (b) 地方レベルで子どもの被害者・証人保護サービスが不十分であり、かつ、刑事司法手続の際に専門家による支援および後見が提供されていないこと。
  • (c) 国民であるか外国人であるかにかかわらず、証言することに同意した子どもの被害者およびその家族構成員が、容疑者による報復のおそれから十分に保護されていないこと。
  • (d) 裁判所がすべての州域に設置されていないことにより、選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どもが関わる事件について専門家による捜査および審理が行なわれない状態になっていること。
  • (e) 被害を受けた子どものプライバシーおよび安全の保護がメディアおよび刑事司法手続において組織的に確保されておらず、かつ、現行の禁止規定にもかかわらず、とくにテレビ番組における子どもの性的対象化が一般的に行なわれていること。
38.委員会は、締約国に対し、選択議定書で定められているとおり、刑事司法手続のあらゆる段階で被害を受けた子どもの権利および利益を保護するために適切な措置をとるよう、促す。とくに委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促すものである。
  • (a) 法執行機関、検察官および裁判官が子どもにやさしい手続(子ども向けに設計された事情聴取室、被害を受けた子どものためにひとつの場所で提供される包括的支援サービス、法廷環境の変更および被害を受けた子どもの出廷回数の削減を含む)を適用できるよう、十分な人的資源、技術的資源および財源を提供すること。加えて、捜査、訴追および審理の際に、被害を受けた子どもと容疑者が直接接触しないようにするため、あらゆる措置がとられるべきである。
  • (b) 被害を受けた子どもに対して児童心理学者による支援を提供するとともに、子どもの最善の利益にかなう恒久的解決策が明らかにされかつ実施されるまで、手続全体を通じて、被害を受けた子どもの手引き役および寄り添い役を務める後見人が任命されることを確保すること。
  • (c) 子どもの証人・被害者保護プログラムを広域行政圏、州および自治体のレベルまで拡大するとともに、地方政府部局がこのようなプログラムを実施するための十分な財源および技術的資源を有することを確保すること。
  • (d) 被害を受けた子どもおよびその家族構成員を十分に保護するため、あらゆる必要な法律上および実務上の措置(国外の公的機関との協力も含む)をとること。
  • (e) すべての州で家庭裁判所の設置および能力を強化すること。当面、家庭裁判所がまだ設けられていない広域裁判所および州裁判所の検察官および裁判官または子どもの証人尋問規則に精通していない検察官および裁判官全員を対象として、研修が実施されるべきである。
  • (f) 子どものプライバシーがメディアおよび刑事司法手続において尊重されること、ならびに、主流メディアにおける子どもの性的対象化への対応が、メディアによる子どもの取り上げ方および報道の監視の向上、子どもの性的対象化の有害な影響に関する教育および意識啓発を通じてとられることを確保すること。
被害者の回復および再統合
39.委員会は、さまざまな法令で、売買、児童買春および児童ポルノの被害を受けた子どもの回復、リハビリテーションおよび再統合に対する権利が定められていることに、評価の意とともに留意する。加えて、委員会は、社会福祉開発省を通じて被害者のためのサービスおよび支援を強化するために締約国がとった措置に、積極的対応として留意するものである。にもかかわらず、委員会は、回復および再統合のための子どもに特化したサービス(専門的な医学的、心理社会的および心理的ケア、法律サービス、緊急避難シェルターならびに訓練を受けた専門家を含む)が締約国において基本的に不十分なままであり、かつ、予算の制約のためにこれらのサービスの拡大が深刻に制限されていることを懸念する。委員会はさらに、以下のことを懸念するものである。
  • (a) 買春およびポルノの被害を受けた子どものケアおよび保護(心理社会的ケアの提供、「最善の利益」認定に基づくケア・アセスメントおよび子どもが成年に達するまでのフォローアップを含む)に関する明確な付託の手続および基準が定められていないこと。
  • (b) 人身取引犯から救出された子どもがふたたび人身取引の対象とされないことを確保するための、監視およびフォローアップの手続が定められていないこと。
  • (c) 商業的性的搾取の被害を受けた子どもが、子どもの性的搾取を取り巻くスティグマおよび根強い文化的態度のため、支援およびサービスにアクセスするうえで深刻な障害を経験していること。
  • (d) 人身取引および性的搾取の被害を受けた外国人の子どもの送還および特別な保護に関する手続が定められていないこと。
40.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 性的搾取の被害を受けた子どもを対象とする子ども中心のサービス(明確な付託手続ならびに完全に回復するまでの心理社会的なケアおよび支援へのアクセスを含む)へのアクセスを高めるため、十分な人的資源、財源および技術的資源を配分すること。
  • (b) 選択議定書で対象とされている犯罪の被害を受けたすべての子どもに対し、差別なく十分な救済が与えられることを確保するとともに、監視およびフォローアップのための強力な機構を設置することにより、これらの子どもが再度の人身取引および性的搾取の対象とされにくいようにすること。
  • (c) 性的搾取の被害を受けた子どもに対する態度を変革するために幅広い意識啓発およびコミュニティ動員を進めるとともに、子どもおよび家族が、被害を受けた子どものために設けられている援助および支援について知っていることを確保すること。
  • (d) 人身取引、買春およびポルノの被害を受けた子どもの救出、送還、リハビリテーションおよび再統合の指針となる明確な措置(被害を受けた外国人の子どもについての、「最善の利益」認定に基づく特別な援助および送還ならびにフォローアップのための明確な手続を含む)を採用すること。

VII.国際的な援助および協力(第10条)

多国間、二国間および地域間の協定
41.選択議定書第10条第1項に照らし、委員会は、締約国に対し、選択議定書が対象とするいずれかの犯罪の防止、摘発、捜査ならびに当該犯罪に責任を負う者の訴追および処罰を向上させる目的で、とくに近隣諸国との多国間、地域間および二国間の取り決めを通じ、引き続き国際協力を強化する(当該取り決めの実施を調整するための手続および機構を強化することによるものも含む)よう、奨励する。これとの関連で、委員会は、締約国に対し、2004年の東南アジア諸国連合(ASEAN)「とくに女性および子どもの人身取引に反対する宣言」の実施を強化するよう奨励するものである。

IX.通報手続に関する選択議定書の批准

42.委員会は、締約国が、子どもの権利の履行をさらに強化する目的で、通報手続に関する子どもの権利条約の選択議定書(OPIC)に署名し、かつこれを批准するよう勧告する。

X.フォローアップおよび普及

43.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を関連の政府省庁、議会ならびに国、州および地方の公的機関に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
44.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した第1回報告書および文書回答ならびに関連の勧告(総括所見)を、インターネット等を通じ(ただしこれにかぎるものではない)、公衆一般、市民社会組織、若者グループ、専門家グループ、メディア関係者および子どもが広く入手できるようにすることを勧告する。

XI.次回報告書

45.選択議定書第12条第2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、議定書およびこの総括所見の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約条約第44条にしたがって2017年9月19日までに提出される、条約に基づく第5回・第6回統合定期報告書に記載するよう要請する。


  • 更新履歴:ページ作成(2014年4月11日)。