総括所見:カナダ(第1回・1995年)


CRC/C/15/Add.37(1995年6月20日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1995年5月24日および26日に開かれた第214回、第215回、第216回および第217回会合((CRC/C/SR.214 to 217)においてカナダの第1回報告書(CRC/C/11/Add.3)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1995年6月9日に開かれた第233回会合において。

A.序

2.委員会は、締約国に対し、締約国が委員会のガイドラインに従い包括的な報告書を提出したこと、および、ハイレベルな代表団を通じて委員会との建設的かつ率直な対話に携わったことへの評価の意を表明する。委員会は、今会期前に送付された事前質問事項に掲げられた質問への回答としてカナダ代表団により文書による情報が提供されたこと、および、議論の過程で追加情報が提供されたことを歓迎するものである。このことにより、委員会は、カナダの子どもの権利の状況をよりよく評価することができた。委員会は、さらに、委員会との対話の後に締約国により提出された文書による追加情報を歓迎する。

B.積極的な側面

3.委員会は、締約国が、条約で認められた子どもの権利の実施のためにさらなる措置をとることに固い決意を表明していることを評価する。委員会は、カナダが、子どもの権利に関する条約の起草過程および1990年子どものための世界サミットの開催にあたって指導的役割を果たした事実は、特筆に値すると考えるものである。
4.委員会は、権利および自由に関するカナダ憲章を通じておよび子どもの権利の領域における立法上の措置の採択を通じて、人権、とくに子どもの権利の保護が一般的に強化されていることに、満足感とともに留意する。委員会はまた、少年司法の領域において条約の規定をよりよく実施することを具体的に意図した犯罪防止国家評議会の設置を歓迎するものである。
5.委員会は、さらに、子どものための世界サミット後に子ども局が設置されたこと、および、政府の政策において条約が考慮に入れられることを確保する上で、かつ、当局ならびに民間部門およびボランティア部門との協議を可能にする上で、同局が果たしている役割を歓迎する。委員会は、条約に関する情報を普及するために行なわれた数多くの活動に、満足感とともに留意するものである。
6.委員会は、現在の景気後退から生ずる困難にも関わらず、増加しつつある貧困に立ち向かい、かつ、現在存在する格差を縮小させるための措置をとることに関して代表団により表明された決意を歓迎する。委員会は、これとの関連で、子どもの権利の促進および保護の領域で州政府および準州政府を援助することを目的とした家族支援執行基金の設置に留意するものである。
7.委員会は、子どもの障害を早期に発見するために学校および地域コミュニティ・サービスによりとられている具体的活動を歓迎する。
8.委員会はまた、ユニセフおよび他の政府組織または国際非政府組織との協力で国際事業に参加する際にカナダが行なっている取組みにも留意する。

C.主要な懸念事項

9.委員会は、カナダが連邦制をとっていることが条約の実施を複雑なものにする要因になっており、かつ、子どもに影響を与える事柄をめぐる連邦政府、州政府および準州政府との間の厳密な責任分担が不確定要素を生じかねないという、締約国の報告書に記載された記述に留意しつつも、カナダは条約の批准により生じるとされる義務を全面的に遵守しなければならないことを強調する。委員会は、締約国のすべての地域において効果的な条約の実施制度が確立されることを可能にするであろう恒久的な監視機構の設置に対し、十分な関心が払われていないことを懸念するものである。条約の実施に影響を与える州または準州の立法または慣行に格差が存在することも、委員会の懸念するところである。たとえば、非嫡出子の法的地位の定義が州の責任事項とされていることは、そのような子どもたちが締約国のさまざまな地域において受ける法的保護のレベルが異なるのではないかと思える。
10.委員会は、締約国が条約第21条および第37条c)に留保を付したことに、懸念とともに留意する。
11.委員会は、国内法における条約の価値に関して懸念を表明する。条約の基本的規定および原則の一部、とくに差別の禁止、子どもの最善の利益および子どもの意見の尊重に関する原則は、国内法および政策立案において必ずしも十分には反映されてきていない。
12.委員会は、とくに脆弱な立場に置かれた立場にあるグループの中で、子どもの貧困が問題として浮上してきていることに懸念する。また、ますます多くの子どもたちがひとり親家庭またはその他の問題のある環境で育てられていることも心配されるところである。すでに行なわれている事業は評価しつつも、委員会は、そのような子どもたちに対し、とくに教育、居住および栄養に関して必要なケアを提供するための特別な事業およびサービスの必要性を強調する。
13.委員会は、カナダが長年に渡って多くの難民および移民を受け入れる取組みを行なってきたことを認識する。にも関わらず、委員会は、難民または移民の子どもたちの状況を担当する行政機関によって、差別の禁止の原則、子どもの最善の利益の原則および子どもの意見の尊重の原則が常に重視されてきたわけではないことを、遺憾に思うものである。とくに、治安上その他の関連する目的により移民担当官が子どもの自由の剥奪という手段に訴えてきたこと、および、家族再会が積極的、人道的かつ迅速なやり方で対処されることを目的とした措置が不十分であることが憂慮される。委員会は、具体的には、家族の1人またはそれ以上の構成員が、カナダにおいて難民としての地位を得る資格があると考えられる場合、および、カナダにおいて生まれた難民または移民の子どもが、強制送還命令を出された親と分離されるかもしれない場合において、家族の再会への対処に時間がかかることを、遺憾に思うものである。
14.学校または子どもが措置される可能性のある施設における、あらゆる形態の体罰および子どもの不当な取扱いを効果的に防止し、かつ、それと効果的に闘うためのさらなる措置が必要であるように思える。委員会はまた、家族の中で児童虐待および暴力が存在していること、および、この点で既存の立法では十分な保護が与えられていないことに、とりわけ関心を持つものである。
15.委員会は、さらに、有害な情報、とくに暴力を煽りまたは暴力を含むテレビ番組からの情報から子どもが十分に保護されるようにすることが緊急に必要であることに留意する。
16.加えて、若者の間で自殺の発生率が増加していることも懸念の対象である。
17.委員会は、すでにとられた措置については認識しつつも、先住民族の子どもたちのように、脆弱かつ不利な立場に置かれた集団に属する子どもが、住居および教育へのアクセスを含む基本的な権利の享受に関していまだに深刻な問題に直面していることに、懸念とともに留意する。

D.提案および勧告

18.委員会は、カナダに対し、条約に対する留保を再検討し、かつ、その撤回の可能性を検討するよう奨励したい。委員会は、この基本的な問題に関してどのような進展があったかについて、随時情報を得たいと思うものである。
19.委員会は、締約国に対し、条約に関する情報を普及し、かつ条約に対する公衆の意識を向上させることを目的とした政策を追求しかつ発展させるよう奨励する。委員会は、「国連人権教育の10年」の枠組みのなかで、子どもたち自身も含む一般の公衆を条約の原則および規定に敏感にするための全国的啓発キャンペーンを開始するよう、かつ、学校のカリキュラムに子どもの権利を編入することを考慮するよう、勧告するものである。同時に、締約国は、子どもたちに対応する専門職集団、とくに裁判官、弁護士、移民担当官、PKO要員および教師の研修カリキュラムに条約を統合するよう求められる。
20.委員会は、条約の実施において格差または差別が生ずるいかなる可能性をも払拭し、かつ、領域内のすべての地域において条約が全面的に尊重されることを確保するために、締約国が、立法上のおよび行政上の枠組みのなかで存在する機構の協力を強化し、かつ、子どもの権利の領域において連邦政府、州政府および準州政府の調整を増進するよう勧告する。委員会はまた、監視機構をより効果的なものとするために、人権担当官委員会のような連邦の監視機構に力点が置かれるべきであることも勧告するものである。条約のすべての領域を対象とし、かつ、カナダの管轄下にあるすべての集団に属する子どもを考慮に入れたデータを収集するための、包括的なネットワークの確立も勧告される。子どもの権利の領域における、当局、非政府組織および先住民族コミュニティの協力も、さらに強化されるべきである。
21.委員会は、カナダ政府に対し、条約の一般原則、とくに子どもの最善の利益に照らして、条約第4条の全面的実施を確保するよう奨励する。入手可能な資源は、最大限、経済的、社会的および文化的権利の実施を確保するために配分されるべきである。委員会はまた、子どもの貧困の問題に取り組むための措置をただちにとる必要があること、および、すべての家族、とくにひとり親家族が十分な資源および便益を得られるようにするためにあらゆる可能な措置をとる必要があることも強調する。
22.委員会はまた、締約国が、条約の原則および規定を、国際開発援助の枠組みとして用いることも奨励する。
23.条約が裁判所において国内法の解釈の手段としてしか参照されないという事実に鑑み、委員会は、国内における条約の効果的実施を確保するためにさらなる措置がとられるべきことを勧告する。これとの関連で、委員会は、条約の一般原則、とくに、それぞれ第2条、第3条および第12条で保障されている差別の禁止、子どもの最善の利益および子どもの意見の尊重に関わる原則が国内法に反映されるようにするための措置をとる重要性も強調したい。とくに第12条に関しては、司法上および行政上の手続において聴聞される機会が子どもたちに与えられるべきことが勧告されるところである。
24.委員会は、強制送還手続も含む難民および移民の子どもたちの保護に関わる事柄において、条約第22条および条約の一般原則、とくに子どもの最善の利益および子どもの意見の尊重を実施することに、締約国がとくに配慮するよう勧告する。委員会は、家族の1人またはそれ以上の構成員が、カナダにおいて難民としての地位を得る資格があると考えられる場合には、家族の再会を促進しかつ迅速なものとするために、あらゆる可能な措置がとられるよう奨励するものである。条約第9条に照らし、家族の分離を生ぜしめる追放を避けるための解決策も模索されるべきである。さらに一般的には、委員会は、政府が、大人のつきそいのいない子ども、および、難民としての地位を拒否され送還を待っている子どもの状況に、条約の規定に照らして取り組むよう勧告する。子ども、とくに大人のつきそいのいない子どもに対する治安上その他の目的による自由の剥奪は、条約第37条(b)に従い、最後の手段としてのみ利用されるべきである。
25.委員会は、締約国が、親による体罰、学校における体罰および子どもが措置される可能性のある施設における体罰を許容する刑事立法を再検討する可能性について検討するよう、提案する。これとの関連で、かつ条約第3条および第19条に掲げられた規定に照らし、委員会は、家庭における子どもの体罰を禁止するよう勧告するものである。条約、とくにその第19条、第28条および第37条によって認められた子どもの身体的不可侵性への権利との関連で、かつ子どもの最善の利益に照らし、委員会はさらに、家庭における暴力を防止するための新たな立法およびフォローアップ機構の導入の可能性について締約国が検討すること、および、家庭における体罰の使用に関する社会の態度を変え、かつその法的禁止を受け入れる姿勢を促進するための啓発キャンペーンを行なうことを、提案する。
26.委員会は、先住民族の子どもたちのように脆弱かつ不利な立場にある集団に属する子どもが、教育および住居へのアクセスを促進するための積極的是正措置から利益を享受できるようにするための取組みを、締約国が強化するよう勧告する。先住民族コミュニティの子どもたちの間で幼児死亡率および自殺率が増加していることに関連する問題について、調査が計画されかつ実施されるべきである。
27.最後に、条約第44条6項に照らし、委員会は、カナダから提出された第1回報告書を公衆一般が広く利用できるようにし、かつ、関連の議事要録およびその後委員会によって採択された総括所見とともに報告書を刊行することを検討するよう、勧告する。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年4月30日)。
最終更新:2012年04月30日 10:23