総括所見:イタリア(第2回・2003年)


CRC/C/15/Add.198(2003年3月18日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2003年1月16日に開かれた第840回および第841回会合(CRC/C/SR. 840 and 841参照)において、2001年3月21日に提出されたイタリアの第2回定期報告書(CRC/C/70/Add.13)を検討し、2003年1月31日に開かれた第862回会合(CRC/C/SR.862参照)において以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、委員会の報告ガイドラインにしたがった、付属文書をともなう第2回定期報告書の提出を歓迎する。委員会は、報告書の批判的性格およびその作成に至るまでの参加型プロセスを歓迎するものである。委員会はまた、事前質問事項(CRC/C/Q/ITA/2)への文書回答が時宜を得た形で提出されたことにより、締約国における子どもの状況に関していっそう明確な理解を得られたことにも留意する。委員会はまた、締約国代表団との間に持たれた前向きな対話にも留意するとともに、条約の実施に直接従事するハイレベルかつ大規模な代表団の出席により、締約国における子どもの権利に関する理解を向上させられたことを認知するものである。

B.締約国によりとられたフォローアップ措置および達成された進展

3.委員会は以下のことを歓迎する。
  • (a) 武力紛争への子どもの関与ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の2つの選択議定書が批准されたこと。
  • (b) 子どもに関する特別議会委員会および国家子ども・青少年監視機関(法律第451/97号)が設置されたこと。
  • (c) 国家子ども・青少年資料分析センターが設置され、子どもに関する印象的な量のデータおよび調査研究を収集してウェブサイトで利用可能としていること。
  • (d) 子どもおよび青少年の権利および機会の促進について取り上げ、国家子ども・青少年基金の設置について定める規定を掲げた法律第285/97号が採択されたこと。
  • (e) 子どもに被害を与える買春、ポルノおよびセックスツーリズムの搾取を禁じた法律第269/98号が採択されたこと。
  • (f) 女性性器切除反対キャンペーンが展開されていること。
  • (g) 障害のある子どもが普通学校に広く包摂されていること。
  • (h) 最悪の形態の児童労働の禁止および撤廃のための即時の行動に関するILO第182号条約が批准されたこと。
  • (i) 国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約が批准されたこと。

C.主要な懸念事項および勧告

前回の総括所見
4.委員会は、締約国の第1回報告書(CRC/C/8/Add.18)の検討後に委員会が表明した懸念および行なった勧告(CRC/C/15/Add.41)の一部、とくに、パラ13~15および22に掲げられた、条約の実施の調整、差別の禁止および子どもの不当な取扱いに関するものへの対応が不十分であることを遺憾に思う。これらの懸念および勧告はこの文書でもあらためて繰り返されているところである。
5.委員会は、締約国に対し、まだ実施されていない前回の勧告およびこの総括所見に掲げられた一連の懸念に対応するため、あらゆる努力を行なうよう促す。

1.実施に関する一般的措置

立法
6.委員会は、多くの実体的法律が採択されてきたこと、および、その一部で条約に言及されていることに留意する。加えて委員会は、検討中の法案(少年司法および教育に関するものを含む)について締約国から提供された情報を歓迎するものである。
7.委員会は、締約国が、引き続き法律を厳密に見直すとともに、国および地方の法律が、権利を基盤とし、条約を含む国際基準に一致し、かつ効果的に実施されることを確保するよう、勧告する。
資源
8.委員会は、若い世代の育成は投資分野のひとつであるという展望を提示した、「子ども・青少年問題に関するイタリアの協力の指針」が採択されたことを歓迎する。にもかかわらず、委員会は、条約が、条約第4条で定められているとおり「利用可能な資源を最大限に用いて」実施されていないことを、依然として懸念するものである。
9.委員会は、締約国が、子どもおよびその家族に配分される資源を引き続き可能なかぎり増加させるとともに、子どもに支出される予算の割合を分析し、優先課題を特定し、かつ「利用可能な資源を最大限に用いて」資源を配分する目的で、締約国全域のあらゆる部門別予算および総予算の分析を行なうよう、勧告する。委員会はまた、締約国が、外務省の国際開発援助協力によって行なわれる活動にこの原則を適用することも勧告するものである。
調整
10.委員会は、子どもに関わる政策およびプログラムを国、州および地方のレベルで調整する国家子ども・青少年監視機関(法律第451/97号)が設置されたことを歓迎する。加えて委員会は、この国家的監視機関が、子どもに関わる優先順位の設定および子どもに関わるすべての行動の調整を目的として2年ごとに子どものための国家的行動計画を起草する責任を負っていることに、評価の意とともに留意するものである。委員会はさらに、国と州の間で諸活動を調整し、かつ州および国のレベルにおける政策の実施を監視することを目的として、国・州会議(Conferenza Stato-Regioni)の定期的会合が開かれていることに留意する。委員会は、このような調整が十分ではないこと、および、いくつかの具体的問題に関する調整がこの国家的監視機関の外で行なわれていることを懸念するものである。委員会はまた、非政府組織(NGO)との調整が構造化された形で行なわれていないことも懸念する。
11.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 前回勧告した(CRC/C/15/Add.41、パラ13)ように、子どもの促進および保護のための政策の実施に関する、国、州および地方のレベルにおける政府機関内および政府機関間の効果的調整(とくに国家監視機関および国・州会議によるもの)を強化すること。
  • (b) とくに地方レベルで、子どもの権利のために活動しているNGOとのいっそう緊密かつ積極的な協力が行なわれることを確保すること。
  • (c) 国家監視機関の活動に対する子ども参加を奨励すること。
国家的行動計画
12.委員会は、子どものための新たな行動計画に関する討議が議会で行なわれる予定であること、および、締約国が、子どもに関する国際連合総会特別会期(UNGASS)の成果文書である「子どもにふさわしい世界」を実施するための別の計画を策定する可能性について検討していることに、留意する。委員会は、これらの2つの計画の間で不一致が生じる可能性があることを懸念するものである。
13.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 国家行動計画を採択するため、その検討を速やかに進めること。
  • (b) 国家行動計画と、UNGASS成果文書を実施するための計画との調和を確保すること。
  • (c) 子どもに関して達成された進展の効果的な監視および評価ならびに子どもに関して採択された政策の効果の効果的評価を行なうこと。
独立の監視体制
14.委員会は、4つの州に子ども時代護民官事務所が設置され、かつ国の子ども護民官を設置するための努力(とくに議会上程中の法案を含む)が行なわれていることに留意するものの、州および地方のレベルで子ども個人の苦情を受理しかつこれに対応する権限を与えられた、条約の実施を監視するための独立した中央機構が存在しないことを、依然として懸念する。
15.委員会は、締約国が、条約の実施を監視しかつ当該実施における進展を評価するため、独立した国内人権機関の一部として(独立した人権機関の役割に関する委員会の一般的意見2号参照)、かつ人権の促進および保護のための国内機関の地位に関する原則(「パリ原則」、国連総会決議48/134付属文書)にしたがって、可能であれば国レベルの独立した子どもオンブズマンを設置するための努力を完了させるよう、勧告する。当該オンブズマンは、子どもがアクセスしやすく、子どもの権利侵害の苦情を子どもに配慮したやり方で受理しかつ調査する権限を与えられ、かつ、これらの苦情に効果的に対応する態勢を備えたものであるべきである。委員会はさらに、国および州の機関の間で適切な連携を発展させるよう勧告する。
データ収集
16.委員会は、とくに国家子ども・青少年資料分析センターの設置を通じてデータ収集を向上させるために行なわれている努力に、評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、条約が対象とする一部領域についてのデータが不十分であることを依然として懸念するものである。委員会はまた、データ収集がいまなお家族中心アプローチに基づいて行なわれており、子どもが自律した人間としてとらえられるアプローチが採用されていないことも、懸念する。委員会はさらに、データ収集を担当するさまざまな機関およびさまざまな州の間で一貫性が欠如していることを懸念するものである。
17.前回の勧告(前掲パラ14)にしたがい、委員会は、締約国が以下の措置をとるべきである旨の勧告をあらためて繰り返す。
  • (a) もっとも脆弱な立場に置かれた集団(障害のある子ども、ロマの子ども、移住者家族に属する子ども、保護者に付き添われないままイタリアに入国した子ども、暴力の被害を受けた子どもならびに経済的および社会的に不利な立場に置かれた世帯の子どもを含む)をとくに重視しながら、条約が対象とするすべての分野について、18歳未満のすべての者に関する細分化されたデータを体系的に収集しかつ分析するための機構を強化すること。
  • (b) 条約の実施および監視のための政策およびプログラムを立案しかつ評価するにあたって、これらの指標およびデータを有効に活用すること。
  • (c) 国および州の双方のレベルで、さまざまな機関によるデータ収集プロセスの一貫性を確保すること。
研修/条約の普及
18.委員会は、とくに国家子ども・青少年資料分析センターを通じて条約普及のための努力が行なわれていること、および、とくに、公民教育に子どもの権利が含まれていることに評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、普及、意識啓発および専門家の研修に関わる活動が常に体系的かつ対象の明確なやり方で行なわれているわけではないことを、依然として懸念するものである。
19.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもおよび親、市民社会ならびにあらゆる部門および段階の政府機関の間で条約およびその実施に関する情報を普及するためのプログラムを強化しかつ継続すること。
  • (b) 子どものためにおよび子どもとともに働くすべての専門家(たとえば裁判官、弁護士、法執行官、公務員、地方政府職員、子どものための施設および拘禁場所で働く職員、教員ならびに保健従事者)を対象とした、子どもの権利を含む人権についての体系的かつ継続的な研修プログラムを発展させること。

2.一般原則

差別の禁止
20.委員会は、締約国で差別に関するいくつかの監視機関が設置されたこと、および、法律第40/98号(出入国規則および外国人の状況に関する規則)に差別についての規定が掲げられていることに留意する。にもかかわらず、委員会は、マイノリティに対する人種主義的事件、公的発言におけるヘイトスピーチの使用、および、とくに保健、社会福祉、教育および居住の分野で貧しい子ども、ロマの子ども、イタリア人以外の子ども(保護者のいない未成年者を含む)および障害児が経験している、経済的および社会的権利の享受における格差について懸念を覚えるものである。
21.条約第2条およびその他の関連条項ならびに前回の勧告(前掲、パラ17および18)にしたがい、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 社会の否定的な態度を防止しかつこれと闘うため、包括的な公衆教育キャンペーンのようなあらゆる適当な措置をとるとともに、人種差別撤廃委員会の勧告(A/56/18、パラ298および320)を実施すること。
  • (b) 人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容のいかなる行為も犯罪とし、かつこれらの行為に対して適当な刑事制裁を科すための努力を強化すること。
  • (c) 子どもによる権利の享受における既存の格差を注意深くかつ定期的に評価するとともに、この評価に基づき、積極的措置を通じて差別を防止しかつ解消するための必要な措置をとること。
  • (d) 地方自治体への権限委譲プロセスにより、子どもが属する州の豊かさに基づく子ども間の格差の解消が増進されることを確保すること。
  • (e) 引き続き、もっとも脆弱な立場に置かれた集団に属する子どもへの資源および社会サービスを引き続き優先させ、かつその対象を明確化すること。
  • (f) 拘禁されている外国人の子どもの状況を速やかに研究し、これらの子どもの全面的権利(とくに教育に対する権利)を差別なく確保し、かつ社会への統合に対するこれらの子どもの権利を確保すること。
22.委員会は、「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対する世界会議」(2001年)で採択されたダーバン宣言および行動計画をフォローアップするために締約国が実施した措置およびプログラムのうち条約に関わるものについて、条約第29条1項(教育の目的)に関する委員会の一般的意見1号も考慮に入れながら、次回の定期報告書で記載するよう要請する。
子どもの最善の利益
23.委員会は、憲法裁判所が子どもの最善の利益の原則を憲法上の原則と位置づけたことを歓迎するものの、締約国の政策およびプログラムの実施において子どもの最善の利益の一般原則(第3条)が全面的には適用されておらずかつ適正に統合されていないことを依然として懸念する。
24.委員会は、子どもの最善の利益の一般原則がすべての法律および予算ならびに司法上および行政上の決定ならびに子どもに影響を与えるプロジェクト、プログラムおよびサービスに適切に統合されることを確保するため、締約国があらゆる適当な措置をとるよう勧告する。
子どもの意見の尊重
25.委員会は、条約第12条に掲げられた一般原則が実際上全面的には適用されていないことを懸念する。これとの関連で、委員会は、意見を聴かれる子どもの権利が、子どもに影響を与える手続(とくに親の別居、離婚、養子縁組もしくは里親養護の事案)または教育において不十分にしか保障されていないことを懸念するものである。
26.委員会は以下のことを勧告する。
  • (a) 裁判所における手続および行政上の手続を規律する立法において、自己の意見を形成する能力のある子どもがその見解を表明する権利を認められ、かつ当該見解が正当に重視されることが確保されるべきこと。
  • (b) 脆弱な立場に置かれた集団にとくに注意を払いながら、家庭、学校その他の施設および機関ならびに社会一般におけるすべての子どもの参加権がとくに重視されるべきこと。
  • (c) この原則の実施に関する、公衆一般の意識啓発ならびに専門家の教育および研修が強化されるべきこと。

3.市民的権利および自由

アイデンティティに対する権利
27.委員会は、養子が、成年に達した後にかつその子どもの最善の利益であることが証明された場合でさえ自己の実親の素性を知ることができないことを懸念する。委員会はさらに、婚外子が、母および(または)父によって認知されなければ、法律上は母も父も有しないことになるのを懸念するものである。
28.条約第7条に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 養子であるか、いずれの親からも認知されていない婚外子であるかに関わらず、自己の親の素性を知る子どもの権利が尊重されることを可能なかぎり確保すること。
  • (b) (マルクス対ベルギー(Marckx v. Belgium)事件における欧州人権裁判所の決定および「母親は常に確定している」(mater semper certa est)という原則にしたがって)婚外子が出生時から法的に母を有することを確保し、かつ(「安易な」子どもの遺棄を防止する方法として)父によるこれらの子どもの認知を奨励する目的で、法律を緊急に見直しかつ改正すること。
  • (c) 婚外子の法的地位に関する欧州条約を批准すること。
思想の自由
29.委員会は、締約国報告書(パラ147)で述べられているように、子ども、とくに小学生の子どもが、主としてカトリックの信仰を取り上げている宗教の授業を欠席した場合に周縁化されるおそれがあることを、懸念する。加えて委員会は、親、とくに外国出身の親が、宗教の授業が義務的なものではないことを常に理解しているわけではないことを懸念するものである。
30.条約第2条、第14条および第29条に照らし、委員会は、締約国が、親(とくに外国出身の親)が関連の書式に記入する際、カトリックの信仰に基づく授業は義務的ではないことを確実に理解するようにすることを勧告する。
拷問および不当な取扱い
31.委員会は、法執行官が子どもに対する不当な取扱いを行なっているという訴えがあること、および、とくに外国人およびロマの子どもに対する虐待が蔓延していることを、深く懸念する。
32.前回の勧告(前掲パラ20)にしたがい、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 拷問または他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは処罰の犯罪を刑法に編入すること。
  • (b) 逮捕、尋問および警察留置の際にならびに拘禁センターにおいて行なわれる不当な取扱いについての法執行官に対する苦情を受理するための、子どもに配慮した機構を設置すること。
  • (c) 警察および憲兵隊ならびに拘禁センターの専門家を対象として、子どもの人権に関する体系的研修を実施すること。

4.家庭環境および代替的養護

家庭環境を奪われた子ども
33.委員会は、養子縁組および里親養護に関する法律第184/83号(法律第149/2001号による改正法)が締約国全域で広く実施されていないこと、および、いまもなお里親養護よりも施設に措置される子どものほうが多いことに、懸念とともに留意する。委員会はまた、社会的保護の目的で施設に措置され、かつ時として罪を犯した少年とともに施設に措置される子どもが多いことにも、懸念を表明するものである。加えて委員会は、国家子ども・青少年資料分析センターによる1998年の研究によれば、施設入所期間がきわめて長くなる場合があること、家族との接触が常に保障されるわけではないこと、および、これらの施設のうち19.5%は適正な認可を受けていないことを、懸念する。
34.条約第20条に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 法律第184/83号の実施を確保するため、あらゆる必要な措置をとること。
  • (b) 防止措置として、親の教育およびカウンセリングならびにコミュニティを基盤とするプログラム等を通じ、子どもの養育責任に関して家族を援助するための社会的な援助および支援を向上させること。
  • (c) 里親養護、家庭的里親ホームおよび家族を基盤とする他の代替的養護のような、施設措置に代わる諸形態を発展させるために効果的措置をとるとともに、子どもの施設措置は最後の手段としてのみ行なうこと。
  • (d) 独立機関による施設の定期的査察を確保すること。
  • (e) 養護を受けている子どもからの苦情を受理しかつこれに対応する効果的機構を設置し、養護の水準を監視し、かつ、条約第25条に照らし、措置の定期的審査を確立すること。
養子縁組
35.委員会は、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約(1993年)を締約国が批准したことを歓迎するものの、関係する認可斡旋機関によって国内養子縁組の手続および費用が異なることを依然として懸念する。
36.条約第21条に照らし、委員会は、締約国が、以下のことのために必要な措置をとるよう勧告する。
  • (a) 締約国全域の認可斡旋機関の間で国内養子縁組の手続および費用を調和させること。
  • (b) 前掲ハーグ条約を批准していない(送り出し)国との間で二国間協定を締結すること。
暴力、虐待およびネグレクト
37.委員会は、子どもの不当な取扱い、虐待および性的搾取に関する行動の調整のための国家委員会が設置されたこと、および、総合的戦略が採択されたことを歓迎する。加えて委員会は、性暴力に関する法律第66/96号およびドメスティックバイオレンスに関する法律第154/2001号が制定されたことを歓迎するものの、子どもの虐待および(または)ネグレクトに関する包括的なデータおよび情報が存在しないことを、依然として懸念するものである。さらに委員会は、子どもに対する暴力に関して法律に年齢制限が定められており、14歳または16歳(加害者との関係による)以上の子どもは同一の保護から利益を受けられないことを、懸念する。
38.条約第19条に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) このような慣行の規模、範囲および性質を評価する目的で、子ども、とくに脆弱な立場に置かれた集団の子どもに対する、とくに家庭および学校で行なわれる暴力、不当な取扱いおよび虐待(性的虐待を含む)についての研究を実施すること。
  • (b) 子どもの虐待を防止しかつこれと闘う目的で、子どもたちの関与を得ながら意識啓発キャンペーンを発展させること。
  • (c) 子どもに対するあらゆる形態の暴力からの特別な保護について設けられている年齢制限に関する法律を改正すること。
  • (d) 現行諸制度の活動に関する評価を実施し、かつこれらのタイプの事案に関与する専門家に対して研修を行なうこと。
  • (e) 被害を受けた子ども(そのプライバシー権も含む)の保護の向上を確保する目的で、ドメスティックバイオレンスならびに家庭における子どもの不当な取扱いおよび虐待(性的虐待を含む)の事案を、子どもに配慮した調査手続および司法手続を通じて効果的に調査すること。

5.基礎保健および福祉

基礎保健
39.委員会は、「病院における子どもの権利憲章」の採択を歓迎するとともに、交通事故による子どもの死亡件数およびHIV/AIDSに感染した子どもの人数が劇的に減少したことに留意する。しかしながら委員会は、脆弱な立場に置かれた集団に属する子どもが保健サービスの利用にためらいを覚えていることを懸念するものである。
40.委員会は、締約国が、すべての子どもを対象として保健サービスへのアクセスを促進し、かつ、すべての子どもが利用可能な保健サービスを求めるように親に対して奨励するための積極的措置をとるよう、勧告する。
思春期の健康
41.委員会は、青少年の間で心理的障害(とくに摂食障害)が広く蔓延していること、および、青少年(とくに外国系の青少年)の中絶件数が相対的に多いことを、懸念する。
42.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 精神保健サービスおよびカウンセリング・サービスを、これらのサービスが思春期の子どもにとってアクセスしやすく、かつこれらの子どもに配慮したものであることを確保しながら強化するためにあらゆる必要な措置をとるとともに、青少年の心理的障害の原因および背景に関する研究を実施すること。
  • (b) とくに性教育を含む健康教育を学校カリキュラムの一部とし、かつ避妊手段の利用に関する情報キャンペーンを強化することによって10代の妊娠率を削減するために、さらなる必要な措置をとること。

6.教育

43.委員会は、義務教育期間を8年から10年に延長する法律第9/99号が採択され、かつ教員の養成および研修を改善するためのさまざまなプログラムが実施されていることを歓迎するものの、後期中等教育における中退率が高く、かつ、子どもの文化的および社会経済的背景ならびにジェンダー(女子のほうが男子よりも中等教育修了証書を取得する人数が多い)、障害および民族的出身のようなその他の要因によって子どもの教育上の成果に差異があることを、依然として懸念する。加えて委員会は、学校でいじめが蔓延していること、および、教育において子どもの意見が考慮されていないことを懸念するものである。
44.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 後期中等教育における中退率を削減するための努力を強化すること。
  • (b) 女子および男子の間ならびに異なる社会的、経済的または文化的集団の子どもの間に見られる教育上の達成についての不平等を解消し、かつすべての子どもに良質な教育を保障するために、あらゆる必要な措置をとること。
  • (c) 学校におけるいじめその他の形態の暴力を防止するための十分な機構および体制を、子どもたちの参加を得ながら設置するための措置をとるとともに、これらの戦略の策定および実施に子どもたちを含めること。
  • (d) 締約国全域の法律において、条約第12条が反映され、かつ、自己の教育に関するあらゆる事柄(学校規律を含む)について意見を表明しかつそれを正当に重視される子どもたちの権利が尊重されることを確保すること。

7.特別な保護措置

保護者のいない未成年者
45.委員会は、外国人の子ども保護委員会が設置されたこと、および、出入国管理に関する法律第40/98号で、保健へのアクセスに関わって条約への具体的言及が見られることを歓迎する。しかしながら委員会は、保護者のいない未成年者を受け入れる十分な態勢が整えられていないこと、さまざまな州で保護者のいない未成年者に対応する手続の調和が図られていないこと、法律第189/2002号の新たな規定で資格外移民の拘禁が認められていること、政令第113/99号の実施によって十分なフォローアップが行なわれない送還が増加していること、および、未成年者の在留許可に関して2000年に変化が生じたことを、依然として懸念するものである。
46. 条約の原則および規定、とくに第2条、第3条、第22条および第37条にしたがい、かつ、子どもが庇護を希望しているか否かにかかわらず、委員会は、締約国が子どもに関して以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 人身取引および(または)性的搾取の被害を受けた者に特別な注意を払いながら、保護者のいない未成年者のための特別受け入れセンターを十分な数だけ設置するための努力を強化すること。
  • (b) これらのセンターにおける滞在が可能なもっとも短い期間に留められ、かつ、受け入れセンターでの滞在中および滞在後に教育および保健へのアクセスが保障されることを確保すること。
  • (c) 締約国全域で保護者のいない未成年者に対応するための、子どもの最善の利益にかなう調和化された手続を可能なかぎり早期に採択すること。
  • (d) 子どもの最善の利益にかなう場合には援助をともなう送還が構想され、かつこのような子どもについてフォローアップが保障されることを確保すること。
経済的搾取
47.委員会は、締約国における児童労働について国立統計研究所が最近発表した報告書に留意するとともに、この現象が締約国で広く蔓延していることに懸念を表明する。
48.委員会は、締約国が、最近の研究に基づき、とくに意識啓発活動および関連する要因の発見を通じて児童労働を防止しかつこれを解消することを目的とする、具体的かつ対象の明確な目標を掲げた包括的戦略を策定するよう、勧告する。
性的搾取および人身取引
49.委員会は、子どもを対象とする買春、ポルノおよびセックスツーリズムの搾取を禁じた法律第269/98号が採択され、かつ、「児童虐待ならびに性的目的の未成年者および女性の人身取引に対抗する政府の行動についての省庁間調整委員会」が設置されたことを歓迎する。にもかかわらず、委員会は、締約国において性的目的で人身取引の対象とされる子どもが多いことを、依然として懸念するものである。
50.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 1996年および2001年の〔子どもの〕商業的性的搾取に反対する会議で採択された宣言および行動綱領ならびにグローバルコミットメントにしたがい、性的目的の子どもの人身取引を防止しかつこれと闘うための努力を強化すること。
  • (b) 法律第269/68〔ママ〕号の実施状況を、とくに同法が性的搾取の「需要側」の問題を扱っている点について監視すること。
  • (c) この分野の政策およびプログラムに対し、十分な資源(人的資源および財源の双方)が配分されることを確保すること。
少年司法の運営
51.委員会は、少年司法制度の改革が行なわれようとしていることに留意する。委員会は、少年司法制度において外国系の子どもおよびロマの子どもに対する差別が行なわれていること、子どもの拘禁環境を監視する独立の体制が設けられていないこと、ならびに、少年司法制度関係者の研修が不十分であることを、懸念するものである。
52.委員会は、締約国が、少年司法制度の改革に際し、条約の規定および原則、とくに第37条、第40条および第39条、ならびに、少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止のための国連指針(リャド・ガイドライン)、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則および刑事司法制度における子どもに関する行動についてのウィーン指針のようなこの分野における他の関連の国際基準を全面的に統合するよう、勧告する。
53.とくに、委員会は締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 外国系の子どもおよびロマの子どもに対する差別を防止しかつ解消するため、意識啓発キャンペーンおよび関係者の十分な研修によるものも含むあらゆる必要な措置をとること。
  • (b) 未成年者を対象とする受け入れセンターおよび刑事施設への、公平な独立機関による定期的訪問を認めるとともに、自由を奪われたすべての子どもが、独立の、子どもに配慮したかつアクセスしやすい苦情申立て手続にアクセスできることを確保すること。
  • (c) 少年司法の運営に責任を負う者を対象として、子どもの権利に関する研修を実施すること。
マイノリティ集団に属する子ども
54.ロマの子どもの状況を向上させるために締約国が行なっている努力には留意しながらも、委員会は、ロマの子どもが困難な社会的状況にあり、かつこれらの子どもによる教育および保健サービスへのアクセスが不十分であることを、依然として懸念する。加えて委員会は、この集団の子どもに対し、時として締約国の職員からも差別が行なわれていることを、深く懸念するものである。
55.委員会は、締約国が、社会的排除および差別を防止し、かつロマの子どもがその権利(教育および保健ケアへのアクセスを含む)を全面的に享受できるようにするための包括的かつ積極的な政策およびプログラムを、ロマのNGOと協力しながら発展させるよう勧告する。

8.報告書の普及

56. 最後に委員会は、条約第44条6項に照らし、締約国が提出した定期報告書を広く公衆一般が入手できるようにするとともに、委員会が提起した事前質問事項に対する文書回答、関連の議事要録および報告書について委員会が採択した総括所見とともに報告書を刊行することを検討するよう、勧告する。このような文書は、政府、議会および一般公衆(関心のあるNGOを含む)の間で条約ならびにその実施および監視に関する議論および意識を喚起するため、広く配布されるべきである。

9.次回報告書

57.委員会が採択し、かつ第29会期に関する報告書(CRC/C/114)に掲載した報告の定期性に関する勧告に照らし、委員会は、条約第44条の規定を全面的に遵守した報告実践の重要性を強調する。条約に基づいて締約国が子どもに対して負う責任の重要な側面のひとつは、委員会が条約の実施における進展を審査する定期的機会を持てるようにすることである。これとの関連で、締約国が定期的にかつ時宜を得た報告を行なうことはきわめて重要である。委員会は、例外的措置として、締約国が条約を全面的に遵守してその報告義務の履行の遅れを取り戻すことを援助するため、締約国に対し、第4回報告書の提出期限である2008年10月4日までに、単一の統合報告書として第3回および第4回定期報告書を提出するよう慫慂する。委員会は、締約国に対し、その後は条約で予定されているとおり5年ごとに報告を行なうよう期待するものである。


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