総括所見:フィンランド(第1回・1996年)


CRC/C/15/Add.53(1996年2月13日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1996年1月23日および24日に開かれた第282~284回会合((CRC/C/SR.282-284)においてフィンランドの第1回報告書(CRC/C/8/Add.22)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1996年1月26日に開かれた第287回会合において。

A.序

2.委員会は、フィンランド政府に対し、委員会のガイドラインにしたがって作成された第1回報告書の提出および事前質問事項((CRC/C.11/WP.6)に対する文書回答の提出に関して評価の意を表する。委員会は、代表団が補足的情報を提供してくれたことおよび代表団が条約に関する問題に従事していることにより、委員会が締約国との率直かつ建設的な対話に携わることが可能になったことに、満足感とともに留意する。

B.積極的な側面

3.委員会は、政府が包括的な社会保障制度ならびに子どもおよびその親のための幅広い福祉サービス、とりわけ無料の保健ケア、無償教育、長期の母性休暇および広範な保育制度を提供していることに、満足感とともに留意する。
4.委員会は、条約の規定を全面的に実施し、かつ現在の景気後退が子どもたちに与える影響を最大限に減らすことにより締約国の管轄下にある子どもの権利を保護することを目的として、締約国が議会に国家子ども政策報告書を提出したことを歓迎する。
5.委員会は、法改正の領域で政府が行なっている努力に留意する。委員会は、1995年にフィンランド憲法が改正され、それ以降、人権および子どもの権利の基本原則が盛りこまれるようになったことを歓迎するものである。委員会は、子どもの権利オンブズパーソンの将来の任命に関して現在議会で行なわれている議論を歓迎する。委員会は、また、フィンランド刑法の改正に向けて現在努力が行なわれていることにも留意するものである。最後に、委員会は、環境問題が子どもたちの生活に与える影響に関して政府が最近行なった調査およびそれに関してとられた措置を歓迎する。
6.委員会はまた、政府が、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約(1993年)の批准案件をフィンランド議会に提出したことも歓迎する。
7.委員会は、景気後退のため1990年以降開発援助への予算配分が一時的に減らされているとはいえ、国際協力の領域で締約国が行なってきた長期的努力に留意する。
8.最後に委員会は、委員会の委員との対話の議事要録および委員会の総括所見を議会で回覧したいという締約国の希望に留意する。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

9.委員会は、現在の構造的変化および景気後退の時期にあたってフィンランドが直面している困難に留意する。地方分権化および民営化方針、深刻な失業ならびに国家予算の削減が、フィンランドの子どもたち、とくにもっとも脆弱な立場に置かれた集団に影響を与えてきていることは疑いない。

D.主要な懸念事項

10.委員会は、締約国に蔓延しており予算削減を生ぜしめている困難な経済状況、ならびに、地方分権化および民営化に向かう現在の傾向が子どもたちに与えている影響について、不安を感ずる。これとの関連で、委員会は、とくに、条約第3条および第4条に照らし、子どもたち、とくにもっとも脆弱な立場に置かれた集団にに属する子どもたちを保護するために適切な措置がとられてきたかどうか、懸念するものである。
11.委員会は、子どもの権利の促進および保護のための包括的政策を実施するにあたってさまざまな省庁間ならびに中央当局および地方当局(自治体)との間に効果的な調整機構を確立する必要性について、十分な関心が払われていないことを懸念する。
12.委員会は、統合された監視機構、とくに、社会のもっとも脆弱な立場に置かれた集団、とりわけひとり親家庭および貧困家庭ならびに障害児、難民およびマイノリティの子どもに対し、地方分権化されかつ場合によっては民営化された自治体の社会政策およびサービス(保健、教育および社会ケア)が効果的に提供されているかどうかを監督することができる機構が存在しないことを、懸念する。
13.委員会は、締約国の法律および政策において、条約の一般原則、とくに差別の禁止(第2条)、子どもの最善の利益(第3条)および子どもの意見の尊重(第12条)がまだ全面的に考慮されていないことに、懸念を表明する。
14.委員会は、締約国において、子どもの権利約の包括的な広報および普及のための戦略が存在しないことを懸念する。委員会はまた、条約がまだ締約国に居住しているマイノリティが話しているすべての言語になっていないことについても不安を感ずるものである。
15.条約第2条および第3条に照らし、委員会は、フィンランド社会において外国人に対する否定的な態度が強化されつつあることを不安に感ずる。
16.委員会は、現在、締約国において、子どもの精神病の治療のための施設が不足していることを、不安に感ずる。この不足のため、精神病治療施設において、子どもが成人から分離されていない状況が生じている可能性がある。委員会はまた、青年の間で自殺が高率で発生していることおよび薬物濫用が増加していることも懸念するものである。
17.委員会は、再研修プログラムを通じてソーシャルワーカーの研修を向上させる必要性があることを懸念する。このような研修は、条約第3条および第12条に照らし、とくに子どもの参加権の全面的実施に関して必要である。委員会はまた、性的虐待およびドメスティックバイオレンスの領域で、発見および防止のための十分な措置がとられていないことも不安に感ずるものである。
18.委員会は、近年、学校中退が増加していることを懸念する。委員会はまた、条約第30条に照らし、マイノリティの子どもたちとともに働くことのできる教員が十分にいないことも不安に感ずるものである。
19.委員会は、児童ポルノの所持および売春を行なう子どもからの性的サービスの購入を禁ずるために、適切な措置、とりわけ法的措置がいまだにとられていないことを、深く懸念する。委員会はまた、子どもが利用可能なセックス・テレホンサービスが存在することも深刻に懸念するものである。
20.委員会は、労働法制が15~18歳の子どもを適切に保護していないことを懸念する。

E.提案および勧告

21.条約第4条に関して、かつ現在の困難な経済状況に関連して、委員会は、条約の諸原則、とくに差別の禁止および子どもの最善の利益に関わる第2条および第3条の原則に照らして、中央レベルおよび地方レベルの双方において、子どもの経済的、社会的および文化的権利の実現のために最大限可能なかぎり資源を配分することの重要性を強調する。
22.委員会は、締約国が、人権および子どもの権利に携わっているさまざまな政府機構間の調整を中央レベルおよび地方レベルの双方において強化し、かつ、部門ごとの活動および政策を調和させるための調整機関または機構の設置を検討するため、さらなる措置をとるよう勧告する。委員会はまた、締約国に対し、委員会の勧告の実施に関する協力をはじめとして、非政府組織との協力を強化するようにも勧告するものである。
23.委員会は、すべての自治体のすべての子どもが基礎的社会サービスから等しく利益を受けられるようにするために、統合された監視制度または機構を設置するよう勧告する。たとえば子どものためのオンブズパーソンのような独立した監視機構の設置も、勧告されるところである。
24.委員会は、条約第42条に照らし、条約の規定および原則がおとなにも子どもにも同様に広く知られかつ理解されるようにするためには、さらなる努力が必要とされるという見解に立つものである。委員会は、条約を、締約国に住んでいるマイノリティが話すすべての言語に翻訳するよう勧告する。委員会は、締約国に対し、条約第12条に照らして、子どもの参加権に関する公衆の意識を高める目的で体系的な取り組みをさらに進めるよう奨励したい。
25.外国人に対する否定的な感情および人種主義の増大を軽減するため、委員会は、締約国が、学校および一般社会における広報キャンペーンを含むあらゆる必要な措置をとるよう勧告する。保護者のいない子どもであって難民認定を希望する子どもはすべて、フィンランド到着と同時に、どのような権利があるかをその子どもの言語で直ちに知らされるべきである。
26.委員会は、とくにソーシャルワーカーのほか、教員、法執行官および裁判官など、子どもとともにまたは子どものために働いている専門家集団を対象とした、子どもの権利に関する定期的な研修および再研修プログラムを組織するとともに、人権および子どもの権利をその養成カリキュラムに盛りこむよう、勧告する。委員会はまた、性的虐待およびドメスティックバイオレンスの領域において、発見のための措置および防止政策に対してさらに組織的な関心を払うよう勧告するものである。
27.委員会は、精神病を有する子どもが成人と同じ施設に収容されることを防止するため、締約国があらゆる適切な措置をとるよう勧告する。委員会はまた、自殺および薬物濫用に関する理解を高め、かつこれらの現象に効果的に対処する適切な措置がとれるようにするため、これらの現象に関する追加的な調査を行なうことも提案するものである。
28.委員会は、締約国に対し、学校中退と闘うためにあらゆる必要な措置をとるよう奨励し、かつ、関連の当局に対し、締約国のあらゆる地域でマイノリティの子どものために十分な教員が確保されるようにするためにあらゆる適切な措置をとるよう奨励する。委員会はまた、人権教育のための国連10年の精神を踏まえ、政府に対し、学校カリキュラムに子どもの権利を盛りこむことを検討するよう奨励するものである。
29.委員会は、刑法改正の過程において、児童ポルノの所持および売春を行なう子どもからの性的サービスの購入を違法とするよう、強く勧告する。委員会はまた、締約国が、セックス・テレホンサービスにアクセスすることから子どもを保護し、かつ、誰にでも利用できるこうしたテレホンサービスを通じてペドファイルによって性的に搾取される危険から子どもを保護するために、あらゆる適切な措置をとるよう勧告するものである。最後に委員会は、性的虐待の事実を関連の当局に通報した専門家を保護するため、十分な措置をとるよう勧告する。
30.委員会は、締約国に対し、関連の国際基準、とくにILO第138号条約およびILO第146号勧告に照らして、15~18歳の子どもに関する労働法制を改正するよう奨励する。
31.委員会は、締約国に対し、締約国報告書、委員会における報告に関する議論の議事要録および報告の検討後に委員会が採択した総括所見を、広く普及するよう奨励する。委員会は、こうした文書に対して議会の関心を促し、かつ、そこに掲げられた行動のための提案および勧告が非政府組織との密接な協力によってフォローアップされるようにするよう、提案したい。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年3月23日)。