競争主義的教育等に関する国連・子どもの権利委員会の勧告


韓国

第1回(1996年)
16.委員会は、教育制度において、条約第29条に反映されている教育の目的が充分考慮されていないことを懸念する。教育制度が高度に競争主義的な性格を有していることは、子どもの能力および才能を最大限可能なまで発達させること、および、子どもが自由な社会において責任ある生活を送れるようにすることを阻害する危険がある。
29.委員会は、同国に対し、条約第29条に掲げられた教育の目的を全面的に反映させることを目的として、教育政策を再検討するよう奨励する。
第2回(2003年)
52.……最後に、委員会は、教育制度の高度に競争主義的な性質によって、子どもが最大限可能なまで発達することが阻害されるおそれがあるという懸念をあらためて繰り返す。
53.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 学校に提供される物質的資源を増加させ、かつ授業の質を向上させることにより、私立学校に比べて低い公立学校の質を高めること。
  • (b) 初等前教育および中等教育の費用負担を軽減しかつ撤廃するための、期限を定めた戦略を策定すること。
  • (c) 女子の就学を促進し、かつ根強く残るジェンダーの固定観念に対応することにより、すべての者が能力に基づいて高等教育にアクセスできることを確保するための効果的措置をとること。
  • (d) 競争を軽減し、かつ条約第29条第1項ならびに教育の目的に関する委員会の一般的意見1号に掲げられた教育の目的を反映させるため、教育政策を見直すこと。
第3回・第4回(2011年)
62.生徒のストレスを軽減するために締約国が行なっている努力、および、子どもが遊び、かつレクリエーション活動および文化的活動を行なえることを確保するためのプログラムの採用にも関わらず、委員会は、締約国の教育制度において、深刻なほど競争的な状況がいまなお蔓延していることを懸念する。委員会はまた、課外で行なわれる民間の追加的指導を子どもが広く受けている結果、子どもが深刻かつ不相応なストレスを受けており、かつその身体的および精神的健康に悪影響が生じていることも懸念するものである。さらに委員会は、このような民間の指導の金銭的負担のためにすでに存在する社会経済的非対称性が悪化していること、および、これによって余暇および文化的活動に対する子どもの権利の十分な充足が阻害されていることに、懸念とともに留意する。委員会はまた、とくに外国系の子どもに対するいじめの深刻さおよび頻度が増しており、かつ、そのようないじめの実行に携帯電話およびインターネットが利用されていることも懸念するものである。
63.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 第29条、および教育の目的に関する委員会の一般的意見1号(2001年)を正当に考慮しながら、現行教育制度および関連の試験についての評価を行なうこと。
  • (b) 民間の課外教育に対する幅広い依存の根本的原因およびその結果として生ずる高等教育へのアクセスの不平等に対応する目的で、公教育制度を強化するための努力を倍加すること。
  • (c) 条約第31条にしたがい、十分な余暇、文化的活動およびレクリエーション活動を享受する子どもの権利を確保すること。
  • (d) 学校へのアクセスの平等の達成に関わる具体的成果についての情報を体系的に収集し、かつ締約国の次回定期報告書に当該情報を記載すること。
  • (e) 外国系の子どもにとくに注意を払いながら、いじめと闘うためにとられる措置を強化するとともに、いじめを削減するための取り組みへの子どもの参加を確保すること。このような措置においては、教室または校庭の外で行なわれる新たな形態のいじめおよびいやがらせ(携帯電話によるものおよびバーチャルな会合場所におけるものを含む)への対応も行なわれるべきである。

香港

第1回(1996年、英領)
31.委員会は、学校におけるプレッシャーと思春期の子どもの健康問題との関連の可能性を、報告に関する議論の中でこれらの問題に関して表明された懸念を踏まえて調査するよう提案する。委員会はまた、若者の自殺の理由および子どもの自殺を防止するための事業の効果もさらなる研究に値するのではないかとも提案する。
32.委員会は、子どもの権利に関する条約についての教育も含めた人権教育を、すべての学校のコア・カリキュラム課目として導入するよう勧告する。委員会は、そのためには学校の時間割においてこの課目に充分な時間を割り当てる必要があることに、留意する。委員会はまた、子どもに生活の手段を備えさせ、かつ子どもの意思決定および人権の視点に立った分析的思考能力を奨励する上でこのような取組みがどの程度効果的だったかを判断するため、人権に関する意識啓発および人権教育についての評価を将来行なうようにも提案したい。委員会はまた、条約第12条の精神を踏まえ、懲戒措置およびカリキュラムの発展に関する議論への参加も含めて、学校における子どもの参加により高い優先順位を与えるよう勧告したい。条約第31条がより全面的に実施されるようにするための方法および手段についても、さらなる研究の価値があるように思える。
第2回(2005年、中国特別自治区)
76.香港SARについて、委員会は、中等学校における中退率、学校制度の競争的性質および学校におけるいじめについて懸念を覚える。……
78.委員会は、締約国が、香港SARにおいて以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 中等教育における中退率に対処するためのプログラムを発展させること。
  • (b) 生徒自身の参加も得ながら、学校における暴力に対処するための現行プログラムをさらに強化すること。
  • (c) 教育制度の競争性の低減に努め、かつ主体的学習能力ならびに遊びおよび余暇に対する子どもの権利を促進するような方法で、教育の質を高めること。
第3回・第4回(2013年、中国
77.中国領香港について、委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) 学校におけるいじめおよび学校制度の競争的な性質により、子どもの間で不安または抑うつが生じており、かつ遊びおよび休息に対する子どもの権利が侵害されていること。((b)(c)略)
78.委員会は、中国領香港が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 学校におけるいじめに生徒自身の参加も得ながら対処するための措置、および、教育制度の競争性を低減させ、かつ主体的な学習能力の促進ならびに遊びおよび余暇に対する子どもの権利の促進を図るための措置(教員の研修、学校におけるソーシャルワーカーおよび心理学者の増員ならびに親および保護者の感受性強化等の手段によるものを含む)をとること。((b)~(d)略)

シンガポール

第1回(2003年)
42.……委員会はまた、教育制度の高度に競争主義的な性質によって子どもが最大限可能なまで発達することが阻害されるおそれがあることも、懸念する。最後に、委員会は、学童保育所が提供するサービスの質の監視について懸念を覚えるものである。
43.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 義務教育法の適用を拡大し、締約国内のすべての子ども(定住者以外の者も含む)を対象に含めるとともに、すべての子どもの通学を確保するため同法の実施を監視すること。
  • (b) 締約国のすべての子どもが無償の初等教育にアクセスできることを確保し、かつ、低所得層の家族が就学前教育にアクセスできることを確保すること。
  • (c) 学校関連のストレスおよび学校制度の競争主義を軽減するための効果的措置をとるとともに、学校における文化的生活および芸術ならびに遊びおよびレクリエーション活動を促進すること等も通じ、子どもの人格、才能および能力が最大限可能なまで発達することを促進するための努力を強化すること。
  • (d) 学童保育所および始業前および放課後にケアを提供するその他の機関の質が包括的に監視されることを確保するための措置をとること。
  • (e) カリキュラムの一環として人権教育を含めること。
第2回・第3回(2011年)
58.委員会は、締約国の学校制度によって達成されている、学業面における高度な優秀性を認識しかつ称賛する。しかしながら委員会は、以下のことを懸念するものである。
  • (a) 前回の総括所見の勧告(パラ43)にも関わらず、締約国の管轄内にあるすべての子ども(とくに市民でない者)が義務教育法の対象とされ、かつ無償の初等学校にアクセスできているわけではないこと。
  • (b) 教育制度の高度に競争主義的な性質によって過度なストレスが生じ、かつ子どもが最大限可能なまで発達することが阻害される可能性があること。
  • (c) マイノリティ、とくにマレー系の生徒が教育指標面で立ち遅れていること。
  • (d) 学校カリキュラムに人権教育を含めるために十分な努力が行なわれてこなかったこと。
59.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 義務教育法の適用を拡大し、締約国の管轄内にあるすべての子ども(市民でない者も含む)を対象に含めるとともに、この目的のため、条約第28条に付した留保を見直すこと。
  • (b) すべての子どもが無償の初等教育にアクセスできることを確保するためにあらゆる必要な措置をとること。
  • (c) 学校関連のストレスおよび学校制度の高度な競争主義を軽減するために学校制度を見直すとともに、学校における文化的生活および芸術ならびに遊びおよびレクリエーション活動を促進すること等も通じ、子どもの人格、才能および能力が最大限可能なまで発達することを促進するための努力をさらに強化すること。
  • (d) たとえば、すでに存在する遅れを取り戻すための特別かつ一時的な積極的差別是正措置プログラムを通じ、学業面での発達についてマイノリティ(とくにマレー系)の生徒を支援するための努力を強化しかつ加速すること。
  • (e) 教育の目的に関する一般的意見1号(2001年)を考慮しながら、あらゆる教育段階の公式カリキュラムに人権教育を含めるための努力を強化し、かつ子どもの教育における人権の促進について教員の研修を行なうこと。

タイ

第2回(2006年)
64.委員会は、部分的には教授法の質が貧弱であることおよび資格のある教員が足りないことにより、教育の全般的質が低いことを懸念する。委員会は、とくに子どもがより高い学習段階に進むにつれて高まる、教育制度の高度に競争主義的な性質によって、子どもにさらなる負担が課されており、かつ子どもが可能な最大限度まで発達することが損なわれている可能性があることに、懸念とともに留意するものである。これとの関連で、委員会は、一部の子どもが放課後に塾に通っていることにより、休息、余暇、遊び、文化的活動およびレクリエーション活動の可能性が制限されており、かつ追加的費用が生じていることに、留意する。さらに、委員会は、多くの学校でスポーツおよびレクリエーションの機会が不十分であることに留意するものである。委員会はまた、人権および子どもの権利に関する教育学習活動が教員の裁量に委ねられており、すべての学校で義務的とされていないことも懸念する。
65.委員会は、締約国が、教育の目的に関する委員会の一般的意見1号(CRC/GC/2001/1)を考慮に入れながら、以下の目的のためにあらゆる措置をとるよう勧告する。
  • (a) 教員養成および資格のある教員(とくに女性ならびにマイノリティおよび先住民族集団の出身者)の採用拡大等も通じ、教育の質を向上させるための努力をさらに強化すること。
  • (b) 教育制度の競争性の緩和に努め、かつ主体的学習能力を促進するような方法で教育の質を増進させるとともに、学校における文化的生活、芸術、遊びおよびレクリエーション活動の促進等も通じ、子どもの人格、才能および能力を可能な最大限度まで発達させることを促進するための努力を強化すること。
  • (c) カリキュラムの一部としてスポーツおよびレクリエーション活動を提供すること。
  • (d) 子どもの権利に関する教育も含む人権教育の授業が、あらゆる教育段階の、公立および私立双方の学校で義務的とされることを確保すること。

ウクライナ

第3回・第4回(2011年)
68.第9学年段階で人権教育が義務的とされていることには積極的対応として留意しながらも、委員会は、人権の尊重および促進ならびに異文化間の理解および寛容が締約国における教育の基本的原則としてとくに挙げられていないことを懸念する。委員会はさらに、学習上の困難、学校倦怠感、同じ学校の生徒との関係における心理的不安感および教員から拒絶されているという感覚を有する子どもが多数にのぼることにかんがみ、現行の教育制度が子どもの学習スキル、自尊感情および自信を十分に発達させていないことを懸念するものである。
69.委員会は、締約国に対し、人権教育のための世界プログラムで勧告されているように人権教育に関する国家的行動計画を策定するよう、促す。これとの関連で、委員会は、教育の目的に関する委員会の一般的意見1号(2001年)に対して締約国の注意を喚起するとともに、締約国がユネスコ、ユニセフおよびOHCHRの援助を求めるよう勧告する。

シリア

第2回(2003年)
46.委員会は、基礎教育の質向上を目的とした「グローバル教育イニシアティブ」が採択されたこと、および、カリキュラム改革に向けて若干の努力が行なわれてきたことに留意する。にもかかわらず、委員会は、報告書で提示された教育の目的には条約第29条に掲げられた目的が十分に反映されていないこと、および、とくに以下のことを依然として懸念するものである。
  • (a) 公教育制度が、分析的スキルの発達よりも暗記学習を引き続き重視しており、かつ子ども中心のものとはなっていないこと。
  • (b) 人権、寛容ならびに両性間ならびに宗教的および民族的マイノリティ間の平等を発展させることおよびこれらを尊重することが明示的にカリキュラムの一部とされていないこと。
47.委員会は、締約国が、教育の目的に関する委員会の一般的意見1号を考慮しながら、以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 批判的思考および問題解決スキルの発達の重要性を強調する、カリキュラムおよび教授法の改革プロセスを――子どもの全面的参加を得ながら――進めること。
  • (b) 教育において、子どもの人格、才能ならびに精神的および身体的能力を最大限可能なまで発達させることが指向されるようにすること。
  • (c) とくに人権、寛容ならびに両性間ならびに宗教的および民族的マイノリティ間の平等を発展させることおよびこれらを尊重することとの関連で、学校カリキュラムに人権教育(子どもの権利を含む)を含めること。これとの関連で宗教的指導者の動員が図られなければならない。
  • (d) とくにユニセフおよびユネスコの援助を求めること。

  • 更新履歴:ページ作成(2012年12月4日)。/香港の第3回・第4回を追加(2014年9月10日)。
最終更新:2014年09月10日 22:31