子どもの権利委員会・一般的意見14号:自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項) 前編


子どもの権利委員会
第62会期(2013年1月14日~2月1日)
CRC/C/GC/14(2013年5月29日/原文英語〔PDF〕)
日本語訳:平野裕二〔日本語訳全文(PDF)〕

目次
  • I.はじめに(パラ1-9)
    • A.子どもの最善の利益:権利、原則および手続規則(パラ1-7)
    • B.構成(パラ8-9)
  • II.目的(パラ10-12)
  • III.締約国の義務の性質および範囲(パラ13-16)
  • IV.法的分析および条約の一般原則との関係(パラ17-45)
    • A.第3条第1項の文理分析(パラ17-40)
      • 1.「子どもにかかわるすべての活動において」(パラ17-24)
      • 2.「公的もしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によって」(パラ25-31)
      • 3.「子どもの最善の利益」(パラ23-35)
      • 4.「第一次的に考慮される」(36-40)
    • B.子どもの最善の利益と条約の他の一般原則との関係(パラ41-45)
      • 1.子どもの最善の利益と差別の禁止に対する権利(第2条)(パラ41)
      • 2.子どもの最善の利益と生命、生存および発達に対する権利(第6条)(パラ42)
      • 3.子どもの最善の利益と意見を聴かれる権利(第12条)(パラ43-45)
  • V.実施:子どもの最善の利益の評価および判定(パラ46-47) → 以下、子どもの最善の利益 後編
    • A.最善の利益の評価および判定(パラ48-84)
      • 1.子どもの最善の利益を評価する際に考慮されるべき要素(パラ52-79)
      • 2.最善の利益の評価における諸要素の比較衡量(パラ80-84)
    • B.子どもの最善の利益の実施を保障するための手続的保護措置(パラ85-99)
  • VI.普及(パラ100-101)

「子どもにかかわるすべての活動において、その活動が公的もしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によってなされたかどうかにかかわらず、子どもの最善の利益が第一次的に考慮される。」
子どもの権利条約(第3条第1項)

I.はじめに

A.子どもの最善の利益:権利、原則および手続規則

1.子どもの権利条約第3条第1項は、子どもに対し、公的領域および私的領域の双方における自己に関わるすべての行動または決定において、自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される権利を与えている。さらに、同規定は条約の基本的価値観のひとつを表明するものでもある。子どもの権利委員会(委員会)は、第3条第1項を、子どものすべての権利を解釈しかつ実施する際の、条約の4つの一般原則のひとつに位置づける [1] とともに、特定の文脈にふさわしい評価を必要とする動的な概念としてこれを適用している。
[1] 「子どもの権利条約の実施に関する一般的措置」に関する委員会の一般的意見5号(2003年)、パラ12、および「意見を聴かれる子どもの権利」に関する一般的意見12号(2009年)、パラ2。
2.「子どもの最善の利益」の概念は新しいものではない。それどころか、この概念は条約以前から存在するものであり、1959年の子どもの権利宣言(第2項)、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(第5条(b)および第16条第1項(d))、ならびに、諸地域文書ならびに多くの国内法および国際法にすでに掲げられていた。
3.条約は、他の条文でも子どもの最善の利益に明示的に言及している。第9条(親からの分離)、第10条(家族再統合)、第18条(親の責任)、第20条(家庭環境の剥奪および代替的養護)、第21条(養子縁組)、第37条(c)(勾留中における成人からの分離)、第40条第2項(b)(iii)(法律に抵触した子どもが関与する刑事上の問題についての法廷審理に親が立ち会うことを含む手続的保障)である。子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する条約の選択議定書(前文および第8条)ならびに通報手続に関する条約の選択議定書(前文ならびに第2条・第3条)でも、子どもの最善の利益に言及されている。
4.子どもの最善の利益の概念は、条約で認められているすべての権利の全面的かつ効果的な享受および子どものホリスティックな発達 [2] の双方を確保することを目的としたものである。委員会はすでに、「子どもの最善の利益に関するおとなの判断により、条約に基づく子どものすべての権利を尊重する義務が無効化されることはありえない」と指摘した [3]。委員会は、条約上の権利に優劣は存在しないことを想起するものである。条約に定められたすべての権利は「子どもの最善の利益」にのっとったものであり、いかなる権利も、子どもの最善の利益を消極的に解することによって損なうことはできない。
[2] 委員会は、締約国が、「子どもの身体的、精神的、霊的、道徳的、心理的および社会的発達を包含する」「ホリスティックな概念」として発達を解釈するよう期待している(一般的意見5号、パラ12)。
[3] 「あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利」に関する一般的意見13号(2011年)、パラ61。
5.子どもの最善の利益の概念を全面的に適用するためには、子どもの身体的、心理的、道徳的および霊的不可侵性を確保し、かつその人間としての尊厳を促進する目的で、すべての主体の関与を得ながら、権利基盤アプローチを発展させていくことが必要である。
6.委員会は、子どもの最善の利益が三層の概念であることを強調する。
  • (a) 実体的権利:争点となっている問題について決定を行なうためにさまざまな利益が考慮される際、自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利であり、かつ、ひとりの子ども、特定のもしくは不特定の子どもの集団または子どもたち一般に関わる決定が行なわれるときは常にこの権利が実施されるという保障である。第3条第1項は、国家にとっての本質的義務を創設したものであり、直接適用(自動執行)が可能であり、かつ裁判所で援用できる。
  • (b) 基本的な法的解釈原理:ある法律上の規定に複数の解釈の余地がある場合、子どもの最善の利益にもっとも効果的にかなう解釈が選択されるべきである。条約およびその選択議定書に掲げられた権利が解釈の枠組みとなる。
  • (c) 手続規則:ひとりの子ども、特定の子どもの集団または子どもたち一般に関わる決定が行なわれるときは常に、意思決定プロセスに、当該決定が当事者である子ども(たち)に及ぼす可能性のある(肯定的または否定的な)影響についての評価が含まれなければならない。子どもの最善の利益を評価・判定するためには手続上の保障が必要である。さらに、ある決定を正当とする理由の説明において、この権利が明示的に考慮に入れられたことが示されなければならない。これとの関連で、締約国は、幅広い政策問題に関する決定であるか個別事案における決定であるかに関わらず、決定においてこの権利がどのように尊重されたか――すなわち、何が子どもの最善の利益にのっとった対応であると考えられたか、それはどのような基準に基づくものであるか、および、子どもの利益が他の考慮事項とどのように比較衡量されたか――を説明することが求められる。
7.この一般的意見において、「子どもの最善の利益」という表現は上述の3つの側面を網羅するものとする。

B.構成

8.この一般的意見が対象とする範囲は条約第3条第1項に限定されており、子どものウェルビーイングに関わる第3条第2項、ならびに、子どものための施設、サービスおよび便益が定められた基準を遵守すること、および、当該基準が遵守されるようにするための機構が整備されることを確保する締約国の義務に関する第3条第3項については対象としていない。
9.委員会は、この一般的意見の目的を述べ(第II章)、締約国の義務の性質および範囲を明らかにする(第III章)。また、条約の他の一般原則との関係を示しながら、第3条第1項の法的分析も提示する(第IV章)。第V章では、子どもの最善の利益の原則の実際上の実施についてもっぱら取り上げ、第VI章では一般的意見の普及に関する指針を提示する。

II.目的

10.この一般的意見は、条約の締約国が子どもの最善の利益を適用しかつ尊重することを確保しようとするものである。この一般的意見は、とくに個人としての子どもに関わる司法上および行政上の決定その他の行動における、また子どもたち一般または特定の手段としての子どもたちに関わる法律、政策、戦略、プログラム、計画、予算、立法上および予算上の発議ならびに指針――すなわちあらゆる実施措置――の採択のあらゆる段階における、正当な考慮の要件を明確にする。委員会は、この一般的意見が、子どもに関係するすべての者(親および養育者を含む)が行なう決定で指針とされることを期待するものである。
11.子どもの最善の利益は動的な概念であり、常に変化しつつあるさまざまな問題を包含するものである。この一般的意見は、子どもの最善の利益を評価・判定するための枠組みを提示するものであり、特定の時点における特定の状況下で何が子どもにとって最善かを明らかにしようと試みるものではない。
12.この一般的意見の主な目的は、自己の最善の利益を評価され、かつこれを第一義的な考慮事項として、または場合によっては最高の考慮事項として(後掲パラ38参照)扱われる子どもの権利についての理解およびその適用を強化するところにある。この一般的意見の全般的目的は、権利の保有者としての子どもの全面的尊重につながる、真の態度の変革を促進することである。より具体的には、これは以下のことに関連する。
  • (a) 政府がとるすべての実施措置の立案。
  • (b) ひとりのまたは複数の特定の子どもについて、司法機関もしくは行政機関または公共団体がその代表者を通じて行なう個別の決定。
  • (c) 子どもに関わるまたは子どもに影響を与えるサービスを提供する市民社会団体および民間セクター(営利組織および非営利組織を含む)が行なう決定。
  • (d) 子どもとともにおよび子どものために活動する者(親および養育者を含む)がとる行動についての指針。

III.締約国の義務の性質および範囲

13.各締約国は、自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利を尊重しかつ実施しなければならず、またこの権利を全面的実施するためにあらゆる必要な、慎重なかつ具体的な措置をとる義務を負う。
14.第3条第1項は、締約国に対して3つの異なる態様の義務を課す枠組みを定めたものである。
  • (a) 公的機関がとるすべての行動、とくに子どもに直接間接に影響を与えるあらゆる実施措置、行政上および司法上の手続において、子どもの最善の利益が適切に統合されかつ一貫して適用されることを確保する義務。
  • (b) 子どもに関わるあらゆる司法上および行政上の決定ならびに政策および立法において、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されたことが実証されることを確保する義務。これには、最善の利益がどのように検討・評価され、かつ決定においてどの程度重視されたかを説明することも含まれる。
  • (c) 民間セクター(サービス提供部門を含む)または子どもに関わるもしくは子どもに影響を与える決定を行なう他のいずれかの私的機関による決定または行動において、子どもの利益が評価され、かつ第一次的に考慮されることを確保する義務。
15.規定の遵守を確保するため、締約国は、条約第4条、第42条および第44条第6項にしたがって多くの実施措置をとり、かつ、あらゆる行動において子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保するべきである。このような措置には以下のものが含まれる。
  • (a) 国内法その他の法源を再検討し、かつ必要なときは改正することによって、第3条第1項を編入し、かつ、すべての国内法令、州または準州の立法、サービスを提供するまたは子どもに影響を与える民間機関または公的機関の活動を規制する規則、ならびに、あらゆるレベルにおける司法上および行政上の手続において、子どもの最善の利益を考慮する要件が、実体的権利としても手続規則としても反映されかつ実施することを確保すること。
  • (b) 国、広域行政圏および地方のレベルにおける政策の調整および実施において子どもの最善の利益を擁護すること。
  • (c) 自己に関連しまたは影響を与えるすべての実施措置、行政上および司法上の手続において、自己の最善の利益を適切に統合され、かつ一貫して適用される子どもの権利を全面的に実現するため、苦情申立て、救済または是正のための機構および手続を設置すること。
  • (d) 子どもの権利の実施を目的としたプログラムおよび措置のための国内資源の配分、ならびに、国際援助または開発援助を受けている活動において、子どもの最善の利益を擁護すること。
  • (e) データ収集を確立し、モニタリングしかつ評価する際に、子どもの最善の利益が明示的に説明されることを確保するとともに、必要なときは子どもの権利の問題に関する調査研究を支援すること。
  • (f) 子どもに直接間接に影響を与える決定を行なうすべての者(子どものためにおよび子どもとともに活動する専門家その他の者を含む)に対し、第3条第1項およびその実際の適用に関する情報および研修の機会を提供すること。
  • (g) 第3条第1項で保護されている権利の適用範囲が理解されるよう、子どもに対しては子どもが理解できる言葉で、ならびに子どもの家族および養育者に対して適切な情報を提供するとともに、子どもが自己の視点を表明し、かつ、子どもの意見が正当に重視されることを確保するために必要な条件を整備すること。
  • (h) 子どもが権利の保有者として認識されるようにするため、マスメディアおよびソーシャルネットワークならびに子どもたちの関与を得ながら行なう広報プログラムを通じ、自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利の全面的実施を阻害するすべての否定的な態度および物の見方と闘うこと。
16.子どもの最善の利益を全面的に実施する際には、以下の要素が念頭に置かれるべきである。
  • (a) 子どもの権利の普遍性、不可分性、相互依存性および相互関連性。
  • (b) 子どもは権利の保有者であるという認識。
  • (c) 条約の世界的な性質および対象範囲。
  • (d) 条約上のすべての権利を尊重し、保護しかつ充足する締約国の義務。
  • (e) 経時的な子どもの発達に関わる行動の短期的、中期的および長期的影響。

IV.法的分析および条約の一般原則との関係

A.第3条第1項の文理分析

1.「子どもにかかわるすべての活動において」(In all actions concerning children)
(a) 「すべての活動において」(in all actions)
17.第3条第1項は、子どもに関わるすべての決定および活動においてこの権利が保障されることを確保しようとするものである。すなわち、子ども(たち)に関連するすべての活動において、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されなければならない。「活動」という文言は、決定のみならず、すべての行ない、行為、提案、サービス、手続その他の措置を含む。
18.行動をとらないこと、すなわち不作為もまた「活動」である(たとえば、社会福祉機関が子どもをネグレクトまたは虐待から保護するための措置をとらなかった場合)。
(b) 「にかかわる」(concerning)
19.この法的義務は、子どもに直接間接に影響を与えるすべての決定および活動に適用される。したがって、「にかかわる」とは、第一に、ひとりの子ども、集団としての子どもたちまたは子どもたち一般に直接関わる措置および決定をいい、第二に、たとえ子ども(たち)が措置の直接の対象ではない場合でも、子ども個人、集団としての子どもたちまたは子どもたち一般に影響を及ぼすその他の措置をいう。委員会の一般的意見7号で述べたように、このような活動には、子どもを直接対象とするもの(たとえば保健、ケアまたは教育に関わるもの)のみならず、子どもたちおよび他の住民集団を対象とする活動(たとえば環境、住宅または交通機関に関わるもの)も含まれる。したがって、「にかかわる」という文言は非常に広義に理解されなければならない。
20.実際のところ、国が行なうすべての活動は何らかの形で子どもたちに影響を与えるものである。だからといって、国が行なうすべての活動に、子どもの最善の利益を評価・判定する完全かつ公式なプロセスが組みこまれる必要があるわけではない。しかし、ある決定が子ども(たち)に重要な影響を及ぼす場合には、子どもの最善の利益を考慮するために保護の水準を高め、かつ詳細な手続を設けるのが適当である。
 したがって、子ども(たち)を直接の対象としない措置との関連では、「にかかわる」という文言の意義は、当該活動が子ども(たち)に与える影響を評価する目的で、個別事案の事情に照らして明らかにされなければならない。
(c) 「子ども」(children)
21.「子ども」とは、条約第1条および第2条にしたがい、いかなる種類の差別もなく、締約国の管轄内にある18歳未満のすべての者をいう。
22.第3条第1項は、個人としての子どもに適用され、締約国に対し、個別の決定において子どもの最善の利益を評価し、かつ第一次的に考慮する義務を課すものである。
23.ただし、「子ども」(children)という文言は、自己の最善の利益を正当に考慮される権利が、個人としての子どものみならず、子どもたち一般または集団としての子どもたちにも適用されることを含意している。したがって、国は、子どもたちに関わるすべての活動において、集団としての子どもたちまたは子どもたち一般の最善の利益を評価し、かつ第一次的に考慮する義務を有する。このことは、すべての実施措置についてとりわけ明らかである。委員会は、子どもの最善の利益は集団的権利としても個人的権利としてもとらえられていること、および、この権利を集団としての先住民族の子どもに適用する際にはこの権利が集団的文化権とどのように関連しているかについて検討する必要があることを強調する [4]。
「先住民族の子どもとその条約上の権利」に関する一般的意見11号(2009年)、パラ30。
24.だからといって、子ども個人に関わる決定において、その利益が子どもたち一般の利益と同一であると理解されなければならないというわけではない。むしろ、第3条第1項は、ある子どもの最善の利益は個別に評価されなければならないことを含意している。個人および集団としての子ども(たち)の最善の利益を明らかにするための手続については、後掲第V章で説明している。
2.「公的もしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によって」(By public or private social welfare institutions, courts of law, administrative authorities or legislative bodies)
25.子どもの最善の利益を正当に考慮する国の義務は、子どもが関係するまたは子どもに関わるすべての公的および私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関ならびに立法機関を包含する包括的な義務である。第3条第1項では親については明示的に言及されていないものの、子どもの最善の利益は親の「基本的関心となる」(第18条第1項)。
(a) 「公的もしくは私的な社会福祉機関」(public or private social welfare institutions)
26.この文言は、狭義に解釈され、または厳密な意味での社会機関に限定して解されるべきではなく、その活動および決定が子どもおよびその権利の実現に影響を及ぼすすべての機関を意味するものとして理解されるべきである。このような機関には、経済的、社会的および文化的権利に関するもの(たとえばケア、保健、環境、教育、ビジネス、余暇・遊び等)だけではなく、市民的権利および自由に対応する機関(たとえば出生登録、あらゆる場面における暴力からの保護等)も含まれる。私的な社会福祉機関には、営利組織であるか非営利組織であるかに関わらず、子どもによる権利の享受にとって重要であるサービスの提供において役割を果たしており、かつ政府のサービス機関に代わって、または政府のサービス機関と並存する選択肢のひとつとして活動している民間セクター組織も含まれる。
(b) 「裁判所」(courts of law)
27.委員会は、「裁判所」とは、すべての場面におけるすべての司法手続――職業裁判官によるものか素人裁判官によるものかは問わない――および子どもに関わるすべての関連の手続をいうものであって、そこに限定はないことを強調する。これには、調停、仲裁および斡旋の手続も含まれる。
28.刑事事件においては、最善の利益の原則は、法律に抵触した(すなわち、法律を犯したとして申し立てられ、罪を問われ、または認定された)子どもまたは法律と(被害者または証人として)関わりを持った子ども、および、法律に抵触した親の状況から影響を受けている子どもに適用される。委員会は、子どもの最善の利益を保護するとは、罪を犯した子どもに対応する際、刑事司法の伝統的目的(禁圧または応報等)に代えて立ち直りおよび修復的司法という目的が優先されなければならないということである旨、強調する [5]。
[5] 「少年司法における子どもの権利」に関する一般的意見10号(2007年)、パラ10。
29.民事事件においては、父子関係の確定、子どもの虐待またはネグレクト、家族再統合、施設入所等に関する事件で、子どもが直接または代理人を通じて自己の利益を擁護しようとする場合がある。子どもは、たとえば、養子縁組または離婚に関する手続、子どもの人生および発達に重要な影響を及ぼす監護権、居所、面会交流等の問題に関する決定、および、子どもの虐待またはネグレクトに関する手続において、裁判による影響を受ける場合もある。裁判所は、手続的性質のものであるか実体的性質のものであるかに関わらず、このようなすべての状況および決定において子どもの最善の利益が考慮されるようにしなければならず、かつ、子どもの最善の利益を効果的に考慮したことを実証しなければならない。
(c) 「行政機関」(administrative authorities)
30.委員会は、あらゆるレベルの行政機関が行なう決定の範囲はきわめて広く、とくに教育、ケア、保健、環境、生活条件、保護、庇護、出入国管理、国籍へのアクセスに関する決定を包含するものであることを強調する。これらの分野で行政機関が行なう個別の決定は、あらゆる実施措置の場合と同様、子どもの最善の利益によって評価され、かつ子どもの最善の利益を指針とするものでなければならない。
(d) 「立法機関」(legislative bodies)
31.締約国の義務が「立法機関」にも適用されるとされていることは、第3条第1項が、個人としての子どもだけではなく子どもたち一般にも関連するものであることをはっきりと示している。いかなる法令および集団的協定――子どもに影響を与える二国間・多国間の貿易条約または平和条約等――の採択も、子どもの最善の利益によって規律されるべきである。自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利は、子どもにとくに関わる法律のみならず、あらゆる関連の法律に明示的に含まれるべきである。この義務はまた予算の承認にも適用されるのであり、予算の準備および策定に際しては、それが子どもに配慮したものとなるようにするため、子どもの最善の利益の視点を採用することが必要になる。
3.「子どもの最善の利益」(The best interests of the child)
32.子どもの最善の利益の概念は複雑であり、その内容は個別事案ごとに判定されなければならない。立法者、裁判官、行政機関、社会機関または教育機関は、条約の他の規定に則して第3条第1項を解釈・実施してこそ、この概念を明確にし、かつ具体的に活用できるようになる。したがって、子どもの最善の利益の概念は柔軟性および適応性を有するものである。この概念は、当事者である子ども(たち)が置かれた特定の状況にしたがって、その個人的な背景、状況およびニーズを考慮に入れながら個別に調節・定義されるべきである。個別の決定については、子どもの最善の利益は、その特定の子どもが有する特定の事情に照らして評価・判定されなければならない。立法者による決定のような集団的決定については、子どもたち一般の最善の利益は、特定の集団および(または)子どもたち一般の事情に照らして評価・判定されなければならない。いずれの場合にも、評価および判定は、条約およびその選択議定書に掲げられた権利を全面的に尊重しながら進められるべきである。
33.子どもの最善の利益は、子ども(たち)に関わるすべての事柄に対して適用されるべきであり、かつ、条約または他の人権条約に掲げられた諸権利間で生じる可能性のあるいかなる矛盾を解決する際にも考慮されるべきである。子どもの最善の利益にのっとった、可能性のある解決策を特定することに注意が払われなければならない。このことは、国には、実施措置を採択する際、すべての子どもたち(脆弱な状況に置かれた子どもたちを含む)の最善の利益を明らかにする義務があることを含意するものである。
34.子どもの最善の利益の概念は柔軟なものであることから、個別の子どもの状況を敏感に受けとめ、かつ子どもの発達についての知識を発展させていくことが可能になる。しかし、都合のいいように使われる余地が残る場合もある。子どもの最善の利益の概念は、たとえば人種主義的政策を正当化しようとする政府および他の国家機関によって、監護権をめぐる紛争で自分自身の利益を擁護しようとする親によって、また面倒を引き受けられず、関連性または重要性がないとして子どもの最善の利益の評価を行なおうとしない専門家によって、濫用されてきた。
35.実施措置との関連では、あらゆる行政レベルにおける立法および政策策定ならびにサービス提供で子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保するために、子どもたちおよびその権利の享受に影響を及ぼすいかなる法律、政策または予算配分の提案についてもその影響を予測するための子どもの権利影響事前評価(CRIA)、および、実施の実際の影響を評価するための子どもの権利影響事後評価という継続的プロセスが要求される [6]。
[6] 「子どもの権利条約の実施に関する一般的措置」に関する一般的意見5号(2003年)、パラ45。
4.「第一次的に考慮される」(Shall be a primary consideration)
36.子どもの最善の利益は、あらゆる実施措置の採択において第一次的に考慮されなければならない。「される」(shall be)という文言は国に対して強い法的義務を課すものであり、国は、いかなる活動においても、子どもの最善の利益が評価され、かつ第一次的考慮事項として適正に重視されるか否かについて裁量を行使できないということを意味する。
37.「第一次的に考慮される」事項という表現は、子どもの最善の利益は他のすべての考慮事項とは同列に考えられないということを意味する。この強い位置づけは、子どもが置かれている特別な状況(依存、成熟度、法的地位、および、多くの場合に意見表明の機会を奪われていること)によって正当化されるものである。子どもが自分自身の利益を強く主張できる可能性はおとなの場合よりも低く、子どもに影響を与える決定に関与する者は子どもの利益について明確に意識していなければならない。子どもの利益は、強調されなければ見過ごされる傾向にある。
38.養子縁組(第21条)については、最善の利益の権利はさらに強化されている。これは単に「第一次的に考慮される」事項(a primary consideration)ではなく、「最高の考慮事項」(the paramount consideration)なのである。実際、子どもの最善の利益は養子縁組についての決定を行なう際に決定的要素とされなければならないが、これは他の問題についての決定においても同様である。
39.ただし、第3条第1項は幅広い状況を対象とするものであるため、委員会は、その適用について一定の柔軟性を認める必要性を認識する。いったん評価・判定された子どもの最善の利益が、他の(たとえば他の子ども、公衆、親等の)利益または権利と相反するおそれもある。個別に考慮された子どもの最善の利益と、子どもたちの集団または子どもたち一般の最善の利益とが相反する可能性があるときは、すべての当事者の利益を慎重に比較衡量し、かつ適切な折衷策を見出すことによって、事案ごとの状況に応じて解決が図られなければならない。他者の権利が子どもの最善の利益と相反する場合も同様である。調和を図ることができないときは、公的機関および意思決定担当者はすべての関係者の権利の分析および比較衡量を行なわなければならない。その際、自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利とは、子どもの利益が、単に複数の考慮事項のひとつとして扱われるのではなく、高い優先順位を与えられるということである点を念頭に置く必要がある。したがって、子どもにとって最善と思われる対応がより重視されなければならない。
40.子どもの最善の利益を「第一次的に」とらえるためには、あらゆる活動において子どもの利益がどのように位置づけられなければならないかについて意識し、かつ、あらゆる状況において(ただし、とくにある活動が関係する子どもに否定しようのない影響を与える場合に)これらの利益を積極的に優先させることが必要である。

B.子どもの最善の利益と条約の他の一般原則との関係

1.子どもの最善の利益と差別の禁止に対する権利(第2条)
41.差別の禁止に対する権利は、条約上の権利の享受に関するあらゆる形態の差別を禁止するという消極的な義務ではなく、条約上の権利を享受する効果的かつ平等な機会をすべての子どもに対して確保するため、国が適当な積極的措置をとることも求めるものである。そのためには、現実の不平等の状況を是正するための積極的措置が必要となる場合もある。
2.子どもの最善の利益と生命、生存および発達に対する権利(第6条)
42.国は、人間の尊厳を尊重し、かつすべての子どものホリスティックな発達を確保する環境をつくらなければならない。子どもの最善の利益の評価・判定にあたっては、国は、生命、生存および発達に対するその子どもの固有の権利が全面的に尊重されることを確保しなければならない。
3.子どもの最善の利益と意見を聴かれる権利(第12条)
43.子どもの最善の利益の評価には、子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の意見を表明し、かつ表明された意見を正当に重視される子どもの権利の尊重が含まれなければならない。このことは、やはり第3条第1項と第12条との切っても切れない関係を強調した委員会の一般的意見12号でもはっきりと述べられている。これら2つの条項は補完的な役割を有しており、前者が子どもの最善の利益の実現を目指す一方で、後者は、子どもに影響を与えるすべての事柄(子どもの最善の利益の評価を含む)において子ども(たち)の意見を聴きかつ子ども(たち)を包摂するための方法論を提供している。第12条の要素が満たされなければ、第3条の正しい適用はありえない。同様に、第3条第1項は、自分たちの生活に影響を与えるすべての決定における子どもたちの必要不可欠な役割を促進することにより、第12条の機能性を強化している [7]。
一般的意見12号、パラ70-74。
44.子どもの最善の利益および意見を聴かれる子どもの権利が問題になっている際には、子どもの発達しつつある能力(第5条)が考慮に入れられなければならない。委員会はすでに、子ども自身の知識、経験および理解力が高まるにつれて、親、法定保護者または子どもに責任を負うその他の者は、指示および指導を、子ども自身の気づきを促すための注意喚起およびその他の形態の助言に、そしてやがては対等な立場の意見交換に、変えていかなければならないことを明らかにした [8]。同様に、子どもが成熟するにつれて、その意見は、その子どもの最善の利益の評価においていっそう重視されるようにならなければならない。赤ちゃんおよび非常に幼い子どもも、たとえ年長の子どもと同じ方法で自己の意見を表明しまたは自己を主張することができない場合でも、自己の最善の利益を評価される、すべての子どもと同じ権利を有する。国は、このような子どもの最善の利益を評価するための適当な体制(適当なときは代理人を含む)を確保しなければならない。意見を表明できない子どもまたは意見を表明する意思のない子どもについても同様である。
前掲、パラ84。
45.委員会は、条約第12条第2項で、自己に影響を与えるいかなる司法的および行政的手続においても、直接にまたは代理人を通じて意見を聴かれる子どもの権利が定められていることを想起する(さらに詳しくは後掲第V章B参照)。



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