総括所見:ウクライナ(第1回・1995年)


CRC/C/15/Add.42(1995年11月27日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1995年11月2日および3日に開かれた第239回、第240回、第241回および第242回会合(CRC/C/SR.239-242)においてウクライナの第1回報告書(CRC/C/8/Add.10/Rev.1)を検討し、下記の所見を採択した(注)。
  • (注)1995年11月17日に開かれた第259回会合において。

A.序

2.委員会は、ウクライナ政府に対し、第1回報告書の提出および開かれたかつ実りのある対話に関して謝意を表する。委員会は、議論が率直かつ協力的な雰囲気で行なわれ、その中で、締約国の代表が、政策および事業の方向性のみならず、条約の実施の過程で直面した問題点についても明らかにしたことに、心強さを感ずるものである。

B.積極的な側面

3.委員会は、現在の政治的移行期における子どもの状況に政府が関心を払っていることに留意する。
4.委員会は、子どもの問題および子どもの権利に関する問題に対処するための機構、とくに、「保健、母親および児童福祉に関する議会委員会」およびその下部機関ならびに地域支部、および、「女性、母親および子どもの問題に関する大統領委員会」の設置を歓迎する。
5.委員会は、子どもの権利の促進および保護を狙って法改正の分野で政府が行なっている重要な法改正の取組み、とくに、子どもの権利の導入を目的とした憲法改正、および、家族法ならびに刑法のような法律の改正の取組みに、評価の意とともに留意する。
6.委員会は、また、締約国で子どもの権利を効果的に実施することを狙った多くの国家的事業を政府が採択したこと、および、「保健、母親および児童福祉に関する議会委員会」の提唱によって子どもを支援する任意基金が設置されたことも歓迎する。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

7.委員会は、現在の政治的移行期にあって、かつ、社会的変化および深刻な経済危機にあってウクライナが直面している問題点に留意する。委員会は、また、移行期にある経済に関わる諸問題、および、貧困の増大および失業の増加にともなって多くの子どもの状況が悪化していることにも留意する。委員会は、締約国がチェルノブイリ原発事故の悪影響、とくに環境に対する悪影響および子どもを始めとする民衆の身体的および心理的健康に取り組むに当たって、大きな困難を経験していることを認識する。

D.主要な懸念事項

8.委員会は、国内法、措置および事業が条約の規定および原則と全面的に両立するかどうかという点に関して、懸念を表明する。このことは、とくに、婚姻年齢が男女によって異なるという点も含めた差別の禁止の原則(第2条)、子どもの最善の利益(第3条)、および、自己に関わるすべての決定において意見を表明する子どもの権利(第12条)の諸原則に関していえるものである。委員会は、また、義務教育の修了年齢(15歳)および最低労働年齢(16歳)との間に立法上の格差があることにも留意する。
9.委員会は、子どもの経済的、社会的および文化的権利の実施のための予算配分が不充分であることを懸念する。
10.委員会は、調整および監視のための効果的な機構が必要であることに対して充分な関心が払われていないことを懸念する。このような機構は、条約が対象とするあらゆる領域、ならびに、ひとり親家族の子ども、離婚した父母の子ども、遺棄された子どもおよび施設に措置された子どもを含むあらゆる集団の子どもに関するデータおよび指標を体系的かつ包括的に集積することのできるものであるべきである。このような機構は、政府が懸念される領域を特定することを可能にし、かつ、それに取り組む戦略を決定する一助となるであろう。
11.委員会は、子ども、とくに新生児の遺棄率が高いこと、および、弱い立場に置かれている家族を援助するための包括的な戦略が存在しないことを心配する。このような状況は、不法な国際養子縁組または他の形態の子どもの人身売買につながる可能性がある。この流れで、委員会は、また、子どもの人身売買を禁止する法律がまったく存在しないこと、および、アイデンティティを保全する子どもの権利が法律によって保障されていないことも懸念する。
12.委員会は、子どもの健康状況、とくに、チェルノブイリ原発事故以後の子どもの健康状況、幼児死亡率が高いこと、予防保健よりも事後の治療の方が優先されているように思えること、母乳育児の普及率が低いこと、中絶の数が多いことならびに家族計画に関する保健、教育およびサービスが不充分であること、および、都市部と非都市部の間で保健システムに格差があることに、懸念を表明する。
13.委員会は、ソーシャルワークを導入したプログラムがウクライナに存在しないことを懸念する。とくに、委員会は、障害児の施設措置、処遇および保護に関する状況について懸念を表明するものである。施設措置に代わる選択肢は充分に考慮に入れられていない。障害児を家で育てている親に対する支援サービスも不充分である。
14.委員会は、学校または子どもが措置される可能性のある施設における子どもの不当な取扱いを効果的に防止し、かつ、それと闘うための適切な措置がとられていないことに遺憾の意を表明する。委員会は、また、家庭内における児童虐待および子どもへの暴力が大規模に存在すること、および、現行の法律およびサービスではこの点で充分な保護が与えられていないことに、深い懸念を抱くものである。子どもの性的搾取の問題も特段の関心を必要とする。
15.委員会は、子どもの権利条約に関して、全国的な広報および普及の戦略が存在しないことを懸念する。
16.少年司法の運営の分野における現在の状況は、委員会の懸念するところである。

E.提案および勧告

17.委員会は、ウクライナ政府に対し、法的枠組みの見直しを続行し、そのことによって、条約を全面的に反映し、ウクライナの管轄下にあるすべての子どもに関して子どもの権利が実現されるようにし、かつ、子どもの権利条約の規定および原則、とくに差別の禁止(第2条)、子どもの最善の利益(第3条)、生命、生存ならびに発達への権利(第6条)、自己に関わるすべての決定において意見を表明する子どもの権利(第12条)の諸原則との全面的両立を確保するよう奨励する。委員会は、義務教育年齢および最低雇用年齢に関する法律を修正すること、および、婚姻年齢を男女とも同じにすることを提案する。
18.委員会は、締約国が、子どもに関する包括的な政策を発展させ、かつ、締約国における子どもの権利条約の実施状況を効果的に評価できるようにすることを目的として、全国および地方のいずれのレベルでも、子どもの権利に関わるさまざまな政府機関間の調整を強化するよう勧告する。
19.委員会は、締約国が、もっとも脆弱な立場に置かれた集団の子どもに関するものを始めとして、条約が対象としているさまざまな領域について、子どもの状況に関するあらゆる必要な情報を集めるよう勧告する。
20.委員会は、ウクライナ政府に対し、条約第4条を全面的に実施することに特段の関心を払うよう、かつ、中央、地域および地方のレベルで資源の公正な配分が行なわれるようにするよう奨励する。経済的、社会的および文化的権利の実施のための予算配分は、市場経済への移行期にあたって、入手可能な資源を最大限に用いることにより、かつ、子どもの最善の利益を踏まえて確保されるべきである。
21.委員会は、条約の規定および原則が大人によっても子どもによっても同様に広く知られ、かつ、理解されるようにするためには、条約を踏まえて、系統的かつ継続的な措置が必要であるとの見解をとるものである。ウクライナのマイノリティによって話されているすべての言語で子どもの権利条約が入手できるようにするべきであり、かつ、子どもとともに働いているすべての専門職集団(裁判官、教師、ソーシャルワーカー、法執行官など)に対して具体的な研修が行なわれるべきである。国連人権教育の10年を踏まえ、条約を学校のカリキュラムに導入することにも関心が払われるべきである。委員会は、締約国に対し、子どものためのオンブズマン、またはそれに類する苦情申立ておよび監視のための恒久的かつ独立の機構を設置することをさらに検討するよう奨励する。子どもの権利の促進に子ども自身が参加することは、とくに地域レベルではきわめて重要である。
22.条約第2条を踏まえ、マイノリティ集団に属している子ども、農村部で暮らしている子ども、ロマの子どもおよびHIV/エイズに感染している子どもに対する差別的な態度または偏見の悪化を防止するための措置がとられるべきである。
23.委員会は、とくに農村部において、プライマリーヘルスケア活動にもっと力点が置かれることを希望するものである。この活動には、家族教育、家族計画、性教育および母乳育児の利点などの問題を対象とした教育的プログラムの発展などが含まれることになろう。
24.委員会は、チェルノブイリ原発事故の悪影響に対処するための措置、とくに社会分野、健康分野および環境分野の措置に対する国際的な支援を奨励する。
25.委員会は、家族の重要な役割および両親の平等の責任に関する意識を発展させるために、さらなる取組みが必要であると考えるものである。子どもの養育責任を果たすにあたって両親を援助するシステムを強化するため、さらなる措置がとられるべきである。
26.子どもの遺棄および中絶の発生率が高いことを踏まえ、委員会は、締約国が、脆弱な立場に置かれている家族がその子どもを支える援助をするための戦略および政策を採択するよう勧告する。現行の社会保障制度および家族計画事業が充分かどうか、評価が行なわれるべきである。委員会は、また、地域の強化および人的資源の動員を目的として、ソーシャルワーカーの研修を行なうよう勧告する。
27.委員会は、締約国に対し、たとえば指導ならびに相談、里親託置および教育ならびに職業訓練プログラムを通じて、施設措置に代わる可能な選択肢を構想しかつ利用できるようにする方向で、施設の子どもの状況に取り組むよう奨励する。委員会は、また、施設に措置されている子どもの権利の実現を効果的に監視する機構の設置も勧告する。
28.子どもの人身売買に関して、委員会は、政府に対し、この不法な活動を明確に禁止し、かつ、アイデンティティを保持する子どもの権利が全面的に保障されるようにするよう奨励する。委員会は、また、締約国が、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約の批准を検討するよう勧告するものである。
29.委員会はさらに、拷問または他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは刑罰の明確な防止および禁止、および、家庭内の体罰の禁止が国内法に反映させるよう提案する。委員会はまた、過程の内外を問わず、虐待および残虐な扱いの苦情申立てを監視する手続および機構を発展させるようにも提案するものである。条約第39条を踏まえ、いかなる形態であれ放任、虐待、搾取、拷問または不当な取扱いの犠牲となった子どもの身体的ならびに心理的回復および社会的再統合が、子どもの健康、自尊心および尊厳を促進するような環境下で行なわれるようにするために、特別プログラムを創設することが求められる。
30.委員会は、締約国が、少年の矯正労働収容所の管轄を、内務省から、子どもの権利の促進および保護を確保するために最もふさわしいと考えられる機関に移す可能性を検討するよう勧告する。
31.少年司法の運営の分野では、委員会は、現在行なわれている法改正において子どもの権利条約、とくにその第37条、第39条ならびに第40条を全面的に考慮に入れること、および、北京規則、リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護に関する国連規則など、この分野の他の関連国際国際基準を改正の指針とすることを勧告する。少年非行の防止、自由を奪われた子どもの権利の保護、少年司法制度のあらゆる側面における基本的権利ならびに法的保護の尊重、および、少年裁判官の全面的独立および公正に関して、特段の関心が払われるべきである。少年司法制度に関わるすべての専門職、とくに裁判官、法執行官、矯正施設職員およびソーシャルワーカーを対象に、関連の国際基準に関する研修プログラムが組織されるべきである。
32.委員会は、締約国に対し、締約国報告、委員会における同報告の議論の議事要録、および、報告の検討の結果委員会が採択した総括所見を、広く普及するよう奨励する。委員会は、また、これらの文書に議会の注意を促し、かつ、そこに掲げられた行動のための提案および勧告をフォローアップするよう提案したい。これとの関連で、委員会は、非政府組織との協力を追求するよう提案する。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年1月4日)。