総括所見:アイルランド(OPAC・2008年)


CRC/C/OPAC/IRL/CO/1(2008年2月14日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2008年1月23日に開かれた第1299回会合においてアイルランドの第1回報告書(CRC/C/OPAC/IRL/1)を検討した。この検討は、締約国の代表団が、第39会期に採択された委員会の決定第8号にしたがって報告書の技術的審査を選択したため、代表団の出席を得ずに行なわれたものである。委員会は、2008年2月1日に開かれた第1313回会合において以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、選択議定書に基づく締約国の第1回報告書の提出、および、選択議定書で保障されている権利に関してアイルランドで適用される立法上、行政上その他の措置に関する追加的情報を提供してくれた、委員会の事前質問事項に対する文書回答(CRC/C/OPAC/IRL/Q/1/Add.1)の提出を歓迎する。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、締約国の第2回定期報告書に関して2006年9月29日に採択された以前の総括所見(CRC/C/IRL/CO/2)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

B.積極的側面

4.委員会は、締約国が以下の文書を批准しまたはこれに加入したことを歓迎する。
  • (a) 国際刑事裁判所ローマ規程(2002年4月)および国際刑事裁判所法の制定(2006年10月)。
  • (b) 最悪の形態の児童労働の禁止および撤廃のための即時の行動に関する国際労働機関第182号条約(1999年)。
  • (c) 非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の追加議定書(議定書II)(1999年)。
5.さらに委員会は、国際協力の分野における締約国の活動(武力紛争の影響を受けている子どもを保護するための行動に対する財政支援の提供を含む)に、評価の意とともに留意する。

I.実施に関する一般的措置

普及および研修
6.委員会は、締約国が、軍の要員を対象として平和活動に関する人権研修を実施するための努力を行なっていること、および、子どもおよび子ども兵士の保護に関するモジュールで選択議定書が取り上げられていることを、心強く思う。委員会はまた、選択議定書の本文が外務省のウェブサイトで利用可能とされていることにも留意するものの、選択議定書に関して締約国が国レベルで行なっている普及および研修のための活動が全体としては軍隊を対象としたものおよび軍事研修に限定されており、かつ、公衆一般に対して選択議定書を普及するためにとられた措置が不十分であることを、遺憾に思うものである。
7.委員会は、締約国が、軍隊、および国際的活動に配置される要員を対象とした、選択議定書の規定に関する研修を引き続き実施するよう勧告する。委員会はまた、締約国が、子どもとともにおよび子どものために働くすべての関連の専門家集団(保健従事者、ソーシャルワーカー、教員、公務員、検察官、裁判官、ならびに、武力紛争の影響を受けている国からやってきた子どもの庇護希望者および難民のためにならびにこれらの子どもとともに働く公的機関など)を対象とした、選択議定書の規定に関する体系的な意識啓発、教育および研修のためのプログラムを発展させることも勧告するものである。さらに委員会は、締約国が、とくに学校カリキュラムおよび人権教育を通じて、公衆一般ならびにとくに子どもおよびその親に対し、選択議定書の規定を広く知らせるよう勧告する。
独立の国内人権機関
8.子どもオンブズマン事務所が子どもからまたは子どもに代わって提出された苦情を調査する権限を有していることは歓迎しながらも、委員会は、子どもオンブズマン法(2002年)第11条1項(b)にしたがい、同事務所が、「国の安全保障または軍事活動に関係しまたは影響する」いかなる行為も調査できないとされていることを遺憾に思う。さらに委員会は、オンブズマン(国防軍)法に基づいて2004年に国防軍オンブズマンが設置されたことは歓迎しながらも、同オンブズマンが、国防軍の組織、構成および配置に関わるいずれかの事柄、軍の刑務所または拘禁場所の運営に関わる行為、および、安全保障または軍事情報に関連しまたは影響する行為については調査できないとされていることを、遺憾に思うものである。
9.委員会は、締約国が、18歳未満の子どもとの関連で国防軍がとった行動を子どもオンブズマン事務所の権限下とする目的で、子どもオンブズマン法(2002年)第11条1項(b)の改正を検討するよう勧告する。

II.防止

志願採用
10.国防軍規則および管理訓令の規定によって18歳未満のすべての軍要員が国外役務から除外されていることには留意しながらも、委員会は、現行規則の例外規定によって「訓練生」の合法的採用が認められていること(16歳以上であれば採用が可能)、および、1954年国防法第54条により、非常時に18歳未満の者の常設国防軍への編入が認められていることを、懸念する。委員会はまた、軍隊にいる18歳未満の子どもが、その軍要員としての地位を理由として、軍法(1954年国防法)の対象とされる場合があり、かつ2001年子ども法に基づき18歳未満の者に与えられている保護から除外されていることも、懸念するものである。
11.委員会は、選択議定書の締約国の圧倒的多数が子どもの志願採用を認めていないことに留意する。したがって委員会は、締約国に対し、全般的により高い基準を通じた子どもの保護を促進する目的で、アイルランド国防軍への採用に関する最低年齢を17歳から18歳に引き上げるよう、奨励する。
12.委員会はまた、アイルランド国防軍の政策条項に基づき、18歳に達していない者がいずれかの「敵対的」事件にさらされる可能性は実質的に無視できる旨、締約国が保証していることに留意する。しかしながら委員会は、18歳未満の国防軍構成員が武器の取扱い訓練を受けていることを懸念するものである。委員会は、子どもを対象として「軍事的要素」のあるこの種の活動を行なうことは、平和および安全が子どもの全面的保護にとって不可欠であることを強調する選択議定書の精神に完全には一致しないという見解に立つ。
13.委員会は、締約国に対し、選択議定書の精神を全面的に尊重し、かつあらゆる状況下で子どもを全面的に保護する目的で、国防軍が提供する兵器取扱い訓練に軍学校生徒が参加できる最低年齢を18歳に引き上げることを検討するよう、奨励する。委員会は、締約国が、国防軍のすべての組織に対し、選択議定書および他の関連の国際基準の規定に関する十分な情報および研修を提供するよう、勧告するものである。

III.禁止および関連の事項

立法
14.委員会は、締約国の国内法で、15~18歳の者による敵対行為への直接的関与が法律で明示的に禁じられていないことに、懸念とともに留意する。委員会は、国防軍規則および管理訓令にしたがって策定されている、18歳未満のすべての軍要員を国外役務から除外する旨のアイルランド国防軍管理政策は、選択議定書第1条で求められている、18歳未満の者が武力紛争に従事しないようにするための十分な保障ではないという見解に立つものである。
15.委員会は、締約国に対し、選択議定書の精神を全面的に尊重し、かつあらゆる状況下で子どもを全面的に保護する目的で、国の内外に関わらず18歳未満の者を敵対行為に直接関与させることを明示的に犯罪化するよう、奨励する。
16.委員会は、2006年に国際刑事裁判所(ICC)法が制定されたこと、および、同法第12条1項で、15歳未満の子どもを軍隊または武装集団に徴募することに関する域外裁判権の行使について定められていることを、歓迎する。しかしながら委員会は、15~18歳の子どもに関するこのような裁判権の設定は双方可罰性の要件に服するとされていることを、遺憾に思うものである。
17.軍隊または武装集団への子どもの徴募および敵対行為における子どもの使用を防止するための国際的措置をさらに強化するため、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもを徴募しかつ敵対行為に子どもを関与させる犯罪について、双方可罰性の基準を課すことなく域外裁判権を拡大することを検討すること。
  • (b) 軍のすべての規則、教範その他の訓令が選択議定書の規定および精神にしたがうことを確保すること。

IV.保護、回復および再統合

被害を受けた子どもの権利を保護するためにとられた措置
18.委員会は、国家子ども戦略(2000~2010年)で難民としての地位を求める保護者のいない子どもについて言及されており、かつ、このような子どもが最善の国際的慣行(指定ソーシャルワーカーおよび指定後見人の提供を含む)にしたがって取り扱われるとされていることを、歓迎する。しかしながら委員会は、徴募されまたは敵対行為で使用された可能性のある子どもの庇護希望者および難民を特定するための機構が設置されておらず、またはその身体的および心理的回復ならびに社会的再統合の具体的戦略が定められていないことを、懸念するものである。これとの関係で、委員会は、保護者のいない子どもの庇護希望者の監督およびこのような子どもに提供されているケアが不十分であることについての懸念(CRC/C/IRL/CO/2、パラ64-65)を、あらためて表明する。
19.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) アイルランドに入国する子どもの難民および庇護希望者であって、国外において徴募されまたは敵対行為で使用された可能性のある子どもを可能なもっとも早い段階で体系的に特定することを可能にする機構を導入すること。
  • (b) これらの子どもの状況を注意深く評価するとともに、選択議定書第6条3項にしたがい、これらの子どもに、その身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のための、文化的配慮および子どもに対する配慮がありかつ学際的な援助を直ちに提供すること。
  • (c) 自国の管轄内にある子どもの難民および庇護希望者であって母国において徴募されまたは敵対行為で使用された可能性のある者についてのデータを体系的に収集すること。
  • (d) この点に関してとられた措置についての情報を次回の報告書に記載すること。
20.これとの関連で、委員会はさらに、出身国外にあって保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもの取扱いに関する委員会の一般的意見6号(パラ54~60)に対し、締約国の注意を喚起したい。

V.国際的な援助および協力

国際協力
21.委員会は、武力紛争の影響を受けた子どもの保護および支援を目的とした多国間および二国間の活動に対する財政支援(地雷問題について活動している組織への多大な支援を含むが、これに限るものではない)について、締約国を賞賛する。
22.委員会は、締約国に対し、武力紛争における子どもの保護を目的とした行動のための国際協力の分野における活動(財政支援の提供を含む)を継続するよう、奨励する。委員会はまた、締約国に対し、子ども(およびとくに武力紛争の影響を受けている子ども)に関する援助支出の評価および監視を可能とするため、アイルランド援助プログラムに関わる財政データの細分化を検討することも、勧告するものである。
武器輸出および軍事援助
23.委員会は、国内法をEU集積法に一致させることを目的とする輸出品統制法案が2007年2月に公表されたことを歓迎する。しかしながら委員会は、当該法案において、子どもが徴募されまたは敵対行為で使用されている可能性のある国が武器の最終目的地であることが、販売からの除外基準として具体的に挙げられていないことを遺憾に思うものである。
24.委員会は、締約国が、子どもが徴募されもしくは敵対行為で使用されていることがわかっている――またはその可能性がある――国が最終目的地である場合における武器の販売の具体的禁止規定の導入を検討するよう、勧告する。

VI.その他の法規定

25.子どもの売買と武装集団への徴募が関連している可能性があることに鑑み、委員会は、締約国が、2000年9月7日の署名した子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書の批准を進めるよう、勧告する。

VIII.フォローアップおよび普及

26.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を議会(ウラクタス)、下院(ドイル)、上院(シャナズ)、国防省および該当する場合には州の当局に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
27.加えて、選択議定書第6条2項に照らし、委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した第1回報告書および委員会が採択した総括所見を公衆一般が広く入手できるようにすることを勧告する。
28.選択議定書第8条2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約条約第44条にしたがって提出される、条約に基づく第3回・第4回統合定期報告書(提出期限・2009年4月27日)に記載するよう要請する。


  • 更新履歴:ページ作成(2013年1月19日)。
最終更新:2013年01月19日 17:58