総括所見:デンマーク(OPSC・2006年)


CRC/C/OPSC/DNK/CO/1(2006年10月17日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2006年9月19日に開かれた第1180回会合(CRC/C/SR.1180参照)においてデンマークの第1回報告書(CRC/C/OPSC/DNK/1)を検討し、2006年9月29日に開かれた第1199回会合において以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、締約国の第1回報告書、および事前質問事項(CRC/C/OPSC/DNK/Q/1/Add.1)に対する文書回答の提出を歓迎する。委員会はさらに、締約国代表団との建設的対話を評価するものである。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、締約国の第3回定期報告書に関して2005年9月30日に採択された以前の総括所見(CRC/C/DNK/CO/3)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

B.積極的側面

4.委員会は、以下の法改正および国家的行動計画の採択を歓迎する。
  • (a) 売買春と闘うための2005年の行動計画「新生活」。
  • (b) 子どもの性的虐待と闘うための2003年の国家的行動計画。
  • (c) 人身取引に関する新たな規定を導入した、2002年6月6日の法律第380号による刑法改正。
  • (d) 人身取引によってデンマークに連れてこられた子どもを保護しかつ支援するための、政府の人身取引対策行動計画に対する2005年の付属文書。
5.委員会はまた、児童ポルノを含むインターネット上の犯罪を専門とする特別捜査部局が警察庁によって設置されたこと、および、3つの知識情報センター(コペンハーゲン大学病院の性的被虐待児チーム、子どもの性的虐待と闘う社会的取り組みのためのデンマーク全国センター、および、他の子どもおよび若者に対して性的暴力を行なった若者に関する知識情報センター「ヤヌス」)が設置されたことも歓迎する。
6.委員会は、警察長官、セーブ・ザ・チルドレン・デンマークおよびテレコムサービス事業者のTDCが、児童ポルノ画像を含むインターネット・サイトへのアクセスをブロックするフィルターを導入し、かつ、当該フィルターが1日平均1700人のユーザーによるこれらのサイトへのアクセスのブロックに成功していることに、高い評価の意とともに留意する。
7.さらに委員会は、子どもの身体的および心理的回復のためにとられている措置(心理学者への相談の補助など)、および、児童ポルノの記録および配布に関する処罰の強化に、評価の意とともに留意する。
8.委員会は、選択議定書が対象とする問題に焦点を当てた国際開発援助の分野で締約国が行なっている相当の取り組みに、評価の意とともに留意する。

C.主要な懸念領域および勧告

1.実施に関する一般的措置

選択議定書の実施の調整および監視
9.委員会は、さまざまな省庁が選択議定書の実施に関与している旨の情報に留意するものの、この点に関する諸活動を調整する特定の政府機関および選択議定書の実施を評価する機構が設けられていないことを懸念する。
10.委員会は、締約国に対し、選択議定書で対象とされている分野における調整を中央および地方の双方のレベルで強化するとともに、議定書の実施を定期的に評価するための機構を設置するよう奨励する。
普及および研修
11.選択議定書を普及するための締約国の努力および選択議定書の規定に関する若干の研修活動には留意しながらも、委員会は、これが体系的かつ継続的に行なわれていないことを遺憾に思う。
12.委員会は、公衆の意識啓発キャンペーンに対し、かつ、子どもとともにおよび子どものために働く専門家(とくに法執行官ならびに議員、裁判官、弁護士、保健従事者、地方政府職員、メディア、ソーシャルワーカー、教員、学校管理者および必要なときは選択議定書の実施に責任を負う他の者)を対象とする研修資料および研修コースの開発に対し、相当の資源が使途指定のうえで配分されるべきであることを勧告するものである。
データ収集
13.委員会は、選択議定書で対象とされている問題について利用可能なデータおよび調査研究が限られていることを遺憾に思う。
14.委員会は、締約国が、選択議定書で対象とされている問題についての調査研究が行なわれること、ならびに、データがとくに年齢、性別およびマイノリティ集団ごとに細分化されることおよび体系的に収集されかつ分析されることを確保するよう、勧告する。このようなデータは、政策の実施状況を数値により評価するための必須手段を提供してくれるからである。
市民社会との協力
15.選択議定書の適用範囲に関して、委員会は、非政府組織との締約国の連携、たとえばインターネット上の安全の分野におけるメディア評議会およびセーブ・ザ・チルドレン・デンマークの緊密な協力を歓迎する。にもかかわらず、委員会は、市民社会組織が、委員会に対する締約国の定期的報告を含む選択議定書の実施にいっそう意味のある形で貢献したいと望んでいることに留意するものである。
16.委員会は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止のため、締約国が市民社会組織との協力を引き続き強化するよう勧告する。委員会はまた、締約国に対し、委員会への報告においてこれらの組織の関与を得ること、および、これらの問題に関する公のかつ批判的な議論のきっかけとして報告プロセスを活用することも、奨励するものである。

2.刑事手続

選択議定書第3条1項に掲げられた犯罪についての裁判権
17.委員会は、とくに子どもセックス・ツーリズム関連の犯罪の訴追との関係で、締約国が、子どもに対する性犯罪についての「双方可罰性」要件を2006年6月2日に廃止したことに、評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、この問題に関する国際協力のための追加的資源が警察に提供されていないことに、懸念とともに留意するものである。
18.委員会は、締約国が、デンマーク警察に対し、子どもの性的搾取の事件を捜査する際の国際協力のために十分な資源を提供するよう勧告する。

3.被害を受けた子どもの権利の保護

選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を保護するためにとられた措置
19.委員会は、現在進められている地方政府改革および警察管轄区改革により、子どもの搾取をともなう事件の早期発見ならびにそのような搾取(子どもの売買、児童買春および児童ポルノを含む)の被害を受けた子どもに提供されるサービスの利用可能性および質に悪影響が生じる可能性があることを、懸念する。
20.地方政府改革および警察管轄区改革に関して、委員会は、締約国が、とくに移行期間中、子どもの搾取をともなう事件の早期発見ならびに搾取(子どもの売買、児童買春および児童ポルノを含む)の被害を受けた子どもに提供されるサービスの利用可能性および高い質を確保するための特別措置をとるよう、勧告する。
21.委員会は、法廷における証拠として録画による子どもの事情聴取を使用できること、および、性的虐待に関わる事件では、録画による子どもの事情聴取は特別訓練を受けた警察官によって行なわれなければならないことを定めた、2003年4月2日の法律第228号を歓迎する。委員会は、録画による子どもの事情聴取に関連する実務上の困難が一部事件で生じているものの、これらの問題に対応するための措置がすでにとられている旨の情報に留意するものである。
22.委員会は、締約国に対し、刑事司法手続のあらゆる段階で子どもの被害者および証人を保護するための措置を引き続きとり、かつ必要なときは強化するよう、慫慂する。この目的のため、締約国は、とくに子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての指針(経済社会理事会決議2005/20付属文書参照)を指針とするべきである。
23.委員会は、性的虐待にさらされまたは買春で使用された子どもと接触した公務員には地方公的機関に通告する厳格な義務があること、および、すべての市民は子どもの性的虐待を通報する一般的義務を負っていることに留意する。トゥナーで最近起きた、子どもの性的虐待および買春に関わる例外的に重大な事件を参照しつつ、委員会は、市民社会および公務員が公的機関への通報義務を十全に認識しているかどうか、懸念するものである。さらに委員会は、社会福祉ワーカーの業務負担が重くかつ資源が限られていることにより、子どもの性的搾取の通告への対応が遅れる可能性があることに、懸念とともに留意する。
24.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもの性的搾取に関する公的機関への通報義務について公務員および市民社会が十全に認識することを確保するため、義務的通報に関する公的なメディア・キャンペーンを継続するとともに、子どもとともにおよび子どものために働く公務員を対象としてこの点に関する研修を行なうための努力を強化すること。
  • (b) コミュニティを基盤とする子ども〔へ〕の社会的責任を強化するために市民社会組織と連携すること。
  • (c) 子どものプライバシーの尊重の原則を正当に考慮しながら、あらゆる形態の子どもの性的搾取が違法でありかつ受け入れられないことに関する意識を高めること。
  • (d) 社会福祉事務所に対し、子どもの性的虐待の通報に即時にかつ効果的に対応するための十分な人的資源および財源を提供すること。
25.委員会は、証人保護プログラムがデンマークで策定されたことに関心をもって留意するものの、出身国における保護措置の保障がほとんどないまま人身取引被害者の送還が優先されていることを懸念する。
26.委員会は、帰還と同時に証人保護の保障を得られない子どもに対し、デンマークにおける在留許可が保障されかつ保護が与えられるべきことを勧告する。人身取引の被害を受けた外国人の子どもに対しては、捜査の期間中、シェルターへのアクセスおよび一時的在留許可が与えられるべきである。
27.委員会は、子どもヘルプライン「ボーネテレフォネン」(BorneTelefonen)がすでに1987年に設置されており、かつ子どもに対して相談および照会のサービスを提供していることに、評価の意とともに留意する。しかしながら委員会は、「ボーネテレフォネン」への通話に料金がかかること、および、同ヘルプラインが週末にサービスを提供していないことに、懸念とともに留意するものである。
28.委員会は、サービスの継続的提供を維持し、かつ通話料を払えない子どもによるアクセスを確保するため、締約国が「ボーネテレフォネン」に対する金銭的および技術的支援を強化するよう、勧告する。委員会は、ホットライン・サービスにアクセスするための費用をヘルプラインも子どもも支払わなくてよいようにし、かつホットラインが24時間のサービスを提供できるようにするため、当該ホットラインに対して3ケタまたは4ケタのフリーダイヤル番号が与えられるべきことを勧告するものである。

4.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止

選択議定書に掲げられた犯罪を防止するためにとられた措置
29.委員会は、15歳未満の子どもの性的虐待に対する取り組みを強化する、職員の雇用との関連における前科前歴開示情報取得法(2005年7月1日施行)を歓迎する。しかしながら委員会は、この法律では、行政機関が雇用する、15歳未満の子どもと直接接触する見込みの将来の被雇用者およびボランティアしか対象とされておらず、すでに子どもに接する仕事を行なっている者は適用範囲外とされることに、懸念とともに留意するものである。
30.子どもに対する性犯罪で有罪判決を受けた者の再犯を防止するため、委員会は、締約国が、すでに子どもと接する仕事を行なっているすべての被雇用者およびボランティアを対象とする目的で、雇用との関連における前科前歴開示情報取得法の改正を検討するよう勧告する。委員会はさらに、締約国が、前科前歴開示要請の管理担当者に対し、十分な指針の提示および研修を行なうよう勧告するものである。
31.委員会は、デンマークの旅行代理店およびデンマーク市民の一部が子どもセックス・ツーリズムに関与している旨の報告があることを懸念する。
32.委員会は、締約国が、国外で行なわれた犯罪について犯罪者をその帰国と同時に一貫して訴追し、かつ、観光における性的搾取からの子どもの保護について世界観光機関が定めた指針の遵守を向上させる目的で非政府組織および観光業界との協力を強化すること等の手段を通じ、子どもセックス・ツーリズムという憂慮すべき現象と闘うための努力を増強させるよう、勧告する。

5.国際的な援助および協力

法執行
33.委員会は、選択議定書第3条1項に定められた犯罪に関する刑事手続のあらゆる段階、すなわち摘発、捜査、訴追、処罰および犯罪人引渡しの手続において締約国が行なっている援助および協力について、十分な情報が提供されていないことに留意する。
34.委員会は、締約国に対し、この点に関するより詳細な情報を次回の報告書で提供するよう奨励する。

6.フォローアップおよび普及

フォローアップ
35.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を閣僚評議会および議会(フォルケティング)ならびに地域当局に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
普及
36.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した第1回報告書および文書回答ならびに委員会が採択した関連の勧告(総括所見)を、インターネット等を通じ(ただしこれにかぎるものではない)、公衆一般、市民社会組織、若者グループ、専門家グループおよび子どもが広く入手できるようにすることを勧告する。

7.次回報告書

37.第12条2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約第44条にしたがって2008年8月17日が提出期限とされている、条約に基づく第4回定期報告書に記載するよう要請する。


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最終更新:2012年01月20日 11:25