総括所見:イタリア(第1回・1995年)


CRC/C/15/Add.41(1995年11月27日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1995年10月31日および11月1日に開かれた第235回~第238回会合(CRC/C/SR.235-238)においてイタリアの第1回報告書(CRC/C/8/Add.18)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1995年11月17日に開かれた第259回会合において。

A.序

2.委員会は、締約国が、ハイレベルかつ学際的な代表団を通じて、委員会とのオープンかつ実りのある対話に携わってくれたことに謝意を表する。委員会は、事前質問事項(CRC/C.10/WP.2)に記載された質問への回答としてイタリア代表団が文書回答を提出したこと、および、対話の途中で統計データが提供されたことを歓迎するものである。この補足的情報のおかげで委員会が締約国との建設的対話に携わることが可能になったことに満足感とともに留意しながらも、委員会は、締約国報告書の作成に関する委員会のガイドラインに政府が従っていないこと、および、事前質問事項で取り上げられているいくつかの問題が未回答のままになっていることに遺憾の意を表する。

B.積極的な側面

3.委員会は、1991年の条約発効以来、子どもの権利を促進しかつ保護するためにイタリア政府がとった立法上および行政上の措置を歓迎する。委員会は、イタリアにおいて条約が自動執行力を有しており、したがってイタリアの裁判所による直接適用が可能でありかつ実際に適用されてきたこと、および、法の抵触がある場合には国内法よりも国際人権基準が優先するという原則をイタリアが採用していることを、評価するものである。委員会はまた、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約(1993年)の批准を目的とした予備的措置がとられたことも歓迎する。
4.委員会は、イタリアにおいて、子どもの権利の保護および監視のためのさまざまな機関および機構、とくに、議会内に設置された子ども問題特別委員会、首相官邸内に創設された家族・社会問題部、子どもに関するデータ収集を委託されている国家子ども保護センター、および、同国家センターによって収集されたデータを分析し、かつ議会に対する年次報告書を作成する国家未成年問題検討局が設置されたことを歓迎する。
5.委員会は、児童保健および児童福祉の分野で達成された進展(とくに周産期死亡率の顕著な減少を含む)に、満足感とともに留意する。

C.主要な懸念事項

6.委員会は、子どもの権利の促進および保護のための活動を監視する、総合的かつ統合された機構が存在しないことを懸念する。委員会は、さまざまな関係政府機関間のならびに全国レベル、地方レベルおよび自治体レベル間の調整が不十分であること、および、条約のすべての領域を対象とした、かつイタリア国内のすべての集団に属する子どもを考慮に入れた包括的なデータ収集ネットワークが必要であることを、強調するものである。このようなデータ収集ネットワークは、子どもの権利に関する目標設定型の事業を実施し、かつ立法上および行政上の措置の効果を評価する上で必要不可欠である。
7.委員会は、条約の原則および規定が子どもおよび大人の間で同様に広く知られるようにし、かつ、子どもに関わるさまざまな専門家集団を対象として条約の原則および規定に関する十分な研修を行なうための措置が不十分であることを懸念する。
8.条約第4条の実施に関して、委員会は、経済的、社会的および文化的権利が利用可能な資源を最大限に用いることにより実施されることを確保するためにとられた措置が不十分であることを懸念する。委員会にとっては、締約国内においても、かつ国際開発援助の文脈のなかでも、社会部門に対して不十分な支出しか行なわれていないように思える。委員会はまた、子どもに関する問題に対する市民参加が立ち遅れていることも懸念するものである。
9.委員会はまた、条約の基本原則、とくに第2条、第3条および第12条が国内法および政策立案において常に十分に反映されているわけではないことも懸念する。
10.委員会はまた、締約国の北部と南部間に依然として際立った経済的および社会的格差が存在し、そのことが子どもたちの状況に悪影響を与えていることも懸念する。
11.差別の禁止に関わる条約第2条に関して、委員会は、貧困家庭およびひとり親家庭の出身の子ども、外国人およびロマの子どもならびに婚外子といった、脆弱なおよび不利な立場に置かれた集団の子どものニーズを評価しかつこれに対応するためための十分な措置がとられていないことを懸念する。委員会は、このような不利な立場に置かれた集団に属する子どもが、世間の眼によってスティグマを付与され、学校を中退し、非公然労働または非合法活動にさえ従事する(組織犯罪活動で利用されることを含む)可能性がより高いことを懸念するものである。
12.委員会は、身体的および性的虐待ならびに暴力を含む児童虐待が家族内に存在すること、これとの関連で刑法によって与えられる保護が不十分であること、および、そのような虐待の被害を受けた子どもが心理社会的に回復するための十分な措置が欠けていることを見過ごせない。

D.提案および勧告

13.委員会は、政府部局間ならびに中央、地方および自治体の公的機関間等における条約の実施の調整および監視を目的とした、全国的かつ恒久的な機構を発展させるよう勧告する。委員会はまた、政府が、子どもの権利のために活動している非政府組織とのいっそう緊密かつ活発な協力を検討するようにも提案するものである。このような措置は、市民社会との継続的対話、および、子どもの権利の促進および保護の分野における政府の活動の吟味を促進することに貢献できる。
14.委員会は、子どもの権利の分野における十分な政策立案を確保する目的で、子どもに関するデータ体系的データ収集および子どもに関係する問題(家族構造の変化を含む)についての調査研究を行なう勧告する。
15.委員会は、締約国に対し、条約の原則および規定を子どもおよび大人に対して同様に広く知らせるための系統的アプローチをさらに発展させることにより、子どもの権利の促進に関する一般の意識を高め、かつ子どもの権利の促進に対する市民の参加を向上させるよう奨励したい。同様に、子どもとともにまたは子どものために働いている専門家(教員、ソーシャルワーカー、法執行官、司法職員および国連平和部隊のイタリア派兵部隊要員を含む)のカリキュラムに、条約に関する研修が編入されるべきである。
16.締約国は、条約の規定および原則、とくに差別の禁止、子どもの最善の利益および子どもが自由に意見を表明する権利の原則を法律および実務に全面的に反映させるため、努力を継続すべきである。これとの関連で、委員会は、婚内子および婚外子の平等な取扱いを全面的に確保する目的で現行法を修正するよう、勧告する。
17.貧困下で暮らしている子ども、南部の子ども、ロマの子どもおよび外国人の子どものようなとくに脆弱な立場に置かれている子どもに対する差別的な態度および偏見が悪化することを防止するため、さらなる措置がとられるべきである。政府は、このような子どもの取扱いに関して、かつ、このような子どもがイタリア社会に可能なかぎり最大限に統合することに好ましい環境を創り出すための、いっそう積極的な立場および首尾一貫した政策を採用することを検討するべきである。条約第18条および第27条に照らして家族が子どもの養育責任を果たすことを援助する目的で、責任ある子育ておよび困窮家庭に対する支援のために包括的な措置をとることにより、家族の崩壊を制限し、施設に措置される子どもの数を減らし、かつ、施設措置の利用を最後の手段に限定することが求められる。
18.委員会は、イタリア政府に対し、条約の一般原則、とくに子どもの最善の利益に照らし、条約第4条の全面的実施に特段の関心を払うよう奨励する。委員会はまた、依然として存在する経済的および社会的格差を克服する方向に向けて、中央、地方および自治体のレベルで資源を公正に配分する必要があること、および、ひとり親家族を含む、社会で最も不利な立場に置かれている集団に対して特段の関心を払う必要があることも強調するものである。
19.委員会はまた、締約国が、子どものための社会的優先課題をいっそう重視できないかどうか評価することを目的として、条約の原則を、国際開発援助を強化する枠組みとして利用するようにも提案する。
20.委員会はまた、拷問または他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは処罰の明確な防止および禁止ならびに家庭における体罰の禁止が国内法に反映されるべきことも提案する。
21.委員会は、労働力としての子どもの違法な使用を防止し、かつ少年非行および犯罪活動における子どもの利用を防止するため、不利な立場に置かれている家族への援助を含む措置をとるよう、勧告する。これとの関連で、条約第28条に照らし、職業教育の導入のために学校のカリキュラムの十分な修正を行なうことが、中退率の削減に貢献し、かつ、子どもが違法な労働市場に参入しまたは犯罪活動にさえ関与することを防止する役に立つと思われることも、提案されるところである。
22.委員会は、締約国が提出した第1回報告書および文書回答、その検討の議事要録ならびに委員会の総括所見を、締約国内で可能なかぎり広く配布し、かつ、議会に送付してさらなる議論およびフォローアップを求めるよう勧告する。これとの関連で、委員会は、締約国に対し、国家未成年問題検討局が議会に提出する年次報告書を委員会に送付することも要請するとともに、当該年次報告書、および、今後5年間の具体的な目標および時間的枠組みを掲げた行動計画において、イタリアの第1回報告書の検討の際に委員会が特定した優先領域(関連の議事要録に記録されている)を考慮に入れるべきことを提案したい。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年11月17日)。
最終更新:2012年11月17日 17:44