総括所見:アイルランド(第1回・1998年)


CRC/C/15/Add.85(1998年2月4日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1998年1月12日および13日に開かれた第436回~第438回会合(CRC/C/SR.436-438)においてアイルランドの第1回報告書(CRC/C/11/Add.12)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1998年1月23日に開かれた第453回会合において。

A.序

2.委員会は、締約国に対し、委員会のガイドラインにしたがって作成された包括的な報告書、会期前に送付された事前質問事項への文書回答の提出、および、議論の過程で提供された詳細な追加情報に関して、謝意を表する。これにより、委員会は、アイルランドにおける子どもの権利の状況を評価することが可能になった。委員会はさらに、締約国の代表団との建設的な、率直なかつ開かれた対話を歓迎するものである。

B.積極的な側面

3.委員会は、条約で認められた子どもの権利の実施のためにさらなる措置をとることに対する締約国の決意を評価する。委員会は、子どもおよびその家族のために確立されている福祉サービスに、満足感とともに留意するものである。委員会はまた、締約国において高いレベルの教育制度および先進的な保健制度が確立されていることも評価する。
4.委員会は、法改正の分野で締約国が行なった最近の努力に留意する。委員会は、条約の原則および規定を編入するための憲法改正が計画されていることを歓迎するものである。委員会はまた、子ども養護法(1991年)および同修正法(1997年)、家族法(1995年)、ドメスティックバイオレンス法(1996年)ならびに家族(離婚)法(1996年)が制定されたこと、ならびに、教育法案および養子縁組法案が起草されたことも歓迎する。
5.委員会は、セックスツーリズムを含む性的搾取から子どもを保護するために締約国が行なった多大な努力および具体的措置を称賛する。委員会はまた、海外で子どもセックスツーリズムに関与した市民および(または)定住者ならびに締約国において子どもセックスツーリズムを組織しかつ宣伝した者の訴追に関する管轄権を国内裁判所に与える、性犯罪(管轄)法(1996年)の制定および児童人身取引・児童ポルノ法案(1997年)の起草をとくに歓迎するものである。

C.主要な懸念事項

6.委員会は、条約の原則および規定を全面的に編入し、かつ条約が対象とするすべての領域を網羅した包括的な国内政策が存在しないため、子どもの権利に対する締約国のアプローチがやや断片的になっているように思えることを、遺憾に思う。
7.委員会はまた、締約国で広く行なわれている福祉政策および慣行が、条約に掲げられた子どもの権利中心のアプローチを十分に反映していないことも懸念する。加えて委員会は、防止措置に十分な力点が置かれていないことを懸念するものである。
8.子どもの福祉を担当するさまざまな政府機関が国内および地方のレベルに設置されていることには留意しながらも、委員会は、子どもの権利の促進および保護に関してこれらの機関の間で十分な調整が行なわれていないことを遺憾に思う。
9.監督機構として社会サービス監察官を設置するという決定は歓迎しながらも、委員会は、子どもがアクセス可能で、かつ、その権利の侵害に関する苦情に対応しかつ救済を提供する、オンブズパーソンまたは子どもの権利コミッショナーのような独立した監視機構が存在しないことを依然として懸念する。
10.委員会は、条約の原則および規定の実施を監視する指標の選択および開発に関するものも含めて、締約国が収集する統計的その他の情報に一部欠落が存在することに、締約国の注意を促す。委員会は、子どもの状況に関する統計が15歳未満の子どもについてしか収集されていない場合があることに留意するものである。
11.委員会は、条約に関する幅広い意識を促進するためにとられた措置が不十分であるという見解に立つものであり、かつ、裁判官、弁護士、警察官を含む法執行官、保健従事者、教職員、ソーシャルワーカー、コミュニティワーカーおよび子どものための施設で働く職員のような、子どもとともにおよび子どものために働く専門家グループを対象として、条約の原則および規定に関する十分かつ体系的な研修が行なわれていないことを、依然として懸念する。
12.締約国が非政府組織との協力に前向きであることは歓迎しながらも、委員会は、子どもの権利の発展に貢献しうる非政府組織の潜在的可能性が全面的に認識されていないことを懸念するものである。
13.子どもの定義(条約第1条)に関して、委員会は、締約国の国内法で設定されているさまざまな年齢制限が低いことを懸念する。
14.差別の禁止の原則(条約第2条)に関して、委員会は、教育および保健サービスへのアクセスに関して格差が存在することを懸念する。すでにとられた措置には留意しながらも、委員会は、トラベラーズ・コミュニティに属する子ども、貧困家庭の子どもおよび難民である子どもを含む、脆弱なおよび不利な立場に置かれた集団の子どもが、教育、住居および保健サービスへのアクセスも含む基本的権利の享受に関していまだに困難に直面していることに、懸念とともに留意するものである。
15. 条約第12条の実施に関して、委員会は、家庭、学校および社会も含め、子どもの意見が一般的に考慮に入れられていないことを懸念する。委員会はまた、子どもの意見を聴く手続が法律で全面的に考慮されていないことも懸念するものである。
16.委員会は、家庭における体罰が法律で禁じられていないことを懸念する。委員会の見解では、これは条約の原則および規定に矛盾するものである。委員会はまた、家庭において児童虐待および暴力が存在すること、ならびに、児童虐待の事案に関して義務的通報の機構が存在しないことも懸念する。
17.委員会は、子どもの出生登録にあたって父の名前を記載する適切な手続が存在しないことから、非婚の親から生まれた子どもが不利な状況に置かれていることを懸念する。このことは、現行規則では養子縁組は父の同意なしで行ないうることから、養子縁組に関わる他の権利の実施にも悪影響を与えるものである。委員会はさらに、子どもが離婚後に双方の親と接触を維持する保障が存在しないことを懸念する。
18.委員会は、締約国における母乳育児の割合が低いこと、および、母乳育児が子どもの健康に与える肯定的影響に関する意識が欠けていることを懸念する。
19.委員会は、10代の自殺が発生していることを懸念する。委員会はまた、薬物およびアルコールの濫用ならびに若年妊娠のような青少年の健康関連の問題に取り組む十分なプログラムが存在しないことも、懸念するものである。
20.委員会は、障害のある子どもの権利を確保するための国家政策が存在しないこと、ならびに、子どもおよびその家族の精神保健に対応する十分なプログラムおよびサービスが存在しないことを、懸念する。
21.国家貧困対抗戦略の存在は認めながらも、委員会は、締約国において子どもの貧困およびホームレスの子どもが生じていることをとくに懸念し、かつ、締約国に対し、もっとも脆弱な立場に置かれた子どもの権利を保護するための措置およびプログラムを強化するよう奨励する。
22.委員会は、教職員によって科された制裁によって退学となる子どもの状況、および、それによって発生する、ときには脱落率および出席率にも影響を与えかねない悪影響について懸念する。
23.委員会は、刑事責任年齢の低さおよび自由を奪われた子どもの処遇に関して、とくに条約および少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止のための国際連合指針(リャド・ガイドライン)および自由を奪われた少年の保護のための国連規則のような他の関連の国際基準の原則および規定に照らして、懸念を覚える。

E.提案および勧告

24.委員会は、締約国が、条約のすべての原則および規定を憲法に含めるべきであるという憲法再検討グループの勧告の実施および1997年子ども養護法の実施を速めるためにあらゆる適切な措置をとり、そのことにより、権利の全面的主体としての子どもの地位を強化するよう勧告する。
25.裁判所において条約が国内法の解釈手段としてしか参照されえないことを踏まえ、委員会は、締約国が、第2条(差別の禁止)、第3条(子どもの最善の利益)、第6条(生命、生存および発達への権利)および第12条(子どもの意見の尊重)に反映された一般原則を正当に考慮に入れながら、条約が国内法の一部として全面的に編入されることを確保するためにさらなる措置をとるよう勧告する。
26.委員会は、締約国に対し、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、拷問および他の残酷な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰の禁止に関する条約、および、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関する1993年のハーグ条約の批准を検討するよう、奨励する。
27.委員会は、締約国に対し、条約第4条の全面的実施を確保するよう奨励する。条約の一般原則、とくに子どもの最善の利益に照らし、委員会はまた、子どもの貧困の問題に取り組み、かつあらあらゆる家族が十分な資源および便益を有することを確保するために、即時的措置をとる必要があることも強調するものである。委員会はまた、締約国に対し、国際開発援助のプログラムの枠組みとして条約の原則および規定を用いるようにも奨励する。
28.委員会は、締約国が子どものための包括的な国内戦略を採択し、あらゆる政策およびプログラムの立案に条約の原則および規定を体系的に編入するよう提案する。
29.締約国の立場には留意しながらも、委員会は、オンブズパーソンまたは子どもの権利コミッショナーのような、子どもの権利侵害に対応するための独立監視機関の設置について再検討するよう勧告する。
30.委員会は、子どもの権利に対応するさまざまな政府機関間の調整を強化するよう勧告する。これとの関連で、委員会は、締約国が、子どもの権利を保護するための調整および適切な決定を行なう権限を単一の機関に集中させるよう、勧告するものである。
31.委員会は、条約が対象としているあらゆる領域を編入する目的で、18歳未満のすべての子どもを対象とするためにデータ収集および指標開発のシステムを修正するよう勧告する。そのようなシステムはすべての子どもを対象とすべきであり、かつ、脆弱な立場に置かれた子どもおよびとりわけ困難な状況に置かれている子どもがとくに重視されなければならない。子どもの権利の実現に関して達成された進展を監視しおよび評価し、ならびに条約の規定の実施を強化するために採択される政策の立案に役立てることを目的として、細分化された十分なデータが収集されかつ分析されるべきである。
32.委員会は、締約国に対し、非政府組織(NGO)とのより緊密な関係を発展させるための努力を継続しかつ強化するよう、奨励する。
33.委員会は、締約国が、同国において人権教育を促進し、かつ、条約の原則および規定に関するより幅広い意識および理解を喚起するよう勧告する。委員会はまた、子どもおよびおとなの双方を対象とした、子どもの権利に関する体系的な情報キャンペーンを発展させるために締約国が現在行なっている努力の継続も奨励するものである。さらに、すべての教育機関のカリキュラムに子どもの権利が編入されるべきであり、かつ、裁判官、弁護士、警察官を含む法執行官、出入国管理官、保健従事者、教職員、ソーシャルワーカー、コミュニティワーカーおよび子どものケアのための施設で働く職員のような、子どもとともにおよび子どものために働く専門家グループを対象として、条約に関する包括的な研修プログラムが実施されるべきである。
34.委員会は、トラベラーズ・コミュニティに属する子ども、貧困下で暮らしている子どもおよび難民である子どもを含む、脆弱なかつ不利な立場に置かれた集団の子どもが、教育、住居および保健サービスへのアクセスを促進することを目的とした積極的措置から利益を得ることを確保するための努力を、締約国が強化するよう勧告する。
35.委員会は、締約国が、条約第12条、第13条および第15条に照らし、とくに家庭、学校および社会における対話を通じて、自己に影響を与える決定および政策における子どもの参加および子どもの意見の尊重を体系的に促進するよう勧告する。
36.委員会は、締約国が、非婚の親から生まれた子どもの出生証明書にできるかぎり父の名前を記載する手続を確立するために、適切な措置をとるよう勧告する。
37.委員会は、締約国に対し、乳児の授乳に関する世界保健機関の決議を実施するよう勧告する。
38.委員会は、締約国が、条約第23条に照らし、障害のある子どもが地域社会に積極的に参加することを促進するためのプログラムを発展させるよう勧告する。委員会はまた、締約国に対し、精神保健に関する統合的なプログラムおよびアプローチの実施を確保し、かつそのような活動に必要な資源および援助を利用可能とするために、さらなる努力を継続するようにも奨励するものである。
39.委員会は、締約国が、家庭における体罰の使用を禁止しかつ解消するために、法的措置も含むあらゆる適切な措置をとるよう提案する。委員会はまた、代替的形態のしつけが子どもの人間の尊厳と一致する方法で、かつ条約にしたがって行なわれることを確保するために、意識啓発キャンペーンを行なうことも提案するものである。委員会はまた、家庭における性的虐待も含む子どもの虐待および不当な取扱いの事案が適正に調査され、加害者に制裁が科され、かつ、子どものプライバシーへの権利の保護を正当に考慮しながら、そのような事案に関して行なわれた決定が広報されるべきであると考える。
40.委員会は、締約国が、1996年子ども法案の迅速な制定をとくに少年司法制度の運営との関わりで確保するために、あらゆる実施可能な措置をとるよう勧告する。そのさい、条約、および少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止のための国際連合指針(リャド・ガイドライン)および自由を奪われた少年の保護のための国連規則のような他の関連の国際基準の原則および規定が正当に考慮されるべきである。
41.最後に委員会は、条約第44条6項に照らして、締約国が提出した第1回報告書および文書回答を公衆一般が広く入手できるようにし、かつ、関連の議事要録および委員会がここに採択した総括所見とともに同報告書を刊行することを検討するよう、勧告する。そのような文書は、政府、議会および関心のあるNGOを含む一般公衆の間で条約ならびにその実施および監視に関する議論および意識を喚起するために、広く普及されるべきである。


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