総括所見:シリア(第1回・1997年)


CRC/C/15/Add.70(1997年1月24日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1997年1月16日および17日に開かれた第360回~第362回会合(CRC/C/SR.360-362)においてシリア・アラブ共和国の第1回報告書(CRC/C/28/Add.2)を検討し、委員会の総括所見を採択した。
  • (注)1997年1月24日に開かれた第371回会合において。

A.序

2.委員会は、政府代表団との間で交わされた建設的対話に対して評価の意を表明したい。委員会は、シリア・アラブ共和国によって第1回報告書および事前質問票(CRC/C/Q/SYR.1)への文書回答が提出されたことを歓迎しながらも、条約の原則および規定が実際にどのように実施されているかに関する情報が提供されず、同国の子どもの状況に関するより詳細な全体像を得ることができなかったことを、遺憾に思うものである。

B.積極的な側面

3.委員会は、条約が国内法に全面的に受容されており、かつ、民法および刑事手続法において、その規定がシリアで効力を有する国際条約の規定と矛盾する場合には適用されないと明示的に規定されていることに、評価の意とともに留意する。委員会はまた、条約の原則および規定との一致を確保するために国内法の多くの規定が現在見直されつつあることも歓迎するものである。
4.委員会は、子どもの福祉のための高等委員会を閣僚レベルに設置したこと、シリアにおける条約の実施を監視するために国内子ども委員会を設置したこと、および、1990年代における子どもの生存、保護および発達に関する世界宣言を実施するための国内行動計画を採択したことなど、政府によって行なわれた取り組みを歓迎する。
5.委員会は、教育があらゆる段階で無償であることおよび1981年の義務教育法(第35号)によって初等段階の教育が義務的であることに、評価の意とともに留意する。
6.委員会はさらに、政府が第1回報告書、委員会との議論の議事要録およびここに採択された総括所見を刊行するつもりであることに、評価の意とともに留意する。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

7.委員会は、領土の一部が占領されている結果、締約国が全領土に管理権を行使する立場になく、そのため締約国のあらゆる地域で条約の実施を確保することはできないことに留保する。この文脈において、委員会はまた、軍事支出に相当の予算が割り当てられ、かつ社会部門に配分される予算が不十分であるために、条約に基づく権利を子どもが享受することが阻害される可能性があることにも留意するものである。

D.主要な懸念事項

8.委員会は、締約国が条約第14条、第20条および第21条に付した留保が幅広い性質のものであることにより、これらの条項で対象とされている権利を実施することに対する締約国の決意の性質に関して誤解が生じかねないことを懸念する。
9.全国レベルで子どもの福祉の問題を取り扱う権限を有した政府機関が存在することは歓迎しながらも、委員会は、条約の実施に対する包括的なアプローチを発展させるにあたり、こうした機関の間ならびに全国機関および地域機関の間での調整が不十分であることに、懸念を表明する。
10.委員会は、教育、保健、児童労働、難民である子どもおよびマイノリティに属する子ども、女子、少年司法の運用の対象となった子ども、障害児、虐待または不当な取扱いの犠牲となった子どもならびに路上で暮らしかつ/または働いている子どもにとくに力点を置いて、達成された進展を評価しかつ子どもに関わってとられた政策の影響を評価できるように、あらゆる集団の子どもとの関わりで、かつ条約が対象としているすべての領域について、信頼しうる量的および質的データを体系的に収集するためにとられた措置が不十分であることを懸念する。
11.条約の原則および規定に関する意識を促進するために行なわれた取り組みは認めながらも、委員会は、その原則および規定が子ども、親、行政職員ならびに子どもとともにおよび子どものために働く専門家に広く知られるようにするための措置が不十分であることを、依然として懸念する。これとの関連で、委員会はとくに、警察の構成員およびその他の法執行官、司法職員、あらゆる教育段階の教員、ソーシャルワーカーならびに医療従事者を対象として子どもの権利の分野で行なわれた研修が不十分でありかつ体系的なものでないことを懸念するものである。委員会はまた、公衆の間で、子どもおよびおとなの双方に向けた形式で、かつその教育レベルにしたがって条約の本文を刊行しかつ普及するための措置がとられていないことも懸念する。
12.委員会は、子どもの最善の利益、差別の禁止ならびに子どもの意見の尊重および家庭、学校および社会生活に参加する子どもの権利が国内法に全面的に反映されておらず、かつ現実に実施されていないことに、懸念とともに留意する。委員会はまた、関連の国内法が条約に基づく子どもの定義と一致していないこと、とくに刑事責任年齢(7歳)および雇用にアクセスできる年齢が低いことを懸念する。
13.委員会は、女子に対する差別的態度(早期婚の慣習を含む)および婚外子に対する差別的態度が依然として残っていることに対し、懸念を表明する。さらに、女子の婚姻年齢が男子のそれより低いことは、条約、とくに第2条との両立性に関して疑問を生ぜしめるものである。
14.条約第4条の実施に関して、委員会は、子どもの経済的、社会的および文化的権利の実施を、とくに保健および教育に力点を置いて、締約国が利用可能な手段を最大限に用いて確保するためにとられた措置が不十分であることに、懸念とともに留意する。委員会はとくに、最も脆弱な立場に置かれた子ども、とりわけ貧困下で暮らしている子ども、女子、障害児、虐待の被害を受けた子ども、マイノリティ集団に属する子どもおよび路上で暮らしかつ/または働いている子どもの権利を保護するための政策、措置およびプログラムが不十分であることを懸念するものである。
15.難民である子どもおよびシリアで生まれたクルド人の子どもの状況は、条約第7条に照らし、委員会の懸念の対象である。これとの関連で、委員会は、シリアで生まれた難民の子どもを登録するための便益が存在しないこと、および、シリアで生まれたクルド人の子どもが、シリア当局によって外国人またはマクトゥーミーン(未登録者)のいずれかと見なされ、かつ、出生時に他の国籍は有していないにも関わらず、シリア国籍を取得する上で行政上および実際上の困難に直面していることに、留意する。
16.教育に関して、委員会は、中等教育段階の中退率がとくに女子の間で高いこと、教員/生徒の割合が高いことならびに十分な学習用および教育用の便益が存在しないことに、懸念とともに留意する。委員会はさらに、学校カリキュラムでいまなお人権教育および子どもの権利教育のプログラムが掲げられていないことに留意するものである。
17.委員会は、家庭における不当な取扱いおよび虐待を防止しかつそれと闘い、かつそのような不当な取扱いおよび虐待の犠牲になった子どもの身体的および心理的回復ならびに社会的再統合を提供するための適切な措置がとられていないこと、および、この件に関して情報が提供されていないことを懸念する。委員会はまた、体罰は法律で禁じられているにも関わらず、学校における規律の維持のための措置としてしばしば体罰が行なわれていることにも、懸念とともに留意するものである。
18.委員会は、子どもの最低雇用年齢が低すぎること、および、家内制産業で働く子どもが最低雇用年齢、夜業の禁止および有害な職業に関する他の保護措置を含む労働法(1959年第91号法)の関連規定で保護されていないことに、懸念とともに留意する。さらに、委員会は、農業部門で児童労働の搾取が行なわれているという報告があること、および、この現象と闘いかつそれを防止するために利用可能な手段が農村部において存在しないことに、懸念を表明するものである。
19.委員会は、締約国の少年司法の運用の制度が条約第37条および第40条、ならびに、北京規則リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護のための国連規則といったこの分野における他の関連の国連基準に一致していないことに、懸念を表明する。委員会はとくに、子どもが非常に低い年齢から自由を奪われうること、および、子どもの施設ケアに代わる措置を見つけることにこれまで十分な注意が払われてきていないことに、留意するものである。

E.提案および勧告

20.委員会は、締約国に対し、条約第14条、第20条および第21条に関する留保を再検討するよう奨励する。これとの関連で、委員会は、締約国が解釈宣言を行なうことにより、これらの特定の権利に関する締約国の立場を明確にする上で望ましい効果が得られる可能性があることを強調するものである。
21.児童福祉高等委員会および全国子ども委員会の設置を歓迎しながらも、委員会は、これらの委員会を通して、子どもの権利の保護ならびにそれに関するさまざまな政策およびプログラムの実施に携わる、中央および地方の行政機関と諸機関との間の縦の調整を増大させかつ組織化するために、さらなる努力を発展させるよう勧告する。
22.委員会は、データ収集システムを改善するとともに、当該システムにより、さらなる行動が必要とされている部門の特定および達成された進展の評価を、条約が対象としているすべての領域において、全国で、かつとくに困難な状況にいる子どもも含めたあらゆる集団の子どもとの関わりで可能にするため、適切かつ具体的な細分化された指標を特定するよう勧告する。
23.委員会はまた、締約国が、条約第42条に照らして、条約の原則および規定に関する公衆の意識を促進する分野でその活動を継続しかつ強化すること、および、子どもとともにおよび子どものために働く行政職員および専門家(警察の構成員およびその他の法執行官、司法職員、あらゆる教育段階の教員、ソーシャルワーカーならびに医療従事者を含む)の継続的な研修のためのプログラムを創設することを、勧告する。委員会はまた、現在進められている学校カリキュラムの見直しのなかで、教育プログラムへの条約の一般原則の導入がとくに重視されるべきことも勧告するものである。
24.委員会は、締約国が、条約の一般原則、とくに子どもの最善の利益、差別の禁止ならびに子どもの権利の尊重および家族、学校および社会生活に参加する子どもの権利に関わる原則を正当に考慮しながら、条約と国内法との全面的一致を確保する目的で努力を継続するよう勧告する。これとの関連で、委員会は、適切な場合にはいつでもこれらの原則を反映した具体的規定を法律に導入すること、および、女子の最低婚姻年齢、刑事責任年齢ならびに雇用および家内制手工業での仕事にアクセスできる最低年齢に関わる規定を優先課題として見直し、かつ条約の原則と一致させることを勧告するものである。
25.委員会は、広く存在している女子差別を防止しかつそれと闘うための情報キャンペーンを開始するよう勧告する。委員会はまた、婚外子の保護のために適切な積極的是正措置をとるようにも勧告するものである。
26.委員会はまた、条約第4条に照らし、子どもの経済的、社会的および文化的権利の実現の予算配分に、保健および教育ならびに最も不利な立場に置かれた集団に属する子どもによるこれらの権利の享受をとくに重視しながら、優先順位を与えるようにも勧告する。これとの関連で、委員会は、児童福祉高等委員会および全国子ども委員会の決定が予算に直接かつ即時の影響を与えるようにすることを目的として、全体的な計画および予算配分に責任を持つ省庁がこれらの機関の活動に全面的に関与するよう提案するものである。
27.シリアで生まれた難民である子どもおよびシリアで生まれたクルド人の子どもが条約第7条に基づく権利を享受することに関して、委員会は、登録される権利および国籍を取得する権利は、条約第2条にしたがい、とりわけ子どもまたはその親もしくは法定保護者の人種、宗教または民族的出身に関わりなく、いかなる種類の差別もなしに、シリア・アラブ共和国の管轄下にあるすべての子どもに保障されるべきであることを強調する。委員会はまた、締約国が、1951年の難民の地位に関する条約および1967年の同条約の議定書ならびに1961年の無国籍の削減に関する条約の批准を検討するようにも勧告するものである。
28.委員会は、当局が、家庭における不当な取扱いおよび虐待ならびに学校における体罰の問題に特段の注意を向けるよう勧告する。これとの関連で、委員会は、家庭または学校におけるあらゆる形態の身体的または精神的罰を防止しかつそれと闘うための情報キャンペーンおよび教育キャンペーンを行なうこと、および、そのような不当な取扱いまたは虐待の被害を受けた子どもが利益を得られるようにすることを目的とした苦情申立ての仕組みを創設することの必要性を強調するものである。委員会はさらに、そのような不当な取扱いおよび虐待の被害を受けた子どもの身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のための仕組みを創設するよう、勧告する。
29.委員会はさらに、労働法(1959年第91号法)のうち雇用に関わる子どもの保護規定を見直し、かつ条約、とくに第32条と一致させるよう勧告する。委員会は、締約国が、就業が認められるための最低年齢に関するILO第138号条約の批准を検討するよう提案するものである。
30.委員会は、締約国が、条約第37条、第39条および第40条ならびに北京規則リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護のための国連規則といったこの分野における他の国連基準の精神にしたがって少年司法制度の改革を行なうことを構想するよう、勧告する。この目的で、委員会は、締約国が〔国連〕人権高等弁務官/人権センターおよび事務局の犯罪防止刑事司法局の技術援助プログラムを利用するよう提案するものである。委員会はさらに、少年司法の運用の対象となった子どもの苦情を受け付けかつ検討する独立監視機関の設置を、シリア当局がしかるべき形で検討するよう提案する。
31.委員会は、条約の原則および規定の精神にしたがって締約国が行なっている法律の見直しおよび政策の採用を踏まえ、とくに保健および家族計画、教育および人権教育ならびに子どもの虐待(早期婚および家庭における子どもの性的虐待を含む)の分野で、ユニセフならびに国内の非政府組織および国際的非政府組織と緊密に協力しながら研究を行なうよう勧告する。
32.最後に、締約国がその第1回報告ならびに委員会との議論の議事要録およびここに採択された総括所見を刊行する意図があることを想起しながらも、委員会は、条約第44条6項に照らし、政府、議会および関心のある非政府組織を含めた一般公衆の間で条約、その実施および監視に関する議論および意識を喚起することを目的として、そのような刊行物を公衆一般が広く利用できるようにするよう勧告する。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年6月25日)。