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「こぉら、四葉ちゃぁん……逃げてないでぇ…出てきなさぁい」
  しどけない姿と言えばまだ聞こえがいいが、単に暑さから半裸になっただけのだらしない姿で片手に焼酎の一升瓶を振り回し、酔った勢いで俺に女装を強要する彼女は、正直ただの酔っ払いとしか言いようがなかった。
  悪質な絡み酒の彼女はベロベロに酔っぱらい、餓えた狼のように人の部屋ドアをガンガンと叩き鳴らす。
俺は覗き窓から目を離すと、頭を抱えて昼間からブースト全開の彼女をどう扱うかを悩み始めた。
つーか、葉月さん、あんた未成年だろ?なにやってんだ。
  夏休み…この季節は休みという名称完全無視で、俺の悩みは尽きることはない。



  9話
  葉月 向日葵編



  結局、ドア一枚を隔てた酔っ払いと男の意地の張り合いは、男のほうが折れる形で決着がついた。
  敗因は、俺が半裸で大騒ぎする彼女を共通廊下という公共の場に置いておくことに耐えきれなくなったからだった。
  まあ、辛抱強く拒絶を続けたところで、葉月がなにをしだすか解らないという恐怖も働いていたのだが……とりあえず、俺は彼女を部屋に招き入れてしまったのだ。
  夏休みの真っ青な空には遠くに入道雲がみえて、蝉の鳴き声が鼓膜をつんざくような大音声をあげていた。


「葉月さーん、もう呑むのやめましょーよー」
  彼女は吸っただけで酔いそうな酒臭い息を俺に吐き掛けるように肩にもたれ掛かり、機嫌がいいのかへらへらと笑って肩をバシバシと叩いて、答えてきた。
「やーよー、まだ飲み足りないもーん、えへへ~」
  だめだこりゃ……全く、酔ってなければいい人なんだけどなぁ…まぁ、酔ってない方がレアだけど…
  彼女は続いて肩に頭を預け、金に染めた髪を俺に絡ませ、へへ~っと、笑いながら寝始めてしまった。


「ふぁ?…………あー、あたしやっちゃった?」
真夏の遅い日暮れの中、窓から差し込む茜は、ビール缶と瓶と日本酒にウォッカ…その他諸々の酒瓶と割るための飲み物の転がるちゃぶ台を、丸ごと照らし、赤く、紅く染めていく。
  葉月は未だ酔い醒めやらぬ頭を軽く振り……鈍痛に襲われ、ゴロゴロとボロい畳の上を身悶える。
「あ~う~、こうなったらむか…」
「はい、お冷や。迎え酒なんて煽っちゃダメだよ…」
  軽く空の酒瓶を片付けながら、コップ一杯の水をちゃぶ台の上に置く。コップの水は、夕焼けに侵され、黄色く赤く満たされていた。
「あ~ん、ありがとー、ん………ぷはっ」
  水を飲み干した彼女は、顔に生気を取り戻し、ちょっとだけ元気なるとハキハキとした目をこちらに向けて、次に周囲を見渡す。
「あはは、今回はまた派手に……」
「人の服剥ごうとしたり、拒絶したら自分がストリップ始めたり、どんな酔い方してるわけ?」
「あはっはっやっぱり、今回は派手たねー」
  俺は、笑って誤魔化す葉月を、後片づけをしながら睨み、反省を促そうと企むが、そんな気配微塵も感じさせずに彼女は笑い続けた。
  外では喧しかったアブラゼミに代わり、ひぐらしが鳴き始めている。
  葉月は酔いを醒ますべく、座り込んで、わははと笑いながら、俺と話を始めた。
  他愛ない世間話は、夕日が傾き、沈み、やがて聞こえる虫の声がヒグラシからガマガエルに変わるまで続いた。
「それで、蜜柑ってばさ、お淑やかに生きるのもいいなぁって、私に……聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。そうだ、葉月さん、夕飯なに食べたい?」
  流石に酔いも醒めきっただろう。
  俺は片付けどころか掃除まで終え、最後にウコンの力の空き缶をちゃぶ台からゴミ箱へナイススロー、見届けてから葉月と向かい合い、答えを待つ。
「なら、お酒と合う物!」
  この女、まだ呑むか…
  葉月さんからのリクエストに応え、唐揚げにピザ、サラダ、チーズの盛り合わせ.etc.etc……
唐揚げとサラダ以外は冷凍を駆使して簡単に作ると、珍しく彼女は料理の完成を待っていた。
  先に飲んで出来上がっていると思っていたので、ちょっとだけ肩すかしを食らう。
「どうした?手伝おっか?」
「あっ…いや、大丈夫」
  彼女のなんとなく様子のおかしい理由を、昼間の酒の飲み過ぎと判断して、サッサと夕飯をちゃぶ台へと運ぶと、向かい合う彼女は、ちょっと微笑んで頂きますを宣伝し、いつものようにガツガツとではなく、おしとやかに食べ始めた。
  ………なんかいやなデジャブが走る…
「どうしたぁ~?ふふ、戸惑ってるなぁ……ま、意地悪は、これくらいにしてあげよう」
  そう言うと、葉月さんは懐かしいものを思い出す顔になり、思い出話を披露してくれた。開け放した窓の外からは蛙と名前も知らない虫の声が鳴り響く。
「私が君と公園で遊んでたとき、私と喧嘩したの覚えてる? ほら、ブランコで…」
「えっと…すまん、もうちょっと詳しく頼む…」
  俺が彼女たちとの思い出を覚えていないのは珍しいことだった。だから、素直に聞き返す。
「ブランコに乗ってた君を後ろから押してあげたら、女の子なんだから乱暴すんなよっ! って怒り出して…」
「………? すまん、思い出せない…」
  窓から風が吹き込み、葉月の染められた髪を揺らした。……なぜだ? 何かが引っかかる…
「ふん…他の子達の想い出はすぐに思い出す癖に……私のは覚えてないんだぁ…ふうん…」
  うわぁ……敵愾心むき出しだぁ…、どこか冷たく、悲しそうな目で俺を見つめると小さな声で馬鹿みたいといって続きをつないだ。
「その後君は、もっとおしとやかになれって私に怒るし…ちょっとは反省してみたのになぁ…」
  まあ、いいけどねっそう言って、彼女はビールを注いで一気に煽ると、昼間あれほど散々だったのに、またもや宴会を始めた。名の知らぬ虫の声はいっそう強くなった気がした。


「ねぇ~よつばぁ~! ほらほらほら…脱いじゃいなさいよぉ」
「だぁ~かぁ~らぁ~、飲み過ぎないって約束だったのに……」
  彼女は、ふざけた調子で俺の服を脱がしに掛かる。生憎腕力ではこちらに分があったので、脱がされることはなかったが、ちょっと、ズボンの防衛は危うかった。
「いーやっしっかり飲まないとぉー、気持ちよくなれないものー」
  そう言うと彼女は赤ら顔のまま、きゃっきゃと笑い俺を見つめると、ちょっと悲しそうに彼女は金色の髪を揺らし、意地悪な顔を俺に向けた……そして、何の前触れも無く、唐突に宣言する。
「葉月 向日葵! 脱ぎまーっす」
  宣言どおり服に手をかけ、下着姿になろうとし始める。この人は酔うといつもいつも…そのまま押さえつけて説得を試みようとしたところで……まるで俺が押し倒したかのように、彼女は盛大に転んでしまった……あっ……
「葉月さん、違いますよ…あの時あんたは、俺を乱暴に押しすぎて盛大にこけて、俺に向かって…」
「ふへ? ……そうそう、パンツ丸見えにしちゃったのよぉ…ああ、だからもっと大人しくなれって言ったのかぁ…」
  納得したのか、急に機嫌がよくなり、俺を抱きしめた彼女は、わたわたと顔を赤くして暴れる俺の耳元へ
「いや~んよつばくんのけ・だ・も・の」
と囁いてから、開放してくれる…まったくこの人は…まあ、仕方ない。今日くらいは一緒に晩酌くらい。共にしてやろう。外から聞こえてきた名も知れぬ虫の声は、今やピークに達していた。



  9話
  葉月 向日葵編
  完














  おまけ



  甲は乙を養子として責任を持ち引き取ることを認める。

                 甲:** **
                 乙:永月 ぽぷら
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