総括所見:イタリア(第3~4回・2011年)


CRC/C/ITA/CO/3-4(2011年10月31日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2011年9月20日に開かれた第1642回および第1643回会合(CRC/C/SR.1642 and 1643参照)においてイタリアの第3回・第4回統合定期報告書(CRC/C/ITA/3-4)を検討し、2011年10月7日に開かれた第1668回会合において以下の総括所見を採択した。

I.序

2.委員会は、締約国における子どもの状況についての理解を向上させてくれた、締約国の定期報告書(CRC/C/ITA/3-4)および事前質問事項に対する文書回答(CRC/C/ITA/Q/3-4/Add.1)の提出を歓迎する。委員会は、締約国のハイレベルなかつ部門横断型の代表団との間に持たれた、建設的なかつ開かれた対話について評価の意を表明するものである。

II.締約国によりとられたフォローアップ措置および達成された進展

3.委員会は、以下の立法措置がとられたことを前向きな対応として歓迎する。
  • (a) 収監されている母とその未成年の子との関係の保護に関する法律第62/2011号(2011年4月)。
  • (b) 子どもおよび青少年のための国家オンブズパーソンの設置に関する法律第112/2011号(2011年7月)。
  • (c) 子どもの性的搾取および児童ポルノ(インターネットを通じてのものを含む)との闘いに関する法律第38/2006号。
  • (d) 親の別居および子どもの分担監護に関する規定についての法律第54/2006号(2006年2月)。
  • (e) 義務教育期間を10年以上とし、かつ最低労働年齢を15歳から16歳に引き上げた法律第296/2006号(2006年12月)。
  • (f) 女性性器切除の慣行の防止および禁止に関わる規定についての法律第7/2006号(2006年1月)。
4.委員会はまた、以下の文書の批准またはこれへの加入も歓迎する。
  • (a) 人身取引と闘う行動に関する欧州評議会条約(2010年)。
  • (b) 障害のある人の権利に関する条約およびその選択議定書(2009年)。
  • (c) 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(2000年)を補足する、人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書(2006年)。
  • (d) 性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する欧州評議会条約(2007年)。
5.委員会はまた、以下の制度上および政策上の措置も歓迎する。
  • (a) 国家子ども・青少年監視機関の権限の更新(直近の更新は2010年)。
  • (b) 発達年齢にある者の権利および発達を保護するための国家行動介入計画(2010~2011年)。
  • (c) 乳幼児期の社会-教育サービスに関する全国的制度の発展のための特別介入計画(2007~2009年)。
  • (d) 人権保護についての政策および戦略指針に関する閣僚委員会の設置(2007年4月13日付首相令)。
  • (e) 政府による人身取引対策活動調整委員会(2007年)、人身取引、暴力および深刻な搾取の被害者支援に関する省庁間委員会(2007年)および人身取引監視機関(2007年)の設置。
  • (f) 貧困および社会的排除に対抗する国家行動計画(2006~2008年)。

III.主要な懸念領域および勧告

A.実施に関する一般的措置(条約第4条、第42条および第44条6項)

委員会の前回の勧告
6.委員会は、締約国の前回の報告書に関する委員会の総括所見(CRC/C/15/Add.198、2003年)ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書(CRC/C/OPSC/ITA/CO/1、2006年)および武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書(CRC/C/OPAC/ITA/CO/1 and Corr.1、2006年)に基づく第1回報告書についての総括所見を実施するために締約国が行なった努力を歓迎する。しかしながら委員会は、委員会の懸念および勧告の多くについて対応がとられておらず、または不十分な対応しかとられていないことを、遺憾に思うものである。
7.委員会は、締約国に対し、未実施の勧告または十分に実施されていない勧告(調整、資源配分、条約に関する組織的研修、差別の禁止、子どもの最善の利益、アイデンティティに対する権利、養子縁組、少年司法ならびに子どもの難民および庇護希望者に関するものを含む)に対応し、かつこの総括所見に掲げられた勧告について十分なフォローアップを行なうために必要なあらゆる措置をとるよう、促す。
調整
8.委員会は、統治の中央レベルから州その他の下位レベルへの権限移譲により、地方レベルにおける条約の不公平な実施が助長されていることを懸念する。この文脈において、国家子ども・青少年監視機関を含む種々の調整機構が存在し、かつ、これらの機構が、子どもの権利の実施に関連する多くの主体の政策およびプログラムを効果的に調整する適切な権限を有していない可能性があることは、委員会の懸念するところである。委員会はさらに、国・州会議に、子どもの権利に関連する政策の計画および実施を調整する作業部会が設置されていないことを懸念する。
9.条約の実施の調整を確保すること、ならびに、州政府に対し、この点に関するリーダーシップを示しおよび必要な支援を提供することの責任は中央政府にあることを想起し、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 関連するすべての省庁および諸機関間ならびにすべての段階で子どもの権利に関する政策およびプログラムの実施を調整するため、国家子ども・青少年監視機関の役割を見直し、かつ明確化すること。その際、締約国は、同国家監視機関が強化され、かつ、国、州および自治体のレベルで包括的な、一貫したかつ相互に齟齬のない子どもの権利政策を実施するために必要な人的資源、技術的資源および財源を提供されることを確保するよう、促される。
  • (b) 国および州のレベル間の調整を強化することにより、あらゆる州で条約の一貫した適用を確保するための効果的機構を発展させるとともに、「社会サービスの提供に関する必須水準」(Livelli Essenziali delle Prestazioni Sociali、LIVEAS)のような全国的基準を採択すること。
国家的行動計画
10.発達年齢にある者の権利および発達を保護するための国家行動介入計画(2010~2011年)が採択されたことには留意しながらも、委員会は、同計画がまだ実施されていないこと、予算がまったく配分されていないこと、および、州レベルで同行動計画のための資金を配分するプロセスによりその実施がさらに遅れる可能性があることを、懸念する。さらに委員会は、同行動計画が監視および評価のための具体的システムを欠いていることを懸念するものである。
11.委員会は、締約国が、国レベルで同行動計画を実施するための資金を遅滞なく配分するとともに、州に対し、州レベルでの活動のために必要な資金を配分するよう、可能なかぎり最大限に奨励するよう、勧告する。委員会はまた、締約国が同行動計画を改訂し、監視および評価のための具体的システムを含めることも勧告するものである。委員会はさらに、締約国が、現在の(および今後の)行動計画にこの総括所見のフォローアップが統合されることを確保するよう、勧告する。
独立の監視
12.委員会は、子どもおよび青少年のための国家オンブズパーソンが法律によって設置されたこと(2011年7月)に満足して留意する。いくつかの州で子どもオンブズパーソンが設置されたことは歓迎しながらも、委員会は、これらの制度が権限、構成、体制、資源および任命の面で相当に異なっており、かつ、個別の苦情を受理しかつ検討する権限をすべての州オンブズパーソンが有しているわけではないことを、懸念するものである。委員会は、独立の国内人権機関の設置に相当の時間がかかっていることを遺憾に思う。
13.委員会は、締約国が、子どもおよび青少年のための国家オンブズパーソンの新たな事務所が速やかに設置され、かつ、同事務所に対し、子どもの権利の促進および保護における独立した国内人権機関の役割に関する委員会の一般的意見2号(2002年)にしたがってその独立性および有効性を保障するための十分な人的資源、技術的資源および財源が提供されることを確保するよう、勧告する。委員会はさらに、締約国が、すべての州で子どもの権利が統一的かつ有効に保護されかつ促進されることを確保する(子どもおよび青少年のための国家オンブズパーソンによる、既存の州子どもオンブズパーソンに対する援助およびこれらのオンブズパーソンの調整を含む)よう、勧告するものである。委員会は、締約国に対し、子どもの権利を含む人権の包括的かつ体系的な監視を確保する目的で、人権の促進および保護のための国内機関の地位に関する原則(パリ原則)に全面的にしたがった独立の国内人権機構を設置しかつ運用するプロセスを迅速に進めるよう、促す。
資源配分
14.委員会は、締約国および諸州全体のあらゆる部門別予算を子どもに特化した形で分析することに関する従前の勧告(CRC/C/15/add.198、パラ9)の実施について、締約国報告書に情報が記載されていないことを遺憾に思う。委員会は、教育予算が最近削減されたこと、社会サービスおよび教育サービスの発展のための特別計画(2010年)に対して資金が提供されていないこと、ならびに、家族政策、国家社会政策基金および国家子ども・青少年基金のための資金が削減されたことを、特に懸念するものである。委員会はまた、乳幼児期、教育および保健の分野におけるものも含め、子どものための配分および子どもに関する支出に州間格差があることにも懸念を表明する。委員会はさらに、汚職に関する締約国の国際的順位が最近になって下降したこと、および、これが子どもの権利に与える可能性がある影響について懸念するものである。イタリアが直面している現在の財政状況に照らし、委員会は、子どものためのサービスの保護および維持が行なわれなくなる可能性があることを懸念する。
15.委員会は、国および州のレベルにおける子どものための資源配分について包括的分析を行なうように求めた前回の勧告(CRC/C/15/add.198、パラ9)をあらためて繰り返す。このような分析の知見に基づき、締約国は、乳幼児期、社会サービス、教育、および、移住者その他の外国人コミュニティの子どものための統合プログラムに焦点を当てながら、20州全体を通じて子どものための公平な予算配分が行なわれることを確保するべきである。委員会は、締約国が、汚職の問題に効果的に対応するとともに、現在の財政状況のもとで行なわれる支出削減から子どものためのすべてのサービスが保護されることを確保するよう、勧告する。
データ収集
16.委員会は、子どもおよびその家族のケアおよび保護に関する全国的情報システムが創設され、2012年に完成する予定であることに留意する。にもかかわらず、委員会は、子どもの権利の享受に関する利用可能なデータ、とくに暴力の被害を受けた子ども、家庭環境を奪われた子ども(里親養護を受けている子どもを含む)、経済的搾取の被害を受けた子ども、障害のある子ども、養子縁組された子どもならびに子どもの難民および庇護希望者に関する統計が限られていることを、依然として懸念するものである。委員会は、州のデータ収集機構の能力および有効性に関して相当の格差があることに懸念を表明する。
17.委員会は、締約国に対し、子どもおよびその家族のケアおよび保護に関する全国的情報システムが全面的に稼働すること、ならびに、当該システムに対し、子どもの権利を促進しかつ保護する締約国の能力を強化する目的で国全域の関連情報を効果的に収集するために必要な人的資源、技術的資源および財源が与えられることを確保するよう、促す。とくに委員会は、締約国が、州間の格差を効果的に測定しかつこれに対応する目的で、すべての州を通じて全面的に一貫したアプローチを確保するよう勧告するものである。
研修
18.法執行官および憲兵隊を対象として若干の研修が行なわれているという情報にもかかわらず、委員会は、締約国が、子どものためにまたは子どもとともに働くすべての専門家(法執行官、憲兵隊、検察官、裁判官、弁護士、子どもの法廷後見人(curatori)、公務員、ソーシャルワーカーおよび保健専門家、地方政府職員、教員ならびに保健従事者を含む)を対象とした、子どもの権利および条約に関する体系的研修についての従前の勧告(CRC/C/15/Add.198、パラ19(d)〔(b)〕および31〔32(c)〕)をまだ実施していないことを遺憾に思う。
19.委員会は、子どもとともにおよび子どものために働くすべての専門家(とくに法執行官、憲兵隊、裁判官および刑務所吏員)を対象とした、子どもの権利に関する体系的、義務的かつ継続的研修を確保するべきである旨の勧告を、あらためて繰り返す。
子どもの権利と企業セクター
20.委員会は、憲法が、憲法に掲げられた原則を尊重する企業の一般的義務を定めていることを歓迎するとともに、自主的な企業の取り組みに基づき、企業の社会的責任が促進され、規制されかつ実施されていることに留意する。委員会はまた、企業の社会的責任についてのさらなる法律(一定の基準を満たした会社を対象とする免税措置も含む)が元老院および代議院で議論されている(それぞれ法律第386号および法律第59号)ことにも留意するものである。にもかかわらず、委員会は、このような法律において子どもの権利が十分に考慮されていないことを懸念する。加えて委員会は、欧州諸国(イタリアを含む)が輸入している綿の収穫において子どもの強制労働が利用されており、これらの国々はこれによって輸出国における児童労働の搾取を促進している可能性があるという訴えがあることを懸念するものである。委員会は、この問題について国際労働機関(ILO)による調査が行なわれており、かつ、欧州議会が、とくに欧州理事会および欧州委員会に対し、綿産業部門における一般特恵関税制度の一時停止(ILOによる調査報告が可能になるまで)をともなう調査委員会の設置を求める決議案について討議していることに、留意する。
21.国および国以外の主体による子どもの権利の保護および尊重を確保する第一次的責任は国にあることから、委員会は、人権に関する企業の責任についての基準を定める目的で元老院および代議院が検討している法律に、子どもの権利に関わる問題を、子どもの権利条約にとくに言及しながら具体的に含めるよう勧告する。さらに、これらの法律において、子どもの権利および人権の侵害が行なわれた場合(イタリアに本社を置く会社およびその国外提携事業者の活動に関する事案も含む)を司法機関に付託することのできる監督機関について定めておくことが重要である。加えて委員会は、締約国が、欧州の諸貿易協定において子どもの権利が尊重されることを確保するためにその影響力を活用しながら、児童労働に由来する綿(欧州またはその他の場所で生産されたもの)が欧州市場に持ちこまれないことを確保する、欧州連合における自国の責任を果たすよう勧告する。加えて、締約国は、イタリアに本社を置く企業が国外のサプライチェーンまたは提携事業者を通じて児童労働の使用を助長しないことを確保するための効果的監視について、現在提案されている法律に基づく明確な枠組みを定めることもできるはずである。
国際協力
22.委員会は、締約国が、2006年に国民総所得(GNI)の約0.20%を国際援助に振り向け、かつ対国民総生産(GNP)比0.7%という国際合意目標を2015年までに達成するという決意を表明していることに留意する。しかしながら委員会は、国連児童基金(ユニセフ)への拠出金を含む政府開発援助の水準が、2006年に最高に達したのち一貫して下降しており、2010年には国際合意目標額の半分に達しなかったことに、懸念とともに留意するものである。
23.多くの国が直面している財政的制約に留意しつつ、委員会は、締約国に対し、対GNP比0.7%という国際合意目標を2015年までに達成する目的で、政府開発援助の減額を是正し、かつ成長路線を回復するために力を尽くすよう、奨励する。委員会はさらに、締約国に対し、開発途上国と締結する国際協力協定において子どもの権利の実現が最優先課題となることを確保するとともに、子どもの権利について扱っている国際機関(とくにユニセフ)への支援を強化するために力を尽くすよう、奨励するものである。委員会は、その際、締約国が、当該援助供与国に関する子どもの権利委員会の総括所見を考慮するよう提案する。

B.一般原則(条約第2条、第3条、第6条および第12条)

差別の禁止
24.委員会は、脆弱な状況に置かれた締約国の子どもを差別する政策、法律および慣行について深刻な懸念を覚える。とくに委員会は以下のことを懸念するものである。
  • (a) とくに健康、教育、十分な生活水準および社会保障に対する権利の充足との関連における、ロマ、シンティおよびカミナンティの子ども(以下「ロマの子ども」)に対する差別。
  • (b) 委員会の前回の勧告(CRC/C/15/Add.198、パラ21(b))に違反して、人種的または民族的優越を唱道する宣伝についての刑を短縮した刑法改正。
  • (c) 嫡出子(準正によるか出生時からかは問わない)と婚外子との間に依然として残っている取扱いの格差。これとの関連で、委員会は、締約国が欧州評議会・婚外子の法的地位に関する欧州条約を批准していないことを遺憾に思う。委員会は、この点に関して提案されている法律について対話の際に提供された情報に留意し、かつこれを歓迎するものである。
25.条約第2条に照らし、委員会は、締約国に対し、締約国のすべての子どもがいかなる理由による差別も受けることなく条約上の平等な権利を享受できることを確保するとともに、この目的のために以下の措置をとるよう、促す。
  • (a) 人種差別撤廃委員会の勧告(CERD/C/ITA/CO/15、パラ20)にしたがい、ロマ系の子どもに対するいかなる形態の差別(とくに教育制度および必須サービスの提供における差別)も効果的に解消されることを確保するため、あらゆる必要な措置を速やかにとること。
  • (b) ダーバン宣言および行動計画のあらゆる関連規定を全面的に考慮にいれ、かつ子どもの権利条約第2条をとくに重視しながら、人種主義、人種差別、外国人排斥および不寛容の防止に関する包括的な国家的行動計画を有効な形で採択すること。
  • (c) とくに子どもに対する人種主義的および排外主義的行為に関するデータの体系的収集の面で、国家人種差別対策局の権限を強化すること。
  • (d) 刑法第61条に、加重事由として憎悪に基づく動機を編入すること。
  • (e) 婚内子と婚外子との間に残っているいかなる差別も解消するため、適切な立法上の措置をとること。
  • (f) 婚外子の法的地位に関する欧州条約の批准を速やかに進めること。
子どもの意見の尊重
26.委員会は、憲法裁判所が、条約第12条は国内法体系において直接適用可能である旨を宣言したこと、および、子どもが手続当事者とみなされる可能性があることを歓迎する。委員会はさらに、親の別居、離婚および監護関係の事件における子どもの意見聴取について定めた法律第54/2006号、養子縁組手続および親の権利の判断における子ども担当弁護士の任命義務について定めた法的規定、ならびに、保護者のいない子どもに意見を聴かれる権利があることを認めた立法令第25号(2008年1月28日付)に、肯定的に留意するものである。しかしながら委員会は、以下のことを依然として懸念する。
  • (a) 民事上、刑事上および行政上のすべての手続において意見を聴かれる子どもの明示的権利が認められていないこと。
  • (b) 養子縁組事件における子どもの弁護人/特別後見人(curatori speciali)の任命に関する、法律第149/2001号の実施のための指針が存在しないこと。
  • (c) 国、州または地方のレベルで子どもに影響を与える法律および政策の策定過程で子どもたちとの組織的協議が行なわれておらず、かつ、子どもに関わる今後の行動計画の策定への子ども参加に関する、より具体的な指針が存在しないこと。
27.条約第12条、および、意見を聴かれる子どもの権利に関する委員会の一般的意見12号(2009年)に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもに影響を与える事柄に関してすべての裁判所、行政機関、施設、学校、保育施設および家庭に適用される、意見を聴かれる子どもの権利について定めた包括的な法規定を導入すること。また、子どもの意見を直接聴けるようにするための措置をとるとともに、その際、そのような参加が、効果的にかつ操作または威嚇を受けることなく行なわれ、かつ、適切なときは関連機関の専門的意見によって裏づけられることを確保するための、十分な保障措置および機構を整備すること。
  • (b) 養子縁組事件における子どもの弁護人/特別後見人(curatori speciali)の任命についての指針を作成すること。
  • (c) 州レベルのまたは全国的な支援体制を設置することにより、子どもに関連する法律および政策の策定に子どもたちが含まれることを確保するための措置(子ども評議会の強化を含む)をとること。

C.市民的権利および自由(条約第7条、第8条、第13~17条、第19条および第37条(a))

登録および国籍
28.委員会は、外国系の子どもの登録される権利に関する法律上および実務上の制限について懸念を覚える。とくに委員会は、公の安全に関する法律第94/2009号により、イタリア国民でない者が全員、身分事項の記録を取得するために在留許可証の提示を義務づけられていることを懸念するものである。委員会はさらに、事実上の無国籍者である子どもの状況(数百名のロマの子どもが無国籍であるという報告も含む)について懸念を覚える。
29.委員会は、普遍的定期審査の際に行なわれた、イタリア市民権に関する法律第91/1992号はイタリアに住むすべての子どもの権利を保全するようなやり方で実施するべきである旨の勧告第40号(A/HRC/14/4/Add.1, p.5)を締約国が受託したことを想起しながら、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) イタリアで出生しかつ暮らしているすべての子どもの出生登録の義務を法律で確保し、かつ実務上促進すること。
  • (b) 社会的および民族的背景ならびに親の在留資格に関わらず出生時に登録されるすべての子どもの権利に関する意識啓発キャンペーンを行なうこと。
  • (c) 市民権が取得できなければ無国籍となる可能性がある子どもを対象として、市民権へのアクセスを促進すること。
思想、良心および宗教の自由
30.委員会は、就学前学校、初等学校および中等学校において宗教の授業を受けまたは受けないことを選択する子どもの自由が、妥当な代替的授業が存在しないこと、および、カトリックの信仰に基づく授業に出席しないことを決めた生徒に必要な履修辞退届の入手方法および配布に関する情報が提供されていないことにより、実際には阻害される可能性があることを懸念する。
31.委員会は、締約国に対し、宗教の授業が真に選択制となることを実際上確保するための努力を強化するとともに、以下の措置をとるよう求める。
  • (a) 宗教の授業が選択制であることを、公立学校に通う生徒のすべての親が全面的に承知することを確保するとともに、もっとも一般的な外国語で情報を利用可能とすること。
  • (b) カトリックの信仰に基づく授業に代わる選択肢の模範的実践を研究し、特定しかつ記録するとともに、このような調査研究の知見に基づき、関連の代替的授業を全国カリキュラムで利用可能とすることを検討すること。
適切な情報へのアクセス
32.印刷メディアおよび放送メディアについてさまざまな自主規制規則が設けられており、かつメディアと未成年者委員会が設置されたことには肯定的に留意しながらも、委員会は、条約第17条に基づく子どもの権利の享受に資する、包括的な法律上および教育上の枠組みが設けられていないことを懸念する。委員会は、女性および若い女子が性的対象として描写されることについてイタリアのメディアおよび広告が果たしている役割に関する、女性差別撤廃委員会の懸念を共有する。このような描写は、子どもの発達および同世代への関係に悪影響を及ぼすからである。委員会は、とくに以下のことを懸念する。
  • (a) 「インターネットと子ども規則」の遵守が任意であり、かつ、同規則の実施を監視するために設置された委員会が、2007年の委任期間終了以降、復活させられていないこと。
  • (b) 子どもたちの間で、プライバシー権をいっそう保護され、かつインターネットの利用に関する情報を子どもにやさしい言葉づかいおよび形式で提供される必要が明らかにあること。
  • (c) 学習および志望に関する女子の選択に影響を及ぼす可能性があるジェンダー上のステレオタイプ、ならびに、女性および若い女子が性的対象として描写されることについてイタリアのメディアおよび広告が果たしている役割。
  • (d) メディアにおける、移住者およびマイノリティの否定的描き方。このような描き方は、これらの者の社会的統合およびこれらのコミュニティの子どもの権利の効果的享受に影響を及ぼしている。
  • (e) 食品、薬、おもちゃその他の物を有害となるおそれがあるやり方で消費することにつながっている広告内容。
33.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 社会的および文化的に有益な資料の普及の奨励等も目的としながら、条約第17条の規定および目的を全面的に編入した、子どもとメディアに関する規則の策定を促進しかつ支援すること。
  • (b) 「インターネットと子ども規則」を監視する委員会を復活させるとともに、同規則に違反に対して効果的な行政上および法律上の制裁が科されることを確保すること。
  • (c) 人種主義および不寛容と闘う力のある、責任感と積極性を備えたメディアを確保するための措置をとるとともに、その効果的実施を確保する監視システムを設けること。
体罰
34.委員会は、家庭における体罰が蔓延していること、とくにしつけの手段として平手で叩くことをいまなお適切と考えている親が多いことを、懸念する。委員会はまた、体罰の禁止に関する最高裁判決にも関わらず、あらゆる場面(家庭を含む)におけるあらゆる形態の体罰を明示的に禁ずる法律(CRC/C/15/Add.41、パラ20)をまだ成立させていないことも、懸念するものである。
35.委員会は、締約国が、体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利に関する委員会の一般的意見8号(2006年)およびあらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利に関する一般的意見13号(2011年)を考慮にいれながら、あらゆる場面におけるあらゆる形態の体罰が明示的に禁止されることを確保する目的で、国内法改革を行なうよう勧告する。委員会はさらに、締約国が、体罰が子どものウェルビーイングに及ぼす有害な影響、および、子どもの権利にしたがった、体罰に代わる積極的なしつけおよび規律のための手段に関する、親および一般公衆の意識啓発を図るよう勧告するものである。

D.家庭環境および代替的養護(条約第5条、第18条(1~2項)、第9~11条、第19~21条、第25条、第27条(4項)および第39条)

家庭環境
36.第1次国家家族計画の採択に関わる進展、および、子どもの養育責任に関して親および法定保護者を支援するためのさまざまな措置(それぞれ大家族および低所得家族を対象とする課税控除および子ども手当を含む)は歓迎しながらも、委員会は、これらの措置が第一義的には金銭的なものであり、子どもの発達上のニーズならびに子どもの養育およびしつけを行なう最適な方法について学習することにより子育て能力を高める親のニーズに対応していないことを、懸念する。委員会は、公的保育の機会が限られていることおよび私的保育の費用が高いことを、とりわけ懸念するものである。
37.委員会は、締約国が、大家族および低所得家族への支援に際してホリスティックなアプローチ(所得支援を含む)がとられ、かつ親教育を通じた子育てのあり方に焦点が当てられることを確保するよう、勧告する。とくに委員会は、締約国が、欧州連合の「欧州2020戦略」および欧州委員会の2011年の報告書「乳幼児期の教育およびケア:明日の世界のために、私たちの子ども全員に最善のスタートを」にしたがい、乳幼児期の教育およびケアのためのプログラムのアクセス、負担可能性および質を高め、かつ学校外活動についても同様の対応をとるよう、勧告するものである。
家庭環境を奪われた子ども
38.委員会は、法律第149/2001号にしたがい、家庭環境を奪われた子どものための養護の脱施設化が進展していることを歓迎する。にもかかわらず、委員会は、家族型の代替的なコミュニティまたは施設で提供されるサービスおよび養護の最低基準が設けられていないこと、ならびに、このようなコミュニティの独立の監視および登録に関する法律の実施が弱いことを、懸念するものである。委員会は、提供されるサービスの質の評価が行なわれていないこと、および、子どもの受け入れのために受領した公的資金についての会計責任が問われていないことを、とりわけ懸念する。さらに委員会は、里親養護の利用に関して州間の格差があること、ならびに、里親養護に関する共通の指針および法律が採択されかつ遵守されていないことを、懸念するものである。
39.外国籍の子どもがイタリアで暮らしている家族と再結合する権利に関して、委員会は、手続に時間がかかること、および、欧州連合理事会指令2003/86/ECを国内法化する法律において締約国で暮らしている核家族が除外されていることを、懸念する。
40.委員会は、締約国が、法律第149/2001号の効果的かつ平等な実施を、その権限の及ぶ範囲ですべての州において確保するとともに、以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 家庭環境を奪われた子どものためのすべての代替的養護施設(家族型コミュニティのような「入所型施設」も含む)を対象として、サービスおよび養護に関する全国的に合意された最低基準を採択すること。
  • (b) 家庭環境を奪われたすべての子どもの措置について関連の機関による独立の監視が行なわれることを確保するとともに、そのような子どもの受け入れのために公的資金を受領する者に会計責任を果たさせる機構を設置すること。
  • (c) 家庭環境を奪われたすべての子どもに関する包括的調査を実施し、かつこのような子どもの全国的な登録制度を創設すること。
  • (d) 家族の再統合に対する権利、および、この権利を有するすべての外国人(イタリアで形成された家族を含む)へのその適用について明示的に定める目的で、移民統一法典を改正すること。
  • (e) 里親家庭の適正な選抜、研修および監督を確保するとともに、これらの家庭に対して十分な金銭的支援および地位を与えること。
  • (f) 子どもの代替的養護に関する指針(総会決議64/142付属文書)を考慮すること。
養子縁組
41.委員会は、国内養子縁組および国際養子縁組において子どもの意見および見解に耳を傾ける必要があることについての義務的規定を歓迎する。しかしながら委員会は、2003年以来の「開放型養子縁組」の慣行に留意しつつ、このような養子縁組についての確固たるかつ一貫した法的根拠がないこと、および、里親家庭への無期限の措置が行なわれるおそれがあることに、懸念を表明するものである。さらに委員会は、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約の非加盟国との国際養子縁組が、二国間協定が締結されていないにも関わらず続けられていることについて、あらためて懸念を表明する。国際養子縁組委員会がとった措置には留意しながらも、委員会は、民間養子縁組斡旋機関が多数存在すること、監視制度が不十分であること、および、養子縁組の過程で一部当事者が金銭的利得を得ているという報告があることを、依然として懸念するものである。
42.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 養子縁組を規律する法律(法律第184/1983号および第149/2001号を含む)および手続に、子どもの最善の利益が最高の考慮事項である旨の原則を導入すること。
  • (b) 1993年ハーグ条約をまだ批准していないすべての送り出し国と二国間協定を締結すること。
  • (c) ハーグ条約および子どもの権利条約第21条(d)にしたがって、すべての民間養子縁組斡旋機関の効果的かつ組織的な監視を確保し、民間養子縁組斡旋機関の数を管理しまたは限定するための選択肢を考慮し、かつ、養子縁組プロセスがいかなる当事者の金銭的利得ともならないことを確保すること。
  • (d) これまでに養子とされた子どものウェルビーイングならびに縁組の崩壊の原因および結果に関する組織的フォローアップを確保すること。
子どもに対する暴力(子どもの虐待およびネグレクトを含む)
43.委員会は、あらゆる形態の身体的および精神的暴力からの子どもの保護ならびにこのような暴力の防止を目的とする全国共通の制度および枠組み、ならびに、これに対応した監視および調整のための実施機関が存在しないことを、深刻に懸念する。これとの関連で、委員会は、14~17歳の子ども(ほとんどはイタリア北部および中部の子ども)の過半数が子どもの不当な取扱いを経験しまたは目的したことがあるというある調査の結果に、深刻な懸念とともに留意するものである。とくに、データ収集(ピエモンテ州およびベネト州)ならびに防止(エミリアロマーニャ州)に関わる一部州での肯定的経験には心強い思いを感じながらも、委員会は、以下のことを懸念する。
  • (a) 子どもに対するあらゆる形態の暴力についての、包括的かつ全国的なデータ収集システムおよび登録制度が存在しないこと。
  • (b) 子どもに対する暴力についての指針の存在および実施、ならびに、暴力の防止、取扱いおよび根絶に関して、州間に格差があること。
  • (c) 困難な状況に置かれた母親によって子どもが遺棄されていること。
44.委員会は、前回の懸念および総括所見(CRC/C/15/Add.198、パラ37および38)をあらためて繰り返すとともに、一般的意見13号を想起しながら、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) ヨーロッパ・中央アジア地域協議(2005年7月5~7日、スロベニア・リュブリャナ)の成果および勧告を考慮し、かつジェンダーに特段の注意を払いながら、子どもに対する暴力に関する国連研究の勧告(A/61/299)の実施を確保する等の手段により、子どもに対するあらゆる形態の暴力の撤廃に優先的に取り組むこと。
  • (b) 前掲研究の勧告、とくに子どもに対する暴力に関する事務総長特別代表が強調した以下の勧告を締約国がどのように実施しているかに関する情報を、次回の定期報告書で提供すること。
    • (i) 子どもに対するあらゆる形態の暴力および不当な取扱いを防止しかつこれに対処するための国家的な包括的戦略を各国で策定すること。
    • (ii) あらゆる場面における、子どもに対するあらゆる形態の暴力および不当な取扱いの明示的な法的禁止を、国レベルで導入すること。
    • (iii) データを収集し、分析しかつ普及するための全国的システムならびに子どもに対する暴力および不当な取扱いに関する調査研究事項を強化すること。

E.障害、基礎保健および福祉(条約第6条、第18条(3項)、第23条、第24条、第26条、第27条(1~3項)および第33条)

障害のある子ども
45.委員会は、締約国の報告書で、障害のある子どもに関する情報が限られていることを遺憾に思う。障害のある子どもを学校制度に統合しようとする努力は歓迎しながらも、委員会は、障害がいまなお「ハンディキャップ」として概念化されており、障害のある子どもの社会的インクルージョンを確保する目的をもったアプローチがとられていないこと、および、学校への専門教員の配置に関して州間格差があることを、懸念するものである。委員会はさらに、障害のある子どもの特別なケアを乳幼児期に確保することに関して不十分さおよび遅れが見られること、ならびに、障害のある0~6歳の年齢層の子どもに関する統計データが整備されていないことを、懸念する。
46.委員会は、締約国が、障害のある子どもとの関連で権利基盤アプローチを確保するために現行の政策およびプログラムを見直すとともに、関連の政府職員およびコミュニティ一般がこの点に関する感受性を高めることを確保するための広報および研修の取り組みを検討するよう、勧告する。委員会はまた、障害のあるすべての子どもが質の高いインクルーシブ教育へのアクセスを享受できるよう、締約国が、十分な人数の専門教員を全校に配置することも勧告するものである。さらに委員会は、このような特別なニーズにしたがって政策およびプログラムを適合させるため、障害のある子ども(0~6歳の年齢層を含む)に関する具体的なかつ細分化されたデータを収集するよう、勧告する。委員会は、締約国に対し、これとの関連で障害のある子どもの権利に関する委員会の一般的意見9号(2006年)を考慮するよう、奨励するものである。
健康および保健サービス
47.委員会は、保健ケアに関する権限が州レベルに委譲されたことにともなって保健ケアの必須水準(Livelli Essenziali di Assistenza、LEA)が定められていないことにより、締約国の南部諸州と北部諸州との間で保健ケアシステムの質および効率性に格差が生じ、到達可能な最高水準の健康に対する子どもの権利に影響が及んでいることに、懸念とともに留意する。子供の肥満率が高くかつ上昇していること、ならびに、アレルギー性疾患および(または)呼吸器系疾患に罹患した子どもが相当数にのぼることも、委員会にとって懸念の対象である。委員会はさらに、イタリア人である母親に比べ、外国人である母親の間で死産率および周産期死亡率が高く、かつ救急部または救急病院での治療が必要となる可能性が高いことを懸念する。これは、ひとつには、在留資格を有しない外国人が犯罪者として扱われるために、在留資格を有しない外国人である母親が、妊娠前および妊娠中に、必要な産科学的治療および検査を受けないことによるものである。
48.委員会は、締約国が、すべての州のすべての子どもを対象として共通の水準の保健ケアサービスを促進するために即時的措置をとるとともに、以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 健康に対する子どもの権利との関連で国家保健計画(2006~2008年)の実施状況を分析し、かつ、これに基づき、子どものために十分な保健ケア支出を配分すること。
  • (b) 保健ケアの必須水準(LEA)を遅滞なく定めること。
  • (c) 子どもの権利に一致するやり方で、すべての保健専門家の養成および研修のためのプログラムを改善すること。
  • (d) 運動、健康的な食事習慣およびライフスタイルの重要性を強調しながら、学校および家庭を対象とするアドボカシーおよび意識啓発のプログラムを行なう(国家予防計画(2010~2012年)の効果的実施を含む)とともに、初等中等学校のカリキュラムにおける体育の時限数を増やし、かつその質を向上させること。
  • (e) とくに外国人コミュニティがアクセスしている保健ケア施設を対象として、外国系の子どもを含むすべての子どもの、保健ケアに対する権利についての広報キャンペーンおよび意識啓発キャンペーンを発展させかつ実施すること。
母乳育児
49.委員会は、生後6か月間の完全母乳育児率が低く、かつ、乳児に対して生後4か月から離乳食を与える慣行があることを懸念する。委員会はさらに、乳幼児および青少年向けの食品の販売促進が規制されておらず、かつ母乳代替品の販売促進の監視が不十分であることを懸念するものである。
50.委員会は、関連の政府職員(とくに産科部で働く職員)および親を対象としたキャンペーン、広報および研修を含む意識啓発措置を通じ、生後6か月間の完全母乳育児の慣行を向上させるための行動をとるよう、勧告する。委員会はさらに、締約国が、子ども向けの食品に関する現行の販売促進規則および母乳代替品(哺乳瓶およびその乳首部分を含む)の販売促進に関する規則の監視を強化するとともに、これらの規則についての恒常的監視が行なわれ、かつ違反者に対して対応がとられることを確保するよう、勧告するものである。
精神保健
51.委員会は、子ども(とくに青少年)の精神保健状況を評価しかつ監視する、国レベルの包括的な戦略またはシステムが存在しないことを懸念する。委員会は、これとの関連で、国家精神保健指針(2008年)がまだ実施されていないことを遺憾に思うものである。委員会はさらに、資源が不十分であることから、地方保健当局および児童青少年神経精神医学サービスが、子どもの精神保健上の問題に社会心理学的な立場から対応するための学際的チームを設置できていないことを懸念する。子どもが使用している精神活性剤のなかに自殺念慮を増大させる副作用を有するものがあることも、委員会にとって懸念の対象である。委員会はまた、子どもの自殺につながる可能性がある抑うつが蔓延していることも懸念する。
52.委員会は、思春期の健康と発達に関する委員会の一般的意見4号(2003年)を参照しつつ、締約国が、精神保健に関する利用可能かつ良質なサービスおよびプログラムを強化するとともに、とくに以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 国家精神保健指針を遅滞なく実施しかつ監視すること。
  • (b) 青少年の精神保健にはっきりと焦点を当てた、国レベルの包括的な精神保健政策を策定するとともに、公的な資金および資源を十分に配分し、かつ監視システムを発展させかつ実施することにより、その効果的実施を確保すること。
  • (c) 妥当なかぎりで親、家族および学校が関与する、子どもの精神保健ケアの統合的システムを確立することにより、子どもの心理的および心理社会的健康不良および障害の治療に対する学際的アプローチを実施すること。
薬物および有害物質の濫用
53.委員会は、締約国の青少年の間で不法な薬物(とくにアンフェタミン)の使用が増加していることを深く懸念する。委員会は、このような薬物がしばしば、学校の成績を上げることおよび抑うつと闘うことを目的として使用されていることに、懸念とともに留意するものである。さらに委員会は、子どもによるアルコールの消費および喫煙の水準が高いこと、ならびに、直接の宣伝またはマスメディア一般を通じて広告が悪影響をもたらしていることを、懸念する。
54.委員会は、一般的意見4号を参照しつつ、締約国が、情報伝達のためのプログラムおよびキャンペーン、青少年に対するライフスキル教育の提供ならびに教員、ソーシャルワーカーその他の関連の職員の研修を通じ、子どもによる不法な薬物の使用を解消するための関連の措置をとるよう勧告する。これには、アルコールおよびタバコの使用を防止するために青少年の間で健康的なライフスタイルを促進することに関するプログラム、および、子どもを対象とするこのような製品の広告の規制を執行することが含まれなければならない。委員会は、締約国に対し、委員会に提出する次回の定期報告書で、このような努力に関する情報および子どもによる不法な薬物の使用に関するデータを提示するよう奨励する。
親が収監されている子ども
55.収監されている母とその未成年の子との関係の保護に関する法律第62/2011号が採択されたことは歓迎しながらも、委員会は、収監された親の一方または双方から分離される子どもの多さ、母親とともに刑務所で生活している赤ん坊の状況、および、母親が自宅監禁の要件を満たさない場合に子どもが母親から分離されるおそれがあることについて、懸念を覚える。
56.委員会は、条約第9条にしたがって個人的関係、十分なサービスおよび適切な支援を確保する目的で、締約国が、親が収監されている子どもの家庭環境に対する権利についての状況に関する研究を行なうよう、勧告する。
生活水準
57.委員会は、締約国において貧困下で暮らしている子どもが多いこと、および、子どもの貧困がイタリア南部に不相応に集中していることを、深く懸念する。委員会はまた、とくに子どもの貧困が女性の失業と密接に関係していることにかんがみ、締約国の女性就労率が欧州連合で2番目に低い(50%未満)ことにも、懸念とともに留意するものである。低所得家庭を対象として2008~2009年に実施された最近の政策介入(家族ボーナスおよび社会消費カード)を評価しながらも、委員会は、このようなプログラムによる不平等および貧困の削減がわずかなものに留まったことを懸念する。委員会は、締約国のプログラムが所得面の措置に焦点を当てており、貧困削減を左右する社会的、文化的、地理的その他の構造的要因については限られた形でしか考慮していないように思えることに、懸念とともに留意するものである。
58.委員会は、締約国に対し、(とくに子どもの)貧困および不平等に対処しかつこれを根絶するための努力を強化するとともに、以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 貧困削減を左右する社会的、文化的および地理的要因を考慮した学際的アプローチを用いながら、子どもの貧困に持続可能なやり方で効果的に対応する目的で、現行の政策およびプログラムの体系的改革を検討すること。
  • (b) 現行プログラムが貧困緩和にもたらした成果を評価するとともに、今後の政策および計画に関連の指標および監視のための枠組みが掲げられることを確保すること。
  • (c) 保育の供給を増加させる等の手段により、労働市場への女性の参加を高め、かつ双方の親を対象とする柔軟な労働配置を促進すること。
  • (d) 子どもがいる低所得家庭向けの所得支援を増強しかつ維持するとともに、このような支援が外国系の家族にも拡大して提供されることを確保すること。

F.教育、余暇および文化的活動(条約第28条、第29条および第31条)

教育(職業訓練および職業指導を含む)
59.前回の勧告(CRC/C/15/Add.198、パラ43)を実施しようとする努力は認めながらも、委員会は以下のことを懸念する。
  • (a) とくに南部においておよび社会経済的困難を有する家族の子どもの間で、依然として高校中退率が高いこと。
  • (b) 校舎および学校施設の状態が劣悪であり、時として安全不備を理由とする事故死につながっていること。
  • (c) 学校で暴力およびいじめが蔓延しており、これに対して主として心理社会的および教育的措置ではなく懲戒措置による対応がとられていること、および、被害者による苦情申立て率が低いこと。
  • (d) 諸州間で同質性が欠けており、かつ職業訓練へのアクセスを延期する法律の成立が遅れていること。
  • (e) 外国人の子どもおよびマイノリティに属する子どもを学校制度に全面的に統合できていないこと。
  • (f) 子どもが、教育制度における自己に関連する意思決定プロセスに参加しておらず、かつこのような意思決定プロセスとの関連でなんら意味のある協議の対象とされていないこと。
60.加えて委員会は、州が保障するよう求められている、教育および職業訓練におけるサービスの必須水準について定めた立法令第226号(2006年)が停止されており、かつ、教育支援措置に関する標準化された全国的枠組みがなんら設けられていないことを、懸念する。委員会は、この10年間で私立学校向けの資金が倍増した一方で、2009年の学校改革以降、教育部門に対する公の資金が相当に削減されたこと(教員数の相当の削減を含む)に、懸念とともに留意するものである。委員会はまた、教育資金の供給源(欧州連合および国内の諸財団を含む)が多様化していることにも留意する。
61.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう強く勧告する。
  • (a) 教育部門におけるこれ以上の予算削減を行なわないとともに、学校に対し、すべての子どもに良質な教育を提供するための十分な人的資源、技術的資源および財源が提供されることを確保すること。
  • (b) 経済的に不利な立場に置かれた家族の子どもを対象とする教育支援の機構を導入すること。
  • (c) 学校における暴力およびいじめに対し、対応を懲戒措置および懲罰的措置に限るのではなく、カウンセリング、校則および「生徒規則」に関する意識啓発、対話の場ならびに子どもがそのような事件を報告する機会へのアクセスのような社会-教育的措置を通じて、効果的に対処すること。
  • (d) 学校との関連における職場の安全についての立法令第81/2008号を法律として成立させること。
  • (e) 職業訓練へのアクセスに関する法律を成立させるための措置をとること。
  • (f) 学校における外国人およびマイノリティの子どもの統合を向上させるためのプログラムを発展させること。

G.特別な保護措置(条約第22条、第30条、第38条、第39条、第40条、第37条(b)~(d)、第32~36条)

移民の状況にある子ども
62.委員会は、締約国が特有の地理的場所に位置しており、かつこれにともなう固有の制約を有していることを認めるとともに、締約国が最近、出身国における戦争、政治的混乱および貧困から避難してきた数千人の難民が予期しない形でかつ前例のない規模で到着する事態に立ち向かうため、緊急の状況下において、かついかなる種類の援助もなく採択しかつ実施しなければならなかった努力および措置を、評価する。しかしながら委員会は、子どもが難民、保護者のいない未成年者または移民のいずれであるかに関わらず、これらの子どもが条約上有する権利にかんがみ、このような状況が子どもにとって有害であることを依然として懸念するものである。
子どもの庇護希望者および難民
63.委員会は、締約国の移民法に基づき、18歳未満の者および妊娠している女性の追放または送還が禁じられていることを歓迎する。しかしながら委員会は、公の秩序および国の安全を理由として外国出身の子どもを同国から追放できること、および、締約国が、2009年の移民遮断政策(「押し戻し」政策)を実施する際、保護者のいない子どもを含む子どもを、子ども一人ひとりの個別の事情を審査しまたは子ども一人ひとりに対して庇護申請の可能性を与えることなく送還していることに、懸念とともに留意するものである。委員会は、押し戻された移民のなかには国際的保護を必要とする者として特定された者もおり、これは締約国が負うノンルフールマンの義務の違反であることを、深く懸念する。締約国が、移民を強制的に送還する際、庇護申請の可能性を認めないまま子どもを家族とともに収容していることは、委員会にとってさらなる深刻な懸念の対象である。
64.立法令第25/2008号には留意しながらも、委員会は、締約国が政治的庇護に関する枠組み法を定めていないことを懸念する。委員会は、子どもを対象とする受け入れセンターの定員および利用可能性が限られていること、これらのセンターが過密であることならびにその環境がきわめて劣悪であることから、18歳未満の者を対象としていない受け入れセンターに子どもが措置される状況が生じていることを懸念するものである。委員会は、2011年の春から夏にかけてランペドゥーサその他の場所に到着した移民(子どもを含む)の受け入れ環境および生活環境が水準以下である旨の報告に、特段の懸念とともに留意する。
65.以上のことに照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 公海上にいるか領域内にいるかに関わらず自国の管轄下にあってイタリアへの入国を希望する子ども一人ひとりが、自己の事情を個別に審査され、かつ、庇護手続ならびに他の関連の国内的および国際的保護手続への速やかなアクセスを認められる権利を有することを確保すること。
  • (b) 国内法を見直し、かつ、子どもに回復不可能な害が生ずる現実の可能性があると信じるに足る実質的根拠があるときは、たとえ公の秩序および国の安全を理由とする場合であっても18歳未満の者の追放が禁じられることを確保すること。
  • (c) 保護のニーズを有するすべての子ども(子どもの庇護希望者および難民を含む)に関する効果的なデータ収集および情報保管のためのシステムを遅滞なく整備すること。
  • (d) 前掲勧告の実施に際し、出身国外にあって保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもの取扱いに関する委員会の一般的意見6号(2005年)を参照すること。
保護者のいない子ども
66.委員会は、保護者のいない子どもに関して締約国でホリスティックなかつ共通のアプローチがとられていないこと(保護者のいない子どもに関する包括的な指針および法的枠組みが存在しないことも含む)を懸念する。委員会は、保護者のいない子どもの後見人の任命およびこのような子どもに対する在留許可の発布について設けられている法的な保護および手続が、締約国の諸州間で一様に適用されていないことを懸念するものである。委員会は、イタリアで一時的に受け入れられた未成年者の状況を向上させるために外国人未成年者委員会が行なっている努力には留意するものの、委員会の権限が庇護を申請しない子どもに限られていることに留意する。保護者のいない未成年者の年齢判定のために医学的アプローチが用いられることが増えており、疑わしきは申請者の利益に解するべきであるという原則の適用が実際には危うくされていることも、懸念の対象である。
67.委員会は、締約国が、一般的意見6号に掲げられた原則を参照しながら、保護者のいない子どもの援助および保護を確保する包括的法律を導入するよう、勧告する。とくに委員会は、締約国が、保護者のいない子どもの状況を監督し、そのニーズを特定しかつ現行制度の課題に対応し、かつ、保護者のいない子どもに関する実務指針(受け入れ、特定、ニーズ評価および保護戦略に関するものも含む)を策定するための、特定のかつ常設の国家機関を設置するよう、勧告するものである。委員会は、締約国が、保護者のいない子どもの年齢判定のために、学際的であり、かつ疑わしきは申請者の利益に解するべきであるという原則を全面的に擁護する統一手続を採択するよう、勧告する。
移民家族の子ども
68.委員会は、在留許可を有しない家族が社会サービスに対する権利をまったく認められていないことに留意しつつ、非正規移民の子どもによる保健ケア、教育その他の社会サービスへのアクセスに関して制限が設けられていることに、深い懸念を表明する。委員会は、これとの関連で、在留資格を有さずにイタリアに入国することおよび滞在することを犯罪化し、締約国に合法的に在留していない子どもおよび家族の経済的および社会的権利の享受に深刻な悪影響を及ぼしている、公の安全に関する法律第94/2009号が公布されたことをとりわけ懸念するものである。委員会はさらに、締約国における移民家族の子どもの人数が相当に増えていることに留意しつつ、「移民の社会的包摂基金」への資金拠出が2008年と2009年に削減されたことを遺憾に思う。委員会はまた、締約国に合法的に在留していない家族の子どもが鑑別追放センターに収容される可能性があり、かつ、このようなセンターに子どもが入れられることについて国内法による規制が行なわれていないことにも、深刻な懸念とともに留意するものである。
69.委員会は、締約国に対し、条約に定められた権利は締約国の市民である子どもに限定されるべきではなく、出入国管理上の地位に関わらすすべての子どもに適用されなければならないことを想起するよう求めるとともに、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 2010年7月の憲法裁判所判決にしたがい、移民の子どもに対して教育、保健その他の社会サービスに対する平等の権利を確保する目的で、移民法を見直すこと。
  • (b) 外国人の在留許可に関する決定の際、子どもの最善の利益が常に最高の考慮事項とされることを、法律上も実務上も確保すること。
武力紛争における子ども
70.委員会は、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書第1条~第4条にしたがって、(a) 軍隊および武装集団による15歳未満の者の徴募および敵対行為における使用を国内法で明示的に禁止し(CRC/C/OPAC/ITA/CO/1、パラ12)、かつ、(b) 国内法で「直接参加」を定義するべきである(CRC/C/OPAC/ITA/CO/1、パラ11)旨の前回の委員会の勧告を、締約国がまだ実施していないことを懸念する。
71.条約第29条にあわせた修正は評価しながらも、委員会は、締約国で運営されている4つの軍事学校のカリキュラムに、人権、条約および選択議定書に関する授業が具体的に含まれていないことを遺憾に思う。委員会はさらに、子どもが武力紛争に関与している国への小型武器および軽兵器の販売の禁止および犯罪化を国内法に導入するべきである旨の前回の勧告(CRC/C/OPAC/ITA/CO/1、パラ17〔18〕)が、締約国によって実施されていないことを遺憾に思うものである。委員会はまた、選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どものリハビリテーションおよび社会的再統合に関する情報が締約国報告書に記載されていないことも、遺憾に思う。
72.委員会は、これまでの勧告を想起しつつ、締約国に対し、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書を実施するための努力を強化し、かつ以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 最低年齢を18歳と定めた国内法との一致を図るため、入隊に関する最低年齢についての、選択議定書に基づく宣言を修正すること。
  • (b) 刑法改正により、軍隊および武装集団による18歳未満の者の徴募および敵対行為における使用を明示的に禁止しかつ犯罪化すること。
  • (c) 子どもが武力紛争に関与している国への小型武器および軽兵器の販売を国内法で禁止しかつ犯罪化すること。
  • (d) 国内法上の難民認定事由のひとつに、子どもの徴募および武力紛争における使用を含めること。
  • (e) クラスター弾に関する条約を批准すること。
性的搾取
73.委員会は、ペドフィリアおよび児童ポルノとの闘いのための監視機関、インターネット上の児童ポルノと闘うための全国センターおよび売買春・関連犯罪監視機関の創設を歓迎するとともに、子どもに対して行なわれた性的加害行為を加重事由のひとつとした法律第11/2009号の採択に肯定的に留意する。しかしながら委員会は、これらの機関の活動を調整し、かつその資金を拠出するための資源および計画が存在しないことを懸念するものである。これとの関連で、かつ締約国の主要都市で路上売買春が増えていることに留意しつつ、児童買春に関するデータおよびその撤廃に焦点を当てた活動が限られていることは、委員会にとって相当の懸念の対象である。さらに、性的搾取、児童ポルノおよび児童買春を禁止する国内法が強化されたこと(法律第38/2006号)には肯定的に留意しながらも、委員会は、この法律で、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書で求められているように児童ポルノの定義がいまなお定められていないことを、遺憾に思う。
74.委員会は、選択議定書の実施のための資金が2000年以降半減させられていること、および、焦点が主として人身取引に当てられていることを懸念する。委員会はさらに、とくに脆弱な立場に置かれた集団の子どもの性的な虐待および搾取の防止を目的としたプログラムの数が限られており、かつ、児童ポルノおよび児童買春の被害者特定において困難が生じていることを、懸念するものである。
75.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう強く勧告する。
  • (a) とくに刑法に児童ポルノの定義を導入することにより、国内法を子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書と全面的に調和させること。
  • (b) ロマの子どもを含む脆弱な立場に置かれた集団の子どもに焦点を当てながら、性的な搾取および虐待の防止のための戦略を策定しかつ実施すること。
  • (c) 児童ポルノ資料専門分析部に対して専門的研修およびいっそうの資源を提供する等の手段により、被害者を特定しかつ保護すること。
  • (d) ペドフィリアおよび児童ポルノとの闘いのための監視機関の効果的職務遂行を確保する(その構成員を任命することも含む)とともに、この犯罪を監視するためのデータベースの運用を開始すること。
  • (e) 児童買春および児童虐待が監視されることを確保する目的で、売買春・関連犯罪監視機関を復活させ、またはその権限および活動を既存のいずれかの機関に委任すること。
少年司法の運営
76.委員会は、締約国の少年司法制度において代替的措置および再統合が重視されていることに、肯定的に留意する。にもかかわらず、委員会は、少年司法制度による対応のさらなる多様化を目的とした少年刑務所制度法案がまだ採択されておらず、かつ資金削減によって現行制度が脅かされていることを、懸念するものである。これとの関連で、委員会は、拘禁が過度に使用されているという報告があること、子どもの審判前拘禁が長期に及んでいること、ならびに、少年矯正施設(IPM)で自由を奪われている子どもが教育および訓練に十分アクセスできていないことを、懸念する。
77.委員会は、外国人の子どもが、在留資格書類を所持していないというだけの理由で少年矯正施設および受け入れセンターに措置されているという報告があることに、深い懸念を表明する。司法機関による処理の対象とされた外国人およびロマの子どもの人数が報告対象期間中に増えたことは、これらの子どもが法律によって定められたダイバージョンその他の代替的措置から利益を享受することが、イタリア人の子どもに比べてはるかに少ないことと同様に、さらなる懸念の対象である。
78.委員会は、締約国が、少年司法制度を、条約、とくに第37条、第39条および第40条、ならびに、少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止に関する国連指針(リャド・ガイドライン)、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則(ハバナ規則)、刑事司法制度における子どもについての行動に関する指針および少年司法における子どもの権利に関する委員会の一般的意見10号(2007年)を含む他の関連の基準と、全面的に一致させるよう勧告する。とくに委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促すものである。
  • (a) 少年刑務所制度法案を不当に遅延することなく採択すること。
  • (b) 恣意的拘禁に関する作業部会から勧告されたとおり(A/HRC/10/21/Add.5、パラ116および122)、ダイバージョン、および自由の剥奪に代わるその他の措置に引き続き焦点が当てられることを確保するため、少年司法制度に対して十分な人的資源、技術的資源および財源を配分すること。
  • (c) 少年司法制度において外国人およびロマの子どもが過剰に対象とされている問題の徹底的分析を行なうこと。
  • (d) 子どもが自由を奪われている場所への定期的訪問を行なう独立の監視機構を設置すること。
マイノリティ集団に属する子ども
79.委員会は、乳児死亡率がより高く、慢性疾患および感染症の発生率がより高く、かつ予防接種率が低いことに表れているとおりロマの子どもの健康状態がよくないこと、ならびに、保健ケアその他の社会サービスへのアクセスが限られているのはある程度自業自得であるとみなされていることを、深刻に懸念する。委員会はさらに、初等学校およびとくに中等学校に就学するロマの子どもの人数がきわめて限られていることを懸念するものである。ロマ・コミュニティの経済的状況および社会的排除が憂慮すべき事態にあることに留意しつつ、委員会は、締約国が、ロマが置かれている状況に対し、主として、参加を基盤とする協調のとれた社会的包摂措置ではなく治安維持措置(2006年の治安維持協約、2008年の非常事態令)を通じて対応しようとしていることを、危惧する。これとの関連で、委員会は、非常事態令に基づいてとられた措置によってロマの生活条件がさらに悪化し、「一時居住コンテナ」の建設を通じて事実上の隔離が激化していることを、深く懸念するものである。委員会は、環境がきわめて劣悪なロマの「不法」キャンプでこの1年間に6名の子どもが死亡したこと、ならびに、立退き強制、強制送還、および、保護を目的としてロマの子どもを親から分離させようとする政府の取り組みが行なわれていることに、このうえない懸念とともに留意するものである。委員会はまた、とくにロマの子どもの間で物乞いが増えていること、および、子どもの物乞いと組織犯罪との間に関係があることに、懸念を表明する。委員会はさらに、イタリアのロマの間で早期婚が蔓延しているという報告があること、および、これに対応するための措置について締約国から提供された情報が限定的であることを、懸念するものである。
80.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 遊動民コミュニティの定住地に関わる非常事態および2008年5月30日付の布告を停止すること。
  • (b) ロマの子どもがとくに保健および教育との関連で置かれている脆弱な状況を正当に考慮し、かつ当事者であるコミュニティの参加を得ながら、イタリア社会へのロマの真正な社会的統合のための国家的行動計画を策定しかつ採択すること。
  • (c) ロマの子どもの社会経済的状況の持続可能な向上を確保するため、十分な人的資源、技術的資源および財源を配分すること。
  • (d) 早期婚のような有害な慣行に対応するための措置をとること。
  • (e) ロマの文化に関する理解を増進し、かつロマの子どもに対する差別的かつ固定的な見方を防止するため、政府職員を対象とする関連の指針を策定しかつ研修を実施すること。
  • (f) 地域言語またはマイノリティ言語に関する欧州憲章を批准すること。

H.国際人権文書の批准

81.委員会は、締約国が、まだ加盟国となっていない中核的国連人権条約およびその選択議定書、とくにすべての移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する国際条約、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約の選択議定書、拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰に関する条約の選択議定書、および、無国籍の削減に関する1961年条約を批准するよう、勧告する。

I.地域機関および国際機関との協力

82.委員会は、締約国が、締約国および他の欧州評議会加盟国の双方における条約その他の人権文書の実施のため、欧州評議会と協力するよう勧告する。

J.フォローアップおよび普及

83.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を国家元首、議会、関連省庁、最高裁判所ならびに州および地方の当局に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
84. 委員会はさらに、条約および選択議定書ならびにその実施および監視についての議論および意識を喚起する目的で、締約国による第3回・第4回定期報告書および文書回答ならびに関連の勧告(総括所見)を、インターネット等を通じ(ただしこれに限るものではない)、公衆一般、市民社会組織、メディア、若者グループ、専門家グループおよび子どもが同国の言語で広く入手できるようにすることを勧告する。
次回報告書
85.委員会は、締約国に対し、第5回・第6回統合定期報告書を2017年4月4日までに提出し、かつこの総括所見の実施に関する情報を当該報告書に記載するよう、慫慂する。委員会は、委員会が2010年10月1日に採択した条約別調和化報告ガイドライン(CRC/C/58/Rev.2 and Corr.1)に対して注意を喚起するとともに、締約国が、今後の報告書は当該ガイドラインにしたがうべきであり、かつ60ページを超えるべきではないことを想起するよう求めるものである。委員会は、締約国に対し、報告ガイドラインにしたがった報告書を提出するよう促す。ページの制限を超えた報告書が提出された場合、締約国は、前掲ガイドラインにしたがって報告書を見直し、かつその後再提出するよう求められることになる。委員会は、締約国に対し、報告書を見直しかつ再提出することができないときは、条約機関による審査のための報告書の翻訳は保障できないことを想起するよう、求めるものである。
86.委員会はまた、締約国に対し、2006年6月の第5回人権条約機関委員会間会合で承認された統一報告ガイドライン(HRI/MC/2006/3)に掲げられた共通コア・ドキュメントについての要件にしたがい、最新のコア・ドキュメントを提出することも慫慂する。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年11月17日)。
最終更新:2012年11月17日 18:03