総括所見:スペイン(OPSC・2007年)


CRC/C/OPSC/ESP/CO/1(2007年10月17日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2007年10月1日に開かれた第1277回会合(CRC/C/SR.1277参照)においてスペインの第1回報告書(CRC/C/OPSC/ESP/1)を検討し、2007年10月5日に開かれた第1284回会合において以下の総括所見を採択した。

2.委員会は、締約国の第1回報告書の提出を歓迎するものの、提出の遅れについては遺憾に思う。委員会は、ハイレベルなかつ多部門型の代表団との間に持たれた建設的対話を評価するものである。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、締約国の第2回定期報告書に関して2002年6月4日に採択された以前の総括所見(CRC/C/15/Add.185)および武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書に基づく第1回報告書に関して2007年10月5日に採択された総括所見(CRC/C/OPAC/ESP/CO/1)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

I.一般的指針

A.積極的側面

4.委員会は、以下のことに評価の意とともに留意する。
  • (a) 国際人権条約が国内法の一部となり、かつ国内裁判所によって執行可能であること。
  • (b) 児童ポルノの禁止に関する禁止を含む刑法改正が2004年に行なわれたこと。
  • (c) 子どもの商業的性的搾取に反対する国家行動計画(2001~2005年)が採択され、かつ、第2次国家行動計画(2006~2009年)の採択によって第1次計画を延長する決定が行なわれたこと。
5.委員会はさらに、締約国が、選択議定書に関連する国際文書(以下のものを含む)に加入し、またはこれを批准したことを称賛する。
  • (d)〔ママ〕 最悪の形態の児童労働に関するILO条約(1999年、第182号)(2001年4月2日)。
  • (e)〔ママ〕 国際的な組織犯罪の防止に関する国連条約を補足する、人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書(2002年3月1日)。
  • (f)〔ママ〕 武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書(2002年3月8日)。

B.子どもの権利条約の一般原則(第2条、第3条、第6条および第12条)

6.委員会は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書に基づいて締約国がとった措置の立案および実施において、子どもの権利条約の一般原則が十分に考慮されていないことを懸念する。委員会は、保護者のいない外国籍の子どもであって人身取引の被害を受けた者に対する差別の禁止が正当に考慮されていないことを、とりわけ懸念するものである。
7.委員会は、子どもの権利条約の一般原則、とくに差別の禁止に対する子どもの権利が、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書の規定を実施するために締約国がとるすべての措置(司法上または行政上の手続を含む)に包摂されるべきことを勧告する。

II.データ

8.委員会は、締約国が、選択議定書で対象とされた人権侵害を記録するための中央データベースを設置しようとしていることに留意する。しかしながら委員会は、子どもの売買および取引、児童買春ならびに児童ポルノの蔓延状況に関する、年齢、性別、マイノリティ集団および出身の別に細分化されたデータが現時点で存在しないことを懸念するものである。
9.委員会は、締約国が、人権侵害を登録するための中央データベースを設置するとともに、選択議定書が対象とする分野に関連する、年齢、性別、マイノリティ集団および出身の別に細分化されたデータが体系的に収集されかつ分析されることを確保するよう、勧告する。このようなデータは政策の実施状況を数値によって評価するために必要不可欠な手段だからである。

III.実施に関する一般的措置

選択議定書の実施の調整および評価
10.委員会は、国および自治州の当局ならびにNGOの双方から構成される、政策調整のための部門横断型「子どもの権利監視機関」が設置されたことを歓迎する。しかしながら委員会は、中央行政機関と自治州との間の協力が依然として不十分であることに留意するものである。
11.委員会は、締約国に対し、「子どもの権利監視機関」の活動を継続しかつ強化するとともに、すべての自治州が選択議定書を全面的に遵守することを確保するため、中央行政機関と自治州との協力を向上させるよう、奨励する。
国家的行動計画
12.委員会は、〔子どもの〕商業的性的搾取に反対する第1次国家行動計画が策定されかつその評価が実施されたこと、および、第2次国家行動計画(2006~2009年)が採択されたことを歓迎する。しかしながら委員会は、当該計画が選択議定書のすべての分野を網羅しておらず、実施のための十分な資源を欠いており、かつ、自治州の地方当局ならびに子どもとともにおよび子どものために働く専門家のような関係者の間で十分に普及されていないことを、懸念するものである。
13.委員会は、締約国が、選択議定書のすべての分野に対応し、十分な資源を確保し、かつ、計画の活動およびその評価に市民社会および子どもたちが高度に参加することを確保することにより、子どもの商業的性的搾取に反対する第2次国家行動計画の実施を強化するよう、勧告する。委員会はさらに、締約国が、関係者、とくに自治州の地方当局ならびに子どもとともにおよび子どものために働く専門家の間で計画を普及するための努力を改善しかつ拡大するよう、勧告するものである。
普及および研修
14.委員会は、締約国が、選択議定書の規定に関わる研修活動および意識啓発活動をNGOと連携しながら行なってきたことに評価の意とともに留意するものの、子どもの商業的性的搾取の発生件数の増加により、防止を目的としたさらなる意識啓発および専門家の十分な研修の必要性が明らかとなっていることを懸念する。
15.委員会は、締約国が、選択議定書が対象とする虐待の被害を受けた子どもとともに働くすべての専門家集団を対象として、選択議定書の規定に関する、体系的なかつジェンダーに配慮した教育および研修を継続しかつ強化するよう、勧告する。
16.委員会はさらに、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) とくに学校カリキュラムおよび長期的な意識啓発キャンペーンを通じて、選択議定書の規定を、とりわけ子ども、その親およびコミュニティに対して広く周知すること。
  • (b) 選択議定書第9条2項にしたがい、あらゆる適当な手段による広報、教育および研修を通じて、防止措置および選択議定書に掲げられた犯罪の有害な影響に関する公衆一般(子どもを含む)の意識を促進すること。そのための手段には、このような広報、教育および研修のためのプログラムへの、コミュニティならびにとくに子どもおよび被害を受けた子どもの参加を奨励することも含まれる。
  • (c) NGO、市民社会組織およびメディアとの協力を継続し、選択議定書に関わる問題に関してこれらの組織が行なっている意識啓発活動および研修活動を支援すること。
資源配分
17.委員会は、子どもの商業的性的搾取に反対する国家行動計画の実施、ならびに、被害者のための法的援助ならびに身体的および心理的回復の措置に対して配分されている資源が不十分であることを、懸念する。
18.委員会は、締約国に対し、選択議定書の規定に関するプログラムの実施、とくに子どもの商業的性的搾取に反対する国家行動計画のための人的資源および財源を使途指定の形で提供する等の手段により、調整、防止、促進、保護、ケア、選択議定書で対象とされている行為の捜査および抑止に対して十分な予算配分を行なうための努力を強化するよう、奨励する。さらに委員会は、締約国が、法的援助ならびに被害者の身体的および心理的回復のための十分な資源を、関連の公的機関に対してならびにNGOおよび市民社会組織を通じて配分するよう、勧告するものである。

IV.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止(第9条1項および2項)

選択議定書に掲げられた犯罪を防止するためにとられた措置
19.委員会は、インタネット上の児童ポルノを通報するための措置の導入のような防止活動のための取り組みを歓迎するものの、買春およびポルノを含む子どもの性的搾取の根本的原因、性質および規模に関する資料および調査研究が不足していることを遺憾に思う。
20.委員会は、締約国が、ユニセフ、ILO/IPEC〔国際労働機関/児童労働撤廃国際計画〕、NGOおよび市民社会組織と連携して実行される防止措置のために、使途が指定された予算資源を配分するよう勧告する。さらに委員会は、締約国に対し、根本的原因、問題の規模および防止措置を明らかにする目的で、子どもの商業的性的搾取の性質および規模に関する追加的な資料の集積およびいっそうジェンダーに配慮した調査研究を行なうよう、奨励するものである。
21.委員会は、旅行および観光における性的搾取からの子どもの保護に関して世界観光機関が作成した行動規範を公的に承認したことを含め、セックスツーリズムを防止するために締約国が行なっている相当の取り組みを歓迎する。しかしながら委員会は、観光業界および一般公衆の間でこの問題に関する意識をいっそう高める必要があることに留意するものである。
22.委員会は、締約国が、とくに政府観光局に対してこの目的のための追加的資金を使途指定の形で提供することにより、セックスツーリズムを防止するためのさらなる措置をとるよう、勧告する。締約国はまた、観光業界の従業員の間で前掲行動規範を普及することおよび観光客をとくに対象とした意識啓発キャンペーンを行なうことにより責任ある観光を促進する目的で、関連の公的機関を通じ、観光業界、NGOおよび市民社会組織との協力も強化するべきである。
23.委員会は、性的同意年齢が相対的に低い(13歳)ことにより、子どもが性的搾取をいっそう受けやすくなるおそれがあることを懸念する。
24.委員会は、締約国が、選択議定書で対象とされている犯罪からの保護を強化するために性的同意年齢の引き上げを検討するよう、勧告する。

V.子どもの売買、児童買春および児童ポルノならびに関連する事項の禁止(第3条、第4条2項および3項、第5条、第6条ならびに第7条)

現行刑事法令
25.委員会は、児童ポルノの禁止(そのような資料の所持を含む)に関する禁止を含んだ刑法改正が2004年に行なわれたことを歓迎する。委員会は、議定書第3条の一部の規定が、とくに子どもの取引および売買ならびに児童ポルノの定義との関連で、まだ刑法に包括的に編入されていないことを遺憾に思うものである。委員会は、代表団から提供された、包括的な法改正のための法案が議会による承認待ちである旨の情報に留意する。
26.委員会は、締約国が、法改正のための法案を速やかに成立させるとともに、刑法を、選択議定書第2条および第3条(報酬および不適切な形で引き出された同意に関する規定(第2条(a)および第3条1項(a)(ii))を含む)に全面的に一致させるよう、勧告する。さらに委員会は、締約国が、国際的な組織犯罪の防止に関する国連条約を補足する、人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書にしたがい、人身取引を十分な形で定義しかつ犯罪化するために必要な措置をとるよう、勧告するものである。最後に委員会は、締約国が、欧州評議会・人身取引と闘う行動に関する条約(2005年)およびサイバー犯罪に関する条約(2001年)への加入を検討するよう、勧告する。
訴追
27.委員会は、締約国における児童ポルノ犯罪の事件を捜査し、かつ当該犯罪を行なった者を訴追するために行なわれている努力には留意するものの、児童買春および子どもの売買の捜査に充てられる資源が不十分であることを懸念する。
28.委員会は、スペインにおける児童ポルノの発生件数の多さにかんがみ、締約国が、このような犯罪の捜査および訴追のための努力をさらに進めるとともに、児童買春および子どもの売買の犯罪の摘発および捜査に対していっそうの資源を配分するよう、勧告する。
裁判権
29.委員会は、選択議定書で対象とされている犯罪は域外裁判権および普遍的正義の原則に服し、かつ、とくに、加害者がスペイン人もしくはスペイン在留者であるかまたは当該行為が行為地国で犯罪とされているかは訴追の条件とされない旨、締約国がはっきり宣言したことを歓迎する。しかしながら委員会は、締約国が裁判権を設定した事件についての情報がないことを遺憾に思うものである。
30.委員会は、締約国が、選択議定書第4条にしたがって犯罪についての裁判権を効果的に設定するため、あらゆる必要な実務上の措置をとるよう勧告する。
犯罪人引渡し
31.委員会は、犯罪人引渡しについて、行為が双方の国で犯罪とされていることが要件となっていることを遺憾に思う。
32.委員会は、締約国が、犯罪人引渡しおよび(または)国外で行なわれた犯罪の訴追について国内法で双方可罰性が要件とされないことを確保するよう、勧告する。

VI.被害を受けた子どもの権利の保護(第8条ならびに第9条3項および4項)

選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を保護するためにとられた措置
33.委員会は、選択議定書上の犯罪が摘発されず、かつ被害者が特定されないままになっていることを懸念する。委員会はさらに、被害を受けた子どもの社会的再統合ならびに身体的および心理社会的回復のための分野横断的措置が不十分であることを、遺憾に思うものである。
34.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書第8条にしたがい、選択議定書上のいずれかの犯罪の被害を受けた子どもおよび当該犯罪の証人が、刑事司法手続のすべての段階で保護されることを確保するためにあらゆる必要な措置をとること。
  • (b) 被害を受けた子どもの法的代理を向上させるため、権限のある公的機関に対して十分な財源および人的資源を配分すること。
  • (c) 子どもがアクセスしやすい無償の電話ヘルプラインに対して支援を提供すること。
  • (d) 選択議定書第9条4項にしたがい、選択議定書に掲げられた犯罪の被害を受けたすべての子どもが、法的に責任のある者に対して差別なく被害賠償を求める十分な手続にアクセスできることを保障すること。
  • (e) とくに被害者である子どもに対して分野横断的援助を提供することにより、選択議定書第9条3項にしたがって社会的再統合ならびに身体的および心理社会的回復のための措置を強化する目的で、使途指定をともなう資源の配分が行なわれることを確保すること。
  • (f) 性的搾取の被害を受けた若年者について、疑いがあるときは成人ではなく子どもと推定すること。
  • (g) 子どもの最善の利益が、第一次的に考慮され、かつ子どもを送還する決定が行なわれる場合にも考慮されることを確保すること。
35.委員会は、司法手続において子どもの証人の権利を保護するために締約国が行なっている努力を歓迎する。
36.委員会は、締約国に対し、子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての指針(経済社会理事会決議2005/20)を指針とするとともに、とくに以下の措置をとるよう促す。
  • (g)〔ママ〕 被害者である子どもの個人的利益に影響がある手続において、当該子どもの意見、ニーズおよび関心事が提示されかつ考慮されることを可能にすること。
  • (h)〔ママ〕 裁判手続中の困難から子どもを保護するため、とくに、子ども向けに設計された特別事情聴取室および子どもに配慮した事情聴取法を用いることならびに事情聴取、陳述および聴聞の回数を減らすことによって、子どもに配慮した手続を適用すること。
37.最後に委員会は、締約国に対し、2002年の総括所見で委員会が行なった勧告(CRC/C/15/Add.185、パラ46)、出身国外にあって保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもの取扱いに関する委員会の一般的意見6号(2005年)、とくにパラ50~53、および、女性差別撤廃委員会が2004年に行なった勧告(A/59/38、パラ337)を考慮するよう、促す。

VII.国際的な援助および協力

国際的援助
38.委員会は、選択議定書の実施に関わって多くの国で行なわれている国際協力プロジェクトへの締約国の支援を歓迎するとともに、締約国に対し、この点に関する努力をさらに進めるよう、促す。
法執行
39.委員会は、選択議定書第3条1項に定められた犯罪に関する刑事手続のあらゆる段階で、すなわち摘発、捜査、訴追、処罰および犯罪人引渡しの手続において締約国が行なっている援助および協力について、不十分な情報しか提供されていないことに留意する。
40.委員会は、締約国に対し、この点に関するいっそう詳しい情報を次回の報告書で提供するよう、奨励する。

VIII.フォローアップおよび普及

フォローアップ
41.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を関連の政府省庁、議会ならびに自治州の県当局および地方当局に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
普及
42.委員会は、条約〔ママ〕、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した報告書および文書回答ならびに採択された関連の勧告(総括所見)を、インターネット等を通じ(ただしこれに限るものではない)、公衆一般、市民社会組織、メディア、若者グループおよび専門家グループが広く入手できるようにすることを勧告する。さらに委員会は、締約国が、とくに学校カリキュラムおよび人権教育を通じて、選択議定書を子どもおよびその親に対して広く周知するよう勧告するものである。

IX.次回報告書

43.第12条2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約条約第44条にしたがって提出される、条約に基づく次回の定期報告書に記載するよう要請する。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年11月26日)。
最終更新:2012年11月26日 16:22