総括所見:ウクライナ(OPAC・2011年)


CRC/C/OPAC/UKR/CO/1(2011年4月11日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2011年1月28日に開かれた第1602回および第1603回会合(CRC/C/SR.1602 and 1603参照)においてウクライナの第1回報告書(CRC/C/OPAC/UKR/1)を検討し、2011年2月3日に開かれた第1611回会合において以下の総括所見を採択した。

I.序

2.委員会は、選択議定書に基づく締約国の第1回報告書(CRC/C/OPAC/UKR/1)および委員会の事前質問事項(CRC/C/OPAC/UKR/Q/1/Add.1)に対する文書回答の提出を歓迎するものの、締約国が提出した第1回報告書で、選択議定書に基づく第1回報告に関する改訂ガイドラインが遵守されていなかったことを遺憾に思う。さらに委員会は、第1回報告書でも事前質問事項に対する文書回答でも、締約国がその領域全体で選択議定書をどのように実施しているかに関する包括的情報が提供されなかったことを遺憾に思うものである。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、2011年2月3日に採択された、子どもの権利条約に基づく締約国の第3回・第4回定期報告書について採択された委員会の総括所見(CRC/C/UKR/3-4)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

II.積極的側面

4.委員会は、締約国が選択議定書の批准時に行なった、国軍への志願入隊(契約制)に関する最低年齢は19歳である旨の宣言に、積極的側面として留意する。
5.委員会は、締約国が、軍隊または武装集団による不法な徴募または使用から子どもを保護するためのパリ・コミットメントならびに軍隊または武装集団に関係した子どもに関するパリ原則および指針を2007年に支持したことを、歓迎する。
6.委員会は、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する、銃器ならびにその部品および構成部分ならびに弾薬の不正な製造および取引の防止に関する議定書が2004年5月に批准されたことを歓迎する。

II.実施に関する一般点的措置

  • 訳注/章番号の誤りは原文ママ(以下同)
法的地位
7.憲法の規定に基づき、選択議定書は国内法としての地位を有している旨の情報には留意しながらも、委員会は、選択議定書がその領域全体で直接適用可能であり、かつ国内裁判所で直接援用可能か否かについて、締約国が明確にしなかったことを遺憾に思う。
8.選択議定書上の犯罪の防止をさらに強化する目的で、委員会は、締約国が、国内法制度における選択議定書の直接適用可能性を確保するため、あらゆる必要な措置をとるよう勧告する。委員会は、締約国が、選択議定書を国内法に全面的に編入することを検討するよう、勧告するものである。
普及および意識啓発
9.教員、保健ケアワーカーおよび子どもの問題に関する業務を行なっている公務員を対象とした教育研修活動の際、条約および選択議定書の規定についての議論が行なわれている旨の情報には留意しながらも、委員会は、選択議定書の原則および規定に関する一般公衆の意識が低いままであることを依然として懸念する。
10.選択議定書第6条2項に照らし、委員会は、締約国が、メディアの関与の拡大ならびに学校における意識啓発のためのプログラムおよび活動等も通じ、選択議定書の原則および規定を公衆一般およびとくに子どもに対して広く知らせるための努力を増強させるよう、勧告する。
研修
11.委員会は、国際平和維持活動に参加するウクライナ軍要員を対象として武力紛争における子どもに関する義務的研修(条約および選択議定書に関する内容も含む)が行なわれていることを歓迎するとともに、子どもの保護に関する活動指針によってこのような研修をさらに強化できることに留意する。にもかかわらず、委員会は、軍隊の構成員、司法機関、教員、ウクライナ国境警備部職員、ウクライナ国家民族・宗教委員会の職員、家族支援および社会的・心理的リハビリテーションセンターの職員およびウクライナ特別輸出公社(UkrSpetsExport)社員を対象とする、選択議定書に関する研修についての情報がないことを懸念するものである。
12.委員会は、締約国が、締約国の軍隊の構成員ならびに子どもとともに働く関連の専門家集団(とくに教員、司法関係者、国境管理および出入国管理の職員、ウクライナ国家民族・宗教委員会の職員、家族支援および社会的・心理的リハビリテーションセンターの職員ならびにウクライナ特別輸出公社(UkrSpetsExport)社員)を対象とする、選択議定書に関する研修プログラムを発展させるよう、勧告する。委員会はさらに、国際平和維持活動に参加するウクライナ軍要員を対象とする、武力紛争の状況下における子どもの保護に関する活動指針を策定するよう、勧告するものである。
データ
13.委員会は、武力紛争に関与した子どもに関わる諸側面および選択議定書上の犯罪に関する体系的なデータ収集(15~18歳の子どもの庇護希望者および難民に関する公式統計を含む)が行なわれていないことを懸念する。これとの関連で、委員会は、保護者のいない子どもの庇護希望者の過半数が、子どもが武力紛争に関与していた国またはそのことが知られている国の出身であることを懸念するものである。
14.委員会は、徴募されまたは敵対行為において使用された可能性のある子どもの庇護希望者および難民についてのデータが利用可能とされることを確保するため、すべての子どもの庇護希望者および難民についてのデータを体系的に収集するよう、勧告する。

II.防止

軍学校
15.委員会は、締約国において軍事中等教育の長い伝統があること、および、このような教育が、脆弱な立場に置かれた集団の子どもの社会的保護の機能を果たしてきたことに留意する。委員会はさらに、軍事(一般徴兵軍務)法(第20条)により、高等士官学校または軍事学部のある高等教育機関への入学に関する最低年齢が17歳であることに留意する。これとの関連で、委員会は、現在のところ、この年齢に達しないままそのような学校で学んでいる子どもはいない旨の情報に、満足感とともに留意するものである。しかしながら委員会は、少なくともひとつの中等学校において、15歳以降の子ども、より具体的には両親を亡くした子どもおよび軍隊要員の子どもを対象とする2年間の集中的軍隊員養成教育が行なわれていた旨の報告があることを、懸念する。
16.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 17歳未満のいかなる子どもも軍事中等学校に入学しないことを厳格に確保するとともに、両親を亡くした子どもおよび軍事中等学校に通学している可能性がある17歳未満の子どもに対し、一般中等学校への統合の機会を提供すること。
  • (b) 教育の目的に関する一般的意見1号(2001年、CRC/GC/2001/1)を正当に考慮しながら、軍事学校に通学しているすべての子どもが条約、とくに第28条および第29条に一致したやり方で教育を受けることを確保すること。
平和教育
17.委員会は、事前質問事項に対する文書回答で提供された、人権尊重の醸成は高等軍事教育機関の目的のひとつである旨の情報を歓迎する。さらに、条約および選択議定書が第5~第9学年で学習されており、かつ高等軍事教育機関における国際人道法に関する試験で出題されていることには積極的側面として留意しながらも、委員会は、締約国の学校カリキュラムに平和教育を体系的に含めるためのプログラムが存在しないことを、懸念するものである。
18.教育の目的に関する一般的意見1号(2001年)を参照し、委員会は、締約国が、選択議定書上の犯罪にとくに言及しながら、学校カリキュラムおよび教員の養成研修課程に平和教育を含めるための努力を行なうよう、勧告する。

III.禁止および関連の事項

現行刑事法令
19.委員会は、子ども保護法第30条に基づき、軍事作戦または武力紛争への子どもの参加が禁じられていることを歓迎する。さらに、2006年の刑法改正により、人身取引の対象とされた子どもを武力紛争で使用することが犯罪とされ(刑法第149条)、かつ最長12年の収監刑が定められたことを歓迎しながらも、委員会は、18歳未満の者の徴募および武力紛争における使用が国内法で明示的に禁止も犯罪化もされていないことを、遺憾に思うものである。
20.委員会は、締約国が、子どもを徴募しかつ敵対行為に関与させることに関わる選択議定書の規定の違反が刑法で明示的に禁止されかつ犯罪とされることを確保するよう、勧告する。委員会はさらに、締約国が、軍のすべての規則、教範、標準作戦手続その他の訓令が選択議定書の規定および精神にしたがうことを確保するよう、勧告するものである。
裁判権
21.刑法第8条にしたがい、外国人は重大犯罪および国際条約に定められた犯罪について責任を問われうることには留意しながらも、委員会は、刑法で、選択議定書上の犯罪に関する域外裁判権が具体的に認められていないことを懸念する。さらに、締約国が国際刑事裁判所ローマ規程に署名したことには留意しながらも、委員会は、批准のためには憲法改正が必要であることに留意するものである。
22.委員会は、締約国が、国内法により、敵対行為における子どもの強制的徴集および募兵に関わる戦争犯罪について域外裁判権を設定しかつ行使できることを確保するための措置をとるよう、勧告する。委員会は、締約国に対し、憲法(第142条)を改正し、かつその後に国際刑事裁判所ローマ規程を批准するための努力を増強するよう、促すものである。

IV.保護、回復および再統合

身体的および心理的回復のための援助
23.委員会は、家族支援および社会的・心理的リハビリテーションセンターにおいて、武力紛争に関与した子どもに対する援助が提供されていること(武力紛争地帯に住むイラクの子どもへの健康面および社会的リハビリテーションのための援助(2004年)ならびに国外で敵対行為に参加した子どもの難民に対する心理的および社会的援助を含む)を、歓迎する。にもかかわらず、委員会は、以下のことについて懸念を表明するものである。
  • (a) 国外で徴募されまたは敵対行為において使用された子どもの難民または庇護希望者に対する心理的および社会的援助を義務的なものとする、国内法の規定が存在しないこと。
  • (b) 子どもの難民または庇護希望者が国外で徴募されもしくは敵対行為において使用されたまたはその可能性があるかどうかを明らかにする機構が設けられていないこと。
  • (c) 締約国で、子どもの難民または庇護希望者を含む子どもの年齢を判定する標準的手法が確立されていないこと。
  • (d) 庇護希望者および難民に対する無償の通訳サービスが整備されていないこと。
24.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 徴募されもしくは敵対行為において使用されたまたはその可能性があるすべての子ども(子どもの難民および庇護希望者を含む)に対する身体的、心理的および社会的援助の提供を継続しかつ強化するとともに、当該援助が法律による規制を受けることを確保すること。
  • (b) 徴募されまたは敵対行為において使用された可能性のある子どもを特定するための機構(難民認定手続におけるものを含む)を設置すること。
  • (c) 難民認定の事由に子どもの徴募および武力紛争における子どもの使用を含めることを検討すること。
  • (d) 子どもの難民および庇護希望者を含む子どもの年齢を判定するための、標準的な手続および手法を導入すること。
  • (e) 難民法の改正により、無償の通訳および法的援助に対する、あらゆる年齢の庇護希望者および難民の権利に関する規定を設けること。

V.国際的な援助および協力

武器輸出および軍事援助
25.委員会は、ソビエト連邦の解体後に締約国が相当量の小型武器および軽兵器(SALW)を継承したこと、および、締約国が当該兵器の輸出について定期的に報告する努力を行なっていることに、留意する。にもかかわらず、委員会は、子どもが徴募されまたは敵対行為において使用された国にSALWが輸出されていること、および、兵器によって子どもが脅かされる可能性がある国にその輸出が行なわれていることを、深く懸念するものである。さらに委員会は、子どもが武力紛争に関与している国または関与した可能性がある国への小型武器および軽兵器の販売および輸出をとくに禁じた法律が存在しないことを、懸念する。
26.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 兵器の輸出(小型武器および軽兵器の輸出を含む)に関する情報の定期的報告および公表のための努力を継続しかつ強化するとともに、当該輸出物資の最終使用者に関する情報を公的報告書に記載するための措置をとること。
  • (b) 国内法で、子どもが武力紛争に関与していたことがわかっている国または現に関与している国への小型武器および軽兵器の販売および輸出が明示的に禁じられることを確保すること。
  • (c) 以下の目的のために地域機関および国際機関の援助を求めることを検討すること。
    • (i) 武器輸出に関する関連の地域的行動規範の基準を適用すること。
    • (ii) ウクライナの兵器輸出が子どもに及ぼす影響に関する包括的分析を行なうこと。
フォローアップおよび普及
27.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を、国防省、閣僚およびヴェルホーヴナ・ラーダ(議会)に送付することにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
28.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を促進する目的で、締約国が提出した第1回報告書および委員会の総括所見を、公衆一般、メディアおよびとくに子どもたちが広く入手できるようにすることを勧告する。
次回報告書
29.第8条2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書およびこの総括所見の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約条約に基づく次回定期報告書報告書(提出期限2018年9月26日)に記載するよう要請する。


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最終更新:2012年01月04日 07:41