総括所見:バヌアツ(第1回・1999年)


CRC/C/15/Add.111(1999年11月10日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1999年9月24日に開かれた第566回~第567回会合(CRC/C/SR.566-567) においてバヌアツの第1回報告書(CRC/C/28/Add.8) を検討し、1999年10月8日に開かれた第586回会合において以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、締約国の第1回報告書、および委員会の事前質問票(CRC/C/Q/VAN/1)に対する文書回答の提出を歓迎する。委員会は、締約国と行なった建設的かつ開かれた対話に心強い思いを感じ、かつ、議論の過程で行なわれた提案および勧告に対する積極的な反応を歓迎するものである。委員会は、条約の実施に直接携わる代表が出席したことにより、締約国における子どもの権利の状況をいっそう十分に評価できたことを認める。

B.積極的な側面

3.委員会は、締約国が、権利を侵害された子どもによる苦情を処理する権限を与えられたオンブズマン事務所を設置する取り組みを行なったことを評価する。これとの関連で、委員会は、学校における体罰の使用の禁止を促進し、かつ条約の原則および規定に関する警察の意識の向上を促進するためオンブズマンが行なっている努力に留意するものである。
4.委員会は、条約が英語およびフランス語で入手可能とされたこと、および締約国が条約をビスラマ語に翻訳したことに留意する。
5.委員会は、プライマリーヘルスケアのサービスの分野で締約国が行なった努力により、子どもの生存および発達の機会が向上したことに留意する。

C.条約の実施を妨げる要因および困難

6.委員会は、締約国が直面する社会経済的、地理的および政治的困難により条約の全面的実施が妨げられてきたことを認める。とりわけ、委員会は、孤立しておりかつきわめて連絡困難なものもある分散した島々の地域共同体の子どもを対象として十分なプログラムおよびサービスを実施するうえで、締約国が課題に直面していることに留意するものである。委員会は、締約国がサイクロン、タイフーン、津波および洪水のような天災の被害を受けやすいこと、およびこの点に関して課題に直面していることを認める。委員会はさらに、人的資源の利用可能性が限られていることも条約の全面的実施に悪影響を与えてきたことに留意するものである。

D.主要な懸念事項および委員会の勧告

D.1 実施に関する一般的措置

7.委員会は、国内法および慣習法が条約の原則および規定を全面的に反映していないことに懸念を表明する。委員会は、締約国が、条約の原則および規定との全面的一致を確保する目的で国内法の見直しを行なうよう勧告するものである。委員会はまた、締約国が包括的な子ども法の制定を検討するようにも勧告する。これとの関連で、委員会はさらに、締約国がとくに人権高等弁務官事務所およびユニセフの技術的援助を求めるよう勧告するものである。
8.締約国が子ども事務所および国家子ども委員会の設置提案を作成したことには留意しながらも、委員会は、その提案がまだ実施されていないこと、およびこれらの機関の作業方法が明確に規定されていないことを依然として懸念する。委員会は、当該提案が可能なかぎり早期に実行に移されること、および当該事務所および委員会が効果的に設置されることを確保するため十分な資金が配分されることを確保する目的で、締約国があらゆる必要な措置をとるよう強く勧告するものである。
9.委員会は、締約国が、保健、人口および家族計画、栄養、水の供給および環境衛生、農業、牧畜および漁業ならびに教育に焦点を当てた子どものための国内行動計画(1993~2000年)を作成したことに留意する。しかしながら、委員会は、この計画を実施するための予算が具体的に配分されていないことを懸念するものである。委員会は、締約国に対し、子どものための国内行動計画を実施するためにあらゆる適切な措置をとるよう奨励する。これとの関連で、委員会は、締約国がとくにユニセフおよび世界保健機関(WHO)の技術的援助を求めるよう勧告するものである。
10.委員会は、達成された進展の監視および評価、ならびに子どもに関わって採択された政策の影響の評価を行なう目的で、条約が対象とするあらゆる領域についてかつあらゆるグループの子どもとの関連で細分化されたデータを体系的かつ包括的に収集することを可能とするデータ収集機構が、締約国に存在しないことを懸念する。委員会は、締約国が、条約に一致した包括的なデータ収集システムを発展させるよう勧告するものである。このシステムは、18歳に達するまでのすべての子どもを対象とし、かつ、障害をもった子ども、虐待または不当な取扱いの被害を受けた子ども、および、離島および都市部の不法占拠地域で生活する子どもを含む、とくに傷つきやすい立場に置かれた子どもを具体的に重視するべきである。
11.委員会は、条約第4条に照らし、子どもにために予算を配分することに対して十分な注意が払われていないことを依然として懸念する。条約第2条、第3条および第6条に照らし、委員会は、締約国に対し、子どもの経済的、社会的および文化的権利が利用可能な資源を最大限に用いて、かつ必要な場合には国際協力の枠組みのなかで実施されることを確保するために予算を優先的に配分することにより、条約第4条の全面的実施に特段の注意を払うよう奨励するものである。
12.委員会は、条約に関する情報の普及に関して締約国が行なっている努力に留意し、かつ、とくに人口の82%が離島地域で生活していることに照らして直面している課題を認識する。しかしながら、委員会は、条約およびそこに掲げられた権利中心アプローチに関する一般層の認識が依然として不十分であることを懸念するものである。委員会は、締約国が、絵本およびポスターのような視覚的補助具によるものも含め、条約を促進するためにいっそう創造的な方法を発展させるよう勧告する。加えて、委員会は、条約の原則および規定を促進するにあたって伝統的なコミュニケーション手段を用いるよう勧告するものである。委員会はまた、裁判官、法執行官、教員、学校管理者および保健従事者のような、子どもとともにおよび子どものために働く専門家グループを対象として十分かつ体系的な訓練および(または)感受性増進を行なうようにも勧告する。委員会はさらに、地域共同体の首長、宗教的指導者、NGOおよびメディアを含む市民社会の子どもの権利に関する感受性を増進し、かつ条約の普及および促進へのその参加を促進するために努力するよう勧告するものである。締約国がとくに人権高等弁務官事務所、ユニセフおよびユネスコの技術的援助を求めることが提案されるところである。

D.2 子どもの定義

13.委員会は、刑事責任年齢(10歳)が低いことに関して懸念を表明する。委員会はまた、男子の法定最低婚姻年齢(18歳)と女子のそれ(16歳)とのあいだに格差があることも懸念するものである。委員会は、締約国が、国内法を条約の規定および原則と全面的に一致させるためその見直しを行なうよう勧告する。

D.3 一般原則

14.委員会は、締約国が、子どもに関わる立法、行政上および司法上の決定ならびに政策およびプログラムにおいて条約の規定、とくに第2条(差別の禁止)、第3条(子どもの最善の利益)、第6条(生命、生存および発達への権利)および第12条(子どもの意見の尊重)に反映された一般原則を全面的に考慮にいれていないように思えることを、懸念する。条約の一般原則が、政策に関する議論および意思決定の指針となるのみならず、あらゆる法改正、司法上および行政上の決定ならびに子どもに影響を与える事業、プログラムおよびサービスに適切に統合されることを確保するためにさらなる努力が行なわれなければならないというのが、委員会の見解である。
15.委員会は、伝統的な慣行および態度が条約、とくに第12条の全面的実施をいまなお制限していることを懸念する。委員会は、子どもの参加権に関する公衆の意識を高め、かつ家庭、学校および社会一般における子どもの意見の尊重を奨励するため、締約国が、地域共同体の首長、宗教的指導者および市民社会の関与を得て体系的アプローチを発展させることを追求するよう、勧告するものである。

D.4 市民的権利および自由

16.学校における体罰が法律で禁じられていることは承知しながらも、委員会は、伝統的な社会の態度が家庭、学校、ケア制度および少年司法制度ならびに社会一般における体罰の使用をひきつづき奨励していることを、依然として懸念する。委員会は、締約国が、体罰の悪影響に関する意識を喚起し、かつ、家庭、学校、ケア施設その他の施設において代替的形態の規律の維持およびしつけが子どもの尊厳に一致する方法でかつ条約にしたがって行なわれることを確保するための措置を強化するよう勧告するものである。これとの関連で、委員会は、締約国が、親、教員および施設で働く専門家を対象として、代替的形態の処罰の使用を奨励するためカウンセリングその他のプログラムを提供するよう勧告する。加えて、委員会は、学校における体罰の禁止の全面的かつ効果的実施を確保するため、あらゆる必要な措置をとることを強く勧告するものである。

D.5 家庭環境および代替的養護

17.子どもの性的虐待を含む家族間暴力を防止しかつそれと闘うためのデータ、適切な措置、機構および資源が存在しないことは、委員会にとって重大な懸念の対象である。条約第19条に照らし、委員会は、これらの慣行の規模および性質を理解し、十分な措置および政策を採択し、かつ態度を変えることに資する目的で、締約国が性的虐待を含む家族間暴力、不当な取扱いおよび虐待に関する研究を行なうよう勧告する。委員会はまた、家族間暴力ならびに子どもの不当な取扱いおよび虐待(家庭における性的虐待も含む)の事件が、子どものプライバシーへの権利の保護を正当に考慮しつつ、子どもに優しい司法手続のなかで適切に調査され、かつ加害者に対して制裁が科されるべきことも勧告するものである。法的手続において子どもに支援サービスを提供すること、条約第39条にしたがって強姦、虐待、放任、不当な取扱い、暴力または搾取の被害者が身体的および心理的に回復しかつ社会的に再統合すること、および、被害者が犯罪者扱いされかつスティグマ(烙印)の対象となるのを防止することを確保するための措置も、とらえるべきである。委員会は、締約国がとくにユニセフおよびWHOの技術的援助を求めるよう勧告する。

D.6 基礎保健および福祉

18.委員会は、健康状況全般を向上させるため締約国が行なっている努力に留意する。とりわけ、委員会は、過去10年のあいだに乳児死亡率および5歳未満児死亡率のいずれもが急速に減少したこと、および、予防接種の対象範囲が相当に拡大したことに留意するものである。委員会はまた、締約国が食糧栄養プログラムを実施したことにより、栄養不良の発生件数が減少したことにも留意する。しかしながら、委員会は、マラリア、呼吸器系感染症および下痢性疾患によって締約国の子どもの生存および発達がひきつづき脅かされていることを懸念するものである。委員会はまた、訓練されたヘルスワーカーの人数が不十分であること、保健従事者の分布に地域共同体間で大きな格差があること、一部の島の地域共同体において保健サービスへのアクセスが限られていること、および、とくに遠隔地において衛生状態が悪くかつ安全な飲料水へのアクセスが限られていることも、懸念する。委員会は、子どもの健康状態を改善し、かつプライマリーヘルスサービスへのアクセスの向上を促進するため、締約国が適切な資源を配分し、かつ包括的な政策およびプログラムを発展させるよう勧告するものである。委員会は、締約国が、妊産婦、子どもおよび乳児の死亡件数を減少させ、母乳育児の実践を向上させ、かつ、とくに傷つきやすい立場および不利な立場に置かれたグループの子どもの栄養不良を防止しかつそれと闘うための努力をひきつづき行なうよう、勧告する。委員会はまた、締約国が、安全な飲料水へのアクセスを高め、かつ衛生状態を改善するために追加的な措置をとるようにも勧告するものである。加えて、委員会は、締約国に対し、プライマリーヘルスケアを向上させるためにユニセフ、WHOその他と行なっている技術的協力プログラムを継続するよう奨励する。
19.障害をもった子どもへの援助およびそのリハビリテーションに関する「バヌアツ障害者協会」の活動には評価の意とともに留意しながらも、委員会は、障害児の権利を保護するために行なわれてきた努力が不十分であることを依然として懸念する。委員会は、締約国が、障害児のためのプログラムおよび施設に対して必要な資源を配分するよう勧告する。障害者の機会均等化に関する基準規則(国連総会決議48/96)および「障害のある子どもの権利」に関する一般的討議の日に採択された委員会の勧告(CRC/C/69)に照らし、締約国が、障害を予防するための早期発見プログラムを発展させ、障害児のための特別教育プログラムを確立し、かつ障害児の教育制度への統合および社会へのインクルージョンをさらに奨励することも、勧告されるところである。委員会は、締約国が、とくにユニセフおよび世界保健機関に対し、障害児とともにおよび障害児のために働く者の訓練のための技術的協力を求めるよう勧告する。
20.委員会は、事故、自殺、暴力および中絶を含む青少年の健康の分野において、プログラムおよびサービスの利用可能性が限られていることおよび十分なデータが存在しないことに懸念を表明する。委員会は、10代の妊娠および性行為感染症(STD)の発生件数が多くかつ増加していること、および、青少年のあいだでアルコールおよびタバコの使用が蔓延していることをとくに懸念するものである。委員会は、とくに事故、自殺、暴力、アルコール消費およびタバコの使用との関連で、締約国が青少年の健康に関する政策を促進するための努力を増進するよう勧告する。委員会はさらに、若年妊娠およびSTDの悪影響を含む青少年の健康上の問題に関して、包括的かつ学際的な研究を行なうように提案するものである。加えて、子どもの最善の利益にかなう場合は親の同意なしでアクセス可能な子どもに優しいカウンセリング、ケアおよびリハビリテーションの便益を発展させるため、締約国が十分な人的資源および財源の配分を含むさらなる措置をとることも勧告されるところである。締約国は、青少年を対象としたリプロダクティブ・ヘルス教育プログラムを強化し、かつ、リプロダクティブ・ヘルスに関するあらゆる訓練プログラムに男性が含まれることを確保するよう、促される。

D.7 教育、余暇および文化的活動

21.委員会は、とくに離島の地域共同体における伝統的教育の役割の重要性に留意する。委員会は、初等教育がいまなお締約国のすべての子どもを対象として義務的かつ無償のものになっていないことを懸念するものである。さらに、委員会は、教育へのアクセスが限られていること、女子の就学率が低いこと、識字率が低いこと、教育の質が貧弱であること、全体的に関連の教材その他の資源が存在しないこと、および、訓練を受けた/資格のある教員の人数が不十分であることに、重大な懸念を表明する。教育カリキュラムに地方言語を導入するための努力が行なわれていないことも懸念されるところである。教育が子どもの行動に悪影響を与えると依然として考えている親が多い。条約第28条1項(a)に照らし、すべての者を対象とした無償の義務教育を合理的な年数内に漸進的に実施するための詳細な行動計画を締約国が2年以内に作成し、採択し、かつ委員会に提出するよう約束することが、勧告されるところである。委員会はさらに、制度のあらゆる段階における教育へのアクセスを向上させ、女子の就学率をとくに中等段階で高め、追加的な指導手段として地方言語を導入し、かつ教育の全体的質を改善する目的で、締約国が教育制度の研究を行なうよう勧告する。委員会はまた、教育の重要性を促進し、かつこの点に関する文化的態度に前向きな影響を及ぼすため、公衆教育キャンペーンを行なうようにも勧告するものである。締約国がとくにユニセフおよびユネスコの技術的協力を求めることが勧告されるところである。

D.8 特別な保護措置

22.委員会は、児童労働および子どもの経済的搾取に関するデータが不十分であることを懸念する。中等教育へのアクセスが限られていること、およびその結果として子どもが早期に雇用されていることを踏まえ、委員会は、締約国がとくにインフォーマル部門における児童労働および経済的搾取に関する研究を行なうよう提案するものである。
23.委員会は、少年司法手続を含む司法との関連で締約国が直面している問題について懸念する。委員会は、少年非行を取り扱う伝統的な方法に関して提供された情報を認知し、かつ締約国が以下のことを行なうよう勧告する。
  • (a) 条約、とくに第37条、第40条および第39条、ならび少年司法の運営に関する国際連合最低基準規則(北京規則)、少年非行の防止に関する国際連合指針(リャド・ガイドライン)および自由を奪われた少年の保護に関する国際連合規則のようなこの分野の他の国際連合基準の精神にのっとり、少年司法制度を改革するための措置をとること。
  • (b) 少年司法制度に携わるすべての専門家を対象とした、関連の国際基準に関する訓練プログラムを導入すること。
  • (c) 少年司法および警察の訓練の分野において、とくに人権高等弁務官事務所、国際犯罪防止センター、国際少年司法ネットワーク、ユニセフおよび少年司法技術的助言援助調整委員会の技術的援助を求めることを検討すること。
24.最後に、委員会は、条約第44条6項に照らし、締約国が提出した第1回報告書および文書回答を公衆一般が広く入手できるようにし、かつ、関連の議事要録および委員会が採択した総括所見とともに報告書を刊行することを検討するよう、勧告する。そのような文書は、政府および関心のある非政府組織を含む一般公衆のあいだで条約ならびにその実施および監視に関する議論および意識を喚起するため、幅広く配布されるべきである。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年11月15日)。
最終更新:2011年11月15日 11:28