総括所見:スイス(第1回・2002年)


CRC/C/15/Add.182(2002年6月13日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2002年5月29日に開かれた第790回および第791回会合(CRC/C/SR.790 and 791参照)においてスイスの第1回報告書(CRC/C/78/Add.3)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)2002年6月7日に開かれた第804回会合において。

A.序

2.委員会は、定められたガイドラインにしたがった締約国の第1回報告書の提出を歓迎する。委員会はまた、事前質問事項(CRC/C/Q/SWI/1)に対する文書回答が時宜を得て提出されたことにより、締約国における子どもの状況をより明確に理解できたことにも留意するものである。委員会はまた、締約国代表団との間で持った積極的対話にも留意する。委員会は、条約の実施に直接関与する、高度な資質を有する代表団の出席により、締約国における子どもの権利の状況に関する理解を向上させることができたことを認知するものである。

B.積極的側面

3.委員会は、以下の法律の採択を歓迎する。
  • (a) 子どもの権利に関する規定(とくに第11条)を掲げた、1999年の新憲法。
  • (b) 離婚および認知に関する新法(2000年施行)。
  • (c) 児童ポルノを含むハードコアポルノの所持の禁止を導入した、刑法改正(2002年施行)。
  • (d) 連邦犯罪被害者援助法の改正(2002年施行)。
  • (e) 生殖補助医療法(2001年施行)。
4.委員会はまた、条約を裁判所で直接援用することが可能であり、かつ、連邦裁判所が何度か条約の規定および原則を参照してきたことも、歓迎する。
5.委員会は、締約国が子どもの権利に関して市民社会と緊密に協力していることを歓迎する。

C.主要な懸念事項および勧告

1.実施に関する一般的措置

留保
6.委員会は、第5条、第7条、第10条および第37条に締約国が付した留保ならびに第40条に関する4つの留保について懸念を覚えるものの、憲法その他の関連法について最近行なわれた改正および現在進められている改正のおかげで、締約国が、対話の際に提示された暫定的予定にしたがい、ほとんどの留保の撤回を検討している旨の情報を歓迎する。このような情報にも関わらず、委員会は、この撤回プロセスがやや遅々としたペースで進められていることについて、かつ、一部の留保についてはまったく、またはまたは遠い将来にしか撤回されない可能性があることについてはなおいっそう、懸念するままである。
7.1993年のウィーン宣言および行動計画に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 無償の通訳の提供(第40条2項(b)(vi))に関する留保の撤回プロセスを可能なかぎり速やかに進めるとともに、締約国によれば、第5条に付した留保は解釈宣言にすぎず、第5条の意義に影響を及ぼすことを意図したものではないことに鑑み、このプロセスを活用して第5条に付した留保を可能なかぎり早期に撤回すること。
  • (b) 現在行なわれている帰化法の改正を速やかに進め、この改正の承認後、第7条に付した留保を可能なかぎり早期に撤回すること。
  • (c) 現在行なわれている外国国民法(旧・外国人の永住および一時的在留に関する連邦法)の改正を速やかに進め、この改正の承認後、家族再統合に関する第10条1項に付した留保を可能なかぎり早期に撤回すること。
  • (d) 新少年刑事法の承認および制定を速やかに進め、その後、法的援助に関する第40条2項(b)(ii)および自由を奪われた少年の成人からの分離に関する第37条(c)の留保の撤回を可能なかぎり早期に開始すること。
  • (e) 調査担当および量刑担当の裁判官を同一の少年裁判官に務めさせる可能性に関して付された留保を再検討すること。独立のかつ公平な公的機関または司法機関の要件(第40条2項(b)(iii))は、調査担当および量刑担当の少年裁判官が同一人物であってはならないことを、必ずしも、かつあらゆる状況下において意味するものではないためである。
  • (f) 現在行なわれている、連邦裁判所の第1審裁判所としての権限を廃止する法改正を速やかに進め、この改革の承認後、第40条第2項(b)(v)に付した留保を可能なかぎり早期に撤回すること。
8.委員会は、締約国に対し、次回の報告書の提出までにすべての留保の撤回を完了させるよう、促す。
立法
9.委員会は、カントン(州および準州)を含む締約国において、子どもに関連する多数の法律の改正が進められていること(未成年者に適用される刑事手続に関する連邦法案、未成年者の刑事上の地位に関する連邦法案および外国国民法など)を認識する。
10.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 締約国に存在する格差から生じる可能性のある差別を回避するため、適切な機構を通じ、国およびカントンの法律が条約に一致することを確保すること。
  • (b) これらの法律および子どもに関わるその他の法律ならびに行政規則について徹底した見直しを行なうとともに、これらの法令が、連邦およびカントンのレベルのいずれにおいても、権利を基盤とし、かつ条約ならびに国際人権に関するその他の文書および基準に一致することを確保すること。
  • (c) これらの法令の効果的実施のために十分な対応(予算配分を含む)がとられることを確保すること。
  • (d) これらの法令が順調かつ速やかに公布されることを確保すること。
調整
11.委員会は、連邦参事会が、1997年10月15日付の決議において、条約の実施の調整は連邦内務省が担当し、かつ、カントン間ならびにカントンおよび連邦政府間の調整機構を設ける旨、定めたことに留意する。しかしながら委員会は、締約国における条約の実施を調整するための中央機構が存在しないため、包括的なかつ一貫した子どもの権利政策を達成するのが困難になっていることを、依然として懸念するものである。
12.委員会は、締約国が、連邦レベルで、連邦およびカントンのレベル間でならびにカントン間で条約の実施を調整するための、国レベルの十分な常設機構を設置するよう勧告する。
13.委員会は、連邦内務省が、子どもおよび若者に関わるスイスの政策の諸要素をとりまとめたことに留意するものの、この政策において、条約で認められている子ども(とくに年少の子ども)のすべての権利が取り上げられていないことを、依然として懸念する。
14.委員会は、締約国が、開かれた、協議に基づく参加型のプロセスを通じて、条約を実施するための包括的な国家的行動計画を作成しかつ実施するよう、勧告する。この国家的行動計画は、権利基盤アプローチをとるべきであり、保護および福祉に限定されるべきではない。加えて委員会は、年少の子どもおよび年長の子ども双方に平等な注意が払われるべきことを勧告するものである。最後に委員会は、締約国が、法律、予算および政策の策定に当たって子ども影響評価を活用するよう勧告する。
監視体制
15.委員会は、多くのカントンで行政斡旋官が設置されており、かつ多くのカントンおよび都市で子どもの問題に関する専門の機構が設けられていることに留意する。委員会はまた、連邦国家人権機関の設置を求める多数の議会動議が提出されてきたことにも留意するものである。しかしながら委員会は、条約の実施を監視するための、かつ、カントンおよび連邦のレベルで子どもの個別の苦情を受理しかつこれに対応する権限を与えられた、独立の中央機構が存在しないことを懸念する。
16.委員会は、締約国が、人権の促進および保護のための国内機関の地位に関するパリ原則(総会決議48/134)にしたがい、条約の実施における進展を監視しかつ評価するための、独立の連邦人権機関を設置するよう勧告する。当該機関は、子どもにとってアクセスしやすく、子どもの権利の侵害に関する苦情を子どもに配慮したやり方で受理しかつ調査する権限を有し、かつ、このような苦情に効果的に対応するようなものであるべきである。
データ収集
17.委員会は、とくに全国調査研究プログラムを通じて、データ収集を向上させるために進められている措置に留意する。しかしながら委員会は、統計――とくに国勢調査――で用いられている年齢層が条約に掲げられた子どもの定義と一致していないこと、および、条約のすべての分野が網羅されているわけではないことを、依然として懸念するものである。
18.委員会は、締約国が、とりわけ脆弱な立場に置かれた子どもおよび現在のデータでまだ網羅されていない分野をとくに重視しながら、条約のすべての分野について、18歳未満のすべての者に関する細分化されたデータを体系的に収集するとともに、進展を評価し、かつ条約実施のための政策を立案する目的で当該データを活用するよう、勧告する。
研修/条約の普及
19.委員会は、締約国が、第1回報告書および総括所見を報告書要旨とあわせて刊行する予定である旨の情報を歓迎する。しかしながら委員会は、条約が締約国の第4国語(すなわちロマンシュ語)に翻訳されていないこと、ならびに、普及、意識啓発および研修のための活動が常に体系的なかつ重点対象型のやり方で行なわれているわけではないことを、懸念するものである。
20.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもおよび親、市民社会ならびにあらゆる部門および段階の政府の間で条約およびその実施に関する情報を普及するためのプログラム(脆弱な立場に置かれた集団、とくに子どもの移民および庇護希望者に情報を提供するための取り組みを含む)を強化しかつ継続すること。
  • (b) 条約をロマンシュ語に翻訳すること。
  • (c) 子どものためにおよび子どもとともに働くすべての専門家集団(たとえば連邦およびカントンの議員、裁判官、弁護士、法執行官、公務員、地方政府職員、子どもを対象とする施設および拘禁場所で働く職員、教員ならびに保健従事者)を対象とした、子どもの権利を含む人権についての体系的かつ継続的な研修プログラムを開発しかつ実施すること。

2.一般原則

差別の禁止
21.憲法で差別が禁じられていること(第8条)は認知しながらも、委員会は、外国人の子どもに対する事実上の差別が行なわれていること、および、子どもの発達に悪影響を及ぼす可能性がある人種的憎悪および外国人排斥の事件が起きていることを、懸念する。委員会はまた、実務およびサービスの提供ならびに子どもによる権利の享受に関してカントン間に存在する格差の一部は差別に相当する可能性があることも、懸念するものである。
22.条約第2条その他の関連条項に照らし、委員会は、締約国が、子どもによる権利の享受に関して存在する格差を注意深くかつ定期的に評価するとともに、当該評価を基礎として、差別的格差を防止しかつこれと闘うために必要な措置をとるよう、勧告する。委員会はまた、締約国が、外国人の子どもまたはマイノリティに属する子どもに対する事実上の差別を防止しかつ解消するための行政上の措置を強化することも、勧告するものである。
23.委員会は、2001年の「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対する世界会議」で採択された宣言および行動計画をフォローアップするために締約国がとった措置およびプログラムのうち子どもの権利条約に関わるものについての具体的情報を、条約第29条1項(教育の目的)に関する委員会の一般的意見1号も考慮に入れながら、次回の定期報告書に記載するよう要請する。
子どもの最善の利益
24.委員会は、子どもの最善の利益の一般原則(第3条)が、締約国の政策およびプログラムの実施において全面的に適用され、かつ正当に統合されているわけではないことを懸念する。
25.委員会は、子どもの最善の利益の一般原則が、あらゆる法律および予算ならびに司法上および行政上の決定、ならびに、子どもに影響を与えるプロジェクト、プログラムおよびサービスに適切な形で統合されることを確保するため、締約国があらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
子どもの意見の尊重
26.子どもがその成熟度にしたがって自己の権利を行使できることを認めた憲法第11条2項および自己の意見を表明する子どもの権利を認めた多数の法律上の規定を歓迎し、かつ、カントンまたは自治体のレベルでさまざまな若者議会が設置されていることには留意しながらも、委員会はなお、条約第12条に定められた一般原則が、締約国の政策およびプログラムの実施において全面的に適用され、かつ正当に統合されているわけではないことを懸念する。
27.委員会は、子どもの意見の尊重の原則の実施を確保するためにさらなる努力が行なわれるべきことを勧告する。これとの関係で、脆弱な立場に置かれた集団にとくに注意を払いながら、家庭、学校、その他の施設および機関ならびに社会におけるすべての子どもの参加権がとりわけ重視されるべきである。この一般原則を、子どもに関わるすべての政策およびプログラムに反映させることも求められる。この原則の実施に関する、公衆一般の意識啓発ならびに専門家の教育および研修が強化されるべきである。

3.市民的権利および自由

自己のアイデンティティを知る権利
28.委員会は、生殖補助医療法第27条にしたがい、子どもがその父の身元について情報提供を受けられるのはその子どもが「正当な利益」を有している場合のみであることに留意するとともに、この点に関する「正当な利益」の意味について懸念を覚える。
29.条約第7条に照らし、委員会は、締約国が、自己の親の身元を知る子どもの権利が尊重されることを可能なかぎり確保するよう、勧告する。
拷問および不当な取扱い
30.委員会は、外国人の子どもに対して法執行官が不当な取扱いを行なう事例があるとの主張があること、および、虐待が蔓延していることを深く懸念する。
31.委員会は、この点について拷問禁止委員会が行なった勧告(A/53/44、パラ94)を支持するとともに、条約第37条に照らし、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 逮捕、尋問および警察留置中の不当な取扱いに関する法執行官に対する苦情を受理するための、子どもに配慮した機構をすべてのカントンに設置すること。
  • (b) 警察隊を対象として、子どもの人権に関する体系的研修を実施すること。
体罰
32.学校における体罰が禁じられていることには留意しながらも、委員会は、連邦裁判所の判例によれば、体罰は、社会によって一般的に受け入れられている水準を超えないときは身体的暴力とみなされないことを懸念する。加えて委員会は、家庭における体罰が法律で禁じられていないことを懸念するものである。
33.委員会は、締約国が、家庭、学校および施設における体罰のあらゆる実践を明示的に禁じるとともに、とくに親、子ども、法執行官および司法職員ならびに教員を対象とし、この点に関する子どもの権利を説明し、かつ、子どもの人間の尊厳と一致するやり方による、かつ条約(とくに第19条および第28条2項)にしたがった代替的形態のしつけおよび規律の使用を奨励する、広報キャンペーンを実施するよう勧告する。

4.家庭環境および代替的養護

親が働いている子どものための保育サービス
34.保育施設の増設を目的とする議会の発議は歓迎しながらも、委員会は、締約国から提供された情報(CRC/C/78/Add.3、パラ481)によれば、現在提供されている保育サービスはニーズを満たすには程遠いことに、懸念とともに留意する。
35.条約第18条3項に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 働く親のニーズを満たす目的でより多くの保育サービスを設置するための措置をとること。
  • (b) 条約の原則および規定に照らし、提供される保育サービスにおいて乳幼児期の発達が促進されることを確保すること。
養子縁組
36.委員会は、養子が自己の生物学的親を知ることを認める民法第268条(c)が施行されたこと、および、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関する1993年5月29日のハーグ条約の批准手続が2003年には完了する見込みであることを歓迎する。しかしながら委員会は、国外で養子とされる子どもが正式な縁組までに2年間待機しなければならず、これが差別および無国籍につながりうることを、依然として懸念するものである。加えて委員会は、十分なフォローアップが行なわれていないために、養親による子どもの不当な取扱いが報告されていることを懸念する。
37.委員会は、国外で養子とされた子どもが、締約国への到着から正式な養子縁組まで時間がかかるために無国籍となりまたは差別されることがないようにするため、締約国が必要な措置をとるよう勧告する。加えて、委員会はさらに、締約国が、不当な取扱いおよび権利侵害を解消する目的で十分なフォローアップの手段をとることにより、これらの子どもの状況を体系的に検証するよう提案するものである。
虐待およびネグレクト/暴力
38.家庭、学校およびスポーツにおける子どもへの暴力に対処するために行なわれている多数の取り組みは歓迎しながらも、委員会は、子どもの虐待および(または)ネグレクトに関する包括的なデータおよび情報が存在しないことを依然として懸念する。
39.条約第19条に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) これらの慣行の規模、範囲および性質を評価する目的で、性的虐待(とくに家庭におけるもの)および学校におけるいじめを含む、子ども(とくに脆弱な立場に置かれた集団の子ども)に対する暴力、不当な取扱いおよび虐待についての研究を実施すること。
  • (b) 子どもの虐待を防止しかつこれと闘うため、子どもたちの関与を得ながら意識啓発キャンペーンを発展させること。
  • (c) 既存の諸機関の活動を評価するとともに、これらのタイプの事案に関与する専門家を対象とした研修を行なうこと。
  • (d) 被害を受けた子どもの保護(プライバシー権の保護を含む)の向上を確保する目的で、ドメスティックバイオレンスならびに家庭における子どもの不当な取扱いおよび虐待(性的虐待を含む)の事案を、子どもに配慮した調査および司法手続を通じ、効果的に調査すること。

5.基礎保健および福祉

思春期の健康
40.先進的な保健ケア制度、きわめて低い乳児死亡率およびHIV/AIDS有病率の低下には留意しながらも、委員会は、それでもなお、青少年の自殺件数が多く、かつこの現象を防止するための措置が限定されていること、および、学校外におけるものを含むカウンセリングサービスへの青少年によるアクセスが不十分であることを、懸念する。加えて委員会は、アルコールおよびタバコの使用が――とくに女子の間で――広く蔓延しており、かつ増加していることを懸念するものである。さらに、死亡率が低下していることには留意しながらも、委員会は、交通事故で死亡しまたは負傷する子どもの人数が多いことをなお懸念する。最後に委員会は、国外で女性性器切除が行なわれる事案について懸念を覚えるものである。
41.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) HIV/AIDSの有病率を低下させるための努力を続行するとともに、青少年の自殺を防止するため、情報の収集および分析、意識啓発キャンペーンの開始ならびに特別プログラムおよびカウンセリングサービスの設置を含む、あらゆる必要な措置をとること。
  • (b) とくにアルコールの消費およびタバコの使用との関係で、思春期の健康政策を促進するための努力を増強すること。
  • (c) 交通事故の被害を受ける子どもの人数を減少させるための努力を続行すること。
  • (d) 女性性器切除の慣行に終止符を打つための、関連する層を重点対象とする意識啓発キャンペーンを発展させるとともに、この問題についての包括的研究を実施すること。
障害のある子ども
42.障害を理由とする差別が憲法で禁じられていること(第8条)は歓迎しながらも、委員会は、障害のある子どもに関する統計が欠けており、かつ、これらの子どもを普通教育に統合する統一の実務がさまざまなカントンで行なわれていないことを、依然として懸念する。加えて委員会は、在宅ケアに関するかぎり、障害を持って生まれた子どもと障害児になった子どもとの間に区別があることを懸念するものである。
43.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 障害のある子どもに関するデータ収集を強化すること。
  • (b) 普通教育への障害児の統合に関して全国的に存在する格差についての評価を実施するとともに、差別に相当する可能性もあるこれらの差異を解消するためにあらゆる必要な措置をとること。
  • (c) 障害を持って生まれた子どもと、疾病または自己の結果障害児になった子どもとの間にある事実上の差別を解消するため、在宅ケア支援制度を見直すこと。
健康保険
44.委員会は、社会保障制度の継続的改革に留意するものの、社会保険および保健の費用負担がきわめて高く、低所得家庭に影響が生じている可能性があることを依然として懸念する。
45.委員会は、経済的、社会的および文化的権利に関する委員会の総括所見(E/C.12/1/Add.30、パラ36)を支持するとともに、締約国が、たとえば保険料の減額によって保健サービスの費用負担を低下させる目的で、健康保険制度の見直しを行なうよう勧告する。
生活水準/社会福祉
46.締約国の経済的豊かさおよび高い生活水準には留意しながらも、委員会は、人口の5.6%が貧困の影響を受けており、かつ、締約国から提供された情報(「子どもおよび若者に関するスイスの政策の諸要素」)によれば、若年家庭、ひとり親家庭および多子家庭がもっとも影響を受けていることを懸念する。加えて委員会は、家族手当または家族給付がカントンによってさまざまであり、かつ受給者が有給の雇用についていることが条件とされていることを、懸念するものである。
47.委員会は、締約国が、条約の原則および規定(とくに第2条、第3条、第6条、第26条および第27条)に照らして貧困を防止するためにあらゆる適切な措置をとり、かつ、資力調査制度を正当に考慮しながら、とくに有給の雇用についていない家族および自営業である家族を対象とした家族手当および家族給付の制度を見直すよう、勧告する。

6.教育

48.委員会は、条約第29条、および教育の目的に関する委員会の一般的意見1号に照らし、教育の目的、とくに人権教育が、締約国のすべてのカントンの学校カリキュラムにどのように反映されているかについての情報が存在しないことを懸念する。
49.委員会は、締約国が、カントン段階のカリキュラムに教育の目的がどのように反映されているかに関する情報を、次回の報告書で提供するよう勧告する。

7.特別な保護措置

子どもの難民および庇護希望者ならびに保護者のいない子ども
50.連邦庇護法制(連邦庇護法および庇護手続に関する政令第1号)が1999年10月1日に施行されたことは歓迎しながらも、委員会は、保護者のいない未成年者を対象として用いられている手続が、常にその最善の利益にかなっているわけではなく、かつ条約の関連規定に全面的に一致しているわけでもないことを、依然として懸念する。加えて、条約第10条に付された留保との関連で、委員会は、家族再統合に対する権利が制限されすぎていることを懸念するものである。
51.委員会は、締約国が、庇護申請手続に関するアプローチを単純化するとともに、当該手続を迅速化し、かつ、子ども、とくに保護者のいない子どもの特別なニーズおよび要求が当該手続で考慮されることを確保するため、あらゆる必要な措置をとるよう勧告する。このような措置には、法定代理人の指定、このような子どものセンターへの措置、ならびに、保健ケアおよび教育に対するこのような子どものアクセスが含まれる。加えて委員会は、締約国が、とくに締約国に長期間滞在している難民について、家族再統合のための制度を見直すよう勧告するものである。
性的搾取および性的虐待
52.児童ポルノを含むハードコアポルノの所持を禁止した刑法改正、および、新たなサイバー犯罪対策センターの設置(2003年)は歓迎しながらも、委員会は、締約国における子ども(とくに脆弱な立場に置かれた集団)の性的搾取の規模が知られていないことを依然として懸念する。
53.条約第34条その他の関連条項に照らし、委員会は、締約国が、売買春および児童ポルノ(インターネット上のものを含む)も含む子どもの性的搾取および人身取引の規模を評価する目的で研究を実施するとともに、子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議で採択された宣言および行動綱領(1996年)ならびにグローバルコミットメント(2001年)にしたがって、防止ならびに被害を受けた子どもの回復および社会的再統合のための適切な政策およびプログラムを実施するよう、勧告する。
薬物濫用
54.青少年による薬物の使用を防止しかつこれと闘うために締約国が現在とっている政策には留意しながらも、委員会は、青少年の間で不法な薬物の使用および売買が増加していることを懸念する。
55.委員会は、締約国が、意識啓発および防止のための措置(学校における、薬物の危険性に関する意識啓発を含む)を続行するよう勧告する。委員会はさらに、締約国が、とくに子どもおよび青少年向けの防止、治療ならびに回復および社会的再統合のためのサービスに関する児童福祉サービス制度に対し、いっそうの資源を配分するよう勧告するものである。
少年司法の運営
56.委員会は、未成年者の刑事上の地位に関する連邦法案、未成年者に適用される刑事手続に関する連邦法案および連邦司法組織法の改正に関する議論が進められていることを歓迎するものの、刑事責任年齢が低すぎること(7歳)を依然として懸念するとともに、新たに提案されている刑事責任年齢(10歳)もなお低すぎると考える。加えて委員会は、一部のカントンで未決勾留中の法的援助に関する規定が存在しないこと、ならびに、未決勾留中および収監中に子どもが成人から分離されていないことを、懸念するものである。
57.委員会は、締約国が、条約、とくに第37条、第40条および第39条、ならびに、少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止のための国連指針(リャド・ガイドライン)、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則および刑事司法制度における子どもについての行動に関するウィーン指針を含む、少年司法分野における他の国連基準にしたがって少年司法の法制および制度を改革するため、追加的措置をとるよう勧告する。
58.この改革の一環として、委員会はとくに、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 刑事責任に関する最低年齢を10歳以上に引き上げるとともに、未成年者の刑事上の地位に関する連邦法案をこれにしたがって修正すること。
  • (b) 未決勾留中のすべての子どもに対する法的援助の提供を制度化すること。
  • (c) 未決勾留中または拘禁中、子どもを成人から分離すること。
  • (d) 少年司法制度に関与するすべての専門家を対象とした、関連の国際基準に関する体系的な研修プログラムを導入すること。
  • (e) 少年司法に関する一般的討議の際に委員会がまとめた討議内容(CRC/C/46、パラ203-238)を考慮すること。
マイノリティ集団に属する子ども
59.委員会は、締約国におけるロマおよびトラベラーズならびにその子どもに関する情報がないこと、および、これらの子どもに関する政策が定められていないことを懸念する。
60.委員会は、締約国が、マイノリティであるロマおよびトラベラーズに属する子どもの状況を評価するためにこれらの子どもに関する研究を実施するとともに、社会的排除および差別を防止し、かつこれらの子どもがその権利を全面的に享受できるようにする(教育および保健ケアへのアクセスを含む)ための政策およびプログラムを発展させるよう、勧告する。

8.条約の選択議定書

61.委員会は、締約国に対し、子どもの売買、児童買春および児童ポルノならびに武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の両選択議定書を批准しかつ実施するよう、奨励する。

9.文書の普及

62.最後に委員会は、条約第44条6項に照らし、締約国が提出した第1回報告書および文書回答を公衆一般が広く入手できるようにするとともに、関連の議事要録および委員会が採択した総括所見とともに報告書を刊行することを検討するよう、勧告する。加えて委員会は、締約国が、作成した締約国報告書の要約版も広く入手可能とするよう勧告するものである。このような文書は、政府および一般公衆(NGOを含む)の間で条約ならびにその実施および監視に関する議論および意識を喚起するため、広く配布することが求められる。


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